ハゲタカのようです

203 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 22:46:08 ID:23xxBFUg0
18


アーカーシャの最奥、部屋の中に用意された椅子に男が座っていた。
額の両サイドから抉れるように無くなっている髪の毛。
中年男性特有のふっくらとした体形。
誤りであってほしいとの願いが聞き届けられることはなかった。

( ^ω^) 「久しぶりな気がするな、諸本」

(メ´・ω・`) 「っ! なんであんたが……」

( ^ω^) 「別におかしかねぇだろ。ロマネスクに傾倒してた信者が警察内にいても。
       当時は勝てなかったから、戦わなかった。それだけだ」

全身傷だらけの諸本に対して、武雲は椅子に座ったまま余裕を見せる。
自分に向けられている銃口を全く気にかけず、足を組み替えて話を続けた。

( ^ω^) 「お前が来たのは予想通りだったな。
       茂羅と一緒に来るとは思ってたんだが……それは外れていたみたいだな」

(メ´・ω・`) 「……あんたがゲ=ハを?」

( ^ω^) 「違う。俺よりも上のやつはまだ何人かいる」

204 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 22:47:45 ID:23xxBFUg0

(メ´・ω・`) 「あんたがその扱いだということは、ゲ=ハは随分と人材に恵まれているらしいな」

( ^ω^) 「なに、そう褒めることはない。この現状を見ればわかるだろう?」

(メ´・ω・`) 「……あんたの負けが見えるな」

( ^ω^) 「いや、残念ながら相打ちってところだろう。お前はこの爆弾を解体できない。
       処理班だってエレベーターシャフトを下りるなんて真似は出来ないだろうしな。
       逆に俺はお前から……いや、特対課から逃げられない。目標の達成度合いで言えば俺に分があるか。
       ロマネスクを解放できなかった時点で俺の負けだが」

(メ´・ω・`) 「……嘘だったのか、特対課でのあんたは」

( ^ω^) 「それなりに楽しかったさ。少しくらいはこのままでもいいかと思うほどにはな。
       もう一人の仲間と会うまでは。さて、どうする」

武雲は右手側に置かれた電子表示の上に手を重ねた。
朱い時刻が浮かび上がるのは、爆弾が起動するまでの時間が刻まれている二つのタイマー。
それぞれが異なる数字を示しており、片方は現在時刻、
もう片方は一秒よりも僅かに早い速度で減っていた。

205 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/30(水) 22:48:41 ID:23xxBFUg0

( ^ω^) 「ここの爆弾が爆発すれば、換気口に仕掛けられた猛毒ガスヴィップの中心部に撒き散らされる。
       被害はとんでもない規模になる。俺を殺さなければ、解体することは出来ない。
       目の前でみすみす解体されるわけにもいかないしな。多少の抵抗ならできるだろう」

(メ´・ω・`) 「戻っては……これないのか」

( ^ω^) 「心残りは無い。お前が引き金を引くならな」

(メ´・ω・`) 「俺にあんたを殺せと……言うのか」

音が聞こえそうなほどに強く噛み締める。
銃口はひと時たりとも武雲の胸から離れていない。

( ^ω^) 「どうする?」

(メ´・ω・`) 「あんたには……世話になった」

諸本は銃を握り直す。
腕と一体化してしまったのかと思える銃は鉛の様に重く、真っ直ぐ突き出して支えるのに両手を使う。
痛みに邪魔をされてか銃口が震えて定まらない。

206 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 22:49:55 ID:23xxBFUg0

(メ´-ω-`) 「あんたには……!」

( ^ω^) 「どうせ処理班が来るには間に合わない。
       この地下深くから電波は届かず、エレベーターはもうお釈迦だからな。
       その身体じゃあ階段はきついだろ。最後の最期まで俺と話でもしておくか?」

(´ ω `) 「いいや…………さよならだ」

引き金がひかれた。
乾いた音はアーカーシャの地下に静かに染み込んでいき、すぐに聞こえなくなった。
諸本は立っているだけの力を失い、うつ伏せに倒れる。

弾丸は一直線に武雲の心臓を貫いており、その生命活動を終わらせていた。
同時に、一つ目のタイマーは残り時間を表示したまま止まる。

諸本はぼやける目で二つ目のタイマーが静かに時刻を刻んでいるのを眺めていた。
何もすることもできず、残った唯一の力で歯をかみしめながら。
その時聞こえた足音に、諸本は手放しかけた意識を掴みなおす。
足音が近づいてくるのを認識しておきながら、満身創痍のショボンは振り向くことすらできない。

影は、彼の頭のすぐ横で止まった。

209 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 22:52:39 ID:23xxBFUg0

(; ・∀・) 「諸本さん……これは……」

冬の真っただ中でありながら、汗を流して呼吸も乱れている茂羅。
長く黒い頭髪の姿はそこに無く、額は前に会った時よりもずっとずっと広かった。
それに天井の光が反射していたせいで、目を細めながら諸本が答える。

(メ´・ω・`) 「茂羅……か? ……あとで説明する。すぐに……爆弾を解体してくれ」

その姿に困惑しながらも、諸本は指示を出す。
彼にしかできない仕事をさせるために。

茂羅もまた、武雲の死体と傷だらけの諸本の姿がいる光景を理解しようと、必死で脳を働かせていた。
諸本に言われ思考を中断し、すぐさま黒いボックスのねじを外していく。
一人で抱えるには大きすぎる箱の中には、無数の配線が通っていた。

(; ・∀・) 「これは……」

(メ´・ω・`) 「間に合うか?」

( ・∀・) 「間に合わせてみせます。じゃなきゃ毒男さんに生かしてもらった意味がないですから」

210 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 22:53:16 ID:23xxBFUg0

(; ・∀・) 「これは……」

(メ´・ω・`) 「間に合うか?」

( ・∀・) 「間に合わせてみせます。じゃなきゃ毒男さんに生かしてもらった意味がないですから」

持ってきた荷物の中に入った道具を並べる。
外装を取り外し、丁寧に解体していく。
細かい電気配線を確認して、血だまりに濡れる床に残ったスペースに書いていく。

目の前に表示されているタイムリミットを気にしながらも、時間をかけて、丁寧に。

( ・∀・) 「解体に入ります。失敗しても恨まないでください」

(メ´-ω-`) 「お前に任せる。どうせ俺には出来ないんだからな」

( ・∀・) 「はい」

大きく息を吸って覚悟を決めた後、リード線を次々と断ち切っていく。
一つでも順番を間違えれば即爆発してしまうような危険な解体方法。
残り時間内に解体しきるには、その手段しかなかった。

211 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 22:54:08 ID:23xxBFUg0

額に流れる汗をぬぐう茂羅。
手を止めず、処理速度の限界を超えて計算し続ける。
残り時間のタイマーは既に三十分を切っていた。

(メ´・ω・`) 「一つ、聞きたいことがある」

( ・∀・) 「後でもいいですか」

(メ´・ω・`) 「後なんてないかもしれねぇだろうが」

( ・∀・) 「なんっすか」

返答にはほとんど意識を向けない。
目の前にある大きすぎる問題のせいで、そんな余裕がないのは当然ではあったが。
二つ目の起爆用の芯を引き抜いた。だが最後の一つまで分解しなければ意味はない。
残りの起爆用の芯は三つ。休憩する間もなく茂羅はすぐにとりかかった。

(メ´・ω・`) 「毒男はな」

(メ´・ω・`) 「毒男はこの状況を読んでたんじゃないか」

212 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 22:55:09 ID:23xxBFUg0

( ・∀・) 「……」

茂羅の作業音だけが聞こえる空間。
壁にもたれて休憩していた諸本は、他にすることもなく言葉を紡ぐ。

(メ´・ω・`) 「相手に爆弾のプロがいることを。
        だからこそ、お前を生かした。だからお前にできることは、そいつを無事に解体することだ」

( ・∀・) 「言われなくてもわかってます」

さらにもう一本、芯を取り外した。
八割がたの配線を無力化し、残り二割は前回と同じように溶接されたボックスの中へと導かれている。
茂羅は電動工具を手に取った。

( ・∀・) 「たぶん、こうなってると思ってました。だから、対策はしてます」

溶接部のみを破壊するための極細ドリル。
力をかけすぎればすぐに折れてしまうため扱いの難しいそれのスペアを、大量に持ち込んでいた。
ゆっくりと、確実に溶接部を削っていく。
残り時間が五分をきった時、茂羅は漸くブラックボックスを開封した。

214 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 22:58:43 ID:23xxBFUg0

単純だが、数の多い配線。
その行く先全てを精査している時間は無い。
茂羅は極限まで切り詰めた集中力でもって、配線の役割を予測する。

( -∀-) (毒男さん……ッ!)

十数本もあるカラフルな線。
そのうちの一本、黒色の線を引きずり出す。

未練を断ち切るかのように、震える手で線を支えニッパーで挟む。
ほんの少しの力をいれれば、線は断ち切られ二つに一つの未来が訪れる。
秒数のみがカウントされている表示。

もはや、照準している時間はなかった。
何かに祈るように目を瞑る。
もしかしたら最後になるかもしれない煙草を持ってくるべきだったと少し後悔しながら、茂羅は右手に力をいれた。

215 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 22:59:14 ID:23xxBFUg0


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【カツラ】

中年男性の光(を隠す装備)。上司からも部下からも気を使われるようになる。
極稀に気にしない人もいるが、それを揶揄されているのを外から見ているのはあまり気分が良くない。
蒸れる為、残っている僅かな希望にも悪影響を与える諸刃の剣。
ニット帽との併用はできない。※最近の高性能なものは除く。
最近は増やす奴が流行っているものの、維持費が高くなかなか手を出せない。
カツラ、それは君が見た光、僕が見た希望。
カツラ、それは触れない心、幸せの黒い髪


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