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175 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:28:49 ID:J.heRfoA0
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(´-ω-`) 「ん……」
ずきずきと痛む頭を押さえ、諸本はゆっくりと座った。
立ち上がるほどの力は入らず、聞こえてくる声の意味も未だ理解できていない。
ただ何度も肩を揺らす腕が鬱陶しくて、振り払おうともがく。
「諸本警視! 諸本警視!」
(´-ω・`) 「っ……ここは……お前は……」
「特対課の諸本警視ですね! 落ち着いて聞いてください。私はニューソク警察署の者です」
(;´-ω・`) 「ニューソク……ニューソク!?」
急に立ち上がろうとした諸本は頭を打ち、頭を押さえて座り込む。
勢いに押されてひっくり返りかけた警官が、車の扉を掴んで堪えていた。
「警察庁の兀山警視長からの言伝です」
(;´-ω・`) 「デミさんから……?」
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176 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:30:56 ID:J.heRfoA0
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「生きているなら、すぐに戻って任務を果たせ、と。
無茶苦茶です。薬で眠らされていたんでしょう。少し休んでいかれますか?」
(´・ω・`) 「いや、いい。パトカーを使ってもいいか?」
諸本を連れてきた男達は、手錠に繋がれて他のパトカーへと連れ込まれているところだった。
それを見ながら、両手で自分の身体の調子を確かめる。
若干の眠気と、かつてゲ=ハに襲われたときの傷は残っていたが、それ以外はおおむね良好。
問題なく動けると判断した。
「では、せめて運転だけでも変わります。ヴィップのどこに向かえばいいですか?」
(´・ω・`) 「アーカーシャでわかるか?」
「ヴィップにある複合情報施設でしたか。ナビでなんとか」
(´・ω・`) 「出来るだけ急いでくれ。時間が無い」
「はい」
パトカーに乗り換え、諸本は来た道を戻り始めた。
緊急車両用のサイレンを鳴らしながら高速をとばす。
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177 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:32:08 ID:J.heRfoA0
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(;´・ω・`) 「くそっ……」
しかし、ヴィップに入るか否かの地点で、高速道路の渋滞によってその足を止められた。
同時に、環状線の一部がテロによって崩壊したとの無線が入る。
高速の降り口はまだ遠く、車の間を縫って進むだけのスペースもない。
諸本は苛立ちを何度も窓にぶつけ、頑丈な防弾ガラスに小さな罅を創り出す。
「すいません……」
(;´・ω・`) 「頼む……時間が無い……!」
祈り虚しく、車は一向に進まない。
空気を叩く激しい音が聞こえたのは、その時であった。
車の窓を開けて空を見上げると、ロープを垂らしたヘリコプターが頭上でホバリングしていた。
その運転席は暗くなってきていたせいでほとんど見えない。
しかし、諸本はすぐに正体に気づいた。
(;´・ω・`) 「助かった!」
「え? どうするんですか!?」
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178 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:32:47 ID:J.heRfoA0
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驚くニューソクの警察官をよそに、諸本はロープに掴まった。
重たい身体は機械の力でゆっくりと持ち上げられ、空いたドアから中に入る。
運転席から後ろを振り向いたのは、荒巻龍。
(;´・ω・`) 「ほんと……何でもできるんですね」
/ ,' 3 「許可もとらずに勝手に飛ばしてるからな。後で始末書ものだ」
(´・ω・`) 「……」
/ ,' 3 「若田さんに頼まれちゃ仕方ないだろ。あの人にはお世話になってんだ。
ま、どのみちお前だけが頼りなんだ。儂も歳を取った。あと十年若けりゃなぁ」
(´・ω・`) 「龍じい……」
/ ,' 3 「感傷に浸ってる暇は無いぞ。アーカーシャまで体を温めておけ。
武器は後ろにおいてあるやつの中から好きなのを持っていけばいい。
それから、その鞄は必需品だ。必ず持っていけ」
(´・ω・`) 「わかった」
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179 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:35:25 ID:J.heRfoA0
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諸本は山と積まれた武器の山の中から、一つのハンドガンを手に取った。
マガジンを何本かと爆発物を腰のベルトにさすと、緩んでいたネクタイを首元まで締め直す。
空をゆく間に、諸本は荷物のチェックを済まし、用意されていた資料を読みふける。
(;´・ω・`) 「急いでくれ」
/ ,' 3 「言われんでもわかっとる!」
荒巻の操縦するヘリコプターに乗って一時間。
完全に陽は落ちて、ヴィップの空も夜の顔になる。
ようやく複合情報処理施設、アーカーシャの入り口の前についた。
ヘリコプターが限界まで高度を下げたところで、飛び降りて着地する。
地下にあるアーカーシャの入り口は小さな小屋程度の大きさしかない。
諸本はすぐさま玄関にある認証機器にカードキーを差し込んだ。
(´・ω・`) 「……エラーか」
荒巻の話によると、事前にデータベースを管理している期間に連絡して登録していたようだが、扉は開かなかった。
出実から預かって来たというスマホ程度の大きさの機械を鞄から取り出す。
扉の機械にケーブルの端子を挿す。
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180 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:38:12 ID:J.heRfoA0
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同時に、出実からの電話が鳴った。
鞄の中からスマホを取り出し、応答する。
(´・ω・`) 「俺だ」
(´・_ゝ・`) 『無事だったか』
(´・ω・`) 「そんなものは後でいい。指示をくれ」
(´・_ゝ・`) 『そのまま五秒待て。扉を開ける。……諸本、気をつけろよ』
(´・ω・`) 「ああ、わかってる。同じ轍は踏まない」
軽い電子音と共に玄関のドアが開く。
狭い廊下の突き当たりには二つのエレベーター。
(´・_ゝ・`) 『それに乗って一番下の階まで行け。そこから先は電波が届かない。頼んだ』
(´・ω・`) 「了解」
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181 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:39:17 ID:J.heRfoA0
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下三角のボタンを押して、諸本はエレベーターに乗り込んだ。
暫くして扉は閉まり、ゆっくりと降りていく。
(;´・ω・`) 「っち」
高度を下げるためのワイヤーが軋む音に気が付いた諸本は、すぐに天井の点検口を殴って開けた。
金属の箱が自由落下に囚われる直前に、天井から脱出する。
数秒後には奈落の底のようなシャフトに轟音が響く。真っ暗闇の空間が一瞬だけ照らされた。
(´・ω・`) 「最初から階段を使えばよかった」
鋼材でくみ上げられたシャフトは、人間が下りるようにはできていない。
諸本は適当なとっかかりを探しながらおよそ十数階分の高さを降りて行く。
足を滑らせれば御陀仏になるような状況はしかし、逆に彼の得意分野でもあった。
まるで階段を下りるかのごとく壁伝いに降りていく。
一番下のエレベーター残骸に着く直前で止まり、適当な金属を拾って扉にぶつけた。
即座にシャフト内を襲った嵐のような銃撃。
扉に一センチの隙間も赦さない程の鉛玉が叩き込まれた。
(´・ω・`) (ったく、馬鹿か)
( ´ー`) 「殺したか……見てこい」
カル`・ロ ・) 「了解」
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182 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:40:22 ID:J.heRfoA0
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崩れかけた扉をこじ開け、完全武装の男がシャフト内に侵入した。
諸本はその首の後ろから頸椎を破壊する弾丸を放つ。歩いていた男は糸が切れたように瓦礫の中に倒れ込んだ。
それを廊下にいるであろう敵に理解させる間も与えず、スタングレネードを投げ込む。
激しい閃光と爆音を確認し、諸本は階に降り立った。
状況を確認しながら敵を打ち抜いていく。
ものの数十秒で、二ケタに近い数の死体が転がっていた。
全ての死体は額もしくは喉元を打ち抜かれていたために即死。
(´・ω・`) 「毒男ほどじゃないけど、銃が使えないわけじゃない」
狭い廊下の仕掛けを警戒しつつ、諸本は奥へと進む。
コントロール室の防弾ガラスの扉は、開いたままになっていた。
室内は空調の音が唸り、肌寒い位の温度。
立ち並ぶ巨大な黒い箱は、等間隔に並べられている。
野球スタジアムほどの広さがあるコンピュータールームの図は、すべて頭に入っていた。
一番奥にある空調制御管理用の部屋。
そこが出実が予測した爆弾の設置個所であった。
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183 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:42:17 ID:J.heRfoA0
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アーカーシャでは室内の温度を保つために、大量の空気を外と交換し続けている。
大爆発が起これば、ヴィップの中心部に存在する複数の換気口から大量の毒物がまき散らされてしまう。
流石兄弟が概算で計算した被害者数は死傷者合わせて三百万人。
被害総額は五十兆円。それだけの重圧が諸本の背にかかっていた。
(´・ω・`) 「……」
( ゚∋゚) 「意外と元気だな」
考え事をしながら歩いていた諸本の前を遮るように、コンピューターの陰から現れた二つの影。
どちらも諸本に比肩する大男。
銃を構えている諸本に対して、その二人はナイフすら持っていなかった。
ミ,,゚Д゚彡 「撃つのはやめとけよ。ここにあるコンピューターに当たっちまったら困るだろうが」
(´・ω・`) 「邪魔をするな」
銃を降ろしコートのポケットに仕舞う諸本。
目標を逸れた弾が機械に当たってしまえば、損害額は計り知れず、
二人が武器に類するものを持っていなかったことも諸本の行動を後押しした。
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184 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:42:51 ID:J.heRfoA0
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( ゚∋゚) 「二対一だが、悪く思うな」
ミ,,゚Д゚彡 「俺は一対一で言ったんだがね。玖狂程度に負けた奴なんか。
というより、あんたがあのままニューソクの田舎で大人しくしていてくれりゃあ、
一対一が出来たんだがな」
(´・ω・`) 「どういうことだ」
ミ,,゚Д゚彡 「あんたを殺さないように頼んでおいたのさ。俺の実力をはかるためにな」
( ゚∋゚) 「油断するな冨佐」
拳を目前で構える二人に対して、諸本も同様に徒手空拳での戦闘に意識を変える。
完璧なコンディションには程遠い状態であったが、痛む筋肉を無理やり動かす。
(´・ω・`) 「……」
諸本が構え終わらないうちに、冨佐と呼ばれた男の方が動いた。
数十歩の距離を瞬く間に詰め、握りしめた右こぶしを振りぬく。
岩をも砕きそうな一撃を諸本は身体を捻ることで避ける。
ミ,,゚Д゚彡 「よく避けた! が、死ねぇ!」
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185 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:44:28 ID:J.heRfoA0
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すれ違った瞬間に床が弾けそうな音でブレーキをかけ、
身体が斜めに傾いた諸本の頭を拳が追う。
ミ,,゚Д゚彡 「っ!?」
(´・ω・`) 「……」
弾けるような音がして、諸本の左手が受け止めた。
冨佐は一度拳を引いた後、体重をかけて何度もたたき込む。
ミ,,゚Д゚彡 「……!」
最後を飾るように顔に向けて躊躇いなく放たれた渾身のストレート。
それを含めた十を超えるラッシュは、全て諸本の掌によって受け止められた。
(´・ω・`) 「寝てろ」
胸ぐらを掴み無理やり引き倒す。
自身の猛攻を完璧に受けられて焦った冨佐は、無様に床に転がった。
その顔を体が浮くほど蹴り上げ、握りしめた右手の鉄槌で地面に叩き付けた。
額で床を砕いて血だまりを作った冨佐は動かない。
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186 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:45:43 ID:J.heRfoA0
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( ゚∋゚) 「化け物め」
(´・ω・`) 「次はお前がこうなる」
言葉が終わらないうちに玖狂と諸本の拳が交わった。
お互いの一撃を受けてぐらつき、踏みとどまりながら相手を倒さんと拳を振るう。
(;´・ω・`) 「ぐっ」
玖狂のボディーブローが直撃し、下がった諸本に追い打ちをかける。
一歩を踏み出した瞬間、諸本の蹴りが脇腹に突き刺さった。
(; ゚∋゚) 「っく」
蹴り飛ばされた玖狂の衝撃で、ボルトで固定されているはずのコンピューターが大きく揺れた。
(´・ω・`) 「くたばれ」
踏み下ろすような諸本の一撃を躱し、玖狂は足を掴んで押し倒す。
マウントポジションを取り、腕を存分に叩き付けた。
絶え間なく振る降ろされる衝撃を、ガードを固めてひたすらに耐える諸本。
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187 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:46:42 ID:J.heRfoA0
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連撃が緩んだ一瞬の隙で身体を捻って、諸本は不利な体勢を逃れる。
再び正面切って立ち会う二人の吐く息は荒々しい。
一撃一撃が重く、打つ方も受ける方も大きく体力を削られていた。
瞬き程度の油断で打ち倒されるかもしれないという極限の精神状態が、魂すら削る。
一瞬一瞬に激しくぶつかり合う肉体は、黒に、赤に汚れていく。
頬を殴られた玖狂は、左目の下を腫らす。
こめかみに踵を打ち付けられて血を流す諸本。
(メ´・ω・`) 「このネクタイ……いくらすると思ってんだ……」
(メ゚∋゚) 「ブランドもの……だったか。……残念だな」
腕が上がらず、身体を傾けて受けた諸本の左肩の外れる音が響く。
身体中を駆け巡る痛みをかみ砕くほどに食いしばり、右腕を振りぬいた。
(#´・ω・`) 「妻と娘からの……大事なプレゼント……だっ!」
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188 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:47:47 ID:J.heRfoA0
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玖狂のぶつかったコンピューターが、何度も明滅し、煙を出して静かになった。
僅かな火気にセンサーが反応したせいで警告音が鳴り響く。
両腕をぶら下げたまま立ち上がる玖狂。
狂気にその瞳を染めて諸本へと迫った。
(メ゚∋゚) 「あああああああああああああああああ」
(メ´゚ω゚`) 「ああああああああああああああああああ」
それを迎え撃つ諸本は、自らに流れる血と拳にこびりついた玖狂の血を吹き飛ばすような一撃。
唸り、風すらも引きちぎる其れは、まさに暴風雨かの如く。
カウンターとして真っ直ぐに玖狂を捉えた。
それでも倒れずに立ち上がる玖狂。
しかし、彼にはもはや構えるだけの力すらなかった。
足を引きずりながら、諸本が近づく。
それに対して玖狂は何の反応も見せない。
限界を超えて傷ついた身体で、右の拳を振り抜いた。
抵抗する力すらない玖狂は、弾かれたように吹き飛んで倒れたまま起き上がらない。
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189 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:48:32 ID:J.heRfoA0
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(メ´・ω・`) 「はぁ……はっ……糞が……」
鳴り響く警報を気にせずに、諸本は片手で煙草を取り出した。
潰れで千切れた欠片の中で一番長い一本を取り出し、火をつけて燻らせる。
(メメ∋゚) 「……一本……くれ……」
(メ´・ω・`) 「まだ……意識があんのか。驚いたな……」
ゆっくりと起き上がり千切れた煙草を差し出す。
それを咥えたまま、玖狂は気絶した。
痛む身体に鞭を打ち、一番奥の部屋にたどり着く。
開け放たれただ扉の中には、大量の爆薬が隙間もないほど詰め込まれていた。
そして、事の顛末を全て見ていたであろう男は、
部屋の中心にある椅子に静かに座っていた。
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190 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/29(火) 22:51:11 ID:J.heRfoA0
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【アーカーシャ】
国家のあらゆる情報を管理している地下データベース。
スーパーコンピューターも併設されており、かなり広い空間。
空調関係の維持には相当な費用がかかっているため、つねにコスト削減の対象に挙がっている。
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