ハゲタカのようです

116 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:09:13 ID:SoEOAtLY0
12


('A`) 「足引っ張るなよ」

( ・∀・) 「ええ、気を付けます」

ゼンレス駅が臨める三階建ての古い事務所。
十数年かけて計画開発されたヴィップ国の中心部に残る、数少ない開発前の建築物のうちの一つ。
茂羅は引き戸を開けようとした毒男の腕を掴んで止めた。

( ・∀・) 「流石に警戒しなさすぎっすよ」

('A`) 「正面玄関だぞ」

( ・∀・) 「だからこそです。敵は僕らのことをよく知ってるんですから、警戒すべきです」

('A`) 「じゃあどうする?」

( ・∀・) 「こうするんです」

茂羅は数分間かけて扉の上半分に穴をあけた。
その中に鏡を入れて、扉の周囲を確認する。

117 名前:名無しさん[] 投稿日:2016/03/27(日) 22:10:02 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「ありましたね」

簡単なワイヤートラップ。
扉を開けると同時に爆弾を起動させる単純な罠。

( ・∀・) 「切れば大丈夫なタイプですね」

持ってきていたニッパーでワイヤーを断ち切った。
扉は何の抵抗もなく開き、毒男は正面を確認した後、足元に置いてあった爆弾に刺さったピンを抜く。

('A`) 「人の気配がないな」

( ・∀・) 「なんにせよ罠だらけです。気を付けて進みましょう」

一瞬の油断が命取りになることを、潜入のプロである毒男は勿論、茂羅も理解していた。
茂羅は片目用の不可視光ゴーグルを装着し、木張りの床を奥へと進む。
事務所の構造等の知識は頭に入れて来ており、三階まで迷うことはない。

('A`) 「っと、動くな。振動検知式だ」

118 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:10:57 ID:SoEOAtLY0

地面に向けて垂れている紐とそれに結ばれた玉。それに火薬の束が繋がれていた。
少しでも揺れてしまえば、下の火薬に引火する仕組み。

毒男は仕掛けの上部だけ撃ち抜き、振動検知部を無効化した。

( ・∀・) 「無茶苦茶っすよ。火薬に当たったらどうすんですか」

('A`) 「あんまり長いこと時間をかけて作った仕掛けじゃなさそうだ。
     この程度の罠で仕留められると思うとは、甘く見られたもんだな」

(; ・∀・) 「毒男さんっ!」

('A`) 「っと……」

茂羅の声に反応して後ろへ下がる。
一階から二階へ向かう階段には、複数のセンサーが設置されていた。
爆弾には直接関係のないダミーをすべて破壊し、残ったみっつのセンサーを解体していく。

特対課のメンバーは全員が代わりのきかない特別なステータスを持っているが、
その中でも二人の得意分野は隣り合わせのように近く、共闘することも少なくない。
特に爆弾の解体においては、特殊解体チームの数倍の能力を誇る。

119 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:11:44 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「これで最後ですね」

('A`) 「一階クリア、どうぞ」

毒男は片手を耳に当てて通信機の電源が入っていることを確認する。
雑音が数秒流れ、特対課で待機している出実が返事をした。

(´・_ゝ・`) 『了解。残り二時間を切った。気をつけろ』

('A`) 「了解」

二階も一階と同様に散らかった事務所。
三階へと昇るための階段には、赤外線センサーがあらゆる角度に取り付けられていた。
階段を登り切った二人の前には扉が三つあり、どれも向こう側が見えない鉄の扉。

('A`) 「どう思う?」

( ・∀・) 「一つづつ分解してたら時間足りないですね」

('A`) 「恐らく、この扉の向こうにセンサーを解除する鍵があるだろう。……真ん中にしよう」

120 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:14:59 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「根拠は何っすか?」

('A`) 「勘だ。どうせ三つ全部いかなきゃいけない可能性もあるからな」

( ・∀・) 「わかりました。それじゃ、ちょっと待ってください」

鞄から聴診器を取り出してドアに当てた茂羅は、甲高い電子音を聞いた。
それは、ドアを開けることが爆弾の起動に繋がる可能性があるという事。

( ・∀・) 「何か仕掛けてますね」

毒男は両手でゆっくりと扉を触る。
上から下へと、扉を揺らさない様に注意しながら。
扉の下側にある換気口の近くで手が止まった。

('A`) 「それ、温度見れるか」

( ・∀・) 「ええ」

ゴーグルの外側のタブをいじることで設定を変える茂羅。
オレンジ色の毒男の人影と、青色の扉。
毒男が指をさしているところだけが、扉とは若干異なった色をしていた。

121 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:16:02 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「そこで間違いないです」

('A`) 「さて、扉の向こうに爆弾。起動条件、爆発規模は不明。
     しかも制限時間有。難しい問題だな」

( ・∀・) 「電気で回路をショートさせるのはどうっすか」

('A`) 「そういう方法もあるが、回路が見えない段階で使うべきじゃない。
     さっきみたいに扉に穴を開けるのは難しいだろうしな」

( ・∀・) 「ガラスならともかく、鉄板だとかなりの時間がかかりますね。
       いっそのことヘリで屋上から来ればよかったかもしれません」

('A`) 「俺らがゲ=ハの思惑に乗ってる内は人質も無事だろうが、
    そういう事をすればどうなるかわからん。両隣の部屋も一応見ておくか。
    お前は向こうを頼む」

階段を背に右側を茂羅が逆を毒男が向かう。
二手に分かれてそれぞれの扉を調べ、五分も経たないうちに二人とも真ん中の扉まで戻ってきた。

( ・∀・) 「こっちの扉は見た目何にも無さそうでした」

('A`) 「俺の方は火薬のにおいが隙間から漏れ出してやがった。
     わかっちゃいたが、かなり不利だな」

122 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:16:57 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 『二階はどうなってる』

毒男と茂羅の無線に本部からの交信が入る。
映像の通信は常にオンになっているが、赤外線等は映らないため状況が伝わりにくい。

('A`) 「正直よくないですね」

(´・_ゝ・`) 『構造上、二階は三部屋に分かれているはずだが』

('A`) 「三階に行くための階段にはありえない量の赤外線センサー。
    扉の向こうで管理してるでしょうね」

(´・_ゝ・`) 『突破できそうか? 無理なら別の手段を考える』

( ・∀・) 「毒男さん、この辺の壁なら抜けるでしょうね。ボードが二枚程度ですから」

('A`) 「特対課に所属している俺らが出来なきゃ、誰にもできないですよ」

(´・_ゝ・`) 『ふん……生意気言うようになりやがって』

茂羅は持ってきた携帯工具で壁の一部をくりぬく。
細いカメラを通し、扉の向こうを見ていた。

123 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:17:39 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「振動検知センサーが三つ。赤外線等は無し。机の上に幾つかの爆弾有り。
       後ろのガラスも同じようになってます。狙撃や窓からの侵入は無理でしょうね。
       机の上に目立つようにパソコンが置いてます」

('A`) 「なんだ、思ったより大したことないな」

開口部を広げ、金属製のフレキシブルアームを二本差し込む。
先端に着いた鋏で、カメラの映像を見ながら振動センサーを無効化していく。

( ・∀・) 「流石っすね」

('A`) 「よし、開けろ」

三つを完全に無効化してから、扉をゆっくりと開く。
机の上に置いてあったノートパソコンは、ご丁寧にエンターキーを押すだけで解除するように設定できていた。
ただし近寄ることが出来れば、だが。

( ・∀・) 「これ全部火薬か……」

('A`) 「冗談だろ……」

両隣の部屋との壁は雑に抜かれ、黒い砂で埋め尽くされていた。
硫黄の臭いが二人の鼻へ届く。

124 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:18:35 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「黒色火薬っすね」

臭いで火薬の種類を判別する茂羅。

('A`) 「スプリンクラーが生きてると思うか?」

( ・∀・) 「無理っすよ。禁水性の物質があったらどうするんですか」

奥の机に至るまでの全ての足場が火薬まみれになっており、足の踏み場は無い。

('A`) 「下に何が隠れてるかわかったものじゃねぇ……糞が」

(´・_ゝ・`) 『残り一時間だ。急げ』

爆弾解体のプロであるがゆえに、複雑な爆弾一つを時間をかけて解体することには慣れている二人も、
単純な仕掛けをいくつも解除することに挑戦したことはなかった。
当然、後者のパターンには人数をかけられる爆発物処理班が充てられるからだ。

( ・∀・) 「パソコンを壊したらどうなりますかね」

(´・_ゝ・`) 『爆発物に直接接続されているかはわからないが、
       信号が消えた時点で起爆させるような仕組みは簡単に作れる』

125 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:19:56 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「パソコンを壊したらどうなりますかね」

(´・_ゝ・`) 『爆発物に直接接続されているかはわからないが、
       信号が消えた時点で起爆させるような仕組みは簡単に作れる』

('A`) 「それにここからじゃ、後ろのガラスごと打ち抜いちまう。
     そっちから無線でコントロールは……できねぇだろうな」

(´・_ゝ・`) 『当然、オフだろうな』

('A`) 「っし……茂羅、サポートしろ。天井固定で行く」

( ・∀・) 「了解っす」

毒男は手近な机の上の火薬を払い落とし、ゆっくりと机の中身を確認する。
その中に何も入っていないことを確認した後、上に乗った。
さらに天井にワイヤーを固定し、十分に張り詰めたことを確認してぶら下がる。

('A`) 「次の寄越せ」

126 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:20:58 ID:SoEOAtLY0

茂羅が投げ渡したセットは天井固定用の金具。
簡易のバッテリーが内蔵され、対象に三本のビスをねじ込み固定する。
ドライバーは不要で、ある程度の荷重を支えることができるようになる。
一つずつ確認しながら、部屋の奥、窓際にあるパソコンまで近づいていく。

( ・∀・) 「届きますか?」

('A`) 「もう一つだ。身体の向きを変える」

パソコンの頭上まで進み、固定具を二つ。
それぞれにワイヤーを通し、毒男は体の向きを入れ替えた。
頭を下にして、脚を固定する。
両手をフリーにしてパソコンを触り始めた。

('A`) 「デミさん、指示を」

(´・_ゝ・`) 『ゲ=ハがなめた真似しやがって。見る限りはエンターキーだけ押せば解除されるだろうよ』

('A`) 「まあやっぱりそうですよね。パソコンのことはあまり詳しくないので。
     これの意味すること程度ならわかりますが」

逆さになりながら人差し指でエンターキーを押した。
茂羅が背後の階段を確認すると、全てのセンサーが消えていた。

127 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:21:41 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「毒男さん、オッケーです」

('A`) 「今戻る」

固定したワイヤーを手繰って軽快に戻ってくる毒男。
無理な体制を続けていたにも拘らず、息一つ乱れていなかった。

三階に昇った二人は扉を開けて部屋に入る。
事務用品などは何一つなく、天井に防火シャッターだけを残した部屋。
中心の椅子には電極を腕に張り付けた二人の姿があった。

( ・∀・) 「怪我はありませんか」

川;゚ -゚) 「お願いします、私はいいので、娘だけでも」

⌒*リ´;-;リ 「ママぁ……」

('A`) 「どういうことですか」

128 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:22:24 ID:SoEOAtLY0

≪三階到達おめでとう≫

錆びれたスピーカーから、犯行声明と同じ声が聞こえてきた。
扉を開いた数十秒後に再生されるように設定されていたのか、音声はあらかじめ録音されたもの。

≪二人の電極は爆弾と繋がっている。
  爆弾は二つの異なる心音データが送られている間だけ爆発しない設定になっている。
  つまり、外したままにすればすぐに爆発する≫

(;'A`) 「っ……!」

≪そしてもちろん、時間制限でも爆発する。
  何時にこのメッセージを聞いているのかはわからないが、午後五時丁度に設定してある≫

(; ・∀・) 「残り五十分……」

≪ものは彼女たちの後ろに見えるかな。爆発の規模は小さなものだ。周りの心配はしなくていい≫

(#'A`) 「ふざけやがって」

(#・∀・) 「下の階の火薬が爆発してれば結構な被害が出たはずだ」

129 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:23:31 ID:SoEOAtLY0

≪っと、話しすぎたな。最後の勝負だ。楽しんでくれたまえ≫

スピーカからはそれ以上何も聞こえなかった。
音声が終わったと同時に、背後の扉で上から聞こえた閉まる音。
すぐに茂羅が確認しに戻り、何度も蹴るが扉はピクリとも動かない。

その間に毒男は二人の後ろに合った爆弾を確認していた。
時限装置が残りの時間を刻んでいる黒い金属製の箱。
外側のねじを外し、外装をはがす。

('A`) 「茂羅、これなんかわかるか」

背後で銃撃の音をさせている茂羅に向かって叫ぶ。
扉の錠を破壊した茂羅が、足元にあった爆弾の中を確認する。

(; ・∀・) 「…………」

金属の箱に入っていたのは複雑な回線と、小さなガラス瓶。
中身は琥珀色の液体で満たされていた。

(´・_ゝ・`) 『おい、茂羅。何があった』

130 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:24:43 ID:SoEOAtLY0

(; ・∀・) 「……VXガス」

('A`) 「聞いたことがあるな」

(; ・∀・) 「もっとも強力な毒性ガスのうちの一つです。
       皮膚や呼吸から体内に吸収される神経ガスで」

('A`)  「つまり」

茂羅の説明を遮った毒男。
言葉の意味は解らないまでも、二人の表情から空はそれがどれほどの危険物かを知った。

('A`) 「こいつが爆発したら……いや、それで扉は空いたのか」

( ・∀・) 「ええ、錠前に何発かぶち込んでやりました」

('A`) 「奥さん、聞いてほしい。今からその電極を一瞬はがし、俺と茂羅に張り替える。
     二人は走ってこの事務所から出てください」

川 ゚ -゚) 「……娘だけを」

その願いを茂羅ははっきりと断った。

131 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:26:39 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「あなたたちの命を、俺たちは諸本さんから預かってきてます。
       時間があまりありません。言う事を聞いてください。
       心配しないでください。俺たちは御主人と同じ特対課です」

川 ゚ -゚) 「…………」

('A`) 「茂羅、準備はいいか」

( ・∀・) 「ええ」

('A`) 「奥さん。電極をはがしたら娘さんを連れて走ってくださいね。1、2,3!!」

毒男と茂羅が同時に電極をはがし、それを合図に二人は走って行った。
すぐに自分たちに張り付け、爆弾の変化を確認する。
表示は何一つ変わらず、二つの心電図の波形が変化したことの影響はない。

('A`) 「っふー……さて、取り掛かるぞ」

( ・∀・) 「了解」

132 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:27:40 ID:SoEOAtLY0

様々な事態に対応できるように持ってきた道具を全てひろげた。
最初に毒男が全体構造を確認し、床に書き込む。
茂羅はそれに書き足すように電子回路の制御図を描く。
たった一つの過ちすら起こさないよう可能な限り緻密に、正確に。

(´・_ゝ・`) 『残り四十分』

図を書き終えた二人は、工具でもって一か所ずつ分解し始めた。

('A`) 「茂羅、そっち持ってろ」

( ・∀・) 「はい」

一ミリのずれもないように神経を研ぎ澄ます。
白い線を何本か切ってから工具を置いた。

( ・∀・) 「これで遠隔操作部らしきものは外しましたね」

('A`) 「まだメインの解体が終わってない。油断するなよ」

複数のリード線でバイパスをいくつも作り、解体していく。
不必要な配線を軒並み片付けた所で、ようやく一段目のカバーを外すことができた。
時限装置は一番底に仕舞われており、まだ届かない。

133 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:28:22 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「一つ聞きたいんですけど」

('A`) 「なんだ」

( ・∀・) 「……やっぱいいです。さっさと終わらせて飲みに行きましょう」

('A`) 「ああ。そっち、外せ」

二段目の解体は遅々として進まなかった。
組み上げられた時点であちこちが固定されており、それを外すことに手間取っていた。
ハンドドリルで固定部を削る作業は、二人の神経を徐々に犯していく。

( ・∀・) 「……」

('A`) 「……」

無言で作業をしながら茂羅は腕時計を見る。
二時五十分を針がさす。本部からの通信は全く無い。

134 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:29:09 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「……」

二段目のボックスを取り外し、ついに時限装置が露になった。
毒男は手を動かすのをやめて、胸ポケットに手を伸ばす

('A`) 「なぁ、お前」

( ・∀・) 「何ですか。こんな時に」

茂羅は煙草を吸いだす毒男を止めず、配線を幾つか切った。
タイマーは未だ止まらず、無常に時を刻む。

('A`) 「吸えよ」

( ・∀・) 「……今は気分じゃないんで」

底部に合った水銀スイッチを取り外した。
振動を気にする必要がなくなり、ペースが上がっていく。

('A`) 「ふぅー……」

長い煙を吐き出す。
それは空中をしばらく漂ってから消えた。

135 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:30:30 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「毒男さん……手伝ってください」

('A`) 「…………」

さらに三本の線を断ち切る。
残されたのはカラフルな線は十本ほど。

('A`) 「茂羅」

(#・∀・) 「毒男さん!」

殆どすべての解体が終わり、茂羅の手が止まった。
残っているのは溶接で固定されたボックスの中に導かれた複数本のリード線。
貫通した時に断線させてしまう可能性があるせいで、電気ドリルで穴をあけることはできない。
腕時計の針が示す時間は、残り三分。

('A`) 「なぁ、茂羅」

( ・∀・) 「なんですか」

('A`) 「その電極をよこせ」

136 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:31:12 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「爆弾を起爆させないためには二人分の鼓動が必要なはずです」

('A`) 「大きな傷口があれば多少は騙せるだろ。
     たった数秒だろうが、防火シャッターをくぐるくらいの時間はあるはずだ」

(#・∀・) 「嫌です。それなら同時にはずして走りましょう」

茂羅にはわかっていた。
爆弾に繋がれた火薬の量と、VXガスの致死性を考えれば、万に一つも助からないであろうことを。
そして当然、そのことに毒男も気づいていた。

('A`) 「いいか、俺の話を聞け」

(#・∀・) 「なんで、毒男さんがそんなことする必要があるんですか。たった数年間働いただけじゃないですか。
       一緒に行動したことだって殆どないのに」

(#'A`) 「わかるだろうが。めったにない先輩の命令くらい聞け」

(; ・∀・) 「っ……!」

('A`) 「俺の合図で走れよ」

(; ・∀・) 「毒男さんっ!」

137 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:35:18 ID:SoEOAtLY0

その気になった毒男を茂羅が止めることは出来ない。
戦闘経験において彼我の実力差は圧倒的だからだ。
流れるような動作て取り出した銃は、ごく自然に天井に向けられる。

毒男はほとんど狙わずに天井のスプリンクラーを打ち抜いた。
けたたましいベルの音が鳴り、ゆっくりと防火シャッターが下りて来る。
水が爆弾にかからないように体で傘をしながら毒男は待つ。

シャッターが人ひとり分ほどまで狭まった時、左足を三カ所打ち抜いた。
静かな発砲音とは対照的に、真っ赤な血液が激しくあふれ出す。
水浸しの床に拡がっていく。

(#'A`) 「よこせっ!!!」

茂羅の腕についた電極を無理やりはがし、傷口に押し当てた。
それを合図に走って僅かに空いた隙間をくぐり抜け、扉に手をのばす。
後ろを振り向かずに、そのまま一階まで走り抜けた茂羅。
爆発した音は聞き取れなかった。

何も考えずただひたすらに走る。現実から逃げるために。

138 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 22:35:56 ID:SoEOAtLY0


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【毒男 & 茂羅】

個人活動が基本の特対課の中で、たまにペアで活動することがある二人。
銃火器と危険物という重なるところも多いそれぞれの専門分野を持っているためである。
また二人ともが課内でパシリとして先輩に使われているため、割と結束している。
二人を有名にしたのは、ヴィップグランドホテル立てこもり事件。
最上階である55階まで階段で登り切って、犯人を確保。
巨大な爆弾を僅か十分で解体した。死傷者はゼロ。


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