ハゲタカのようです

216 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:03:38 ID:23xxBFUg0
19


( ´_ゝ`)(´<_` ) 「見つけた!」

膨大な契約者リストの中から、いじられた形跡のある顧客を見つけ出した流石兄弟。
住所と名前を含むすべての情報を印刷する。

( <●><●>) 「高岡君」

从 ゚∀从 「すぐにっ!」

タイムリミットまで残り一時間。
アジトにしているであろうマンションは、どんなに急いでも一時間以上かかる場所にあった。
それでも高岡は全く諦めるそぶりも見せずにコートを掴んで部屋を飛び出していく。

それを見送った出実は、両の手指合わせてこね回す。
軽い運動を始める前のように、腕から肩へと筋肉をほぐしていく。

(´<_` ) 「ここまでだな。俺たちにできることは」

( ´_ゝ`) 「後は任せた。出実さん」

(´・_ゝ・`) 「ああ」

217 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:05:51 ID:23xxBFUg0

手始めに数行のアルファベット文字列を打ち込む。
流れるようなタイピングで、打鍵音はほとんど聞こえない。
あっという間に画面上が意味のあるプログラムで埋め尽くされた。

(´・_ゝ・`) 「ハッキングなんて久しぶりだな」

( <●><●>) 「楽しそうですね」

(´・_ゝ・`) 「俺のパソコンをぶち壊した糞野郎に仕返しができるんですから……待っていたかいがありました」

マシンは文句なく一級品。
流石弟者によって作成され、モンスター級の能力を誇る。
出実の考えでは、フォーエバースタイルの事務所から移動されたらしきパソコンに十分対抗できる見立てであった。

攻撃用のプログラムを組んで用意してあるUSBメモリを三本、机の上に置く。
かつて暇な時間を見つけて作っていたもので、一度も使ったことはない。
それらを頼りに、出実は電子の世界に潜り込んだ。

(´・_ゝ・`) 「行くぞ」

大きく息を吸い、肺を満たす。
ハッキングは集中力との戦いである。
一瞬の油断ですべてが無に帰してしまう。

218 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:08:37 ID:23xxBFUg0

失敗すれば、チャンネル国そのものすら揺るがしかねないほど危険な任務。
相当なプレッシャーを感じていたはずの出実は、笑っていた。

緊張と興奮で自らを鼓舞し、恐怖を飲み込む。
宣戦布告の合図のように、大きな音を鳴らしてエンターキーを叩いた。

黒い背景に白い文字が永遠と浮かび上がる。
複数のウィンドウを開きながら、各所に次々と書き込んでいく。

(; ´_ゝ`) 「はえぇっ……」

(´<_` ;) 「力の差を痛感するな」

( <●><●>) 「私にはよくわかりませんが、お二人も同じようなことをしていませんでしたか」

ナンジェイネットワークに侵入し、情報を抜いた流石兄弟。
それを後ろから見ていた若田には、画面上の文字を追うことすらできていなかった。

(´<_` ) 「俺らがやっていた程度のことであれば、チャンネル国内でも十数人くらいができるでしょうね」

219 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:10:21 ID:23xxBFUg0

( ´_ゝ`) 「サイバー犯罪対策課じゃ、勿論俺たちが一番ですがね。
        口惜しいが、ヴィップどころかチャンネルで最も優秀でしょうね」

( <●><●>) 「そうですか、ではいい結果を期待して待つとしましょう」

後ろで話している三人の声は、出実の頭の中には入らない。
瞬き一つせずに流れていく文を読み取る出実。
左右に細かく振れる眼球に映る情報だけを脳で処理する。

(´・_ゝ・`) 「……見つかった」

それは誰かに聞かせるための言葉ではない。
自分自身の集中力を極限まで尖らせるための合図。

電子の世界で侵入者となった出実は、張り詰められたあらゆるトラップをすり抜けていた。
即時の判断で、より深いところへ潜っていく。
メインコンピューターの管理者権限をおさえるために。

相手は、不意打ちとは言え出実のパソコンを完全に破壊した能力の持ち主。
出実に驚きはない。見つかるのが時間の問題だとわかっていたからだ。

220 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:12:02 ID:23xxBFUg0

静かなタイピングが一転、なりふり構わず速度を求める荒々しいタッチに変わった。
情報戦で最も重要な速度を得るために。

出実の目に映るのはもはや文字の羅列ではなく、一つのイメージ。
電子の世界に入り込みその力を振るう。
侵入を拒むかのように、再度張り直されるバリケード。
それらを力技で強引に引きちぎる。

(´・_ゝ・`) 「……」

出実の手が止まった。
彼のコントロールするウィルスが完全に包囲されたためだ。
敢えて突破できるように創り出したバリケードを目くらましにした戦法。

ゆっくりと空間を狭めて完全に出実の存在を捉えようとする。
捕まってしまえば、二度と進入は許されない。

出実は封鎖された空間から脱出するために一つ目のプログラムを使った。
一時的に回線の処理速度を超える負荷をかけ、同時にコントロールするウィルスを複数に分裂させる。

相手の苛立ちが手に取るようにわかった。

221 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:13:26 ID:23xxBFUg0

(´・_ゝ・`) 「本気を出せよ。じゃないとすぐに権限を奪う」

パソコンに向かって話しかける。
すぐ目の前にいる人間に声をかけるような気軽さで。
その答えは、アンチウィルスプログラムの猛威となって返ってきた。

ダミーを次々と破壊していく。
出実が直接操っていたウィルスを残し、空間は再び相手の手に落ちた。

(´・_ゝ・`) 「……」

出実には、彼自身が組み上げたアンチウィルスソフトを抜いたのはまぐれではない、と宣言が聞こえた。
溢れて来る汗を軽く拭い、再び対峙する。
迫り来る追跡プログラムから逃れるために指を動かし続ける。
隠れる場所を模索しながらも、強力なウォールを破るためのプログラムの構想を練っていた。

相手の追跡をすんでのところで躱しながら、管理者権限から距離をとる。
正六角形の赤いパネルが組み合わせられた球形のウォール。
試しに簡易プログラムをぶつけるが、ビクともしない。

(´・_ゝ・`) 「ったく、でたらめな硬さだな」

222 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:15:07 ID:23xxBFUg0

通常、ウィルスでの攻防戦において有利なのは防衛側よりも攻撃側である。
攻撃プログラムは常に新しいものが生み出され続けるが、
防御プログラムをあらゆる攻撃に対してる備えさせることはできないからだ。

出実は相手の実力が自分よりも上にあるかもしれないと、若干の焦りを感じていた。
激しいやり取りの最中に創り出したウィルスに対して、全く揺るがなかった防御壁。

( <●><●>) 「どうなっているのですか?」

( ´_ゝ`) 「状況は悪いですね。相手の防御が思っていたよりも堅いですから」

(´<_` ) 「出実が残り三十分で突破できなければ……っ! 危なかったですね」

若田の問いに、まだ辛うじて状況についていけている双子が答えた。
刻一刻と変化する状況を、可能な限り分かりやすく。

二つ目のU(SBメモリの中に保存されたプログラムを起動する出実。
彼がストックしている攻撃用のプログラムの中で最も危険なそれは、
作ったはいいものの一度も起動されていない。

相手の回路ごと焼き尽くしてしまう恐れがあるために。
出実はキーボードを叩く指先に僅かに熱気を感じた。

223 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:16:45 ID:23xxBFUg0

電子の世界に生み出された灼熱の炎。
あらゆるセキュリティを焼き尽くして、管理者権限を護るウォールを容易く溶解させる。

(;´・_ゝ・`) 「これでっ……!」

コントロールのきかない炎が回路を焼き尽くす前に、管理者権限へと手を伸ばす。
掴んだはずの権限が忽然と消えた。

(;´・_ゝ・`) 「なっ!」

(; ´_ゝ`) 「嘘だろ……」

( <●><●>) 「何が起きたんですか?」

(´<_` ;) 「管理者権限のダミーを掴まされたんです」

画面上を埋め尽くしてもなお、開き止まないウィンドウ。
秒刻みで現れ続けるものを、危険度の高いものから順に効率よく消していく。
出実が自身のパソコンのコントロールを取り戻した時、その間無防備だったウィルスはその大部分を解析されていた。

(´<_` ;) 「まずいな……」

224 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:19:04 ID:23xxBFUg0

黒い明滅が急速に小さくなっていく。
すぐに残り少ないウィルスすぐに脱出させる。

(; ´_ゝ`) 「ギリギリだったか……」

(#´・_ゝ・`) 「ったく、舐めんな……!」

三つ目のUSBメモリに入ったプログラム。
出実が用意した正真正銘最後の切り札。
パソコンの右下に表示された時計を見れば、残り五分に迫っていた。

焦りが心を蝕むのと対照的に、崩壊した赤い壁はゆっくりと再生していく。
電子空間を侵食している真っ赤な太陽は弾けて消えた。
同じだけの破壊力を持つものはもう用意できない。

つまりこれが、出実にとってのラストチャンス。
たった五分でチャンネル国の趨勢の決まる。

真っ暗闇の中に一つだけ浮かぶ管理者権限の光。
その直線状に存在する崩壊しかけたウィルス。
周囲には防衛プログラムの網。
しつこく追いかけてくるのは、ウィルス除去プログラムの赤い槍。

225 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:20:12 ID:23xxBFUg0

一瞬の隙も許さないかのような追撃。
それを振り切ることが出来ずに、秘蔵のプログラムを使うタイミングが無い。

(´-_ゝ-`) 「」

追い詰められ、あろうことか出実はその両の眼を閉じた。
それは自殺行為であるし、隣でずっと様子を窺っていた流石兄弟も驚き息をのむ。
僅かな時間全く動かなくなったウィルスに対して、逃げ道を塞ぐように迫る敵のプログラム。

視界すらも閉じて自分だけになった世界で、出実は両手を動かす。
即興で思いついた防衛プログラムを、ウィルスが解析されきるコンマ一秒手前で間に合わせた。

弾かれた赤い槍。
相手に生まれた驚きと、ほんの一瞬の隙。

226 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:22:43 ID:23xxBFUg0

(´-_ゝ・`) 「これで!! 終われっ!」

残り三十秒。
出実は最後の切り札を発動させた。電子世界で弾けたジャミング用プログラム。
それは自分自身の行動すら制限する諸刃の剣。

電子世界が二次元平面上に固定され、ウィルスと管理者権限とが同じ平面上に固定される。
上下左右に拡がっていた網と槍は、自身の存在を固定できずに不安定な状態になった。
相手にそれを書き直すだけの余裕は与えない。

出実はすぐさま最終攻略地点に向けての一手に取り掛かった。
二次元平面上での戦いは速度と物量での攻防ではなく、
可能な限り強力なプログラムを簡潔に作り出す発想力の戦い。

積み上げられたブロックの中心を、ボロボロに崩れながらも出実のウィルスが真っ直ぐに貫いた。

227 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/30(水) 23:33:17 ID:23xxBFUg0


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【USBメモリ】

出実が常日頃から試行錯誤しているプログラムが用途に分けて保存されている。
特対課の室内に保存されているその数は百をゆうに超える。
ある意味普段から仕事熱心にしているわけだが、誰からも評価されていない。
出実の性格故、攻撃的なプログラムよりも遊びを目的としたものが多い。


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