ハゲタカのようです

36 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 18:59:08 ID:SoEOAtLY0



( ^ω^) 「で、あんたはどう思うんだ?」

(-@∀@) 「……」

手術室と思しき場所に、人間が二人いた。
片方は白衣で、その手に注射器を握っている。
もう片方はボロボロの服を着て、鎖で手術台に縛り付けられていた。

手術室と思しき、と表現したのは、その部屋に他の道具が一切なかったからだ。

( ^ω^) 「あんた、根性はあると思うけど、すぐ無駄になる。
       この注射器に入っている液体が何かわかるか?」

(-@∀@) 「……」

( ^ω^) 「塩化カリウム。死刑の時に使ってる薬剤だ。
       別に喋らなくてもいい。死ぬだけだから。安心しろ、痛くは無い」

37 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:00:36 ID:SoEOAtLY0

(-@∀@) 「……殺すんならさっさと殺せ」

( ^ω^) 「んじゃ、遠慮なく」

縛り付けられ身動きのできない男の腕を取り、静脈に液体を注射した。
数秒も経たずに男は意識を失った。

( ^ω^) 「っふー……駄目だ、喋らない」

(´・_ゝ・`) 「なかなかの演技だったな」

( ^ω^) 「あんまり得意じゃないんだからさせてくれるなよ」

注射器に残った生理食塩水と睡眠促進剤を捨て、男はマスクと手袋を外した。
温和な表情をしながらも、眉間に皺を寄せた四十代の男。

(´・_ゝ・`) 「すまん。ちょっと厄介があってな」

( ^ω^) 「この前茂羅が出た件だろ?
       報告書は読ませてもらったけど、腑に落ちない点がいくつかある」

38 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:03:11 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 「ああ。何か喋らせることが出来ればと思ったんだが」

( ^ω^) 「さて、俺はもう帰る」

(´・_ゝ・`) 「なんだ、久しぶりに呑みにいかないか」

( ^ω^) 「……奢りか?」

(´・_ゝ・`) 「どうして同じ課に所属している同い年に奢らなきゃいけない」

( ^ω^) 「まぁいい。帰ってもすることなんてなかったからな。
       どこに行くんだ?」

(´・_ゝ・`) 「いつものとこでいいだろう」

気絶したままの男をその場に残し、二人は夜の街に出かけた。
明るいネオンが照らす飲み屋街の中心部からは少し外れた裏通り。
終末である今日は、既に酔いつぶれてしまったのか数人がうつ伏せに倒れている。
踏まないように避けながら目的の店にたどり着いた二人。

39 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:04:39 ID:SoEOAtLY0

相変わらずクローズの建て札がしてある扉を二度ノックし、中に入った。

( ,'3 ) 「クローズが見えなかったの? 準備中よ」

女性が一人、カウンターでグラスを磨いていた。
短めの黒髪とよく似合う着物姿で、御年六十ほどであるはずだが、とてもそうは見えない。
大人しめの薄い色の着物と、金の刺繍が細かに編まれたクリーム色の帯がよく似合っていた。
ほかに客は誰もおらず、二人はカウンターの真ん中に座った。

(´・_ゝ・`) 「ママ、久しぶり」

( ,'3 ) 「あら、デミ坊……それにブンちゃん」

( ^ω^) 「ブンちゃんってのはやめてくれよ」

( ,'3 ) 「何言ってんだい。ブンちゃんはブンちゃんでしょう?」

( ^ω^) 「ママにはかなわないねぇ。俺はビール」

40 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:06:59 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 「俺も同じのを頼む」

( ,'3 ) 「ちょっと待ってね、最近腰が痛くてねぇ。年かしら」

(´・_ゝ・`) 「ママは昔から年取ってただろ」

( ,'3 ) 「今までのツケ今日全部払ってくれるの?」

(´・_ゝ・`) 「おっと……ちょっと今日は持ち合わせが足りないかな」

( ^ω^) 「ママはいつまでたっても綺麗で変わらんね」

( ,'3 ) 「褒めてもまけないよ。はい、ビール二つ。つまみはちょっと待ってね」

( ^ω^) 「乾杯」

(´・_ゝ・`) 「乾杯」

男達はグラスをぶつけ合った。
ジョッキに溢れんばかりに注がれたビールが跳ねる。

41 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:07:57 ID:SoEOAtLY0

( ^ω^) 「ふー……」

(´・_ゝ・`) 「最近あまり課に顔を出さないな」

( ^ω^) 「ちょっと厄介な事件追いかけているからな」

(´・_ゝ・`) 「厄介な事件?」

( ^ω^) 「特対課で俺が指名された事件が合ったろ」

(´・_ゝ・`) 「ん……あぁ、シャワートイレ殺人事件か」

三ヶ月前、高層マンションの一室で殺された女性がいた。
死因は首筋に鋭いナイフを一突きされたことによる失血死。
抵抗した後は無く、トイレの壁紙がが真っ赤に染まっていた。
おまけに温水が出っぱなしになっていたせいで、ひどい惨状だったと写真を見たデミタスは記憶している。

第一発見者は被害者女性の母親。
連絡を取れないことを心配して合鍵で部屋に入った際に、息絶えた娘を見つけてしまった。
その衝撃は計り知れない。

42 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:08:53 ID:SoEOAtLY0

( ^ω^) 「ガイシャは大手企業の事務員。そこそこの給料はもらっていたはずだが、
       あのマンションに住めるほどは貰っていたない。
       なのになぜ。部屋の中にあった服や装飾品は女性の持ち物で間違いがなかった」

(´・_ゝ・`) 「別の収入源があったからか?」

( ^ω^) 「俺はそうよんでる。どうも会社の上役と不倫関係にあったようだが、あまり関係なさそうだ。
       犯人像が浮かんでこないのは、俺がその女性について大切な何かを見落としているかだろう。
       ママ、御代わりを頼みます」

( ,'3 ) 「そろそろだと思ってたわよ」

二杯目のビールがすぐに出て来る。
出実も武雲も、スナックバルケンには二十代の頃から通っていた。
その頃から飲み方は少し変わったとはいえ、昔を懐かしむために出されたものを飲み、食べる。
年々脂分が少なくなり、健康に気を使ったようなつまみが出るようになってきたことが二人の悩みであったが。

(´・_ゝ・`) 「俺も次をもらおうか」

( ,'3 ) 「あんたはこれ」

43 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:09:51 ID:SoEOAtLY0

渡された酒の匂いを、次に少し飲んで味を確かめる。
出実が初めてバルケンに来た時、飲みすぎて支払いで当時の上司を泣かせた思い出の酒。

(´・_ゝ・`) 「……獺祭か……久々に呑んだな」

( ,'3 ) 「はい、つまみできたよ」

卵とほうれん草を炒めて塩胡椒で味をつけたもの。
しなしなになったほうれん草に絡んだスクランブルエッグ。
黄色と緑の単純な料理ではあるが、シンプルだからこそ酒の味を邪魔しない。

(´・_ゝ・`) 「なんだ……?」

出実が二杯目の酒を受け取った瞬間、店の外で何かが崩れるような音がした。
次に聞こえてきたのは男達の怒号と女性の悲鳴。

( ^ω^) 「折角の酒が不味くなっちまう……ちょっと様子を見て来る」

(´・_ゝ・`) 「おいおい、放っとけよ」

( ^ω^) 「それでも警察か?」

44 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:12:07 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 「非常勤の特対課だ。俺は肉体労働が苦手なんでね。
       待ってる。すぐに戻って来い」

( -ω-) 「やれやれ……」

鈴を鳴らしてスナックの外に出た武雲の見たものは、殴り合い罵り合いの乱痴気騒ぎ。
十数人の男達が周りを気にせずに大暴れしていた。
その余波を喰らって裏路地は嵐が通り過ぎた後のように荒れている。
顔目掛けて飛んできたゴミ袋を弾き、武雲は喧嘩の仲裁に入った。

( ^ω^) 「おい、やめろ」

一回目は誰も聞いていなかった。
挙句どちらの側からともわからない奴から殴り掛かられる始末。
鳩尾に重い一撃を打ち込んでやると、男は呻きながら倒れた。

( ^ω^) 「おい、やめろ」

二回目で武雲の存在気に気付いたのは二、三人。
もはや歯止めが利かなくなっているのか、それでも殴り合いをやめようともしない。

(#゚ω゚) 「やめろっつてんだよ!!」

45 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:12:39 ID:SoEOAtLY0

大気が震えるほどの大声。
喧騒全てを飲み込んで、裏路地を静寂に塗り替えた。

「あぁ? 邪魔すんじゃねぇよ」

「てめぇから先にぶっ殺すぞ」

先程まで親の仇かのようにいがみ合っていた男達の敵意が全て武雲に向く。
警察と医者。二つの身分を持つ武雲が提示したのは、この場の沈静化に必要な役割。

( ^ω^) 「いいかよく聞け。俺は医者だ。お前らみたいな馬鹿も、病院に来たら治してやらなきゃならねぇ」

「だから何だってんだ」

( ^ω^) 「無駄な手間を駆けさせるな」

「このハゲ! ってめぇ!」

それがどちらに所属していた男なのか武雲には知る由もない。
最も血気盛んな男だったことは間違いがないだろう。
それに、残念ながら考える頭もなかった。

46 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:13:35 ID:SoEOAtLY0

これだけの騒ぎに首を突っ込む物好きが、普通の医者であるはずがない。
その程度の簡単な憶測すら立てられなかった男は、次の瞬間に地に伏していた。

拳を躱し、両肩に一撃ずつ。さらに頬から顎に向かって振り下ろすような打撃。

「あああああっぎいいいぎいいいいいいてえええええええええええええええええええええ。
 あ、あれええええか、ああええええええええええええええ」

涙と鼻水を垂らしながら、救いを求める無様な男。
三半規管を揺らされて立ち上がれず、両肩を外されてミミズのように地を這う。
その異常な痛がり方は、熱気に包まれていた男達の脳みそを冷やすには十分なだった。

( ^ω^) 「両肩と顎関節の脱臼。神経に骨が直接当たるんだから痛くないわけがない」

「がああああああああああああええええええええええああああええあえ」

「お、おい医者を! 救急車よべ!」

( ^ω^) 「俺が医者だ。どうだ、治してやるから騒ぐなら他所に行け」

47 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:15:12 ID:SoEOAtLY0

泣きわめく男の骨を元に戻してやったところで、
二つのグループはそれぞれ別の方向に消えていった。
その結果に満足した武雲は、再びスナックバルケンに戻る。

(´・_ゝ・`) 「おかえり」

( ^ω^) 「ああ」

( ,'3 ) 「あんたが一番うるさかったよ。グラスが割れてたら弁償してもらうからね!」

(´・_ゝ・`) 「ママの言う通りだな。ま、なんにせよ無事に済んでよかった」

(; ^ω^) 「ママのとこのグラス高いんだよな……。ママ御代わり」

運動後に飲むスポーツドリンクの要領でジョッキのビールを飲み干し、武雲は次の一杯を催促する。
店内を飾る温かな光が、深く後退した額の両サイドににじみ出た汗でキラキラと反射していた。

48 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 19:16:03 ID:SoEOAtLY0


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【番号】 013

【姓名】 羽毛田 武雲

【読み】 ハゲタ ブウン

【年齢】 45

【役職】 警視正

【専門】 医療

【解決事件】

・闇医者殺人事件
・孤島クルーズジャック事件



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