ハゲタカのようです

92 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 20:30:36 ID:SoEOAtLY0
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(;´・ω・`) 「嘘だろ……」

諸本は深夜の道路を制限時速の二倍以上で飛ばしていた。
鳴り続ける携帯電話を無視して、神経のすべてを運転に費やしながら。
武雲の家まで一時間の距離を僅か二十分で走破し、事実を知った。

数台の消防車に囲まれて未だ燻っている武雲の家。
諸本が車を降りたと同時に、黒く焼け焦げた柱が音を立てて倒れた。
通報通り爆発は止まっておらず、今なお定期的に火花を挙げている。
すぐさま携帯を取り出し、頭の中に入っている電話番号を押す。

(´・ω・`) 「……俺だ」

警察庁の特対課では、茂羅が電話を取った。

(; ・∀・) 「諸本さん……どこにいたんですか! 何度も電話したんっすよ!」

(´・ω・`) 「武雲の家だ」

93 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 20:32:30 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「……早く戻ってきてください。伝えなきゃいけないことがあります」

(´・ω・`) 「待て。武雲が無事かどうかを確認する」

( ・∀・) 「…………」

炭化した家は元の形状を一切保っておらず、無事なものは何一つなかった。
火災の憂き目から逃れていたのは、爆発の衝撃で家の外に飛び出したであろう細かな備品だけ。
特対課の証である襟章を見せたところで、テープで区切られた中に通してはもらえない。
二次災害の恐れがあるために入れないであろうことは、諸本にも痛いほどわかっていた。

( ・∀・) 「とにかく、すぐに警察庁まで来てください!」

(´・ω・`) 「……わかった」

愛車の黒いカムリに乗り込み、武雲の家を後にした。
既に消防吏員が来ている以上、明日明後日には嫌でも結果を知ることになる。
ヴィップ警察庁に向けてアクセルを踏み込む。

94 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 20:34:25 ID:SoEOAtLY0

(;´・ω・`) 「っ……くぉっ!」

人気のない夜の街は、信号も多く視界が悪い。
突如として目の前に現れた人影を避けるために、諸本は激しくハンドルを切った。
スピードを出しすぎていたため止まることができず、車はスピンして横っ腹から電信柱に突っ込んだ。

鳴り続けるクラクションの音で諸本は意識を取り戻す。
額を抑え、大破した車から外に出る。
目にかかる暖かいものをぬぐいながら、目の前に立っている男と向き合った。

諸本と同じだけある上背。
筋骨隆々な肉体は諸本よりも一回り大きく見える。

(´Tω・`) 「……なんだお前」

( ゚∋゚) 「……」

(´Tω・`) 「ゲ=ハか」

( ゚∋゚) 「……ほらよっ」

95 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 20:35:55 ID:SoEOAtLY0

足元をふらつかせながらも立ち上がる諸本。
突然投げられた携帯電話を何とか掴む。

( ゚∋゚) 「ゆっくり話せばいい」

男は胡坐をかいて道路の真ん中に座った。
正体不明の男の動きを警戒しながらも携帯を耳に当てる。

(´Tω・`) 「……誰だ」

川;゚ -゚) 『あなた!? あなたなの?』

(;´Tω・`) 「……空!?」

川;゚ -゚) 『ええ。よかった、あなたが無事で』

(;´Tω・`) 「今どこにいる!? 怪我はないのか?」

川;゚ -゚) 『私も、璃々も無事よ。怪我はないわ。
       車で警察署向かってたら、急に……』

(;´Tω・`) 「すぐに助けに行く」

96 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 20:36:32 ID:SoEOAtLY0

川;゚ -゚) 『お願い、あなた。気を付けて……きゃっ』

(;´Tω・`) 「おい! 空!? 空!?」

( ゚∋゚) 「さて、終わったか。携帯を返してくれよ。高かったんだ、その機種」

地面に叩き付けて壊してやるのもあまりに小さな抵抗に思え、諸本は持ち主の元へ投げた。
目標地点を軽くずれた軌道を容易くキャッチする男。

( ゚∋゚) 「立てるか?」

(´Tω・`) 「どうするつもりだ」

( ゚∋゚) 「お前を連れていく。抵抗するなら、容赦しない。
      二人にはまだ手を出さないつもりだ。他の人間はわからんがな」

(´Tω・`) 「ふぅ……一本」

( ゚∋゚) 「なんだ?」

(´Tω・`) 「一本吸わせてくれ」

97 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 20:38:07 ID:SoEOAtLY0

胸ポケットを探したが、中に残っていた煙草は衝撃ですべて千切れていた。
予備を入れているはずのコートのポケットにも何も入っていない。

( ゚∋゚) 「ほらよ」

(´Tω・`) 「すまないな」

煙草とライターのセットをキャッチし、一本抜いて火をつけた諸本。
胸の痛みも気にせずに深く息を吸い、胸いっぱいに煙草の煙を詰め込む。

(#´Tω・`) 「同じ銘柄を吸ってる奴とはやりたくねぇんだが……。
        妻と娘より大事なモノなんてないんでな。お前を今から殺す」

借りたものを投げ返して、それを男が受け取ったと同時に地面を踏み込んだ。
強靭な肉体で初速を得た諸本と、男が正面からぶつかった。

諸本の素早くも重い一撃を男は往なし、躱す。
力任せに見せかけての足技や関節固めの狙いは、全てはずされた。

(´Tω・`) (こいつ……ただの素人じゃない)

98 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 20:38:47 ID:SoEOAtLY0

対峙してからの違和感の正体に、諸本はようやく気付く。
あらゆる格闘技を体験し、習得してきた諸本にとっても力の底が見えない相手。

( ゚∋゚) 「もっと恐ろしいものかと思っていたが……」

(;´Tω・`) 「ちぃっ……」

大振りの一撃をガードの上からたたき込まれ、手を緩めざるを得なかった。
両腕が痺れ、胸が強く傷む。
嫌な汗がゆっくりとこめかみをつたって流れ落ちた。

( ゚∋゚) 「無理をするな、もう眠れ」

(メ´Tω・`) 「く……」

たたらを踏んで後ろに下がった諸本に振り下ろすような拳が迫る。
辛うじて上げた腕にも力は入らず、そのまま吹き飛ばされてアスファルトの上を三メートル以上転がった。

99 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 20:39:24 ID:SoEOAtLY0

(メ´Tω-`) 「はぁ……はぁ……っ……ごほっ……」

( ゚∋゚) 「いい加減抵抗をやめたらどうだ。殺すのは簡単だが、敢えてそうしていない」

(メ´Tω-`) 「っ!」

胸ぐらを掴まれ引き上げられる諸本。
だらりと下がった両手両足。
ネクタイが首を圧迫し、抵抗できずに諸本は意識を失った。

その瞬間、地面を削る様なタイヤ音とハイライトが二人を照らし出す。
完全に止まる前の車から飛び降りてきた毒男が、銃を構える。
遅れて運転席から出てきた茂羅も同様に、車の陰から大男に狙いをつけた。

('A`) 「動くな!」

諸本を掴んだままの男はゆっくりと声のした方向を振り向いた。
向けられた拳銃を恐れるそぶりも見せず、平然としたままで。

100 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 20:41:01 ID:SoEOAtLY0

('A`) 「諸本さんを離せ」

( ゚∋゚) 「邪魔をするな……」

('A`) 「警告だ! 諸本さんを離せ。発砲許可は出ている」

( ゚∋゚) 「……今しばらくこの男は預けておく」

捨て台詞を残して諸本を壁にするように投げ、車のライトから外れた方向へ逃げ去った。
射線をふさがれた毒男は撃つことを諦め、男が闇の中へ走り去った方角を睨む。

( ・∀・) 「毒男さん?」

('A`) 「無理だ。こんなに暗いと当たりはしない」

地面に倒れ伏した諸本を茂羅が助け起こし、そのまま三人は警察庁へと戻った。

101 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 20:41:52 ID:SoEOAtLY0


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【姓名】 神内 空/璃々

【読み】 ジンナイ ソラ/リリ

【年齢】 38/12

【付記】 神内諸本の妻と娘。諸本がタバコをやめないことにしょっちゅう業を煮やし、
     実家に帰っている。空の父親がシベリア通りのデモ事件に巻き込まれたことから
     二人の関係は始まった。当時、諸本はまだ特対課に所属しておらず、
     一般の警察官として事件の解決に尽力した。なお、出会った頃はまだ禿げていなかった。


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