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1 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 01:07:40 ID:SoEOAtLY0
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>プロローグ
(´-_ゝ-`) 「っふー……」
昼間にもかかわらずブラインドを降ろした仄暗い部屋の中で、男は長い息を吐いた。
風の流れを描いた白い煙は、空気中に溶けて消える。
壊れかけの暖房がロボットのように首を振りながら、誰も座っていない席の周りを温めていた。
部屋には五つの机があり、男は一番奥の席から扉側に向かって座っている。
二つ一組で向かい合うように並べられた目の前にある部下の座席は、ここ数週間いつも同じ光景。
つまりどういう事かと言うと、四つあるうちの三つは空き、である。
男は灰が指先まで迫った煙草を押し潰し、目の前にあるパソコンでメールの画面を開く。
受信ボックスには案の定何もなく、苛立ちを隠さずに煙草の箱を胸ポケットから取り出した。
くしゃくしゃに潰れたケースの中には一本も残っておらず、
男はそれをゴミ箱目掛けて強く投げつけた。
(´・_ゝ-`) 「ちっ……」
縁に当たって床に転がったゴミを拾いには行かず、机の二段目の引き出しから新たな一箱を取り出す。
他に何も入らないぐらい詰め込まれた煙草のケースが、
男がどれだけのヘビースモーカーであるか教えてくれる。
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2 名前: ◆XCbCwy.oTs[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 01:08:38 ID:SoEOAtLY0
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(´・ω・`) 「ゴミ」
男が座っている席から机三つ分ほど離れた所から、ただ一言だけ投げかけられた。
その意味が解らない男ではなかったが、苛立ちを紛らわすためにぶっきっらぼうに答える。
(´・_ゝ・`) 「なんだ」
(´・ω・`) 「拾って、捨ててください」
椅子を二つ使って新聞を読んでいた男は、一瞥もくれずに言い切った。
(´・_ゝ・`) 「っち……おい諸本、お前拾っとけ」
(´・ω・`) 「嫌です」
諸本と呼ばれた男はにべもなく断る。
仮にも二人の関係は上司部下であるはずだが、一般企業で本来見られるはずの遠慮は全くなかった。
(´・_ゝ・`) 「あーっくそ、今日はあいつらどうして来ない」
(´・ω・`) 「毒男はもう十三日目の引き籠り休暇取得中、茂羅はどっか南の方でバカンス。
武雲さんは……知らない」
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3 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 01:09:29 ID:SoEOAtLY0
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(´・_ゝ・`) 「っち……いい身分だな」
男の八つ当たりを受けた煙草は、半分以上残ったまま潰された。
まだ昼前の時間だが、既に灰皿には二重を通り越して三重に吸い殻が重ねられている。
揺蕩う煙は小さな換気扇では排出しきれず、目に見えるほどの濃さで部屋の中を漂っていた。
(´・ω・`) 「別にいいんじゃないですか、僕らが暇な分には」
(´・_ゝ・`) 「あぁ? 上から喧しく言われんのは俺だぞ。
特対は給料泥棒だの、追い出し部屋だの。ったく……」
(´・ω・`) 「一本くださいよ。こうも煙が充満してちゃ吸いたくなる」
(´・_ゝ・`) 「お前やめたんじゃねぇのか」
(´・ω・`) 「三日もちました」
(´-_ゝ-`) 「っち……ほらよ!」
細い煙草が一本、宙を舞う。
二人の間にはさほど距離はなかったが、細長い形状のせいで空気抵抗を大きく受けた。
汚い放物線を描きながら机の上の書類の束にぶつかり、諸本の足元へ飛んでいく。
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4 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 01:10:01 ID:SoEOAtLY0
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(´・ω・`) 「ったく」
一瞬だけ雑誌から目を離し、煙草の軌道を確認した諸本は煙草を足で弾き飛ばす。
蹴り上げられた煙草は、天井付近まで高く上がり蛍光灯に掠る。
落ちてきたそれを口に咥え、いつの間にか手に持っていたライターで流れるように火をつけた。
一連の動作を終えて、諸本は手元のクロスワードパズルに意識をもどした。
(´・_ゝ・`) 「で、お前は何で来てんだ」
(´・ω・`) 「ここは……ポロロッカ……っと……え、あぁ、癖ですかね。
ここ、静かで落ち着くんで」
(´・_ゝ・`) 「家の嫁さんとまた喧嘩でもしたのか」
(´・ω・`) 「いや、今はむこうの実家に帰ってるんで。
煙草やめるまで帰ってこないらしいです」
(´・_ゝ・`) 「またか……」
(´-ω-`) 「そのうち帰ってきますよ。……やっぱ不味いですね、この銘柄」
(´・_ゝ・`) 「くそっ……やるんじゃなかったよ」
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5 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 18:02:21 ID:SoEOAtLY0
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>1
チャンネル国内最大規模の都市、ヴィップ。
そこにはありとあらゆる公的機関が集中している。
国の警察機関の総元締め、警察庁も当然ヴィップに存在していた。
国民の安全を守る警察庁の部署は、その役割に応じて細分化されている。
各部署は必要に応じて互いに協力し、事件の解決を迅速に行う。
重大事件が発生し複数の部署が協力する際の指揮は、対策本部長に任命されたものが行うのが常である。
しかしたった一つだけ、どのような事態が起きようとも完全に独立している部署があった。
曰く、警察庁で最も年間休暇の多い金食い虫
曰く、態度も性格も悪い連中が居座るゴミの掃きだめ
確かに、常日頃の彼らの仕事ぶりを見れば誰もがそう思うだろう。
一日中室内に篭って煙草を吸って遊んでいるだけ。
果ては賭け麻雀をしているのをも見た者もいた。
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6 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 18:06:19 ID:SoEOAtLY0
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そんなどうしようもない彼らだが、一度事件に赴けばどんな難事件も必ず解決する。
各分野のエキスパートが集められたエリート部署である。
警察庁 刑事局 組織犯罪対策部 特定犯罪激化対策課
現在所属しているのはわずか五名。
危険な職務故に非常勤で活動でき、年間の半分近く休んでいる者もいる。
緊急時でない限りは基本的に何をしていてもよく、
その逆に彼らの出動が必要な事件があれば、例え冠婚葬祭のさなかであろうと現場に赴かなければならない。
特別な対応が許されているはずなのだが、二人の男は普段通りに通勤し、
入るだけでニコチン中毒になってしまいそうな部屋で、今日も時間を潰していた。
(´・_ゝ・`) 「で、だ。諸本、お前この前の報告書いい加減出せ」
(´・ω・`) 「いつ報告書ですか?」
(´・_ゝ・`) 「三ヶ月前のだ」
(´・ω・`) 「出しましたよ。一ヶ月前に」
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7 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 18:07:10 ID:SoEOAtLY0
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諸本は手元にあった控えで紙飛行機を折り、それを上司に向かって投げた。
煙草雲を真っ直ぐに貫いたそれを、片手で握りつぶす。
(´・_ゝ・`) 「駄目に決まってんだろ、こんな内容」
(´・ω・`) 「嘘偽りない真実です。デミさんに誓って」
(´・_ゝ・`) 「飾れって言ってんだよ」
言葉を言い終えるや否や、元紙飛行機は煙草の屑と同じ運命をたどった。
(´・ω・`) 「外れ」
結果が分かる前に諸本は告げる。
その言葉通り、紙くずはゴミ箱の中には入らなかった。
(´・_ゝ・`) 「いいから書き直せ」
(´・ω・`) 「って言っても、どうすればいいんですか」
(´-_ゝ-`) 「っあー……わかんないのかお前……まぁいいや。催促来るまでほとっけ」
(´・ω・`) 「了解。デミさん、もう一本」
(´・_ゝ・`) 「やらん」
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8 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 18:08:14 ID:SoEOAtLY0
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【特定犯罪激化対策課】
警察庁 刑事局 組織犯罪対策部 特定犯罪激化対策課
設立された当初はとある組織専門の部署であったが、組織の指導者を捕らえた事件で
メンバーのほとんどを失ったため、暫くの間誰も所属していなかった。
現在所属している人員は五名。
出動のための条件は特に定まっておらず、臨機応変にその時の課長が判断する。
おもに大規模テロや、難事件などに呼び出されてその能力を発揮する。
極稀に秘密裏に同盟国に依頼され国外活動を行う。
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