( ^ω^)ナイトウスーツのようです
前口上 後口上



62 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:43:15 ID:oRlV1SEE0
〜後口上〜

これで、君らからみて五十年後の物語はおしまい。
内藤は、最後の発明をした後にしっかりとブティックを継いで、奥さんと一緒に細々と生活をしているよ。
時おり、ナイトウスーツに関するニュースを見ては、押し寄せる罪悪感に顔を歪めてはいるけどね。

え? 結局内藤の最後の発明はどのようなものなんだって?

おいおい、何を寝惚けたことを言っているのさ。
この物語を君が読めている時点でわかるだろ。

時間軸を越えた転送機さ。
五十年前の世界に、私の書いた物語を送った。ただ、それだけの話。

アインシュタインの相対性理論によると、光の速さに近づき、
それさえも越えることで時間の流れに干渉することができるらしいんだけど、それを内藤は利用したみたいなんだ。

もちろん、相対性理論そのままで考えると未来にしか行けないらしいんだけど、そこは内藤が機転をきかしてうまくやったみたいだよ。

光と電気はだいたい同じ速さだ。
この物語を書いた紙を転送機にセットして、電子化。
後は送信の速度を後押しすることで転送が成り立つらしいんだけど、恥ずかしながら私にも細かくは正直理解できなかったよ。

というか、もうほとんどついていけてないんだけれどもね。

もちろん、先ほど書いたようにどんな発明でも必ず影を作る。
この転送機だって、過去に干渉するわけだから、大きな影を作り出してしまう可能性だってあったさ。

存在する人が消えてしまったり、消えるべきものが現れてしまったり、
そんな昔から言われ続けている危険性があるかもしれない。

でも、送るのはこの物語だけで、決して世間にはこの発明品を公表しないと内藤は強く決めていたし、
内藤によると変わるのは干渉された時間軸の未来で、私たちのいる現在はまったく変わらないらしい。

この説明を聞いた時は驚いたね。結局、私たちの世界は何も変えられないのかってさ。
そんなことを聞く私に、内藤は少し悲しそうな目でこう答えたよ。

( ^ω^)「もうこの時代にはナイトウスーツが根強く蔓延しちゃったんだお。もう僕一人の力じゃ無理だお。
       だから、せめて他の時代だけでも、影を作りすぎてしまう光が生み出される可能性を減らしておきたいんだお」

63 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:45:10 ID:oRlV1SEE0
そう、マイナスをプラスにも、プラスをマイナスにもせずに、
現状維持をし続ける一番の手段って、何もしないことなんだよね。

何もせず、何も生み出さず。
私たちの時代は、すでに色々と生み出しすぎてしまった。

例え、何らかの手段をもってナイトウスーツの存在をなくしてしまっても、
それはそれで新たに不幸になる人がでてくるわけだし、この時代においてはどうすることもできないんだ。

だから、別の時代に託す。
私たちの時代の失敗を啓示として、是非とも何も生み出さない時代を歩んで欲しいんだ。

ここまで読めばもうわかるよね?
この一連の物語は、内藤から君たちへあてた警告の手紙でもあるんだ。

時間の波を乗り越えて、君たちへ送り届ける手紙さ。
物語自体を綴ったのは、この私だけどね。

そうそう。
物語も終わったし、そろそろ私が誰なのか教えようか。
よくよく考えれば、すぐ気付くもんだと思うけどね。

だって、考えてみてよ。

なんで私が内藤の冒険を書き示せたのか。

なんで内藤がエスキモーと普通に会話できたのか。

なんで発明以外まったく関心を寄せていなかった内藤が迷うことなく他国を旅することができたのか。

なんで内藤の旅立ちに手を振っていたのが父親だけなのか。

ζ(^ー^*ζ

内藤の婚約者は、下手な文章を書くことが好きで、色々な国の言語を話せて、
地図を読み取るのが得意で、いつでも内藤のそばにいた。
たったそれだけの話なんだよね。

64 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:46:14 ID:oRlV1SEE0

なかなかできない経験だったよ。
ナイトウスーツを着た旦那に担がれてシベリア山脈を高速で越えていく新婚旅行だなんてね。

もちろん、この物語を送った後に、やっと普通の新婚旅行が待っているんだけどさ。
うん、とても楽しみだよ。

とにかく、内藤の警告改め、内藤夫婦の警告を受け取ってくれた君へ。

人類は確かに衣服と共に成長してきた。
でも、成長の行き着く先は腐敗さ。
育ちきった木は枯れるし、人も死に向かって育っている。いつか来る死は、受け入れるしかないよね。

なのに、私たちは気が付かなかったんだ。
成長には終わりがないと信じ、不可避な死すらも見えていなかった。
そのために、ナイトウスーツという成長をありえない速度で促がしてしまう起爆剤を、嬉々として作ってしまったんだ。

65 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:47:38 ID:oRlV1SEE0





だからこそ、何度でも君に、そして君の時代に伝えるよ。

君から見て十年後。電気自動車が主流になった時。

君から見て二十年後。火力発電所が日本中に蔓延しはじめた時。

君から見て三十年後。ついに車が単三電池で動きはじめた時。

君から見て四十年後。ナガオ・カーボートによって車が海を走りはじめた時。

君から見て五十年後。ナイトウスーツが世界に受け入れられた時。

66 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:48:57 ID:oRlV1SEE0
どんなタイミングでも良い。
君がこの物語を読んで、どこで成長を邪魔できれば、ナイトウスーツが生み出されないか。
それは君の判断次第さ。

もちろん、ナイトウスーツが生み出されなくても、
時代の成長を促がす起爆剤は必ず現れると思うよ。

だけどね、少なくともナイトウスーツさえ生まれなければ、
ここまで一気に死へと向かって成長してしまうことも、内藤がこんなに苦しむこともなかったんだ。

利己的かもしれないけれど、婚約者としてそばにいる内藤にはいつでもぼけっとした笑いを浮かべ続けてほしい。
自分勝手でごめんね。

さて、この物語はちゃんと時間の波を乗り越えて、五十年前の君たちへ手紙としてたどりつくんだろうか。
もちろん、私は内藤の発明品を信じているよ。
だからこそ、君たちもこの物語を信じて動いてほしい。

内藤のような悲しい発明家を、ナイトウスーツによって全てを奪われる人たちを、君たちの未来に作り出さないようにね。

これで私たちの時代が君たちの時代に贈るメッセージはおしまい。
後は君たちがどう受け取るかさ。
つたない文章で全てが伝わるとは思わないけど、私たちの思いが少しでも五十年前に届けばいいな。

そんなことを願いつつ、この手紙を締めようと思うよ。

ここまで読んでくれてありがとうね。

さようなら。
                                      〈了〉



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