■( ^ω^)ナイトウスーツのようです
└前口上
一
二
三
四
五
六
七
八
九
十
後口上
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53 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:25:53 ID:oRlV1SEE0
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九 歩く死体
内藤はシベリアからその足で南下していったよ。
シベリア山脈の中を、越えるんじゃなくて沿っていったんだ。
およそ日本からナガオ・カーボートで渡った海と同じくらいの距離を歩いていったさ。
もちろん、最初に登山した時のような観光気分はまるで無い。
珍しげな動物を見ても、まったく興味を示さないんだ。
何かを思いつめたような顔をして、まるで別人のようだったよ。
( ^ω^)「……」
一心不乱に歩いていたね。
たまの休憩ときたら、安全な木の実や雑草を拾っては食べていたくらいさ。
シベリア山脈を渡りきると、アムール川というロシアと中国の国境線としての役割を持つ川に出る。とてつもなく汚い川さ。
シベリアで見た川とは違って、川底どころか、水面下数センチの眺めさえ見えやしない。
金属をそのまま溶かして流しているかのような汚染具合なんだ。
そこを、内藤はまたナイトウスーツの力で飛び越えた。
今更ながら、国境をこんな簡単に越えていいものかと思う人だっているだろう。
その人のために説明すると、今の時代には昔みたいにパスポートとか入国許可証なんてものはないんだ。
全世界の人間のデータが細かくまとめられた機関があって、一人一人の動きを人体に対応するGPSで測っている。
国境を越えた際に、その人のデータが国に送られて、今までの言動や生い立ちから危険度が判断されるんだ。
基本的に無害だと判断されれば、そのまま入国できる。
もし危険人物と判断されれば、入国した瞬間に国際指名手配犯さ。
だから、よっぽどのことがない限りは国の出入りは自由。
この技術ができてから犯罪者の高飛びは驚くほど失敗するようになったし、第一隠れることすらも難しくさせたんだ。
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54 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:28:37 ID:oRlV1SEE0
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もちろん内藤は人畜無害で、常にぼけっとしているような人間だから危険度はゼロ。
それどころか世界に大きな発展をもたらせた偉大なる発明家だ。
むしろ歓迎される入国なんだよね。
内藤だって胸を張って入国すべきなんだ。
なんだけど。
(;^ω^)「これは……」
繁華街に入って、内藤は言葉を失った。
一見、とてもにぎやかな街並みだったよ。
大通りには人がたくさんいて、道端には屋台がずらっと並んでいてさ。
だけどね、活気のある声が聞こえないんだ。
大通りの人をよく見れば、皆が皆、例外なく汚らしい姿と、生きているのか死んでいるのかよくわからない表情をしている。
屋台を見れば、働いているのはナイトウスーツを着たマネキンさ。
たまには楽しそうに繁華街を練り歩いている人もいるけれど、そんなのはたったの一握り。
他の大多数は死んだも同然だったよ。
('A`)「……!」
(#'A`)
そんな歩く死体のうちの一人が、内藤をくすんだ目で見つめ、次第に驚きと怒りをごちゃ混ぜにしたかのような表情を顔に貼り付けて、
内藤を指差し、中国内にもかかわらず日本語で声を張り上げて言ったんだ。
(#'A`)「おい! あの内藤がいるぞ!」
(;^ω^)「お?」
内藤が間抜けな声を出すと同時に、繁華街にいるたくさんの人の、たくさんの死んだ目が内藤を睨んだ。
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55 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:29:30 ID:oRlV1SEE0
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皆が示し合わせたかのように怒りに満ち溢れた表情をして、いっせいに内藤へ罵声を浴びせるんだ。
一度にたくさんの人が声を張り上げているものだから、ほとんどの言葉は聞き取れなかったけれど、
断片的に聞こえた言葉に内藤は衝撃を受けたよ。
「お前のせいで」
「ナイトウスーツのせいで」
「仕事が」
「居場所が」
「日本にはない」
「来たくもない中国に」
「ここにもナイトウスーツのせいで」
「仕事がない」
「かえせ」
「全て返せ!」
やがてとめどない罵声と共に、石や瓦礫が飛び交うようになり、棒を持った人が出てくるようになり、
一つの個体のようにその集団は内藤へと襲いかかろうとしたんだ。
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56 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:30:58 ID:oRlV1SEE0
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(; ω )「おぉっ!」
さすがに内藤も急いで逃げたよ。
ナイトウスーツの力にかかれば、職を失ってちゃんとした栄養も取れていない人たちなんかに捕まるはずもない。
あっという間に死んだような人たちから、ナイトウスーツの力を借りて強風のような速度で逃げたさ。
だけどさ、さすがに音を置き去りにすることはできないんだよね。
必死に逃げていく内藤の耳に、内藤を殺すことだけが目的となってしまった巨大な生物の悲しい鳴き声が無情にも届くんだ。
(#'A`)「お前のせいで俺の人生は台無しだ! 返せ!」
(;A;)「返せよ! 俺の人生を!」
多くの労働者の人生を内藤の発明品が奪い去り、
日本から追い出された生きる死体が中国の繁華街すらも殺してしまったんだ。
( ;ω;)「……ッ!」
内藤は、溢れ出る涙に気付くことすらなく走ったよ
。死んでしまった繁華街に背を向けて。
今、自分に何ができるかを必死に考えながらね。
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