( ^ω^)ナイトウスーツのようです
前口上 後口上



10 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 17:30:40 ID:oRlV1SEE0
二 素晴らしい医療機器

自然の摂理に逆らわず、うねうねと伸ばしきった髪。
常に重そうな瞼。垂れ下がった眉毛。
ぺちゃんこの鼻。半開きのままの口。

下町のあまり冴えないブティックで、作りだけはしっかりとしている服をずらっと並べ、
蜂蜜の中にいるようにぼけっとしている内藤という男も、長岡の活躍を聞いてそれはそれは焦ったね。

ん? なんで世界的な発明家と冴えないブティックの店員が関係あるのかって?
それには大して深くないわけがあるんだ。

内藤と長岡は同じ大学の同じ学部で、同じ教授から同じように技術を学んでいた。
成績だって似たようなもんさ。

そんな二人は、目標さえも同じだった。
自分の発明で世界を変えてやる、だって。
だけど、卒業してから二人は違ってきてしまったんだなぁ。

長岡は寝る時間すらもひらめきの邪魔だと言わんばかりに、一心不乱に発明に取り掛かったよ。
数え切れないほど、様々な発明をした。
それは絶対に熱を通さないフライパンや、加熱式冷蔵庫とかいうよくわからないものから、今回のナガオ・カーボートみたいな革新的なものまでさ。

対して内藤は、父親に無理やり小さなブティックの跡継ぎにさせられてしまった。
仕方ないよな。
内藤は勉強した後はちゃんと店を継ぐと約束した上で、無理にわがままを聞いてもらって大学に入ったんだから。

11 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 17:32:24 ID:oRlV1SEE0
( ^ω^)「すごい発明しちゃったおね。おめでとう」

( ゚∀゚)「まぁな。内藤は何か発明していないのか?」

( ^ω^)「相変わらず服を売ってるよ」

( ゚∀゚)「このまま服を売ってたらいつまでも世界を変えることはできないな。まぁ、がんばれよ」

うん、じゃあねと電話を切り、内藤は唸った。

(;^ω^)「いてててて」

それが長岡に対する劣等感からか、自分の現状に対するストレスからかはわからない。
それでも強い痛みが内藤の胃を襲いだしたんだ。

(;^ω^)「なんか最近体調がよくないお。ちょうど良い機会だし、健康診断でも行こうかお」

健康は大事さ。
なんていったって、内藤にはちゃんと婚約者だっているんだ。

ちょっと強気で、それでもぼやぼやしている内藤をしっかりと引っ張ってくれる、
一目見ればひまわりのような笑顔で、よく見れば飴細工のような繊細さも見え隠れする女の子。
そんな娘との結婚を控えて、万が一のことが起きたら大変だもんね。

12 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 17:34:04 ID:oRlV1SEE0
そして内藤は健康診断を受けに病院へ向かった。

今この物語を読んでいる君からすると、四十年後の話だ。
それはもう、病院だってある程度の進化は遂げているのさ。
極限まで患者への負担を減らし、なおかつお爺ちゃんの先生でも簡単に操作できる機器がたくさん開発されたんだ。

レントゲンだって、お医者さんが眼鏡をかければ自然に体が透けるように見えるし、それを映し出す機械だってある。
もちろん、ふしだらな使い方を避けるために透過度は抜群で、どんなに頑張っても服の下をピンポイントで見ることは出来ないから、患者だって安心さ。
だって、お医者さんの目には骨と内臓しか見えないんだもの。

さらに言えば、実際にリアルタイムで体の中を見ることができるのだから、あのまずいバリウムを飲んで、連続でX線を浴びる必要もなくなる。

体から出てくる僅かな蒸気から色々な症状を調べることができるようになったから、血液検査や尿検査もなくなった。
蒸気だって体から出るってことはもちろん、出身地である体の情報を持っているに決まっているのさ。
気体を作りだすとても小さな水分を取って、あっという間に調べ上げちゃうんだから凄いものだよね。

ただ、心電図検査とか脳波の測定とかだけは、調べる器官が器官なだけに入念な検査を続けているらしいんだけど。

だってさ、考えてみてよ。
心臓だよ? 適当に眼鏡かけて体見られただけとか、周りの空気を採取しただけで終わりってなって、安心できる?
もちろん、他の器官だって重要だけどさ、心臓やら脳やらの検査だけは特にあっさり終わってほしくないなって、私は思うんだよね。

どうやら私と同意見の人が世の中の大多数を占めていたらしくて、そんなわけで特に重要な器官の検査だけは、
昔からある手段を用いてしっかりとやっているんだ。
もちろん、昔と比べて遥かに検査に使う機械の性能は良くなっているけどね。

13 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 17:38:14 ID:oRlV1SEE0
話を戻そうか。

内藤はあっという間に健康診断を終えた。
結果は至って良好。何一つ問題のない健康体だった。

だけど内藤は病院の機器に興味を持ってしまったみたいなんだ。

(*^ω^)「素晴らしい医療機器を発明すれば世界を変えられるお!」

内藤は町中の図書館や本屋を巡って古書を探し回ったね。
電子書籍化されていない化石のような本にこそ、内藤の求める情報が載っていると、何故か彼は確信していたんだ。
発明家の勘って内藤は私に言ってきたけどね。

そして、その確信は見事に的中した。

(*^ω^)「これだお!」

内藤の手には、四十年前の医学について記された本が握られていた。
そんなものをどうするつもりなんだと内藤に尋ねるも、彼は寝惚けたようにニヒヒと笑うばかりなんだ。

(*^ω^)「四十年前の技術にも見習うところはあったのだお」

とか言っちゃってさ。
そして、内藤は五年かけてこの物語の重要なアイテムである『ナイトウスーツ』を開発したんだ。
あのひまわりのような笑顔を持つ美しい婚約者を五年も待たせてね。



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