( ^ω^)ナイトウスーツのようです
前口上 後口上



23 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 18:22:09 ID:oRlV1SEE0
四 レバガチャ

内藤は著名な発明家となり、たくさんのお金も手に入った。
内藤自身もそれで満足はしていたし、そろそろ父親の思いも知らんぷりできなくなってきたんだ。

一度は継いだブティックも、ナイトウスーツ発明のために父親に返上してからもう十年。
父親だって立派なお爺さんだし、ひまわりのような婚約者だって十年待たせれば完全な行き遅れさ。

さすがに世界を変えた発明家の内藤でも、周囲の状況を放置し続けることなんてしなかったね。

( ^ω^)「お金も入ったし、そろそろ店を継いで、嫁をもらって、身を固めようかお」

それを聞いた内藤の父親と婚約者は泣いて喜んだね。
むしろ二人で抱き合ったね。
それを見て内藤がちょっとだけ拗ねていたのがまた面白くて、二人は大きな声で笑いあったね。

くたびれたお爺さんとひまわりのような行き遅れの笑顔を見て、拗ねていた内藤もだんだん楽しくなってきた。
そしてその日は一晩中、笑い声がブティックから響いていたんだ。

(*^ω^)

内藤は幸せだった。
内藤の父親も、婚約者も幸せだった。
皆が皆、幸せだった。

幸せだから、笑いが止まらないんだ。はっはっは、はっはっは、ってね。

24 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 18:23:07 ID:oRlV1SEE0
そんなわけで、内藤はさんざん待たせてしまった婚約者に改めて結婚を申し込もうと考えた。

ナイトウスーツの開発によって得た多大な財力に物を言わせ、小さいけれど確かな仕事をするという、
町の片隅の宝石店に最高の結婚指輪を用意してもらうことにしたんだ。

世界に一つだけの最高の結婚指輪さ。

どのくらい最高かというと、値段はこれを読んでくれている君らの生涯収入のだいたい二倍。
太陽をそのまま凝縮したかのような美しいオレンジの輝きを放ち、
宇宙のように、眺めていると吸い込まれてしまいそうな怪しさも秘めていて、それはそれは大層な指輪を用意させたものさ。

もちろん結婚指輪なんだから、内藤の分だってある。

こちらは太陽とは対照的の月をイメージした神秘的な指輪。
透き通るような銀色のそれは、まるで本物の月のように見るたびに受ける印象が変わるのさ。

ある時は優しく、ある時は冷たく。
それでいて、太陽をモチーフとした指輪と並べるとよく似合っていたんだ。
そして、隣り合わせの指輪はまるで、自ら光を放っているかのようにとても輝いて見えたものだよ。

25 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 18:28:11 ID:oRlV1SEE0
さて、月日は流れてついに二人の結婚式の日がやってきた。
夫婦共にたくさんの友人を招待し、最高のホテルを貸し切って、最高の料理を用意して、最高の結婚式を開いたんだ。

そして、その最高な結婚式の中でも、さらにずば抜けて最高な指輪を贈る時間がやってきた。

( ^ω^)「今までさんざん待たせてごめんお」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫、今、凄い幸せだから」

婚約者はとても幸せそうに微笑んでいたね。
二人が軽く言葉を交わすと、式場にけたたましいほどの音量で音楽が流れ始めた。
いきなりの爆音に新郎新婦は目をぱちくり。そこに響く司会者の声。

( ><)「本日は世界的発明家の内藤氏と、その奥方の結婚披露宴にお越しくださり、誠にありがとうございますなんです! お二人とも、ご結婚おめでとうございますなんです!
      ここで、当ホテルより世界的発明家の内藤様に敬意を表して特別な趣が用意されてあるんです! どうぞご覧ください!」

驚く内藤を傍目に、結婚式の司会者はにやにやとほくそ笑み、ナイトウスーツのコントローラーを取り出した。
かちかち、と司会者が操作を始めると、式場の奥の扉から内藤の発明したマネキンが現れたんだ。
月をモチーフとした指輪を嵌めた、ナイトウスーツの上にタキシードを纏ったマネキンがね。

しかも、驚いたことにマネキンには化粧が施してあって、内藤自身の顔と瓜二つだったよ。
それはゆっくりと内藤のもとへと歩み寄り、目の前で片膝をついて、指輪を嵌めた手を差し出した。

純白の指に、冷ややかな光を秘めた指輪がとてもよく似合ったものさ。
発明以外に無頓着な内藤もこれには度肝を抜かれたね。

26 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 18:30:18 ID:oRlV1SEE0
(*^ω^)「うわあ、これは凄いお!」

(*><)「喜んでいただき、なによりなんです!」

内藤は満面の笑み。
司会者もにやにや。

内藤は最高のシチュエーションを用意してもらえて嬉しいし、司会者もホテルなりの最高の演出が気に入ってもらえて嬉しかったんだね。
二人ともその場で小躍りさ。
たったら、たったら。ステップなんか踏んだりして。

( ><)「どうぞ、お受け取りください」

(*^ω^)「おぉ、ありがとうございますお」

内藤は喜んで、そのマネキンから自分の指輪を受け取った。
冷たくて、それでも暖かい。
不思議な優しさを感じる指輪が、内藤の手に握られたんだ。

そして司会者がまた別のコントローラーを操作し、今度はナイトウスーツの上に純白のドレスを纏ったマネキンが現れた。
こちらも内藤のマネキンと同じように、いや、それ以上に気合いの入ったマネキンだったよ。
なんせ内藤の目には婚約者よりも、婚約者をかたどったマネキンの方が綺麗に映ったんだから。

その無機質な指にはやっぱりこちらも内藤の頼んだ指輪が輝いていたんだ。
真っ白な血の通ってない指に、太陽を閉じ込めたような情熱的な輝きという組み合わせが、
まるで上品な陶磁の上に飾られた最高の料理のようにも見えて、内藤も内藤の婚約者も、二人揃って思わずうっとり。

27 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 18:33:49 ID:oRlV1SEE0
( ><)「それでは奥様の指輪も是非お受け取りください」

ζ(^ー^*ζ「ありがとう」

司会者がコントローラーを操作する。
男性側のマネキンを下げて、女性側のマネキンを新婦へと向かわせたんだ。

でもね、いくらナイトウスーツの操作が簡単だからって、二つ同時に操作するのは難しいに決まっているじゃないか。
しかも司会者はこの演出をするためだけに最近ナイトウスーツを手に入れて操作の練習を始めたばかりの、いわば若葉マークなんだ。

さらに言ってしまえば、二体は反対の動きをしている。
片方は司会者のもとへと戻り、もう片方は新婦のもとへと歩いていて、
その上テーブルだのたくさんの友人だのがごった返していてそこまで広くない通路なんだ。

(;><)「あっ」

(;^ω^)ζ(゚ー゚;ζ「「えっ」」

少しの操作ミスでマネキン同士がぶつかる環境で、さすがに初心者が二体同時に操作するのは難しかったんじゃないかな。

ウェディングドレスを纏ったマネキンが、自らの裾を踏んづけて転び、
まるでドミノ倒しのように戻ってきたタキシードのマネキンを巻き込んで、たくさんの料理が並ぶテーブルへと倒れこんだ。

肉やら魚やら野菜やらが宙に舞い上がって、ワインの滴がきらきらと輝く様はとても美しかったし、
正装をしたマネキン同士が絡み合って倒れていたのも、内藤からして見れば滑稽で面白かったんだけれども、
司会者はそうでもなかったみたい。

それはまぁ、仕方ないよね。

お客の前での大失態。しかも開発者の目の前でナイトウスーツを使った失敗をしてしまった。
さらには高価な料理が飛び散り大慌て。

驚きとか焦りとか後悔とか絶望とか、そこらへんの感情を大雑把な分量でごちゃ混ぜにしたような、
とんでもない顔色と、とんでもない表情をしていたよ。

(;><)「あばばばばばばばばばばば」

28 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 18:35:32 ID:oRlV1SEE0
いきなりで悪いんだけれども、ちょっと話を変えよう。
ちょっとした休憩さ。
いや、大丈夫。ちゃんと本編に関係のある話なんだから。

さて、君らの時代はまだコントローラーでゲームをやっていた頃だと思う。
あの様々なボタンやらスティックやらがついたあれね。

え? 今のゲームはどうなっているんだって?

それは決まっているだろ。
自分自身がゲームの登場人物になるんだ。

格闘ゲームなんかはプレイヤーの体格、筋肉の質や密度、さらには性格まで正確に測って瓜二つの分身を作り上げて戦わせるし、
RPGやアクションゲームなんかはプレイヤー自身を特製の機械で覆い、ホログラムの世界で冒険を疑似体験するような時代さ。
だから、今の子供たちの運動能力や、動体視力なんかは君らの世代より何倍も優れているんだよね。

おっと、話がずれたね。君らの時代の、コントローラーの話。

ゲームをはじめて間もない子供を想像してみてよ。
ジャンルは格闘ゲーム。
相手の隙を突き、様々なコマンドを駆使して必殺技を当てたいんだけれども、初心者だからコマンドはもちろん、基本的な動き方も完全には把握していない。

そんな時、初心者はどうする?
そう、レバガチャだ。

ありったけの速さで十字キーだのボタンだのを、一心不乱にがちゃがちゃと押すことで、
運に身を任せながらも、時にはベテランプレイヤーも驚きのスーパープレイが飛び出すことだってある。
だから、初心者にとってレバガチャは、まさに溺れる者はなんとやら、ってやつなんだ。

29 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 18:37:48 ID:oRlV1SEE0
(;><)「あばばばばばばばばばばば」

だけど、これが許されるのはゲームの話。
式場で司会者がナイトウスーツのコントローラーをレバガチャしたらどうなると思う?

まさに新郎新婦って風貌のマネキン二体が、腕を?拙み、足を振り回し、
ワイングラスを手裏剣のように放ち合い、時にはサンバだのタンゴだのルンバだのを踊っちゃったりなんかして。

そして二体が光の散らばる星空のようなステージで一通り踊り終えた後に、ボン、と二つ音を立てて仲良く崩れ落ちたのさ。
さすがのマネキンも、やっぱりナイトウスーツの無茶な動きにはついてこれなかったね。

さて、問題はここからさ。

マネキンはゴミ問題の解決のために、壊れたら高く飛び上がってそのまま北へと一直線に飛んでいってしまうんだ。
もちろん、どのマネキンにも例外はない。
壊れたら、北。引き止める暇もなく、寄り道することもなく、北。

例えそれがどんな高級な指輪を身につけて、どんな綺麗に着飾った特別なマネキンだったとしてもね。

(;^ω^)「あぁ……」

内藤の情けない声など置いて、二体のバラバラになったマネキンは礼儀良く式場の扉から出て、
宙へと舞い上がり、そして眼にも止まらぬ速さで北へと飛んでいったのさ。
そう、最高の指輪と一緒にね。

30 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 18:39:06 ID:oRlV1SEE0
(;><)「あばばばばばばばばばばば」

さて、内藤はもちろんのこと、式場の司会者もそれはもう焦ったね。
だって、眼も飛び出すような巨額のお金を出して内藤が用意した最高の指輪が、自分のミスで文字通り吹っ飛んでしまったんだから。
もちろん弁償するお金も用意できるはずはないし、あの指輪は世界で一つだけの特別な指輪さ。

代わりの品すらもない。
もう、どうすることもできない。

それでもなんとかしなければならない。
司会者は考えたよ。どうしたものか。
さて、君たちはこの哀れな司会者がどうしたと思う?

混乱した司会者は、誰もが予想のつかないとんでもない言葉を、呆然としている内藤夫婦や、新郎新婦の友人たちに放ったのさ。

(;><)「さ、さぁ次の催しは、世界的発明家の内藤氏による、指輪を巡る冒険なんです!」

(;゚ω゚)「え……?」

内藤も声を失ったね。
だって、最高のシチュエーションで指輪を受け取ったかと思えば、一転、いきなり自分の開発したマネキンと一緒に空の旅さ。
さらには司会者に全てを丸投げされて、さぁ、内藤はどうしたと思う?

(;゚ω゚)「あ、はい」

怒るでも嘆くでもなく、驚きで低下した思考力のもと、ありのままを受け入れちゃったんだ。
婚約者なんかあまりのショックで気を失っちゃったりして。

あーあ、これで内藤の新婚生活は先送りだね。



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