( ^ω^)ナイトウスーツのようです
前口上 後口上



38 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 18:55:57 ID:oRlV1SEE0
六 手紙を届ける夢

フロントガラスに襲い掛かる水飛沫を、鼻歌交じりにワイパーを動かして跳ね除ける。
すでに港を出てから数時間が経っていた。

太陽はだいぶ前に、遥か彼方に見える水平線のそのまた向こうへと行ってしまったし、
海面だって、そこらに走る車のたくさんの前照灯が、波の動きに合わせて乱反射して、まるで星が満点の夜空のようだったよ。

上にも下にも星空。
宇宙にいるようにも錯覚しかねないその光景を見て、内藤はただただ、旅の目的も忘れてため息をつくばかりさ。

(*^ω^)「綺麗だおぉ……」

ライトの光に寄せ集められた魚たちが、何台も海に浮かぶナガオ・カーボートの周りを、
それぞれ数匹ずつぐるぐると遊泳していて、まるで遊園地の乗り物みたいだったね。

この時になって、やっと内藤はこう思ったんだ。
こんな夢みたいな美しい時間を作り出す乗り物を発明するなんて、やっぱり長岡はすごい発明家だった、ってね。

初日はここで車内泊さ。
海の上はものすごく広い。
これはわざわざ書かなくたってわかるよね。

だから、路上駐車も地上よりは認められていて、その場で車を停めていても、さほど咎められない。
この場合は海上駐車って言うのかな。

まぁ、それはともかく。
内藤もしっかりとエンジンを切って、サイドブレーキをかけて、そして寝る準備をしたのさ。

サイドブレーキは大事だよ。
陸地でサイドブレーキをかけ忘れたら、せいぜい坂を下っていってしまう程度。

でもここは大海原さ。
ナガオ・カーボートは車のサイドブレーキと連動して、自動で現在地に留まり続けるように操作されるんだけど、それがなければあっという間に漂流確定だもの。
まぁ今のカーナビには基本的に海上ナビなんて機能もついているんだけど、それでも怖いもんは怖いもんね。

39 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 18:57:52 ID:oRlV1SEE0
( ‐ω‐)zzz

そして、内藤は夢を見たらしい。

内容は時間の波を揺られながら手紙を届ける夢。
たぶん海の波に揺られたからこんな夢を見たんだろうけれど、これだけ聞くとまったく意味がわからないよね。
私だってよくわからなかった。

だけど、内藤にとってはなんだかとてつもない悪夢だったらしくて、それはもうひどくうなされていたんだ。


( ぅω‐)「……ふにゃ?」

ウミネコの鳴き声と、波によって拡散されてぼやけた朝日。
ずっと続く波の音と潮の匂いに、内藤は眠りの世界から現実へと引き戻された。
さぁ、冒険二日目の始まりさ。

一日目でだいたい、五十年前で言う樺太の近くまでは来られた。
ん? 五十年前で言うってことは、今は違うのかって?
そうさ。日本は樺太を取り戻せなかったんだ。今では立派にサハリンって名前でロシア領をやっているよ。

さて、サハリン付近まできたらあとはもう一息さ。
内藤は、単三電池で動くエンジンを始動させた。
オホーツク海の海面に潮の轍を残しながら、内藤は今日も指輪へと向かうんだ。

40 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 18:59:50 ID:oRlV1SEE0
そうそう、この海の上で、内藤がどのように食料を得ているか気になる人もいると思うんだけど、そこは心配いらないよ。
ここでナイトウスーツが活躍するのさ。

内藤はナイトウスーツに、出発前に生きるのに役立つある程度の動きをインプットしておいた。
例えば、海水から飲料水を作り出す方法とか、魚類のさばき方とか、ね。

だから、今朝だって運転しながらナガオ・カーボートに設置された釣竿から糸を垂らして、魚がかかるのを待ってるのさ。
魚がかかれば、ボタン一つで釣り上げてくれる。

たくさん魚を釣ってしまえば漁師さんの生活に関わるけど、少しなら別に問題はないよね、
なんて考えながら、内藤は運転を続けるのさ。

( ^ω^)「おっ」

さて、そんなことを頭に浮かべている間にも、微かに釣竿が反応しはじめた。
釣竿と対応するボタンを内藤が押すと、釣竿は魚の動きに合わせて適度にリールを巻き取りはじめる。

ちなみに、釣り好きの人はナガオ・カーボートから釣竿を取り外して、自力で釣ったりして楽しんでいるらしいよ。

やっぱりコンピューターで計算されつくされた動きに魚は完敗だったね。

いとも簡単に釣り上げられた魚は、全体が鈍い銀色の光を放っていて、背中が盛り上がった不思議な体と、
上向きにとがった不思議な口を持つ、内藤にとって見たことも無いような魚だったけれど、車を停めて、
生きる知識の詰め込まれたナイトウスーツを半信半疑で着てみれば、腕が自動で動き出して、ものすごい速度で鱗をはがし始めたから内藤は一安心。

なんていったってナイトウスーツが「この魚は食べられる」って判断して、
その魚に適した調理も既に始めちゃっているわけだからね。

41 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:03:59 ID:oRlV1SEE0
ただ、ナイトウスーツに覆われてない手のひらだけは、鱗をはがしたり、
魚をさばいたりする作業に追いつけなくてボロボロになっちゃっているけど。

(;^ω^)「これはナイトウスーツにもまだまだ改良の余地があるお」

そんなことを痛めた手のひらに息を吹きかけつつも、苦笑いで内藤は言ったものさ。
そうは言いながらも、持ってきた調味料もナイトウスーツはすぐさま荷物の中から見つけだして、それは見事な料理を作り出したよ。

今日の朝食は魚の焼き漬け。
醤油、酒、みりんを適量ずつ混ぜて沸騰させたものに、三枚に下ろした魚を漬け込んだだけの簡単な料理。
これをナイトウスーツは眼にも止まらない速度で作り上げたんだ。

ちなみに魚は後で調べたところ、五十年前にカラフトマスって呼ばれてた魚らしいね。
今ではサハリンマスだけれども。

(;゚ω゚)「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」

出来立ての朝食をほふほふ、と貪りながら、内藤は再度車を進めだす。

さて、しばらく波に揺られながら走っていると、遠くには薄っすらと大地が、そして山の連なりが見えてきた。
あれこそが、目的地であるロシア領のシベリアと、それを縁取る東シベリア山脈さ。

( ^ω^)「意外と早く着きそうだお」

にやりと笑って、内藤は呟いた。
でも、まだ内藤は気付いていないんだよね。

車が目的地に近づくにつれて、海鳥の声がまったく聞こえなくなって、魚の姿が明らかに見られなくなってきたことに。



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