( ^ω^)ナイトウスーツのようです
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14 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 17:40:02 ID:oRlV1SEE0
三 ナイトウスーツ

ナイトウスーツ。
それはとても画期的な発明だった。

見た目はどこにでもある黒のスーツ。
しかも名前は内藤自身の名前をつかったナイトウスーツ。
これを初めて見た時は私自身も呆れを通り越して大笑いしたなぁ。

こんなもののために五年間も注いだのかって。
でも、内藤の説明を聞いて、このスーツの機能を知って、私は目の前の何の変哲もないこのスーツこそが、世界を変えるスーツだと確信したんだ。

今より五十年も前。
すでにそこそこの発展を見せていた医療機器の中の一つに、軟性鏡というものがあったのを知っているかな。
そうそう、胃カメラとかに使われる、あのくねくねと曲がるファイバースコープね。

五十年前には既にある程度の開発が進んでいて、使用者が操作することによって自由自在に軟性鏡自体を動かすことができていたんだ。
まぁ、レントゲンの技術が発展したおかげで、胃カメラを飲むなんていう原始的な行為はなくなり、
軟性鏡自体も姿を消していったんだけれども、内藤はその軟性鏡に目をつけたのさ。

五十年前の技術だ。
もちろん今では需要がなくなったとはいえ、そこそこの発展はしてる。
今の技術なら、軟性鏡の機能はそのままで、限りなく細く、繊維状に作り上げることだって可能なのさ。

15 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 17:41:21 ID:oRlV1SEE0
そんなわけで内藤は、ブティックで鍛えた持ち前の裁縫の腕と、大学で学んだ技術力と、
世界を変えるという情熱と、美しい婚約者の結婚を何年も延期にしているという罪悪感を全て駆使して、
繊維状の軟性鏡によって編み上げられた『ナイトウスーツ』を開発したんだ。

さっき、軟性鏡は五十年前の時点である程度操作することができると書いたね。
もちろん、ナイトウスーツもその機能は残っているし、それこそがナイトウスーツの一番の特徴でもあるんだ。

というか、軟性鏡自体の機能自体はほとんど使わず、その操作できる点だけを使ったわけで、当初の予定であった医療機器とはまったく関係のない発明品なんだよね。

簡単に言えば、ナイトウスーツは操作できるスーツなのさ。
おっと、拍子抜けしたかな?
でも、この後の説明を聞けばナイトウスーツの凄さがわかると思う。

まず、このスーツを着た人は、とんでもない力を手に入れる。
もちろん動きをインプットしたり、昔の(とは言っても、君らの世代の)ゲームのそれみたいなデザインのコントローラーで操作してもらわなければただのスーツなんだけれど、
五十年前の世界に生きる読者にわかりやすく言おうとするならば、介護用ロボットの超凄い版。

16 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 17:43:38 ID:oRlV1SEE0
これでもわからない人のためにさらに説明すると、介護士に非力な女性が多かった頃、
人の力をサポートするための目的で作られたのが介護用ロボットってやつ。

人の動きに合わせて機械が働くことで、その力を何倍にもしてあげたロボットさ。
でもそれはどうしても使用者を包み込むために大きくなってしまうし、持ち運びには向かなかったから、
どんどんと日常の使用ではなく介護方面に特化してしまった。

ナイトウスーツはそれを日常使用に特化したものだと思ってくれれば良い。
スーツ型だから持ち運びも何も着るだけで良いし、色々な仕事に応用が可能だった。

さらには五十年前とは比べ物にならないほど技術が進歩したために、
機械がサポートする力も何倍にも大きくなったし、
とても頑丈なために、着ているだけで防災の役割を果たすことだってできた。

いくつか例を挙げよう。

建築ではナイトウスーツにある程度の動作をインプットさせ、細かい動きは現場監督が簡単な操作で動かすことによって、
作業がものすごい速度で進んであっという間に家が建ったし、
救命では崩れ落ちる瓦礫や、荒立つ波もまったく気にすることなく人を助けることができるようになった。

ナイトウスーツの発明により、内藤は見事に世界を変えるほどの発明家となった。
言ってしまえば人間を力持ちのロボットに変えてしまう発明をしたようなもんだからね。

17 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 17:45:18 ID:oRlV1SEE0
え? これがロボットだなんて、想像していたのと違うって?
たぶん君たちが想像しているようなロボットは今から数えてさらに五十、いや、百年ぐらいしないと出てこないんじゃないかな。

そりゃあ、私だってどこにでも行けるドアとか、時間を移動できる機械とか、人を乗せた巨大なロボが戦うとか。
憧れていないわけではないけれど、まずは車が空を飛ぶことから始めないとさ。
ナガオ・カーボートのおかげで、もう陸と海は走ることができるんだし。

ただ、そんなナイトウスーツにだって欠点はあったんだ。
それは、強力すぎたこと。どんな便利な物だって使うのはいつも人間だからね。
モラル的な面でも、安全面でも問題は出てしまったのさ。

例えば、一番に浮き彫りになった問題はナイトウスーツを利用した犯罪の多発。
それはそうさ。なんていったってどんな一般人でも簡単にものすごい力を手に入れられる時代なんだからね。

もちろんそんな時は警察官もナイトウスーツを着用して対応するんだけど、これが凄いんだ。
スーパーマン対スーパーマン。
片方がアスファルトを剥がして投げつければ、もう片方が手近な街路樹をぶっこ抜いて打ち返す。
犯罪者が捕まる頃には、辺り一帯が大災害にあったかのような荒れ模様さ。

次に安全面の問題。
もちろん人の手で動かすのだからどんな物にも絶対はない。
だからこそ、なんだって最大限の努力をして失敗に対する保険をかけたり、予防をしたりするんだけれど、ナイトウスーツは失敗のリスクが大きすぎたんだ。

ナイトウスーツは、操作ミス一つで命取りになる性質を持っていた。
もちろん、インプットできる程度の簡単な動きならば、よっぽどのことがない限り誰が使っても安全な物なんだけれど、
操作しないとできないような細かい動きの場合は、ある程度の覚悟は必要になってくるのさ。

だって、強力な力を持つ機械に包まれている状態なんだよ?
例えば、ちょっとした操作ミスで首を半回転させてしまうようなことだって、ナイトウスーツにかかれば簡単なことなんだ。
実際に、そのような死亡事故もいくらかは起きたし。

18 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 17:47:25 ID:oRlV1SEE0
(;^ω^)「おー……」

さすがにこういったことからナイトウスーツの着用に疑問が持たれはじめた。
もちろん、内藤だって自分の発明品、いわば自分の子供が犯罪の手伝いをしたり、人を殺してしまったりして、落ち込まないはずがない。
それはもう、内藤は頑張ったさ。

( ゚ω゚)「おぉー!」

そしてさらに二年の月日を経て、内藤はナイトウスーツ専用のマネキンを作り上げた。
操作ミスに対応し、人間よりも何倍も柔らかな関節を持ち、
間違えて人にぶつかっても大丈夫なように全体をどんな環境にも耐え、衝撃を吸収する素材で覆ったマネキンさ。

このマネキンの発明に合わせて、全世界でマネキン以外によるナイトウスーツの着用が法的に禁止された。
力仕事とかはなんだって、ナイトウスーツを着用したマネキンがやってくれるからね。

もちろん、すぐに全世界でのナイトウスーツを利用した犯罪がなくなるわけではなかった。
だけど大丈夫。内藤は警察にだけは特別なマネキンを寄付したんだ。
全身を覆う柔らかな素材を全て取り去り、とても硬い素材で代わりにコーティングされたマネキンをね。

さすがにナイトウスーツを着用した犯人も、マネキンには勝てなかった。
いくらナイトウスーツの力があったって、自分の命を捨てたくない人間と、壊れてもかまわないマネキンじゃ、マネキンのほうが何十倍も激しい動き方ができたんだから。

こうして、ナイトウスーツによる問題はなくなったかのように見えた。

19 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 17:49:18 ID:oRlV1SEE0
だけど、そう簡単にうまくいくものではないんだよね。

次に出てきた問題はゴミの問題。
やっぱり、いくらナイトウスーツに対応したマネキンだって無茶な動かし方をしたら壊れてしまう。
ましてや、まだまだ発展途上の技術さ。

意外と脆い面もあったりして、力の加え方によってはすぐに崩れてしまって、瞬く間に町はマネキンの破片で埋もれてしまったんだ。
これが普通のマネキンだったら集めて燃やしてはい終わり、で済んだんだろうけど、これは内藤の開発したマネキンだ。
どんな環境下でも働けるように特別な素材でコーティングされているために、燃やしてもなかなか燃えないし、潰してもなかなか細かくならない。

これの対策に、内藤はまた三年をかけた。

どんなに考えても対策が見つからなかった内藤は、苦肉の策でゴミを飛ばすことにしたのさ。
ヒントはコンパスだった。どこに置いても北を指すあの磁石。
それを内藤は参考にしたのさ。

(*^ω^)「そうだお! どうせなら誰もいないところに飛ばしちゃえば良いんだお!」ってね。

内藤はマネキンの中に特殊な磁石を練りこんだ。
北極の磁力に引かれて、誰もいない北極にマネキンの破片を飛ばしてしまえばいいんだと考えたんだ。
ついでにマネキンのゴミが集まって小さな島になれば、人の住む領域も増えて一石二鳥だなんてね。

表面の素材には、磁力をカットするように改良を加えた。
こうして、北極まで飛ばしてしまうような強力な磁力も壊れるまではまったく機能しないし、
壊れてからも、全体を柔らかな素材で覆っているので、万が一、人にぶつかっても問題のないように作りあげたんだ。

さらに地球の磁力に反発して、空高く舞い上がるようにしたために、地上の交通を乱すこともない。
そんな都合の良い流れがあるかって?
あるんだよ。君らの想像も及ばないような都合の良い磁石が五十年後にはね。

20 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 17:51:42 ID:oRlV1SEE0
そんなこんなで、非常に都合良く作られたマネキンが完成し、
ナイトウスーツがやっと全世界で認められて広く流通するようになったのさ。

(*^ω^)「おっおっお」

発明家の内藤も鼻高々。

そんな彼の元に一本の電話が着たんだ。

( ゚∀゚)「おい、ついにやったな。お前が俺に追いつくのに十年も待ったぞ」

( ^ω^)「なんだ長岡かお。うん、ありがとう。嬉しいお」

( ゚∀゚)「お前の特製マネキンのおかげで航空関係のやつらがカンカンだぜ。そこまで俺に追いつきやがって」

(;^ω^)「……え?」

ナイトウスーツの登場により、飛行機の運行はマネキンが飛び交うために危険度が増し、どんどんと便数が減っていったんだ。
世界が飛行機よりもナイトウスーツの方が必要だと認めたんだろうね。

こうしてこのナイトウスーツの発明により、発明者の内藤はたくさんの賞を受け、
たくさんの富を得て、たくさんの人の憧れとなり、たくさんの著書を出した。

そして、内藤はたくさんの航空関係者に恨まれたんだ。



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