( ^ω^)ナイトウスーツのようです
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49 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:18:51 ID:oRlV1SEE0
八 太陽と月

マネキンで作られた巨大な山は、驚くほど大きかったよ。
エスキモーの家から徒歩数分ってレベル。

しかも、空には世界中から集められたマネキンがいろんな方角から飛び回っているんだ。
もう、それだけで死の大地を名乗れるほどの光景さ。

でもね、それだけじゃない。
さらに山の麓から見上げてみれば、なるほどたくさんの鳥や魚の死骸がいたるところに見えるんだ。
いや、山の中だけじゃない。山の周りにも無造作に置かれているように、死骸が落ちている。

エスキモーの言っていた鳥が落ちる、魚が降り注ぐ、って言葉は冗談ではなくて、まさに真実らしい。
腐った肉の匂いが、内藤の鼻を責め立てたよ。

(; ω )

後で調べてわかったんだけど、この鳥や魚は実際のところマネキンとはなんら関係はないんだ。
ポールシフトっていう、地球の磁極が移動する現象の際によく見られる光景なんだって。

渡り鳥とか魚とか、体内の磁石に従って遠距離を移動する動物がポールシフトによって狂わされた結果らしい。
なんで魚が陸地に降り注ぐのかは未だによくわかってないけどね。

だけど、動物の死骸はマネキンの塊を死の山にする演出としては完璧だったよ。
世界中のゴミと化したマネキンと、動物の腐った肉が合わさって、一つの意思を持つ穢れた生命体として内藤には見えたんだから。

(; ω )「そうだ、指輪を……」

問題は山積みだけど、まずは今解決するための問題に取り組まなければならない。
当然のことだけど、内藤は本来の目的を忘れてはいなかったさ。

でもね、目の前には大きな山。
そして探すのは道端に転がる石ほどの大きさの指輪。

さぁ、どうしたものか。

50 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:20:15 ID:oRlV1SEE0
まず内藤は計算した。
だいたい一時間にどの程度のマネキンの破片が飛んできて、山が分厚くなるのか。

その値が出たら、今度は結婚式の日付から逆算さ。
だいたい、地表何メートル付近に指輪は埋まっているのか。
そして最後に、方角的に日本から飛んできたらどの辺りに着地するのか。

これらの計算によって、大雑把だけれども、だいたいの予測はついた。
でも、ここからが大変。
だって、ここまでは頭脳だけで探しているけど、ここからは体の作業も始まるんだからね。

とりあえずマネキンの破片やら、鳥や魚の死肉やらをナイトウスーツの力を借りてひたすらに山から引っぺがしていくんだけど、
やっぱり予測で出た範囲は広かったね。

日本だってそれなりの広さを持つし、ナイトウスーツ発祥の地だけあって、マネキンの使用率も他国と比べるとやっぱり高かった。

計算で出た日本から飛んできたであろうマネキンの範囲は、当然のことながら広大なのさ。
しかも、結婚式からそれなりに時間も経っている。
さらにはシベリアの冷たい風がどんどんと内藤の体力も奪っていく。

さて、どうしたものか。
内藤が悩んでいる間にも、マネキンの山は大きくなるばかりさ。
思わず内藤は頭を抱え込んだね。

そして、その時に気付くんだ。

( ^ω^)「お?」

左手の薬指にはめられた指輪が、微かに光っていることに。
月をモチーフにした指輪の放つ光は弱々しくて、それでも優しさに満ち溢れた光だったよ。

51 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:22:08 ID:oRlV1SEE0
( ^ω^)「なんだお、これ?」

空に手を掲げて、色々な角度から指輪を見渡した。
上に下に、右に左に、時には捻ったりして。
すると、内藤はまた一つ発見をした。

( ^ω^)「場所によって光が強くなったり弱くなったりするお……」

(;^ω^)「まさか!」

内藤は仮説を立てた。発明家らしいとんでもない仮説をね。

月は太陽の光によって照らされている。
だから、その太陽と月をモチーフにした指輪だって同じことが言えるんじゃないのかって。

実際に、隣り合わせで指輪を並べた時はとても輝いて見えたし、
一つだけになった時から、極端に輝きが失われたようにも見えたんだから。

とんでもない仮説に基づいて、内藤は指輪の探索を再開したよ。
指輪の輝きを目安に、マネキンや死肉をかきわけてね。

そして、指輪が結婚式で見た時のような輝きを取り戻したと同時に、やっと片割れの指輪を見つけたんだ。

( ^ω^)「あ、あった! あったお! 指輪があった!」

ここにきてファンタジーすぎるだろと、これを読んでいる人はそう感じたかな?
でも、本当にこの通り見つけたんだから仕方ないじゃないか。

太陽と月。陽と陰。
気が遠くなるほどの時間の流れを見守ってきた存在をかたどった指輪さ。
これくらいの奇跡は起きてしかるべきなんじゃないの?

なんせさ、古代の伝説にも残っているくらいなんだから。

52 名前: ◆qvQN8eIyTE[sage] 投稿日:2013/05/30(木) 19:24:01 ID:oRlV1SEE0
太陽をモチーフにした指輪を二度と手放さないように、しっかりと握り締めて内藤はマネキンの山を駆け下りていった。
これで冒険の目的は達成されたね。
さぁ、後は故郷の日本に帰るだけ。

( ^ω^)「……」

だけど、麓から死の山を見上げて、川沿いまで追いやられたバラック小屋を見て、
手元の指輪を見て、最後に自分の着ているナイトウスーツを見て、内藤は呟くんだ。

( ^ω^)「ごめん、まだ僕は帰れないお。自分の子供がどのように世界を変えてしまったかを確認するまではね」



( ^ω^)「うん、ちゃんと埋め合わせはするお」

婚約者に向けた言葉を残して、内藤はまた歩き出したよ。
自分の発明したナイトウスーツのせいで変わってしまった世界の姿を、もう少しだけ自分の目で見るためにね。



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