雨上がり七日の空模様です

218 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 22:46:27 ID:iv5ia5d60


(  Д )

ζ(゚ー゚*ζ「いやー安織くんってほんと馬鹿ですよね」

(; Д )「……追い討ちかけるの、やめてもらっていいっすかねー」

ζ(゚〜゚*ζ「なんのことですかー」

(; Д )「そもそもデレさんがぶっちゃけるとか何とか言うから、
      俺だって思い切ってみようと」


ζ(^ー^*ζ「──思い切り馬鹿で間違いないと思います!」


(; Д )「ウワアァアア」

ζ(゚、゚*ζ「ほら、もう、さっさと行きますよ?
     約束の時間が来ちゃいますっ」

(; Д )「ウワアァアア」



 思い切ったことを言うと、翌日になって後悔する──往々にしてある話だ。


 安織もその例に漏れず、須藤に顔を合わせるのが
 今になって急激に恥ずかしくなったのである。


 呻きつつもきちんと支度を始める安織の後ろで、長網はそっと微笑む。


ζ(゚ー゚*ζ「……ま、何にも心配することはないと思いますけどね」

219 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 22:46:58 ID:iv5ia5d60


 雨上がり七日の空模様です


 7:[日曜日]
 
.

220 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 22:49:40 ID:iv5ia5d60


( ゚д゚ )「──おはようございます」


( ^Д^)「ええと、桐生さん」


 でしたっけ、と言いつつ名札見る──桐生ミルナ。
 一昨日店番をしていた少年だ。


( ゚д゚ )「はい。話は聞いてます。
    とりあえず制服に着替えてもらって……ああ、更衣室は厨房手前を右です」

( ^Д^)「うす」

( ゚д゚ )「それから、これを」

 渡されたのは名札である。

 桐生と同じ首から下げるタイプで、
 透明なパスケースのような部分に名前の入った厚紙が入っている。


 安織プギャー。丁寧な字だ。


( ゚д゚ )「漢字、合ってます?」

( ^Д^)「大丈夫す」

( ゚д゚ )「じゃあ俺、先に現地行ってるので。
    支度終わったら来てください」

( ^Д^)「うす」


 頷いて、安織が店に入ろうとすると桐生はそういえば、と口を開いた。

221 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 22:51:38 ID:iv5ia5d60

( ゚д゚ )「それ、何度も書き直してたんですよ。店長」

(;^Д^)「えっ」


 面白いですよね。

 そう言い残し、今度こそ桐生は背を向ける。
 呆然としていると長網がとん、と肩を叩いた。

ζ(゚ー゚*ζ「いいじゃないですか、意識されてますよ〜」

(;^Д^)「……どうすかね」

ζ(^ー^*ζ「折角勇気出してパン屋まで来たのに、
     本人がいないんじゃ気抜けですもんね、収穫あって良かったですねー」
  _、
( ^Д^)「デレさん……」

ζ(゚ー゚*ζ「さ、早く。着替えて、着替えて」
  _、
( ^Д^) 「…………うす」

 長網の物言いを不服に感じつつも、
 桐生らをあまり待たせてはいけないと急いで着替える。
 何故か更衣室にまで入って来た長網はとりあえず追い払った。

222 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 22:52:35 ID:iv5ia5d60






( ^Д^)「うお」

ζ(゚ワ゚*ζ「わ、思いのほか人来てますね」


 会場の公園は、普段の人気のなさはどこへやら、多くの人で賑わっていた。
 小学生の集団や、家族連れ、ちらちらと年輩の人も見える。

 そんな中で、こちらへまっすぐ向かってくるのが一人。



<_プワ゚*)フ 「よーう!プギャーよーーーーーーう!!!」



 東屋である。

223 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 22:54:00 ID:iv5ia5d60

( ^Д^)「なんだ、来てたのか」

<_プー゚)フ 「たりめーよ!
       プギャーが手伝うってのもあるし、
       あんときの店員からも勧められたからな!!」

( ^Д^)「あんときの店員?」

<_プ〜゚)フ 「プギャーが俺を置いていった日だぞ」

 置いていった日──金曜日。桐生のことだ。
 あの人も客と話すのかと、少し意外に思う。

 表情がまるで変わらないので無愛想な人だと思っていたが、
 案外、仏頂面なだけなのかもしれない。

(;^Д^)「いやー……なんつーか、悪かった」

<_プー゚)フ 「おう!!もう気にしてないぞ!!!!」

 東屋はそう言うと、ぺかっと笑ってみせる。
 なんだかなあと安織が頭をかく横で、長網が感嘆の声を上げた。

224 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 22:55:31 ID:iv5ia5d60
 
ζ(゚、゚*ζ「はー。何ですかこの子めっちゃいい子じゃないですか、
     何で紹介してくれなかったんですか」

( ^Д^)(何でもなにも、デレさん見えないじゃないすか)

ζ(゚、゚*ζ「見えないなら見えないなりに出来ることがあるんですー」

( ^Д^)(犯罪の香りしかしないっすね)

ζ(゚ぺ*ζ「そんなことないですよ。……こう、後ろを着いてみたり、とか」

( ^Д^)(……人はそれをストーカーって言うんすね)

<_プ、゚)フ 「なんだあ?さっきからぼそぼそと!」


从* ゚∀从「──ぼそぼそとっ!」


(;^Д^)「うおっ」

ζ(゚ワ゚*ζ「わ、かわいい」


 安織と東屋との間に突っ込んで来たのは、
 伸ばしっぱなしの髪を無造作に分けた少女である。

225 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 22:56:08 ID:iv5ia5d60

 小学生だろう。

 東屋の腰ほどの身長で、
 先ほどからひっきりなしに彼の足を叩いている──叩いている?

从* ゚∀从「てぃやー!」

<_プー゚;)フ 「痛い痛い痛い、なんだよおハイン」
 
从 >∀从「お叱りだ!
     勝手にいなくなるエクストには!ばつが必要だろ!!!」

<_プー゚;)フ 「言い返せねえ……!流石俺の妹!!!天才か!!!!」

( ^Д^)「──兄馬鹿め。つーことは、その子が?」

<_プー゚)フ 「おうおうおーう!そうだぞ、自慢の妹!ハインだ!!」

从*゚∀从「ハインだー!!!!」


 なるほど、確かにそっくりである。
 東屋はひょいとハインを抱き上げると、そのまま肩に乗せた。

从*゚∀从「ひょおおおお!!肩車!!!」

<_プー゚)フ 「じゃ、俺らは列ができる前に行くぜー!」

( ^Д^)「おう」

 安織が手を振るとハインが大きく手を振り返す。
 東屋はにっと歯を見せて笑い、こちらに背を向けた。

226 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 22:59:49 ID:iv5ia5d60

ζ(^ー^*ζ「いやー可愛かったですね」

( ^Д^)「うす。一人っ子なんで、ああいうの見るとやっぱ羨ましいすね」

ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、デレさんがお姉ちゃんになってあげましょうか?」

( ^Д^)「ついてるお姉ちゃんはいらないっす」

ζ(゚、゚*ζ「あーっ普通そういう事言います? 安織くんの変態!」

(;^Д^)「全然普通じゃない人には言われたくないっすね!!!」

ζ(゚、゚*ζ「ばかっドM!」

(;^Д^)「何の根拠もない悪口!!」



( ・∀・)「──ふむ。随分と元気なようだが」



( -∀・)「人前で大声を上げるのは感心しないな、少年」

(;^Д^)「……畑田センセー」

227 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:01:06 ID:iv5ia5d60

 なんてね、と細くきめ細かい髪をかきあげながら畑田は笑った。

 白衣と、染み付いた消毒液の匂いは病院外ではなかなかに目立つ。
 ただでさえ目立つ顔をしているというのに。


 そして、その横。


ζ(゚ー゚*ζ「あら?」

( ^ν^)「やっぱお前変な奴だな、安織」

(;^Д^)そ「ニュッさん!?」


 車椅子に腰かけたニュッが相変わらず皮肉な調子でそう言った。

 よく見れば点滴が椅子の背につけられており、ばっちり腕に固定されている。
 顔色は、心なしか悪い。

(;^Д^)「えーっと……ニュッさん、大丈夫すか」

ζ(゚、゚*ζ「……たしかに、いつにも増して青白い」

( ^"ν^)「……」

( ・∀・)「ははは、こらこら。心配してくれる人をそう睨むもんじゃない」

( ^"ν^)「……はっ」

228 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:02:23 ID:iv5ia5d60

( ・∀・)「ま、少年も触れないでやってくれ。
      ……ここだけの話、彼、まだまだ車椅子に乗るには早いんだ」

(;^Д^)「えっそれは」

( -∀-)「ま、今日は特別ということだ」

( ^"ν^)「……おい」

( ・∀・)「全く、昨日突然呼ばれたときは驚いたよ」

( ^Д^)「昨日……?」

( ・∀・)「車椅子に乗せろ、なんて言うものだからね。
      これまでベッドから降りる意思すら見せなかったのに──あいてっ」

( ^"ν^)「喋りすぎだ、モララー」

(;^Д^)(握りこぶしで太ももを抉るように殴った……)

ζ(゚、゚*;ζ「えぐい……」

(;-∀・)「ははは……すまない、すまない。
      あんまりにも嬉しくて調子に乗っていたようだ、僕は」

(;-∀・)「君からモノを言い出すなんて、ね。
      本当、これからもよろしく頼むよ」

( ^ν^)「はっ」

229 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:03:39 ID:iv5ia5d60

 ニュッがちらりと安織を見た。
 その意図が掴めず隣に視線をやると、長網もまた不思議そうにしている。


(;^Д^)「……ええと」

( ^ν^)「俺は安織に話がある。モララーは先に行ってろ」

( ・∀・)「おや、そうかい。……ふむ」


 畑田は口に片手を当てて考え込むようにする。

 やはり医者が離れるのは問題があるのかと安織がひやひやしていると
 あまり長くは放っておけないが、と前置はあったが案外あっさりと頷いた。


( -∀・)「では少年。彼を頼んだよ」


 畑田は片手をあげてひらひらと振り、出店の方へ歩いていく。

 人は着実に増えており、各所に設置された長椅子や、
 パラソル下の机はだいぶ埋まってきていた。

 各所であたたかな香りが漂い始める。

230 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:06:13 ID:iv5ia5d60


( ^ν^)「……さて」


( ^ν^)「何から言ったもんかな。……まあ、まずは、礼を言う」


 ありがとう。
 ニュッは前髪を触りながら、柄にも無くそう言った。

 安織は目を白黒させる。

(;^Д^)「いや、俺はそんな礼を言われるようなことは」

ζ(゚、゚*ζ「もだもだ情けないですねー。
     いつもみたく、はあとかへえとか言っておけばいいんですよ」

(;^Д^)「えぇー……」

( ^ν^)「それから……長網と言ったけか」

ζ(゚、゚*;ζ「はへ!?私ですかっ」

( ^ν^)「見えないが、どうせ近くにいるんだろ」

( ^Д^)「……今、ニュッさんの頬をペチペチ叩いてるすね」

ζ(゚、゚*;ζ「寝ぼけてんですか、熱でもあるんですかー」

( ^Д^)「熱でもあるのかって言ってます」

( ^ν^)「ねぇよ。想像したら鬱陶しいからやめさせろ」

( ^Д^)「はあ」

ζ(゚、゚*;ζ「あ、ちょ、安織くん引っ張らないでそんな雑に。
     スカート、私、スカート」


 長網の靴がずりずりと地面に残す引っ張られた跡が
 現れるのに、ニュッが目を見張った。

 いるのか。ぼそりと呟く。

231 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:07:32 ID:iv5ia5d60

( ^Д^)「デレさん、見えるようにはならないんすか。
      折角ニュッさんが話しかけてるのに」

ζ(゚、゚*;ζ「……むう」


 本当は禁止なんですよ。
 そう言うと、長網ははめていた時計を少しいじる。

 かちり、かちり。

 小さな音が響くと、ふわり。
 周囲の温度が少しだけ上がった。

 そう、ちょうど人ひとり分。


(;^ν^)「うおっ」


ζ(゚ー゚*ζ「──今日は最終日ですから、特別です」


( ^Д^)(最終日……)


 その言葉に、間抜けにも今日が約束の七日目なのだということを思い出した。

232 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:08:49 ID:iv5ia5d60

(;^ν^)「驚いた。本当に目の前にいたんだな」

ζ(゚ー゚*ζ「いましたよー。さて、お話はなんですか」

( ^ν^)「……ああ。長網、お前にも礼を言いたくてな」

ζ(゚、゚*ζ「長網じゃなくてデレさんです」

( ^ν^)「んなどうでもいい」

ζ(゚、゚*ζ「……」

( ^ν^)「…………」



( ^ν^)「……………………はあ」

ζ(゚、゚*;ζ「心底面倒くさそうなため息つかれた!!」

(;^Д^)「デレさん大人げないっす」

ζ(゚、゚*;ζ「ぅぅぅぅううううううぅぅうう」

( ^ν^)「救急車と呼んでやろうか」

ζ(゚、゚*;ζ「むきーーーーーーー!!!」

233 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:14:35 ID:iv5ia5d60


( ^ν^)「脱線したな」


 ニュッはがしがしと頭をかいた。

 さらりとした黒髪がゆれる。
 その下に覗く顔色は、相変わらず悪い──無理をしているのだ。

 畑田も今日は特別だと言っていた。
 ニュッはまだ出歩けるほどの体力に回復していないのだろう。
 本来なら、彼はベッドの上にいるべきなのだ。

 そこまでしてニュッがここへ来たがったのには理由があるだろう。
 もちろん、聞くまでもないことだが。


( ^ν^)「俺たち兄妹はな、少し不器用なところがある。
       そのせいで、しばしば〝歪む〟」

ζ(゚ー゚*ζ「やだ、不器用っぷりは全然少しどころじゃないですよ」

(;^Д^)「デレさんは黙ってて!」

( ^ν^)「……まあ、そいつの言う通りだ。
       どこかで矯正しなけりゃならないとは思っていたが……
       俺の事故で、歪みは一気に大きくなった」

( ^ν^)「本当に、取り返しの付かなくなるところだった」

234 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:17:36 ID:iv5ia5d60

ζ(゚、゚*ζ「……言っちゃあなんですが、
     どうしてお二人は互いの本音を隠していたんですか」

( ^ν^)「…………そうだな」

 キュートのことは知らないが。
 ニュッはそう前置きする。

( ^ν^)「少なくとも俺は……口を出されるのが苦手だから、だろうな」

( ^Д^)「口を出されるのが……?」

( ^ν^)「人に相談すると助言やアドバイスが降ってくるだろ。
       ……俺はそれが苦でな」

ζ(゚、゚*ζ「嫌なら嫌って言えばいいじゃないですか」

 長網の言葉にニュッは奇妙な表情を浮かべる。
 苦笑いが、笑いになり切れていないような顔。

 苦虫を噛み潰したのを必死に隠しているような表情である。


( ^ν^)「相手の事を傷つけたくもないくせに、
       助言もアドバイスも大嫌いなんて言う馬鹿いるかよ? ──いねぇだろ」

235 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:21:15 ID:iv5ia5d60

( ^ν^)「……こんなんだから、不器用だと言うんだ」

( ^Д^)「それは……いや、そうすね」

ζ(゚ー゚*ζ「あら」


 珍しい。長網が微笑む。
 ニュッはじっと安織を見ている。


( ^Д^)「ニュッさんは不器用っす。……須藤さんも、かなり」

( ^Д^)「でもそれでいいじゃないすか」

( ^ν^)「それでいい?」

( ^Д^)「うす。それが須藤兄妹なら、それでいいじゃないすか」

( ^ν^)「たとえ泥沼に陥ることがあってもか」


( ^Д^)「したら、俺が引き上げるすよ」


( ^ν^)

ζ(゚ー゚*ζ「ぷふっ」

236 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:22:20 ID:iv5ia5d60

(;^Д^)「……俺、なんか変なこと言ったっすかね」

( ^ν^)「お前はいつもそれだな」

ζ(゚ー゚*ζ「というか、変なことしか言ってないですよ」

(;^Д^)「こういう時に限って息ぴったりすか……」

ζ(゚ー゚*ζ「まあいいんじゃないですか、もう安織くんも弟みたいなものでしょ?
     ねえ、ニュッさん」

 長網は安織とは違ったトーンでニュッを呼ぶと、にやにやと笑いかける。
 虚をつかれたようにぼんやりとしていたニュッはそれを聞くと噴き出した。

( ^ν^)「ああ、確かにそうだ」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ」

( ^ν^)「……はっ」

( ^Д^)「二人とも何の話を……」


 言いかけて、気付く。
 二人が何の話をしているのか──須藤のことだ。

 かあっと頬が熱くなった。

(;*^Д^)「あのっすね!!」

( ^ν^)「おうおうどうした」

ζ(^ー^*ζ「どうしたんでしょうね〜」

 いやな大人たちだ。
 安織は頭を横に振り、上がった熱を振り払おうとする。

237 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:25:25 ID:iv5ia5d60


 はたと気が付いたようにニュッが言った。

( ^ν^)「まさかとは思うが……まだ返事もらってねえのか、安織」

(;^Д^)「まさかも何も、昨日から一度も会ってねえっすよ」

( ^ν^)「……あんの馬鹿、逃げてやがんな…………」

( ^ν^)「ったく仕方ねえ。
       こんなとこで呼び止めて悪かったな、さっさと店んとこ行ってこい」

(;^Д^)「えっでも」

( ^"ν^)「……」

(;^Д^)「…………うす」


 安織はくるりと背中を向ける。

 ニュッの睨みは結構堪える。
 有りていに言えば、めちゃめちゃ怖いのだ。殺意すら感じられる。

238 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:26:12 ID:iv5ia5d60


ζ(゚ー゚*ζ「行っちゃいましたね」

( ^ν^)「おう」

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、つけますか」

( ^ν^)

ζ(゚ー゚*ζ

( ^ν^)「……お前、いい性格してんな」

ζ(^ー^*ζ「仕事ですから」


 長網はニュッの車椅子を押す。
 土埃が舞わないよう軽く水撒きのされた地面に、車輪の跡が伸びていく。


 ああ、今日も快晴だ。


 なんだか気持ちよくなってあくびを一つすると、
 座ったニュッに笑われた。

 視線を投げると、向こうでもたつく安織が見える。

239 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:28:32 ID:iv5ia5d60



(;^Д^)「あー……うん、そうだな。よし」

 よし、よし。
 安織は何度もそう繰り返してはブースの前を行ったり来たりしていた。

 ときおり、人垣の向こうに流れるような黒髪が見えて、
 その度に心臓をはねさせているのだが、そこから先に進まない。


(;^Д^)「……いや、落ち着け俺。そうだ、手伝いに来てるんだ今日は。
      そう、だから声をかけて中に入っていくのは当然のことで」

o川*゚ー゚)o「おはよ?」

(;^Д^)「むしろ今までどこをほっつき歩いてたとか、
      半に店前に居てここまでどんだけ時間かかってるんだとか」

o川*゚ー゚)o「ね、ね」

(; Д )「冷静に考えたら俺ずっとそこらで話してばっかだったな……
      何がよしなんだ…………」

o川*゚ー゚)o

240 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:30:32 ID:iv5ia5d60



o川*゚ 0゚)o「──安織プギャーくん!」

(;^Д^)「はい!」


(;^Д^)そ「っうおおぉはようございます」

o川*^ー^)o「おはよ」


 ぎこちなく体をよろめかせる安織に、須藤はにっこりと笑いかける。
 さらりと二つに結われた黒髪が風に流れた。

 ふわり。優しい香りがする。

o川*゚ー゚)o「さてさて、お仕事の前にいくつかチェックします」

(;^Д^)「チェックすか」

o川*^ー^)o「そうです」


 まるで先生のようである。
 安織も須藤に合わせ、ぴしりと気をつけの姿勢を取る。

241 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:32:20 ID:iv5ia5d60

o川*゚ー゚)o「ひとつめ。髪は清潔ですか?」

( ^Д^)「うす。昨日きちんと洗ったんで、大丈夫す」

o川*゚ー゚)o「よろしい。では、ふたつめ。爪は短いですか?」

( ^Д^)「……うす。許容範囲だと思うっす」

o川*゚ー゚)o「確認しましょう」


 す、と須藤が安織の手を取った。

 白くなめらかな肌だ──動き回っていたからか、安織よりすこし熱い。
 というか、じっと顔の前に持ってきて見られているのはなんだか緊張する。


 人間、やましいことがなくとも確認や点検といったものには弱いのだ。


 無意味に早鐘を打つ心臓にそう言い訳し、須藤の言葉を待つ。


o川*-ー-)o「問題ナシです」

(;^Д^)「うす」


 そう返すと、須藤はそのまま──安織の手を取ったまま、
 伏し目がちになって動かない。
 どうしようかと考えていると、最後に一つ、と囁くような声が聞こえた。

 耳をすます。

 周囲の話し声や、足音といった雑音がすうっと遠のく感覚。
 どこか静まった空気。

 熱っぽく浮かされた頬が、じんじんと存在を主張する。

242 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:33:23 ID:iv5ia5d60


o川*-ー-)o「プギャーは」

o川*-ー-)o「…………………………やめた」

(;*^Д^)「へっ?」

o川*゚ー゚)o「こんなん卑怯だ。やめやめ、やめた」


 ぽいっと安織の手を離して、投げる。
 
 そうして、


o川*゚ー゚)o「あのね、プギャー!」





o川*^ー^)o「──私、プギャーのこと好きなんだと思う!」


 からっとした調子でそう言ってのけた。

244 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:40:08 ID:iv5ia5d60


 ただね、と続くことには、


o川*゚ー゚)o「まだ今は……本当に好きなのか、
      ただ頼ってるのかわからないのも、本音だよ」

o川*-ー-)o「でも、隣にいて欲しいって気持ちは本物だと思うから」


o川*゚ー゚)o「これからも、一緒にいたい。
      ……これで昨日の返事になってるかな」

(;*^Д^)「っ」


 安織は息を飲み、大きく首を縦に振った。
 頬はいよいよ熱で溶けそうになっている。

 きっと顔は真っ赤だろう。


( ^ν^)「なーにがなってるかな、だっての」

o川;*>、<)o「ひぎゃっ」


 須藤の髪を後ろから引っ張ったニュッが意地悪く言った。
 さっきまで向こうにいたはずの彼の姿に、安織は驚きの声を上げる。


(;*^Д^)「ニュッさん!なんで……」

ζ(゚ー゚*ζ「にや〜」

(;*^Д^)



( ^Д^)「……デレさんが押してきたのか」

ζ(゚ー゚*ζ「びっくりするぐらい急に冷静になるの、ちょっとなんなんですかねー」

245 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:48:05 ID:iv5ia5d60

o川;*゚ー゚)o「──そ、そうだよ!
       ニュッくんどうして、ここに」

( ^Д^)「へ?」

ζ(-ー-*ζ「……」

( ^ν^)「んなもん、」


 振り向いたニュッが不思議そうな顔をした。
 そのまま、言いよどむ。


 安織は気付いた──長網が、再び見えない状態になっている。


 今まさに目の前に立つ長網を無視して
 ニュッが後ろを振り返ったのが、何よりの証拠だ。
 須藤に関してはもともと長網の声が聞こえていない様子である。

 ニュッは安織の方をちらりと見ると、ため息混じりに須藤に返す。


( ^ν^)「……どうでもいいだろ。
       なにかと逃げ去る情けない妹の様子を見に来ただけだ」

o川;*゚ -゚)o「うぐ」

246 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:50:52 ID:iv5ia5d60

( ^ν^)「…………なあ、キュート」

o川;*゚ -゚)o「なによう」

( ^ν^)「俺さ、なんとしてもまた歩けるようになる……から」

o川;*゚ -゚)o「!!」

( ^ν^)「そんときはまた、店を手伝わせてくれよ」

o川;*゚ -゚)o「そ、そんなの」

o川;* - )o「当然……!
      もう、ニュッくん今までそんなこと全然」


 ぜんぜん。
 須藤の声が、にごる。

 泣き声が混じる。

o川*;ー;)o「全然、言わなかったから、もおぉ……うぅ」

( ^ν^)「ほーらまた泣く」

o川*;ー;)o「泣いてないもん」

( ^ν^)「……はっ」


 須藤がニュッのことをぽかぽかと叩く。
 それはもう、ただの仲睦まじい兄妹の姿そのもので、
 安織はほっと胸をなで下ろす。

247 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:54:27 ID:iv5ia5d60

ζ(゚ー゚*ζ「家族水入らずにしてあげるのが、優しさというものですね」

( ^Д^)「デレさん……?」


 ちょっと。
 そう言って公園の隅、いつものベンチまで引っ張っていかれた安織は
 促されるままにそこへ腰掛ける。


ζ(゚ー゚*ζ「さて」


 長網はすっと姿勢を正す。

 安織がふざけて気を付けをしたのとは違う、
 雰囲気からがらりと変わって見える、真面目なそれだ。


ζ(゚ー゚*ζ「只今を持ちまして、世界均衡管理局は干渉を終了したいと思います。
     安織様、七日間のご協力深く感謝申し上げます」

( ^Д^)「……はあ」


 七日間。
 長かったような、一瞬だったような。
 
 少なくとも真面目な長網の口調に
 違和感を覚えるくらいには、長かったのだろう。

248 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:55:31 ID:iv5ia5d60

ζ(-ー-*ζ「楽しかったです、本当に」


 ぶうん。
 電子機器を起動したような、奇妙な音。

 長網の周囲が二重にぶれて見える。
 彼の姿が真夏の蜃気楼越しに見るように、不鮮明になっていく。


( ^Д^)「……ミッションクリア、ということでいいんすかね」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、それは安織様が一番わかっているのでは?」

( ^Д^)「からかわないでくださいよ」

ζ(^ー^*ζ「いいじゃないですか、最後くらい」


 そう言われると、なんとなく黙ってしまう。
 頬をかく安織を眺めつつ、長網は静かに微笑んだ。


 その姿はもう、だいぶ薄れてきている。


 景色を透かせながら、すうと息を吸い込んだ。

249 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:57:34 ID:iv5ia5d60



ζ(゚ー゚*ζ「今日までの数日間に名前をつけて、お別れとしましょう」


 実はもう、考えてきてたりして。
 長網はそう言うと少しだけ恥ずかしそうにはにかむ。

ζ(-ー-*ζ「知ってますか、安織くん。
     人の心は空模様──とっても、移ろいやすいんです」

( ^Д^)「移ろいすか」

ζ(-ー-*ζ「はい」


 そう言って頷く姿は、もう、瞬きをすれば見失ってしまいそうだ。
 長網は焦るでもなく、のんびりと続ける。

ζ(゚ー゚*ζ「例えば怒り、例えば悲しみ。後悔、諦念、喜び……
     ころころとその表情は変わります」

ζ(゚ー゚*ζ「ここ数日で……幾つも、移ろいを見ましたね」


 例えば、須藤の輝くような笑顔。

 例えば、ニュッの悔しげな表情。

 例えば、安織の怒りに任せた声。

 例えば、長網の焦ったような声。


 幾度か涙も見た。
 それ以上に、多くの笑顔も見た。


 だからきっと。

 長網の声に、はたと安織は顔を上げる。


ζ(゚ー゚*ζ「だからきっと、この日々は」

250 名前: ◆3TZSFRho.I[] 投稿日:2016/04/30(土) 23:58:31 ID:iv5ia5d60








ζ(^ー^*ζ「──雨上がり七日の空模様です」




 姿が完全に消えてしまう直前、長網は両腕を広げると満足気に笑ったのだった。
 

                              [日曜日] 了

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