雨上がり七日の空模様です

103 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:11:34 ID:KDf5Cbvo0


(;^Д^)「っべーこれは、いやーこれはやっちまった感あるっすわ……」

 安織がぼやきながら見ているのは今や黒く染まった、
 黄色であったはずの腕時計である。

 ほんの数分前のこと。

 昨日の寝つきが良いわけもなく、
 やっと眠れたと思えば早朝に目覚めたのがことのはじまりである。

 安織は二度寝する気にもなれず一階でコーヒーを淹れ、
 二階の自室へ持って上がったのだ。

 そして、盛大に、こけた。

 ぶちまけられたコーヒーはベッドへこそ被害を免れたものの、
 その周辺――たとえば床に置かれた鞄。
 相変わらず出すだけ出して手を付けない課題、その近くに転がったペンケース。


 なにより、昨日はずして転がしたままであった腕時計。

104 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:12:09 ID:KDf5Cbvo0


 雨上がり七日の空模様です


 4:[木曜日]
 
.

105 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:12:50 ID:KDf5Cbvo0

(;^Д^)「まずいよなあ、やっぱり。
      弁償とかになんのかね、そもそも通貨とかどうすんだこれ……」

 何やら見当違いの心配にも思えるが、
 真っ白であったあの何も書かれていない文字盤(?)が薄茶色く濁っているのは
 どうにも不安をかきたてるものがあった。

 それにやはり、昨日のこともある。

 腹が立ったのは事実。あの行動が許せないのもそうである。
 だが、自分が強く言い過ぎたのもまた事実である。

 仕事として行っているのだとすれば、長網個人を責めても仕方がないのだから。
 
 謝ろう。時計のことも、さりげなく。
 怒るのも、怒り続けるのもまた、労力のいることだ。
 そんな誰も幸せにならない労力なんて、割いている方が馬鹿らしい。

106 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:13:23 ID:KDf5Cbvo0


 ──まあ、しかし。


( ^Д^)「今日も午前中はめっきり現れなかったな……」

<_プー゚)フ「なんだ、プギャー!ひとりごとか!!」

( ^Д^)「……まあ、昨日もだけど…制限時間を意識してんのかね」

<_プд゚)フ「無視か!無視なのか!!プギャー!!!」

( ^Д^)「エクストうるせー」

<_プー゚*)フ「おう!俺はうるさいぞ!!」

( ^Д^)「知ってる知ってる」

 安織は、やたら襟の立った友人もとい東屋エクストと歩いていた。
 パン屋に向かっているのだ。

 昨日のこともあり、一人で行くのに気が引けつつも、
 行かないわけにもまたいかず。

 半端な行動力を持て余した結果、声をかけた次第である。

107 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:14:02 ID:KDf5Cbvo0

<_プー゚)フ 「いやーそれにしたって、えらいぞ!
        そのぐるぐるまきの左腕でもバイトに行くとはね」

( ^Д^)「さすがに今日は客としてだっての」

<_プー゚)フ 「秘められし力とか使うのか?
        古の黒竜がなんとかかんとかって」

( ^Д^)「んなわけあるか、客つってんだろ」

<_プд゚)フ「うおっ見ろよプギャー!」

( ^Д^)「……ああ」

 東屋が指し示したのは件のブルーシートだ。

 初めてこいつをみたときの得も言えない不安は、
 ある意味で的中していたと言える。

 安織はふとそんなことを思う。

<_プー゚)フ「ここでな、この間、俺の妹が引かれかけたんだよなー
       でっけえトラックに!」

( ^Д^)「へえ、え?」

<_プー゚)フ「ハインつーんだ、小学生でよ。
       土砂降りの日なー集団下校で列になって歩いてたんだってよ」

( ^Д^)「……おう」

 自然と足が止まる。

 何故だか胸騒ぎがした。

108 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:15:46 ID:KDf5Cbvo0

<_プー゚)フ「視界は悪いわ、足元は悪いわで
       上級生も気ぃ使いながら歩いてくれてたんらしいけどな」

<_プー゚)フ「ちょうどここに差しあたったとき、ががぁぁあんつって、
       すげー音が響いたらしいの!」

 東屋はばっと両腕を広げてみせる。
 想像されるのはろくでもない光景だ。

<_プー゚)フ「見れば、後ろから走ってきたバイクがな、
       下校班のやつらを抜かしたと思ったらいきなり弾きとばされて。
       んで、乗ってたやつがそのバイクの下敷きになってんの」


 ――ニュッのことだ。

 安織はブルーシートを凝視する。
 この崩れは彼が突っ込んだものなのか?

<_プー゚)フ「勝気なやつなんだがなあ、ハインがよー。涙目で話してた。
       よっぽど悲惨な光景だったんだろうなあ」

( ^Д^)「……それで」

( ^Д^)「トラックの話はどこいったんだ?」

109 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:16:44 ID:KDf5Cbvo0

 安織の言葉に東屋は目をぱちくりとさせる。

 ここまで食いついてくるとは思わなかったのだろう。
 脱線したな、と一言入れて続ける。

<_プー゚)フ「弾き飛ばされてつったろー。
       そのバイクを弾いたのがトラックよ、居眠りだったらしいぜ」

<_プー゚)フ「妹らを抜かしてったバイクが、こう、妹から見て左手に。
       んで、居眠りトラックは正面のブロック塀に突っ込んでったんだと」

 やはり、ブロック塀にはトラックが突っ込んでいたのだ。
 安織は得心する。

 そして、気が付いた。

(;^Д^)「エクストお前、妹さんらすげーぎりぎりだったんじゃねえの」

 まあな、と東屋は苦笑いを浮かべる。

<_プー゚)フ「バイクのあんちゃんがいなかったらな、きっと、
       トラックが突っ込んでたのは塀じゃなくてハインらの集団だ」

(;^Д^)「……その話を聞く限りじゃ、そうだな」

<_プ -゚)フ「一命は取り留めたって聞いてるが、わずかにとはいえ
       トラックの軌道を変える勢いでぶちあたってんだぜ」

<_プぺ)フ「順当に考えて無事とは考えづらいだろ。
       本当に偶然助かったようなもんだけど、
       九死に一生なんて騒げないよな、ちょっとなあ」

 また、トラックの運転手は即死だったそうだと続ける。
 疲労からの居眠り運転、そして、事故死。

 あんまりにもやるせない、とエクストはうなだれる。

110 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:18:04 ID:KDf5Cbvo0

( ^Д^)「とんでもない話なのは確かだな……」

<_プ -゚)フ「だろ?」


 安織は無言で頷く。

 事故なんて、自分には無縁のものだと思っていた。
 少なくとも死傷者なんて代物はテレビの中だけの存在だと思って過ごしていた。


 こんなにも身近にあるのだ。


 ぞくりと鳥肌が立つのをおぼえた。

111 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:18:58 ID:KDf5Cbvo0


<_プー゚)フ「そーいやさー!」

 重くなった雰囲気を吹き飛ばすように、東屋はぱんっと手を打ち鳴らす。

<_プー゚)フ「今向かってるパン屋ってプギャーのバイト先なんだろ?」

( ^Д^)「あー、いや、週末の企画を手伝うだけでバイト先ってわけじゃないな」

<_プー゚)フ「んだそれ、知り合いにでも頼まれたのかー」

( ^Д^)「知り合いつーか、ああ、そんな感じ」


 ふと考える。

 須藤は安織にとっての何なんだろうか。
 ほんの一昨日までは行きつけの店の店員だった。

 なら今は?
 ……友人と名乗るのは、なれなれしすぎるだろうか。

( ^Д^)「まあほら、着いたぞ」

<_フ*゚ー゚)フ「おわっすげーいい匂い!」


 ちりん、ちりん。


 鈴の音。あたたかな空気がふわりと包み込むような感覚。
 けれど、


( ゚д゚ )「いらっしゃい」


( ^Д^)そ「!?」

<_フ*゚ー゚)フ「おじゃましまーす!」

 迎えたのはいつもの愛らしい笑顔――ではなく、見知らぬ少年の声であった。

112 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:19:36 ID:KDf5Cbvo0


( ^Д^)「……すいません」

( ゚д゚ )「?はい」

 東屋が鼻歌をまじえつつパンを選んでいる間に、
 レジに立っている少年に話しかける。

 安織がパン屋に通い始めて一年と少し。

 レジに須藤以外の者が立つことはあれど、
 その隣に須藤がいないなどということは一度だってなかった。

( ^Д^)「今日は須藤さん、どうかしたんすか」

( ゚д゚ )「……?」

 安織と同じか一つ下ほどに見える少年は不思議そうな顔をする。

 首にかかった名札には桐生ミルナと書いてあり、そのことに安織が気が付くのと、
 桐生が安織の左腕を見て得心がいくのとはほぼ同時であった。

( ゚д゚ )「安織さんですね。週末臨時で入ってもらう予定だったとかいう」

( ^Д^)「ああ、はい。そうっす……予定だった?」

( ゚д゚ )「ええ。店長――須藤さんが、」

(;^Д^)「へ?須藤さんて、店長だったんすか」

( ゚д゚ )「そうですよ。もともと須藤さんのご両親のお店だったらしいんですけど、
     俺が入ったときにはもう今の店長でした」

( ^Д^)「そうなんすか……」

113 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:20:35 ID:KDf5Cbvo0

 初耳である。

 道理でいつも店にいるわけだ。
 思えば店を早抜けしたり、安織に手伝いの声をかけりというのも
 その権限があってのことだったのだろう。

( ゚д゚ )「で、その店長から伝言を預かっててですね」

( ゚д゚ )「その怪我で働かせるわけにはいかないので別の人を探します、と。
     ごめんなさいと言っていました」

(;^Д^)「んな、こと」

 謝られたって仕方がない。

 というか、腕は思いのほかしっかり動くのだ。
 元から頼まれていた陳列や誘導ぐらいなら自分にもできるというものだろう。

 だが。
 それはきっと、

( ^Д^)「……すいません、話は戻るんすけど」

( ゚д゚ )「はい」



 本人に伝えなければ意味はないのだ。

114 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:21:47 ID:KDf5Cbvo0




<_フ*゚ー゚)フ「おろ?」



.

115 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:22:44 ID:KDf5Cbvo0


(;^Д^)「──ちっくしょ」


 息を切らし、走る、走る、走る。

 結論から言えば、桐生からは何も聞けなかった。
 須藤が今日いない理由も、どこにいるかもわからない、と答えたのである。

 そんなはずはない。

 というか桐生は嘘をつくのが下手だ。
 あんな風に目を泳がせればすぐわかる──まるでどこかの女装のようだ。

 大方、須藤に言い含められたのだろう。予想はつく。


 なんとなく嫌な予感がしていた。


 須藤の居場所の見当はつかない。
 接点があるのは病院くらいで、
 だからこそそこへ向かって全力疾走してはいるのだが。
 

 「安織くん」


 そのいつの間にか聞き慣れた声に、がっと肩を掴まれたような気がした。
 振り返る。

116 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:23:32 ID:KDf5Cbvo0



ζ(゚ー゚*ζ「ここ、通りすぎちゃっていいんですか?」

(;^Д^)「デレさん……」


 振り返った先は花屋の店先――そこに、腕を組んで立つ長網だった。

117 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:24:11 ID:KDf5Cbvo0

(;^Д^)「なんか、目元腫れてないすか?」

ζ(゚ー゚*;ζ「そこに触れるんですか!?
       諸事情ですよ、放っておいてくださいよ!!」

(;^Д^)「……」

ζ(゚ー゚*;ζ「……」

(;^Д^)「……あのですね」

ζ(゚ー゚*;ζ「…………はい」

(;^Д^)「言いたいことは色々あるんすけど、
      ……とりあえず今は、須藤さん優先したいんすよね」
 
ζ(゚ー゚*;ζ「ととと当然ですよ、当然!
       だってそうしてもらわなくちゃ困ります!!」

 えー、こほん。

 わざとらしく長網が言うと、
 ぎくしゃくとした空気がほんの少しだけほぐれたような気がする。

ヽζ(゚ー゚*ζ「いいこと教えてあげます。
       その一。ここのお花屋さん、裏が公園になっています。
       なんとびっくり、前にドーナツを食べたとこですよ」

( ^Д^)「……はあ」

ζ(゚ー゚*ζノ「その二。キュートさんはそこで涙を流しています」

(;^Д^)「はあ、あ、え?」

118 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:24:50 ID:KDf5Cbvo0

ヾζ(゚ー゚*ζシ「デレさんからは以上でs」

二三( ^Д^)「──あざした!」

ζ(゚ー゚*;ζ「雑!!いよいよ対応が雑!!!母音ぐらい聞いていって!!!!!」


ζ(゚ー゚*;ζ

ζ(゚ー゚*ζ「……んもー」

 しょうがない子ですね。

 そう言った長網の姿がゆらりと揺れる。
 風景に溶け込むように、風に吹かれるように。

 そうして、姿が消え──




 ぱしゃん。


ζ(゚ー゚*;ζ「えっ?」

 
 ────なかった。

 それどころか、つい先ほどまでは何の影響もなかった足元の水たまりが
 須藤の動きに合わせ、はっきりと音を立てたのである。

119 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:25:25 ID:KDf5Cbvo0

ζ(゚ー゚*;ζ「うそうそ、不調?
       どの端末ですかね……と言っても今回は腕時計ぐらいし、か」





ζ(゚ー゚*;ζ「………………何これ」

 長網の左手首にはめられた紫色の腕時計。
 その針がなぜだか不規則に、一進一退を繰り返し続けていたのである。

120 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:26:08 ID:KDf5Cbvo0



(;^Д^)「はっ、はあっ、はーっ」

 膝に手をあてて息を整える。

 もともとパン屋から走り続けていたのを忘れていた。
 息が上がるのも早ければ、足が悲鳴をあげるのもまた早かったのである。

 普段の運動不足がたたっている。
 安織は内心苦笑しながら、公園の中をみやる。

 鉄棒、砂場、すべりだい──相変わらず人気のない公園だ。



o川* - )o


(;^Д^)「須藤、さん」


 果たして、須藤はブランコに腰掛けていた。
 惰性で揺れるブランコ、ちゃりちゃりと鳴る鎖。

 肩に流れるさらりとした黒髪。


o川* - )o

o川* - )o「…………プギャー、?」

121 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:26:47 ID:KDf5Cbvo0

( ^Д^)「はい、俺っす」

 すとんと隣にしゃがみこむ。
 須藤の顔は綺麗な髪に隠されていて、よく見えない。

( ^Д^)「……何かあったんすね」

o川* - )o「でも、プギャーには関係ないよ」

 関係ない。
 その言葉が妙に胸に刺さった。

 ふいに朝のことが思い起こされる──結局、須藤は自分にとっての何だったか。

 やはり友人と考えるのはおこがましかったのだろうか。

( ^Д^)「須藤さん」

o川* - )o「……」

( ^Д^)「確かに須藤さんが泣いてる理由に、俺は関係ないかもしれないす」

( ^Д^)「でも泣いてる須藤さん≠ヘ俺に関係してるんで。
      ……話、聞かせて欲しいっす」

 隣に並んでいるのに互いのことは見ないまま。
 安織は待つ。じっと待つ。

122 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:27:30 ID:KDf5Cbvo0


o川* - )o「治らないんだ」


 やがて、須藤はぽつりとこぼした。

o川* -;)o「ニュっくんの足、」

o川*;ー;)o「もうっ、動かないんだ、て」

( ^Д^)「……」

o川*;ー;)o「畑田せんせがね、言ったの、私、わたし、昨日」

( ^Д^)「ゆっくり、ゆっくりでいいすよ」

o川*;ー;)o「う、ん」


 聞けば、須藤は昨日安織と別れたのち病院へ戻ったのだという。
 彼女なりに思うところがあったのだ。

 須藤もまた去り際の、遠くを見つめるニュッの表情に気が付いていたのである。

 そうして、畑田モララーに告げられたのだ。
 ニュッの足が元のように動く――その見込みはほとんどない、と。

123 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:28:04 ID:KDf5Cbvo0

o川*;ー;)o「聞いて、どうしたと思う?
      ……私ね、逃げちゃったんだよ」

 ときどきしゃくりあげながら、須藤は話す。
 それはまるで自分にナイフを突き立てるような調子で。

o川*;ー;)o「最低だよね。
      もともと、ニュッくんの顔が怖くて、逃げちゃったのに」

( ^Д^)「……ニュッさんの、顔すか……?」

 確かに人好きのする顔とはお世辞にも言えないとは思うが、
 泣いて逃げるほどかと言われると疑問である。

 安織が釈然としない表情で首をひねっていると、須藤が吹きだした。

o川*;ー;)o「プギャー、たぶんそれ、違う」

(;^Д^)「……俺がニュッさんと思っていた人は、
      ニュッさんではなかった……?」

o川*うー)o「だから、もう!
      ふふ、どうしてそうなるかなあ」

 須藤は完全にこらえきれなくなったようで、おかしそうに涙を拭う。
 
o川*ーーー)o「ああ、ほら、涙とまっちゃった」

(;^Д^)「それは、ええと、いいこと?なんじゃないすかね、えと」

124 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:29:07 ID:KDf5Cbvo0

o川*゚ー゚)o「……私が怖かったのはね、ニュッくんの表情だよ。
      事故の話をするときの、あの顔」

(;*^Д^)「っ」

 す、と人差し指を立てて安織の口にあてる。

 混乱する安織に落ち着いて聞くよう促そうとしてのことだろう。
 逆効果のような気がしなくもないが――と、
 早鐘を打つ心臓の裏で冷静に分析する自分を感じる。

o川*ーーー)o「ちょっと前にね」

o川*゚ー゚)o「何か新しいことがしたいって話になって、私、提案したの。
      焼き立てパンの宅配サービスなんて面白いんじゃない?って」

o川*゚ー゚)o「そのとき、バイクの免許を持ってたのがね、
      笑っちゃうでしょ。うちのお店でニュっくんだけだったんだ」

( ^Д^)「……はあ」

 笑えない。
 安織には相槌を打つのが精いっぱいである。

o川*゚ー゚)o「だから試験的にやってみる間、ニュッくんが引き受けてくれて。
      それで……宅配の帰りだった。事故が、起きたのは」

(;^Д^)「……」

 どこに向かっているのだろう。
 話の着地点を探しながらも、紅潮した頬からすうっと熱が抜けていくのを感じる。


o川*ーーー)o「何日も病院に通っててね、ニュッくんの意識がもどったときも
      隣に居たのは私だったの」

* * * * *

125 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:29:46 ID:KDf5Cbvo0



o川;*゚ー゚)o『――ニュッくん』

( ^ν^)『…………ああ』

 何日かぶりの気だるげな声。
 須藤の存在に気が付いていてなお、天井をまっすぐ向いたままの頭。
 

 数秒の沈黙。そして。





( ^ν^)『なるほどな』

o川;*゚ -゚)o『!!』

 須藤が何も言わずとも状況を理解したかのようにそう言って、
 ニュッは顔を、歪めた。

 それはもう思い切り。

 涙は一滴だって零さずに、それ以上の言葉は何も吐かずに、
 けれどその表情を一言で形容するのなら、やはり、一つしかなかった。


* * * * *

126 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:30:32 ID:KDf5Cbvo0


o川*ーーー)o「――笑顔なの。
      でも私が今まで見てきた中で、一番苦しい顔で」

 責められてる気がしたんだ。
 須藤はそう言う。

o川*゚ー゚)o「もともとね、謝ろうと思ってたんだ。
      ニュッくんが目を覚ましたら、私、謝ろうと思ってた――
      許してもらいたかったんだよね、きっと」

o川* ー )o「でも、その顔を見て、私……何にも言えなくなっちゃった」

o川* ー )o「今もそうだからこうやって、
      未練がましく毎日お見舞いに行ってるのかもしれないな。
      ……うん、そういう気持ちが無いとは言えないと思う」

( ^Д^)「……須藤さん」

 安織は立ち上がる。
 下を見て、ぽつぽつと語る須藤が、なんだかとても小さく見える。

o川* ー )o「なんか、だめなんだよね。迷惑かけてばっかりだ。
      ……迷惑なんて言葉じゃ、足りないのかもしれないけど」

( ^Д^)「須藤さん」

o川* ー )o「ニュッくんの足に、プギャーの腕、次は誰かなあ……なんて」

( #^Д^)「須藤さん!!」

o川;*゚ー゚)o「はひっ」

 ちゃりちゃり。がらん。
 鎖が大きな音を立てるが、気にしない。


 安織は須藤の座るブランコを、思い切り自分の方へ向けてひねったのである。

127 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:31:44 ID:KDf5Cbvo0

( ^Д^)「俺やっぱり、上手に慰めらんないす」

 安織はまず、そう断言した。
 何とも情けない断言もあったものだと内心自嘲する。

( ^Д^)「結局、涙の原因も解決出来ないし、
      自分でもほんっと役立たずのカスだと思います」

o川;*゚ー゚)o「何もそこまで」

( ^Д^)「でも話を聞くくらいならできるっすよ」

o川;*゚ -゚)o「!」

( ^Д^)「もっと言えば週末のお手伝いだって。
      ……こんな腕じゃあ心配になるかもしれないすけど、
      存外動くんで出来ると思ってます」


o川;*゚ -゚)o

 ぴしり。須藤の表情が固まる。
 しばらく口をぱくぱくとさせて、けれども言葉は出てこない。

 やがて、




o川*ーーー)o「……かなわないなあ」
 
 あらためて、よろしくお願いします。
 須藤はそう言って、ふわりと優しく笑った。

128 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/03(日) 20:32:34 ID:KDf5Cbvo0













<_プー゚)フ「なんかプギャーいなくね?」

( ゚д゚ )「……おそらく、そろそろ家に帰る頃かと」

 一方、東屋はパン屋に忘れらたままであった。
 
 安織がはたと彼のことを思い出し謝罪の電話を入れるのは、
 東屋が置いて行かれたと気が付いてから、数時間後のことである。 
 

                              [木曜日] 了

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