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1 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:28:10 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「私、世界均衡管理局の者です」
白い肌、やわらかく巻かれた亜麻色の髪。
肌は白く瞳は大きく、スーツをタイトに着こなしている。
年の頃は二十歳前半といったところか。
ぱっと見てきれいな人だなあとぼんやり思い、寝ぼけ眼をこすった。
おかしい。
まだ電気もつけていない薄暗い自室、
その入口に見知らぬ人物が立っているのだ。
がばっと上半身を起こし、ベッド真横のカーテンを開ける。
差し込む光の中でもなお平然としている姿を見て、いよいよ覚醒した。
夢ではない。
目の前の者は、不審者だろうか。
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2 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:29:58 ID:.MHyaqkY0
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雨上がり七日の空模様です
1:[月曜日]
.
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3 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:30:32 ID:.MHyaqkY0
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( ^Д^)「どちらさますか」
安織プギャーは寝起き特有の乾いた声で尋ねる。
片手には枕を掴み、いつでも立ち上がれるよう気を張っていた。
ζ(^ー^*ζ「そう警戒なさらないで下さい」
ζ(゚ー゚*ζ「私、安織様を担当します──長網です」
( ^Д^)「長網? ……いや、担当って」
ζ(^ー^*ζ「失礼しました。長網デレ、と申します。
どうぞお気軽にデレとお呼びください」
( ^Д^)「………………はあ」
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4 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:32:14 ID:.MHyaqkY0
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はて、どこから突っ込めばいいのやら。
見知らぬ者──もとい長網は自分のペースを崩す気はないらしく、
あくまでも飄々と話すさまはお役所然としている。
ζ(゚ー゚*ζ「訳がわからないとは思います」
訝しむ安織の表情から察したのだろうか、
長網は一度そう断り、ですがと続けた。
ζ(゚ー゚*ζ「当方が安織様に干渉可能な時間は限られておりますゆえ、
此度の状況につきましては追って説明をさせていただきます」
ζ(-ー-*ζ「身支度がお済みになりましたら再び声をかけますので」
──では。
そう言うと長網は扉を開け、ごく自然に部屋を出ていったのだった。
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5 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:33:29 ID:.MHyaqkY0
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( ^Д^)「いや」
( ^Д^)「いやいやいやいや」
開け放された扉──その向こうは廊下、階段、下って一階。
もう、そこはリビングだ。
母がいれば父もいる。
さて、二階には安織の部屋を除くと物置しかない。
長網が降りていけば当然、彼の部屋から出ていったのだと
そういうことになるだろう。
それは不味い。
どう考えたって宜しくない。
安織プギャーは17歳──余計なことを様々考えるお年頃である。
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6 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:34:26 ID:.MHyaqkY0
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( ^Д^)「……まてよ」
はたと冷静になる。
長網はいったいどうやってここまでやってきたのだろう。
まさか父母の了承を得て、というわけではあるまい。
世界均衡管理局だか何だか知らないが、
一度として聞いたことのない名前である。
( ^Д^)「どうしたって胡散臭いよな……」
壁掛け時計は八時を指すまであと少し。
気になることは多々あるが、学校を遅刻するわけにもいかない。
ひとまずは身支度だ。
どうするかはそのあとで決めよう。
やばそうなら警察に突き出してハイ終わり、である。
制服に袖を通し、出しっぱなしになっていた筆箱をかばんに放り込む。
こまごまとした準備を済ませたのち、最後に貯金箱から小銭を取り出すと、
やや多めに財布へ入れたのだった。
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7 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:35:02 ID:.MHyaqkY0
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( ^Д^)「──行ってきます」
しかして、朝食を済ませて家を出るまでに奇妙なことが二つあった。
一つ。
廊下に出て行ったはずの長網の姿がどこにも見当たらなかったこと。
二つ。
両親がそもそも長網の存在に気が付いていなかったこと。
どういうことだ。
後ろ手で玄関の扉をしめつつ、首をひねる。
やはり夢だったとでも言うのだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ「遅かったですね」
(;^Д^)「おわっ」
ζ(゚、゚*ζ「ちょっと、待たせといてその反応ひどくないですか?」
(;^Д^)「……いや、さすがに驚くんすけど」
安織は顔をひきつらせて言う。
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8 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:35:47 ID:.MHyaqkY0
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・・・・
なにせ長網は安織に、後ろから声をかけたのだ。
たった今、扉を後ろ手でしめた安織に。後ろから。
あたかも唐突に現れたかのように。
──いや。
実際、長網は唐突に現れたのだ。
(;^Д^)「まったくもって何が何だか……」
ヾζ(゚ー゚*ζ「その辺りは今から説明しますから。
ほら、のんびりしてると遅刻しちゃいますよ」
長網は安織の背をぽんぽんと叩く。
その感覚に、一瞬でも長網は幽霊か何かなのではないか、と考えた自分を
馬鹿らしく思った。
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9 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:36:59 ID:.MHyaqkY0
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( ^Д^)「つか、さっきまでと雰囲気違くないすか」
ζ(゚ー゚*ζ「規則なんですよ。
ファーストコンタクトはきちんとしなきゃいけなくて」
ζ(^ー^*ζ「でもやっぱり肩がこりますし、
安織くんも緊張しちゃうかなあと思って」
( ^Д^)「はあ」
安織様ではなく安織「くん」と呼ぶあたり、
長網もこちらの方が楽なのだろう。
実際、安織もこちらの方が楽だった。
言葉こそ敬語だが、
うっかり警戒するのを忘れてしまうほどに長網の態度はフランクである。
ζ(゚ー゚*ζ「まあ、こっちの仕事のためにもですね、
安織くんはなるたけ自然体の方がいいんですよ」
( ^Д^)「仕事すか」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ。
……そうですね、とりあえずは私たちのことからお話しましょうか」
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10 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:37:41 ID:.MHyaqkY0
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ζ(-ー-*ζ「安織くんは、世界が幾重にも重なっている、
という話を聞いたことがありますか?」
──長網が言うのは所謂、パラレルワールドのことであった。
近い未来、人類は世界の多重構造に気付くという。
長らく夢の産物、あるいは世迷いごととされてきたパラレルワールド。
その存在が証明されるというのだ。
いわく『世界』とは、
途方もなく縦長いカラーセロファンのようなものらしい。
件の証明によれば、
薄っぺらな赤のセロファン、青のセロファンといった様々な『世界』が
複雑に重なり合いながら存在しているらしいのだ。
やがて、人類は赤のセロファンから青のセロファンへ
「横」の移動が出来ることにも気が付いた。
世界の多重構造が証明されて、わずか10年後のことである。
その後、瞬く間に赤のセロファンの先端から色褪せた後端まで、
いわゆる時間軸である「縦」の移動が出来ることも発見された。
人類は言葉の通り「縦横無尽」に世界を探り、弄り、駆け巡ったのだと、
長網は苦虫を噛み潰したような顔で言う。
いつしか。
赤と青のセロファンはその境界が曖昧になり、
一枚の紫のセロファンになっていた。
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11 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:38:31 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚、゚*ζ「これって本当によくないことなんですよ」
赤と青とがもはや離れられなくなって、一つの紫になってしまった。
二枚であったはずのセロファンはいつの間にか一枚になり、
二度と元に戻せなくなったのだ。
一つと一つ、そして新しいもう一つができたのではない。
一つと一つが溶け消えて、新たな一つとなってしまったのである。
いつの間にか、仮に今から両の世界を断絶したとして、
それでもどうにもならないところにまで来てしまっていたのだ。
そのような世界に当然議論は紛糾する。
だが、結局は誰もが薄々気が付いていた結論に辿り着くこととなった。
『これ以上世界に異常をきたしてはいけない』と。
──そうして発足されたのがデレの所属する世界均衡管理局なのである。
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12 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:40:44 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「局員である私たちは様々な世界を巡り、
縦横の移動が偶然に発生しないよう修整、
あるいはその行為が不可能となるよう調整をしているんです」
( ^Д^)「はあ」
ζ(゚ー゚*ζ「この安織くんの世界──便宜的に、
黄のセロファンとでも呼びましょうか」
ζ(^ー^*ζ「ここは『紫』に比べると比較的旧時代な世界ですから、
まだまだ調整が利きます」
ζ(-ー-*ζ「間に合って……本当によかった」
そう言う長網の語気は真剣で、そこに冗談の要素こそ読み取れないものの、
やはり安織には些か突拍子の過ぎる話に思える。
( ^Д^)「うーん」
ζ(゚、゚*ζ「……なんだか、信用できないって顔ですね」
( ^Д^)「はあ、まあ、正直なところはそうっすね。
信用できないというか、にわかには信じられないと言うか」
考えるように俯くと、道のそこここにある水溜りに目がいく。
ここ最近、連日続いていた大雨の爪痕だ。
今日は久々の好天である。
とはいえ、水はけの悪いところでは
未だ道全体が大きな水たまりのようになっているところもあり、
散歩するには少々条件が悪いのだろう、人通りは平常に比べて少ない。
安織は頬をかき、嘆息する。
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13 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:41:29 ID:.MHyaqkY0
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( ^Д^)「そもそも、なんでその紫のセロファンの人が
他の世界の調整までしてんすか」
ζ(゚ー゚*ζ「それはもちろん私たちのような失敗≠これ以上
増やしてはおけないから……」
( ^Д^)「建前っすね?」
Σζ(゚ー゚*ζ「うぐ」
( ^Д^)「あからさまに目を泳がせるから……」
ζ(´、`*ζ「だってー。
私、嘘つくの苦手なんですもん……すぐ顔に出ちゃう…………」
そりゃ、こっちにだって本音はありますよ。
長網は愚痴をこぼすような口調である。
ζ(゚ー゚*ζ「まあ、混ざって欲しくないんですよね」
( ^Д^)「混ざる?」
ζ(゚ー゚*ζ「私らのとこは今、紫じゃないですか。
そこに黄が混ざったら、あるいは緑が、白が、
とにかく様々な色がどんどん入ってきたらどうなると思います?」
( ^Д^)「そりゃ色が混ざって……あ、」
ζ(゚ー゚*ζ「これ以上の変化はそれこそ収集つかなくなっちゃうんですよ」
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14 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:42:02 ID:.MHyaqkY0
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絵の具を使うときの水入れを思い浮かべる。
透明に赤を入れるだけなら綺麗なものだ。
だが、そこに青が足され、また他の色が足されていくどうなるか。
決まりきったことである。
使えるだけ使った水入れの中身は濁り淀んで、目も当てられないありさまだ。
長網が言いたいのはつまり、そういうことだろう。
( ^Д^)「じゃあ長網さんは」
ヽζ(゚ー゚*ζノ「デレです」
いったい何のこだわりなのか。
( ^Д^)「…………デレさんは」
ζ(^ー^*ζ「はい」
( ^Д^)「えーと、なんで俺のとこに来たんすかね」
( ^Д^)「世界の調整だかなんだかわかんないすけど、そんな重要そうなこと」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、なんだ。そんなことですか」
( ^Д^)「えぇー……」
ζ(゚ー゚*ζ「案外、些細なことが大局に影響を与えたりするもんですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「私の担当は安織くんですけど、他にも各地で担当を持つ局員が
そこそこの人数で『黄』の世界に来てるんです」
いわく、世界に『変えられている』と気付かれないように
『変えていく』ことが重要らしい。
それはまるで何気なく蹴った小石を集め、手元を見ないままダムにするような、
とにかく気の遠くなる作業なのだそうだ。
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15 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:43:00 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「というわけで、ですね」
となりを歩いていた長網が急に足を止めた。
思わず振り返った安織の目を射抜くかのように見つめ、語気を強めて言う。
人ζ(゚ー゚*ζ「安織くんにぜひ協力していただきたいわけです」
(;^Д^)人「……協力っすか」
顔が近い。
ヒールを履いてもなお、
頭の位置は安織より少々低いぐらいだろうか。
後じさろうにも両手をがっつり掴まれてしまいうまくいかない。
正直、ぎょっとするほど強い力である。
女性だろうに、どこからこんな力が出ているのだと疑問に思うのが先行して、
もはや照れもへったくれもない。
ζ(^ー^*ζ「大丈夫、何にも悪いことはないです!」
( ^Д^)「それむしろ悪いことがあるときに言うやつっすよ」
ζ(゚ー゚*;ζ「ええーじゃあイイコトばっかりですよ」
( ^Д^)「ますます怪しいっすね」
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16 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:44:01 ID:.MHyaqkY0
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(;^Д^)「……つか、手、そろそろ痛いんすけど」
ζ(゚ー゚*ζ「ありゃ、ごめんなさい」
ぱっと放す。
血が巡り、両手が熱くなった。
( ^Д^)「デレさん力強いっすね」
ζ(゚ー゚*;ζ「あは、はははー……ごめんなさい」
( ^Д^)「いや大丈夫っすけど」
あからさまに目を泳がせる。
今なにかまずい場面だったか、と考えたが思い当たることもない。
長網が黙ってしまったので安織も黙る。
もともと話すのはあまり得意ではないのである。
そうして、
ζ(゚ー゚*ζ「──それじゃあ、続きはまた後で」
学校に着くなり、長網はそう言って姿を消してしまった。
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17 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:44:54 ID:.MHyaqkY0
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──文字通り消えたのである。
直前に長網が言ったことには、
世界均衡管理局員とやらはあまりこちらの世界に長居できないらしい。
影響を与え過ぎてしまうのを防ぐため、
せいぜい1日数時間が限度なのだそうだ。
また、自分は安織以外には直接的に干渉できないのだと言っていた。
要するに、他者には長網の姿は見えず、声も聞こえず、
仮に直接触れたとしても、その存在に気付けないのだそうだ。
だが地面は歩けるし、扉も開ける。
物も食えるというのだからよくわからない。
意図的に曖昧な存在になることで、
やはり『黄』へかかる負担を減らすための仕組みだそうだが。
( ^Д^)(やっぱ信じらんないよなあ)
担任が出席を取るのを聞き流しながら嘆息する。
それを耳ざとく聞きつけたのか、隣の席からからからと笑い声が飛んでくる。
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18 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:45:58 ID:.MHyaqkY0
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<_プー゚)フ「プギャー!ジジくさいな!」
( ^Д^)「お前がガキくさいだけだっての」
<_プぺ)フ「なにおうっ言いえて妙だな!!」
( ^Д^)「難しい言葉を使った大人アピールだか知らんが
それだと納得してるからな」
<_プー゚)フ「な!ん!だ!と!!」
しまいには、担任からうるせーと一言。
ホームルームはあっさりと終わる。
さて、学校にいる間安織が授業に集中出来るはずもなく。
長網という存在、『紫』のこと、協力するか否か、
そもそも何をするのか……などなど。
まとまらない思考を巡らせているうちに下校時刻を迎えるのだった。
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19 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:46:57 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「待ってましたよー」
(;^Д^)「おわ」
校門を出ると再び後ろから声をかけられた。
驚いておかしな声が出てしまったために、
周囲を歩いていた生徒にちらちらと視線を投げられるのがいたたまれない。
(;^Д^)「あのー後ろから声をかけるの、止めてもらっていいっすかね」
どうやら安織以外には本当に長網が見えていないようなので
小声で、なるべく前を見ながら言う。
ζ(゚、゚*ζ「えー」
(;^Д^)「何で不満げなんすか」
ζ(゚、゚*ζ「いや、驚く反応が面白くてやっていたのでちょっと」
( ^Д^)「アンタいい性格してんな」
ζ(゚ー゚*ζ「やだ、それよく言われるんですよー」
( ^Д^)「まず間違いなくいやみっすよ」
あはは、と笑う長網に呆れつつも、その整った顔に思わずはっとさせられる。
すらりとした体躯に、小さな頭。
くりくりと大きな瞳は本当に人形のようである。
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20 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:48:34 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「そういえば、具体的な干渉内容について伝えてなかったですね」
はたと思い出したように長網が言う。
それは正直、安織も気になったていたことだ。
些細なことが大局に影響する──とは長網の言葉だが、
その些細なこととは何なのか。
日中の思考にはそのことも含まれていた。
ζ(゚ー゚*ζ「安織くん。今、好きな人いますか?」
( ^Д^)「………………は?」
今、とても話が飛躍した気がしたのだが。
というか聞き間違いだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ「いますね、いますよね。
でないと私にこういう司令、そもそもでないはずですもん」
( ^Д^)「いや、あの、え?」
ζ(^ー^*ζ「例えば……そのたくさんの小銭、どうするんですか?」
(;^Д^)「!!」
思わず鞄を後ろに隠す。
財布を意識しての行動だが、それがまったくの無意味であることは
誰よりも自分が痛感していた。
予想の斜め上を軽く突き抜けた展開に動揺を隠し切れないのだ。
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21 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:49:58 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「そもそも今歩いてる帰り道、行きと違うとこを歩いてますけど。
どこに向かってるんですかねー」
(;^Д^)「いやこれは、癖で」
ζ(゚、゚*ζ「ほうほう。癖になるほど通いつめている……と」
(;^Д^)「違う、いや違くないんすけど、あの、ただちょっとパン屋に」
ζ(゚ー゚*ζ「お相手はパン屋の子なんですね、なるほどなるほど」
(; Д )(ぐああああああ!!)
もはや何を言っても墓穴である。
せめて恨めしく長網の顔を睨むも、メモを取る手を休めもしない。
ζ(゚ー゚*ζ「いやーいいですね。青春って感じで」
ζ(-ー-*ζ「私もパン屋の可愛い子に恋する青春、送りたかったなあ」
( ^Д^)「…………え?」
ζ(゚ー゚*ζ「ん?」
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22 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:50:59 ID:.MHyaqkY0
-
ζ(゚ー゚*;ζ「……えへ」
自分の発言を反芻した長網の表情が、瞬時に変わった。
それは安織も同じである。
( ^Д^)「デレさん女の子が好きなんすか」
ζ(゚ー゚*;ζ「何を当然なことを!あっいや、えっとー」
( ^Д^)「…………男?」
ζ(゚ー゚*;ζ「ぎっくー」
( ^Д^)「マジすか」
ζ(゚ー゚*;ζ「マジっす」
(;^Д^)「えぇーーーーーーー!?」
ζ(゚ー゚*;ζ「ああもう!私周りから見えてないんだから、安織くん目立ってる!
目立ってますよ!!」
そう言われ、慌てて口を噤むも衝撃が消えるわけではない。
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23 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:51:37 ID:.MHyaqkY0
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(;^Д^)(デレさんが? ……男?)
いやいやいやいや。
どう見ても着ているのは女性もののスーツである。
というかスカート穿いてるし。
しかしあの不自然に強い力。
その後の妙な沈黙も、性別がばれるのを恐れたためだと思えば納得がいく。
ζ(゚ー゚*;ζ「ちょっとあの!あんまりジロジロ見ないでくださいよ、変態!」
(;^Д^)「変態はどっちだ!」
ζ(゚、゚*;ζ「違いますー私はこういうかっこの方が似合うし、
こう、女の子に近づける気がして気持ちいいからしてるだけですー」
(;^Д^)「性癖ダダ漏れじゃないすか!!」
ζ(-、-*;ζ「うう、まさかこんなに早くバレるとは」
( ^Д^)「バレるというか、単純にデレさんの失言っすよね」
ζ(゚、゚*;ζ「本命がいるのに突如現れた美しい女性にどきどきしちゃう……!
そんな罪悪感に悶える安織くんに最後の最後で、
安心して?私、男なんですからってネタばらしする予定がああぁ」
(;^Д^)「最低な予定だな!!
つか自分で美しいって言ったよこの男!」
ζ(゚、゚*;ζ「男っていうなあデレさんですー!」
(;^Д^)「朝から名前にこだわってんのはあれすか、響きが可愛いからすか!」
ζ(゚ー゚*;ζ「そうだよ悪いかあー!」
(;^Д^)「開き直ったよ!!」
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24 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:52:37 ID:.MHyaqkY0
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(;^Д^)「てかですね、別に本命だとか好きだとか、そういうんじゃないんで」
ζ(゚、゚*ζ「でましたー失恋したくないばかりに
そもそも恋してること自体を認めないなよ男ー」
(;^Д^)そ「なよ男!?」
ζ(-、゚*ζへ「こういうのに限って嫉妬深いんですよね、もうデレさんウンザリ」
(;^Д^)「独断と偏見をさも女性目線で騙るのやめてもらっていいすかね!!」
傍から見れば道の真ん中でぎゃあぎゃあ騒ぐ、
さぞ頭のおかしな高校男児に見えたことだろう。
人通りの少ない道で本当によかった。
安織がさりげなく辺りに視線を滑らせながらそう思っていると、
視界の端に不自然に青い色を捉えた。
( ^Д^)「あれは」
ζ(゚、゚*ζ「どうかしたんですか?」
指でさし示す。
その先ではブロック塀にブルーシートがかかっていた。
塀は崩れているようで、シートの下から砕けたコンクリートが散見している。
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25 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:53:50 ID:.MHyaqkY0
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( ^Д^)「この間通ったときはなかったんすけど」
ζ(ー、ー*ζ「事故でもあったんですかね」
( ^Д^)「……トラックか何かじゃないとこうはならないすよね。
ここのところずっと雨が続いてたんで、そのせいかも」
近くに花束がないあたり、最悪の事態はまぬがれたのだろうか。
昨日まで降り続いていた雨の跡はまだそこらにある。
例のお店が近いからかなんとなく、えも言われぬ不安に駆られてしまう。
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26 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:54:46 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「ところで、安織くん」
( ^Д^)「何すか」
ζ(゚ー゚*ζ「どんな子なんですか、例のお相手さんは」
(;^Д^)「えぇー……そこに戻るんすか」
ζ(^ー^*ζ「当たりまえじゃないですか。本題ですもん」
ζ(゚ー゚*ζ「ほらー世界の命運がかかってるだけで、ただの恋バナですよー。
話しちゃってくださいよー」
( ^Д^)「そうなって来るともはや『ただ』の定義が気になるっすね……」
ζ(゚、゚*ζ「もーさっきから文句ばっかり。何が不満なんですかっ」
( ^Д^)「逆に何が不満じゃないと思ったんすか。
話し相手が女装した男って時点でこっちはだいぶげんなりっすよ」
ζ(゚ー゚*ζ「あはは」
( ^Д^)「笑ってごまかせると思ったら大間違いっすからね」
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27 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:55:57 ID:.MHyaqkY0
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そうこうしている内に香ばしい香りがしてきた。
目的地であるパン屋に着いたのだ。
ガラス戸越しに陳列されたパンが見える。
どれもきれいな焼き色でカリッふわっとした食感は想像するに易い。
ζ(゚ワ゚*ζ「わあっかわいらしいお店ですね」
( ^Д^)「お気に入りっすよ」
からんからん。
ガラス戸をくぐると軽やかに鈴の音が鳴り、
o川*^ー^)o「いらっしゃいませ」
──愛らしい笑顔が向けられる。
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28 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:56:43 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「……あの子ですね」
( *^Д^)「いや、まあ……ハイ」
ヾζ(゚、゚*ζ「もう、ちょっと!デレデレしちゃって!
本当に可愛い子じゃないですか、やだーもー」
ばしばしと安織の背中を叩く。結構普通に痛い。
止めようとして、長網が他人には見えないことを思い出した。
ζ(゚、゚*ζ「あの子、名前なんて言うんですか?」
( ^Д^)「須藤さんっすよ。……ほら、首から名札かけてるじゃないっすか」
ζ(゚ー゚*ζ「須藤キュート、ですね。よーしメモしました」
下手な動きをして引かれてはたまったものではない。
そう考え、長網が何をしてきても動じないぞ、と
安織はひそかに気を引き締める。
ζ(゚ー゚*ζ「さて、七日間です」
ほら、また何か言い出した。
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29 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 19:57:20 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「──今日込みで七日間。
それで、安織くんと須藤さんとの恋を成就させます!」
(;^Д^)「はあ!?」
ζ(^ー^*ζ「張り切っていきましょう!」
(;^Д^)「ちょっ、アンタ何言って」
と、そこまで言って視線に気づく。
o川*゚ー゚)o「ええと……?」
……言わんこっちゃない。
(;^Д^)「いやその、ちょっと色々思い出しちゃって」
o川*^ー^)o「あら、思い出し笑い、でしたか?たまにありますよね。
お声がけしてしまいすみません」
天使か。
安織は心の中で拝む。
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30 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 20:00:11 ID:.MHyaqkY0
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o川*゚ー゚)o「そうだ、こちらのドーナツ新作なんです。
今ちょうど揚がったばっかりでオススメですよ」
須藤はしゃがみこみ、安織が見ていた棚の下の段を示す。
図らずも下から見上げられる状態になり、安織はどぎまぎしてしまう。
( ^Д^)「じゃ、折角なんでこれ……二つ」
o川*^ー^)o「かしこまりました」
須藤は二つに結った髪をさらりと流して頷くと、
慣れた手つきでドーナツをトレイに乗せた。
o川*゚ー゚)o「他にも食べたいものありますか?」
( ^Д^)「あっと……大丈夫す」
o川*ーーー)o「それじゃあお客さん、常連さんなのでオマケしちゃいますね。
試食サイズですけど味は保証します」
少々お待ちください。
そう言うとトレイをレジに置き、店奥の調理場に入っていく。
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31 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 20:01:25 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「……予定通り接触できましたね!」
( ^Д^)「うわ、まだいたんすか」
ζ(゚、゚*#ζ「む、ちょっとそれ失礼じゃないですか!
誰のおかげで話しかけてもらえたと思ってるんですかー!」
( ^Д^)「まあ、確実にデレさんのせいで変な人だとは思われましたね」
ζ(゚ー゚*ζ「何だわかってるじゃないですかあ」
( ^Д^)「デレさんわかってないみたいだから言いますけど、
今のを人はいやみと呼ぶんすよ」
ζ(゚ー゚*;ζ「え゛」
固まったデレを横目に財布を出していると、ちょうど須藤が戻ってきた。
片手に、小さくカットされたパンが入ったビニルの小袋を持っている。
( ^Д^)「や、ほんと、わざわざありがとうございます」
o川*^ー^)o「いえいえ。今後とも御贔屓に」
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32 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 20:02:09 ID:.MHyaqkY0
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o川*゚ー゚)o「──324円になります」
須藤がそう言うと、安織は財布から小銭を取り出す。
100円玉が3枚。10円玉が2枚。そして1円玉が4枚。
324円ジャストである。
o川*゚ー゚)o「はい。ちょうどお預かりします」
o川*^ー^)o「……いつも助かります」
( ^Д^)「いや、たまたま多く持ってるだけなんで」
ζ(゚ー゚*ζ「ふうん。た、ま、た、ま、ねえ」
後ろからぐい、と覗き込んでくる長網を黙殺しつつ、須藤から紙袋を受け取る。
中からドーナツのあたたかさが伝わってくるあたり、
まさに揚げたてだったのだろう。
からんからん。
o川*^ー^)o「ありがとうございました」
鈴の音とともに笑顔が向けられる。
すぐにガラス戸が閉じてしまうので、あまり長くは見ていられないが。
( ^Д^)「……っす」
軽く会釈を返して店を出た。
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33 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 20:03:00 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「いやーいい子でしたね!」
( *^Д^)「そうなんすよ。
このパン屋を見つけて以来ずっと通ってるんすけど、本当にいい人で」
ζ(゚ー゚*ζ「安織くん、ちょっと高嶺の花すぎやしませんか?
相手変えましょう!」
( ^Д^)「デレさんその二言目は余計っすわ」
ζ(´、`*ζ「だってーほんと嘘つくの苦手なんです」
( ^Д^)「たち悪いわ」
パン屋を出た後、長網の作戦会議しましょう、という提案のもと
パン屋近くの公園へ来ていた。
鉄棒、砂場、すべりだいにブランコと定番の遊具が詰まっているわりに
小さな敷地が災いしてか人気はない。
それは表向き一人で℃U歩をしている安織にとって、ぴったりの条件であった
。
色のはげかけたベンチに腰掛ける。
( ^Д^)「まったく、そのカッコは嘘に入らないんすかね」
ζ(゚ワ゚*ζ「これはファッションなので!」
( ^Д^)「あ、ドーナツんまい」
ζ(゚、゚*;ζ「スルーするのひどいっ」
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34 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 20:04:03 ID:.MHyaqkY0
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( ^Д^)「折角デレさんの分も買ったんすから、少しは黙って食べてください」
ζ(゚、゚*;ζ「ぐむむ」
ζ(゚、゚*;ζ
ζ(´ワ`*ζ「おいひー」
( ^Д^)「っすよねえ。これ、また買おうかな」
ドーナツはまだほんのりとあたたかく、
一口かじると甘い香りが口いっぱいに広がった。
ザクザクとした外側とうって変わって中身はふわふわである。
輪の半分にはオレンジソースがかかっており、
その酸味がさわやかに後味を引き立てる。
おいしい。
オレンジピールでささやかに飾り付けられた可愛さもあるし、手ごろな価格だ。
きっと人気商品となることだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「まあ、相手変えましょうなんてのは冗談として」
( ^Д^)「高嶺の花は事実なんすね」
ζ(゚ー゚*ζ「私に考えがあります!」
( ^Д^)「えぇー……」
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35 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 20:05:00 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚、゚*ζ「まだ何も言ってないのに不満とはいい度胸じゃないですか」
( ^Д^)「もうデレさんに対する信用が限りなくゼロっすからね」
ζ(゚ー゚*ζ「……まあ、いいです。
後でめちゃくちゃ感謝することになるんですからっ」
( ^Д^)「はあ」
ζ(゚ー゚*ζ「──そうだ、忘れるとこでした」
長網はごそごそとポケットを探る。
取り出したのは、
( ^Д^)「腕時計、すか」
黄色のそれである。
ζ(゚ー゚*ζ「ふふふ。特別製ですよー」
そう言いながら、腕時計を安織の手に巻きつける。
着けてみると思いのほか馴染むので驚いた。
( ^Д^)「任務遂行まで取れませんとか、失敗すると爆発するとか、
そういう特別じゃないっすよね」
ζ(゚ー゚*ζ「安織くんやっぱり学生ですねー漫画の読みすぎですよ」
( ^Д^)「世界均衡管理局(笑)」
ζ(゚ー゚*ζ「ハイ、煽るのやめてもらっていいですかー」
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36 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 20:05:52 ID:.MHyaqkY0
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長網は自身の腕を少しまくり、
安織に渡したものとの色違いを着けているのを見せた。紫色だ。
そしてつい、手首に目がいく──白い。
しかし華奢というほど細くもない。
男の骨格だ、と思う。
ζ(゚ー゚*ζ「これ、残り時間なんですよ」
( ^Д^)「残り時間?」
ζ(゚ー゚*ζ「はい。私が『黄』の世界にいられる、残り時間です」
ζ(゚、゚*ζ「一日数時間と言いましたけどね、これがけっこー厳しいんですよ。
長過ぎると強制的に『紫』に送られます」
( ^Д^)「はあ」
時計に視線を移す。
確かに、現在時刻を表しているにしては針の位置がおかしい。
というか文字盤が真っ白である。
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37 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 20:07:25 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚ー゚*ζ「長針が一日単位の残り時間、短針は七日単位の残り時間です」
見れば、長針は真下を、短針は右上を指している。
( ^Д^)「……今日はあと半分ぐらい、
全体ではまだまだ余裕ありってとこすかね」
ζ(゚ー゚*ζ「その通り!かしこいですね」
ζ(^ー^*ζ「まあ相手があの美少女な時点で
余裕もへったくれもないんですけどねー」
( ^Д^)「ほんと二言目いらねえ」
ζ(゚ー゚*ζ「ちなみにこの時計、
他にも自動展開の機能があるので……これで精密機械なんですね。
まあくれぐれも濡らさないようにお願いします!」
( ^Д^)「はあまあ、了解っす」
ζ(゚ー゚*ζ「んー具体的なところだと、通信機になってますかね」
( ^Д^)「ありがちっすね」
dζ(゚ー゚*ζ「話すだけなら時間外でも可能なので、
恋しくなったらいつでも声かけてくださいね」
( ^Д^)「ははは」
いったい何の冗談なのか。
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38 名前: ◆3TZSFRho.I 投稿日:2016/04/02(土) 20:08:53 ID:.MHyaqkY0
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ζ(゚、゚*ζ「……ううん、思いのほか時間ないですね」
長網が腕時計を眺めながら呟く。
文字盤が真っ白なのに違和感を覚えるのは安織だけらしく、
長網の方ではこれが普通らしい。
時間の感覚が違うのだろうな、とぼんやり思う。
ζ(゚ー゚*ζ「私にちょっと考えがあるんですけど、
今日の残り時間任せてもらっていいですか?」
( ^Д^)「何するんすか?」
+ζ(゚ー゚*ζ「それは秘密です!」
( ^Д^)「あの、何しでかすかわからない人に丸投げするほど
俺も馬鹿じゃないんすけど」
ζ(゚ー゚*ζ「まあまあ、そう言わず。
安織くんは家で待っているだけでいいので」
ζ(^ー^*ζ「──また後で!」
(;^Д^)「あっちょ、本当に何するんすか!?」
時すでに遅し。
長網はベンチからひょいと降りると、次の瞬間にはいなくなっていた。
任せるも何もあったものではない。
(;^Д^)「……マジで、余計なことしないでくださいよ」
長網が何がしか提案した時点で、
安織にはもはや祈るように呟くしか選択肢はなかったのである。
[月曜日] 了