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156 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:32:23 ID:JUjYJa420
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最もうまくいった時間軸が何かといえば、ツンが独房へ入れられず、ドクオの世話だけをし続けたあの時だろう。
僕はツンと一緒に商店街の生花店で店番をした。
今まで生きていた中で、一番の輝かしい記憶。
ほんのひと時でも彼女と目的を共有できたことがうれしかった。
タイムリープをした僕だけがその記憶を持っている。
そのときの温かさを忘れたくはなかった。
たとえ彼女がドクオに掛かりきりだとしても、すがりたい思い出ではあった。
だから、記憶を頼りにそのときの服を作った。
彼女が自力でつくったときと同じように、黒いインナーとタイツの上に銀色で塗装された布を巻いた。
その気になれば小一時間で作れてしまう簡単な制作過程だ。
でも、僕にとってみればその服は宝のような思い出だった。
この世のだれも覚えていないというのなら、僕だけがその姿を通して君のことを思い出そう。
これから先の成功を願う勝負服としよう。
そう、思った。
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157 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:33:22 ID:JUjYJa420
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ξ;゚听)ξ「……あなた、だれ?」
なりふりはかまっていられなかった。
僕は直接、ツンの家の、ツンの部屋に飛び込んだ。
両親のいない時間ということもあり、中学校を卒業したばかりの彼女はひどくおびえていた。
(´・ω・`)「どうも、未来人です」
全身銀色タイツの僕は、勢いに任せて、流れるように説明を重ねた。
(´・ω・`)「君はいずれこの力で人を救おうとする。覚えておくといい」
驚愕も疑問も猜疑もあって当たり前だろう。
そうわかっていながらも、僕は彼女の表情をつとめて無視した。
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158 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:34:02 ID:JUjYJa420
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ξ゚听)ξ「ねえ、もしかして、あなた転校生?」
どきっとした。
投げかけられた言葉はまさしく正解で、でも決して知られてほしくない人だ。
(´・ω・`)「いや、違うよ。僕は転校生じゃない」
学校では噂が広まっているのだろうが、僕の両親に掛け合えば転校先を変えることは容易だった。
今回の手法は、僕の演技に掛かっている。
僕がいるのは裏方で、ドクオと仲良くなるのはツンだ。
ツンとドクオがお互いの傷を癒し合うようにお膳立てをする。
それが僕の立てた、真の作戦だった。
(´・ω・`)「期待してるぞ、ドクオ」
ξ゚听)ξ「え?」
(´・ω・`)「いやなに、こっちの話だよ」
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159 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:35:27 ID:JUjYJa420
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僕の笑ったのを、彼女が不思議そうに見つめていた。
なんだかとても平和なしぐさで。
体感としてついさっきまで彼女が廃人になりかけたことを、僕はすっかり忘れた。
こうして僕は、彼女の前から去った。
学校からも離れ、転入先は都内にした。
タイムリープをするのは主にツン。僕はその補佐をするだけ。
すべてはツンを守るためだ。
彼女が平和に生きるために。
僕は、彼女の傍に、ドクオのいる未来を望んだ。
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160 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:36:22 ID:JUjYJa420
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∞∞∞
∞∞8
∞8∞
∞88
8∞∞
8∞8
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
∧∧∧
∧∧∨
↓↓↓
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161 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:37:22 ID:JUjYJa420
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街並みの急激な変化にももう慣れた。
僕にとってもっとも価値があるのは、山間で見つかった黒いバラだけだ。
深い山の森の奥へと入り、地滑りが起きて、私は遭難する。
そして、地層から生える黒いバラを見る。
(´・ω・`)「相変わらずだな」
ショボンは吐き捨てるように言った。
黒いバラは何も言わない。
夜の空を照らすなかに、ショボンの顔も見えた。
遠くて小さくて、まるで自分じゃないかのようだ。
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162 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:38:32 ID:JUjYJa420
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少し前から気づいていた。
ドクオを守り、生き延びさせて、将来まで時間を進めた場合。
地震が起きたときに僕は石を拾わなければならない。
そうしなければ、僕はタイムリープをしないことになり、ドクオは死んでしまう。
未来を得るために、僕はタイムリープを繰り返さなければならない。
ドクオの生きている世界。
生きて、ツンとともにくらしていく 世界。
そこに僕の姿はなくともいい。
(´・ω・`)「さよならだ」
黒い花弁を指でつねる。
青白い光がにわかにともる。
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163 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:39:22 ID:JUjYJa420
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「待てよ」
と、耳に聞こえてきた。
草木の折れる音。
土の閉める音。
そして、走ってくる音。
(´・ω・`)「え……」
振り向いたその瞬間。
目の前に火花が散った。
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164 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:40:23 ID:JUjYJa420
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(#'A`)「待てっつってんだこらあああああああああああああああああああああ!!!」
、。
(#'A`)つ))゜ω゜`) 。;`、...o
、。
「なにいいぃいぃぃいいいぃぃぃぃぃぃぃ?!??!?!?!!!!?」))´゜ω゜`)。;`、...o
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165 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:41:43 ID:JUjYJa420
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顔面への痛打に腰が浮いた。
たたらを踏んで、かろうじて尻餅を逃れる。
(#);´・ω・`)「き、君は……」
(#'A`) フゥー...
見たことのある顔。
なんどもなんども、救おうとしては裏切られてきた顔。
この時間軸では、決して記憶に残る出会い方をしていないはずの顔。
(#);´・ω・`)「……いったい誰なんだ、君は」
この世界で、僕は彼、ドクオとはかかわりのない赤の他人だ。
なぜ彼がここにいるのかは皆目見当がつかないが、大義名分は外してはならない。
言葉に注意しながらも、苦笑いしつつ言を重ねた。
(#);´・ω・`)「ずいぶんなことをするじゃないか。見ず知らずの他人を相手にいきなりぶん殴るなんて。
君のことは知らないが、発散したいものがあるならもっとべつのところへ行って」
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166 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:42:41 ID:JUjYJa420
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('A`)「何ごたごた言ってんだよ。てめえ、ショボンだろ」
ひゅう、と低く夜風が吹いた。
(#);´・ω・`) ・・・
答えを図りかねている私に、ドクオがさらに口を開けた。
('A`)「あんたなんだろ。ずっと、俺たちを助けてくれていたのは」
何もかも知っている。
そう直感したからこそ、ショボンは深く溜息をついた。
(#)´・ω・`)「どういうことかな。なぜ君が、私のことを覚えているんだ」
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167 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:43:42 ID:JUjYJa420
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('A`)「勘、というかなんというか」
うーん、と呻きながらドクオは頭をかいて天を仰ぎ見た。
視線を追ったが、ただ星が光っているばかりだ。
('A`)「ちょうど高校に入ったばかりのころかな。死にたくなった時期があったんだ。
仲の良かった友達に死なれて、自暴自棄になっていた。人生どうでもいいと思い始めていた」
('A`)「だけど、気づいたら俺の手元にはメモがあった。
『死ぬな。決して、忘れるな』とそこには書いてあって、見ていると胸がうずいたんだ。
死ぬな、死ぬな、って。そのときは意味が分からなかった。でもとりあえず信じて、死ぬのを躊躇った」
昔のことを語るドクオには、顔だちこそ同じだけれども、高校時代とは違っていた。
死に急いでいたころの顔つきはなくなり、穏やかに生について話している。
頬の痛みが引いていくのを感じながら、岩によりかかってドクオの話を静かに聞いていた。
('A`)「それからしばらくして、たまたま不思議なことが起きた。生花店でバイトしていたときだな。誰かに出会った気がしたんだよ。
メモを持って、覚えていることを書こうとしてうんうん唸っていたけど、結局そのときは何も書けなかった。
でも既視感があったんだ。こんなふうにメモを持って思い出を探ったことがかつてあった気がした」
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168 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:44:53 ID:JUjYJa420
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('A`)「俺は違和感の正体を知りたかった。友達と協力して自分の知り合いを当たったんだ。
高校時代や中学時代の同級生、先生方、父兄の方々。
最後の最後に、俺の友達が思い出したんだ。そういえば、転校すると言っていたのに直前になってやめた人がいるって」
(´・ω・`)「それで、転校生の正体を突き詰めて僕にありついたというのか」
('A`)「ああ、相当時間がかかっちまったけどな」
かかった、とは思えない。
僕がツンの経営する生花店を訪れてから、ひと月と経っていないはずだ。
(´-ω-`)「君に探偵の才能があるとは知らなかったよ」
頭を下げて、それからすぐに顔をあげた。
(´・ω・`)「だが、悪いがそれはすべて妄想だ。証拠もないだろう。
第一何度もいうが、僕は君と会ったことがないのだ。関わりなど一切ない」
強い口調で言い放った。梢が風に揺れたのが、声のせいにも思えてきた。
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169 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:45:42 ID:JUjYJa420
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('A`)「そうだな。関わりはない。でも、会ったことはある」
(´・ω・`) ?
('A`)「言えるんだよ。たとえ記憶が無くとも、メモを見たときの俺の頭を確実に何かが過っていたんだ」
なあ、とドクオは言葉をつづけた。
(´・ω・`)「随分と自分勝手な想像を巡らせるな」
('A`)「そうだとも。昔から、そんなふうに生きているよ」
鼻で笑ったドクオは、ショボンの前に仁王立ちをした。
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170 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:46:44 ID:JUjYJa420
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(´・ω・`)「はは、なるほど。面白い考えだ」
かわいた笑いとともに、ショボンが頬を撫でた。
傷のあった個所も癒えて、ふくらんだ頬を優しく触れる。
(´・ω・`)「しかし、どうして私を止める。
君には関係のない話だろう。私が何をするかなど」
('A`)「この期に及んで、まだそんなことを言うのか」
ドクオが一歩僕のほうへと足を踏み出した。
('A`)「何も言わずに死んだり消えたりするっていうのは、これ以上なく相手を傷つけることなんだよ」
まるで昔の俺じゃないか、と最後に小さく続けていた。
(´・ω・`)「ふん」
胸にわいてくる怨嗟の念を感じながら、僕は噛みしめるように言った。
(´・ω・`)「かわいそうだ、などと言われる筋合いはないよ。
僕がいると君らは不幸になる。だから僕は君らと会わない道を選んだ。
かまわないで、放っておいてくれ。君らは君らで好きに生きればいいだろう」
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171 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:47:56 ID:JUjYJa420
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('A`) ・・・
(#'A`)「あ゛ー、もうめんどくせえ!!」
叫ぶと同時に、腕をぐるぐると回し始めた。
(#'A`)「んなこむずかっしい話はどうだっていいんだよ!
何が、不幸になる、だよ。どうしてそんなことが言える。
よしんば言えたとして、それが何になる。不幸になろうがなんだろうが、それが俺らの人生だろうが」
僕の目の前で、ドクオは両腕を胸の前に構えた。
(#'A`)「俺が何に怒っているか教えてやるよ。お前のその態度だ。
俺と知り合いになろうともしていないのに、俺のことを全部わかっているかのようなその物言いだ。
お前に俺の何がわかる。お前の見てきた俺が俺の全てだと思うなよ!」
殴りかかったその手はショボンの両手に阻まれた。
肌と手袋とがぶつかって、空気がバシンと軽快な音を鳴らす。
(´・ω・`)「僕とやるのか」
(#'A`)「おうよ、こいよ」
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172 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:48:43 ID:JUjYJa420
-
(´-ω-`) ・・・
(´・ω・`)「いいだろう」
息を短く吐き出すと、僕もまた腕を前に構えた。
息を弾ませて、肩幅程度に脚を広げる。
(´・ω・`)「受けてたとうか、ドクオ。それで君の気が晴れるというなら」
見よう見まねのファイティングポーズだが、形にすると案外立ちやすい。
何事も理に適っているものだなといまさらのように感心する。
目の前にいるドクオは、まだ青筋を立てている。
気が立っている彼を見て、僕の口元が小さくゆるんだ。
確かに、僕はこの人のことを全然知らないのかもしれない。
(#´・ω・`)「かあ!」
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173 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:49:52 ID:JUjYJa420
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拳と拳が飛び交う。
がむしゃらに腕を振る。息を弾ませ、蹴りを入れ、飛びのいて避けて飛びかかる。
ひたすらそれの繰り返し。自分が何をしているのかもそのうちわからなくなった。
夏の夜の更ける中、そうして戦いはつづけられた。
∧∧∨
何時間が経過しただろうか。
夜だったはずの黒い空が青くしらみ始めている。
(#)´ ω `)
ヒグラシの鳴き声が遠く聞こえる。
耳の鼓膜が破れているようだ。周りはどこもとらえどころがない。
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174 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:50:44 ID:JUjYJa420
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(メ)A )「へ、へへ……」
横たわる僕の視線の先で、倒れていた彼が笑っていた。
(メ)A )「もう動けねえや、ちっくしょう」
ため息交じりの笑いがひとつ。
(#)´ ω `)「僕もだよ」
頬の腫れはしばらくの間引きそうにない。
(メ)A )「まったく、そんな贅肉だらけのくせにいい拳しやがって」
(#)´ ω `)「君こそ、そんなもやしみたいな体のどこに力を隠していたんだ」
(メ)A )「格闘ゲームは好きだったからな」
(#)´ ω `)「お前それが言い訳になると本気で思っているのか」
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175 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:52:08 ID:JUjYJa420
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(メ)A )「なあショボン。教えてくれよ。どうしてお前は記憶から消えていたんだ」
(#)´ ω `)「どうした、突然」
(メ)A )「知らないままでいるのも悪い気がしてな」
(#)´ ω `) ・・・
(#)´ ω `)「タイムリープ。時間を遡る力だ」
(メ)A )「時間を?」
(#)´ ω `)「たとえば今ここでタイムリープをしてしまえば、この谷での殴り合いの記憶は勘違いとなり薄れていく」
(メ)A )「なるほど。それでお前のことをどんどん忘れていったのか」
(#)´ ω `)「矛盾が起きないように、調整がされているんだよ。どこかの、それこそ神様の手によってかもしれない」
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176 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:52:53 ID:JUjYJa420
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(メ)A )「神様、ねえ」
(メ)A ) ・・・
(メ)A )「その力どうやって手に入れたんだ」
(#)´ ω `) ・・・
(#)´ ω `)「ちょうどこの谷の底に黒いバラのような岩が見えるだろう。
あれを拾ってから、この力に目覚めた。宇宙人だか何かの技術が籠っていたんだろうな」
(メ)A )「オカルトかよ」
(#)´ ω `)「オカルトさ」
(メ)A )「なあ」
(メ)A )「あの岩を壊したら、どうなるんだ」
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177 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:53:52 ID:JUjYJa420
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(#);´ ω `)「なにを言ってるんだ。僕がこれからタイムリープをするから、君は自殺を思いとどまったんだぞ」
(メ)A )「その俺によってあの岩が消えると、何が起こる」
(#);´ ω `)「それこそまさにタイムパラドックスだ。岩が壊されれば君は死ぬが、君が死んだら岩は壊されない」
(メ)A )「じゃあどうなるんだよ。矛盾が起きて、全部吹っ飛んじまうのか?」
(#);´ ω `)「……時間の流れが一方向でしかない四次元世界を生きている僕たちにはその事象は観測できない」
(メ)A )「わからないってことだよな」
(#);´ ω `) ・・・
(メ)A )「俺はさ」
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178 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:54:34 ID:JUjYJa420
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(メ)A )「馬鹿だから、矛盾だの四次元だの、そういうのはよくわからねえ。
でも、要するに賭けじゃないかな。俺が生き延びるのにタイムリープが絶対に必要なら、矛盾が起きて最悪みんな死ぬ。
万が一にも、時間を遡らなくても俺が生き延びる可能性がもしあれば、あの岩を壊しても問題はない」
だったら、と言葉が続く。
起き上がる影が僕の顔にかぶさった。
ちょうど朝焼けの光を浴びて、ドクオが谷の奥へと歩んでいく。
足元はふらついているが、それでも止まらず進み続ける。
(#)´ ω `)「本気なのか」
声を振り絞って投げかけると、ドクオが後ろ向きに手を振ってきた。
(メ)A )「もしも今度があったらさ、拳じゃなくてゲームで戦おうぜ。俺、喧嘩とか嫌いだし。
小学校のころに流行ったゲームがあってさ、格闘ゲームなのに四人まで遊べたんだよ。
あれ、一緒にやろうぜ」
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179 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:55:13 ID:JUjYJa420
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ドクオの体がよろめいた。
力が限界に達したのだろう。
前かがみに倒れ行くその姿が、途中の姿勢で立ち止まる。
両の手がバラの花弁を掴んでいた。
首を垂れながらも、腕だけは伸ばしている。
吐息が聞こえた。
声にならないドクオの叫びが谷底に木霊する。
曙の空にカラスが飛んでいく。
次の一日が始まろうとしている。
ドクオの背中がわずかに起きた。
(#)´ ω `)「覚えておくよ、きっと」
ほのやかな暖気に包まれて、僕は意識を失った。
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180 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:56:40 ID:JUjYJa420
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000
(;´・_ゝ・`)「割り切れないなあ」
職員室の入り口側に伸びている一学年担当者の列の中。
手に持ったコーヒーをこぼしそうになりながら、デミタスは頭を掻き毟った。
ξ゚听)ξ「何をそんなに悩んでいるんですか、先生」
職員室に来ていたツンは冷ややかな視線をデミタスに向けていた。
(;´・_ゝ・`)「いや、生徒に言うわけにはいかないから。ほら、鍵」
手渡された鍵につけられたタグには「屋上」と書いてある。
夏休みに入ってから、毎日職員室で天体望遠鏡の設置されている屋上に出るための鍵をもらうのがツンの日課になっていた。
ξ^凵O)ξ「そんな言い方したら気になりますよ」
鼻で笑って問い返したら、デミタスは伏し目になって気もそぞろなようすになった。
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181 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:57:22 ID:JUjYJa420
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(´・_ゝ・`)「もしかして、気づいてる?」
ξ゚听)ξ「ていうか、『転入生用』って書かれた封筒が机の上にあるじゃないですか」
脇机の一番上に無造作に置かれていた封筒を、いまさらデミタスは「あっ」とつかんだ。
(´・_ゝ・`)ゞ「いやー、まいったね。まだみんなには黙っていてくれよ。九月から発表だから」
ξ゚ー゚)ξ「黙っておきます。どんな人なんですか?」
(´・_ゝ・`)「それは言えないよ。楽しみにしてなさい」
ξ゚听)ξ「はーい」
夏休みの職員室は人口もまばらだ。
授業はなく、部活指導や補修の先生が出入りするくらいなものだ。
デミタスは補修を開いていたのだが、午前中にすべての講座は終わり、残務整理をしていたところにツンがやってきた次第だった。
ξ゚听)ξ「じゃ、割り切れないっていうのは?」
(;´・_ゝ・`)「あ、まだ訊くんだ」
ξ^凵O)ξ「聞こえたので」
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182 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:58:24 ID:JUjYJa420
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(´・_ゝ・`)「来年に君たちが行く修学旅行の班だよ」
デミタスは大きく背中を反らして椅子の背もたれに寄りかかった。
軋んだ音をさせながら、腕を伸ばして欠伸をする。暇で仕方ないといった様子だ。
(´・_ゝ・`)「四人ずつで割り切れないんだ。せっかく綺麗に割れていたのに」
ξ゚听)ξ ・・・
ξ゚听)ξ「は?」
(´・_ゝ・`)「え?」
ξ゚听)ξ「そんなことですか」
(;´・_ゝ・`)「な、なんだね。気になっていたことなんだよ」
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183 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/04/02(土) 23:59:23 ID:JUjYJa420
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ξ゚听)ξ「いや、だって」
言葉を一瞬貯めて、ふっとその口元に笑みを浮かべた。
ξ゚ー゚)ξ「一つの班が五人になるだけでしょう。にぎやかになってむしろいいじゃないですか」
(´・_ゝ・`)「そうかなあ」
ぼやいているデミタスを聞き流して、ツンは机の上に置かれた生徒名簿を一瞥する。
飾り気の薄い教師用の一覧表。
一年四組、二九名。
二重線はどこにも無い。
――時をかける俺以外 完
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時をかける俺以外
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時をかける俺以外
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時をかける俺以外
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時をかける俺以外