時をかける俺以外

64 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:34:38 ID:/OZyJZx20
 シャンデリアを見ていたら目がチカチカし始めた。
 ただでさえ酔いが回っているのに、さらに頭痛が酷くなる。取り皿を置いて、椅子に腰掛けていた。

 高校の同級生から同窓会の葉書が来た、と母親から連絡を受けたのは一ヶ月前のことだった。

 大学生になると同時に離れた田舎では、駅前の大きなホテルだけが新しくなっていた。
 その一室を貸し切って、今日の同窓会は執り行われている。

 仲の良い奴が多いわけでも無かったが、断る理由も無かったし、なにより幹事が熱心なものだから、脚を運んでみた。
 案の定話す相手も少なかったし、その分余計に酒を煽ってしまった。

 頭の中が揺れている。随分と酔ってしまったみたいだ。気分はあまり良くはない。それでも居心地は不思議と良かった。
 たとえわずかでも昔見かけた人たちの、その後の姿を見るのは思いの外楽しくもあった。

 ステージの上が賑やかになっている。
  _
(*゚∀゚)「やあやあ皆様、ご盛況何よりです。こうしてみんなで落ち合うのは、成人式のとき以来ですかね。
     あれから四年? 五年? まあ、どうでもいいですか。
     大人になると自分の歳に無頓着になるなんて昔からよく言われていますが、あれって本当なんですね。私今日実感しましたよ。
     心はいつでも高校生ですけどね! 仕事なんてしたくねえ!」

66 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:36:17 ID:/OZyJZx20

  _
(*゚∀゚)「何はともあれ、元三年四組一同、二七名!
     一人も欠けることなくこの同窓会に集まれたことをこの場で祝します。皆さんどうもありがとー!」

 幹事がほとんど怒鳴るように言い放ち、その場で倒れた。
 顔もかなり赤かったし、酔いが回っていたのだろう。「早速一人欠けたぞ!」なんて誰かが叫んでいた。



ξ゚听)ξ「お疲れさん」

 突然、頭の上にコップが置かれた。振り向けばそばに見知った顔が会った。

(*'A`)「ああ、いたのか」

ξ゚听)ξ「欠席者無しって幹事が言ってたじゃない」

 まったく、とぼやきながら、ツンは俺の手を引いた。

ξ゚听)ξ「辛いならじっとしないで、夜風に当たった方がいいわよ」

(*'A`)「でも、会はまだ続いてるし」

ξ^凵O)ξ「あの様子じゃまだまだ終わらないわよ」

67 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:37:40 ID:/OZyJZx20
 有無を言わさず、ツンは俺の腕を掴んだ。
 小さな指が俺の手首に絡まる。俺も立ち上がって、彼女の後ろについていった。

 ホテルの自動ドアを潜った途端、晩夏の涼しい風が吹いた。

ξ゚听)ξ「寒いわねえ、今年は」

(*'A`)「セミの声は聞こえるんだけどな」

 ホテルの敷地内をぐるぐると歩いた。
 ちいさな庭園や、刈り込まれた低木、石像などを二人で眺めた。
 やがて見るものもなくなって、並んでベンチに腰掛けた。

 星空はホテルの灯に邪魔されてほとんど見えなかった。

ξ゚听)ξ「どうよ、久しぶりの田舎は」

('A`)「空気が綺麗だ」

ξ゚听)ξ「やっぱり違う?」

('A`)「都会は煤まみれだから」

68 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:38:40 ID:/OZyJZx20
 高校を卒業して、都会の大学に入り、就職も都会で行った。
 反対にツンはずっと地元に残っていた。実家の生花店を継ぐと言っていたのを覚えていた。

 近況報告は軽くすませた。
 大事なことはメール等で連絡を取り合っていたし、会社勤めが始まって以降の日々からは、共有できるような話題もめっきり少なくなってしまっていた。
 住む世界が変わっていくにつれて、友達だった人たちと世間話さえもしにくくなる。どこの誰にでもありうることだ。

 「それから」の話題が尽きると、自然と「それまで」の話に移っていった。

ξ゚ー゚)ξ「小学生の頃からドクオはゲームばっかりだったね」

('A`)「外で遊ぶのは性に合わなかったんだよ」

ξ゚听)ξ「田舎でそれは致命的よ」

('A`)「そりゃあな。だから友達も少なかった」

 他愛ないことを少しずつ二人で掘り起こしていった。
 小学校のときのクラス、行事、日々の生活。中学時代の俺が引きこもっていたこと。そして、その俺と一緒に遊んでくれた人がいたこと。



 避けることはできなかった。俺たちは八年ぶりにブーンの名前を口にした。

69 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:39:41 ID:/OZyJZx20
('A`)「ブーンはさ、本当にゲームが好きだったよな」

 当時はなんとも思っていなかった光景が熱を帯びてまぶたの裏に浮かんでいた。
 引きこもり生活の鬱憤を晴らす、ただの遊びの時間だというのに、今までの人生で一二を争うくらい楽しかった気がしてくる。

 記憶なんて、曖昧なものだな。

 口元は自然と綻んだ。

ξ゚听)ξ「ブーンのお墓参り、する?」

('A`)「起きられたら、朝のうちに済ませるよ」

ξ゚听)ξ「寝ちゃったら?」

('A`)「ブーンには悪いけど、昼過ぎには帰らなきゃならない」

ξ゚ー゚)ξ「じゃ、起こすわ。六時に」

(;'A`)「早くない?」

ξ゚听)ξ「寝てたら乗り込んで叩き起こすからね」

70 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:40:38 ID:/OZyJZx20
 ツンは笑いながら俺の背中を二回ほど叩いた。
 むせ込む俺を見て「ますます身体弱くなったんじゃない?」などと言ってくる。図星だから文句も言いにくい。

ξ゚听)ξ「懐かしいわねえ」

 ツンは、ほっと一息ついた。

ξ゚听)ξ ・・・

ξ゚听)ξ「ブーンが死んでからしばらくの間、ドクオのことが怖かったわ」

('A`)「そうなのか」

ξ゚听)ξ「うん。目つきが鋭くて、人を殺すか、さもなきゃ自殺でもしそうだったわ」

 これもまた、図星。胸の鼓動がちょっと大きくなった。

('A`)「……考えなかった、とは言えないな」

 少し考えて、小さな声で打ち明けた。その方がいいと思った。
 ツンがわずかに息を呑むのがわかり、慌てて首を横に振った。

('A`)「でも、死ぬわけにはいかないって思ってたんだ」

71 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:41:46 ID:/OZyJZx20
ξ゚听)ξ「そうなの? どうして」

(;'A`)「それは……直感というか、なんというか」

ξ゚ー゚)ξ「何よそれ」

 ツンは不服そうに言い、俺は曖昧に口を濁した。

ξ゚听)ξ「でも、死ななくて良かった」

 言葉が途切れた。

 見れば、ツンはわずかに顔を俯かせていた。

ξ )ξ「ブーンがいなくなって、ドクオまでいなくなったら、きっとあたし、どうにかなっちゃっていたよ。
       ひょっとしたら私まで、後を追っていたかもしれない。驚くかも知れないけれど、追い詰められていたんだよ、あたしも」

 細く小さくなりながらも、ツンはゆっくりと打ち明けてくれた。



('A`)「全く気づかなかった」

ξ )ξ「酷いなあ」

72 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:42:47 ID:/OZyJZx20

 ツンの頭が俺の肩に寄りかかる。髪の束が俺の胸もとで垂れた。

ξ )ξ「あたしたちが付き合ったのって、どれくらいの間だったっけ」

('A`)「……一年弱」

 高校二年の頭から、三年生になる直前まで。

ξ )ξ「そっか。そんなもんだったんだ」

('A`)「大したことはしてないよな」

ξ )ξ「あたしも、された覚えはない」

 最初に告白したのが俺だったのか、ツンだったのか、はっきりとは覚えていない。

 ブーンが自殺してから、携帯電話のメールでツンとやりとりをすることが多くなった。
 共通の幼馴染みが亡くなったのに、彼のことを直接には書かなかった。
 わざわざ口に出さなくても、お互い同じ喪失感を埋め合っていることは明白だった。

73 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:43:40 ID:/OZyJZx20
 携帯の画面越しに、どうでもいいことを夜遅くまで語り合った。
 そのうち通学時には隣を歩くようになり、天文部の特権を使って屋上で二人で落ち合ったりもした。

 恋愛だとは、思ってない。その考えは当時も、今でも同じだ。
 慰め合うための接触が、いつしか快くなって、つい長居をしてしまっていた。

ξ )ξ「酷いことをしたよね、あたしたち。ブーンがいないことにかこつけて、二人で手を繋いで歩いたりなんかして」

('A`)「もう昔のことだ。今更気にすることでもない」

ξ )ξ「それでも、ブーンをほったらかしにしちゃったんだよ」

 ツンの頬が俺の肩に接しているからこそ、彼女が震えているのがわかった。

ξ )ξ「もっとちゃんと弔ってあげれば良かった。傷の舐め合いなんかして、逃げてばかりで。ごめんね、ドクオ」

('A`)「俺に謝るなよ」

 咄嗟に言い返して、それから言葉を探した。

('A`)「俺だって同じなんだから。俺に謝られても困る」

74 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:44:43 ID:/OZyJZx20

ξ ー )ξ「……そうだね」

 ツンが顔を上げた。
 肩の重荷が軽くなる。

 庭園を見つめるツンの真面目そうな横顔が、ホテルの灯に照らされてよく見えた。

ξ゚ー゚)ξ「ねえ、ドクオ。約束しよう。もうずっと、絶対に、ブーンのことを忘れないし、逃げもしない、って」

 ツンは言い終わるとともに、澄んだ双眸で俺を真っ直ぐに捉えた。あまりにも力強くて、とても逃げられそうにない。

('A`)「もちろん」
 本心から、そう答えていた。

 死のうとしたことも、幾度もあった。ブーンの死を乗り越えること自体が罪だと、そう固く信じていた。

 でも、それは結局逃げでしかない。

75 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:45:39 ID:/OZyJZx20
('A`)「俺はブーンという友達がいた。それは一生忘れない。抱えもしない。話題にするし、子どもができたら話して聞かせる。いなかったことになんか、絶対にしない」

 ホテルの入り口から、呼び声が聞こえてきた。俺とツンを呼んでいる。
 随分と長く外で話し込んでしまっていたらしい。集合写真を撮るから、と声が聞こえてきた。

('A`)「ほら」

 立ち上がって、ツンに手をさしのべた。

ξ゚听)ξ「あたし、酔ってないよ」

('A`)「関係ない。掴まれよ」

ξ゚ー゚)ξ「ふらつかない?」

('A`)「いいから早く。いつもお前に引っ張ってもらっていたんだから」

ξ゚听)ξ「……気にしてたの?」

('A`)「うるせえ」

 俺が舌打ちをするのと、ツンが吹き出したは同時だった。
 同級生たちが俺たちを呼ぶ声がする。何度も何度も、遠くから。



   ΛΛΛ

76 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:48:05 ID:/OZyJZx20
 月日の流れっていうのはあっという間だ。
 特に社会人になってからは、同じ事の繰り返しの毎日の中で為す術もなく時は消費されていく。

 俺は仕事をいくつも始め、いくつもやめた。勤めても勤めても長く続かなかった。
 都会の空気が合わないのかも知れない、と思って帰郷したのはつい最近だ。

 久しぶりに見る田舎の山の緑は昔と変わっていなかったが、駅前は驚嘆すべき発展を遂げていた。

 故郷では、特に観光業がめざましい発展と遂げていた。
 数年前に地元の高校の地学の先生が発表した天体観測の入門本が口コミで評判となり全国的に大ヒットを飛ばし、
 その中で紹介されていたこの田舎の山からの景色を一目見ようと大勢の観光客が訪れたのだという。

 それに加えて、古い地層の中から新種の生物の痕跡が発見されたとも言われている。
 一部では宇宙人の骨だ、などと騒がれているらしい。

 とにかく様々な注目があり、国内国外の人々がお金を使い込んでいった。
 その結果、駅前には高層ビル群とおしゃれな家が建ち並んだ。

 世の中本当に、何が起こるかわからない。

77 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:49:12 ID:/OZyJZx20
('A`)「本当に、何でこんなことやってるんだかな」

 商店街の軒下で、看板を持ったまま立ち尽くしていた。ぼやいた言葉が花の香りに紛れて漂った。


ξ゚听)ξ「文句言わないの。それ、この街のシンボルにするんだから」

 店の中からツンが言われ、重い溜息をこぼした。



 帰郷したその日に、ツンに捕まった。
 どうせ暇でしょ、と押し切られ、生花店のアルバイト契約にいつの間にか押印させられていた。
 反対しようと思ったが、仕事がないのは事実なので、強くは言い出せなかった。

 その初日、ただ花を売ればいいと思っていた俺は、店の奥に案内され、正座したツンに出迎えられた。

ξ゚听)ξ「いい? この商店街は死に体よ。原因はわかる?」

('A`)「昔から寂れていただろ」

ξ゚听)ξ「いいえ、昔以上よ」

('A`)「そうかなあ」

78 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:50:22 ID:/OZyJZx20
ξ゚听)ξσ「原因は、駅前の異常な発展にあるわ」

 ツンは駅のある方をびしっと指差して堂々と宣言した。

ξ゚听)ξσ「あの駅前に街のみんなが行っちゃって、こっちに客がこないのよ」

('A`)「しかたないだろ。駅前の方が集客力強いし、振興のための補助金だってたんまり貰っているんだから」

ξ#゚听)ξ「そうやってあきらめるのはよくないわ。必ず再起の道があるはずよ」

 私たち振興会は長いこと話し合った・・・・・・とツンは続けた。
 商店街の振興会。ツンの父親が所属していたものだが、今ではツンもそのメンバーであるらしかった。

 会議のやりとりを口で説明されても、イメージがわくものではない。
 俺は眉をひそめるのをそのうちやめて、ぼんやりとツンを見つめていた。

 頭の中が白んでいく。帰宅疲れもでていたし、精神的な疲労もあった。話しなど、ほとんど聞いちゃいなかった。



ξ゚听)ξ「必要なのは、インパクトのあるキャラクターの創設よ。私が中心となって考案したの。ほら、これよ」

79 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:51:20 ID:/OZyJZx20
 抱えていた風呂敷から、ツンが怪しげなものを取り出した。
 蛍光灯の光を受けて全体から輝きを放っている。

 ひからびた銀色の、人型の袋のようなもの。

ξ゚听)ξ「これを着て店の前に立って」

('A`) ・・・

('A`)「何これ」

ξ゚听)ξ「宇宙人の皮」

 商店街のキャラクターだから。何をいってもその一点張りだった。



 そして今まで、一応仕事だからといって着用し、店先に立ち続けている。
 心の内ではとっくに何度も後悔をしていた。

80 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:52:13 ID:/OZyJZx20
(;'A`)「まったくよお、暑苦しい」

 汗ばむ胸もとを引っ張って、外気を無理矢理取り入れた。お手製と言うこともあり、着心地は最悪だ。

ξ゚听)ξ「本当はもう少しがっちりした体格の方が見栄えが良いのかもね」

 生花店のカウンターで、ツンが笑いながら言った。
 きらきらと、胸もとが光っている。俺の身体そのものが発光しているかのようだ。

ξ゚ー゚)ξ「でも細くてもいいか。その方が宇宙人っぽいし」

 星空で有名な街のマスコット、だから宇宙人。
 そんな案が通ったというのだから、この商店街もいよいよ危うい。

ξ゚ー゚)ξ「どう? そろそろ交代する?」

(;'A`)「お前、着るの?」

ξ゚ー゚)ξ「は! 冗談でしょ」

 反駁したい気持ちを、ぐっと堪えて飲み込んだ。

81 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:53:16 ID:/OZyJZx20
(;'A`)「給料は出るんだろ」

ξ゚ー゚)ξ「もちろん」

(;'A`)「じゃ、あと一時間は粘る」

 背筋を伸ばして、今一度気合いを入れる。

(;'A`)ノシ「いらっしゃいませーい」

 商店街の片隅は往来も貧相だ。それでも声をあげたことで、振り向いている人がいた。
 近所で暮らすおばちゃんだとか、学校帰りの中学生だとか。どんな連中であろうとも、来てくれればお客になる。

 服装の突飛さも、着心地の悪さも、汗を流して声を出しているうちに気にならなくなった。
 どんなものだろうと、時間が経てば馴れてくるようだ。

 自分で自分に感心をしていた、そのとき。

「すいません」

 と、声がした。

82 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:55:34 ID:/OZyJZx20
('A`)「ああ、いらっしゃい。お探しものですか」

「ええ、探している花がありまして」

 大人だが、それほど歳はとっていない。俺と同じくらいだろう。大柄な体型が、薄手の服からよくわかる。
 夏だというのに目深に帽子を被っていて、それが少し気になったが、危険だとは思わなかった。

 むしろ、好感が胸の内にわいた。どうしてなのかは、わからなかったが。

('A`)「どんな花ですかね。俺、アルバイトなんで、あんまりコアな花だと店の人に聞かないとわからないかもしれないですが」

「ええ、それじゃ」

 男が心持ちわずかに、帽子を持ち上げる。
 思ったよりもつぶらな瞳があらわになって、俺を見た。




(´・ω・`)「ヒマワリなんてどうでしょう」

 太陽をずっと追い続ける花。流石の俺にもすぐにわかった。

83 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:56:36 ID:/OZyJZx20
 店先から引っ張り出したその黄色い花を手渡すと、男は俺を見つめてきた。顔から、胸元、足の先まで。

(;'A`)「な、何か」

(´・ω・`)「いや」

 店先にずっと立っているから、この変な姿も当然最初から男の目に入っていただろう。
 しかしそれでも、全身をすっぽり包まれている銀色タイツだ。
 どんなタイミングだろうと、気になるのは別に不思議じゃない。

 ツンに隠れて愚痴のひとつでも零そうか、と口を開きかけたとき、男がにやっと笑みを浮かべた。



 まるでいたずらをした子どものような笑い方。



(´・ω・`)「素敵な服だろ、それ。絶対似合うと思っていたよ」

 言葉は聞こえた。
 でも、男はもういない。



   ΛΛ∨

84 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:59:06 ID:/OZyJZx20
('A`) ?



 淡く黄色いヒマワリが地面に優しく音を立てて落ちる。



 今、ここにいたのは誰だ。


ξ゚听)ξ「どうしたの」

 ツンが声をかけてくる。

 俺は答えなかった。

 動悸が激しくなる。

 息を呑み、庇の内側へと飛び入った。

(;'A`)「ペンをくれ、紙も!」

85 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:00:50 ID:MqF3YIYs0
ξ;゚听)ξ「ちょっと、どうしたのよ」

 答える余裕もなく、カウンターの脇からボールペンとメモ帳を引っ張り出した。



 書き留めるんだ。
 心のどこかで、俺が叫んでいる。



 忘れる前に、あいつのことを。





 まぶたの裏に景色が浮かんだ。

 ずっと昔、あいつと出会った。

 病院の屋上で。橋の上で。

 それから、もっと、別の場所。ヒグラシの鳴く、初秋の駅のホーム。

86 名前: ◆QS3NN9GBLM[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:02:09 ID:MqF3YIYs0
(;A;)「馬鹿野郎」

 言いながら、俺は泣いていた。
 どうして涙が出るのかもわからないまま、歯を噛みしめて、嗚咽を漏した。





 お前は誰だ。





 俺を、俺たちを、救ってくれたお前の名は。


 紙を持つ手が大きく震える。

 ペンは未だ動き出せずにいる。






―――了

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