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116 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:02:52.627 ID:sLW7pJSn0
-
_
( ゚∀゚)「今日でこのクラスともお別れだなぁ」
ζ(゚ー゚*ζ「そう考えると寂しいね。
同じ学校にいるのには変わりないのに」
三月も半ば。
長くも短い中学一年生に終わりが訪れた。
デレは睡眠というハンデを背負いながらも、
行事や授業、全てを滞りなくこなすことができた。
友人もたくさんできた。
中でも、ジョルジュやクール、モララーは一番の友達といっていい。
同じ学校にいるとはいえ、彼らと違うクラスになってしまうのは、
とても寂しく、悲しいことだといえた。
ζ(゚ー゚*ζ「また、みんなで一緒に遊ぼうね」
_
( ゚∀゚)「それなんだけどよぉ」
ジョルジュは乱暴に頭を掻く。
何か言いたいらしいが、上手く言葉にならないようだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君?」
_
( ゚∀゚)「みんなで、ってのもいいけどさ」
快活な眉がわずかに下がっている。
いつも真っ直ぐで強気な目が、今日ばかりは何故か弱々しく見えた。
-
117 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:03:15.507 ID:sLW7pJSn0
-
_
( ゚∀゚)「オレと、ってのは、駄目?」
ζ(゚、゚*ζ「え?」
-
119 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:04:29.606 ID:sLW7pJSn0
-
_,
( -∀-)「……だ、だからさ」
ジョルジュは一度、強く瞼を閉じる。
眉間にしわが寄った。
_
( //∀/)「つ、付き合ってください、って、こと、
なんだ、けど」
瞬間、ジョルジュの顔が真っ赤に染まる。
林檎よりも、夕日よりも赤い。
ζ(/、//ζ「え、え……。
えぇ……?」
つられてデレの顔も赤く染まる。
彼女もまた、この世に存在する何よりも赤い顔を見せていた。
_
( //∀/)「返事は!」
ζ(/、//ζ「ちょっと待ってよぉ!」
急かされ、デレは反発の声を上げる。
向こうは心の準備を行った後の告白だったのだろうけれど、
デレからしてみれば晴天の霹靂だ。
動揺しないはずがない。
-
120 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:04:57.142 ID:sLW7pJSn0
-
ζ(/、//ζ「えっと、えっと……」
_
( //∀/)「まだかよ!」
二人っきりの教室で、
真っ赤な顔をした男女が顔をうつむかせ、
もじもじとしている。
それだけで、結果なんてわかりそうなものだが、
本人達にはそれがわからない。
当事者というのは、自身を客観的に見れないものだ。
特に、顔を真っ赤にして、正常な思考回路を失っているのならば尚更。
ζ(/ー//ζ「よ、よろしく、お願いします……」
_
( *゚∀゚)「えっ、そ、それって」
ζ(/、//ζ「これ以上は無理!
察して! お願い!」
_
( *゚∀゚)「や、やった!!」
ジョルジュは飛び跳ね、
デレはさらに顔をうつむかせる。
そのまま小さくなって消えてしまいそうな勢いだ。
-
121 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:05:17.828 ID:sLW7pJSn0
-
川 ゚ -゚)「で、付き合い始めた、と」
( ・∀・)「えー、本当にいいの?
後悔しない?」
交際開始を伝えると、
二人はあっさりとそれを受け入れた。
もともと、デレとジョルジュが互いに想いを寄せつつあることに
気がついていたらしい。
_
( ゚∀゚)「デレはこれからも色々大変だろうからな。
オレが支えてやるんだ」
ζ(゚ー゚*ζ「よろしくね!」
( ・∀・)「まあ、キミらが仲良しなのはいいことだよ。
ジョルジュ、ちゃんと大事にしてあげるんだよ」
_
( ゚∀゚)「わかってるって!」
川 ゚ -゚)「泣かせたら殴る。
浮気したらちょん切る」
_
(;゚∀゚)「こわっ」
-
122 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:05:55.174 ID:sLW7pJSn0
-
ζ(゚ー゚*ζ「というわけで彼氏です」
_
( ゚∀゚)「よろしくお願いします」
_,
( ^ω^)「は?」
ξ゚听)ξ「あらあら」
交際開始から一ヶ月が経過していた。
たかが恋人。
わざわざ紹介する必要もあるまい、と
デレは思っていたのだが、ジョルジュたっての希望により、
両親に紹介することとなった。
ツンの方は口元に手をあて、
どこか嬉しそうにあらあら、と言うばかりであったが、
父親であるブーンは真逆の反応を見せていた。
声は低く、眉は寄せられ、
歓迎どころか拒絶の意思しか感じられない。
ζ(゚ー゚;ζ「お、お父さん」
_,
( ^ω^)「いやいや。
度胸は認めるよ? 度胸は。
でも、それだけだよねぇ」
-
123 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:06:38.722 ID:sLW7pJSn0
-
_
( ゚∀゚)「ボクは娘さんを幸せにします」
_,
( ^ω^)「中学生の分際で何言ってるんだお?
ぶん殴られたいのかお?」
ξ゚听)ξ「そりゃあんたよ」
( ω )「ぐあ」
全身から攻撃的なオーラを出しているブーンの顔面に、
ツンの拳がめり込む。
ξ゚听)ξ「親馬鹿なのはいいけど、
ちょっとは相手も認めてあげなさいな。
デレが好きになった子なんだから」
_
( *゚∀゚)「あ、ありがとうございます!」
ξ゚听)ξ「でも、その子は大変よ?
普通の子とは少し違うし、心も繊細」
_
( ゚∀゚)「わかっています」
ξ゚听)ξ「それでもいいの?」
_
( ゚∀゚)「そんなデレだからこそ、です」
-
124 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:07:15.713 ID:sLW7pJSn0
-
ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君……」
ξ゚ー゚)ξ「その心意気や良し!
また遊びにいらっしゃい。
あの馬鹿はともかく、私は歓迎するわ」
ツンは笑顔で頷く。
自身の娘が特殊である故に、
その理解者である人間に対する信頼度は大きくなる。
_
( ゚∀゚)「義父さんにも認めてもらえるよう、頑張ります!」
床の辺りから、
お前に義父さんと呼ばれる筋合いはない、という声が聞こえてきたが、
誰一人としてそれに反応することはなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「お父さんのことはアタシとお母さんに任せて!
絶対にジョルジュ君のことを認めさせるから」
_
( ゚∀゚)「そりゃ頼もしいこった」
ζ(゚ー゚*ζ「そしたら、一緒に晩御飯食べようね」
_
( ゚∀゚)「デレの手作りか?」
ζ(゚ワ゚*ζ「それまでにお料理覚えておくね!」
-
125 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:07:55.779 ID:sLW7pJSn0
-
ζ(゚ー゚*ζ「デート!」
川;゚ -゚)「急にどうした」
ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君とデートに行きたい」
川 ゚ -゚)「あぁ、それは良いな」
クラスは離れてしまったが、
今も交流の深いクール。
デレは下校途中、彼女にデートの相談を持ち出した。
ζ(゚ー゚*ζ「夜の間は一緒にいられないから、
その分、お休みの日に色々したいの」
川 ゚ -゚)「そうか」
ζ(゚ー゚*ζ「だからデートしたいんだけど、
どこか良いところしらない?」
川 ゚ -゚)「彼氏いない暦と年齢がイコールで繋がる私に聞くとはいい度胸だ」
ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃんのはできない、じゃなくて、作らない、でしょ」
-
126 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:08:36.662 ID:sLW7pJSn0
-
常に冷静沈着。
整った顔に長身でモデルのような体型をしているクールは、
当然のごとく男子に人気がある。
しかしながら、彼女のお眼鏡にかなうものはおらず、
今のところ彼女に彼氏ができた、という話は一切ない。
川 ゚ -゚)「だとしても、だ。
デートに良い場所なんて記憶にないぞ」
ζ(゚ぺ*ζ「うーん……」
デレの方としても、恋人ができたのはジョルジュが初めてであるし、
行動時間に限りがあるため、周辺施設に関しても疎い面がちらほら見受けられる。
二人っきりで楽しむに相応しい場所を知っているはずがなかった。
川 ゚ -゚)「ミセリとかに聞いてみたらどうだ?
あいつはそっち方面に関しては中々の情報通だぞ」
ζ(゚ー゚*ζ「そっか! 確かにミセリちゃんなら色々知ってそう」
彼女も現在、違うクラスにいるのだが、
誰とでも親しい彼女なので今も交流があった。
ふらっと教室へ赴いたとしても、嫌な顔一つせずに受け入れてくれることだろう。
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127 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:09:24.192 ID:sLW7pJSn0
-
ミセ*゚ー゚)リ「ふーん。ジョルジュとデートねぇ」
翌日、デレはさっそくミセリのもとを訪れた。
予想に違わず、突然やってきたデレを彼女は笑顔で迎え入れてくれる。
ζ(゚ー゚*ζ「良いところないかな?」
ミセ*゚ー゚)リ「あるよあるよー」
そういいながら、彼女は携帯電話を取り出す。
手のひらサイズ、真四角のそれは最新機種だ。
真横に取り付けられたスイッチを押せば、
電子画面が浮かび上がり、指で簡単操作が可能となっている。
ミセ*゚ー゚)リ「この辺りだと、まずは水族館」
表示されたデータには、ムードや満足度、楽しめる度、がABC評価されており、
それとは別に価格や注意事項、特質、といった点が記載されていた。
水族館はムードにA+、満足度と楽しめる度にはAがついている。
価格も中学生のお小遣いで充分な金額だ。
ミセ*゚ー゚)リ「あとは、植物園とか、展望台とかあるけど、
ジョルジュ相手だとショーとかのある水族館がオススメかな」
ζ(゚ー゚*ζ「わぁ、たくさんあるんだね……」
デート場所候補が次々に表示されていく。
どれも評価は高いが、ミセリの言う通り、
ジョルジュのようなお騒がせムードメーカータイプには不向きなものが多い。
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128 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:10:05.790 ID:sLW7pJSn0
-
ζ(^ー^*ζ「ありがとう! 参考にするね!」
ミセ*゚ー゚)リ「いえいえ、デート、頑張ってね」
ζ(゚ー゚*ζ「うん!」
あと数分で休み時間も終わる。
デレはミセリから候補のデータをいくつか送ってもらい、教室を後にした。
_
( ゚∀゚)「よっ」
ζ(゚ー゚*ζ「あ! ジョルジュ君。どうしたの?」
_
( ゚∀゚)「ダチんとこからの帰り」
現在、残念ながら二人は違うクラスだ。
交友関係も一年生時よりもぐっと広がり、
休み時間や放課後ともなれば、各々の友人との付き合いもある。
ζ(゚ー゚*ζ「次の授業、移動じゃない?
大丈夫?」
_
( ゚∀゚)「今日は移動ないから大丈夫ですー」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなこと行って、この間、日付勘違いしてて、
慌てて校庭に出て行ったじゃない」
_
(;゚∀゚)「そ、それはそれだよ」
-
130 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:11:03.794 ID:sLW7pJSn0
-
ζ(゚ー゚*ζ「授業はちゃんと受けなくっちゃ駄目だよ?」
_
( ゚∀゚)「デレは真面目だもんなぁ……」
ζ(゚、゚*ζ「ジョルジュ君が不真面目なの!」
_
( ゚∀゚)「んなことねぇよ。
だってさ、お前ってオレよりも活動時間短いじゃん?
なのにオレよりメッチャ勉強しててさ、偉いよ」
ζ(゚、゚*ζ「…………」
ジョルジュは心の底から褒めてくれている。
だが、だからこそ、デレは無言になるしかない。
起きていられる時間が短いのに、と言われるのは、
少しばかり不服だった。
活動時間が何だというのだ。
仮に、デレが睡眠を必要としない人間だったとしよう。
きっと、彼女は今と同じくらい勉強をする。
残りの時間に遊びを詰め込むだけだ。
本当は、彼女だって遊びたい。
みんなと同じように、次の日がくるまで遊び通して、
そのまま学校に行きたい。
_
( ゚∀゚)「っと、チャイムだ。
じゃあオレも行くわ」
ζ(゚、゚*ζ「……うん。また、後でね」
-
131 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:11:38.477 ID:sLW7pJSn0
-
( ゚д゚ )「河合、席につけー」
ζ(゚ー゚;ζ「あ、はい!」
教室に戻ると、既にミルナが教卓の前に立っていた。
デレは小走りで自分の席へつく。
( ゚д゚ )「それでは、今日の授業を始めるぞ」
生徒達が歴史の教科書アプリを開く。
他のクラスと比べ、デレのいるクラスは大人しい生徒が多いらしく、
どの科目の授業であっても、比較的静かに進行していた。
( ゚д゚ )「今日から消失期に入るぞ」
中学一年から今までにかけて、
歴史の授業では史料が残っている時代について学んできた。
今日からは、それらが殆ど残っていない時代に入っていく。
( ゚д゚ )「今まで学んできた時代では、石や壁に彫られた絵や文字。
保存状態の良い紙や布といったものに印刷、刺繍されたものが
史料として残っていた。では、この時代からそれらが何故消えさったのか」
ミルナは画面に『デジタル』と書く。
( ゚д゚ )「デジタル化だ。
他にも、紙の質が変わった、というのも理由になるが、
大まかな原因はデジタル化にある」
-
132 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:13:02.303 ID:sLW7pJSn0
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そこから、ミルナは淡々と歴史を語っていく。
彼は教科書に載せられているのをそのまま語るわけではなく、
きちんと噛み砕いて生徒達に提供してくれる。
(゚、゚トソン「昔のデジタル物質の寿命が短かったのなら、
何度も媒体を変え、保存すればよかったのでは?」
( ゚д゚ )「本当に必要である、と判断されたものは今も残っている。
消失期、と言うが、全部が全部消え去ったわけじゃない」
ただし、人間同士の争いによって消えてしまった史料が多いのも事実であった。
論文に関してはいくつか残されているものもあるが、
芸術面に関わるものは優先順位が低かったのか、
政府や高位の人間によって保存されていたものは一握り程度もなかった。
かろうじて教科書に載っているのは、残された一握り以下の一つであったり、
名も残らぬ一般が何らかの思いによって残したもの達だ。
( ゚д゚ )「残された史料の中には、戦争を厭うようなものも多い。
我々の先祖は、人同士で争うことの愚かさを常に説いていたようだ」
その結果もむなしく、史料のそこかしこに様々な戦争が記載されていた。
国家間の争いから、国内の内乱まで。数を数えることが馬鹿らしくなる程の量だ。
( ゚д゚ )「そのおかげで、今の我々の生活があるのかもしれないな」
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134 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:13:35.625 ID:sLW7pJSn0
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(゚、゚トソン「今は戦争なんてないもんね」
从'ー'从「うん。犯罪者も殆どいないもんね〜」
(,,゚Д゚)「人が人を殺したり、傷つけたりするなんて、
そんな馬鹿らしいことしないよな」
教室は俄かに盛り上がりを見せる。
平和な世界は素晴らしい、と口々に言い合っていた。
人が争いを好んだのは遠い昔のことで、
今の子供達には想像もつかないような世界の話だ。
どこの国も科学に満たされ、領土の大小に拘らず同等の利益を得ることが可能になっている。
最早、争う理由など、何処にも存在していない。
( ゚д゚ )「科学の進歩だな。
昔は神頼みなんてものがあったが、今じゃそれも必要ない」
二年に上がったばかりの頃に、神についての話があった。
その時も、クラス全員が馬鹿馬鹿しい、と口にしていたものだ。
偶像に頼ったところで、何も生まれはしない。
心の拠り所にして何になるのだ、と。
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136 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:14:35.592 ID:sLW7pJSn0
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ζ(゚ー゚*ζ「……神様、かぁ」
デレは虚空を見る。
かつて、神は様々な姿で描かれたという。
中には、森羅万象、全ての物に神は宿る、とした人々もいたらしい。
その考え方はとても好ましいものだな、とデレは思った。
現代に生きる人々は、あまり恐れを抱かない。
外は常に光に満ちているし、贅沢を望まなければ
最低限の生活は常に保障されている。
死した先にあるものが無なのだろうと確信しているが故に恐怖を抱かない。
確定している未来に対し、足掻きもがくことは無駄な労力でしかない。
けれども、どうしても、デレは恐れを取り払うことができなかった。
未来を考えれば不意に不安が襲ってくる。
その先に待つ死について考えれば、
夜がきても眠れないことがあるほどだ。
ζ(゚ー゚*ζ「神様、どうか、初めてのデートが成功しますように」
デレは祈る。
それを、過去の人は信仰と呼んだらしい。
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137 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:15:14.818 ID:sLW7pJSn0
-
勉強と睡眠の合間を縫って考え抜かれたデートは、
春と夏の境目のとある日曜日に決行となった。
場所は、勧められた通りの水族館。
_
( ゚∀゚)「おー、この水族館来るの初めてだわ」
ζ(゚ー゚*ζ「何でもねぇ、サメのショーがあるんだって」
_
( ゚∀゚)「そりゃ迫力満点だな!
ビビんなよ? デレ」
ζ(゚、゚*ζ「そんなビビりじゃないよ1」
_
( ゚∀゚)「そうかー? お前、暗いところ嫌いじゃん」
ζ(゚、゚*ζ「足元が見えないのが嫌なだけですー」
_
( ゚∀゚)「学校の廊下でもビビってただろ。
あんな何もない場所でさ」
ζ(゚ぺ*ζ「もー! アタシ先に行くからね!」
_
( ゚∀゚)「図星さされたからって怒んなよー!」
そんな軽口を叩きながら、二人は水族館の中へ足を踏み入れた。
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138 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:16:06.706 ID:sLW7pJSn0
-
ζ(゚ー゚*ζ「うわー! すごい!」
上下左右。
どこを見ても水。そして、魚達。
ライトの色なのか、綺麗なアクアマリンの色をした水槽。
その中で自由に泳ぐ魚達も皆美しい。
七色の鱗を光らせているものもいれば、
鮮やかな赤や黄色の尾をたなびかせている魚もいる。
どれもこれも、水族館へやってきた人を歓迎するに相応しい様相だ。
_
( ゚∀゚)「あそこに魚の説明も載ってるみたいだぞ」
ζ(゚ー゚*ζ「どれどれー?」
少し歩いた先に、一本の柱があった。
目を凝らしてみれば、そこには文字がびっしりと書き込まれている。
どうやら、このゾーンで泳いでいる魚の説明のようだ。
ζ(゚ー゚*ζ「あのキラキラしてる子は『ラックス』って種類みたい」
_
( ゚∀゚)「喰えんの?」
ζ(゚、゚*ζ「情緒がなーい」
_
( ゚∀゚)「えっ」
ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君がそういう人ってのは知ってるけどね。
でも残念。食用じゃないって」
_
( ゚∀゚)「ちぇー」
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140 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:16:44.495 ID:sLW7pJSn0
-
ζ(゚ー゚*ζ「ミニマクジラもいるよ」
_
( ゚∀゚)「うおー、マジでちっせぇ」
親指の爪ほどの大きさしかない、世界最小の鯨だ。
あまりにも小さいため、他の魚とは別の水槽に入れられている。
ζ(゚ー゚*ζ「サメのゾーンは向こうだって。
でも、ショーまでにはまだ時間もあるし、
他をゆっくり回ろうか」
_
( ゚∀゚)「了解」
デレの先導にされ、ジョルジュも魚達を見て回る。
中には凶暴な魚もおり、ガラスケース越しにこちらを威嚇してくるものまでいる始末。
鋭い牙にデレは驚き、思わずのけぞってしまった結果、尻餅をつくはめになってしまった。
_
( ゚∀゚)「あーあ、これだからビビりちゃんは」
ζ(゚、゚;ζ「あれはしかたないよ〜」
_
( ゚∀゚)「はいはい。そういうことにしといてやるよっと」
ジョルジュは手を差し出し、デレはそれを掴む。
引き上げられるようにして立ち上がった彼女は、
軽くスカートの汚れを払った。
-
141 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:17:07.733 ID:sLW7pJSn0
-
_
( ゚∀゚)「おー! すっげぇ迫力!」
ζ(゚、゚;ζ「ひ、ひえぇぇぇ……」
ジョルジュは拳を硬く握り、雄たけびを上げる。
場所はサメゾーン。
現在、ショーの真っ最中だ。
調教師がサメにまたがり、広いプールを縦横無尽に泳いでいる。
時折、観客を楽しませるためにベニヤ板やら、冷凍された大型の魚を投入し、
サメに噛み砕かせるのだが、それがまた大迫力で恐ろしい。
見学している者の多くは大興奮しているようだが、
デレはひたすら小さな悲鳴あをあげながら体を縮こまらせていた。
今ならばビビりといわれようが臆病者と蔑まれようが、
肯定のために首を上下に動かしたことだろう。
_
( ゚∀゚)「見ろよデレ!」
ζ(゚−゚;ζ「み、見てますうううう」
_
( ゚∀゚)「サメってすっげー!」
-
142 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:17:29.914 ID:sLW7pJSn0
-
ζ(゚ー゚*ζ「た、楽しかった?」
_
( ゚∀゚)「おう!」
ζ(^ー^*ζ「そっか。アタシも楽しかった!」
サメのショーはともかくとして、
他の魚達を見ているのは楽しかった。
ジョルジュもそれなりに大小様々、美醜様々な魚に反応していたので、
それほど心配はしていなかったのだけれど、
こうしてはっきりと肯定を口に出してもらえると安心感が違う。
_
( ゚∀゚)「あ、そうだ」
ζ(゚ー゚*ζ「ん?」
水族館を出る直前、ジョルジュが回れ右をした。
スタスタと歩いていく後姿をデレは小走りで追いかける。
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの?」
_
( ゚∀゚)「忘れもん」
ζ(゚、゚*ζ「えっ、大丈夫?
係りの人に聞いてみる?」
_
( ゚∀゚)「ん、大丈夫」
-
143 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:18:06.833 ID:sLW7pJSn0
-
ジョルジュが向かったのは、
サメのショーが行われていた場所でも、
ミニマクジラがいた場所でもない。
ζ(゚ー゚*ζ「ここ……」
デレは看板を見上げる。
口元が緩んでしまうのを止めることができなかった。
_
( ゚∀゚)「せっかくのデートだったわけだしな」
対して、ジョルジュは少しばかり気恥ずかしげに言う。
ぶっきらぼうな言い方ではあったが、その声には確かな愛情が見え隠れしていた。
そこは土産物売り場。
魚を模したぬいぐるみや、クッキーや飴、チョコといった食べ物まで揃っている。
店内を見れば、カップルらしき人影がちらほらと存在していた。
_
( ゚∀゚)「記念になるもの、何か買っとかねぇと」
ζ(゚ー゚*ζ「……うん!」
ジョルジュはデレの手をとり、彼女はその手を握り返す。
しっかりと互いの手を繋いだ状態で二人は店に入っていった。
-
144 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:18:57.092 ID:sLW7pJSn0
-
ζ(゚ー゚*ζ「その時に購入したのがこちらになります」
デレは可愛らしいミニマクジラのバッヂを取り出す。
一分の一サイズのためかなり小さい品ではあるが、
その分どこにつけても違和感なく収まってくれる。
( ・∀・)「へー、あのジョルジュがお揃いの品をねぇ……」
_
( ゚∀゚)「んだよ」
( ・∀・)「いえいえ。成長したんだなぁ、とか」
川 ゚ -゚)「私はてっきりサメの話ばかりでデレを退屈させるものだとばかり」
_
(;゚∀゚)「お前らの中でオレの評価ってどうなってんの?」
恋人としては零点、との言葉が二人から同時に返ってくる。
ジョルジュはその場に突っ伏し、
デレはそんな彼を見て微笑みを浮かべた。
ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュ君も成長してるってことですなぁ」
_
( ∀ )「うっせ」
ζ(゚ー゚*ζ「格好いい彼氏が成長してくれて、
アタシはとーっても嬉しいよ」
_
( //∀/)「んじゃ、精々期待しとけ」
ζ(^ー^*ζ「はーい」
-
145 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:19:27.337 ID:sLW7pJSn0
-
それからまた数ヶ月が経った。
デレとジョルジュは、二人で夏祭りに行ったり、
友人達と共に花火を楽しんだりと、有意義な日々を過ごし、楽しい夏休みを終えた。
しかし、夏の終わりと共に、
彼ら二人の関係性は変化を見せ始めた。
ζ(゚ー゚*ζ「あ。ジョルジュ君。
今度の日曜日、映画に行かない?」
_
( ゚∀゚)「あ……、悪い。
もう約束入れちまってるんだ」
ζ(゚、゚*ζ「そっかぁ……」
少しずつ、すれ違う時間が増えた。
睡眠を必要とするデレだ。
メッセージを送るにしても、通話をするにしても、時間が限られている。
約束を取り付けるタイミングがワンテンポ遅れてしまうのは、
どうにもできないことだった。
デレもそれをわかっているからこそ、
悲しげな顔をするだけで、ジョルジュを責めるようなマネはしない。
-
146 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:20:52.497 ID:sLW7pJSn0
-
_
( ゚∀゚)「なあ、今度、星でも見に行かねぇ?」
ζ(゚、゚;ζ「ごめん。夜はちょっと……」
_
( ゚∀゚)「……だよ、な」
恋人同士で星を見る。
それはとても心躍るイベントだ。
風情もある。良い雰囲気になることは間違いない。
しかし、次の日も学校があると考えれば、軽率に頷くことはできなかった。
デレには睡眠時間というものが必要なのだ。
ζ(゚、゚;ζ「……ごめん」
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( ゚∀゚)「いや、お前が悪いわけじゃねぇし」
ζ(゚、゚*ζ「でも……」
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( ^∀^)「いいんだって」
ジョルジュはデレの頭をぐちゃぐちゃに撫で回す。
その声は優しい。
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148 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:22:22.305 ID:sLW7pJSn0
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二人の距離は、少しずつではあるが、確実に離れつつあった。
それを感じているからこそ、二人は近づこうとする。
しかし、その度に感じるのだ。
彼らは同じ人間でありながら、
違う時間を生きている存在なのだ、と。
ζ(゚ー゚*ζ「行ってきまーす」
ξ゚听)ξ「気をつけてね」
そんな折のことだ。
デレは生まれて初めての修学旅行に旅立った。
二年全員で遠くの町へ泊まる。
そんなワクワクイベントに、デレの胸は跳ね回った。
四六時中、友人が隣にいるというのは、どれだけ楽しいことなのだろうか。
学校で顔を合わせているだけでも毎日が幸福に感じられるのだから、
いつもいつでも一緒となれば、幸福度はさらに上がるはず。
デレは無邪気に信じていた。
自身の体について失念していたわけではない。
ただ、学校生活も二年目を折り返すところまできた。
慣れきっていたのだ。
あたかも、自分が周囲と変わらないのではないか、と勘違いするまでに。
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149 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:23:20.654 ID:sLW7pJSn0
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( "ゞ)「では、デレさんはここで一時睡眠を取ってください」
ζ(゚、゚*ζ「はーい」
去年に引き続き、デレの担任となっていたデルタが言う。
現在、午後十時。
デレの瞼は徐々に落ちつつあった。
しかし、デレは眠ることを拒絶したい気持ちでいっぱいだった。
デルタの背後、少し離れた場所に、クラスメイト達が集まっている。
彼らはこれから、予定通りに科学館の見学に向かうのだ。
離脱するのは、睡眠を必要とするデレだけ。
彼らが見学を終え、つかの間の自由時間さえ終了し、
朝食を食べに再びこの旅館へ帰ってきたとき、
ようやく彼女と友人達は合流することができる。
川川゚) (・ )
中には見知った顔も見えた。
背中しか見えないが、どこか楽しそうな色を背負っているのは、
デレの気のせいではないだろう。
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150 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:24:08.696 ID:sLW7pJSn0
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置いていかれる。
デレはそう感じた。
しかし、だからといって、ここに残ってくれ、とはいえない。
彼女以外の人間は、これからも活動を続ける。
眠るデレの傍らで座り続けているわけにもいかないのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「いってらっしゃい」
友人達の背中に小さく告げ、
デレは指定された部屋へと向かう。
今時の旅館は、荷物の保管と整理、加えて食事や入浴等に利用されるのが一般的だ。
当たり前のことだが、眠るための道具が揃っているはずがない。
ベッドが欲しければラブホテルへ。
それが常識だ。
ζ(´、`*ζ「お布団……」
けれど、中学生のデレがラブホテルに入れるはずもなく、
学校と旅館が彼女のためにどうにか用意できたのは、
柔らかなソファと大きめのバスタオルが数枚。
寝転び心地は良いものの、眠るには些か狭く、
やや暖かめに設定されているとはいえ、バスタオルを掛け布団にというのは
どうにも心もとない感じがしてしまう。
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151 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:25:10.264 ID:sLW7pJSn0
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ζ(´、`*ζ「うぅ……。おやすみなさい……」
贅沢を言うことはできない。
自分以外の人間は眠る必要すらないのだから、
寝具が存在していないのは当然。
むしろ、ここまで都合してくれたことに感謝しなければならない。
デレは狭いソファに体を横たえ、
お腹の辺りと胸の辺りにバスタオルを被せる。
ζ(´、`*ζ「……家に、帰りたい、なぁ」
早くもホームシックにかかってしまった。
家に帰りさえすれば、広く暖かいベッドが彼女を待ってくれている。
物心ついたときにはベッドが存在していため、
それがないということがどれほど辛いのか、デレは理解していなかった。
しかし、今ならばわかる。
眠りが必要な人間にとって、寝具がない、というのがどれほど辛いことなのか。
それが、どれほどのストレスに繋がるのか。
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152 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:25:57.503 ID:sLW7pJSn0
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ζ(゚、゚*ζ「おはよー」
翌朝、身支度を整えたデレは、友人達と合流し、朝食を食べる。
食べ盛りの男子がいるという配慮からか、全体的に肉っ気が多い。
寝起きの胃には少々辛いものがあったが、
周囲を見てみれば、男子だけでなく女子も美味しい美味しい、と肉を頬張っている。
眠る、眠らない、ということは、
こんなところにまで拘ってくるのか、とデレはぼんやりと考えていた。
時間だけを見れば充分な睡眠が取れたはずだ。
だが、頭は何故だか寝不足を訴えている。
環境の変化に体が追いつかなかったのか、
そもそも寝具の具合が悪すぎたのか。
科学的な見解を持たぬデレにはわからないが、
今日の自分が本調子ではない、ということだけはハッキリとわかった。
ζ(´、`*ζ「ねむ……」
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( ゚∀゚)「大丈夫か?」
ζ(゚ー゚*ζ「……うん」
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( ゚∀゚)「いや、大丈夫に見えねぇわ」
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153 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:27:25.980 ID:sLW7pJSn0
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ジョルジュの言葉は正しい。
返事をしたものの、それは全くもって本心ではなかった。
本音を言っていいのであれば、今すぐに帰って寝たい。
デレの望みはそれだけだ。
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( ゚∀゚)「あと、古代技術の再現? とか見て、
町の探索とかしたら帰れるから。
もうちょい頑張れよ」
ζ(゚ー゚*ζ「……うん。ありがと」
_
( ゚∀゚)「どういたしまして」
こうして、自分の不調に気づいてくれるジョルジュを見ると、
心臓の辺りがキュウとしてしまうのをデレは止められない。
彼は馬鹿な面が目立つし、粗野であるけれど、とても優しい人間なのだ。
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( ゚∀゚)「あとさ、帰ったら話あんだけど」
ζ(゚ー゚*ζ「うん」
だから、デレはジョルジュが何を話したいのか、
何となくではあるけれど、予想がついていた。
修学旅行中に言わない彼の優しさを知っていたから。
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156 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:29:38.570 ID:sLW7pJSn0
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ζ(゚ー゚ ζ「だって、アタシ達、時間が違うもんね」
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( д )「……あぁ」
ジョルジュも精一杯悩んでくれたのだ。
その末に出た結論が、別れだっただけ。
分かたれた二つの時間を上手く寄せ合わせることができるほど、
彼らは器用でもなければ、大人でもなかった。
たかだか十代の恋。
将来を確約できるような歳ではない。
夢物語のような将来像を話すだけの、
甘っちょろい時代だ。
ζ(゚ー゚ ζ「今まで、ありがとう。
楽し、かった、よ」
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( ∀ )「そりゃ、こっちの台詞だよ。
ありがとうな。楽しかった。幸せだった」
それでも、彼らにとっては、本気の恋だった。
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157 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:30:35.900 ID:sLW7pJSn0
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その日、デレは部屋で号泣した。
好きだという気持ちは残っていたし、
理屈や理性で全てを納得させることができるほど、
彼女は聡明ではなかった。
ξ゚听)ξ「失恋の一つや二つ経験して、
ようやく大人になれるのよ」
( ;ω;)「デレー!
大丈夫かお! パパの胸に飛び込んでくるお!」
ξ゚听)ξ「目はこすっちゃ駄目よ。
たくさん泣いたら冷やしなさい。
瞼が腫れたら、せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうわ」
( ^ω^)「でもデレはいつでも可愛いお!」
ξ゚听)ξ「ちょっと黙って」
部屋の外からツンやブーンが様々な言葉を投げてくれたが、
一つとして、彼女の心に残るものはない。
今、デレの心に残っているのは、
さよならを告げたジョルジュの声だけだ。