ζ(-、-*ζは眠るようです

196 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:55:43.420 ID:sLW7pJSn0
  
川 ゚ -゚)「……あの馬鹿」

大々的に行われた葬儀も無事に終了し、
デレの遺体はバラバラに分解され、然るべき施設へと送られた。

眠りを得た唯一の彼女の姿を残して欲しい、という声もあったが、
大多数の善良なる意見により、彼女の体は現代人と全く同じ方法を持って
処理されることとなったのだ。

彼女の体の一部は誰かに移植され、別の部分は研究に生かされる。
どうにもできない部分に関してのみ、分解され、地に還ることとなるのだ。

( ;∀;)「あぁ、やっぱりあの時、無理やりにでも入院させておくべきだった」
  _
(  ∀ )「んなこと言ったって、アイツの決意は変えられなかった。
     言うだけ無駄だ。もう、つまんねぇこと言うんじゃねーよ」

( ;∀;)「でも、でもぉ……」

葬儀の最中から今まで、モララーは泣き通しだった。
さめざめと泣く姿は、見る者全ての胸を打つ。

泣いてはいないものの、ジョルジュの姿も相当なもので、
生気を失った目をして呆然としているばかりだ。
応答はするものの、彼の視線が何処を向き、何を見ているのかはさっぱりわからない。

そんな中、気丈に自分を保っているのはクールだった。
赤く泣き腫らした目をしているものの、その目にはもう涙はなく、
しっかりと前を見据えている。

197 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:56:31.180 ID:sLW7pJSn0
   
川 ゚ -゚)「お前達、忘れたわけではあるまいな」

( ;∀;)「うん……」
  _
(  ∀ )「……あぁ」

彼らが最後に聞いたデレの言葉。
全てを分け合ってくれ、という遺言。

彼女は本気だったらしく、自宅からは同じ旨が記された遺言状が出てきた。
三人が真っ先にデレの死を知ることができたのも、
一枚の紙があったからこそのことだ。

川 ゚ -゚)「なら、泣き止め。
    哀れったらしい顔をやめろ。
    私まで感傷に浸りたくなってしまう」

全員が同じように涙に暮れてしまっては、
いつまで経ってもデレが残してくれたモノに手をつけられなくなってしまう。
誰かが引っ張らなければいけない。

クールはそのことをよく理解していた。
損な役回りではあるけれど、自分がその役を負わなければならないことも、
よく知っていたのだ。

川 ゚ -゚)「行くぞ」

彼女は率先して歩き出す。
男共はその後に続く。

向かう先はデレの自宅だ。

199 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:57:06.700 ID:sLW7pJSn0
  
死因は心臓麻痺だったという。
そこに至った原因は相変わらず不明のままだ。

だが、かつてのヒトは寝不足から様々な不調を患うことがあったらしい、と
デレの葬式にきていた歴史研究家は言っていた。

ジョルジュ達にはわからないが、
眠らないことによる不調でデレが死んだとするならば、
失われた治療法に嘆きを向けるしかない。

川 ゚ -゚)「鍵は」
  _
(  ∀ )「……ん」

ジョルジュがカードを渡す。
デレの家はカードキーと網膜認証によって開閉される造りだが、
彼女亡き今、この家はカードキーのみでも解錠される。

クールの手によって扉が開かれる。
部屋の内側からは、今も彼女が生きていることを錯覚させるような生活臭が仄かに漂ってきた。

壁紙についた甘いクッキーの匂いに、
しおれ始めている花の芳しさ。
部屋干しされている服からは柔軟剤の香り。

200 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:57:37.825 ID:sLW7pJSn0
  
室内は整然としており、デレの几帳面な性格がよく反映されていた。
机の上にはメモ書きや翻訳文の走り書きが散乱しているが、
ゴミの類は一切見受けられない。

キャビネットには家族三人が映った立体写真が飾られており、
その前に線香が置かれている。

川 ゚ -゚)「綺麗なものだな」
  _
(  ∀ )「散らかす奴じゃねーしな」

( ;∀;)「…………うん」

死を感じていたから片付けたのだろうか。
モララーは頭の片隅で考えたが、言葉を飲み込む。
口にしてしまえば最後、この部屋から出て行くことさえできなくなってしまいそうだった。

川 ゚ -゚)「この部屋の物を分け合わなければならない」

( ;∀;)「そう、だね」

いらない、とは言えない。
その言葉は、デレを否定することに繋がる。

三人はのろのろと部屋を物色して回ることにした。
欲するモノ、というよりは、
手にしていることができるモノ、を探すために。

201 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:58:37.271 ID:sLW7pJSn0
  
デレの部屋には様々なものがあった。
電子書籍を詰め込んだタブレット、
スイッチ一つで完璧な調理をしてくれる機械。
体を一瞬で綺麗にしてくれるスモーク缶。

だが、それらは一般家庭でも手を伸ばせば手に入れられるようなものばかりで、
発明家として名を馳せた女性の家には到底思えない。

もっとも、三人が欲するのは世界に唯一のものではなく、
いつかの未来、それを眺めて笑えるようなものだったため、
ありふれた物でも何ら問題はなかった。

欲しいと思えるものを見繕い、
残った家財はくじでも作って適当にわける。
デレには申し訳ないが、家は売りに出させてもらい、得たお金を三等分する。

全てを終わらせた後は、
各々心の整理がつくまでの時間を過ごせばいい。
心の深いところにいた友人とはいえ、ふた月も経たぬうちに整理してしまえるはずだ。

悲しみに押しつぶされそうになりながらも、
そんなことを思っていた。

( ;∀;)「ふ、ふたり、とも……」

モララーが、一冊の本を恭しく抱きしめながらやってくるまでは。

202 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:59:02.116 ID:sLW7pJSn0
   
川 ゚ -゚)「それは?」

( ;∀;)「日記、みたい……」

モララーが袖で涙を拭う。
声は震えているが、
どうにかとめどなく流れる水を止めることには成功したらしい。

( ・∀・)「デレちゃんが、自分で書いたみたい」

パラ、と表紙を開けると、
遊び紙の部分にデレ直筆と思われる文章があった。
彼女は電子ノートを使うことも多々あったけれど、
後々にまで残る紙やペンを好んで使っていた。
  _
(  ∀ )「でっけぇ日記帳だな」

記された文章は、このノートが確かに日記帳であることを伝えていた。
しかし、その分厚さといったら五cmは優に超える。
毎日小まめに書いていたとしても、一年分では足りないだろう。

( ・∀・)「日付を見ると、十年前から書いてたみたい」

川 ゚ -゚)「……読むか?」

( ・∀・)「それを、デレちゃんが望んでいるみたいだし」

203 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/27(日) 23:59:40.993 ID:sLW7pJSn0
  
ジョルジュ君、クーちゃん、モララー君へ


この日記を見てくれているということは、
私は死んでしまったのだと思います。

三人に家のものを全部譲る、と遺言を書いておいたので、
どのタイミングで私が死んだにせよ、
この家にやってきて、日記を発見してくれていると思います。

もし、私の方が長生きしていて、
ジョルジュ君達じゃない人がこの日記を見てしまったというなら、
お手数かとは思いますが、どうぞ何もなかったことにして、
この日記を燃やしてください。

さて、ひとまず、三人がこの日記を見てくれている、という前提で
文章を進めたいと思います。

この日記には、私の十数年間が記されているかと思います。
嬉しかったこと、楽しかったこと、悲しかったこと。
発見したこと、知ったこと、思いついたこと。

全て知って欲しいと思います。
そして、その上で、選択してほしいと思います。

三人に、こんなことを託してしまい、ごめんなさい。
でも、私はみんなを信頼しています。
どんな結果であったとしても、後悔はしません。


デレより

204 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:00:16.049 ID:MvzU0oQI0
■■■■年■■月■■日

大学を無事卒業!
ジョルジュ君達は一足先に社会人になっちゃったし、
私も頑張ろう!

この決意を忘れないように、今日から日記を書こうと思う。
研究者たるもの、日々のメモが大事だからね。

何十年後かにも見えれるよう、紙とペンにしてみました。
筆跡とかで月日を感じるのも悪くないよね。


-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

史料を探すって大変。
わかってたことだけど、もう何ヶ月も経つのに全然進展しない……。
現代医学のほうもちょっとずつ勉強してるけど、
やっぱり難しいなぁ……。

私の体のこと、もっとちゃんと知りたいのに。
そうしたら、いつか皆みたいに眠らない体になれるかもしれない。

神様! 私のことをお助けください!

なんてね。
困ったときの神頼み、なんて、皆はしないんだもん。
すごいなぁ。

205 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:00:54.804 ID:MvzU0oQI0
    
■■■■年■■月■■日

久しぶりにジョルジュ君達と会った!

前々から思ってたけど、私が一番背が高くなるなんてビックリだよね。
ジョルジュ君なんて運動もできたし
もっと大きくなるとばっかり思ってたもん。

というか、私が大きくなりすぎ、なのかな?
思えば周りよりも私ちょっと大きい。

でも、胸はクーちゃんのほうが大きくて悔しい……。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

クーちゃんがジョルジュ君を取材してた!
すっごいやりにくそうな顔してるジョルジュ君面白い!

またみんなで遊びたいなぁ。

そういえば、ジョルジュ君、彼女できたって聞いたし、
今度みんなで見に行こう! そうしよう!

206 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:01:33.372 ID:MvzU0oQI0
   
■■■■年■■月■■日

医療系の史料じゃないけど、新しいものが見つかった!
昔の人が信仰した神様の話。

学校で習ったよりも、ずっと多くてたくさんの神様や宗教が書かれてた。
あとは天国とか地獄とか。
すごい。昔の人はそんなことをたくさん考えたんだ。

死んだらどうなるか。
私はずっと怖かったけど。
昔の人はこうやって克服していったんだ。

でも、神様のせいで争うくらいなら、
今みたいに神様が信じられていなくて、
平和な世界の方がいいなぁ。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

史料を見ていたら、昔の人が考えた未来図が見つかった。
色々すごいことが書いてて笑っちゃったけど、
中にはビックリするようなアイディアもあった。

思わずモララー君に相談しにいったら、あれよあれよと言う間に
実現しちゃうっぽいんだからすごい。
でも、私のアイディアじゃないし、後はモララー君がやってくれればよかったのに。

208 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:01:55.276 ID:MvzU0oQI0
   
■■■■年■■月■■日

もう! もう!
信じられない!
クーちゃんったら酷い!
気づいたら私が取材陣に囲まれてるなんて!

モララー君もジョルジュ君も皆皆グルだったんだ!
私の成果じゃないって何度言っても、みんな納得してくれないし……。
もう! 史料を解読しただけなのに!

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■■■■年■■月■■日

少しずつ史料も見つかるようになってきた。
私に協力してくれる人が増えたのは嬉しいけど、
みーんな私のことを発明家、って言うのはちょっとなぁ。

私のアイディアなんてほんの少しなのに。
というか、誰でも思いつきそう。
モララー君を含め、ツテがあるから実現してえるだけだって言ってるのに。

空飛ぶ車なんて最たるもの。
浮かせる技術も、前へ進める技術も揃ってて、あとは合わせるだけなのに。

209 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:02:21.025 ID:MvzU0oQI0
   
■■■■年■■月■■日

お父さんが倒れた。


-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

死んじゃった。
お父さん、死んじゃった。


-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

子供の方が長く生きるのはしかたないこと。
でも、悲しい。

お父さんの体はバラバラになっちゃった。
人の役にたつって、わかってるけど、悲しい。
お母さんは何で悲しくないんだろう。
私はこんなに寂しくて悲しいのに。

210 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:02:50.846 ID:MvzU0oQI0
   
■■■■年■■月■■日

昔の人は、お墓を作ったって聞いた。
死んだ人が化けてでないように、供養するんだって。

オバケなんていない、ってみんな言う。
でも、私はいてほしいよ。
お父さんに会いたい。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

お母さんも死んじゃった。
悲しい寂しい辛い

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

たぶんだけど、昔の人はこんな思いをどうにかするために
お墓を作ったんじゃないのかな
忘れないように忘れなくてすむように
気持ちをぶつけるために

神様
お父さんとお母さんは天国にいますか?
私は死んだら二人に会えますか?

211 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:03:24.227 ID:MvzU0oQI0
   
■■■■年■■月■■日

最近、眠りが浅い。
もしかして、成長にしたがって、眠る体質が消えてるのかな?

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

眠い。
日中も眠くてしかたがないのに、
どうしてだか眠れない。

集中力がもたない。
とてもねむい。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

ぼんやりすることが増えた。
色々考えてるはずなのに上手くまとまらない。

今日こそはぐっすり眠りたい。

213 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:03:51.699 ID:MvzU0oQI0
  
■■■■年■■月■■日

睡眠導入剤、というものを史料でみつけた。
昔の人も、眠れなくなることがあったらしい。
たぶん、わたしもそう。

少しゆっくりすることにした。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

少し眠れるようになった。
でも、あまり長くはもたない気がする。

この世界はやっぱりちょっと眩しすぎる。
私が眠っている間に、たくさんのことが変わってしまう。

-----------------------------------

■■■■年■■月■■日

医療系の史料もたくさん集まるようになった。
私も昔に比べて、ずいぶん知識が増えた気がする。
でも、これは間違いであってほしい。

215 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:04:37.798 ID:MvzU0oQI0
  
■■■■年■■月■■日

私一人の考えだから、正しいかはわからない。
でも、一つの可能性として、このことは誰かに知っていてほしい。

抱え込むには、誰かに直接伝えるには大きすぎることだから、
ここに残しておきます。
たぶん、私はみんなより先に死んじゃう気がするから、
そしたら、みんなにこれを読んでもらいたい。

結論からいいます。
現代の人々は、昔の人よりもずっと劣ってしまっています。

私の脳は眠ることでダメージを修復しています。
体の疲れに関しても同様です。

でも、眠れない今の人達は修復できないまま。
平均寿命が八十を越えていた昔に比べ、今は五十後半にまで落ちているのも、
それが原因だと思われます。

もしかすると、身長に関してもそうかも。
私が大きくなったのは、眠れるからかもしれません。

今、マウスを使って不眠実験をした人の記録はありますか?
少なくとも、私がこれを書いているときにはありません。
ですが、それをした、という史料が発見されました。

結果、二週間ほどで皮膚に腫瘍ができ、四週間経った後に死亡したそうです。
私達は眠りに関心を持ちませんでした。
しかし、本来、眠りとは生物にとって必要不可欠なものだったのです。

216 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:05:04.004 ID:MvzU0oQI0
  
ダメージを修復できなくなった現代人の体は、
眠らぬままでも生きられるように進化、あるいは退化しました。

皆さんの脳は、外からの情報に酷く鈍くなってしまっています。
傷つくことがなければ、傷を癒す必要もなくなる。

そのため、人の気持ちにはできるだけ鈍く、
負に落ち込む感情は少なく、
余計なことを考えてしまわぬように想像力は失われてしまった、と考えられます。

私のアイディアが画期的に見えるのはそのためでしょう。
その証拠に、昔々の史料には、私の想像を遥かに越えるようなもので溢れていました。

文明は頭打ちになどなっていないのです。
我々が先に進む力を失っているだけです。

再びヒトが眠れるようになれば、もっと素晴らしく、
もっとずっと先へ進めるはずなのです。

……でも、それが正しい、と
私は断言することができません。

217 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:06:44.624 ID:MvzU0oQI0
   
今の生活はどうですか?
私はそれほど不自由を感じていません。

史料の中にあるような飢餓や天災はなく、
人々はそれなりに幸せを謳歌していることかと思います。

先に進む必要はあるのでしょうか。

また、眠ることによって脳を活性化させれば、
再び争いが始まることかと思います。
現代人は痛みに鈍く、誰かを強く長く恨むことも妬むこともありません。

誰もが緩やかに生き、死ぬことができる世界を悪だといえるほど
私は偉い人間ではないのです。

この世界にヒトとして生まれた私ですが、
ある意味では皆と違う生物なのかもしれません。

ですので、私は今の皆さんに警鐘を鳴らすことはできません。
私のせいで、争いのある世界に戻ってしまったら、
今の平和が失われてしまい、多くの悲しみが生まれてしまったら。

そう考えると悲しくてしかたがないのです。

ですので、ジョルジュ君、クーちゃん、モララー君。
三人に決めて欲しいんです。

この世界をどうするか。
この世界に、「ヒト」として生まれてきたみんなに、決めてほしい。

私の日記を発表して、眠る方法を探すのは簡単だと思います。
睡眠導入剤の作り方も記しておきます。

218 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:07:12.610 ID:MvzU0oQI0
  
■■■■年■■月■■日

今日、中継の途中に倒れちゃった。
ジョルジュ君達が駆けつけてくれた。
嬉しかった。

でも、私はもう長くないと思う。

原因不明、ってお医者さんは言ってたけど、
これは寝不足のせい。

免疫力が落ちたり、バランスが崩れたり……。

誰も悪くないけど、
この世界は私にとって少し辛すぎた。

言葉一つに悪意を疑ってしまうし、
縋るものが少なすぎる。
眩しくて、うるさい世界。

できれば、天国は静かだといいなぁ。

219 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:07:46.077 ID:MvzU0oQI0
   
川;゚ -゚)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」

( ・∀・)「……」

三人は、分厚い日記帳を最後まで読みきった。
数時間ではすまない時間がかかったが、
仕事に関しては数日後まで有給を取っているので問題ない。

現時点で問題なのは、
彼らの中に渦巻く何とも言えない感情だ。

クールは珍しく目に見えてうろたえていた。
大切な友が残した大切な日記。

そこに記されていたのは、
あまりにも生身で、あまりにも真っ直ぐな、
デレの生き様と感情だった。

そこに冗談が混じっていないことは、
赤の他人が見てもわかることだろう。

220 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:08:23.353 ID:MvzU0oQI0
  
固唾を呑んだクールは、そっと自身の左右に目をやる。

ジョルジュもモララーも、
目立った変化を見せていない。

全てを受け止めているのか、
今もなお、デレの言葉を噛み砕いている最中なのか。

( ・∀・)「……どうする?」

言葉を発したのはモララーだった。
何かを断定することなく、
また、日記帳に書かれたことに関して論議するでもなく、
ただ問いかけた。

川;゚ -゚)「どう、って」

( ・∀・)「選ぶのは、ボクらだよ」

モララーは数ページ戻り、
一等長く書き連ねられた日付の最後、
デレが三人に選択を託した文章をなぞる。

( ・∀・)「発表するなら、ボクがする。
      キミには報道してもらいたい」

かつて、デレの成果を世間に知らしめたときのように。
デレ亡き今、ジョルジュに課せられた役目は失われているけれど。

221 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:09:06.552 ID:MvzU0oQI0
   
川;゚ -゚)「だが……」

クールは口ごもる。
デレを信用していないわけではない。

だが、自分達の脳が、遥か昔よりも劣っている、と言われ、
すんなりと受け止めることのできる人間がこの世界にどれだけいるというのだ。

( ・∀・)「人類は成長しなければならない。
      彼女一人の手によって、ここ数年でめまぐるしい発展を得た。
      なら、世界中の人間が彼女になれれば、どれだけ変わる?
      ボクはそれが見たい」

そう告げる彼の目は、研究者としての目だった。
ロボットを専門に扱っているが、
それは、そこが世界の最先端である、と信じていたからにすぎない。

まだ先に何かがあるといわれれば、
手を伸ばさずにはいられなかった。
かつての人々ならば、その思いをロマンとでも呼んだのだろうか。

川;゚ -゚)「待て! そもそも、これはデレの憶測にすぎない!
     憶測で人々を混乱に陥れるわけには――」

( ・∀・)「彼女は天才だった。
     アイディアもそうだけど、あれだけの史料を解読しきったこともそうだ。
     ボクは彼女の才能と能力を信じてる」

222 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:09:58.428 ID:MvzU0oQI0
  
二人の間に火花が散る。
どちらも退くことのできない思いを抱えていた。

感情面が低下している脳であったとしても、
世界を変革するような事実を前にしてしまえば、
一生分の働きをしてくれるくらいには機能してくれている。

川;゚ -゚)「わかっているのか? この日記一つで、
     世界がどうなってしまうのか」

( ・∀・)「わからないよ。だからこそ、その先を見るんだ」

川;゚ -゚)「だから! その先の地獄絵図を、
     ちゃんと考えているのか、と聞いている」

( ・∀・)「考えてないよ。想像もつかない。
      本当はキミも考えれてないんでしょ?
      デレちゃんの描く最悪を思い浮かべてるだけだ」

川;゚ -゚)「そうさ、それの何が悪い。
     デレが示した最悪を、私は回避したい!」

緊迫する二人の空気。
そこに水を差したのは、
今までずっと黙っていたジョルジュの一声だった。

  _
( ゚∀゚)「――墓、作ってやりてぇなぁ」

225 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:13:01.871 ID:MvzU0oQI0
   
二人はジョルジュを見る。
彼らの視線を感じ、ジョルジュは小さく笑ってみせた。
  _
( ゚∀゚)「オレは馬鹿だからさ、何にも考えれねぇよ。
     アイツの描く最悪も、先ってやつも」

遠い目をした彼が見るのは、
発達した未来でもなければ、争いに溢れた未来でもない。
  _
( ゚∀゚)「だったら、せめて、アイツが望んだ墓、ってやつを作ってやりたい」

天国だとかいう場所に行ってしまった彼女をジョルジュは見ていた。

両親が死んだとき、デレは墓を求めていたらしい。
感情をぶつける先として、縋る場所として。

今となってはもう遅いのだろうけれど、
現代人でしかないジョルジュには、
感情をぶつける先も、縋る場所も必要ないのだけれど。

供養、というやつのために必要なものをデレに捧げてやりたい。
そう、思えた。

226 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:13:38.540 ID:MvzU0oQI0
  
( -∀-)「……そうだね」

川 - _-)「……あぁ、それがいい」

二人は瞼を下ろし、明るい笑顔のデレを思い浮かべる。
世界だとか、未来だとか、
そんな、彼らの頭では想像もできないことよりも、
もっと優先すべきことが、ここには存在していた。

静かに彼らは目を開け、互いを見る。
答えは決まった。

( ・∀・)「お墓ってやつについて調べないとね」

川 ゚ -゚)「私も色々とあたってみる」
  _
( ゚∀゚)「墓ってどんなやつなんだろうかねぇ」

( ・∀・)「それを調べるんだよ」

川 ゚ -゚)「場所や材料が必要になったらお前に頼むから、
     ちゃんと探して揃えるんだぞ」
  _
( ゚∀゚)「任しとけ」

三人は日記を部屋に残し、
デレの自宅を後にした。

227 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:14:47.868 ID:MvzU0oQI0
  
数年後、墓というものを調べた三人は、
見事デレのために墓を完成させた。

海の見える丘に作られた墓は、
西洋風、というやつらしく、横長の墓石で出来ている。

河合デレの名と没年が刻まれた石の前には、
色とりどりの花が供えられていた。

本当は、花の種類にも決まりがあるらしいのだが、
昔と今では手に入る種類が違いすぎたため、
各々デレに似合うだろう花を携えてきた。

誰もが明るい色、
とりわけ、黄色や橙色の花をメインに据え、
間に白や紫といった色が差されている。

花束の傍らに置かれているのは、いつかのミニマクジラのバッヂだ。
二つ、寄り添うように並んでいる。
  _
( ゚∀゚)「どうだ、満足してくれてるか?」

川 ゚ -゚)「小まめに掃除にくるからな」

( ・∀・)「いつかボクらが眠ったら、
      キミのところに行けるのかな?」

死とは、現代人に残された唯一の眠りだ。

228 名前:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします[] 投稿日:2016/03/28(月) 00:15:22.322 ID:MvzU0oQI0
   
川 ゚ -゚)「さあ、デレ。
     ゆっくり眠ってくれ」

クールは鞄から日記を取り出した。
五cm以上はある、あの日記だ。

結局、彼らは日記の中身を公開しないことに決めた。
誰も言葉にはださなかったけれど、
バラバラになってしまったデレの遺体の代わりにすることにしたのだ。

( ・∀・)「さようなら。
      また、いつか」

モララーが日記に火をつける。
様々な埋葬法を見つけることができた中で、
彼らは火葬を選んだ。

地面の中で蝕まれるよりも、
煙となって天に消えていくほうが、
美しい死に様に思えたのだ。

  _
( ゚∀゚)「おやすみ、デレ」



      ζ(-、-*ζは眠るようです    END

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