( ・∀・)は落花狼藉のようです

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34 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:50:12 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 

 
 
 
 茂良々木の性質は、気がつけば、そこにあった。
 近くにあるものを、無差別に 「破壊」 することができるというのだ。
 それも、 「手当たり次第」 に。
 
 最初に気づいたのは、小学五年の頃。
 原理は未だに解き明かせていないが、しかし近くにあるものなら、
 たとえそれが生物であろうと無生物であろうと、
 たとえそれが有機物であろうと無機物であろうと、
 なんであろうと対象のものを 「破壊」 に導くことができる性質。
 
 ワンサイドゲーム
  『落花狼藉』 の由縁は、その一方的に相手を攻撃する様にある。
 長年使ってきたことで、その勝手もある程度は理解できている。
 近くにあるものは、ということだが、せいぜい目測半径五、十メートル圏内。
 
 それも、 「破壊」 とは言うが、 「粉砕」 ではない。
 威力の調整は利くが、最大でやっても学校の壁をある程度砕く程度である。 それも、貫通には至らない。
 壁に直径一メートルから三メートルほどのクレーターを刻みこむため、
 やはり常人の暴力では到底及ばないほどの破壊力ではあるが、 「しょせんその程度」 なのだ。
 
 使い勝手も、おそろしくよくない。
  「手当たり次第」 というだけあって、ある程度目標を見定めることこそできるが、
 しかし命中精度はおそろしくよろしくないのである。
  「手当たり次第」 の性質よろしく、手当たり次第に 『落花狼藉』 を使い続けるだけでだいたいの人なら倒せるのだ。
 
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35 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:50:51 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 茂良々木は成り行きで女子生徒――それも後輩――を助けることになった――いや、できた――のだが、
 しかし茂良々木自身はあまりそれをよしと思っていなかった。
         ワンサイドゲーム
 己のこの 『落花狼藉』 は、いわば自己表現の最たるものである。 突出した個性である。
 自分の秘めている能力を惜しまず披露する人間はだいたいが浅はかな人間である、
 と考える茂良々木が 『落花狼藉』 をそう軽々しく披露するのに躊躇するのも妥当な話であるのだ。
 
 
 放課後になって、茂良々木は生徒会室を訪れた。
 内藤の 「助力」 に、まだ満足していなかったためである。
 
               ワンサイドゲーム
( ・∀・)「やっぱり、 『落花狼藉』 はあまり使いやすいもんじゃないよ」
 
( ^ω^)「不良グループが謎の打撲を全身に浴びて保健室に送られたようです。
      お前だったのかお。 死ねお」
 
( ・∀・)「しかたない。 渡辺ちゃん一筋とは言え、儚い女の子を見捨てるわけにはいかないだろ。 それも後輩」
 
( ^ω^)「儚いじゃなくてか弱いじゃないのか」
 
( ・∀・)「いいや、儚くていいんだよ。 可愛い女の子は我々人間諸君の夢だ」
 
( ^ω^)「ふつう、そういうのって人の夢は儚いとかを言うんじゃあ……」
 
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36 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:51:35 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
  「いいや」 と茂良々木は反論を弄した。
  「助力」 よりも目の前の反論のほうが優先事項らしいのだ。
 
( ・∀・)「違う。 同様に、偽りも、僕に言わせたら他人の為の嘘ってやつじゃあないね」
 
( ・∀・)「せいぜい、人の為にすることは全てまがい物だよってところだぜ。 ……善とか」
 
( ^ω^)「それはそれでかっこいいけど……ちがくて」
 
( ・∀・)「おっと、一つ誤解を解きたいのが、女の子を助けたのは恩を売るため、偽善、ってわけじゃあない」
 
( ・∀・)「あくまで、自分のためさ。 僕の完全性とか理想とかプライドを守るためってやつ」
 
( ^ω^)「なんだ? 僕はもう世間話してりゃーいいの?」
 
( ・∀・)「おっと、おっとおっと、おっとっと。 それはそれでまずい。
       不本意だが――本題に入らせてもらおう」
 
( ^ω^)「本題に入るのが不本意ならそれは本題じゃねえお」
 
 内藤が茂良々木と交流をとっているのはあくまで茂良々木が普通の人とは違っていて面白いためである。
 内藤が茂良々木のことを面倒くさいと思わない、ことはないのだ。
  『荒唐無形』 と言えど、それとこれとは話が別なのである。
 
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37 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:52:08 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ・∀・)「どうも、翁唯とめぐり合えないんだよ」
 
( ^ω^)「昼休みに会えばよかったのに」
 
( ・∀・)「いま言っただろう? それどころじゃなかったんだよ」
 
 ――あの時、茂良々木は一つ、気になったことができた。
 それはたしかな違和感として未だに胸の奥に残り続けている。
 しかし、ただの小石と大差ないものが胃の中に混じった程度である。
 
                ワンサイドゲーム
 それ以上に、己の 『落花狼藉』 で不良たちをなぎ倒したことが、なかなかにいいストレス発散へと繋がったのだ。
 ――茂良々木がストレスを溜め込まずにいられるのは、全てこの 『落花狼藉』 の賜物というわけなのである。
 いやなことがあっても身の回りのものに 「手当たり次第」 八つ当たりをするから――そう考えると、茂良々木こそが 「不良」 である。
 
 しかし、八つ当たりをするといっても、それは数ヶ月に一度の話だ。
 たまにジムに通ってサンドバッグに八つ当たりをすることもあるが――問題に直結するようなことは、あまり、ない。
 今回のようにたまに成り行きで一般人に 『落花狼藉』 を使うことこそあるのがその 「問題」 なのだ。
 
 
( ・∀・)「翁唯、翁唯」
 
( ・∀・)「渡辺ちゃんに付きまとう、いわゆるストーカーなんだ。 ぱっと見ればわかるはずなのに」
 
( ^ω^)「わかるって……どうやって?」
 
( ・∀・)「オーラ」
 
( ^ω^)「体臭でも嗅いどいてくれ」
 
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38 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:52:47 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
  「なにを言ってるんだ」 と茂良々木は一笑に付した。
 内藤は別段冗談のつもりでそう言ったわけではないが、
 茂良々木の機嫌を損ねるに至るわけでないのであればそれはそれで好都合である。
 
 樹海高校のように大した名門でもない学校では、その生徒会活動も大したものではない。
 ない、のだが、名ばかり生徒会というわけでもない。 たしかな業務は、あるにはあるのだ。
 特に内藤の場合は、生徒会長、言うところの樹海学校のリーダーなのである。
 年度のはじまりということもあって、内藤には内藤なりのこなすべき業務というものがあった。
 
 茂良々木のこなすべき業務は、せいぜい日々の宿題程度だ。
 学業に特に秀でている茂良々木が、その業務を苦に感じることはない。
 ないため、茂良々木にはその 「業務」 というものの負担を人並に理解することができないのだ。
 テーブルの上に散らばったプリント類をざっと見渡しても、内藤の心中を推し量ることなどできるわけがないのである。
 
( ・∀・)「そう! オーラ、オーラなのだよ、内藤!」
 
( ^ω^)「ああ、それ、全部大切な書類なのに……」
 
 話を強調させるために掌を叩く――ためには、プリント類が邪魔であった。
 それらを左手で払いのけてから、強引に右手でテーブルをどんと叩く。
 たしかに話の腰を強調することこそできるが、内藤の目にはそれ以上に茂良々木の変人性のほうが強調されて映った。
 
 
( ・∀・)「どうして、こうも探しているのに翁唯が一向に見つからないのか」
 
( ・∀・)「僕から漂うこのオーラが、奴に察されてしまうんだ。
       まいったな、これじゃあ授業現場を押さえない限り邂逅は望めないぞ」
 
( ^ω^)「たしかにお前のオーラはすごいけど……
      翁唯のほうはお前の目的ってもんを知ってんの?」
 
( ・∀・)「恋敵同士、通じ合えるものがあるんだよ」
 
( ^ω^)「じゃあ話し合いも通じるんじゃあ……」
 
( ・∀・)「わかってない、事の本質ってものをきみはまるで理解していない」
 
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39 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:53:28 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 茂良々木は腕を組む。
 神妙な面持ちで腕を組んで深く浅い息をつくことが、彼なりの苦悩を表現しているのだろう。
 この程度で苦悩を露呈するのだから、茂良々木の器はさして大きいものと思えないところである。
 
 内藤とて暇ではない。
 茂良々木と絡むことはそのまま娯楽につながるのだが、人間はなによりも優先して娯楽に勤しみたいわけではない。
 生活のためにする仕事の最中に娯楽をすることなど不可能なのだ。
 生きるための娯楽に没頭することでそもそもの生活が成り立たなくなるのは、およそ本末転倒と呼べるであろう。
 内藤は、茂良々木の話もそこそこに――聞き流して――作業に戻ろうとする。
 
( ・∀・)「仕事の前に僕を翁唯と邂逅させてくれ。 手伝いだけでいい」
 
 本当なら実際に邂逅させるまでで一つの 「助力」 と言いたい、と考えるのが茂良々木の変人性だ。
 馬鹿馬鹿しくなってきた 『荒唐無形』 は、もう仕事は一旦取り止めだと業務を投げ出した。
 
( ・∀・)「……時に内藤、ほかの生徒会役員は?」
 
( ^ω^)「さあ」
 
( ・∀・)「さあ、って……軽いなあ」
 
( ^ω^)「第一、お前は生徒会ってもんを甘く見すぎてるお」
 
( ^ω^)「そんな、一人の生徒を洗い出しては情報を提供したり邂逅の足掛かりになったりなんてのは、できない」
 
( ^ω^)「そもそもそこにあるかわからない 『荒唐無形』 、そいつが今の生徒会ってもんなんだから」
 
( ・∀・)「この学校は、そもそもが甘すぎるんだ。 甘いから、融通が利かず不便を強いられる」
 
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40 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:53:59 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 罵倒程度では不機嫌にならない茂良々木でも、たしかな不利益を受けると機嫌を崩すらしい。
 そして彼の場合、不機嫌になると 「手当たり次第」 にその捌け口を探す。
 一般人の傍目曰くそれはまさにはた迷惑、といったところである。
 
( ・∀・)「だいたい、成就しない恋なんてものは存在しないんだ。
       みんな、なんらかの形でなんらかの実を結んでいる」
 
( ・∀・)「世間ではその実が全て恋仲の成立に集約されているってのもまた一つの疑問だが……
       そんなものは、はっきり言ってどうでもいい。 実を結べば、それはすなわち玉砕も成立なんだ」
 
( ・∀・)「僕が一石を投じたいのは、どうして実を結ばせてくれないシステムが
       あろうことか思春期を過ごすこの樹海高校に敷かれているのか、という話なのさ」
 
( ・∀・)「つまり、そのシステムを施行することこそがそのまま
       全校生徒の正常なる学園生活を送る足掛かりになる、ということ」
 
( ・∀・)「内藤よ、きみが僕に彼との邂逅を果たさせるのは、むしろ、使命だ。 任務だ。 義務なんだ」
 
 昼間もあった少年誌を片手に持ち、台本をまるめる映画監督が如くそれをもてあそび始めた。
 なにかを主張するときにまわりの無機物にそれを協力させるのが茂良々木である。
 内藤の助力を催促すべく、彼の背後でさらなる熱弁を繰り広げる。
 
( ・∀・)「なにも、渡辺ちゃんとの恋仲を絶対視しているわけじゃあない。
       僕はあくまで、挑戦する身なんだ。 チャレンジ精神を持ち合わせてるんだ」
 
( ・∀・)「学校側が尊ぶべきそのチャレンジ精神が、目の前にあると言うんだぜ?」
 
( ^ω^)「言うんだぜ?じゃないお。 サンボマスターかお」
 
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41 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:54:32 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ・∀・)「だったら、盛岡にでも頼んでみるか」
 
( ;^ω^)「はあ!?」
 
  『荒唐無形』 ゆえに何事にも冷静に対処できるはずの内藤だが、
 その突発的な言葉には半ば激情的に、さながら劇場的に反応せずにはいられなかった。
 自他公認の 『奔末転倒』 、それが盛岡という教師なのだ。
 
( ;^ω^)「お前、盛岡に頼みごとでもするって腹かお」
 
( ・∀・)「一番なじみぶかい先生でね。 恩師だ。 恩師とすら言っていい」
 
 なにをしても空回りな 『奔末転倒』 は、究極の腑抜けとして知られているのだが、
 そんな盛岡にあろうことか確実を期する頼みごとをするなどというのは、
 その計画を華麗に破滅へ追いやってくれと言うようなものなのである。
 
( ^ω^)「あーーわかった、わかった。 わかったから、これ以上厄介ごとを持ち込まんでくれ」
 
( ・∀・)「なんだ、僕が諦めようとしたら今度はきみが諦めないときた」
 
( ・∀・)「とんだ天邪鬼だ。 渡辺ちゃんといい、世の中には優柔不断な人がとりわけ人に厄介ごとをもたらすんだ」
 
( ^ω^)「翁唯だったな? だったら、同じ部活の人にでも話を聞けお」
 
( ・∀・)「………なに?」
 
 先に折れたのは茂良々木だったが、結果として折れたのは内藤だった。
 茂良々木の場合、彼のなかでは折れたものとして自己完結するのだが、
 傍目曰くその自己完結で終わっていない点が、そのままやはりはた迷惑となるのである。
 詰まるところ、折れた気になって肩の荷を下ろしてよけいにすばしっこく面倒になるだけなのだ。
 
.

42 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:55:30 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ^ω^)「翁唯、たしかあの子は美術部だったはず」
 
( ・∀・)「美術部? やけに文化部文化部してる文化部じゃないか」
 
( ^ω^)「いま、なんか言葉遊び含ませてた?」
 
( ・∀・)「僕は言葉遊びがなくとも言葉を反復させるんだぜ。 そっちのほうが強調できるじゃないか」
 
 とりわけ学業に秀でた茂良々木が日常生活にもその成果をもたらすようになったのは、言葉遊びあってのことである。
 ただいたずらに直接的に知識を弄するようでは、やはり一つ覚えの馬鹿、あるいは馬鹿の一つ覚えというものなのである。
 
 そこを、粋にして巧みな話し方で間接的に知識を盛り込むことができれば、
 それは結果として茂良々木の日々を豊かにさせるものになる。 と茂良々木は考えている。
 
( ・∀・)「なるほど、これでも美術部のことは少しは知っているんだぜ」
 
( ^ω^)「へえ? 知らなかったお」
 
( ・∀・)「渡辺ちゃんが入ってたんだ。 そこのところは情報に抜かりなんてないぜ」
 
( ^ω^)「抜かりがないなら翁唯のほうもだな、」
 
( ・∀・)「それはうっかり、ってやつだ。 それはそうと、どんな活動をしてるんだ?」
 
( ^ω^)「さあ……」
 
( ・∀・)「さあ……って、絵とか彫刻が好きで美術部に入ったんじゃないのか?」
 
( ^ω^)「翁唯の入部動機、有名だお。 聞きたい?」
 
( ・∀・)「ああ、聞かせてもらおう」
 
( ^ω^)「お前と一緒だお、モララー」
 
.

43 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:56:06 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ・∀・)「ん? 僕はあいにくだが美術部に入ったことすらないぞ」
 
( ^ω^)「お前、どうやって美術部のことを知った? 知ろうとした?」
 
( ・∀・)「そりゃあ、渡辺ちゃんが活動してたから」
 
( ^ω^)「それと一緒っていうんだお。 行動原理が一緒だから一所に集うんだお」
 
( ・∀・)「内藤、一所ってのは現代では一所懸命という四字熟語で使うんだぜ。 それを言うなら一堂に会する、だ」
 
(^ω^ )「翁唯の頭んなかもこんなんだったら嫌だお……」
 
 助力を済ませた、つもりの内藤は、向き合う対象を茂良々木からプリント類へとシフトした。
 一般人なら、その情報だけで既に邂逅への足掛かりであると捉えるところであるのだから。
 
 しかし、茂良々木が普通で一般で通常で平凡で当たり前でないのは、何度も言っている通りだ。
 変人性は、他人の予測を平気で裏切ってくるため変人性なのである。
 茂良々木は、その美術部という情報を得てもなお納得しなかった。
 
( ・∀・)「話を戻すが、翁唯は、いっ」
 
( ^ω^)「とっとと行ってこいや」
 
( ・∀・)「美術部所属という情報だけで邂逅が望めるのか? 奴は僕のオーラを察知してくるんだぜ?」
 
( ^ω^)「部活動中だぞ、授業現場を押さえるのと大差ないぞ」
 
( ・∀・)「まあ、何事もチャレンジ精神だ。 その一か八かの賭けにでるのも、やぶさかではない」
 
(^ω^ )「これだからゆとりは……」
 
.

44 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:56:57 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 

 
 
 
 樹海高校は名門というわけではないため、部活動に力を入れられているわけでもない。
 独特な雰囲気から人並の高校よりなにかがどうにかなっている空気は漂っているが、その程度である。
 美術部といっても、全国コンテストに出場するだとか、一流の画家や彫刻家がその指導に勤めているわけではない。
 
 だが、美術部活動と名を打つだけあって、美術室近辺にある
 展示物――おそらくは生徒の作品――はなかなか目を見張るものがあった。
 美的センスを茂良々木がどのように持っているかは果てしなく不明で不毛だが、彼自身は悪くは思っていなかった。
 
 翁唯、身長は一四〇程度と低い、二年生。
 美術部所属という点を差し引いても、到底自分と対等な立場にあるとは思われない人材。
 しかも人として軸がぶれているということでもっぱら噂になっていると聞く。
 どうしてそのような誇るに誇れない埃に限ってストーカー行為に働くのか、茂良々木にとっては甚だ疑問なのである。
 
 ここで彼の 「手当たり次第」 が発揮される。
 スケッチをしている部員、絵の具を混ぜている部員、オブジェと向かい合っている部員と、
 翁唯と自分とを邂逅に導いてくれそうな人はそこらじゅうにいるのだ。
 
 茂良々木は 「とりあえず」 で一番手近にいる部員に声をかけた。
 予定としては、今から手の届く範囲全域に足を運んでは時間を惜しまずに翁唯の足跡を探るのである。
 
.

45 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:57:29 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 しかし、茂良々木の穴は思わぬところにあった。
 ただ 「手当たり次第」 尋ねていくまではよかったにしても、
 茂良々木はその上における翁唯という変人性までは考慮していなかったのだ。
 
( ・∀・)「わからない?」
.             、 、 、
j l| ゚ -゚ノ|「………あの人は、年度がかわってからほとんど来なくなった、の、で」
 
 最初は、ただ、異性の先輩――それも有名人――を前にして
 あらゆる点において緊張を強いられているだけなのか、程度に茂良々木も考えていた。
 
( ・∀・)「え、美術部じゃないの?」
 
(  ゚∀゚ )「アッヒャ! あのコはネ〜〜、あれッスよ! 渡辺先輩目当てで……」
 
 しかし、それが間違いであることに、茂良々木は徐々に気づいていった。
 彼ら彼女らが緊張していたのは、茂良々木を前にしているからではない。
 
j l| ゚ -゚ノ|「あ、まり言わないほうが、いいと思……う、ぞ。 翁的に……」
 
( ;゚∀゚ )「うぇうぇうぇ!! ――ッヒャヒャヒャ!」
.. 、 、 、 、 、 、 、 、 、、、
 翁唯が話題にのぼることに、彼ら彼女らは敏感に緊張を抱いていたのだ。
 そしてそれはすなわち、翁唯という男の変人性を裏づけしているようなもの。
 茂良々木は、情報がもらえない以上にそのことに対して挫折を少し感じた。
 
.

46 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:58:07 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 茂良々木は簡単に挫折するような男ではないが、
 もう手も足も出ないのに挫折しないような、知能指数の低い男ではない。
 限りなく最悪に近い酷い境遇に立たされてはじめて、茂良々木は焦りを感じるのである。
 
  「手当たり次第」 が性質である以上、最悪に到達するまでは挫折しないが、
 今回の場合は変人性が問われるわけである以上、茂良々木は嫌な予感しか抱けなかったのだ。
 
 でも、まあ、そのうち。
 楽観視してそこらにいた部員全員に片っ端から―― 「手当たり次第」 問いただしていった。
 しかし、結果としてそれは、ただの徒労、時間の無駄づかいとなった。
 
 翁唯は、ほんとうにほとんど来なくなっていたというのだ。
 動機は、渡辺さくら――内藤から聞いたとおりの、変人性を裏づけする事実。
 そして、その論理式が完成してしまうと、邂逅が実現されないばかりか、
 心理戦において先制攻撃をくらうだけくらってずこずこと帰るのみである。
 もとよりプライドが凄まじく高い茂良々木にとってそれは、それだけで既に敗北のようなものだった。
 
 だが、名も知らぬ顔も知らぬ部員に 「助力」 を求めるわけにもいかず、
 またこれ以上成す術もないのに美術部で持ち前の性質を発揮するのもむなしいだけである。
 このまま帰るわけにもいかず、しかしこのまま立ち止まるわけにもいかない。
 茂良々木は、わけがわからなくなってきた。
 
( ;-∀-)「………」
 
 腕を組み、思考をなるたけ空っぽにして、表に向かった。
 気晴らしに、グラウンドへと出る。
 ほんとうに、それはただの気晴らしだった。
 
.

47 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:58:39 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 しかし、グラウンドへ出たことが、彼にとっての不幸中の幸いであった。
 観音開きの扉を開くと、強めの春風が桜の花弁を乗せて吹きつけてくる。
 平生なら素晴らしく心地よい、などといっては気分をよくするのだが、
 そうもいかないほどには茂良々木は思っていた以上に翁唯という男に悩まされていた。
 
 ふと、立ち止まる。
 茂良々木は自然とグラウンドの脇に植えられている桜並木のほうに足を向けていたのだが、
 そのなかの一本の木の前に、女子生徒がぼうっと立っていたのだ。
 ただ桜の木の枝のほうをぼんやりと見つめている。
 茂良々木は、彼女も美術部の部員だ、と考えた。
 
( ・∀・)「ちょっといいかな」
 
爪 −)「……」
 
( ・∀・)「あ、きみです。 桜の木の前の、二年の……きみっ」
 
爪゚−゚)「…ッ。 ……?」
 
( ・∀・)「そうそう、き………」
 
爪゚ー゚)「……?」
 
.

48 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:59:14 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 ―― 『うるさいなァ』
 その瞬間、あの時の言葉が、鮮明に蘇った。
 不良と対峙していた、あの、後輩。
 
 あきらかに、あれは――なんらかの、性質。
 それも、 『落花狼藉』 のような、特殊なもの。
 そんな性質を、使った、二年女子の、彼女――
 
( ・∀・)「……!」
 
爪゚ー゚)「どうしました?」
 
 茂良々木は無意識のうちに身構えたが、後輩のほうはまったく無関心だった。
 ただ、ぼんやりとしていて、上の空という言葉に相応しい有様である。
 口角をわずかに吊り上げ、目をゆったりと細める姿は、 「淑やかな女子高生」 像に当てはまっている。
 
 
 当てはまってはいるが――
          、 、 、、 、  、 、 、 、 、、、
( ・∀・)「(言葉だけで、不良を転ばした……っ!)」
 
 当てはまっているからこそ――茂良々木は、よけいに身構えることになった。
 
 
.

49 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:59:52 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 しかし、見た目だけで言えば、ただの 「淑やかな女子高生」 だ。
 また、向こうは茂良々木を見てもまったく反応を見せない。
 人違いは万が一にもありえないのだが、茂良々木としては
 やはり彼女と同じようにあくまで平静を装って対応しなければならなかった。
 
( ・∀・)「……ゴッホン!」
 
( ・∀・)「きみ、美術部の人?」
 
爪゚−゚)「美術部……?」
 
( ;・∀・)「あ、いや、ちょっと人を探していてね」
 
爪゚ー゚)「はあ。 誰を探しているんですか?」
 
( ・∀・)「言ってわかるかな」
 
爪゚−゚)「………知ってる人、なら」
 
( ・∀・)「そうか。 そうだ。 そうさ。 なら問題はなかった」
 
爪゚ー゚)「……?」
 
( ・∀・)「ちょっとね、翁唯って人を探してるんだよ、僕は」
 
 ――後輩の顔が、ぴくっと強張った。
 
.

50 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:00:29 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪゚−゚)「翁? 唯?」
 
 ――強張った表情は、しかし元へ戻ろうとはしなかった。
 あの時の後輩は、あの時のそれと同じ面持ちへと戻った。
 それまでの 「淑やかな女子高生」 像が、とたんに砕けたのである。
 このことに気づかない茂良々木ではないが、反応するような茂良々木でもない。
 
( ・∀・)「翁、唯だ」
 
爪゚−゚)「翁唯が、相手なんですね?」
 
( ・∀・)「念を押すねえ。 そこまで変な人なの? 翁唯、ってやつ」
 
 茂良々木は翁唯と直接会ったことこそないが、その人だけはある程度知っている。
 それは言い換えるとそれだけ突出した個性の持ち主である。
 後輩の面持ちが変わったのも、その個性ゆえのものだと茂良々木は考えた。
 今までに話してきた美術部員の総勢がそうであったのと同じように。
 
 個性が突出しているということは、それだけ我が強い人物である、となる。
 周りに流されるような男が相手の場合、茂良々木はそれだけ面倒を背負うことになるのだ。
 その点が、茂良々木にとっての小さくはない懸念であった。
 
 
爪゚−゚)「先輩が、何の用、なんですか」
 
( ・∀・)「なに、ちょっと恋の戦いというやつでね」
 
.

51 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:01:28 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 隠す姿勢をまるで見せない。
 ひけらかすことに恥じらいを覚えないのが茂良々木である。
 彼の場合、 「隠す必要がない」 というより 「恋はむしろひけらかすべき高貴なものである」 と考えるのである。
 
爪゚−゚)「恋? え、恋? 恋って?」
 
( ・∀・)「そう動揺するようなことでもないだろう?
       自由恋愛の許される現在、恋とはすなわち神秘なんだぜ」
          、 、 、
爪゚−゚)「まさか、お姉様と、その、そんなカンケー……?」
 
( ・∀・)「ああ。 え、お姉様?」
 
爪゚−゚)「渡辺さくらさんの、殿方、ってこと、ですか?」
 
( ・∀・)「いや、今は彼女の、さしづめ戦士ってところだ。
       ところで、どうしてきみが彼女のことを知ってるんだ?」
                                   、 、
爪゚−゚)「答えなさい。 あなたは、お姉様を賭けた決闘を、私とするってことですよね?」
 
( ・∀・)「――待て。 今、なんて――」
 
 
 ――直後、茂良々木の視界は大きく変わった。
 もっと直接的な言い方をすれば、茂良々木は直立できなくなった=B
 
.

52 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:02:38 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ;・∀)「―――ッ!?」
 
 なにが起こったのかがわからない。
 慌てて顔をあげて、その後輩女子の顔を見る。
 しかしそのときも、茂良々木は 「どこかぎこちないもの」 を強烈に感じた。
 
 体の節々が少しずれてしまったような、
 脳の出す電気信号が四肢の末端まで行き届きづらくなったような、痛烈な違和感。
 どこか浮遊感に似たものに体を支配される。 思考も、同様にどこか覚束なく感じられてきた。
 
( ;・∀・)「りゃ――ぃあいが―――、」
 
( ;・∀・)「   ―――ッ!?」
 
 ――話す言葉さえままならない=B
 ままならない、で十分事の有り様を言い表せているのだが、
 更に言うなればうまく舌をまわせない≠フだ。
 
  「なにが」 と発音しようと、舌を上あごにあてようとするが、
 麻酔でもかけられているかの如く思うように動かず、上あごの右の犬歯に舌が向かうのだ。
  「あ」 の部分を発声しようとしても、声帯が 「い」 を発声するように動く。
  「なにもかもが微妙に思うようにいかなくなった」 ――それが、ただいまの茂良々木の有り様であった。
 
 どうして、そんな異常現象が唐突に起こったのか。
 その疑問は、当然、ある。 変人性を持つ茂良々木でも、一応は人なのだ。
 
 しかし、それ以上の疑問が、目の前に≠った。
 
 
爪 -)
 
 
 彼女=B
 
.

53 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:03:08 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ;・∀・)「(ま、まさか………)」
 
 茂良々木は、今まで得てきた 「翁唯」 という男――
 いや、 「翁唯」 という人の情報を思い出す。
 
 校内に名が知れ渡るほどの変人性を渡辺にそそぐ、
 茂良々木の一つ後輩で、身長が一四〇ほどの――
 
 ここまできて、茂良々木は、はッとした。
 己のなかの致命的な勘違いに気付いたのだ。
 
 
( ;・∀・)「(ま……まさか………! まさか、嘘だろ!)」
 
 発声は封じられてしまったため、心の中で叫ぶ。
 
 
( ;・∀・)「(渡辺ちゃんにつきまとってる 『翁唯』 って―――)」
 
 叫びたくなる衝動を抑えて、しかし、心中で叫ぶことでその事実を認識する。
 
 
 
 
( ;・∀・)「(――――オンナァ!?)」
 
 
.

54 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:03:40 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 
 校内でも希少なレズビアン、同性愛者、ホモセクシャル。
 
 同性であるはずの渡辺さくらに本来男性に寄せるべきはずのそれよりも深い愛を誓う、女子生徒。
 
 数々の異常性癖を持っては、それが当然でその他は全て排他されて然るべきだとすら考える異端者。
 
 食人、猟奇、屍、切断面、血肉を好むカニバリズム、ネクロフィリア、異常性癖愛好家。
 
 
 
                                      リズム・オブ・カーニバル
 一度好きになったものに妄信的に食らいつくその姿は、まさに   『一心腐乱』   。
 
 その性質は、 「捉え方次第」 ―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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55 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:04:12 ID:g7Vtth9g0

                        ,...                       ノ⌒)
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        ヽ/                                        (::::::ヽ


56 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:05:16 ID:g7Vtth9g0

                                                   ヽノ
 
                   . /゙'l                          ノヽ
                    ヽ/                         (::::::ヽ
                                                ヽノ 
                         Rhythm of carnival
                         『 一 心 腐 乱 』                  <ゝ
                 .                                />
                _,、                               ´
.            .,i":::(           _
.            .゙l.,/        i´ヽ


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