( ・∀・)は落花狼藉のようです

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1 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:25:53 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 
 『落花狼藉』
 【読み】 らっかろうぜき
 【意味】 花が散り乱れること。 転じて、物が散乱しているさま。 女性などに乱暴を働くこと。
 
 
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2 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:26:33 ID:g7Vtth9g0
 
 
 

 
 
 桜といえば、この日本国における代表的な花として位置づけられている。
 国花は梅のようだが、国内一斉調査なんてもので 「花と言えば」 と聞いてみれば、おそらくは桜があげられる。
 
 春、という、環境面においては過ごしやすく、精神面においては一期一会の代名詞となる季節に咲くから――というのも、一理。
 しかし、やはりその特徴的な桃色のはなびら、その美しさにうっとりする人のほうが、多いのであろう。
 茂良々木耶夜(もららぎゆとり)は、特にそのはなびらが舞い散るさまに心を奪われるらしい。
 
 二年生の冬を超え、ついに三年生になり、壮絶な大学受験を控える身となった。
 茂良々木のすべての敗因は、その時期にあった。 と、彼は考えている。
 
 受験戦争を前にしてはその他一切のものが障壁となり立ちはだかるのだ。
 だからこそ、この時期に渡辺さくらという運命の人とめぐり合ってしまったことが全ての敗因だったのだ、と彼は世界を恨んだ。
 
 
( ;・∀・)「だ……だめえ!? どーしてさ!」
 
从'−'从「やっぱり、その……勉強が、ね?」
 
( ・∀・)「僕を誰だと思ってんのさ! あの茂良々木だぜ?」
 
从'ー'从「うん、知ってる〜」
 
( ;・∀・)「勉強なんて、いっくらでも教えてあげられるし!」
 
从'ー'从「わたし、茂良々木くんほど頭よくないし〜…」
 
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3 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:27:03 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 ろくに運動もせず部活動にも関心を示してこなかった茂良々木が
 勉強に励むようになったのは、半ば必然的なものだった。
 それだけなら彼をただの勉強家、悪く言うところのがり勉程度に済ませられていたのだが、
 茂良々木の個性とも言うべき毒舌とひねくれが、彼を校内一の変人と言わしめた要因である。
 
 彼はそれを悪しきものと思っていない。 むしろ、光栄だとすら考えている。
 その思考回路がまた彼を変人と言わしめているのだが、茂良々木は 「個性は人だ」 と格言づけている。
 
 実際に、茂良々木は頭がいいだけあって、考えがひねくれている以外はわりと上出来の人間なのである。
 自分の容姿を半ば客観的に捉えることができるし、自信家ではあるがその根拠を会得するのには努力を惜しまないのだ。
 僕は頭がいい、なぜなら勉強をしているから。
 僕は容姿がいい、なぜならヨガを怠らないから。
 そんなことを平然とおおやけの場で言ってのけることを除けば、除きさえすれば、彼は俗に言う 「できた人間」 だったのである。
 
( ;・∀・)「あ! まっさか、もうカレシがいた、とか!」
 
从'ー'从「ん〜ん、いないよ〜」
 
 しかし、今回ばかりは茂良々木にもかえりみるべき点があるのである。
 渡辺のような 『八方美人』 が、どうしてフリーでいるのか、それを考えたことはなかったのだ。
 
  「努力家ゆえに自信家」 とは茂良々木の言葉の一つだが、今回はその自信の根拠がまるでなかったのだ。
  『八方美人』 渡辺が、茂良々木以外の一般男子につかまらずこの二年ちょっとを過ごしてきたはずもあるまい。
 
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4 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:27:35 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ;・∀・)「どうしてだよ〜、僕とつきあわないメリットはないよ?」
 
从'ー'从「茂良々木くんはステキな人だと思うよ〜?」
 
( ;・∀・)「そうだよ、僕はステキな人なんだ! だからさあ、」
 
从'ー'从「やっぱり、勉強……かなあ?」
 
( ;・∀・)「渡辺ちゃんは、どこの大学にいくつもりなんだい?」
 
从'−'从「わたしは〜…」
 
 渡辺が多少思案するが、考えているのは大学ではなく言うかどうかである。
 高校三年生の身をあずかってなお自分の将来を考えないような生徒は、この樹海高校にはそう多くないのだ。
 渡辺は、茂良々木にその名を告げれば 「その程度、僕が教えてあげたら」 なんたらと返されると思ったのである。
 
从'ー'从「常盤大学、かなあ」
 
( ;・∀・)「ああ、あそこか! 大丈夫、あそこなら高一の時点でA判定とってあるよ」
 
从'ー'从「茂良々木くんが受けるわけじゃなんだから……」
 
 国内最高峰のユグドラシル大学に受けるつもりの茂良々木にとって、
 地元の高校生たちがこぞって受けるような常盤大学など、滑り止めにすらならないものであった。
 それは渡辺が学問に遠く及んでいないからではない。 茂良々木ひとりが抜きん出ているだけなのだ。
 
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5 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:28:05 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ;・∀・)「あそこはね、過去問から傾向が読み取れる。
      本来の勉強量の、実に三割程度の勉強量で合格できるようになるよ、僕がついてたら」
 
从'ー'从「わあ、すご〜い…」
 
( ・∀・)「そうさ、すごいのさ! だから僕の彼女になってくれ!」
 
从'−'从「う〜ん…」
 
( ;・∀・)「ちくしょう、なにがだめなんだ!」
 
 茂良々木は形ばかりの激情こそしょっちゅうするのだが
 ――なにかを強調するためにかなりオーバーなリアクションを取ることはある――、
 しかしこのように心の底からなにかを悔しがったりするようなことはない。
 
 茂良々木は、ストレスをまったく溜め込まない男なのだ。
 それは、彼が無意識のうちに外部のものに八つ当たりするからなのであるが、こちらは面白いので後述しよう。
 
 
从'−'从「………」
 
( ;・∀・)「 『八方美人』 だからこそ、彼氏には凡人がのぞまれるのか……?」
 
( ;・∀・)「ハハ、なんでもできるオールラウンダーが凡人になりきれないっていうアレじゃないか」
 
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6 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:28:37 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 茂良々木は心底信じていた。
  『八方美人』 の彼女は自分の妻としてこの一生を遂げるのだ、と。
 それは思春期特有の過激な思想、などではない。
 きっと茂良々木ならば、十年経とうが二十年経とうが似通った思想を抱き続けるのだ。
 
 それだけに、ショックはやはり大きなものだっただろう。
 それは実に衝撃的だったし、笑劇的なものでもあった。
 春の四月十日頃、放課後の話なのであるが、茂良々木のなかでは既に一月の寒さが極まる時期になっていた。
 
  『八方美人』 であるだけに無垢な姿を見せ続けていた渡辺ではあるが、
 さすがの彼女でも、もう事の真剣さに気づいている。
 茂良々木は、振る舞いこそふざけたものとしか思えないが、実際は真面目なつもりでいるのだ。
 
 渡辺は茂良々木の変人性を見てこの告白を一笑に付すような酷薄な女子ではない。
 向こうが真剣に愛を伝えてきたのだから、渡辺もいつまでもふわふわした態度をとるわけにはいかないのだ。
 なんとか冗談じみた会話のようにふるまって互いにダメージを受けずに事を済ませようと思っていたのを、諦めた。
 
( ;・∀・)「渡辺ちゃん、僕じゃあだめなのかい?」
 
从'ー'从「……」
 
 
 ――茂良々木はいつまで経っても諦める姿勢を見せない。
 そのしぶとさは彼の持ち味でもあるのだが、滑稽にしか見えなくなるだろう。 渡辺にとっては酷刑と言ってもいい。
 
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7 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:29:07 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 ここで茂良々木が諦めることは、己の自信がすべてあぶくと化することを意味する。
 努力家でもあるがそれ以上の自信家である茂良々木は、それを受け止められそうにない。
 そのために彼がここまで固執するのだ、と考えると、彼のしぶとさにも合点がゆく。
 もはや、これは彼自身との勝負なのだ。
 
( ;・∀・)「どうしてだめなんだい?」
 
从'ー'从「い、いや、だめ、とかじゃあ……」
 
( ・∀・)「そうか! 今日からよろし」
 
从'−'从「いい、とも言ってないよ……」
 
( ;・∀・)「優柔不断はよくない! 僕のために!」
 
 あくまで、茂良々木は恋を乞い願っている身で、渡辺より立場的に下にある。
 しかし、それでもこのような態度をとれるのは、やはりそれが茂良々木だからであって、それが茂良々木の変人性である。
  「偏った人生にもとづく」 という意味ではこれは 「変人性」 というより 「偏人生」 のほうがより正確でありそうなものだが――
 
 
从'ー'从「違うんだよ〜」
 
( ;・∀・)「違う? なにが? あれか、大阪人がなにかを言われたときに 『ちゃうねん』 って切り出すとかいうあ」
 
从'−'从「たしかに彼氏とか決まった人はいないけど、って話〜」
 
( ・∀・)「なんだって?」
 
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8 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:29:38 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
从'−'从「茂良々木くん以外の人からも、似たようなこと言われて困ってるっていうか〜…」
 
 渡辺は本題を切り出した。
 彼氏の有無はともかく、声もかけられていないはずもないのだ。
  『八方美人』 は、そこらにいる人から常に詰め寄られている身であるからこそ 『八方美人』 なのであって。
 
( ・∀・)「断ればいいじゃないか」
 
 このような見当違いで賢答違いな即答を返す茂良々木でなければ、
 渡辺の 『八方美人』 という性質を察してはおとなしく引き下がるのだ。 本来は、である。
 だからこそ、渡辺も真顔になって対応せざるを得なくなったことにつながるのだが――
 
从'−'从「断れに断れない、っていうかあ〜…」
 
( ・∀・)「? 執拗につきまとわれているのかい?」
 
从'ー'从「つきまとうって程でもないけど……」
 
 茂良々木の思考が本題のほうに逸れ始めたので、渡辺も安堵する。
 もともと 『八方美人』 なだけあって、断りきれない性格の持ち主なのだ。
 
 それまでは良心の持ち主ばかりが彼女に詰め寄っていたため平和的解決が望めていたのだが、
 茂良々木のような徹底した自己中心的主義の持ち主が相手ともなると、和解するのにかなりの時間と労力が必要となる。
 渡辺にとって、その負担は計り知れないものとなるのだ。
 
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9 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:30:12 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 ここで一般男子ならしかたない、とさすがに引き下がる頃合である。
 身の程を知っている――身の程を理解しているため、また渡辺の領域にこれ以上踏み込まないために。
 それこそが普通で、一般で、通常で、平凡で、当たり前なのである。
 
 しかし、その普通、一般、通常、平凡、当たり前とは、この茂良々木に、まったくの効き目を与えない。
 自分こそが正義で自分こそが中心と考える茂良々木にこのような話をすれば、この男は
 
( ・∀・)「……よし」
 
( ・∀・)「僕に、まかせてくれ」
 
 こう返すに決まっているのだ。
 さすがの渡辺も、この言葉の真意を汲み取ることはできなかった。
 そのため渡辺は 『八方美人』 であることを忘れて素で腑に落ちない顔をした。
 
 
从'−'从「ま、まかせるって?」
 
( ・∀・)「いいか? 実に簡単な話だ」
 
 
( ・∀・)「僕が、渡辺ちゃんにつきまとっている人を追い払う」
 
( ・∀・)「渡辺ちゃんが僕の彼女になるための障壁が消える」
 
( ・∀・)「渡辺ちゃんが僕の彼女にならない理由がなくなる」
 
 
( ・∀・)「……と、いうわけさ!」
 
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10 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:31:00 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
从'ー'从
 
 渡辺の顔が、ついに無へと変貌を遂げた。
 それほど、茂良々木の偏人生なる変人性があまりにも強かったのだ。
 
 茂良々木耶夜は校内でもそれはそれは有名なのだが、それは話半分にしか聞いていなかった。
 しかし、有名とは、有名であって然るべき有名性を持っているのだ。
 茂良々木は、有名にならなければならないと言える要素を持ち合わせる男だった、それだけの話である。
 
从'ー'从
 
从'ー'从「……」
 
( ;・∀・)「てなわけで、誰さ! 誰がきみに付きまとっているんだい?」
 
从'ー'从「(茂良々木くん、って言ったらだめかなあ…)」
 
( ;・∀・)「ねえ!」
 
 茂良々木が詰め寄る。
 自信家が自らのプライドと格闘しているだけかもしれないが、
 茂良々木が彼女を好くのはただ単に彼女が 『八方美人』 だから――ではなく、
 そこは思春期男子にふさわしくただ恋に落ちたから、である。
 
 それも、渡辺は理解している。
 しているからこそ、ここまで詰め寄ってくる茂良々木に対して黙秘を貫くわけにはいかなかった。
 
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11 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:31:42 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
从'ー'从「……」
 
从'ー'从「茂良々木くんってさ、」
 
( ;・∀・)「なんだい?」
 
 渡辺が顔つきを元に戻して、問う。
 転機の訪れだと捉えた茂良々木は、平静を保ちつつも、
 内心心境の変化を期待してはどぎまぎしていた。
 
从'ー'从「体、強かったっけ?」
 
( ;・∀・)「体育かい? 体育は、残念ながら苦手なんだよ。 それでも平均以上はできるけど」
 
从'ー'从「体育、っていうか………喧嘩?」
 
( ・∀・)「………喧嘩?」
 
 
 喧嘩。
 その言葉に、茂良々木はぴたりと反応を見せた。
 渡辺の放つ空気の変化にも、ちょうど同じタイミングで気づけた。
 
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12 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:33:02 ID:g7Vtth9g0
 
 
                                                       、 、
( ・∀・)「なんだ、不良だったのか! 渡辺ちゃんを付け回すなんて、やっぱり不良は不良なだけある!」
 
( ・∀・)「大丈夫さ、その辺のヒョロヒョロなチンピラ程度ならわけないよ」
 
从'ー'从「不良なんかじゃないよぅ〜」
 
( ・∀・)「 『性根はいい人だ』 って? だめだめ、たぶんそいつはきみのその優しさに付け込んでだね、」
 
从'ー'从「いや、言葉通りの意味だよ〜」
 
( ・∀・)「?」
 
从'−'从「ヤンキーじゃない、ってこと〜…。 まず、下級生だし……」
 
( ・∀・)「あ、ああ……それはそれで問題だな。 正義を掲げて制裁を下せないじゃないか」
 
从'ー'从「(茂良々木くんの言う正義って、なんだろう……)」
 
 茂良々木が不良に対して大して問題意識を抱えないのは、やはり彼が自信家であり努力家だからである。
 並大抵の不良との、それも一対一の喧嘩ならば彼は負ける気をまるで抱かないのだ。
 
 また、彼なりの良心というものも、同様に発揮された。
 特に悪さをしでかしているわけでもない、それも下級生が相手となると、
 彼は迂闊に手が出せなくなると懸念しているのだから。
 
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13 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:33:42 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ・∀・)「だが」
 
 だが。
 それはそれで――それがそれだからこそ、問題は問題となるのだ。
 
( ・∀・)「どの道、僕たちの恋には障害に他ならないわけ、だ」
 
从'ー'从「え、ええと…」
 
 
 茂良々木は、拳を強く握りしめる。
 
 
( ・∀・)「単刀直入に、聞く」
 
( ・∀・)「誰? その子」
 
( ・∀・)「名前と………クラス、特徴、あとできれば出席番号も教えてくれ」
 
 
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14 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:34:13 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 

 
 
 
 授業中、茂良々木は常に寝ているか本を読んでいる。
 教師がそれを注意しようが、彼の十八番である屁理屈が炸裂し、
 注意するどころか逆に注意され、授業の進行を大幅に妨害されてしまうのだ。
 
 さながら地雷とも呼ぶにふさわしい人材で、授業中につい
 彼に触れてしまうと、そのクレイモヤが爆発し被害者が多数出てくるのである。
 
 茂良々木は翁唯(おきなゆい)という男のことを考えていた。
 氏名ともに漢字一字であり、特徴的ではあった。
 茂良々木――という名もまた特徴的ではあるのだが、彼はこの点を何ら個性だとは思わない。
 
( ・∀・)「(翁唯……二年四組、身長一四〇ほど……番号、八)」
 
( ・∀・)「(聞かない名だが……内藤なら奴の事を知っているかな)」
 
 茂良々木にとって脅威は、それが制裁を下す対象ではない点にある。
 仮にも彼は樹海高校の一員であり、また日常生活を日常的に――あるいは非日常的に――過ごす一般人である。
 思考が一般と呼べないものであるだけで、肩書きは一般と呼べるものなのだ。
 
 不良ならば、いくらでも策を講じることはできた。
 適当に因縁をつけて喧嘩に持ち込めばいいのである。
 しかし、喧嘩っ早い野郎ではなく、しかも身長も女子並にしかない、つまりか弱い男が相手だ。
 とは言えど、話し合いで決着がつくなら渡辺に執着――とは茂良々木が言っているだけで
 実際はただ好意を寄せているだけである――するに至らないわけである。
 
( ・∀・)「(……渡辺ちゃんを守るためだ、手当たり次第できることはやっていこう)」
 
.

15 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:34:43 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 

 
 
 
  「手当たり次第」 とは彼の性質である。
 自信家であり努力家でもある彼が積極的であるのは半ば必然的なものであり、
 積極的だからこそ行動的でもある――すなわち、 「手当たり次第」 とはそのまま茂良々木を指すのだ。
 
 二年の後期より生徒会長に立候補した内藤武運(ないとうぶうん)は、昼休み、
 茂良々木から受け取った紙パックのコーヒーを飲みながら、彼の彼なりの美談を聞き流していた。
 
( ・∀・)「どうも、正義は悪にこそ強いが混沌には弱いんだよ。 わかるかい?」
 
(^ω^ )「おう」
 
( ・∀・)「法律が子どものいたずらに対応しきれないのと一緒なのさ、こういうのは」
 
( ・∀・)「しかし、話し合いで解決できないのは、渡辺ちゃんが話し合いで敗れている時点で立証されている」
 
(^ω^ )「うんうん」
 
 内藤が、咀嚼したホットドックをコーヒーで飲み下して、パソコンと向かい合う。
 昼も食べずに熱弁を繰り広げる茂良々木とは、あらゆる点において対照的であると言える。
 しかし、これでこそ内藤と茂良々木の凸凹コンビとでも称すべき理由なのだ。
 
.

16 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:35:24 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 几帳面で積極的な茂良々木とは対照的に、内藤のその性質は 「気分次第」 である。
 行動原理のすべてを気分というものに委ねており、また一方で掴みどころがないところから
  「荒唐無稽」 の言葉になぞらえて 『荒唐無形』 と呼ばれている。
 無形とは、その性質が 「気分次第」 で――あってないようなものであるからである。
 
 まともに向き合っていれば、ほんの数分で見切りがつき、
 ある程度あしらえる力を持っていてもほんの数日で諦めがつく茂良々木との交流だが、
 別段茂良々木に比べたら普通で一般で通常で平凡で当たり前な内藤が彼と付き合えるのは、その性質にあるのだ。
 
 茂良々木との話で精神的な負担を受けても、内藤はすべてを水に流せる。
 一方の内藤も、ダメージを受けないからこそ茂良々木の変人性を娯楽程度のものとして見られた。
 たしかに茂良々木のその変人性は唯一無二にして不動不変のものであるので、見る分には面白さを持っているのである。
 
 
( ・∀・)「内藤よ、この翁唯とかいうやつには、どう立ち向かえばいい?」
 
( ・∀・)「渡辺ちゃんを守るためには自己犠牲をも厭わないという方針がいいのかな? どうだろ?」
 
( ^ω^)「………お前、そこまで喧嘩強かったっけ」
 
( ・∀・)「自慢じゃあないがこの前も繁華街で不良グループをのしてきてね。 筋肉マンじゃない限りは大丈夫さ」
 
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17 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:35:57 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ^ω^)「しかも、持ち前の 『手当たり次第』 はどうした」
 
( ^ω^)「いきなり自己犠牲を候補として打ち立てるなんて」
 
( ・∀・)「こうして平静を保っていつもの完璧超人を演じている僕ではあるがね、内心は焦りに焦っているのさ」
 
 茂良々木の平生の口ぶりと比較すると、彼は心なしかいつもよりも早口で話している。
 話に物理的な節目というものが存在せず、言語的な節目との食い違いが生じてぎこちないものが感じられるようなものだ。
 そのぎこちなさも真正面から受け止められるのは、内藤が 『荒唐無形』 だからだ。
 
( ^ω^)「……ほおー」
 
( ・∀・)「助力してくれよ、そのコーヒーだってただじゃあないんだぜ」
 
 内藤がごみ箱へと放り投げたその紙パックは、茂良々木が助力と引き換えに持ち出したものである。
 彼は彼で彼なりの律儀さというか、いわゆる 「貸しはつくらない」 性格がそうさせているのか、
 助力に対する対価、前払いの依頼金のようなものであるようだ。
 一方の内藤は、特に助力する気など持ち合わせていないがただで貰えるなら貰っておこう、と考えたわけである。
 
( ^ω^)「……こっち、まだ生徒会の仕事あるんだけど」
 
( ・∀・)「きみは、まだ事の重大性を理解していない。 やれやれだぜ」
 
( ^ω^)「こっちがやれやれだお……」
 
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18 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:36:37 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
(^ω^ )「それに……」
 
 内藤が事務椅子を回転させデスクトップに向かい合いながら、言う。
 背筋を伸ばして堂々たる姿で熱弁を呈する茂良々木とは、まさに、実に対照的である。
 気だるさを体いっぱい使って――体だけではない。 声色の一つから、
 醸し出すオーラの一つをとっても、そのすべてが彼の気だるさをあらわしている。
 
  「気分次第」 の性質を持つ 『荒唐無形』 が上昇気流に乗らない限り、彼はこのまま不調であり続ける。
  「このまま不調であり続けるのは問題だろう。 そろそろ本気出すか」 と重い腰をあげ、再び不調に戻る、それが彼のサイクルである。
 
(^ω^ )「お前、翁唯、知らないのかお?」
 
( ・∀・)「知らないよ? ああ、知らないさ。 切るためのしらがないとすら言えるね」
 
( ^ω^)「あの子、結構な有名人だった、と思うけど」
 
( ・∀・)「なんだと? 僕の知らない間に時代は進んでいたのか?」
 
( ^ω^)「なんていうか、まわりとずれてるっていうか」
 
( ・∀・)「なるほど、うまく同調できていない系男子か」
 
( ^ω^)「ん………ん、ん?」
 
.

19 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:37:10 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 茂良々木は腕を組み、訝しげな顔を浮かべる。
 
( ・∀・)「実に、実に由々しき事態だ」
 
( ・∀・)「そういうずれている奴こそが、自覚の無い悪質なストーカーになるってものだね」
 
( ・∀・)「そう思うだろう? 内藤よ」
 
(^ω^ )「お。 おう。 せやな」
 
 
 そう言ってから、茂良々木も内藤の背と向かい合うのをやめ、
 会議や昼食用にも使われるテーブルのほうに向かい、そのソファーに寝転がった。
 ついでに頭のほうに置かれてあった少年誌を枕にする。
 
( ^ω^)「ちょ、それ…」
 
( -∀-)「果報は寝て待て、というが、あれは少し違う。 ただしくは過褒は寝て待て、だ」
 
( ^ω^)「いや、寝ることに物申してるんじゃあなくて、」
                                                    ケン
( -∀-)「黙って出方を窺ってたら予想以上のものが手に入るってことさ。 いまは 見 といってだな、」
 
( ^ω^)「それ僕のジャンプ! 枕にすんじゃねえ!」
 
.

20 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:37:50 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 内藤は事務椅子からがばっと立ち上がって茂良々木から少年誌を奪い取った。
 枕が引っこ抜かれたことで茂良々木ははからずも頭をソファーの端にぶつけた。
 意外にもそこだけはかたかったようで、ゴチンという音が鳴った。
 
( ;・∀・)「けちくさい男だ。 なんだ、どうせ使い捨てだろ?」
 
( ^ω^)「お前の枕にされるってのがなんか嫌だっただけだお」
 
( ;・∀・)「 『なんか嫌』 か。 まったく、内藤のその行動原理はどうかと思うぜ」
 
(^ω^ )「なにも間違ったことはしてない」
 
 再び、内藤は事務椅子に座った。
 だが、視線はデスクトップではなくページの開かれた少年誌のほうへと向けられた。
 
( ・∀・)「なんだ、読んでいる途中だったのか? だったら謝るよ」
 
(^ω^ )「せっかくだから二周目読もうかなって」
 
( ・∀・)「謝るんじゃあなかったぜ。 読むな、僕のために」
 
(^ω^ )「やっぱり渚たんはかわいいんじゃあ〜…」
 
( ・∀・)「……おい、ところで助力のほうは」
 
( ^ω^)「過褒は寝て待て」
 
( ・∀・)「うるせえ!」
 
.

21 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:38:22 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 茂良々木が早足で内藤の背後に忍び寄る。 内藤は無視した。
 茂良々木は内藤が目を落としている少年誌に手を伸ばしたので、内藤は渋々応対した。
 
( ^ω^)「助力、助力って、なんだ、結局アレか」
 
( ^ω^)「個人情報漏洩しろってことかお」
 
( ・∀・)「朗詠じゃあだめだ。 僕は忘れっぽい人なんでね」
 
( ^ω^)「ふざけんなお。 馬鹿かお。 死ねお」
 
( ・∀・)「ふざけてないからよって馬鹿じゃないし死なない」
 
( ^ω^)「で〜、なんだ、翁唯だっけ?」
 
( ・∀・)「単刀直入に聞く。 どんな奴だ?」
 
( ^ω^)「だから、周囲に馴染めてない、ちょうどお前みたいな奴だお」
 
( ・∀・)「ん……能力は、高い、と見ていいのか?」
 
( ^ω^)「お前がそう思うならそれでいいんじゃない?」
 
( ・∀・)「そういうのは困る。 何事も責任転嫁するのはきみのよくないクセだぜ」
 
( ^ω^)「だって言うだけ無駄なんだもん!」
 
.

22 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:38:53 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ^ω^)「翁唯は、あれだ、軸がぶれてるんだよ」
 
( ^ω^)「わかるか? 人としての軸だ」
 
( ・∀・)「僕は絶望先生はあまり好きじゃないんだよね」
 
( ^ω^)「発想がちょっとブッ飛んでるっていうか、頭がおかしいっていうか」
 
( ^ω^)「つまり、モララー、お前みたいな人だお、翁唯ってのは」
 
( ・∀・)「ん……きみは、僕も人として軸がぶれているって言いたいわけかい?」
 
( ^ω^)「否定はさせん」
 
( ・∀・)「できないよ、個人は自由であるべきだ。 きみの主観そのものは否定しないさ」
 
( ・∀・)「だが、事実として、僕の頭がおかしいことはない。 もしくは、頭とは本来おかしくて然るべきもの、と言うべきか」
 
( ^ω^)「ほら、それ、それ。 つまりそういうあれ。 その傾向が、似てるんだよ」
 
( ・∀・)「傾向? 『手当たり次第』 なところ?」
 
( ^ω^)「いや、翁唯の場合、あいつの性質は……」
 
( ・∀・)「性質は?」
 
 
 
( ^ω^)「 『本人次第』 」
 
 
.

23 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:39:27 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ・∀・)「……?」
 
( ^ω^)「人によって、翁の受け取り方が違うって話よ」
 
( ^ω^)「適当な人は奴の事をあまり深く考えないけど、
      完璧主義者ともなれば翁唯ほど付き合いづらい人間はいないお」
 
( ・∀・)「A型同士では相容れぬという話かな? 残念だけど僕はAB型なんだぜ」
 
( ^ω^)「A型同士は仲がよくなるって聞いてるんだけど……僕はO型」
 
  「でも、まあ、根底はだいたいそんな感じだお」 と内藤は言った。
 高く積み上げた本は、たしかに重量により崩すのは困難を極めるが、
 しかし一度一冊を抜き取ることに成功すれば、その本の山は一瞬にして形をなくすのだ。
 
 柔らかいものは衝撃を受けてもなんとか受け流せるが、硬いものは砕ける運命にある。
 内藤が前者だとすれば、茂良々木が後者であることは言うだけ野暮と言えることだろう。
 
 
( ・∀・)「じゃあ、僕は彼と穏便に話し合うことができないってことだね」
 
( ^ω^)「おお、自覚はあったのか」
 
( ・∀・)「天才が馬鹿を説き伏せるのは不可能なんだ。 馬鹿は筋金入りだからこその馬鹿なんだからね」
 
( ^ω^)「ううん……合っているのか間違っているのか……」
 
.

25 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:43:12 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ・∀・)「然らば、とるべき策は一つ、だ」
 
( ^ω^)「一つ?」
 
 内藤が興味深そうな面持ちを浮かべる。
 茂良々木では攻略不可能そうな人が相手だというのに、もう策を講じたというのだから。
 
 相手は不良ではないため、自然と暴力的手段に出ることはできない。
 一方で、茂良々木と似たタイプの人であるからこそ、話し合いもできそうにない。
 このほかに取るべき策というものがあるのか、内藤は純粋にわからなかったのである。
 
 しかし、それは内藤が普通で一般で平凡で通常で当たり前な人間だからわからなかったのだ。
 茂良々木のようなずれた人間にとっては、この難攻不落そうに思われる恋の障壁には穴が浮かんで見えるのである。
 しかし、それはつまりふつうに考えたら攻略できるに至らない――ただの机上論となるわけだが。
 
( ・∀・)「音をあげるまで説き伏せればいいのさ」
 
( ^ω^)
 
( ・∀・)「喧嘩ももちろんだが論争もやぶさかじゃあないのでね」
 
( ・∀・)「根気比べならいつだって受けてたつのがモララー流さ」
 
( ^ω^)
 
( ・∀・)「いやあ、簡単な話だったじゃないか」
 
.

26 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:44:14 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 モララー流とは、茂良々木という苗字とモラルという英語をかけたものである。
 モラリストと呼ばないのは、苗字との兼ね合いもあるのだが、それ以上に
  「茂良々木が普通のモラリストでは万が一にもありえないから」 ということだ。
 茂良々木とて普通のモラリスト、というのはあまりぎこちなかったようで、モララーという名に甘んじている。
 
 内藤が呆れかえって返す言葉に詰まった。
 しかし、返す以外の言葉なら、なんだって浮かんでくる。
 手始めに 「あほか」 とでも言えばいいのである。
 
( ^ω^)「お前なあ、」
 
( ・∀・)「ん? 喧嘩かな?」
 
( ^ω^)「あ、おい」
 
 内藤が苦言を呈しようとすると、ちょうどその頃あたりか、廊下のほうから騒ぎが聞こえてきた。
 実に音の反響する廊下である、棟の隅のほうに位置する生徒会室にも音はやってくるのだ。
 そのため、とりわけ廊下で起こった騒ぎに関しては迅速に事態を察知することができる。
 
 今回は、騒ぎといっても活発な連中が遊んでいるのではない。
 怒号に罵声が飛び交う、好ましくない騒ぎだった。
 そして茂良々木は、そういった騒ぎに敏感だった。
 
 喧嘩っ早いわけでもなければ喧嘩が好きなわけでもない。
 ただ、野次馬なのだ。
 
( ・∀・)「ちょっと見てこよ」
 
( ^ω^)「あ、おい!」
 
.

27 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:44:54 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 内藤の呼びかけを気に留めるはずもない。
 気に留めないからこその茂良々木耶夜なのだ――
 
 
( ・∀・)「……やってるねえ」
 
 しかし、茂良々木は嬉々たる声を発さなかった。
 面白そうな喧嘩だったなら、多少はふてぶてしい笑みを浮かべるのだ。
 だが、今回浮かべたのは訝しげな顔である。
 あまり、純粋に楽しめないな、と判断したのだ。
 
 情勢は、一対三。
 片方が女子――上履きの色から、新二年生だとわかる。
 片方が男子――こちらはどうやら同級生のようだ。
 
 髪の色は女子のほうが栗色で、校則で許されている範囲のものである。
 一方はみごとなまでに奇抜な金色茶色で、自他公認の 「不良」 だろう。
 翁唯が後者のなかに混じっていたならどれだけ楽か、と思い、
 希望的観測のもと彼らの身長を目で測ってみると、およそ一六〇から一八〇程度であった。
 
 翁唯には到底当てはまらない身長である。 第一、同級生なのだ。
 落胆をなるたけ心中に押しとどめ、遠巻きからその様子を見つめていた。
 
.

28 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:45:41 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 事の発端はわからない。
 が、女子生徒の筆箱や教科書が傍らに跳ね飛ばされているのを見ると、
 大方女子の教室移動の最中に男子生徒に当たってしまった、程度のものだろう。
 それを口実に日頃のストレスをこの女子生徒に発散しよう、という目論みであることが目に見えてわかる。
 
 ただの弱いものいじめだ。
 弱肉強食は茂良々木の嫌いな言葉の一つである。
 方針としては助けに入らないでもない茂良々木だが、ただでさえ自分は翁唯との舌戦を控えている。
 ろくな揉め事にそれも自ら呼ばれてもいないのに首をつっこんで厄介ごとに巻き込まれては笑い話にもならないわけである。
 
 ――茂良々木は、ふと、その対峙に違和感をおぼえた。
 ただの対峙であるはずなのだが、しかし、これといって目立った暴行が繰り広げられていないのだ。
 男子勢が暴言を吐き続けている、それを女子は心情の読み取れない面持ちで聞き流しているようである。
 
 さすがに学識の足りない不良でも、ただ罵倒し続けるだけの自分がかっこいいとは万が一にも思わないだろう。
 これではむしろ負け犬の遠吠えである。 弱い犬はよく吠えるのである。
 それなのに、どうして、男子勢は殴りかかったり蹴りかかったりと、目に見えてわかる騒ぎに移らないのか。
 
 ――茂良々木は無意識のうちに足を進めていた。
 
 
爪 -)
 
( ・∀・)「ん…?」
 
.

29 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:46:13 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 不良たちが、一斉に茂良々木のほうを見る。
 茂良々木も近づきすぎたか、と思った。
 不良たちに目を付けられることにはまったく恐れを抱かない
 茂良々木であるが、決して好ましい展開というわけでもない。
 
 それどころか、更なる違和感。
 茂良々木には&s良たちは暴行を働こうとしたのである。
  「なに見てンだよ」 と言いながら歩み寄ってくる。
 茂良々木がどうしたものかと考えているうちに、茂良々木の胸倉が掴みあげられたのだ。
 
   「こいつ、モララーじゃね?ww」
 
   「おい、触ンな触ンなww」
 
( ・∀・)「(これは………制裁のお許しが下った、ということ……か?)」
 
 
 茂良々木は、有名人である。
 普通でも一般でも通常でも平凡でも当たり前でもない、異端者である。
 そんな彼は、当然普段からよく不良に目をつけられている。
 今回に限っては、茂良々木の不注意によるものなのだが――
 
 殴られてもへこたれるような男ではない。
 むしろ、殴られることで本領を発揮するような男であると言ってもいい。
 そんな茂良々木は、掴みあげられた胸倉に注意を払わず、ただ不良たちの様子を観察していた。
 
.

30 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:47:20 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( -∀-)「………」
 
   「ちょwww泣いてンじゃね?www」
 
   「泣かしたwwwwモララー泣いたwww」
 
( -∀-)「(なんか、めんどくさいぜ、こういうの……
         今はそれどころじゃあないってのに)」
 
 目を瞑りながら、思考の放棄を検討する。
 たしかに律儀で几帳面で積極的な茂良々木だが、やはり好き嫌いは持ち合わせているのだ。
 彼の場合、彼なりの言い方をすれば 「下等生物」 が嫌いなのである。
 
   「はッら立つなあwww……な、な。 殴らせろや?」
 
 とても頭脳を有しているとは思えないような馬鹿、それが茂良々木の嫌いなものの一つなのだ。
 彼は不良には躊躇いなく 「制裁」 を下しているわけだが、それは不良という生き物がそもそも嫌いだからでもある。
 
 
( ・∀・)「……」
 
   「なんかしゃべれよwwブルってンじゃねえよww」
 
( ・∀・)「(よし、やる)」
 
 
 
爪 -)「 その人は関係ないだろ? 」
 
 
.

31 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:48:20 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ・∀・)「……?」
 
 ――女子生徒が口を開いた。
 
 
   「……はァー?」
 
   「なあ、お前、いまナンテ?」
 
   「殴られてねェからって、調子、のってんじゃありま……」
 
 
  「せーん」 と言いながら、ついに――ついにと言うべきなのだ――不良の一人は暴行に出た。
 大きく振りかぶっては、右手で女子に向かって容赦なく殴りかかる。
 
 さすがにこれはとめなければ。 茂良々木は、そう思う。
 そのため突発的に力を籠めて胸倉を掴んでいる不良ごと動こうとした。
 
 のだが、先に女子生徒のほうが動いた。
 動いた――のは、手や足では、なくて。
 
 
 
爪 -)「 『うるさいなァ』 」
 
 
 ――クチ。
 
.

32 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:49:01 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
   「ッ!!」
 
 不良は――こけた。
 それは、大胆と呼ぶに相応しく、滑稽と嘲るに値し、不慮と形容して間違いのない一瞬だった。
 特筆すべき点は、 「転んだ道理が存在しない」 ところにある。
 誰が、特になにをしたわけでもなく、無因果的な応報として不良は転んだのである。
 
 それを見て、茂良々木の胸倉を掴んでいた不良のその手から、力が抜けた。
 あまりに一瞬の不可解に、目が、意識が、奪われたのだ。
 その瞬間を見逃す茂良々木ではない。
 
 
( ・∀・)「 ――っと!」
 
   「なッ―――、」
 
 
 ステップを取るように、茂良々木は不良の手元から離れ女子生徒のほうに跳ぶ。
 逃したことにプライドの呵責を受けた不良は、半ば反射的に茂良々木につられる。
 その瞬間を、茂良々木は、見て、不敵に笑った。
 
 
 
( ・∀・)「――もう、我慢しないぜ」
 
   「な……――」
 
(#・∀・)「おらァッ!!」
 
 
.

33 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 11:49:34 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 茂良々木は、勢いよく右手を振り払った。
 しかし、それは殴るという意味合いを持っていなかった。
 そもそも、拳を握ってすらいなかった。手のひらのまま≠ナある。
 
 しかし、それ≠ノ手の形状は関係なかった。
 こちらに飛び掛ってきた不良は、途端に、明後日の方向に吹っ飛んだのだ。
 茂良々木の振り払った右手に殴られた、というわけではない。 茂良々木のそれは、空虚を抜けたのだ。
 つまり、それは、見えない誰かに蹴り飛ばされたような、見えないトラックにひかれたような――
 
   「―――ッ!!」
 
( ・∀・)「――」
 
 咄嗟に、茂良々木は腕時計を見る。
 まだ、昼休みが終わるまで、十分ほどは残っている。
 廊下には不良の騒ぎを聞きつけたのか一般生徒は誰一人いない。
 ――茂良々木という男の性質を、遺憾なく発揮できる状況が、そこにはあったというわけだ。
 
 
 
 
 茂良々木の性質は、 「手当たり次第」 。
 
 ワンサイドゲーム
  『落花狼藉』 のはじまりである。
 
 
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