( ・∀・)は落花狼藉のようです

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112 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:44:18 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 

 
 
 
 旧校舎の屋上を吹き抜ける風は、思いのほか強かった。
 しかし、高度が高度だから、花びらが舞うことはない。
 代わりに吹奏楽部が奏でる不協和音が、風に乗ってやってくる。
 今日は、シンバルやドラムのおまけつきであった。
 
 翁唯は、はじめて旧校舎の屋上にやってきた。
 新校舎の二倍以上の広さがあるのは、校舎の面積がそのまま屋上部分にも反映されているためである。
 横長でエル字になっており、端から端まで百メートルほどもある。
 
 広さは申し分ないが、如何せん、風が強い。
 柵がしっかりしているわけでもなく、帽子などをかぶっていれば紛れもなく風に晒され、
 挙げ句転落防止のネットやそんなものがまるでないため、
 旧校舎が現役だった頃から、屋上は一般解放されていなかった。
 
 もし、なにかの間違いで柵より向こうに身が渡ってしまえば、そのまま地上のコンクリートまで真っ逆さまである。
 四階以上の高さから、風にさらわれつつ地面に頭から直撃してしまえば、自殺も容易い。
 
.

113 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:44:50 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 扉を塞いでいた錠は、 『一心腐乱』 で軸の部分をずらして強引に外した。
 物理法則を凌駕する動きであり、その動作に作用側の力は関係ない。
 だから、パキン、と、錆びているわりには比較的簡単に外せたのである。
 
 雨風に晒されている、以上に、清掃員ですらやってこない場所であるため、
 旧校舎の屋上の床には、埃だの砂だの水垢だのがひっきりなしに広がっている。
 潔癖症でなくとも、一般人であるならばこの床には倒れたくない、と考えるだろう。
 翁唯も、一般人であった。
 
爪゚−゚)「……、」
 
 なにも考えずにスタスタと歩いていると、扉が金切り声をあげた。
 茂良々木が、遅ればせながら、やってきたのだ。
 その瞬間、ただならぬ空気が屋上に充満した。
 
 翁唯とて、この決闘とやらはまあ一般的なことだろうとは思わない。
 むしろ変人がするに相応しい滑稽な茶番劇に相当するところである。
 想い人を賭けて一対一の決闘――いままで、漫画の世界でしか繰り広げられなかった光景だ。
 そのことに羞恥心を感じないからこその翁唯なのだが、違和感は、たしかにした。
 
( ・∀・)「よかった、すっぽかされないで」
 
爪゚−゚)「……はあ」
 
.

114 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:45:24 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 茂良々木の様子は、相変わらずである。
 翁唯は肩に力が入っているが、茂良々木はそうではない――ふにゃふにゃである。
 茂良々木にとってはこんな茶番劇がふつうなのだろうか、
 と思うと、翁唯は半ば拍子抜けするような心地に見舞われる。
 
 しかし――相手は、ふつうの人間ではない。
 原理のわからぬ攻撃―― 『落花狼藉』 という性質を持っている男なのだ。
 そういった意味では、自分と互角の、決闘するに相応しい相手である。
 
 相性といった意味では自分のほうが優れていることが既に証明されているが、
 翁唯はそういったところで慢心を抱くような女子ではない。
 むしろ、そんな劣勢のなかでさえ平然と決闘を申し込んできた茂良々木に、警戒心すら覚えるほどだ
 ――茂良々木のほうは、なにも策など用意はおろか考えてすらいないのだが――。
 
( ・∀・)「ほんとうなら、決闘は決闘らしくなにかそれっぽいことを言うのがいいんだろうけど――」
 
 茂良々木が、早足で翁唯のほうに向かう。
 その姿に、翁唯は見てわかる度量で警戒を形に表した。
 足を肩幅以上に広げ、顔はじゃっかん困惑の色を示している。
 茂良々木が早足――
 声がじゃっかん粗い――
 
 ――あきらかに、態度が変わったのだ。
 それは、ただの思い過ごし、思い過ぎではなかった。
 茂良々木は、両手を広げたのだ。
 
                   、、 、、
( ・∀・)「――手加減は、できないんだ」
 
.

115 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:46:13 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪;゚−゚)「―――ッ?」
 
 茂良々木がそう言ったのと同時に、翁唯の左前方二メートルほどのところに、
 直径一メートル、深さ五十センチほどのクレーターができたのだ。
 想像以上の轟音が鳴り響き、コンクリートの欠片、破片、粉末が、舞う。
 
 工事現場でしか聞けないような音だった。                      ワンサイドゲーム
 そんな、物理法則を凌駕した、未知なる攻撃が屋上の床を砕いた―― 『落花狼藉』 。
 その瞬間、翁唯も、茂良々木はこの上なく本気で、この上なく手を抜けない情勢にあることを確信した。
 
 
( ・∀・)「後輩だろうと!」
 
 一歩、進める。
 翁唯の足元に、攻撃が向かった。
 七十センチ四方程度の大きさ分だけ、砕かれた。
 
 翁唯は開幕早々、右足に負傷を受けた。
 それも、尋常ならぬ痛みである。 途端に、右足が機能停止させられたのである。
 
 
( ・∀・)「女子だろうと!」
 
 一歩、進める。
 翁唯の右後方に攻撃が向かい、上空から岩石が降ってきたかのような衝撃がそこで発生した。
 それを見て翁唯が動揺している間に、次の攻撃が彼女の左半身に命中した。
 
.

116 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:46:44 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 あのときの不良と同様、トラックにでもひかれたかのような衝撃、衝破、衝突。
 翁唯は混乱状態のまま、右方向に五メートルほど吹っ飛ばされた。
 茂良々木の 『落花狼藉』 は止まらない。
 
 
( ・∀・)「手加減、できないッ!!」
 
 一歩、進める。
 飛ばされた翁唯の軌跡を辿るが如く、連続して床にクレーターができる。
 トンネルの突貫工事でもしているのかと疑わずにはいられなくなる、轟音の連続である。
 耳をつんざくその音に、加えて著しく舞い上がる粉塵。
 その上屋上特有の強い風がやってくるため、早くも屋上はひどい有様へと変貌を遂げた。
                  、 、、
 体勢を取り直して、翁唯は走った。
  『落花狼藉』 の命中精度の低さを、早くも弱点として見つけ出したのだ。
 最初はただ一度しか――それも不良相手に放った一度しか――見ていなかったため、
 未知なる能力として 『落花狼藉』 に畏怖を抱いていたが、早速その穴を見つけたのである。
 
 このままでは一方的にやられるため、翁唯は、まず安全圏を探した。
  『一心腐乱』 でなにかの軸をずらすにも、対象を見定めない限りは暴動に違いなくなるのだから。
 下手をして地球の自転の軸をずらしてしまうと、世界が崩壊してしまう――なんてことも、起こりかねない。
 
 最初にずらすべき対象は、すなわち 『落花狼藉』 の命中精度、照準一択だ。
 茂良々木の精神を狂わせようが、 「手当たり次第」 の性質上、自分が追い詰められることには違いなくなるのである。
 既に翁唯は、屋上の隅のほうへと追い詰められている。 猶予は、三メートルかける五メートルほど。
  『落花狼藉』 の射程圏内――避けようが、なくなるのだ。
 
.

117 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:47:15 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪; -゚)「ッ!!」
 
 反撃に出ようと、翁唯は茂良々木の持っている照準をずらしにかかった。
 だが、その前に、自分の周囲二メートルほどが、爆発したが如く破壊されていった。
 
 ―― 一発一発しか撃てないのではないのか、
 ―― どうして、こうも連続で攻撃が、
 
 茂良々木の 『落花狼藉』 の攻撃に、射程はあれど、弾数は、ない。
 茂良々木の裁量ひとつで、一分に一度から一秒に十発と、ラッシュの緩急をつけることができる。
 もちろんそれは茂良々木の意識が追いつく範囲内の話であるため、一秒に千回、などというのは不可能である。
 
 しかし、翁唯に 『一心腐乱』 を使わせなくさせる程度のラッシュなら、できた。
 翁唯は、前に進めない以上、一歩ずつ、隅へ、隅へと後ずさってゆく。
 その間も足元、壁、柵、手すり、胴体――と、 『落花狼藉』 の弾がでたらめに命中していく。
 
 それこそが、 『落花狼藉』 の真骨頂であった。               、 、 、 、
  『落花狼藉』 という性質は、兎にも角にも 「手当たり次第」 で―― 一方通行なのだ。
 一度優勢に入ったらそのまま相手を押し切るだけのパワーが、茂良々木のそれには、ある。
 そして、一度 『一心腐乱』 を使われたら負け確定となる茂良々木に残された唯一の勝ち筋が、それだった。
 
 
 ――― 先攻を取り、反撃を許さぬうちに一方的に押して、ワンサイドゲームを決める。
 
 
.

118 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:47:52 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪";ノο)「 !! 」
 
  「手当たり次第」 に乱打していく 『落花狼藉』 の弾が、翁唯の顔面右側からヒットした。
 脳震盪を起こしかねない衝撃が翁唯の頭部を襲う。
 茂良々木は、手ごたえを感じたその瞬間だけは、勝機を見出したつもりになれた。
 
 だが、茂良々木にとってのミスは、     、 、 、 、 、、、 、、
 翁唯が飛ばされたその方角が、そのまま逃げ道になっていたという点にあった。
 
  『落花狼藉』 の射程圏内でこそあるが命中精度で言えば更なる追い込みは難しいとされる距離。
 隅に追い詰めていたはずが、翁唯に間一髪のなか抜けられた。
 それの意味するところは――― 「猶予を与える」 。
 
 
( ;・∀・)「ッ!」
       、 、 、
爪#;) -)「 はずせッ! 」
 
 
 茂良々木は慌てて追撃を見舞おうとするが、その前に、
 翁唯に、 『一心腐乱』 を作用させるたしかな時間的猶予を与えてしまった。
 その対象は、 『落花狼藉』 の照準――狙う先を、完全にでたらめにさせた。
 
 茂良々木は先ほどまでと同じようにラッシュを決めようとするが、
 ただでさえ命中精度が悪い平生の 『落花狼藉』 とでさえ比べ物にならないほど、
 照準のずらされた 『落花狼藉』 は、使い物にならない次元の武器になってしまった。
 
.

119 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:48:22 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ;・∀・)「クソッ―――」
        、、 、
爪∩-゚)「 走るなッ! 」
 
( ;・∀・)「    おあッ!」
 
 照準が利かなくなったのであれば、なるたけ距離を縮めて、
 弾が当たる可能性を少しでも上げていく必要がある。
 そのため走って急接近しようとしたが、そんな行動、翁唯は既に読めていた。
 
 体の軸がしっかりしているからこそ走れるのだが、
 その概念的とも言える軸が、ずらされた。
 言い換えると、 「平衡感覚がずらされた」 ―――
 
 茂良々木は、一番転んではいけない局面で、転んでしまった。
 己の 『落花狼藉』 がつくったクレーターに飛び込むことになり、瓦礫に頭を打ち付ける。
 脳を直接突いてきたかのような痛みが走り、嘔吐感を覚える。
 しかし、それは物理的なものだけでは、なかった。
 
爪';゚−゚)「………はい、終わり」
 
(!!i ∀ )「――――ガガガああああggg  g アアアア ア ががgあああああああああああッッ!」
 
.

120 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:48:53 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 脳が直接捻じれているかのような不快感、嫌悪感、嘔吐感、倦怠感。
 眼球が眼圧で押しつぶされてしまいそうになる。
 首から背骨から膝まわりから皮膚全域から、その全てが捻り切れるような錯覚。
 関節を無視した動きを、己の意思に関わらず、半ば脊髄反射的にとろうとする。
 
 世界中が高速で回転しているかのような感覚。
 景色はまるで変わっていないのに、その景色は目まぐるしく回転しているのだ。
 腹の底から昼に食したものを戻しそうになる、しかし喉のあたりで突っかかる。
 胃液、だ液、そんなものが、体を捻るたびに周囲に少量飛び散る。
 その間も、茂良々木は体をひねってねじってつねり続け、体のあちこちに自ら瓦礫をぶつけていった。
 
 顔面から、背中、腹回り、腕、脚と、体の至るところに
 瓦礫にぶつけたことによってできた赤い痕が浮かび上がっていっている。
 翁唯の視点で言えば、顔面にできたものしか見えないが、それでも重傷を負いつつあるその様は確認できた。
 
 
 完全に、精神を混沌へと向かわせた。
 茂良々木は、このまま狂気の狭間をもがき続けるしかなくなった。
 これこそが 『一心腐乱』 のポテンシャルであり、これが決まる以上は
 翁唯は自分が負けることなど想像すらできなかったのである。
 
 だからこそ、茂良々木に、忠告を下した。
 だが、それでも茂良々木は否定した。 受け入れなかった。
 翁唯は、自らの手でこのように狂人を生み出すのが、堪らなく苦痛だった。
 
.

121 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:49:26 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 ―――だが、この程度でくたばるような男が、最初から決闘などにすがるはずもなかったのだ。
 
 
(!!i ∀・)「〜〜〜〜―――― 、――ッ?!」
 
爪';゚−゚)「  ッ! 」
 
 
 茂良々木が、這い上がった。
 背中を反りながら、上体を、起こした。
 そして、周囲に、 『落花狼藉』 の弾が次々飛ばされていった。
 
 方向性が定まっていないそれが、闇雲に、でたらめに、屋上の床を破壊していく。
 近づこうとした翁唯は、慌てて後退した――隅のほうに移動した。
 
 命中精度はでたらめにしてあるし、茂良々木の精神も狂わせた。
 なにも考えることができない――もしくは、なにもかもを考えている、そんな状態では、
 茂良々木は 『落花狼藉』 を使うことなど、できない。
 混乱しているときに合理的な行動がとれないのと、今回のケースは、一緒なのだ。
 
 しかし、それでも、茂良々木は、動いた――這い上がった。
 頭が割れそうな程の頭痛をその身に浴びせられているはずなのに、たしかに、持ち前の性質を発揮した。
 そのことが、翁唯の心を、揺さぶった。
 
.

122 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:50:00 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪';゚−゚)「ど――ど、どうして!」
 
爪';゚−゚)「どうして、動けるんだ!」
 
(!!i ・∀・)「づお――ムんてなだ、……まグァ!」
 
爪';゚−゚)「?、……?」
 
 のろのろと、上体を起こしては、そのまま匍匐前進よろしく腹這いで翁唯との距離を縮める。
 翁唯にとっては、その正常な行動がとれることそのものが異常であるかのように思えた。
 いや、実際、そうなのだ。 正常な思考ができなくなっている状況下で
  「射程圏内に入れるために翁唯との距離を縮める」 という正常な行動など、本来ならば、とれないのだから。
 
 加えて、ろれつも回らないため、茂良々木が話している言葉が、わからない。
 どういった原理で、どういった思考で、どういったつもりで動けているのかなど、
 茂良々木がしゃべりたいと思っても、その意図を告げることはできないのだ。
 しゃべらせようとするのは、すなわち 『一心腐乱』 を解除するのと同義。
 翁唯は、依然 「わけがわからない」 状況下に置かれたまま、戦線を耐え抜かなければならないのである。
 
(!!i;・∀・)「ッッべっgggいズつぬnnn 『捉eeたddsい………ああああおお!!」
 
爪';゚−゚)「(クソ………なにを言っているかがわかれば……!)」
 
.

123 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:50:31 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 しかし、この状況下においてでも、わかることがある。
 ただ、茂良々木の茂良々木にとっての正常な思考回路というものを狂わせた程度では、
 この男、茂良々木の 『落花狼藉』 を止めることは不可能である、ということである。
 
 そもそも――ただ、調子を悪くさせただけで、茂良々木ともあろう男が引き下がるはずがないのだ。
 茂良々木のその性質は、 「手当たり次第」 。
 まだ選択肢が残っている限り、茂良々木が倒れることは、ありえない。
 そして、 「腹這いで進むことができ」 、 「でたらめだろうと性質を発揮できる」 以上、
 茂良々木は、それに従って、兎にも角にも動きを休めるようなことはしないのだ。
                   、 、 、 、、 、 、、
爪';゚−゚)「(――威力は、まるで衰えてない、だと――)」
 
 たとえ頭がおかしくなろうと、 『落花狼藉』 の威力は、留まることを知らない。
 あさっての方向だったり、幽霊でさえいなさそうな場所であったりと、
 茂良々木の性質 『落花狼藉』 は、とにかくでたらめに辺りにあるものを破壊しつくしていっている。
 
 屋上に、かつての平面は存在しない。
 いま二人が交戦している一帯なんか、床一面が砕けたかのような有様になっている。
 そして、少しずつではあるが、たしかに翁唯のほうへと位置を進めている。
 こうなると、いくら命中精度がでたらめだからといって、翁唯は 「いつかは被弾する」 ことになる。
 
 ただでさえ、ダメージ量は馬鹿にならないのだ。
 とくに体を鍛えているでもない女子高生が、コンクリートを砕くレベルの攻撃をそう何度も受けていられるはずもない。
 翁唯の場合、既に二度ばかり、直撃を受けているのだ。
 幸い、バットのようなもので殴られる感触ではなく、さながらトラックのような、
 大きなものに殴られるようなものであったため、骨が砕ける事態には至っていない
 ――針では穴が空くが、ボールでは穴は空かないのと同様に――。
 
 だが、それでも、そのでたらめで戦闘不能になってしまうことを考慮すると、
 翁唯はこのまま茂良々木の自滅を狙うわけにはいかなくなってしまった。
 
.

124 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:51:01 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪';゚−゚)「くそッ――」
 
(!!i;・∀・)「――イがすか!」
 
爪';゚−゚)「!!?」
 
 茂良々木が――しゃべった。
 聞き取れるような言語で、翁唯に、話しかけた。
 それが、彼女に大きな動揺を誘った。
 
 大きく、なるたけ大きく迂回して、
 まだ床に 『落花狼藉』 の攻撃が向かっていない西側の安全地帯に向かう。
 足場の安定がまるでなっていないこの場で戦いを続けると、
 いつか転び、そのうちに 『落花狼藉』 をその身に浴びてしまう可能性がある。
 翁唯は、茂良々木に 『一心腐乱』 を作用させるよりも、先に我が身の安全を確保するのが先決だと考えた。
                        、、 、 、、
 だが、その時に、茂良々木がしゃべったのだ。
 
 翁唯の体が、大きく傾く。
 瓦礫に足をひっかけたのだ。
 融通が利かない右足が、枷となった。
 
 全速力で移動しようとしたので、その分、転倒のモーションも大きかった。
 顔面から瓦礫だらけの地帯に飛び込んでしまい、あちこちに鋭い打撲を負った。
 顔に関しては、一週間は消えないであろう打撲痕ができてしまった。
 流血はしなかったが内出血は受けてしまった――ダメージは、小さくはなかった。
 
.

125 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:51:38 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪'; −゚)「(どうして――ろれつが回った!?)」
 
爪';゚−゚)「(私の 『一心腐乱』 を受けて、しゃべれるなんて――)」
 
 なんとか起き上がって、まぐれの 『落花狼藉』 が被弾しないうちに屋上西側へと向かう。
 扉を抜けて逃げることは許されない。 茂良々木の性質を考えれば、逃げるという選択肢はなくなるのだ。
 
爪';゚−゚)「(それに、さっき、なんて言った………?)」
 
爪';゚−゚)「(……… 『逃がすか』 ……?)」
 
 茂良々木の放った言葉を、言語として認識できてしまうというのは、
 言い換えれば、 『一心腐乱』 がうまく決まっていない――うまく軸をずらせていない、ということにつながる。
 しかし、茂良々木に起こった異変を見れば、うまく軸をずらせていない、とは考えられない。
 たしかに、茂良々木の回路は、狂わせたのだ。 異常にさせたのだ。
 だからこそ、よけいに、茂良々木が口を利けたことが、不思議でたまらなかった。
 
爪';゚−゚)「もらら―――、」
 
 名前を呼び切る前に、翁唯は口を止めた。
 口を利くこと以上に、更なる異常を目の当たりにしてしまったからだ。
 
 
 
(!!i ・∀・)「………ナ ん、だイ…?」
 
        、 、
 ――― 直立。
 
 
.

126 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:54:50 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪';゚−゚)「なッ―――!?」
 
爪';゚−゚)「馬鹿な! どうして!」
 
 覚束ない様子で、強い風でも吹けば倒れてしまいそうにすら思われる有様だが、
 茂良々木は、満身創痍になりつつも、たしかに、 「立っていた」 。
 
 目には隈を、頬にはこけを、そして口もとには不敵な笑みを浮かべ、
 茂良々木は立っていた。
 
(!!i ・∀・)「……? …・・‥??」
 
爪';゚−゚)「 『一心腐乱』 をくらって、立てるはずがない!」
 
爪';゚−゚)「しかも、お前の場合――相性は、抜群のはずだぞッ!」
 
 物理攻撃に優位を取る精神攻撃で、
 高いプライドと凄まじい変人性を持つ者同士で、
  『一心腐乱』 は、 『落花狼藉』 に強い一面を見せる。
 
 だからこそ、相手の積みあがった山を崩しにかかる 『一心腐乱』 は、
 アンチ茂良々木と呼ぶに相応しい性質――の、はずなのだ。
 実際に、茂良々木はこの上ない苦戦を強いられているし、珍しく完全敗北をも認めていた。
 
.

127 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:55:22 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
(!!i ・∀・)「グ……う、。」
              、 、 、、 、 、
(!!i ・∀・)「………慣れてきたら、問題ハな   な」
 
爪';゚−゚)「慣れ……?」
 
爪';>−<)「―――きゃっ!」
 
 茂良々木が、ふらふらと、覚束ない足取りでやってくる。
 急接近こそしてこないため、移動速度は翁唯のほうが速い。
 が――それでは、再び、隅に追い詰められるだけである。
 それも、今度は、完全に屋上というステージが粉砕された状態で。
 
 翁唯が動揺していると、彼女の足元に 『落花狼藉』 が被弾した。
 ただでさえ自由の利かない右足が、足を引っ張る。
 肉体には被弾しなかったものの、足場がダイレクトに破壊され、翁唯は後方に転んだ。
 尻餅をつき、瞬間的に脳に衝撃がゆき視界が揺れたため、予想外のダメージを受ける。
 
 この間も、茂良々木は、着々と、歩み寄ってくる。
 その恐怖を押し殺し、翁唯は、転ばないように、 『落花狼藉』 の射程圏外へ、と向かった。
 
 隅にまで駆け寄り、茂良々木のほうを見る。
 目測、二十メートル。 猶予は、たしかに、ある。
 新たに 『一心腐乱』 を決めるには文句のない距離だ。
 翁唯は、茂良々木の足の、神経における 「軸」 をずらした。
 
.

128 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:57:19 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
(!!i;-∀・)「 ゥおっ!」
 
爪';゚−゚)「(はやく降参させないと……でも、どうやって!)」
 
 茂良々木の進撃は、食い止めた。
 攻撃手段は、なにも精神攻撃以外にもあるのだが、
 あくまで 「降参」 狙いの翁唯は、精神攻撃だけでこの戦いに勝ちたい。
 
 転び、自分でつくったコンクリートの瓦礫にがりがりと
 体、服を削られながらも、茂良々木は再び腹這いになってやってくる。
 彼に 「諦める」 という発想はないらしく、その姿はもはや自棄になったとしか思えない。
 
 そのため、翁唯は 『一心腐乱』 で茂良々木の肩の感覚をずらした。
 そうされると、腹這いで進むことすら、困難になる。
 前に進むために肩を、腕を使っていたのが、それすら狂わされたからだ。
 
 だが、それでも茂良々木は 「諦めない」 。
 なにがなんでも、 「手当たり次第」 策を講じては、翁唯に 『落花狼藉』 を見舞うために、近づく。
 この間も、辺りの床や壁は、次々に破壊されていく。
 
 そろそろ学校の関係者や野次馬がやってきそうであるため、
 翁唯としても、これ以上彼を進撃させるわけにはいかなかった。
 だが、止めるにしたって、どうやって。
 
  『一心腐乱』 は対象そのものを封じ込める性質ではないため、
  『落花狼藉』 の照準は狂わせられても、その攻撃そのものの発動を対処することはできない。
 茂良々木側に止められることのない攻撃手段が残る以上、やはり翁唯も 「物理攻撃で」 応戦するしかなくなるのだ。
 
.

129 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:57:56 ID:g7Vtth9g0
 
 
              、 、
爪';゚−゚)「(クソ……これまでやったら、さすがに校舎があぶない……)」
 
(!!i;-∀・)「おッ……そろしい性 質d  あ…… 『一心腐乱』 ッ!」
 
爪';゚−゚)「(屋上の直下の教室は、無人……だから、一応被害者は出てこないだろうけど……)」
 
(!!i;・∀・)「でm  お……移動手段  あh、だま、ある!」
 
爪';゚−゚)「  ィえッ……、 」
                             、 、 、、 、、
 翁唯が攻撃を躊躇っていると、茂良々木は、転がってきた。
 足を使ってもだめ、腕を使ってもだめ、となれば、次は胴を使って移動すればいいのだ。
 これが 「手当たり次第」 の 「モララー流」 、彼から手段という手段を抜き取るのは不可能なのである。
 
爪';゚−゚)「 『こ、っちに来るな』 !」
 
(!!i;・∀・)「ggggっげえgg……!」
 
  『一心腐乱』 。 茂良々木の転がる方角を、ずらした。
 翁唯のほうへ向かって転がっていたはずが、
 左に四十度ほど曲がった状態で転がるようになってしまった。
 
 あらゆる点において、正常を異常にする性質 『一心腐乱』 ―――
 
.

130 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:58:31 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪';゚−゚)「(こんなに手間取る手はずじゃあなかったのに…!)」
 
 転がりつつも、茂良々木は依然破壊活動をやめない。
 屋上は、さながらコンクリートでできた畑のようになっていた。
 耕しに耕された畑は、砕かれたコンクリートで盛り上がっている。
 
 茂良々木は、このまま転がってはだめだとわかり、静止する。
 平衡感覚が狂わされているため、反対方向に力をかけて止まろうとはしない。
 完全に脱力して、静止したのを確認してから、立ち上がろうとする。
 
 軸がずらされても、ものにつかまることはできる。
 茂良々木はすぐそこの柵を掴み、全身の力を使って起き上がった。
 翁唯にとっては、そうしようとするだけで既に脅威となっていた。
 
(!!i;・∀・)「 … ……ゲェ……、」
 
(!!i;・∀・)「………そ、ろそロ,吐きそゥ あ……」
 
爪';゚−゚)「…………どうして……」
 
(!!i;・∀・)「   ?     ??  」
 
爪';゚−゚)「どうして、立ち上がれるの……?」
 
爪';゚−゚)「それで、立ち上がろうと、するの……?」
 
.

131 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:59:01 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
(!!i;・∀・)「 立 ち;;あカ゛ろうとすンぐ。、のは簡単nnんさ」
 
(!!i;・∀・)「 『手当たり次第』 立チ上がロトウすれば、い。い。、」
 
爪';゚−゚)「でも、物理的に不可能じゃんか!  『一心腐乱』 をくらってんだぞ!」
 
(!!i;・∀・)「ァあ、ギそれ……  …‥」
 
 茂良々木が、もう一度――と、立ち上がろうとする。
 手すりから手を離すと倒れそうだが、掴んでいれば立つことはできた。
 翁唯の呼吸が荒くなる。 茂良々木の呼吸は、相対的に落ち着いていく。
 
 
(!!i;・∀・)「おッグなちャんの、性質、ンおおmmい出してみな」
 
爪';゚−゚)「…?」
 
  「翁ちゃんの性質を思い出してみな」
 茂良々木の言葉は、聞き取れた。
 しかし、今度はその意図が汲み取れなかった。
 
 翁唯が黙っていると、茂良々木は、言った。
 
 
 
(!!i ・∀・)「そンままずばり、」
 
(!!i ・∀・)「 『捉え方次第』 ―――!」
 
 
.

132 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:59:34 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 内藤から聞いた情報によると、 『一心腐乱』 は、対象によって効力が変わる性質がある。
 ティッシュが適当に散りばめられている状態で風を起こしても多少ティッシュが舞う程度だが、
 とことん積み上げられた本の山の一番下の一冊を揺らせば、途端に怪我が必至となる事故が起こる。
 
 そして、茂良々木の場合、自己完結性が高い。
 それは日頃のプライドの高さ、マイルールの多さに起因される。
  「捉え方次第」 である 『一心腐乱』 が彼に作用すると、その瞬間
 雪崩の如く茂良々木という対象はがたがたに崩れだすのだ。
 
 だからこそ、茂良々木は 『一心腐乱』 にとっての恰好の獲物である、ということである。
 しかし、それは言い換えれば、 「捉え方次第でこの性質はどうとでもなる」 ことになる。
 茂良々木は、そこを突いた。
 
 
爪';゚−゚)「それが、なんなの……、」
 
(!!i ・∀・)「―――つまリ!」
       、 、、 、 、 、
(!!i ・∀・)「手当たり次第暗中模索イテシけば、」
 
(!!i ・∀・)「 『一心腐乱』 の抜け穴が、見出 ;;;ssる――」
 
 
 
              、、 、
(!!i ・∀・)「――――慣れる、ってことさ」
 
 
.

133 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:00:04 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪';゚−゚)「なッ―――」
 
爪';゚−゚)「 『慣れ』 程度で、 『一心腐乱』 が覆されるわけ――」
 
(!!i ・∀・)「覆しちゃあ、いない。 実際、いま、うsggげeえ吐きそうだもん。 オゲェ……」
 
爪';゚−゚)「……………!」
 
  「捉え方次第」 の性質を持つ 『一心腐乱』 の場合、
 対象の本質が変わってしまえば、従って与える効力も変わってしまう。
 茂良々木は、そんな意識の持ちようを、変えた。 だから、 『一心腐乱』 の効力を弱められた――
 
 翁唯にとっては、それは、ただのこじつけでしかなかった。
 ふつうの人間ならば、突破できる術は、存在しないのだ。
 意識の持ちようなど、変えられない。 積み上げられた本が、
 いきなり自発的に質量を変えてくるなどというのはありえないのだ。
 
 しかし、 『落花狼藉』 を持つ茂良々木の性質が、ふつうであるはずがなかった。
 茂良々木は、一般人とは違う性質を持ち合わせているのだ。
 
 
(!!i ・∀・)「………あまり、僕をナメてもらャちッあ、困るぜ……翁ちゃん!」
 
爪';゚−゚)「な、慣れるなんて、あり、え……」
 
(!!i ・∀・)「あリえる!」
 
爪';゚−゚)「――――はア!?」
 
.

134 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:00:45 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
(!!i ・∀・)「いいか!」
           、 、、 、 、 、、 、
 茂良々木は、柵から手を離した。
 そして、そのまま翁唯のほうに歩いていった。
 
 
(!!i ・∀・)「僕の性質は、」
 
 翁唯の顔面が、困惑と畏怖で埋め尽くされる。
 逃げ道は、ない。
 
.          、 、 、 、、 、
(!!i ・∀・)「 『手当たり次第』 !」
 
  『落花狼藉』 の、射程圏内に入った。
 翁唯の背後の壁に、クレーターが三個、できた。
 
 
       、 、 、 、 、 、、 、
(!!i ・∀・)「選択肢がある以上―――覆すことは、できるんだ!!」
 
 
.

135 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:01:45 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪';゚−゚)「――――」
 
 茂良々木は 『一心腐乱』 に凄まじい劣勢を強いられるが、
 しかし唯一、対抗手段があった。
 茂良々木の持つ、 「手当たり次第」 という性質。
 言い換えてしまえば、忍耐、根気、我慢――そういった能力は、ずば抜けて、高いのだ。
 
 ひとたび食らえば廃人必至となる 『一心腐乱』 から、がむしゃら一本で、回復する術を見出す。
 それは、茂良々木が茂良々木だからこそ――
 茂良々木が 「手当たり次第」 の性質を持つからこそ成せる、荒業だった。
 
 つまり、茂良々木は 『一心腐乱』 に致命的なまでに弱いが、
 一方で、 『一心腐乱』 に立ち向かえる稀有な性質を同時に持ち合わせているというのである。
 グーではパーに勝てないが、しかしそのグーで同時にパーに勝つ手段を兼ね備えているようなものであった。
 
 茂良々木が偏人生のなかで育んでいった変人性、 「手当たり次第」 が、突破口を開いた――
 
 
(!!i ・∀・)「まだ、ゲームは終わっちゃいない!」
 
爪:;゚−゚)「…………だったら」
 
(!!i ・∀・)「…… 『だったら』 ?」
 
 
爪;゚д)「こっちも………黙っちゃ、いない……!」
 
 
.

136 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:02:16 ID:g7Vtth9g0
 
 
                       、、、 、
 ―――直後、茂良々木の足元に、落とし穴ができた。
 
 
(!!i;・∀・)「――― おわあああアッ!!」
               、、 、
爪 ゚−)「お前の、足場を捻って……… ぶっ壊した! 」
 
 
爪;゚−)「ただ、相手をおかしくするだけが 『一心腐乱』 じゃないんだよ!!」
 
 
 茂良々木は、咄嗟に前方に飛び込んだ。
 先ほどまで足場にしていたそこは、物理法則を凌駕する謎の歪みによって砕かれてしまった。
 コンクリートが完全に砕け、そこに直径一メートルにも満たない程度の穴ができた。
 
 もう少しで、茂良々木はその落とし穴に落ちては、
 追撃が如く上から降ってくる瓦礫に埋もれてしまい、あえなく戦闘不能となっていたところだろう。
 
  『一心腐乱』 は、対象が人間の思考の場合、
 それをしっちゃかめっちゃかにかき混ぜるが如くそれを狂わせることになるのだが、
 対象が無機物、それも岩やコンクリートの場合、擬似的にそれを破壊する作用に変わる。
 原理は、積み上げた本の山を崩すのとまったく一緒で、
 ただ物質の密度が違いすぎるから破壊じみた作用に見えるのだ。
 
.

137 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:03:12 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 そして、この作用を使えば、翁唯にも物理的な攻撃は可能となる。
 直接的な攻撃は依然不可能だが――相手の背骨でも捻らない限り――
 ただ漠然と相手の足場を破壊するだけで、その威力は侮れないものとなる。
 
 現に、ただ立って移動するだけで困難を要する茂良々木にその攻撃は、厳しいものがあった。
 もし一度でも落とし穴に落ちてしまえば、そのまま瓦礫の下敷きになってしまうのだ。
 また、落とし穴に固執せずとも、極論、茂良々木のすぐ傍らにある柵のあたりを砕けば、
 茂良々木はそのまま、この四階強の高さから天国への階段を下ることになるのである。
 
 そうでなくとも、壁を砕いてその下敷きにすることも、できる。
 泥酔状態で下敷き攻撃を常に避け続けることが、果たして茂良々木にはできるのか。
 持ち前の性質で 『一心腐乱』 による自滅は防げたが、劣勢であることには違いないのだ。
 茂良々木としては、こちらの攻撃手段は最後まで使わないでもらいたいところであった。
 
爪;゚−)「あッ……諦めろ、降参しろ!」
 
爪;゚−)「でないと、ほんとうに、お前……死ぬぞ!」
 
爪;゚−)「いくら根性があっても、瓦礫の圧力には勝てないだろ!」
 
 
 翁唯は、殺人鬼ではない。
 殺人衝動など持ち合わせていないし、
 相手をいたぶることで快感を得る性癖の持ち主でもない。
 
 異常性癖を持つだけで、良識はたしかにあるのだ。
 だからこそ、これ以上、茂良々木には傷ついてほしくなかったのである。
 
.

138 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:04:17 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 しかし、茂良々木とて、退けないわけがないのではない。
 プライドが高かろうが、そこに退く理由がなければ、
 面倒だ、茶番だと一笑に付してはさっさと帰るだろう。
 
 もはや、ここに恋の決闘という建前は存在しない。
 翁唯の 『一心腐乱』 という自己と、茂良々木の 『落花狼藉』 という自己の、ぶつかり合いなのである。
 互いが、互いを下したい、勝利したい、そんなプライドがぶつかり合う戦いが、そこに広がっているのである。
 
(!!i ・∀・)「人のことを気遣ってる暇ハルアのかァ!?」
 
 
              、 、 、 、
(!!i ・∀・)「………射程圏内、だぜ!?」
 
 
 
爪;゚д)「――――!」
 
 気がつけば、翁唯と茂良々木の距離は、三、四メートルほどになっていた。
 常時発動させている 『落花狼藉』 は依然一発も翁唯に当たっていないが、
 弾数だけは増え続けているためか、もう翁唯に、逃げ場はなくなっていた。
 
 一分と棒立ちしているだけで、そのうち、でたらめに撃っている 『落花狼藉』 は当たるだろう。
 下手な鉄砲も数を撃てば当たるというが、数が多ければ多いほど、命中率はたしかに跳ね上がるのである。
 
.

139 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:04:57 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 だが、それもつまりは 「ふつうは当たらない」 ということなのだ。
 異常のない翁唯に、異常だらけの茂良々木。
 情勢を見るならば、どう足掻いても依然茂良々木が劣勢にあることには違いないだろう。
 
 もう、翁唯が攻撃を躊躇う理由はなくなった。
 翁唯は、茂良々木の足元を 「捻り」 、歪みを生むことでそれに耐えられなくなったコンクリートが爆発する。
 足元に違和感をおぼえた茂良々木は、すぐさま倒れこむように前方に転がり込む。
 額に瓦礫の先端が刺さり、ついに出血に至ってしまったが、それで怯むはずも、当然だが、ない。
 
 直後に、翁唯のすぐ後ろの壁に、 『落花狼藉』 が向かった。
 鼓膜を破らん勢いで、轟音が、翁唯の耳をつんざかんとばかりに響く。
 翁唯の聴覚は、そこから十秒ほど、機能という機能を果たさなくなった。
 
 だが、その十秒で決着はつかなかった。
 茂良々木は、もう一度立ち上がろうとする。
 その、 「立ち上がろうとする」 瞬間こそが狙い目だと思った翁唯は、そこを見計らって 『一心腐乱』 を適用させた。
 
(!!i;・∀・)「うおおおおおおお!!」
 
爪;゚−)「(決まったか――――?)」
 
 茂良々木が腹這いになっていたその床が、捻られた。
 歪みに耐えかねたコンクリートは瓦礫と化してすぐ下の教室に降り注ぐ。
 同時に床が床でなくなったため、傍らにあった柵も、土台が砕けることで、地上へと真っ逆さまに落ちていった。
 二重の 「落とし穴」 に挟まれ、茂良々木は―――
 
.

140 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:05:36 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
(!!i;・∀・)「――――」
 
爪;゚−)「(―――    !!)」
 
 
 ――落ちる寸前にあった。
 落とし穴に落ちるわけには、と柵のほうに転がったのはいいものの、
 その柵のほうもコンクリートにつられて砕けてしまったのだ。
 
 つまり、そのまま、茂良々木は柵もろとも真っ逆さまに落ちそうになる。
 そこを、 「手当たり次第」 の性質をもって、なんとかまだ砕けていない柵の部分に飛びつくことができた。
 
 いま、茂良々木をぶら下げているのは、軸をはずされた両腕のみである。
 このままでは、三分としないうちに腕が耐えかねて茂良々木も柵と同様に落ちてしまう。
 一方、先ほど崩れて落ちたばかりの柵は、地面に打ち付けられて、一瞬で砕けてしまった――
 
爪;゚д)「お、おい! 降参しろ! はやく――!」
 
 翁唯も、事の重大性に気づく。
 茂良々木は、ただいま、間違いなく、九死に一生を得る事態に見舞われている。
 比喩でも冗談でも誇張でもない、起こりうる事態として、茂良々木はいま、死にさらされている。
 
 それは、茂良々木にとっても、翁唯にとっても、好ましい事態ではない。
 いよいよ、最終通告となる。 翁唯は、助ける手立てを立てながら、
 茂良々木に、鼓膜が張り裂けんばかりの声で、叫びかけた。
 
.

141 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:06:08 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
(!!i;・∀・)「グ――――」
 
爪;゚−)「お、お前の、負けだ! 見たら、わかるだろ! 茂良々木! ――先輩っ!」
 
 茂良々木が握っている柵のもとに翁唯が向かい、しゃがみこむ。
 茂良々木は、ただ落ちないように柵にしがみつくだけで精一杯だった。
 だが、それだけなら、もう負けたも同然、翁唯が降参に固執する必要もなくなるのである。
 
 翁唯は、信じられなかった。
 茂良々木は、まだ、この期に及んで、依然、 「諦めていない」 のだ。
 
 茂良々木は、
  『落花狼藉』 を、まだ撃ち続けている。
 
 
 ガンガンと、校舎の壁だったり教室の窓だったり屋上だったりを撃ち続けているのだ。
 それはすなわち、僕はまだまだ戦い続けるぜ、という意思表明である。
 しかし、それはもはやただの強情なのだ。 茂良々木は、あきらかに窮地に立たされているのだから。
  「翁唯に当たることのない」 攻撃を、しかしそれでも諦めずに闇雲に撃ち続けている。
 
 いくら 「手当たり次第」 の性質を持つからといって、
 この状況下でも依然 『落花狼藉』 を発動し続ければ、
 そのうち自分が地上に落ちて絶命してしまう――というのは、茂良々木もわかっているはずなのだ。
 わかっているが、茂良々木の持つ変人性、モララー流が、それを止めさせない。
  「一発でも当たれば勝てる」 状況だからこそ、茂良々木はやめるわけにはいかないのだ。
 
.

142 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:06:42 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪;゚−)「まさか……自分を殺させないために、先に私を降参させる、ってつもり……?」
 
(!!i ・∀・)「そ、ンな情、けない方ッ 法で、この僕が、茂良々木が、納得するはずも、ないだろう」
 
爪;゚−)「そんな冗談言ってる場合じゃないって言ってるだろ!」
 
爪;゚−)「―――死ぬつもり!? 恋が、成就しないから、って、だけで……!」
 
 翁唯の声が、ヒステリックなそれに変わる。
 女性特有の耳をつんざくような声が、よけいに茂良々木の神経を削ぐ。
 一瞬でも気を抜けば即死もありえる局面において、茂良々木は必要以上に劣勢に追い詰められていった。
 
  『落花狼藉』 は、依然、続く。
 ガンガン、ガンガンと、工事現場ですら聞かないような轟音が連打される。
 ついに、 「校舎そのものが壊れ始めてきた」 。
 
 
(!!i ・∀・)「僕は、僕なりのやり方で……」
 
(!!i ・∀・)「 『手当たり次第』 、できることはやって……」
                 、 、 、 、 、、 、
(!!i ・∀・)「それで、きみに、先に降参させる……!」
 
 
 
(!!i ・∀・)「それが、モララー流だ……っ!」
 
 
.

143 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:07:12 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪;゚−)「だからって、それがなん…………」
 
爪;゚−)「…………………え……」
 
 
 翁唯は、ある違和感を察した。
 足場が、みるみるうちに、不安定になっているのだ。
 茂良々木の 『落花狼藉』 で床が砕かれて、歩きづらい――という次元の話ではない。
                      、 、、   、、、 、、 、、 、
 屋上、二人がいる西側の隅の地盤が、著しく弱っているのだ。
 その瞬間、翁唯は、ある 「可能性」 に触れた。
 
 
 茂良々木が一向に降参せず、 『落花狼藉』 を続ける理由は。
  「翁唯にはまず当たらない」 のに、 『落花狼藉』 に固執する理由は。
 自分が死の目の前に立たされても、依然見出すことのできる勝機は。
 
 
 翁唯は、気づいた。
  「翁唯にはまず当たらない」 。
 これは、言い換えれば。
 
  、 、 、 、 、 、  、 、 、 、、
 翁唯以外には、まず当たる―――
 
 
.

144 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:07:43 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪;゚−)「――――」
 
爪;゚д)「―――なああああああああああああ!!?」
 
 
  、 、 、 、  、 、 、 、 、 、、 、、  、、 、、 、 、、 、
 旧校舎は、翁唯の足場もろとも、崩れんとしていた。
 
 
 
(!!i ・∀・)「僕のほうが耐えかねて、落ちるのか――」
 
(!!i ・∀・)「校舎のほうが 『落花狼藉』 に耐えかねて、翁ちゃんもろとも崩れ落ちるのか――」
 
(!!i ・∀・)「二つに一つの、文字通り、ワンサイド!」
 
 
 
 
(!!i ・∀・)「ワンサイドゲームだ!!」
 
(!!i ・∀・)「さあ、どうする! リズム・オブ・カーニバルッ!!」
 
 
 
.

145 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:08:15 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪;゚д゚)「               」
 
 
 校舎が、茂良々木の 『落花狼藉』 に耐えかねて、悲鳴をあげはじめた。
 
 しゃがみこんでいた、その足場が、十五センチほど、沈んだ。
 
 徐々に、体勢が、傾いていく。
 
 屋上の西側を支えていた校舎が、崩壊する。
 
 
 
 ここに残された二つのサイドとは、すなわち
 
 茂良々木と翁唯が二人とも死ぬか
 
 それとも
  、 、 、 、 、 、 、 、、 、 、
 翁唯が戦いを放棄するか―――
 
 
 
 
 
 
 
 
.

146 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:08:55 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

147 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:09:33 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 

 
 
 
(  ゚ω゚)
 
 内藤武運は、その壊れゆく旧校舎を見て、眩暈を感じた。
 たしかに、旧校舎は、人が少ない。
 冷房が全教室に完備されているはずもないし、
 修繕費を抑えているためコンクリートの肌が所々で晒されていたりと、景観は悪いのである。
 
 しかし。
 校舎は、校舎だ。
 というより、一建造物だ。
 
 苦心の末ローンを組んでマイホームを建てる大黒柱の心情を、推し測ったことはあるのか。
 己のとっている、日頃の無茶な行動、 「手当たり次第」 が
 どれだけの被害総額を生み出しているのか、計算してみたことはあるのか。
 
 ――いくら考えても、既に壊れてしまったものを元に戻すのは、不可能だ。
 そして、修繕費どころの話でなくなるのも、既に確定してしまった未来だ。
 内藤は、どうやってこの現実から逃避しようか、ということで、 『荒唐無形』 という性質を発揮させた。
 
(  ゚ω゚)
 
(  ゚ω゚)
 
( ^ω^)
 
 
 そもそもそこにあるかわからない 『荒唐無形』 。
 その性質は、いつだって 「気分次第」 である。
 
.

148 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:10:28 ID:g7Vtth9g0
 
 
 

 
 
 桜といえば、この日本国における代表的な花として位置づけられている。
 国花は梅のようだが、国内一斉調査なんてもので 「花と言えば」 と聞いてみれば、おそらくは桜があげられる。
 
 春、という、環境面においては過ごしやすく、精神面においては一期一会の代名詞となる季節に咲くから――というのも、一理。
 しかし、やはりその特徴的な桃色のはなびら、その美しさにうっとりする人のほうが、多いのであろう。
  『落花狼藉』 茂良々木耶夜は、特にそのはなびらが舞い散るさまに心を奪われるらしい。
 
 旧校舎半壊のニュースは、一日経たぬうちに広まり、一大事件として取り扱われた。
 翁唯の降参を受けることで馬が集まる前に退散できたため、二人は知らぬ存ぜぬを貫くことにした。
 
 茂良々木の一世一代の恋を妨げていた壁は、 『落花狼藉』 によって、打ち砕かれた。
 もう障壁はない、と、茂良々木は晴れて、渡辺さくらに交際を申し込んだ。
 
 
( ;・∀・)「だ……だめえ!? どーしてさ!」
 
从'−'从「別に、唯ちゃんを下せたらつきあうよ、とか一言も言ってないし……」
 
( ・∀・)「恋の決闘に、勝ったんだぜ? それも降参で、だ」
 
从'ー'从「うん、さっき聞いた〜」
 
( ;・∀・)「あの翁唯が認める男が、この僕、茂良々木なんだぜ!?」
 
从'ー'从「でも、そもそもわたしがその決闘を提案したわけでもないし……」
 
.

149 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:11:03 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ;-∀-)「僕の恋は、夢とともに散った、ということか……」
 
从'ー'从「別に茂良々木くんのこと嫌いってわけじゃあないよ〜」
 
( ・∀・)「いや……きっと、こいつは、罰なのだよ、渡辺ちゃん」
 
从'−'从「ば、罰?」
 
 茂良々木は、翁唯との決闘でできた打撲をさすりながら、自嘲するような笑みを浮かべた。
 渡辺さくらは、二人の決闘の様を見ていない。
 そもそも、旧校舎半壊の黒幕が彼らであることすら、たぶん知っていないだろう。
 
 しかし、茂良々木にとってそんなことはお構いなしである。
 ただ、茂良々木特有の変人性を納得させるために、彼は笑うのである。
 
 
 
( ・∀・)「落花狼藉……」
 
( ・∀・)「僕は、それでいろんなものを散らしてしまった、ってところだよ」
           、、、
( ・∀・)「ね、さくらちゃん?」
 
 
.

150 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:11:59 ID:g7Vtth9g0

.     "        リ''-、
       .       .,/::::│                     ,,,,,,,,,、
.              l゙:::::::::::,/        ィ,!             |::::::│
.              l,,,---'′                        ,i::::::i、l
.             ″          ,               `゙'''''''''゙゙
                       ,‐゚i、
                       l゙._,,,ノ
                       '"
                              ,...                 ノ⌒)
                 .        /(                 ~''''"
                         {:::::::)              ト、
                         ゙'''"              lノ
 
                   Rhythm of carnival
      />                『 一 心 腐 乱 』       ,/,ニ''ッ‐
      ´                                ノ::::′ l
                                       '―ー''"
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151 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 13:12:39 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 
 『一心不乱』
 【読み】 いっしんふらん
 【意味】 心を一つの事に集中して、他の事に気をとられないこと。 また、そのさま。
 
 
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