( ・∀・)は落花狼藉のようです

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84 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:25:55 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 

 
 
 
 この動物園では、ただ実物の動物を 「見る」 だけでなく、実際にそれを 「触る」 ことができる。
 うさぎやイルカなどはもちろん、ライオンやダチョウに餌をあげることもできる。
  「動物を見るだけでは来場客を満足させられない」 ため、
 昨今の動物園ではこういったコーナーやイベントが設けられているのが一般的である。
 
 そのコーナーの開園時間になったのを見て、三人はそちらに向かった。
 幼児や小学生に人気が高いとされている、うさぎと触れ合えるコーナーである。
 だが、決して幼稚、というわけではなく、渡辺のような女子高生からも受ける支持は大きい。
 このふれあいが、渡辺の目的だったのだ。
 
从^ー^从「可愛い〜〜!」
 
爪>ー゚)「きゃっ! 背中乗られた!」
 
从'ー'从「茂良々木くん〜〜」
 
 
( ;・∀・)「チクショウ! すばしっこすぎるだろ! 待て!」
 
 
从'ー'从「〜〜……?」
 
爪゚−゚)「うさぎと追いかけっこしてるみたいです。 ……血眼で」
 
.

85 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:26:32 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 二百円でうさぎに直接餌をあげることができるオプションがあった。
 飼育員のレクチャーのもと、渡辺と翁唯はおそるおそるにんじんをあげようとする。
 その瞬間周囲にいたうさぎ達が一斉に二人に飛び掛った。
 
 重くなく、痛くなく、ただ臭いが気になる程度で、
 ぬくもりと毛並みと小動物の持つ軽い体重が二人の調子を吊り上げた。
 茂良々木がプライドを捨てて――しかしプライドのために――うさぎと走りまわっている間、
 渡辺と翁唯は、十二分にふれあいを楽しんでいた。
 
 はしゃぎすぎたため、渡辺も翁唯も呼吸を少し乱した。
 ようやくうさぎを捕まえることに成功した茂良々木が戻ってくる頃には、二人は遊びつくしていたというわけだ。
 茂良々木が渡辺の隣に座り、彼も彼で疲れていたため、深い溜め息をついた。
 
 
 少しして、渡辺は立ち上がった。
 なんだ、と思うと、渡辺は
 
从'ー'从「わ、わたしちょっとトイレ行ってくるね〜」
 
( ・∀・)「へ?」
 
从^ー^从「だから、ごめんだけどちょっと待っててね〜」
 
 といって、そそくさとふれあいコーナーから出て行った。
 
.

86 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:27:04 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ・∀・)
 
( ・∀・)「え?」
 
 事を認識できた頃には、渡辺の姿はもう追えなかった。
 がばっと振りかえったまではいいが、しかし遅かったのだ。
 
 茂良々木は、現状を即座に把握した。
 いま、この場には、
 
爪゚−゚)
 
  『一心腐乱』 ――翁唯しかいないのだ。
 恋の決闘に鎬を削る両者が、二人きりになった――茂良々木は、嫌な予感しかしなかった。
 
 今すぐにでも、逃げ出したくなる衝動に駆られる。
 茂良々木のような男でも、本能には忠実なのだ。
 翁唯から体臭のようにあふれてくる 『一心腐乱』 、
 それが茂良々木の体力を徐々にしかし確実に奪い取っている。
 茂良々木にとってそれは、精神的に受け入れがたい、受け入れたくない、受け入れるべきではないことであった。
 
 しかし、逃げ出すわけにはいかない。
 というより、ここで逃げ出せば、やはり、渡辺を賭けた戦いに負けるということである。
 その点を差し引いても茂良々木は 『一心腐乱』 ともう一度戦いたいという気構えでいるのだが、
 しかしその実物を目の当たりにすると、そんな意気込みでさえ腰を砕かれては戦闘不能にさせられるのだ。
 
.

88 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:27:37 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ;・∀・)
 
爪゚−゚)
 
 ちらっと――翁唯の表情を、見た。
 渡辺と一緒にいたときのそれとは違って、完全に 『一心腐乱』 のそれとなっている。
 
 先ほどまでは瞳だけだったのが、いまや顔全体が死んでいる―― 「腐っている」 。
 肌からみずみずしさが抜けて、唇は動きそうになく、髪は今にでも真っ白に染め上がりそうで――
 翁唯は、完全に、本性、有体、あるがままに戻っていた。
 
 
( ;・∀・)「(く、クソ………対抗手段はないのか!)」
 
爪゚−゚)「先輩」
 
( ;・∀・)「ッッ! …………な、なに?」
 
 女子高生らしさを感じさせない掠れた声を、翁唯は発した。
 はからずも、茂良々木はびくっと背筋を反らせた。
 
 翁唯が、茂良々木に手を伸ばす。
 なにをされるのか―― 『一心腐乱』 で仕留めにかかるのか――それとも――
 などと考えていると、彼女は、茂良々木が膝の上にのせていたうさぎを、抱き上げた。
 
.

89 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:28:12 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ;・∀・)「………」
 
( ・∀・)「……?」
                 ワンサイドゲーム
爪 ゚−)「あなた……あの 『落花狼藉』 だったのですか」
 
 彼女は、女座りのまま、うさぎを抱いて、そのふかふかな毛並みに顔――口をうずめる。
 その姿だけを見れば、 「淑やかな女子高生」 なのだ。 その姿だけを、見れば。
 
( ・∀・)「し……知っているのか」
 
爪 ゚−)「うわさは………。 茂良々木に近づいたら、事故が起こる、とか」
 
  「事故」 とは、なにも起こってないのにいきなり吹っ飛ばされたり、打撲を負うことである。
 その原因は茂良々木の 『落花狼藉』 であるのだが、
 事実として茂良々木は指一本相手に触れていないため、外野から見ればそれはただの 「事故」 なのだ。
 
 茂良々木がそのキャラとは裏腹に辛酸をなめることがないのは、
 そんな迷信がまことしやかに囁かれているためである。
 
 それを知っていたことに関しては、問題はない。
 それ以上に、茂良々木は、翁唯がふつうに話しかけてくることのほうが不思議で仕方なかった。
 
.

90 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:29:13 ID:g7Vtth9g0
 
 
         リズム・オブ・カーニバル
爪 ゚−)「私……   『一心腐乱』   なんて性質があるんですが、知ってますか」
 
( ・∀・)「………」
 
爪 ゚−)「知りませんか」
 
( ・∀・)「いや、知っている。 知っているさ」
 
爪 ゚−)「この前は………失礼しました」
           、 、、
 翁唯が――謝った。
 茂良々木は一瞬、己の耳を疑った。
 だが、聞き間違いではなかったし、聞き間違いだとも思わなかった。
 
爪 ゚−)「私……怖かったんです。 お姉様を奪われるのが」
 
( ・∀・)「(一応、お姉様と呼ぶのはデフォルトなのか)」
 
 
爪 ゚−)「だから……ホンキで、殺しにかかってた」
 
( ・∀・)
 
.

91 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:29:48 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 しれっと、翁唯が己の殺人衝動に触れた。
 茂良々木は思っていたよりも事が深刻だったことに、言葉を詰まらせた。
 
 しかし、その様子には気づかず。
 翁唯は、顔を上げ、うさぎの背中を撫でながら続けた。
 
爪゚−゚)「私、ちょっと、他人とは違うところがあるんです」
 
( ・∀・)「(そりゃあ……)」
 
爪゚−゚)「同性愛は別にふつうだとしても、」
 
( ・∀・)「(…………そうきたか)」
 
爪゚−゚)「なんというか、性癖…? そういうのが、ちょっと、たぶん、変で」
 
( ・∀・)「性……癖?」
 
爪゚−゚)「たとえば、このうさぎ……」
 
 うさぎはおとなしく、翁唯が抱いていてもまるで抵抗を示さない。
 それだけよく飼われた、人によくなつくうさぎであるということがわかる。
 そんなうさぎは、仰向けにされて腹をさらけ出されても、抵抗しなかった。
 
.

92 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:30:20 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪゚−゚)「可愛いですよね。 目がきれいで、毛がさらさらで、むくむくしてて」
 
 今度はおなかを撫でながら、言う。
 
爪゚−゚)「でも、私」
 
( ・∀・)「私?」
 
 そして、撫でるのをやめて
 
      、 、、 、 、、 、 、、、   、、 、、 、、
爪゚−゚)「撫でたり触るだけじゃ、満たされないんです」
 
     、 、 、 、 、、 、、
 ――四肢を弄びだした。
 
 
( ・∀・)「……」
 
 可愛い両手両足を、軽く引っ張ったり、ちょんちょんと突いたりする。
 別段おかしくはないように見える光景だが、翁唯という人を知っていると、
 その光景は、網膜に映るまったく別の、残虐なものであるかのように見えてくるのだ。
 
.

93 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:30:53 ID:g7Vtth9g0
 
 
                                、 、、 、、 、
爪゚−゚)「たとえば……このうさぎの四肢を、根元からもぎ取ったり」
 
( ・∀・)
 
 
爪゚−゚)「別に、うさぎが嫌いってわけじゃあ、ない。
      むしろ、可愛い、愛おしい……からこそ、だるまに染め上げたい」
 
爪゚−゚)「残虐で、おぞましくて、グロテスクで、猟奇的で、救いようがなく、
      もぎ取られた後の姿を見て、後悔の念に駆られる」
 
爪゚−゚)「どうして、あのうさぎを、こんな悲惨な目に遭わせた、遭わせてしまった……
      数分前までは、元気に、愛らしい姿で跳ね回っていたのに……って」
 
爪゚−゚)「そうして、とことん心が削られて……
      頭がおかしくなって、割れそうで、暴れまわりたくなる衝動に駆られ、それが、」
 
 
 翁唯は、 「あの瞳」 を浮かべた。
 
 
 
爪゚−゚)「きもちいい」
 
 
.

94 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:31:29 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ;・∀・)「――――」
 
 淡々と――喜怒哀楽のいずれにも属さない、表情、――無――を浮かべ、
 なんの悪びれも反省も配慮も考慮も思慮も挟まず、すぱんと、言い切った。
 
 茂良々木は明らかに顔で不快を訴える。
 しかし翁唯はそれを見ない。 気づかないし、考えもしない。
 
 
爪゚−゚)「おなかを裂いて、腸のなるべく肛門に近いあたりを千切って、
      それをうさぎの口に縫い付けたいって思ったりもする」
 
爪゚−゚)「目を潰して、耳を剥いで、鼻を切り取って、口を縫い付けて、
      だるまの状態で栄養分を点滴で賄って生きさせたりもしてみたいし」
 
爪゚−゚)「一日一回体の一部分を一センチ角で切り取って、
      それを調理したものを食べさせるってのも、よさそう」
 
爪゚−゚)「……でも、どれもこれも、ストレス発散だとか、胸がすぅーっとするとか
      そんな面においての性癖、ってわけじゃあ、ないんです」
 
爪゚−゚)「そうすることでイカれそうになる自分が、窮地にまで追い詰められるのが、イイんです。
      これをリョナって言うのかはわからないけど……つまり、そんなところ」
 
 
爪゚−゚)「それが、乱れ腐った、私。 『一心腐乱』 です」
 
.

95 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:32:01 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 茂良々木は背骨が掴まれているような錯覚をした。
 背骨をダイレクトに掴まれ、揺さぶられているような、
 体の芯から地震が起きているかのような、強い震えが、彼を襲っていた。
 
 恐怖――では、ない。
 畏怖――でも、ない。
 狂気――こそ、正しい。
 
 翁唯の持つ、底知れぬ狂気を感じ、
 茂良々木の刻み付けられていたトラウマの規模が、更に増大した。
 彼女こそが、まさしく、正当な、狭義における、間違いのない、 「異常者」 である。
 
 茂良々木の場合はその捻くれた性格と性質が異端児とされているのだが、
 翁唯の場合は、その徹底された性癖が、 『一心腐乱』 という性質までをも生み出してしまったのだ。
 
爪゚−゚)「ゴアだの、カニバリズムだの、ネクロフィリアだの」
 
爪゚−゚)「異常性癖という異常性癖が、みんな、私を甚振ってくれて、それが……快感につながる」
 
(!!i ・∀・)「………つまり、狂ってるアタシってば可愛い☆ ……とか?」
 
爪゚−゚)「私は精神面におけるマゾヒズム……つまり、自己完結してるんです。
      まわりにあれこれ思われるのがイイわけでは、一切、断じて、万が一にも、ない」
 
(!!i ・∀・)「そ……そうか」
 
.

96 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:33:55 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 キャラ付けのためにクレイジーを演じているわけでないことくらい、茂良々木にもわかっていた。
 むしろ、彼女の場合、普段はその性癖を押し殺して、押し隠して、押し倒しさえしているのだ。
 つまり――真性の、異常性癖愛好家であり、 『一心腐乱』 な性質を持ち合わせている。
 
 茂良々木は、性癖に関しては異常が見られない。
 彼の場合は、努力家にして自信家、人とずれた感性を持ち、能力が高い――の、だ。
 人間としてなにかがおかしい、というだけで、翁唯のようにある一項目が抜きん出ているわけではない。
 
 その抜きん出た項目がもととなる性質、 『一心腐乱』 。
 茂良々木という人間が生み出した性質、 『落花狼藉』 との相性は、最悪である。
 ここに来て、茂良々木は、勝算という勝算が、まるで浮かばなかった。
 
 不良には勝ち、その圧倒的な制圧力でワンサイドゲームを決める性質。
 茂良々木のアバターとも呼べる 『落花狼藉』 での対抗は、不可能――なのだ。
 
 翁唯は、渡辺のことになると我をも忘れて暴走してしまう節があり、
 前回はたまたまなんとか助かったものの、そのとき彼女はたしかな 「殺意」 を抱いていた。
 つまり、恋のためとはいえ、もう一度 『一心腐乱』 と渡り合うのは――無謀、暴挙、自殺行為。
 
 
爪゚−゚)「――わかってもらえましたか?」
 
( ;-∀・)「へ?」
 
.

97 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:34:33 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 翁唯は、うさぎを放した。
 うさぎは一目散に他のうさぎが集まっているほうへ向かってから、
 立ち止まっては翁唯に一瞥を与え、そのまま餌にありつき始めた。
 
 翁唯のあの視線が、茂良々木に向けられる。
 精神攻撃のラッシュをくらった上での、言うところの追い討ちだ。
 茂良々木の精神はまさに窮地に立たされていた。
 
爪゚−゚)「私、どうしても、お姉様が好きなんです」
 
爪゚−゚)「好きで、好きで、好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きなんです」
 
爪゚−゚)「あの人のこととなると、一心不乱に暴れてしまう……くらい、好きなんです」
 
 
 
爪゚−゚)「だから………お姉様のことは、」
 
爪゚−゚)「あきらめてください」
 
 
.

98 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:35:19 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 ――勝算は、絶望的。 勝機などない。
 ――相性は、絶望的。 正気ではない。
 
 もし次があるとすれば、それは茂良々木耶夜という男の殺害シーンである。
 ただ狂いに狂った茂良々木が、意識不明の重体に陥るのである。
 外傷はなく、ただ精神障害を負い、気違いになり、 「人間失格」 に――
 それこそ、太宰治の描いた大庭葉蔵のような最後を迎えることになるのだ。
 
 戦う価値はなく、戦う意味はなく、戦う意義はなく、戦う気力もない。
 翁唯としても、いたずらに 『一心腐乱』 を使いたいわけでは、ない。
 だからこそ、今回の 「ダブルデート」 を好機に、そう忠告したのである。
 
 茂良々木も、それはわかっていた。
 その背景も、事情も、理由も、わかっていたことには、違いない。
 違いないが、わかってはいたからこそ、即答した。
 
 
 
 
( ・∀・)「いやだ」
 
 
 
.

99 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:35:50 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪゚−゚)「       」
 
 今度は、翁唯が絶句した。 言葉を詰まらせた。 面食らった。
 目を丸くし、茂良々木を見つめた――凝視した。
 お前は正気なのか――その視線は、そう語っていた。
 
 
( ・∀・)「それが、渡辺ちゃんを諦める理由にはならない」
 
( ・∀・)「それで諦めるんじゃあ、そもそもそいつは恋じゃない」
 
( ・∀・)「逆に、きみが同じ立場なら、諦めるのかな? ん?」
 
 ――平常運転に戻った茂良々木は、半ば挑発する勢いで、聞いた。
 翁唯は、少し俯いて答えた。
 
爪 −)「……知りませんよ。 手加減なんて、できないんだから、私の性質上」
 
爪 −)「この前だって、初対面――に近い状態だったんだから歯止めが聞いただけなんだから」
 
 狂っていても女子高生の翁唯は、いたずらに人を傷つけたいなどとは思わない。
 だから、このように再三忠告を繰り返すのだが、
 そういうのを全て無視して 「わがまま」 を 「一方的」 に 「貫き通す」 のが、茂良々木の変人性にして性質なのだ。
 
.

100 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:36:31 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ・∀・)「それに」
 
爪 ゚−)「……、」
 
                     ワンサイドゲーム
( ・∀・)「きみは……僕の 『落花狼藉』 を破った」
 
( ・∀・)「こいつは、大変罪深い行為なのだよ、翁ちゃん」
 
 
 そして――プライドが高いのだ。
 
 
爪 ゚−)「…………」
.             、            、 、
( ・∀・)「これは恋の決闘でもあるし、来いの決闘でもある」
 
( ・∀・)「渡辺ちゃんを賭けた決闘である以前に、僕のリベンジマッチなのだよ。
       つまり………挑戦状だ」
 
 
       、 、
( ・∀・)「来いよ、 『一心腐乱』 。 僕に、リベンジをさせるんだ」
 
爪 ゚−)「…………………………」
 
( ・∀・)「……。」
 
爪 ゚−)「…………………、」
 
.

101 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:37:09 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 
 
从'ー'从「お待たせ〜〜」
 
( ・∀・)「あ、遅かったね」
 
从'−'从「女の子にそんなこと聞く〜?」
 
( ・∀・)「おっと! 僕はてっきり気を利かせてくれたのかと思っていたんだけど。
       ………ソフトクリームとか」
 
从'ー'从「たしかに、喉、渇いちゃったもんね〜〜。
      ちょっと売店よろっか〜〜」
 
 茂良々木が、立ち上がる。
 翁唯はまだ座っていた。
 
从'ー'从「唯ちゃん、行こ〜?」
 
爪゚ー゚)「え、あ………ハイ」
 
 その動作はどこか覚束なく、少し違和感を与えるものであった。
 渡辺がそれを問うことはなかったが、茂良々木の眼にはしっかりとそれが刻み付けられた。
 
.

102 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:38:14 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 

 
 
 
( ^ω^)「お前は、馬鹿だ」
 
 少年誌を読みながら、内藤は答えた。
 茂良々木が、それでも決闘を申し込んだということに対して。
 
 
(^ω^ )「第一、場所、場所はどうするってんだ」
 
(^ω^ )「まさか、まーた校舎を破壊するとか言うまいな」
 
( ・∀・)「そんなぁ」
 
(^ω^ )「その 『そんなぁ』 はなんだ? 『まさかぁ』 が続くのか?」
 
( ・∀・)「恋の決闘なんだから、そこはほら、校舎で……」
 
(^ω^ )「やっぱり、馬鹿だ」
 
.

103 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:38:45 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 いつ来ても、生徒会執行部には人影が一つしか見当たらない。
 顧問の教師も、ほかの役員も、皆、この生徒会執行部に滞在しないのだ。
 内藤曰く、なにか会議をするときに集まる程度で、それ以外はほぼ内藤の個室なのである。
 
 また、週一回の定例会――などというのも、この生徒会執行部には存在しない。
 詰まるところ、いまの生徒会執行部は内藤のワンマンチーム同然なのだ。
 
( ^ω^)「あのな、モララー」
 
( ^ω^)「修繕費、お前、一銭でも出したか?」
 
( ・∀・)「学費から出てるじゃないか」
 
( ^ω^)「OK。 問い方を変えるお」
 
( ^ω^)「お前、だけ、特別で一銭でも出したか?」
 
( ・∀・)「え? どうして?」
 
(^ω^ )「………(憤慨)」
 
 内藤が聞き返さなかったのは、返ってくる答えに予測が容易についたためだ。
  「恋の決闘は思春期の定めであり大人の階段をのぼるための儀式であるため
 生徒を成長させる義務を持つ学校側はその儀式に進んで協力する必要がある」
 茂良々木の、詰まることなく言い切るであろうその姿は、いとも簡単に脳裏に浮かべることができた。
 
.

104 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:39:41 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
(^ω^ )「…………まあ」
 
( ^ω^)「勝ち目は、あるのか?」
 
 少年誌を傍らに置いた。
 内藤のその声は、いつもより真剣味が少しだけ増していた。
 茂良々木に修繕費のことだの、破壊活動がやいのと言っても無駄であるとわかっているのだ。
 
 長い付き合い――というわけでもないが――の内藤は、
 そんなこと以上に 『落花狼藉』 と 『一心腐乱』 の戦いの行方が気になっているのだ。
 そのことしか気にならず、少年誌の続きすら頭に入ってこない、と言ってもいい。
 
( ・∀・)「わからない」
 
( ^ω^)「わからない?」
 
 茂良々木にふざけるつもりは、微塵もない。
 わからない、と即答したのは、ほんとうにわからないから、だ。
 
( ・∀・)「勝てる勝てないの二択で言うなら、たぶん勝てない、に近い」
 
( ・∀・)「しかし、だ。 可能性の話をするなら、人間の僕には回答なんてできないね」
 
( ・∀・)「僕はあくまで、 『手当たり次第』 、ぶつかっていくだけ、なんだから」
 
.

105 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:40:11 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
( ^ω^)「………」
 
 やっぱり、か――
 
 
( ・∀・)「ひょっとしたら、途中で雷雲が来て、だぜ?」
 
( ・∀・)「翁ちゃんはカミナリが弱点だったのです、はい撃破――ってェのもありえる」
 
( ・∀・)「僕の性質は、 『手当たり次第』 だぜ。 可能性の話なんて持ち出すなよ」
 
(^ω^ )「やっぱり、お前は、めんどくさい奴だ」
 
 内藤は傍らに置いたばかりの少年誌に、再び手を出した。
 
( ・∀・)「お前は読んだり読まなかったりで忙しい奴だな」
 
(^ω^ )「 『荒唐無形』 。 何事も気分次第、ですから」
 
 適当に開いたページから、読み進める。
 それは内藤が読んでいない作品のしかも途中からであったが、気にせずページを繰っていく。
 茂良々木は、やれやれ、と恰好をつけてみせた。
 
( -∀・)「放課後、渡辺ちゃんを賭けた戦いを屋上でする」
 
( ;^ω^)「――ッはあ!?」
 
.

106 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:40:43 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 ころころと態度や表情や様子や調子が変わる様を忙しい、というのであれば、
  「気分次第」 の内藤は、たしかに忙しい人間だろう。
 内藤は少年誌を放り投げて、茂良々木のほうにがばっと体を向けた。
 
( ;^ω^)「おッお―――、おい、もっぺん言えお!」
 
( ・∀・)「もっぺん、て……決闘を、屋上でだな、」
 
( ;^ω^)「よりにもよって、屋上かよ!! ッざけんな、あそこだけは許さん!」
 
( ・∀・)「え、なんで」
 
( ;^ω^)「アンテナだったり貯水タンクだったり、壊されちゃあたまらんもんがいっぱいあるんだお!」
 
( ・∀・)「金なんかよりも大事な問題がだな、」
 
( ;^ω^)「修繕費の問題じゃない! あれらが壊されたら、しばらくは休校になる騒ぎだっての!」
 
( ・∀・)「それはそれで、喜ぶ人も出てくるんじゃない?」
 
( ;^ω^)「僕にしわ寄せがくるんだっての! てめえふざけんじゃねーお!」
 
( ・∀・)「そもそもそこにあるかわからない 『荒唐無形』 。
       内藤に責任を押し付けようにも、押し付ける内藤が内藤だから大丈夫。 たぶん」
 
( ;^ω^)「ふざけんな、おたくの勝手なプライドで学校を機能停止にさせられるわけには……」
 
.

107 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:41:31 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
  「わかった」 と茂良々木は手と声で内藤の言葉を制止した。
 しかたない、と言ったような顔である。
 
( ・∀・)「旧校舎の屋上なら、構わないだろう?」
 
( ^ω^)「どーしてそこまで屋上にこだわるのやら……」
 
( ・∀・)「決闘と言えば、屋上と相場が決まっている」
 
 樹海高校の部活動は、おもに旧校舎で行われている。
 学校側の予算の都合で景観は悪いが、一部冷房も完備されている教室があったりと、
 あくまで予備的な活動をするための空間としては、悪くない場所であった。
 
 そして、旧校舎の屋上には、なにもない。
 ただ吹奏楽部の管楽器の不協和音なんかが飛び交うため、耳障りではある。
 
( ^ω^)「まあ……大丈夫だろうけど」
 
( ・∀・)「旧校舎の屋上って、どこの団体も使ってないよな?」
 
( ^ω^)「言っとくけど、生徒会はそこまで管理してないぞ」
 
( ・∀・)「ほんとうかい?」
 
(^ω^ )「だって、めんどくさいし」
 
( ・∀・)「……」
 
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108 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:42:02 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 

 
 
 
爪 ゚−)「……」
 
 昼休み、翁唯は例によって昼食を調達しようといの一番で教室から出た。
 のはいいが、教室前で待ち伏せていた茂良々木に捕まった。
 茂良々木とは因縁があるため、翁唯も当然身構えたが、
 茂良々木はただ、果たし状を口頭で届けにきたようなものであった。
 
 今日の放課後、旧校舎の屋上で、殴りあおうではないか、と。
 
 まがりなりにも後輩の女子に言うようなセリフではないが、翁唯は沈黙で了承を示した。
 先制攻撃だったりなにかの作戦だったり、というものを警戒したが、
 そんなことはなかったので翁唯は拍子抜けした。
 
 それが、茂良々木耶夜なのである。
 プライドが高く、自分なりのルールというものを自分に課せている。
 それは文字通り枷にしかならない馬鹿げた主義であるのだが、
 それこそが彼の持つ変人性、モララー流なのだ。
 
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109 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:42:35 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
 昼を食べ終えたら、あとは読むつもりの本を開いて昼休みが終わるのを待つだけだ。
 しかし、今日に限ってはそうすんなりと事は進まなかった。
 
 茂良々木の変人性は、有名である。
 彼は、先ほど、同様にその変人性がまことしやかに囁かれている翁唯と個人的に邂逅したのだ。
 そして密談とも思わしき会話を交わして、そのまま別れた。
 ――その一部始終をたまたま見ていたクラスメートたちが、そのことを話していた。
 
 彼女たちの目には、茂良々木と翁唯が恋仲で、
 デートの約束だとか、そんなものを話していたように見えたのだ。
 おかしな人、翁唯の恋愛事情は彼女たちにとっては大きなニュース性を孕んでいるのだ。
 
 ページを、情景を思い浮かべながら繰る。
 その傍らで、わざと翁唯に聞こえるか聞こえないかくらいの声量で
 ぼそぼそと妄想やこじつけで、人にきかせる為のうわさ話をつくりあげる。
 翁唯は、そんな彼女たちの行動が、この上なく面倒くさく思った。
 
 一つは、自分が茂良々木――以前に、男に恋愛感情を抱くと思われていることに対する嫌悪。
 翁唯は、男性が、男が、雄が、嫌いなのだ。
 汚らわしく、私利私欲に貪欲で、利己的で自己中心的である様子が、不快にしか感じられない。
 
 一つは、自分を笑い話のネタにしていることに対する、屈辱。
 茂良々木同様、変人性を持つ翁唯でも、好き、嫌い、はあるのだ――人外では、ないのだ。
 いじめられたら不快に思うし、殴られたら痛いと思う。
 
 翁唯も、嫌いなものは嫌いなのだ。
 
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110 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:43:09 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
爪 ゚−)「………」
 
 翁唯は、本を閉じた。
 目を、少し、細めて。
 
 
   「――ッい゛!!」
 
   「どーしたの?」
 
   「―――たま……――たい――……、」
 
   「え? なんて?」
 
   「頭が痛い、って言ってるんじゃないの?」
 
   「大丈夫? 保健室いく?」
 
   「――――、………あ、治まった」
 
   「でも、一応行こうぜ」
 
   「う、うん………?」
 
 
爪 ゚−)「……………」
 
 そして、再び、本を開いた。
 
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111 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/01/23(木) 12:43:41 ID:g7Vtth9g0
 
 
 
  『一心腐乱』 が作用したのだ。
 正常であれば頭痛を起こさないところを、狂わせて、頭痛を起こさせる。
 ちょっとでも力量を違えれば即死か狂人の生誕の二択となる、危険な作用である。
 
 騒がしいクラスメートを取り除いたことで、ようやく本が読めるようになった。
 翁唯は、神妙な気分で、その短編小説を読み進めた。
 一人の男を賭けて、女学生と妻とが拳銃を使った決闘をするという作品。
 
 ヘルベルト・オイレンベルグ著、森鴎外訳、太宰治解説の短編小説、 「女の決闘」 。
 この作品の特徴は、作中における空白が多く、様々な考察が可能とされる点にある――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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