死ぬも生きるも他人の勝手止める輩は何々奴だ、のようです

83 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:49:32 ID:4fiYwfp60


死ぬも生きるも他人の勝手止める輩は何々奴か


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84 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:50:03 ID:4fiYwfp60
初めてその音を聞いたのは小二の春休みだった。
俺は母さんと一緒にデパートへ行こうとしていた。
親父の誕生日プレゼントを買いに行って、昼食をレストランで食べて、予約していたケーキを受け取って、それから家の中を飾りつけようと二人で決めていた。
プレゼントは、ハンカチとネクタイを選んだ。
次の日には親父が単身赴任してしまうから、その餞別も兼ねていたのだ。
きっと喜んでくれるね、寂しくなくなるといいね。
そんなことを母さんは言っていたと思う。
午後三時過ぎにデパートを出て、今度はケーキ屋さんに行くことにした。
外に出ると春一番が吹いていて、これがまた近年稀に見る強風だったそうだ。
飛ばされてしまいそうな幼い俺の手を、母さんはしっかりと握っていてくれていた。
今日はすごい風だね、風が駆けっこしてるのかな、明日もこんな天気じゃ出張も大変だなぁ。
たわいのない会話である。
だけどいくらでも思い出せる。
デパートを出て数分後、俺と母さんは工事現場を通りかかった。
なんでも再開発で、とんでもなくでかいショッピングモールが出来るのだと聞いていた。
誰もがその完成を楽しみにしていた。
俺と母さんも同じだった。
お店が出来る頃にはきっとお父さんも帰ってくるよ、じゃあ一緒に行こうね。
約束だよと言う俺の声に、男の怒声が響いた。
その次の瞬間、俺は地面に倒れていた。
それから遅れて、ぐしゃりと、いや、言いようのない音がした。
水気を含んだものが弾き飛ぶような、そういう音だった。
気付くと、母さんは肉塊になっていた。
強風に煽られて落ちてきた鉄骨の下敷きになったからだった。
後の事はあまり覚えていない。
しばらくトマトや肉が食えなくなったり、単身赴任を蹴って側にいてくれた親父に散々泣きついたりしていたような気はする。
それ以来俺の家に誕生日という日はなくなってしまった。
親父の誕生日は母さんの命日になってしまったし、俺も自分の誕生日がどうでもよくなってしまった。
別に不幸ともなんとも思っていないのだけど。
それから一年経って、夏が来た。
小三になった俺は、夏休みを全力で謳歌していた。
母さんがいなくなって寂しいこともあったし悲しいこともあった。
しかし幸いにも、先生や友達に恵まれていた。
彼らに支えられて、どうにか俺は普通の生活を送れるようになっていた。

85 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:50:35 ID:4fiYwfp60
そんなある日曜日。
午後だった。
昼食を食べに一度友達と別れて、団地に戻ったのだ。
その日は親父も休みだったから、きっとまたそうめんを食べさせられるだろうとうんざりしていた。
親父は料理が不得手だったのである。
ここまで育ててくれたから文句はないが、しかし下手である。
そんなわけでもたくさと家の鍵を取り出して、いざ中に入ろうとした時だった。
こんにちは、と朗らかな声がした。
振り向くと、手提げ袋を提げた女性が立っていた。
その後ろでは、俺と同い年の女の子が縮こまるようにして寄り添っていた。
夏の盛りなのに、彼女は白い長袖のシャツと色褪せたデニムのショートパンツを履いていた。
変な格好だと俺は眺めていた。
女性は椎名と名乗った。
引っ越してきたばかりなので挨拶に来たのだという。
自己紹介をされたら自分も挨拶をしなさい。
学校でそう習っていたから、俺も名乗った。
すると椎名は、ひどく哀れっぽい視線を俺にくれた。
わたしあなたのことを知っているわ、お母さんを事故で亡くしたのでしょう?
誰も触れてこなかった傷に、椎名は土足で踏みにじった。
悪意は一切なかった。
ただひたすら、俺の身に起きた不幸を嘆いていた。
そして、手提げ袋から小冊子を俺に押し付けた。
どんなに不幸でも神様は見守ってくださるわ、可哀想なあなたのお母さんのために祈ればきっとあなたのためになる、本当よ。
瞬間、俺は火がついたように泣き出した。
それでも椎名は、勧誘をやめなかった。
異様な気配を察した親父に怒鳴り散らされるまで、椎名は祈りを勧めてきた。
その間、あの子はずっと俯いたままだった。
以来、団地や学校で椎名家の人間は警戒されるようになった。
椎名家、といってもあの頭のおかしいババアとデレの二人暮らしだった。
実害があるのはあの勧誘ババアだけで、デレは至って大人しかった。
それこそ空気になってしまいたいというように。
しかし子供は残酷なので、それを許すはずもなかった。
デレはいじめられた。
それはもう、凄惨なまでに。
先生も面倒事が起きていると認識したくないのか、介入してこなかった。
デレもまた、誰かに助けを求めることはなかった。
俺はただそれを傍観していた。
加わることもなく、話しかけることもなく。
ああ、今日もいじめられている。
そう思うだけだった。

86 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:51:07 ID:4fiYwfp60
だけど、冬休みに入る前の日にちょっとした変化が起きた。
俺は忘れ物をして、学校に取りに戻った。
わりと計画的に荷物を持ち帰る方だったので、それに狂いが生じるのが許せなかったのだ。
教室に入ると、デレがぼんやりと窓の外を見ていた。
寒い風が吹いてくるのに、窓は開け放されていた。
なぜか俺はその時に、こう声をかけた。
風邪ひくよ、と。
するとデレは、驚いた顔をして振り向いた。
声をかけるまで人が来たことに気付かなかったのだろう。
デレは怯えた目で、ごめんなさいと謝った。
俺は、怒ってるんじゃなくて風邪をひいてしまうのを心配して言ったんだと釈明した。
デレは不思議そうな顔で黙り込み、ゆっくりと窓を閉めた。
会話が途切れ、気まずくなった俺は自分の席へと駆けて行った。
そして忘れ物を引っ張り出して、駆け出そうとした時だった。
お母さんが、変なこと言って、ごめんなさい。
いきなりの謝罪に、今度は俺が驚いた。
話を聞けば、あの夏の事件以来ずっと謝りたかったそうだ。
本当にごめんなさい、と謝り続ける彼女が怖くて、俺はその場から逃げてしまった。
デレは、追いかけてこなかった。
その次の日に出会っても、彼女は何も言ってこなかった。
俺もまた彼女を無視するふりをした。
本当は、話したくて仕方がなかった。
お前のお母さんはあんなんだけど、お前は普通の人なのか? と聞いてみたかった。
今までは得体の知れない人だったから、いじめられたってその内心に興味はなかった。
けれどもあの謝罪を聞いてしまうと、彼女にも心があるのだということを意識してしまった。
その日から俺の視界にデレは入り込んできた。
団地の廊下で鬼ごっこをしていても、公園で上級生から追い立てられている時も、クラスメイトたちが冷たくデレを見ている時も。
ずっと俺は気にかけていた。
……年を越した頃だっただろうか。
そうだ、明日から始業式だという時だった。
俺はデレを尾行していた。
というのもすることがなかったからだ。
俺の友達は誰一人として宿題を終えていなかったのである。
俺はとっくに終わらせていたから、一人で団地内を散歩していたのだ。
そうしたらデレが非常階段がある方へと歩いていくのを見てしまったのだ。
非常階段はどんな不良の上級生でも近付くことのない場所だった。
なにせ管理人にバレると雷の一つや二つでは済まないからである。
危ないから近寄ってはいけないよ、とよーく言い聞かせられていたものである。
団地に住む子供なら誰でも知っていた。
……しかしデレは後から来た子供だった。
そのルールを教わることもなかったのだろう。
当時の俺はそう考えて、つい後を追ってしまったのだ。

87 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:51:40 ID:4fiYwfp60
立ち入り禁止と書いてある札を、デレは容易くくぐり抜けた。
その時点で俺の心臓はうるさいほど鳴っていて、何が起きるのだろうと少し楽しみになっていた。
俺はデレのことを何も知らなかった。
知る機会もなければ、知りたいという欲求もなかった。
その二つが同時にやってきた気がして、俺は一人でにやけていた。
デレはどんどん階段を上がっていく。
時折見える茶髪のツインテールが、目印であった。
最上階に着くと、今度は頭一つが見えた。
手すりに乗っかったのだろう。
でもそんなことをすると危ないのに、と思っているとデレと目が合った。
デレの目は、がらんどうの瞳をしていた。
はっきりとは見えなかったのに、そう確信していた。
嫌な予感がする。
そう思った時にはもう遅かった。
あの音が、俺の鼓膜を震わせた。


( A )「…………」


そして、三たび、その音は聞こえてしまった。

( A )「あ、あ……」

体が震える。
足がガクガクとしていて、それでもしがみつくように手すりに手をかけた。
せり上がってくる胃液を必死にいなして、下を見る。











ζ( ゚。g*ζ





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88 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:52:15 ID:4fiYwfp60
死んでいた。
デレは、どう見ても、死んでいた。

( A )「うそだ」

滑るように階段を下りる。
間近でデレを見つめる。
……やはり、死んでいる。

( A )「あ、ぁ……!」

死んでしまった。
いや、殺してしまった。
そんなに死にたきゃ、勝手に切ってろよ、なんて、言ったから。

(; A )「デレ……っ!」

亡骸に縋り付こうとした時だった。

「これはまた厄介なことになりましたね」

聞き馴染みのある声だった。
もう縋るにはこいつしかいない、という人物の声だった。

(;'A`)「ロミス!」

なんとかしてくれ、という目で訴える。
が、彼は首を横に振った。

£°ゞ°)「手首のあたりをご覧なさいな」

そう言われて袖を捲ると、古傷が微かに開いていた。

(;'A`)「な、なんだこれ……!」

傷口の中には、赤い肉。
まあ、これは普通だ。
あまり見たくないものだけど。
そしてその肉に、じんわりと、白い水玉が浮き上がっていた。

89 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:52:44 ID:4fiYwfp60
£°ゞ°)「逃げ出した痛みというのは何故か水玉模様と編模様というモチーフを大変好みまして」

(;'A`)「は?」

£°ゞ°)「まあ要するに、椎名デレは自分の痛みを奪われてしまったのでしょう」

(;'A`)「っ……!!」

昨日のロミスとの会話を思い出し、背中から冷や汗が出た。

(;'A`)「……その、逃げ出した痛みと戦って俺が勝つのは、」

£°ゞ°)「昨日も言った通り、貴方様で太刀打ちできるような代物ではありません。我々死神の手にも余る存在なのですよ!」

('A`)「だけど、」

£°ゞ°)「だってもそってもロッテもありません。今回は諦めてくださいませ」

('A`)「……俺、死んでもいいよ」

£°ゞ°)「軽々しく死んでもいいなどとは、」

('A`)「軽々しくなんかねえよ」

ようやく俺は思い出した。
俺は別に、デレのためを思って彼女はのそばにいたわけではない。
俺はデレにいて欲しくて仕方がなかったのだ。
同時に、デレを助けている英雄的な自分も欲しかった。
俺は騎士になりたかったのだ。
デレを姫にしたかったのだ。
でもそんな高尚なものではない。

('A`)(むしろ、薄汚え欲望だ)

俺は、欲しい。
デレが欲しい。
そばにずっといて欲しい。
英雄だなんて褒められなくてもいい。
恩人とかそういうものもいらない。

90 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:53:14 ID:4fiYwfp60
('∀`)「一緒に生きたいだけなんだ」

その事に気付くまでどれほどの時間が掛かったのだろう。
自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしそうだった。

£°ゞ°)「……死んでも知りませんよ」

('A`)「おう」

£°ゞ°)「……そういう時は意地でも生きて帰るぞとか、そういう言葉を言うものでしょう」

まったく、と言った風にロミスはため息を吐いた。

('A`)「はは、それもそうだな」

呆れているのか、ロミスは笑みを浮かべていなかった。
眉間に軽くシワを寄せながら、ううむ、と考えているようだった。

£°ゞ°)「……あなたが諦めてここへ帰ってくるか、死ぬまではここを現世から隔離します」

('A`)「おう」

£°ゞ°)「こちらに帰ってきたら、今までの契約を破棄する事にします」

('A`)「……おう」

£°ゞ°)「もう二度と、椎名デレのために戦うことは出来ません」

('A`)「うん」

£°ゞ°)「その代わりに、今回だけは特別に私の痛みもお貸しします」

('A`)「うん……?」

と、適当に相槌を打った刹那。

(; A )「おおおおあああ……!?」

91 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:54:03 ID:4fiYwfp60
体が、強制的に包帯へと置き換えられていく。
膨大な白布の波に、意識が吸い込まれていく。
その波間には見覚えのない武器がちらほらと見えた。
それがどうやって使うものなのかを、俺は瞬時に理解できた。
でも、

(//‰ ゚)「……見た目は変わんねえのな」

£°ゞ°)「見た目は変わらなくともかなり有利に戦うことができると思いますよ」

とはいえ痛みを殺すことは出来ない。
俺がやるのは、デレの痛みを奪い返すこと。
それを連れ出した犯人に関しては、放っておいてもいいとロミスは言った。

£°ゞ°)「まあ、万が一に備えてかまを用意しておきますけれどもね」

(//‰ ゚)「おお、死神らしいな」

£°ゞ°)「そうでしょうとも」

おっとりとした口調で、しかし次には屹然とした態度でこう言った。

£°ゞ°)「貴方様のお迎えに行くのは勘弁願いたいですよ」

(//‰ ゚)「……おう」

ロミスが指を鳴らした瞬間、俺は強風に巻き上げられた。
目まぐるしく景色が変わっていく。
あっという間に団地どころか、市内、いや県外を飛び出ていったようだ。

(//‰ ゚)(デレ)

お前の痛みに会いたい。
そう願って、俺は身を預けた。

92 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:54:39 ID:4fiYwfp60
気付くとそこは高層ビルの建ち並ぶ都会だった。
天を刺すように連なるビル群は、田舎者の俺にはとても冷たいものに見えた。

(//‰ ゚)(デレ……)

どこにいるのだろうか。
そう思って見回していると、一際高いビルが目についた。

(//‰ ゚)「!」

川 ゚   ゚)「…………」

いた。
デレの痛みが、いた。
しかし何かがおかしかった。
俺は包帯を飛ばして、ビルからビルへと飛び移った。

(;//‰ ゚)「あれは……!」

川 ゚ ※ ゚)「…………」

デレの痛みは、不愉快になる程ポップな赤色と、潔癖さを感じる白い水玉模様に犯されていた。
中でも顕著なのは唇だ。
あの赤黒い唇は、今や真っ赤に染まって白い水玉がぽつぽつと膨れていた。
水玉模様がこんなにも不気味なものに見えたのは、人生初めてではないだろうか。

リハ*゚ヮ ゚リ「  、   」

その横では、見知らぬ少女が寄り添っていた。
俺は確信した。
こいつが、デレから痛みを奪い取ったのだろう。

(//‰ ゚)「おおおおおお!!!!」

一際高いそのビルを登るには、足場が必要だった。
だから俺は、包帯止めを壁に打ち付けてやった。
それを足がかりに、ひたすら壁を登った。

「あらぁ?」

と、頭上から声。

93 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:55:30 ID:4fiYwfp60
ふと顔を上げれば、あの少女と目があった。

リハ*゚ー゚リ「やぁね、わたし男の子は嫌いなの」

(//‰ ゚)「俺もお前のことは嫌いだぜ」

ようやく、屋上へたどり着いた。
しかし少女はにんまりと笑って見せた。

リハ*゚ー゚リ「そこだけは気があうね」

少女の影が、ごぽりと泡立った。
そこから飛び出してきたのは、セーラー服姿の少女だった。

(//‰ ゚)「っ!」

ただし顔はわからない。
顔は醜く、赤と白の水玉模様で修正されていたからだ。
髪型やスカートの丈、あるいは微かに漏らす笑い声。
どれもそれぞれ特徴があるというのに、やはり見分けはつかなかった。

リハ*゚ー゚リ「男の子なんか嫌いよ」

その言葉と同時に、水玉少女は特攻してきた。
鞭のように包帯をしならせ、首を狩る。
案外脆いようだった。

(//‰ ゚)(数の割には大したことがねえ!)

これならいけると思った矢先に、目の前で水玉模様が炸裂する。

(※/‰ ゚)「っ!?」

どうやら、この少女は爆発するらしい。
おまけにその体液が付着した包帯は、脆く崩れ落ちた。

リハ*゚ー゚リ「女の子は繊細な生き物なの」

悪戦苦闘する俺を眺めながら、少女は呟く。

94 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:56:07 ID:4fiYwfp60
リハ*゚ー゚リ「優しく接してあげなくちゃ、みんな怒っちゃうわよ?」

(//‰ ゚)(くっ……!)

捌いても捌いても水玉少女の数は減らないし、体を織り上げなければあっという間に少女たちに踏み潰されてしまうだろう。
それはごめんだった。

リハ*゚ー゚リ「嫌なものはみんな消えちゃえばいいの」

(;//‰ ゚)「!!」

空から水玉少女が降ってきた。
一人、二人、五人、十人、三十人。
空はおびただしい血の色に染まり、少女たちは俺目掛けて落ちてくる。

(;//‰ ゚)「く、っそ、がぁ!!」

急いで包帯の盾を作る。
四方八方いたるところに、それから包帯止めでしっかりと止めた。
あとは僅かな隙間から狙いを定めて……。

(#//‰ ゚)「いっけえええええ!!!」

アンプル型のミサイルが、空から降ってくる水玉少女を撃退する。
断末魔が響き渡ると、ビルが微かに揺れた。
甲高い声のせいで、耳がキンキンと痛んだ。
構わずにミサイルをもう一度撃ち込む。
撒き散らされた体液が、屋上の少女たちに降り注ぎ、溶かしていく。
屋上の少女たちもまた、静かに朽ちていく。
何もかもが溶けて、床には延々と白い水玉が広がっていった。

リハ*゚ー゚リ「綺麗」

うっとりとそれを眺めているのは少女だけで、デレの痛みは不愉快そうに見つめていた。
俺はというと、包帯の要塞に相変わらずこもっていた。
とにかく外が安全になるまで、こうしているしかなかった。

アンプル型のミサイルは、容赦なく白い毒を撒き散らす。
水玉模様が好きなくせに、水玉の部分が増えていくと少女たちは怒り狂った。

95 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:57:02 ID:4fiYwfp60
(//‰ ゚)(悪夢みたいだ)

赤の上に白を塗りつぶされて消えていったり、包帯に包まれてそのまま姿を消したり。
俺はうんざりしていた。
こんな非現実的な光景、もう見たくなかった。
そんな有様を見ているのに、少女たちは何を感ずることもなく、襲いかかってくる。

(;//‰ ゚)「くっ……」

要塞はほぼ崩れかけていた。
気休めに弾丸のように包帯止めを飛ばしても、効果は薄かった。

(;//‰ ゚)「はっ、はっ、はっ……」

アンプルを出す力は枯渇したらしい。
どれほど念じても苦しさだけが残り、どうすることもできずにただ空を眺めていた。
空から降ってくる少女は、地上にいた少女を押しつぶして水玉模様の海を作り上げた。
もちろんあの、水っぽい、嫌な音を伴って。

(;//‰ )(落ち着け)

潰れているのは人ではない。
母さんではない。
デレでもない。
そう分かっているのに、一歩もそこから動けない。
行き場を失った包帯が、うねうねと苦しげに俺の周りを飛び回る。
屋上と、下界を切り取るフェンスからも少女だった水玉模様は落ちていく。
街を真っ赤に染め上げ、白いあぶくを立てて、街を塗り替えようとしていた。

(;//‰ ゚)「なんでこんなことするんだよ」

んー、と少女は考える。
そして笑った。

リハ^ー^リ「何もかもが嫌いだから」

とぷり、と足元が侵食される。
立っていられなくなって、俺は波に流される。

96 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:57:39 ID:4fiYwfp60
リハ*゚ー゚リ「自分より優秀な子も、劣っている子も、嫌味っぽいあの子も、慰めてくれるあの子も、全て嫌い。男の子はもっと嫌い」

必死に体を織り上げながら、デレの痛みを見やる。

川 ゚ ※ ゚)「…………」

デレの痛みは、大人しくしていた。
いつかのデレを見ているようだった。

リハ*゚ー゚リ「だから好きなもので塗りつぶすことにしたの」

フェンスに包帯を絡ませる。
かろうじて、ビルから落ちてはいない。
しかしこのままだと流されるのも時間の問題だった。

(//‰ ゚)(諦めるものか)

他人が大嫌いで自分が大好きな奴の元に、デレを置いていくわけにはいかなかった。
だから俺は、叫んだ。

(//‰ ゚)「デレ!」

川 ゚ ※ ゚)「…………」

(//‰ ゚)「帰ってこいよ!」

リハ*゚ー゚リ「だめよ。わたしと一緒にいてほしいもの」

(//‰ ゚)「一緒に帰ろう!」

川 ゚ ※ ゚)「…………」

リハ*゚ー゚リ「わたしを一人にしないでね。裏切るなら、あんたも空から落としてやる……」

川 ゚ ※ ゚)「…………」

リハ*゚ー゚リ「ああもう、ほんと男の子って嫌い」

数多の少女を踏みつけ、少女はやってくる。

97 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/03(日) 23:58:20 ID:4fiYwfp60
リハ*゚ー゚リ「あんたみたいな人、嫌い。誰よりもあんたのこと、分かってますみたいな顔して。ほんとはなんにもわかんないくせに」

少女の指ですくい上げられた水玉模様が、包帯に滑り落ちる。
フェンスと俺とを繋ぐ命綱が、じわじわと溶かされていく。

(;//‰ ゚)「デレ……ッ!!」

リハ*゚ー゚リ「早く死んでね」

落ちる。
ビルから俺は落ちる。

川 ゚ ※ ゚)「……、」

微かに唇が動いた。
なんて言ったのかわからない。
そんなことはもうどうでもよかった。
ただ俺は、僅かに残った包帯を極力広げた。

(//‰ )「お前になら傷付けられてもいいよ!!!!」

川 ゚ ※ ゚)「!」

(//‰ )「だから、来いよ!」

後はもうなるようになれ、という気持ちだった。
フェンスにしがみついて成り行きを見守っていたデレの痛みが、俺を見捨てるのならそれはそれでよかった。

(//‰ )(なんていうとロミスは怒るだろうが)

ますます遠ざかるビルの屋上に、涙が出そうになって。
でも確かに聞こえた。

川*^ 々^)「くるー!」

満面の笑みを浮かべたあいつの声を。

リハ; ゚ー゚リ「え、ちょ、離して!」

慌てふためく少女の声を。
そして、

川*^ 々^)「ドクオすきー!」

リハ; ー リ「あ、っが……!」

少女の腹を穿ち、抱きかかえたままデレの痛みは宙を舞った。
俺は、笑いながら二人を全身で覆い尽くした。

98 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/04(月) 00:02:10 ID:Q2yAa6aw0
(//‰ )(どうかデレの元へ)

体内で暴れ狂う少女の気配と、哄笑と、チキチキという音がする。

(//‰ )(どうかデレの元へ)

少女の悲鳴があがる。
俺はますます拘束をきつくした。

(//‰ )(どうかデレの元へ)

デレの痛みは、少女をいたぶり続けた。
それを止めることもなく、俺は念じ続けた。

(//‰ )(どうか、またデレと、話せますように)


初めてロミスと会った時のことを思い出していた。
ロミスは、潰れた幼いデレを見て、舌打ちを一度した。
痛みが逃げているじゃないか、というわけのわからない話をしていた。
俺は、ロミスに泣きついた。
どうして助けたいのですか?
そう問われて、俺はもっと話したいからだと言った。
どんな人なのか知りたい、どんな風に笑うのか見てみたい。
知らないでいられなくなってしまった。
ロミスはため息を吐き、デレの亡骸からほんの少し肉をつまみ上げた。
彼が捏ねると、それは一枚の薄くて短い布に仕立て上がった。
では、椎名デレがいなくなった時の苦しみを想像してください。想像出来たらその痛みを布に流し込んで、そうそう。
ロミスは、その布を俺の手首に巻きつけた。
これで貴方たちは一心同体、と言ったところでしょうか。椎名デレが痛みを失えば、この包帯はきつく締まります。痛みを捕まえたら強く念じれば僅かに含まれている肉を通して椎名デレに戻ります。わかりましたか?
その説明を、幼い俺は一字一句聞き逃さないようにしていた。

99 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/04(月) 00:06:52 ID:Q2yAa6aw0
気がつくと、俺は宙へと放り出されていた。
その下には少女が真っ逆さまに落ちていった。

(//‰ ゚)「……ん?」

地上では、なにかが大口を開けて待っていた。
釜だ。
巨大な釜。
人一人は軽々と入ってしまうだろう。
その中にはぐつぐつと油が煮えていて、釜の下からは白い炎が揺らめいていた。
少女は、飲み込まれるようにして釜の中へと消えていった。

無事着地した俺に、ロミスは恭しく頭を下げた。

('A`)「ねえさっきのあれなに?」

£°ゞ°)「死神の釜ですよ。地獄にある裁判所に直接送りこめるかつ職員が引き取りに行くまでぐつぐつ煮込まれ続ける優れものです」

('A`)「まさかのカマ違い」

ねちっこい仕様に怖気を感じつつも、俺は一安心していた。
そんな俺を見てか、ロミスは優しく微笑んだ。

£°ゞ°)「……よくやりましたね」

('A`)「いや、俺全然太刀打ちできなかったわ」

あいつがいないとどうなっていたか。
そう言おうとして辺りを見回しても、デレの痛みは姿を消していた。
いつの間にかロミスもいなくなっていて、後には眠っているデレだけが残っていた。

100 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/04(月) 00:09:07 ID:Q2yAa6aw0
( ^Д^)「ドークーオ! 今日こそ遊ぼうぜ!」

('A`)「悪い今日デートだわ」

( ^Д^)「えっドクオ彼氏出来たの……?」

('A`)「彼女だよ!!」

( ^Д^)「じょーだんじょーだん。つかいいなー彼女の写真とかないの?」

(´・ω・`)「はいはい、邪魔しない」

いつも通りの日常だ。
プギャーはお節介焼きだし、ショボンはそのブレーキ役に追われている。
毎度のことだけど俺は放課後のお誘いを断り続けて、こいつらとは浅くも深くもない付き合いを続けている。

ζ(゚ー゚*ζ「ごめんね、待った?」

('A`)「いや今来たところ」

少しだけ変わったのは、俺とデレとの関係性か。
暇さえあれば顔を合わせるようにしたし、無理な時にはメールするようにした。
といっても同じ団地に住んでいるから会おうと思えばすぐに会えるんだけど。
デレの母親は未だに宗教に狂っているし、口もろくに利いていないらしい。
でもそれでいいじゃん、と俺が言ったら、デレはホッとしたような顔をした。
自傷癖に関しては、未だに保留だ。
無理して我慢させて悪かった、と謝ったらデレはおろおろしていた。
こいつは優しいだけなのだ。
他人を傷付けるのが怖いから、自分を傷付けていただけで。

('A`)「でもお前だけが我慢して傷付く必要はないんだよな」

ζ(゚ー゚*ζ「んー?」

('A`)「なんでもねえよ」

101 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/04(月) 00:10:25 ID:Q2yAa6aw0
ふと思い立って、スキップをする。
三歩はリズムよく、四歩目で急にくるっと振り返って。

('A`)「…………」

振り向いても、そこにはやっぱりキョトンとしているデレがいるだけだった。

ζ(゚ー゚*ζ「……それなあに?」

('A`)「や、おまじないみたいなもん」

ζ(゚ー゚*ζ「なにかいいことあるの?」

('A`)「んー、コッペパンが食べたくなる」

ζ(゚ー゚*ζ「なにそれー」

('A`)「でも食べたくならねえ?」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあコンビニ寄ろっか」

('A`)「おう」

多分これから先も生きていけるだろう。
そのうち死ぬまでは。

('A`)「そん時はそん時だ」

102 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/04(月) 00:10:49 ID:Q2yAa6aw0



死ぬも生きるも他人の勝手止める輩は何々奴か 了


.


103 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/04(月) 00:12:33 ID:Q2yAa6aw0
ご愛読ありがとうございました
地味に遅刻しています、すみません
以下元ネタとなるアーバンギャルの楽曲の紹介です
「水玉病」
「堕天使ポップ」
「ガイガーカウンターの夜」
「ノンフィクション・ソング」

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