死ぬも生きるも他人の勝手止める輩は何々奴だ、のようです

44 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:29:00 ID:.QIOZ0Gk0


死ぬ気ないなら切るのをやめろ或いは縦に手首切れ

.

45 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:30:20 ID:.QIOZ0Gk0
デレと公園で話してから一週間が経った。
その間も度々痛みは逃げ出し、俺はその対応に追われていた。

('A`)(また包帯が締まってる……)

きりきりと遠慮なしに締め上げる包帯に、思わず眉根が寄った。
教室の時計を見れば、まだ十時半にもなっていない。

(;'A`)(半日も経ってないぞ……!?)

昨日の夜中にもデレの痛みは逃げ出していた。
そのせいで俺は、眠い目を擦りながらそいつを追いかけていたのだ。
こんなにも短いスパンで逃げ出すのは、明らかに異常だった。

('A`)(デレ……)

もともと人に頼ろうという気が薄い奴ではある。
だけどここ最近メールをしても返事はすぐに途切れてしまうし、顔を合わせる機会もあまりなかった。
そもそも同じ団地に住んでいるのにすれ違う回数も明らかに減っていた。
それをお互い忙しいせいだと、気のせいだと思っていたのだが。

('A`)(これが終わったら会わないと)

幸いにも今日は自習である。
教室を抜け出すのは容易かった。

('A`)「ロミス!」

いつも通り呼び出すと、ロミスは握り飯片手に現れた。

('A`)「何してんのお前……」

£°ゞ°)「いつもこの時間に朝餉をいただいているもので」

よかったらどうぞ、とロミスがもう一つ差し出してくるがそんなことをしている場合ではない。

('A`)「お前な、こっちは急いでんだよ」

£°ゞ°)「何故ですか? いかなごの釘煮はお嫌いですか?」

('A`)「ちっげーよ! また痛みが逃げ出したんだぞ! というかここ最近ずっとほぼ毎日毎日戦って、こんなのおかしいって……!」

£°ゞ°)「要するに心配なのですね」

('A`)「当たり前だろ! 一番多かった時でも週一とかそんな程度だったんだぞ」

46 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:31:17 ID:.QIOZ0Gk0
ふうむ、とロミスは天を仰ぐ。
見目麗しい男がそうしていると神聖さを感じるのだが、口の橋についた海苔がすべてを台無しにしていた。

£°ゞ°)「そろそろ打ち止めかもわかりませんね」

('A`)「打ち止め?」

£°ゞ°)「椎名デレの希死念慮の方が生存欲よりも強いのかもしれません」

('A`)「…………は?」

£°ゞ°)「死を希い念じて慮る。要するに、死にたいと思っているのですよ」

死。
その言葉に、脳髄が冷えた気持ちになった。

(;'A`)「待てよ、俺がこうしていたらずっとあいつは生きていられるんじゃないのかよ」

£°ゞ°)「では毎日逃げ出すようになっても連れ戻す自信は?」

そう問われ、思わず口篭る。

£°ゞ°)「結局は彼女の問題ですからね」

(;'A`)「そんな……」

絶句した。
俺は今まで、デレを助けているつもりだった。
でも、そうだ。
俺がどれほど身を粉にして連れ戻したって、また同じことの繰り返しなのだ。
それなのに、小三の時から今に至るまで、一度も気付かなかった。

£°ゞ°)「貴方様のやっていることはあの日死んだ彼女の延命治療でしかありません」

ロミスの言葉が、俺の心を締め付ける。

£°ゞ°)「彼女が生きたいと思わなければ根本的な問題の解決にはならないのです」

('A`)「……やってやるよ」

そうするしか道はないのだから。

47 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:33:59 ID:.QIOZ0Gk0
ロミスが呑気に飯をかっくらっていたのにはもう一つ理由があった。
というのも、デレの痛みはこの校内にいたからだ。

(//‰ ゚)「まさか屋上にいるとはなぁ」

川 ゚ 々゚)「…………」

給水塔の上に佇むそいつは、幽鬼のようだった。

(//‰ ゚)「……なんでお前は外に出たがるんだよ」

戦闘での煽り合い以外で口を利くのは初めてであった。
こいつに言葉が通じると思っていなかったせいもある。
なにせ哄笑をあげる以外に声を聞いたことがないからだ。

川 ゚ 々゚)「…………」

デレの痛みは、そっと俺を見遣った。
その目は赤黒い沼のようで、時折ごぽりと殺意の泡が浮かび上がっていた。

(//‰ ゚)「教えろよ、なんでお前はデレから逃げるんだ」

給水塔へと一歩近付く。
デレの痛みは動かない。
ただひたすら俺を見つめている。

(//‰ ゚)「お前が逃げたら困るんだよ」

さらに近付く。
ぴくりと奴の右手が動いた。
俺は右手を象っている包帯を若干緩めた。

(//‰ ゚)「なあ、言えよ」

川 ゚ 々゚)「…………」

(//‰ ゚)「…………」

淀んだ空気を吹き飛ばすように、風が吹いた。
それでも互いに動かず、俺たちは見つめ合っていた。
いや、相手の出方を伺っていた。
俺たちは互いを見ているようで見ていなかった。

48 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:35:05 ID:.QIOZ0Gk0
川 ゚ 々゚)「…………スキ」

(//‰ ゚)「……えっ、」

放たれた言葉の意味に戸惑った瞬間、彼女は跳ねた。

(//‰ ゚)「っ!」

真上からの斬撃。
包帯を鞭のようにしならせ、それを防ぐ。
刃と言っても所詮カッターナイフ、しかも手から直接生えているものだ。
相手の腕を狙えばある程度軌道を狂わせることは出来た。
問題はその後である。

(//‰ ゚)「くっ……!」

着地した頃を見計らい、退歩する。
このまま迫ってくるか、それとも距離を取ってから跳ね上がるか。
いつも奴はそうしてきた。

川 ゚ 々゚)「…………」

しかし、痛みはその場に佇んでいる。

(//‰ ゚)(なにかがおかしい)

基本的に俺の能力は、自ら攻めに行くのには向いていない。
防御や反撃といったほうが得意である。
ゆえに、相手が攻めに来ないとこちらも太刀打ちが出来なかった。

(//‰ ゚)「おい」

挑発するように声をかける。

川 ゚ 々゚)「……うふ、」

溶けるような笑みを浮かべ、痛みはゆっくりとこちらに近付く。
いや、歩み寄ると言った方が正しいか。

49 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:36:34 ID:.QIOZ0Gk0
(;//‰ ゚)「…………」

その行動は今までになかったもので、得体の知れない不気味さを感じた。

川 ゚ 々゚)「スキ」

デレの痛みは、先ほどと同じ言葉を口にした。
俺はいつでも包帯を展開できるよう、意識を集中させた。
一挙手一投足に注視し、近付いてくる痛みから感情を読み取ろうとした。

川 ゚ 々゚)「スキ」

(//‰ ゚)「…………」

川 ゚ 々゚)「すきなの」

(;//‰ ゚)「…………」

痛みはもう、目の前に迫っている。
しかし奴は刃を振るわない。

川 ゚ 々゚)「好き」

(;//‰ ゚)「…………」

川*^ 々^)「ドクオが、好き」

瞬間、彼女は俺を抱きしめようとした。
が、

(;//‰ )「やめろ!!」

なんとも言えない悪寒が走った。

川 ゚ 々゚)「…………」

ぴたりと動きが止まる。
よく見るとその両手はブルブルと震えていた。

川 ゚ 々゚)「…………」

両の沼底が、俺を穿つ。
俺は再度後ろへ下がった。

50 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:37:07 ID:.QIOZ0Gk0
川 ゚ 々゚)「……あは、」

痛みは、いつものように笑った。
しかしその唇は、硬く噛み締められていた。

川 ゚ 々゚)「…………」

ぼたぼたと血が垂れてゆく。
唇からも、髪の毛先からも、血が滴っていく。
そして、

川 ゚ 々゚)「しんで」

痛みは、俺に突っ込んできた。

(//‰ ゚)「っは!」

待ってましたと俺は包帯を展開させた。
が、それらに痛みは手をかけなかった。
そのまま自ら突進し、肉迫したのだ。

(;//‰ ゚)「ちょっ……!」

さく、と体に刃の感触。
非常にまずかった。

(;//‰ ゚)「く、っそ……!」

蹴り上げ、慌てて距離を取る。
こんなことは初めてであった。

(;//‰ ゚)(いつもなら全部包帯ぶっちぎってから襲ってくるのになんで……!)

そう、あの布切れがないと困るのだ。
あれがとりあえずあれば、新しく肉体を織り上げて今の体を捨てることが出来る。
布を切るには刃物が必要である。
そしていつもなら、デレの痛みは包帯をぶちぶちに切り刻んでくれるのだ。
だからこいつを馬鹿だと思っていたのだが。

51 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:37:54 ID:.QIOZ0Gk0
(;//‰ ゚)「っ!」

デレの痛みが駆け寄る。

川*^ 々^)「すき」

両手に刃を携えて。

川*^ 々^)「すき!」

意味不明な言葉を吐きながら。

川*^ 々^)「大好き!」

俺に突進してくる。

(;//‰ ゚)(くそっ!)

いつもの手が通じないなら仕方がない。
俺も痛みに向かって走る。

川*^ 々^)「あはは!」

心底嬉しそうに痛みは笑う。
俺はひたすら走る。
もうすぐ俺たちはぶつかるだろう。

川*^ 々^)「あはは」

少なくともあっちはそう思っている。

(//‰ ゚)(でも、違う!)

前のめりに跳ぶ。
俺の体すれすれに刃が迫ったが、届かない。

川 ゚ 々゚)「っ?」

受け身を取りつつ包帯を伸ばす。

52 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:38:42 ID:.QIOZ0Gk0
川 ゚ 々゚)「っ!」

デレの痛みは派手に転んだ。
足に絡み付いたそれを、素早く回収する。
そいつは体勢を立て直そうとしたが、そのままタックルし、馬乗りになる。

(//‰ ゚)(よしっ……!)

伸びてきた両手は新たに編み出した包帯で縛り付ける。
そのまま全身を覆ってやれば、こっちの勝ちである。

川 ゚ 々゚)「ふーっ、ふーっ……!」

興奮した猫のような息が痛みから漏れる。

川 ゚ 々゚)「ふーっ……!」

ぐちゃり、ぐちゃり、と口の中で肉を噛む音。
相当怒っているらしい。
反撃がないよう気を配りながら、意識を集中する。

川# ゚ 々゚)「ふうー!!」

二の腕から肩を包帯が覆っていく。

川# ゚ 々゚)「うー!」

首や鎖骨、そして肋に白が巻きついていく。

川# ゚ 々゚)「ううう」

唸り声が耳障りであった。

川 ゚ 々゚)「うけけ」

かと思えばそれは笑い声に変わった。

(//‰ ゚)「なにが、」

おかしい、という言葉は出なかった。

53 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:39:28 ID:.QIOZ0Gk0
(//‰ )「があぁぁっあぁあっ!?」

目が痛い!
何もかもが真っ暗で、上も横も分からない……!

(;//‰ )「ぐっ……!?」

腹に衝撃。
鈍痛、蹴り上げられたらしい。
床に体が転がった。
ずずりと人の動く気配。
まずい。

(;//‰ )「っ」

無我夢中で這い出し、逃げる。
その間に目の辺りの包帯を増やした。
未だに異物が食い込んでいる感覚はある。

(;//‰ )「っは、」

しかも複数個だ。

(;//‰ )(これをまず包帯で吐き出すように取り除いて、それから体勢を立て直して、それから、それから、)

ぶつん、と再度腹に衝撃。
呻くことしかできない。
逃げるよりも先に視界を確保した方がいいらしい。

(;//‰ )「ぐ、ぅ、ぅ……」

あいつの笑い声が聞こえる。
俺を弄んで楽しくて仕方ないという声だ。
全身を苛め抜かれて痛いことには痛いが、怒りの方が優っていた。

(;//‰ )(これ、だ)

微かな手応え。
その複数の断片を、一息に弾き飛ばした。

54 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:40:09 ID:.QIOZ0Gk0
(;//‰ )「ぐぅああ……!!」

急いで目を形成し直す。
包帯がうねり、元の形に戻そうと奮闘する。

川 ゚ 々゚)「あはは、」

そしてようやく戻った視界には、馬乗りになって笑う奴の姿があった。

川 ゚ 々゚)「うふふ」

その口からはパラパラと刃の破片が零れ落ちている。
どうやら口から出る血を刃に変えたらしい。
それを吹き出して食らわせたのだと気付いて気持ち悪くなった。
しかしもう好きにさせるわけにはいかなかった。

(//‰ ゚)「おらぁっ!!」

川 ゚ 々゚)「っ……!?」

首に、包帯を巻きつかせる。
ぐぇ、と喉の潰れる声。

川 ゚ 々゚)「や、や、や」

ガリガリと首ごと、刃が突き刺さる。
普通の人間なら死ぬだろう。
だけど、痛みは死なない。
痛みが死ぬことは、ない。

(;//‰ ゚)(まずいな)

幾重に重ねても、一向に奴が弱まる気配はない。
それどころか、親指の制御がなくなっていた。
おかげで刃はずろずろと伸びきり、時折その破片がぽとぽとと俺の体に降ってきた。
普段の一撃ほどではないが、ごく軽く、そして浅い責めが身を苛んだ。

(;//‰ ゚)(少しでもいい)

少しでもいいから、抵抗する力が弱まってほしかった。
でないと、俺が潰えてしまいそうだった。

55 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:41:14 ID:.QIOZ0Gk0
(;//‰ ゚)(頼む)

きりきりと絞める力を強める。
デレの痛みはますます刃を剥き出しにする。
骨一本と僅かな肉で支えられている頭は、こちらに傾いできている。
俺を責めるような目つきで、こちらを睨んでいる。

(;//‰ ゚)(助けてくれ、)

誰か。
誰でもいい。
どうなってもいいからここから逃げ出したい。
そう願っていた時だった。

川 ゚ 々゚)「っ、」

ビクン、と体が一跳ねした。
緩やかに親指が握り締められ、不気味な刃の成長が止まった。

川 ゚ 々゚)「ぅ、」

その目には薄く光が宿っていた。

(;//‰ ゚)(何が起きた……?)

包帯で拘束するのも忘れ、俺はその目を見つめ返した。
その目には俺は写っておらず、どこか遠くを見ていた。
そうして、しばらくすると、デレの痛みは掻き消えていった。

(;//‰ ゚)(…………なんだったんだ今の)

不可解な現象に体が寒くなる。
その冷たさを口から吐き出そうとして、

(;//‰ )「……助かった」

しかし出てきたのは、安堵の言葉だった。

56 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:43:57 ID:.QIOZ0Gk0
('A`)(なんだったんだろう、あれ)

あの後ロミスにも聞いてみたが、彼も知らなかったらしく明確な答えは得られなかった。
彼も今まで俺のように他人の痛みを追いかける輩を幾人も見てきたらしいが、そんな事態は聞いたことがないという。

('A`)(あいつ、俺の名前を呼んでた)

それもまた不気味で、今回の異常さを際立たせていた。

('A`)(俺だってわかったのか?)

あんなミイラ男のコスプレみたいな姿をしているのに?
というかもし仮に俺の事が好きならどうしてあんなことをするのやら。

('A`)「はぁ……」

ため息を吐き、目頭をグリグリと押す。
未だに目に異物が入っているような気がしてならない。
痛みと戦う時には、肉体にダメージがつかないよう自分の中にある痛みを纏っている。
とはいっても実際に怪我をしないというだけで、その感覚だけは明確に覚えてしまう。
刃が眼球を犯す感触は、しばらく忘れられそうにもなかった。
おかげであの後教室に戻っても、自習なんて出来るわけがなかった。

('A`)(新学期早々に早退とはなぁ)

自ら進んで帰ったわけではない。
あまりにも酷い顔をしていたらしく、プギャーに背を押されたのだ。
お人好しな彼らしい行動である。

('A`)(今日は助かったわ……)

このまま家に帰って寝てしまおう。
そう思って団地の階段を上がっていた時だった。

(*゚ー゚)「あら……」

('A`)(げっ)

57 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:44:33 ID:.QIOZ0Gk0
こんにちは、とぼやけた笑みを浮かべるこの人は、デレの母親である。

(*゚ー゚)「今日は学校終わるのが早いのね」

('A`)「体調不良で早退っす」

(*゚ー゚)「あらまあ、かわいそうに……」

この人の、すぐ人を憐れむところが嫌いだ。
誰が相手でも不幸な目にあっていると思いたがって、助けようと押し付けがましい親切をぶつけてくるところが、とても、嫌いだった。

('A`)「もう行っていいすか」

答えを聞かないうちに横を通ろうとして、しかしデレの母親は立ちふさがった。

(*゚ー゚)「ごめんねえ、少し聞きたいんだけど」

('A`)「なんすか」

(*゚ー゚)「あの子、学校でどうしてるのかなって」

('A`)「あの子?」

あの子というとデレのことだろうか?
というかそれ以外に心当たりがない。

('A`)「さあ、知らないっす」

違う高校に通ってるんで、と付け加えると母親は目を見開いた。

(*゚ー゚)「ええ、そうなの?」

('A`)「は?」

(*゚ー゚)「困ったわぁ……。最近、あの子と全然話してなくて、何してるのかわからないから……」

58 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:45:22 ID:.QIOZ0Gk0
絶句した。
デレの高校と俺の高校とは制服がまるっきり違う。
あっちはセーラー服と学ランで、こっちは男女両方ブレザーだ。
その制服の違いに気付いていないってことは、デレがどこに通っているのかを知らないのだ。

('A`)「……顔合わせる機会くらいはあるんじゃないんすか?」

(*゚ー゚)「そうだけど、でもわたし今忙しいから……あの子から話してくれないと……」

('A`)「普通子供に関心あったら自分から聞くと思うんすけど」

(*゚ー゚)「だってわたしにも色々やることが」

('A`)「子供の通ってる高校も知らねえとかはっきり言っておかしいっすよ」

(*゚ー゚)「でもあの子は一人にしておいても生きていけるから、」

(#'A`)「そういう話じゃねえんだよ!」

一体あの子はどれほど傷ついてきたのだろう。
この母親のせいで、無神経な言葉を浴びせられてきたのだろう。
腸が煮えくりかえるような気持ちになり、俺はその横を通り過ぎた。

(#'A`)(どうせあの後、宗教の会合にでも行くんだろうな)

あんなことを言われても、デレの母親は何にも思わないだろう。
不幸で、可哀想な人を見に行くのだろう。
それだけが彼女の生き甲斐なのだ。

(#'A`)(キチガイめ)

廊下を歩きながら、携帯を開く。
メール画面を開き、ただ一言会いたいと打った。
宛先はデレだ。
どうにもならないくらい、デレに会いたかった。

('A`)(早っ)

その日は珍しく、返事がすぐに返ってきた。
どうしたの、という短いものだったが、俺は学校をサボって話したくなったのだとメールを打った。
その返事もまたすぐに返ってきて、見れば自分の家にいるという。
体調が悪いのかと聞けば、そうではないと言われた。
俺はそのまま、デレの家へ向かうことにした。

59 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:49:18 ID:.QIOZ0Gk0
玄関の鍵は開けてあるとのことだったので、そのまま中に入った。
家の中には妙な線香臭さが漂っていた。
多分あの母親が焚いたものだろう。
趣味なのか、信仰に関わるものなのかはわからないが。

障子に手をかけ、

('A`)「入るぞー」

と一言かけると、どうぞ、という声。
間取りは一緒のはずなのに、デレの部屋は狭く感じた。
ベッド、本棚、勉強机。
ただそれしかないのに、どこか萎縮した空気が流れていて、俺はため息を吐きたくなった。

('A`)「久しぶり」

ζ(゚ー゚*ζ「元気だった?」

('A`)「お前の顔見たら元気になったわ」

ζ(゚ー゚*ζ「なにそれ」

ベッドに腰掛けているデレは、布団に倒れこんで笑った。
なにがおかしいのか全くわからなかったが、とりあえず元気そうだと思った。

('A`)「つか学校は?」

ζ(゚ー゚*ζ「んー、制服に着替えたところで力尽きた的な?」

('A`)「そこまでやったんならもうちょい頑張れよ……」

ζ(゚ー゚*ζ「えへへ」

60 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:54:22 ID:.QIOZ0Gk0
誤魔化すような笑いとともに、デレは足を振り上げて起き上がる。

('A`)「おいスカート見えそうだったぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「いいじゃんドクオだし」

('A`)「よくねーっての」

と注意しながらデレの挙動を見る。
あちらこちらにとっ散らかったスカートを、デレは丁寧に直していく。
真新しいプリーツの形に整えるのがどうも癖らしい。
少し動けば台無しになってしまうのに、どうも几帳面であった。
そこから見えるひざ小僧のすぐ下には、真っ白なハイソックスが迫っていた。
たしかにこう見ると、丈が絶妙にダサい。
もう少し短ければかわいかろうに、と思って気付く。

('A`)「……三つ折やめたの?」

ζ(゚ー゚*ζ「えっ?」

プリーツを持ち上げていた手が、微かに止まる。
その後何事もなかったように、それは長方形を生み出した。

ζ(゚ー゚*ζ「あーうん、先生に怒られちゃって」

('A`)「そうか」

だけどなにかが引っかかっていた。
デレは、あまり見ないで欲しそうに足首同士を絡ませた。

('A`)「……本当にそれだけなのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「どういう意味?」

ちら、とデレの視線が動く。
その先にあったのは蓋つきのゴミ箱だった。
卓上用の、小さなものだ。
それがペン立ての横にある。
ペン立てには、カッターナイフがあった。

61 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:55:41 ID:.QIOZ0Gk0
カッターナイフ。
ありふれた文房具だ。
それがペン立てにあるのも、すぐ横にゴミ箱があるのも、まあ別に普通の光景だ。
でもどうしてこのタイミングで見たのかを考えると、俺はそのゴミ箱の中を見たくなってしまった。
そっと俺はゴミ箱へ近付く。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、」

と、デレは手を伸ばしかける。
だけど何かを諦めたように、項垂れた。
それだけで俺は分かってしまった。

('A`)「お前、」

蓋を取ると、そこには血のついたティッシュがつっこんであった。
褐色の、滲んだ線がいくつもいくつも。

('A`)「なんで切ったんだ」

ζ( ー *ζ「ごめんなさい、」

('A`)「なんでなんだよ」

ζ( ー *ζ「ごめんなさい」

('A`)「謝って欲しいんじゃないんだよ!」

ζ( ー *ζ「ごめん……」

(#'A`)「なんで俺に相談してくれなかったんだよ!!」

腹に溜まっていた言葉が、俺を突き破って出て行く。
こんなことを言ったってしょうがないのにと分かっているのに、口は止まらなかった。

62 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 18:56:39 ID:.QIOZ0Gk0
(#'A`)「そんなに、俺って頼りないかよ!」

ζ( ー *ζ「ちが、」

(#'A`)「言えばなにか力になれたかもしれないのに!」

俺は、デレの力になりたかった。

(#'A`)「だからっ……!」

だから、彼女の知らないところでも、戦っていたのに。

ζ( ー *ζ「ドクオ、」

(#'A`)「っ、来んなよ!」

ζ( ー *ζ「ごめんなさい……」

(#'A`)「っ……! そんなに死にたきゃ、勝手に切ってろよ!!」

そう言って、俺は部屋を後にした。

(#'A`)(俺のしたことはみんな無駄だった)

約束を破られた。
もう二度と自傷しないでほしいって。
何かあったら俺を頼ってくれって。
そう約束した時、あの子は頷いていたのに。

('A`)(もう知るかよ……)

何もしない。
もう、何もしない。
絶対に。
そう言い聞かせているのに、それでいいのかという自問自答は止まなかった。

('A`)(部屋に行くんじゃなかった……)

会いたいと思わなければ、よかった。

65 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/04/01(金) 19:01:15 ID:.QIOZ0Gk0


死ぬ気ないなら切るのをやめろ或いは縦に手首切れ 了

.

inserted by FC2 system