死ぬも生きるも他人の勝手止める輩は何々奴だ、のようです

1 名前: ◆oFLOXqmM1c[sage] 投稿日:2016/03/27(日) 05:31:01 ID:AtU2hDks0



君が傷つきゃいつでも俺は布を伸ばして助けよう


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2 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:31:56 ID:AtU2hDks0
四月なのに、日差しが、とても暑かった。
そういえば昨日の天気予報で、明日は夏日となると言っていた。
おかげで非常階段を駆け上っている俺は全身汗だくになっていた。

('A`)(くっそ、まだ二階かよ……)

舌打ちしたくなるが、それよりも酸素が欲しかった。
ぜいぜいと肩で息をしながら足を動かす。
が、太ももの筋肉が突っ張っているらしくなかなか言うことを聞いてくれなかった。

('A`)「早く、上に、行かないと……」

言い聞かせるように呟く。
右手首に巻いた包帯は、いまだかつてないほどに絡みつき、指の先端など紫色に変色しかけていた。
それほどまでに事態が切迫していることを悟り、俺は太ももを引っ叩いた。
少し気合が入る。
息を思い切り吸い込み、もう一度這うように駆け上る。

('A`)(こんな上りにくい階段だったかな)

狭くて、急で、埃っぽくて。
昔は、こんな感じではなかったはずだ。
この古びた団地の非常階段は、天へと続く無限の塔であった。
その入り口には立ち入り禁止の看板がぶら下がっていたが、それは神聖な封印の言葉に見えていた。
小さな各階の踊り場は仲間を探すための酒場だったり、決して起こしてはいけない竜の住まうダンジョンであった。
最上階はお城だと相場が決まっていた。
言い出しっぺはデレである。
俺以外にここを訪れていた、唯一の遊び仲間。
城にいる時の彼女はお姫様で、俺は彼女を守る騎士であった。
しかし一度階が下がると、今度は囚われの姫とそれを助けに来た騎士へと早変わりした。
あの階にいた魔物は、なんという名前をつけたんだっけか。
すっかりと忘れてしまっていた。

3 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:32:48 ID:AtU2hDks0
('A`)(あと少し……!)

倒れこむようにして、俺は五階へ到達した。
その途端に膝から力が抜けた。
俺は無様に床へ倒れこむ。
埃っぽいそこは熱を蓄えこんでいて、思わずむせそうになった。

「ドクオ……?」

その時、驚きの色を含んだ声が降ってきた。

('A`)「見つけた……」

顔を上げれば、デレは踊り場の手すりに乗り上げていた。

ζ(゚ー゚*ζ「どうしてここに、」

('A`)「いいから、早く降りろよ」

少しバランスを崩せば、下に落ちてしまうだろう。
しかしデレは、困ったように笑うだけ。

ζ(゚ー゚*ζ「でも、ごめんね」

('A`)「謝んなよ、俺が悪かったんだ。だから、」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん、わたしが悪いの」

('A`)「デレ、」

ζ(゚ー゚*ζ「今までごめんね」

('A`)「まて、」

ζ( ー *ζ「ごめんなさい」

もう迷惑かけないから。
その言葉だけが五階に残った。
デレの体は、あの細い体は。
あっという間に宙に踊り出て、落ちていった。
肉の潰える音が、鼓膜を揺らす。
その音を聞くのは三回目で。

( A )「あぁ、」

そう呟くと同時に、額から流れた汗が目に入ってきた。
暑い日だった。
まだ四月なのに、本当に暑い日だった。

4 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:33:37 ID:AtU2hDks0
( ^Д^)「いっつも気になってたんだけどさぁ」

('A`)「うん?」

( ^Д^)「その手首の包帯ってなんなのさ」

カツカレーのカツを食いながら、プギャーはそう問うた。
その目には好奇心と少しの気まずさが滲み出ていて、どう言えば俺が傷付かないのかを相当吟味していたようだった

('A`)「ああこれ?」

少しでもその不安を払拭してやろうと、わざと制服の袖を捲ってやった。

('A`)「今まで誰にも言わなかったけど第三の目がここに」

( ^Д^)「邪気眼かよ」

('A`)「おっせやな」

( ^Д^)「いやいやまさか本気でそういうことやってるわけじゃないっしょ?」

そうだよなあ? という視線を浴びせられ、俺は黙ってカツを奪い取った。
プギャーは一瞬もの言いたげな顔をしたが、その代わりにから揚げを皿に突っ込んでやった。
すると彼はにっこりと笑った。
コンビニ弁当の唐揚げでも肉ならなんでもいいという、単純な人種で助かった。

('A`)「マジなこと言うと子供の頃に……。小二の頃だったかな、怪我してさ。その傷がちょつと気になるから巻き続けてたらすっかり癖になっちまって」

なるべく明るい声音で告げるが、プギャーは眉を下げた。

(;^Д^)「……なんか悪いこと聞いちまったな」

('A`)「いいっていいって、慣れてるし。それに俺もプギャーと同じ立場だったら多分聞いてたぜ」

( ^Д^)「そうかなぁ」

('∀`)「だってちょっとメンヘラくせえだろ?」

自嘲するように先手を取ると、プギャーはカレールーを噴き出した。
っていうかご飯粒も盛大に飛んでいった。
汚ねえ。

5 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:34:19 ID:AtU2hDks0
(;^Д^)「お前なぁ、俺があえて言わなかったことを……!」

('A`)「いやあ今まで散々言われまくってたからさー。やっぱプギャーもそう思ってんかなって」

( ^Д^)「……まあ正直、リスカしてんのかなって心配してたわ」

('A`)「心配?」

( ^Д^)「だってほら、ああいうのって心病んでる人がやるもんじゃん? だから可哀想だなーみたいな」

なるほど、と一人心の中で頷く。
お人好しなプギャーらしい答えであった。

( ^Д^)「だから、もしやってたらなんか助けらんねーかなーみたいな」

('A`)「俺そういうことする人に見えた?」

( ^Д^)「ぶっちゃけ」

('A`)「マージで」

( ^Д^)「だってお前、俺が話しかけないと誰とも会話しないし」

('A`)「友達いねえからなぁ」

( ^Д^)「ほんとだよ! 入学して一週間経っても俺しか友達いないとか寂しいじゃんそんなの」

('∀`)「ははは」

(;^Д^)「笑ごっちゃねーよ、お前他にも友達作れよう」

('∀`)「気が向いたらなー」

なんて、心にもないような返事をして、プギャーもそれを薄々分かっているから呆れたような笑みを浮かべていた。
友達が多ければ多いほど幸せだという思想はないので、必要だと思った人と交流できればそれで幸せなのだ。
プギャーとの、このたまに昼食を共にするような微妙な距離も俺は好いていた。
もっともプギャーからすると物足りなくて仕方ないだろうが。

6 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:35:01 ID:AtU2hDks0
ミセ*゚ー゚)リ「ぷぎゃくーん」

そこに、スクールカースト一位といった感じのギャルがやって来た。
もちろん彼女の視界に俺は入っていない。
彼女はプギャーだけを見つめていた。

( ^Д^)「どしたん?」

ミセ*゚ー゚)リ「内藤センセーがさっきぷぎゃくんのこと探してたから教えとこーと思ってー」

( ^Д^)「マージか、なんの用事だろ」

ミセ*゚ー゚)リ「なんか掲示物貼ってほしい的なこと言ってたよ」

( ^Д^)「りょー、カレー食ったら行くわぁ」

よろしくねー、とギャルは手をひらひらさせて去っていく。
プギャーの頭はもう呼び出しのことでいっぱいになったらしい。
五口分あったカレーを無理矢理喉に流し込み、彼は席を立った。

( ^Д^)「わりいちょっと行くわ」

('A`)「いってらー」

( ^Д^)「ういー」

プギャーは、本当にお人好しである。
そのくせ調子がいいもんだから、クラス中から面倒ごとを引き受けまくっていた。
本当はその掲示物だってプギャーじゃなくても貼れるものだろうと、捻くれた俺は思っていた。

('A`)(でもそれを人望って呼ぶんだろうなー)

他人から見た俺は得体の知れない異物だろう。
実際にその通りで、逆もまた然りであった。
俺からすると目立ちたがり屋の人種の方がよっぽど得体が知れなかった。

('A`)(プギャーは、いい奴だけどな)

最後に残ったしば漬けを、ぱりぽりと咀嚼しながらそんなことを思った。
……心なしか、包帯が軽く締まった。

('A`)(おお、いてえいてえ)

少しでもその痛みが安らぐように、そっと手首を撫でた。

7 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:35:44 ID:AtU2hDks0
しかし物事はそううまくいかないものらしい。

('A`)(めちゃくちゃいてえ……)

ギチ、ギチ、と断続的に締まるそれは不愉快以外の何物でもなかった。

('A`)(利き手だからあんまりやられると結構辛い……)

とごちっても仕方がない。
当の本人は、俺がこんな目に遭っているとは知らないのだから。

('A`)(そろそろ行くかぁ)

おもむろに席を立つ。
その音により黒板に刻まれる文字は途切れ、教師とクラスメイトたちが不思議そうに俺を見つめた。

(‘_L’)「どうかしましたか、鬱田さん」

('A`)「ちょっとトイレ行ってくるっす」

そうして、返事も聞かないうちに教室を後にした。
廊下はとても静かで、俺だけの足音がよく響いた。
ふと立ち止まり、耳をすませる。
微かに授業の声が聞こえてきた。
内容まではわからないが、みんな真剣に聞いているらしい。
先生の声は滔々と長く続き、まるで終わりが見えなかった。

8 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:37:19 ID:AtU2hDks0
('A`)(さてと、)

ほどなくして、俺は右足を上げた。
真っ直ぐ前を見つめ、

('A`)(やりますか)

静かに跳躍。

('A`)(一歩目、)

廊下に音が響き渡らないよう、慎重に着地。

('A`)(二歩目、)

宙ぶらりんになった左足に力を入れ、再び跳ぶ。
着地する際、若干バランスが崩れたがなんとか立て直せた。

('A`)(三歩目、)

再び右足で宙目掛けて跳ねて。

('A`)(四歩目……!)

持ち上がった左足をぶんと振り回した。
腰を軸にして、倒れないように踏ん張って。
キュ、と上履きのゴムとリノリウムが擦り合う音。
そして、

('A`)「…………」

俺が振り向くと同時に、世界は一変していた。
さっきまで聞こえていた僅かな喧騒はさっぱりと消えていた。
廊下の電気は真っ暗で、壁越しに感じていた人の気配も失せている。
ただ一人、俺だけが存在する世界。
その静寂を破るように、俺は呼ぶ。

('A`)「ロミス」

£°ゞ°)「はいここに」

間髪入れずにすぐ近くから声がした。
驚きながら振り向くと、そいつは俺の背中に密着して立っていた。
そりゃもう、ピッタリという効果音が似合ってしまうほどに。

9 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:37:49 ID:AtU2hDks0
(;'A`)「距離が近い!!」

£°ゞ°)「当然です、いつも私は貴方のお側に仕えておりますゆえ」

くつくつと人の良い笑みを浮かべている。
が、ロミスは俺をからかいたいだけなのだろう。
これはそういう奴なのである。

('A`)「んなことより例のアレは何処にいるんだよ」

更に一歩後退しながら聞く。
それを見たロミスはさらに笑みを深めた。

£°ゞ°)「現在尾府町の外れにある幽霊屋敷を探索しているようです」

('A`)「すぐ向かった方がいいよな」

£^ゞ^)「では約款のご唱和を」

('A`)「……毎度毎度思うけどそれ面倒くさくねえ?」

するとロミスは慈愛に満ちた表情を見せた。

£°ゞ°)「生憎死神相手にもクレームを吹っ掛けてくる大莫迦者…失礼、約束事が守れない劣等人種もいますので」

('A`)「さっきより具体的な罵倒をしやがる」

£°ゞ°)「それよりもほら、早く」

せっつかされ、俺は約款を思い出す。
長ったらしい文章なのに、すぐにこれだけは口から出て行くのだから不思議だった。

10 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:38:32 ID:AtU2hDks0
('A`)「……一、鬱田ドクオは椎名デレの痛みが逃げ出した場合、これを認知することができる」

£°ゞ°)「認知は右手首に巻かれた包帯によって行なわれる」

('A`)「二、その痛みを捕らえる場合のみ、他人から俺の存在は一時的に消去される」

£°ゞ°)「ただし命を落とした場合、速やかに肉体は朽ち果て、そのまま存在を忘れ去られてしまう」

('A`)「三、この能力を他人に話してはならない」

£°ゞ°)「話した場合、契約は破棄される。また、再び契約を結ぶことはできない」

('A`)「四、どんなに苦痛でも鬱田ドクオは自らの痛みを放棄することは出来ない」

£°ゞ°)「放棄した場合、直ちに鬱田ドクオの痛みは死神ロミスに捕縛されそのまま法廷へと連行され、肉体は死亡する」

('A`)「以上の四点を踏まえ、鬱田ドクオは、」

£°ゞ°)「死神ロミスとの契約を了承した」

('A`)「死んだらそん時はそん時だ!」

お決まりの口上を述べた瞬間、右手首の包帯がぐにゃりと伸びて襲い来た。
絡み、巻きつき、俺を別の存在へと変貌させていく。

( A )「…………」

その瞬間がたまらなく不快で、しかしどこか落ち着くような気もして。
でもやっぱり、少し苦手であった。

(//‰ ゚)「…………」

視界が徐々に回復していく。
目の前に立っているロミスは、相変わらず緩やかに微笑んでいた。

11 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:39:10 ID:AtU2hDks0
(//‰ ゚)「変わりないよな」

体のあちこちから伸び縮みする包帯を眺めながら問う。
その一端をロミスは鋏で切り落とした。
痛みは、ない。

£°ゞ°)「いつも通りでございますよ」

切れ端をピラピラと振りながらロミスは答えた。

(//‰ ゚)「……ぶふっ」

£°ゞ°)「おや、貴方が噴き出すとは珍しい」

(//‰ ゚)「全身包帯まみれになったのを、変わりないとかいつも通りと呼ぶのも不思議な話だなって」

俺の言葉にロミスは、曖昧な笑みを浮かべた。

£°ゞ°)「貴方がそうなることを選んだのですよ」

(//‰ ゚)「分かってる」

ロミスが、カラカラと窓を開ける。
外では轟々と風が吹いていた。
外に出れば、あっという間に飛ばされてしまうだろう。

£°ゞ°)「ご武運を」

返事の代わりに、一度頷いてみせた。
そして俺は、窓枠に手をかけて、

(//‰ ゚)「っ!!」

びゅおう、とすさまじい音が耳を劈く。
動いたってどうにもなるわけでもない。
全ては風のまにまに、といったところだった。
二転三転、いやそれの五倍は体をぐるぐる回された。
上も下も前も後ろも分からなくなり、いい加減気持ちが悪くなった頃。

(//‰ ゚)(この下だ!)

そう自覚した途端、ふ、と風が止んだ。
画用紙に色付きの水を落とすように、景色がじわじわと滲み出て来る。
割れた窓ガラス。
そこから差す陽光とそれを纏って輝く塵芥。
ところどころ床は腐りかけていて、布越しにその湿り気を感じ取った。
幽霊屋敷の天井は高く、いくつもの梁が通っているのが見えた。
きっとここは広間だったのだろう。
……その最奥に、蠢めく影があった。

12 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:41:34 ID:AtU2hDks0
(//‰ ゚)「よう」

わざと声をかけると、その影はぴたりと動きを止めた。

(//‰ ゚)「半年ぶりだな」

川  々 )「…………」

そいつは、ぬらりと姿を現した。
真っ赤に充血しきった瞳と腫れ上がった瞼。
惚けたように半ば開いている口。
その唇はところどころ切れていて血が薄く滲んでいた。
腕はだらんと伸びきっていて、親指がきつく握り締められていた。
その親指を覆う指は、第二関節までしかなかった。
きわめつけに、耳の付け根からはカッターナイフの刃が飛び出ていた。
その薄刃の角は、左右合わせて五本存在し耳からは血がたらたらと流れ出していた。
そのせいで彼女の黒髪は、しとどに赤く染まっていた。

川 ゚ 々゚)「……、」

ぱっと左右の親指が、四つ指から解放された。
すると、その四つ指の付け根からずろずろと薄刃が伸びてきた。

(//‰ ゚)(いつ見ても気味が悪い)

程よく伸びきったのだろう。
彼女が親指を折りたたむとその成長は止まった。

13 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:42:15 ID:AtU2hDks0
川 ゚ 々゚)「…………」

(//‰ ゚)「…………」

俺たちは互いに見つめあった。
そして、

川 ゚ 々゚)「っ!」

彼女は跳躍した。
生身の人間では決してありえない速度。
しかし今の俺も人間ではない。
空間を数回薙ぎ、その軌道に沿って包帯を展開させる。
が、彼女はいとも容易く木っ端微塵にしてくれた。

川 ゚ 々゚)「?」

でもそれでよかったのだ。
彼女が包帯に気を取られている隙に、俺は床をスライディングしている。
見上げれば、真上に、彼女がいる。

川; ゚ 々゚)「!」

焦ったところでもう遅い。
空中で取れる行動など限りがある。

(//‰ ゚)「っ!」

無防備な彼女の足に包帯を伸ばす。

(//‰ ゚)(かかった!)

無理矢理体を起こし、思い切り包帯を引っ張る。

川; ゚ 々゚)「ッッッ!」

床に叩きつけられた衝撃で、角の一部がパキリと折れた。
立ち上がって来ないうちに、ギチギチと両足を縛り上げる。

14 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:42:45 ID:AtU2hDks0
(//‰ ゚)(これで……!)

終わりだ、と思うには早かったらしい。

(//‰ ゚)「!?」

ぐっと身を折り畳み、足首目掛けて刃が突き立てられた。
もちろん、彼女の刃が、彼女の足首に、である。
ぶちぶちと包帯が切断される音。
ぷつぷつと皮膚に刃が食い込む音。
素早く彼女は立ち上がり、低く跳躍。
その両足首からは、骨らしきものが覗き出していた。

(;//‰ ゚)(まずいまずいまずい)

無理矢理突進してきた彼女は右手をピンと伸ばしている。

(;//‰ ゚)(貫かれる……!)

咄嗟に俺は左腕から包帯を伸ばす。

(;//‰ ゚)「間に合え……っ!」

梁に、しゅるりと包帯が絡みつく。
包帯を収縮させ、体を巻き上げる。
彼女は目標を失い、攻撃する術もなくなるだろう。
その背後を取れば俺の勝ちだ。

(//‰ )「がっ!?」

しかしそれは甘かったらしい。

15 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:43:31 ID:AtU2hDks0
(;//‰ )(なに、が……)

気付くと俺は床に叩きつけられていた。
梁には千切れた包帯が揺れていた。

(;//‰ )(くそっ……!)

たしか俺が宙へ上がったところで、彼女は突然床に手をついた。
急激なブレーキに彼女は耐えられず、体は転がっていった
その慣性を利用し、彼女は逆立ちを繰り出した。
目一杯伸ばされた足。
俺の腹へと迫り来る踵は、相当な威力を纏っていた。

(;//‰ )「い、ってぇ……」

いつまでも床で伸びているわけにもいかなかった。
が、既に彼女は俺の腹に足を乗せていた。

川*^ 々^)「ふふ、」

その笑みには一片の悪意も見あたらなかった。
つまり、

(;//‰ )「あっ、がぁっ……!」

この行為は、彼女にとって普通の行いなのだ。
何度も何度も人の腹を踏みつける、この行為は。

(;//‰ )「は、ぁ、っあがっ……!」

川*^ 々^)「あは、」

踏みつける足は更に激しくなっていく。
力は更に込められ、踵で抉るように腹を攻めた。
そのうち彼女はすっかり両足をつくようになり、ぴょんぴょんと飛び跳ねて回った。

(;//‰ )「っ、……、……っ…………」

川*^ 々^)「あははははあはあははあはあははは」

責め苦は止まない。
遊ぶのが楽しくて仕方がない幼児のように、その時間は随分と続いた。

16 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:44:04 ID:AtU2hDks0
それでもやがて、終わりはやってくる。

川 ゚ 々゚)「うふ」

名残惜しむように、両踵を腹へとねじり込む。
親指が再び解放され、指からは真新しい刃が目一杯伸ばされた。

(//‰ )「……………………」

川 ゚ 々゚)「……………………」

彼女は、渾身の力を込めて飛んだ。
空中で体を丸く仕立て上げ、俺の首目掛けて刃を向ける。

ダンッッ!!!!

八つの、細いギロチンは、俺の首をすっかり刎ね飛ばす。

川; ゚ 々゚)「…………?」

……はずだった。

川; ゚ 々゚)「????」

彼女の足元にある包帯は、ただの山と化していた。
今までそこには、確かに質量があったというのに。
なぜ、どうして?
そんな動揺が彼女から滲み出ていた。

川; ゚ 々゚)「っ!?」

彼女は頭上を見上げた。
さっきまで梁には包帯の切れがあったはずだというように。
しかし。

(//‰ )「もうそこにはだーれもいないぜ」

川; ゚ 々゚)「!!」

彼女の体に、無数の包帯が襲いかかる。
抵抗することは出来ない。
さっきの一撃で、床に刃が食い込んでしまったからだ。

17 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:44:41 ID:AtU2hDks0
川# ゚ 々゚)「! っ!! っっ!!!!」

身動ぎしてももう遅い。
もうすっかり、彼女の全身は包帯で覆われてしまっていた。

(//‰ ゚)「半年ぶりだから忘れたのかねえ」

ごちながら俺は念じる。

(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)

若干抵抗が弱まった。
更に意識を集中させた。

(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)

僅かに包帯の塊が小さくなる。

(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)

徐々に、ゆっくりと、

(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)

少しずつ、確実に、

(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)

痛みは、デレの元へと還っていき、

(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)

そして、

(//‰ ゚)(痛みよ、デレの元に戻れ)

ぱらり、と包帯の山が解けた。

18 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:46:23 ID:AtU2hDks0
(//‰ ゚)「…………疲れた」

口に出すとますます倦怠感が強まった。
そのまま俺は、床に倒れ伏した。

(//‰ ゚)(本当に、疲れた)

やがて意識は包帯の海に飲み込まれ……。

(//‰ )(帰らないと……)

ロミスの手を思い浮かべる。
あの大きな手の中に、一片の包帯が握り締められている。

(//‰ )(帰りたい……)

少しずつ日常をイメージする。
暗灰色のブレザー。
学校指定のスクールバッグ。
国語の担任であるフィレンクト先生。
おしゃべりでお人好しな、でも嫌いじゃない同級生。
プギャーが食べていたカツ。
コンビニで買ったから揚げ弁当。
学校に一番近いコンビニ。
そこで働いている店員の無愛想さ。

(//‰ )(ああ、)

少しずつ、体が解けていく。
その代わりに、遠くで体が織り上げられていった。

(//‰ )(帰りたい)

いや、違う。

(//‰ ゚)「帰るんだ」

19 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:47:01 ID:AtU2hDks0
ぱち、と片目が開いた。

£°ゞ°)「おかえりなさいませ」

(//‰ ゚)「近い!」

またもや間近でロミスの顔を見てしまい、俺は思わず叫んだ。
それにまたロミスは笑い声をあげた。

£°ゞ°)「なにはともあれ、痛みは無事に椎名デレの元へ戻りましたよ」

(//‰ ゚)「そうか」

するすると、全身に纏っていた包帯が落ちていく。
その一言さえ聞ければ、俺は安心できた。

£°ゞ°)「また有事の際にはお呼び下さい」

では、とロミスは姿を消した。
…………人の気配や先生の声、黒板とチョークがぶつかり合う音が近付いてくる。
ようやく、戻ってこれた。
そんな気分になり、やっと俺は生きた心地がした。

20 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:47:34 ID:AtU2hDks0
教室に戻ると、先生は目を見開いた。

(‘_L’)「あれ、戻ってくるのが早かったね」

('A`)「そーすっかね」

( ^Д^)「いーじゃん先生、そんなの」

プギャーのフォローにより、先生は納得したらしい。
そのままなんのお咎めもなく、俺は席に戻れた。

('A`)(それにしても、なかなか荒れてたなぁ)

体から痛みというものが逃げ出すのにはそれなりの理由がある。
ということは、デレの身にもなにかが起こったということだ。

('A`)(久々に会うか)

先生に見つからないよう、メールを打つ。

('A`)(会えるといいな)

携帯をしまって、それからようやく俺は真面目に授業を聞く姿勢を取った。

21 名前: ◆oFLOXqmM1c[] 投稿日:2016/03/27(日) 05:48:05 ID:AtU2hDks0




君が傷つきゃいつでも俺は布を伸ばして助けよう 了



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