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449 名前: ◆L6OaR8HKlk[] 投稿日:2019/06/12(水) 23:41:03 ID:4I3ELPCY0
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(´・ω・`)「ブーンが何か隠してる?」
('A`)「おう」
『夏休み』も終わり、いよいよ秋が準備運動を始めた頃
俺は数日間抱き続けたブーンに対する不信感をショボンに打ち明けた
(´・ω・`)「どうしてそう思うんだ?」
('A`)「ここの提督の話を聞かせてもらってな。やけに肩を持つような口振りだった」
(´・ω・`)「ほーん……っと!!」
倉庫で見つけた釣竿を海へ目掛けて勢いよく降る
魚肉ソーセージが付いた針は、十数メートル先で小さな波紋を立てて沈んでいった
今日は食いつきが良く、クーラーボックスの中身は半分ほど魚で埋まっている
(´・ω・`)「考えすぎだと思うがね。それこそ、あいつがいた鎮守府の艦娘に聞いた話かもしれねえし」
('A`)「まぁ……そうだけどよっと!!」
俺の放った針は、ショボンのものよりやや遠くに落ちる
(´・ω・`)「飛ばすねえ~」
('A`)「どうも。俺も疑いたくは無いが、歯に物が挟まったみてえにずっと気になっててな」
(´^ω^`)「俺ら腐っても犯罪者だからな!!ガハハ!!」
笑い事じゃ無いが、釣られて俺も微笑を漏らす
この十数日間ですっかりこいつらの空気に飲まれちまったらしい
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450 名前: ◆L6OaR8HKlk[] 投稿日:2019/06/12(水) 23:41:50 ID:4I3ELPCY0
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(´・ω・`)「それこそ、直接聞きゃあいいじゃねえか。かの有名なディレクターはこう言った。『腹を割って話そう!!』ってな」
('A`)「髭のオッサンと同じ方法で聞き出せると思うか?」
(´・ω・`)「俺ならキレる」
('A`)「だろうよ……それに、『これ』もある。迂闊には踏み込めねえよ」
左手首の腕輪には、どれだけ時間が経とうが慣れない
戦場でも死は隣り合わせだったが、管理されてはいなかった。気まぐれ一つ、故障一つでドカンだ。気が気では無い
(´・ω・`)「ブーンが俺らの監視者だと?」
('A`)「そうは言ってねえけどさぁ……」
(´・ω・`)「疑い深いのも結構だが、度が過ぎると友人を失くすぜ?」
('A`)「手痛い忠告だな。痛み入るよ」
(´・ω・`)「っあー……すまん」
('A`)「いいさ。自業自得だ」
我ながら嫌味な性格で辟易する。捻くれた性根は一度死にかけても治らないらしい
(´・ω・`)「ふむ……あいつがここに来た原因は聞いてるか?」
('A`)「いや……工廠で何かしら起こしたって事くらいしか」
(´・ω・`)「ふーん……」
('A`)「そっちは?」
(´・ω・`)「一緒だよ。そんで、毎日工廠でシコシコ作ってる物に関してもはぐらかされてばかりだ」
なんだよ、怪しさ満点じゃねえか
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451 名前: ◆L6OaR8HKlk[] 投稿日:2019/06/12(水) 23:43:39 ID:4I3ELPCY0
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(´・ω・`)「つっても、ここにいる時点で俺らは極悪人だ。そりゃ闇の一つや二つ抱えてるだろうよ。小せえ事を気にしたってしょうがねえさ」
('A`)「楽観的だな……」
(´・ω・`)「……怖いか?」
('A`)「……」
『怖い』。確かにそうなのかもしれない
それは『友人』という関係そのものかもしれないし、『裏切り』という可能性に対してかもしれない
俺は一度道を踏み外した。二度目だって、そう、恐らく、容易く踏み外してしまうのだろう
(´・ω・`)「難儀だな……」
ショボンは俺の返答を待たず、タバコに火を着ける
魚は満腹になったのか、いつの間にか竿はピクリとも動かなくなった
(´・ω・`)「フゥー……そんじゃ、疑り深いドクオくんの為に、年長者の昔話でもしましょうかね」
('A`)「昔話……?」
(´・ω・`)「フェアじゃねえだろ?お前一人が腹の中を早々に晒して、俺らはだんまりなんてよ」
『そんなつもりじゃない』と言いかけて、好奇心が食いとどめた
いや、俺が交わした会話は裏返せば過去の詳細を話さないショボンも疑っているとも読み取れる
迂闊な発言だったが、多分、いつかは知らなければならない話なのだろう。黙って耳を傾けることにした
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452 名前: ◆L6OaR8HKlk[] 投稿日:2019/06/12(水) 23:44:31 ID:4I3ELPCY0
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(´・ω・`)「長いこと軍でメシ炊きやってるとよ、毎日大勢の兵士と顔合わすんだ。キツい訓練期間でも、食う時だけは良い顔しててな。その顔を見るのが好きだった」
(´・ω・`)「だが浮かない顔もある。戦場で友が死んだ時に浮かれた表情をする奴はいない。それだけならまだ良いさ。死んだ奴たぁ二度と顔を合わせられない」
('A`)「……」
(´・ω・`)「ある時、俺に鎮守府への転勤指令が出た。配食兵にとっちゃ花形の仕事でな、同僚から羨ましがられたよ」
(´・ω・`)「だけど気が進まなくてな。一度は断りを入れたんだが、腕を見込んだ上での強い希望と言われちゃ悪い気も起こらず、結局受けることとなった」
(´・ω・`)「初日は頭がクラクラしたよ。男所帯の風景から一転して、美女が大半を占める施設に移ったんだからな。ああ、勘違いしてもらっちゃ困るが分別はちゃんとついてたさ」
('A`)「……ああ、わかってる」
(´^ω^`)「ハハ、どうも。だけどよ、言っちゃ悪いがむさ苦しい野郎と顔を付き合わせるよりもほんの少しだけ気分は良かった。こんな話聞かれちゃ、ボロクソに叩かれるだろうがな」
そう言って青空を仰ぎ、口から煙を吐き出した
多分、鎮守府に勤務する前もこうして兵士達と軽口を叩きあっていたのだろう
信頼と友情が成せる言葉のプロレス。これもまた、『二度と顔を合わせられない奴』に向けた言葉なのかもしれない
(´・ω・`)「艦娘ってのは驚くべきもんで、小さなガキですら戦場に出る。ガキらしい無邪気さを抱えたままな」
(´・ω・`)「ある日、休憩時間中に一人の駆逐艦娘が食堂を覗いてた。長い赤髪で、特徴的な語尾の睦月型でな」
(´・ω・`)「気まぐれで適当なおやつを作って振舞ってやったら、大層喜んだ。それを見て、俺も腹が膨らんでいくかのように嬉しかったよ。もし自分に子供がいれば、こんな気分なんだろうなってよ」
(´・ω・`)「それから、あの子は姉妹艦を連れて頻繁に遊びにきた。おっちゃんおっちゃんと人懐っこくな。俺も調子に乗って手を替え品を替えて美味いもん作ってやった。人生に絶頂期があるとするならば、あの時だろうぜ」
('A`)「……良い環境だったんだな」
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453 名前: ◆L6OaR8HKlk[] 投稿日:2019/06/12(水) 23:45:54 ID:4I3ELPCY0
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直属の上官を除く鎮守府配属兵との必要以上の接触を禁じる鎮守府も少なくないと聞く
ショボンがいた鎮守府は、艦娘に自由を与えて好きにさせるだけの余裕はあったらしい
だが、それが必ずしも『良い事』に繋がるかはまた別だ
(´・ω・`)「ああ、上層部からも好評の鎮守府だったよ」
打って変わって吐き捨てるように言った。規律を重んじる上層部が自由な環境を『良し』とするとは思えない
もしもその鎮守府がショボンの理想通りの場所だったなら、今も艦娘に飯を振舞っていた筈だ
(´・ω・`)「しばらく経ってから、顔見知りの一人が『はじめまして』と挨拶をした。俺は冗談か何かかと思って笑ったんだが、キョトンとしていた」
(´・ω・`)「傍の睦月型は、下唇を噛んで俯いていたよ。だけど、俺の視線に気づくと健気にも笑顔を作って応えた」
(´・ω・`)「深く踏み込んじゃいけねえと思って、俺はいつも通りおやつを振舞った。それもまた、初めてのように眺めてきた」
(´・ω・`)「彼女達が帰ると、同僚が事情を話してくれたよ。『彼女は戦闘による損失を補う新造艦』だってな」
('A`)「……」
日本が何故、世界最大の艦娘保有国なのか。それは彼女達を『造る環境』が整っているからだ
練度こそ一からだが、資材さえあれば『艤装』と、それを操る『艦娘』を複製出来る
例え轟沈しても、同じ顔、同じ声、同じ武装の兵士を再び造り出せるのだ
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454 名前: ◆L6OaR8HKlk[] 投稿日:2019/06/12(水) 23:47:28 ID:4I3ELPCY0
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(´・ω・`)「ショックで声が出なかったのは初めてだった。同僚は努めて平静を装っていたが、目の色は暗く沈んでいた」
(´・ω・`)「『あまり情を掛けると、お前が壊れてしまう。ほどほどにしておけ』。遅い忠告だったが、俺が逆の立場でも早々に言えなかっただろう。そこには確かに幸福があって、ぶち壊すような真似はできない」
俺達は戦争をしている。仲間との死別は日常であり、珍しいものではない。人は死ねば二度と会うことが出来ないなど、小学生でも理解している
だが、艦娘という『イレギュラー』となると話は別だ。些細な差はあるだろうが、艦種ごとに定型化された『モデル』が幾らでも量産できる
友達が死んだその日に全く同じ姿で中身が空っぽの『別人』が現れるようなものだ。不気味だろうが、一人ならまだ耐えられるだろう。しかし
(´・ω・`)「また一人、また一人と、あいつらは同じ姿で入れ替わっていった。中には入れ替わりのスパンが短い子もいたな」
それが二度、三度と続けばどうだ?普通の人間ならまともではいられない。親しい人物なら猶更だ
('A`)「……好評ってのは、そういうことか」
(´・ω・`)「フーッ……別に、とびきりのクズ野郎じゃねえ。そこそこ有能な提督だったよ。有能故に、犠牲を伴う作戦も即座に実行した。強い、強い部隊だった」
情け深い者に指揮官は務まらない。例え確実に一定数の部下が亡くなろうとも、勝つためにはリスクを背負わなければならない
酷な言い方になるが、兵を『数字』として捉え、極めて冷徹に使い捨てられる人材こそ、『武将』に相応しい
ショボンも軍人だ、ちゃんと弁えているだろう。だからこそ、『有能な提督』に対する怒りの感情は聞き取れなかった
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455 名前: ◆L6OaR8HKlk[] 投稿日:2019/06/12(水) 23:49:37 ID:4I3ELPCY0
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(´・ω・`)「誰が責められるかよ。きっとあの提督だって、最初は苦渋の決断だったはずだ。だけどよ、人間ってのは良くも悪くも『慣れる』もんだ」
(´・ω・`)「繰り返し繰り返し……死んでは生き返る彼女たちを見続けて、彼は戦争に馴染んでしまった」
(´・ω・`)「フーッ……誰が責められるかよ……良心、道徳、人として大事なもん忘れちまってまで、深海棲艦っつー理不尽に抗ってる男をよ……」
きっと、以前テレビで見たデモ隊の連中は、その提督を前に『大量殺人者』とでもがなり立てるのだろう
何も知らない連中は、無知ゆえに彼を責め立てるのだろう。安寧の上に成り立つ正義を振りかざしながら
('A`)「……」
そして、誰よりも彼を責めたい筈のショボンは、失う苦しみを知っているが故に
ただ、深く静かに同情する他ない。誰かが背負わねばならない重圧を引き受けた『提督』に対して
('A`)「……さっき俺に難儀と言ったが、アンタも大概だぜ」
(´^ω^`)「……ああ、そうだな」
世界は、優しい人間の為に回っちゃいないらしい
胸の中を覆う世知辛さを打ち消そうと、俺もタバコに火を着けた