(,,゚Д゚)は(*゚ー゚)のすべてを奪うようです

1 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:44:32 ID:57n0ycnI0


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(,,゚Д゚)は(*゚ー゚)のすべてを奪うようです






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2 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:48:39 ID:57n0ycnI0





時は夜深。
月さえも疾うに沈み、暗闇を這う虫すらも寝静まった頃に。

俺は息を殺し、木に背中を預けて佇んでいた。





俺は今、森の中に居る。



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3 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:50:48 ID:57n0ycnI0
所在無く、じっと前方を見ている。
目の前には木々が無造作に所狭しと立ち並んでいる。
それぞれ深く生い茂っており、星の光は地上まで届いていなかった。

俺の背後。そこには幅4メートル程の道が横切っている。
石畳で整備されたようなものではなく、ただ草が刈られた程度の粗雑な道。


俺は道から3、4歩横に入ったところに居る。全身を黒に染め上げたコートを羽織り、同様に黒いフードを被って、夜と同化している。


目を閉じる。俺に入ってくる情報は音が中心となる。

静かだ。
鳥も、虫も、一切鳴いていない。聞こえるのは風で擦れる葉の微かな音くらいだ。


そんな静寂に満ちた森。
その奥から。




土を圧し固め、小石を弾き飛ばす、車輪の音がこちらへ近づいてきた。

4 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:52:48 ID:57n0ycnI0
馬車だ。2台いる。
恐らくまだ200メートル程は離れている。

俺は動かない。木の裏に隠れ、目も閉じたまま。
聴覚のみを頼りに馬車との距離を測り続ける。

車輪の音は一定だ。速くもならず、遅くもならず。
すなわちこちらに気付いていない。



馬車との距離、およそ20メートル。
茂みのあちこちで『人の気配』が浮かび上がってくる。

……馬鹿共が。
まだそのタイミングでは無い。人ならまだしも馬に気付かれるとは考えないのか。
しかし、幸いなことに車輪のリズムは変わらなかった。



そして。
馬車は俺の真後ろまで到達した。
その瞬間、道の両端から一本のロープが迫り上がる。
膝上まで張られたロープにつんのめって、馬の足が止まった。

目を開く。
木の陰を離れ、即座に道へ躍り出る。
俺だけではない。周りに潜んでいた十数名も一気に姿を現し、2台の馬車へ向けて我先にと襲いかかる。

前を走っていた馬車から慌てて2人の男が飛び出してきた。手には槍。傭兵だろう。

5 名前: ◆IV5ch9004w 投稿日:2016/04/03(日) 23:54:51 ID:57n0ycnI0







俺は腰に備え付けていたナイフを右手で抜き取り、傭兵の元へ駆け寄った───。







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6 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:57:17 ID:57n0ycnI0



───襲撃開始から1分。
1分もあれば充分だった。
相手の抵抗をすべて潰し終えた今、後はただ奪う。それだけだ。


( ・∀・)「よう、ギコ。そっちはどうだ?」


一人の男が近付いてきて、親しげに俺に話しかける。
男の右腕は返り血で赤く染まっていた。


(,,゚Д゚)「もちろん、1人も逃がしちゃいない」


答えながら、俺は促すように目線を下に向けた。
地面には2人の男が倒れている。うち1人は首から大量の血が溢れている。後の1人の方は、血はもう出尽くして止まりつつある。


( ・∀・)「こっちにもガードがいたが、素人に毛が生えた程度だったな。まるで歯応えがなかった」

(,,゚Д゚)「お前が手を焼く相手なんて、そうそういないだろ。モララー」


俺の言葉に、目の前の男───モララーは本当に嬉しそうに、顔を綻ばせた。

7 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/03(日) 23:59:28 ID:57n0ycnI0
( ・∀・)「しかし、今回は楽だった分、実入りは少ないかな……」


モララーは既に馬車の中を確認していたらしい。
傭兵も片付けて、金目のものを探して、それから俺のところにやってきたのか。色々と速い奴だ。


(,,゚Д゚)「馬はどうだ?」

( ・∀・)「そうだな……。見たところ、2頭とも結構年をとっている。あまり高値では売れないだろう」


足止めの際にわざわざ馬を殺さなかったのは、売って稼ぎを上乗せするためだった。
だが、どうやら二束三文で終わるらしい。


(,,゚Д゚)「そうは言ってもしばらくは飲む酒に困らない程度にはあるんだろ? だったら別にいいだろ」

( ・∀・)「使う分には、な。でも俺は金をもっと貯めたいんだよ」

(,,゚Д゚)「そんなに貯めて何に───」


と、俺が言葉を続けようとしたその時、俺たちの間に一人の男がやってきた。

8 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:02:20 ID:qvtYUkzY0
「ボス、すんません、ちょっといいっすか?」

( ・∀・)「……なんだ?」

「あ、ハイ。見てもらいたいのがあって」


やって来たのは下っぱの男だ。
その男に軽く睨みを効かせてモララーが答える。

モララーは、俺と話すときと、それ以外の奴と話すときでは態度や口調が違う。
『上に立つ身として舐められないようにするためだ』とモララーは言っているが、
それとは別の、何か感情的な理由があるように俺は思っている。


「このガキなんですが……」


そう言って男が連れてきたのは、まだ10代前半くらいに見える小娘だった。


(*゚ -゚)「……」


その小娘は、俺の胸辺りまでしかない体を更に縮めていた。
顔には生気は無く、じっと何かに耐えるように下を見ている。
目を引いたのは、右の頬。アザのようなものが見えるが、まるで紋様のような不思議な形をしていた。

9 名前: ◆IV5ch9004w 投稿日:2016/04/04(月) 00:05:16 ID:qvtYUkzY0
「ほら、この前、掃除係のガキが死んじまったでしょう? だからその代わりにコイツをどうかと思うんですが」


自堕落で荒くれ者しかいない俺たちのアジトには、自発的に掃除をする奴なんか当然いない。
なので『こういう時』に幼い女を捕まえて掃除をさせるようにしている。
幼い女に限定しているのは、それが一番従順に働いてくれるからだ。


「前のガキ、自殺しちまいましたからね。今、アジトも酒の空き瓶で溢れちまって邪魔になってきてるんで……どうすか?」

( ・∀・)「……」

(,,゚Д゚) (ん?)


ふとモララーの顔を見てみると、その小娘の顔を凝視していた。
じっと見て……何かを考えているようにも見える。


「あ、ちょっと年いきすぎてましたか? 前のガキはもっと小さかったですからね。じゃあ……コイツは捨てときますか?」

(*゚ -゚)「……!」


男の言葉を聞いた小娘の顔が強張っていた。
『捨てる』とはすなわち、どういうことをされるのか理解しているのだろう。

10 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:07:50 ID:qvtYUkzY0
( ・∀・)「いや、待て。なあギコ、ちょっといいか? お前、このガキの頬の模様って何か見覚えないか?」


モララーが俺に意見を求めてくる。
やはり、何か引っかかるものがあるらしい。


(,,゚Д゚)「いや、知らん。ただのアザじゃねぇのか? まあ確かに、なんか変な形してるが」

( ・∀・)「俺、何処かでこれ、見たような……」


モララーは右の手を顎に添えてしばらく考え込んでいたが、やがて諦めたのか、小娘を連れてきた男に向き直る。


( ・∀・)「オイ、向こうの馬車に女が乗っていただろ。連れてこい。コイツのことを聞く」

「え、連れてくるんすか? もう他の奴がヤってる途中なんじゃないかなぁ……」


モララーが襲撃した方の馬車へ意識を向ける。
馬車の影になっていて見えないが、女の悲鳴と男の下卑た笑い声が聞こえてくる。

11 名前: ◆IV5ch9004w 投稿日:2016/04/04(月) 00:11:45 ID:qvtYUkzY0
( ・∀・)「いいから連れてこい。俺がそう言ってんだろうが」

「わ、分かりました。すぐ……」


モララーに睨まれた男は慌てて戻っていった。
どうにも間の抜けてしまった雰囲気に退屈して、俺は大きくあくびをする。


(,,゚Д゚)「おいモララー。俺、先に帰るぞ。眠いんだ」

( ・∀・)「ん? そうか……。まあいい、じゃあまた後でな」


町の方へ帰る間際、横目で小娘の方を見た。


(*゚ -゚)


不安そうな顔だ。しかし、ロクな抵抗もせず、逃げるわけでもなく、ただじっと突っ立っている。

まるで、逃げても無駄だと、既に何もかも諦めたとでも言わんばかりの表情を見て俺は。


(,,゚Д゚) (……まあ、こんな世の中だ。いつ死んでも分からねぇのに、望みは持てないよな)


そう頭の中で思い、その場を後にした。

12 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:14:22 ID:qvtYUkzY0
それから俺は森を抜けて、俺達が拠点としている町へ向けて歩いた。
しばらくすると夜が明けて、視界の明度が上昇し始める。
早朝の冷たく澄んだ空気が心地よさをもたらし、仕事を終えた俺を僅かながらも癒してくれた。

更に歩を進め、俺はようやく町へと辿り着いた。

住人は1000人にも満たない小さな町だ。しかし近辺にはこの町しかない為、旅をしている者が中継地点としてよく訪れてくる。
それらを客として、この辺境の町は何とか食いつなぐことができているのだ。



町の中へと歩いていく。
先程の清々しい空気から一変、この町の雰囲気は何処か暗く、重い。
早朝であることを差し置いても、辺りには人が少なく活気が無い。

しかしそれは当然のことだ。
住人は周知しているのだ。
この町を無闇に出歩くことの危険さを。


(,,゚Д゚)「……ん?」


歩いている道の先の方が、何やら騒がしい。
構わず歩き続けていると、4つの人影が確認できた。
恐らく4人とも男で、3人が1人を囲んでいるような状況だった。

13 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:16:45 ID:qvtYUkzY0
(;゚Д゚)「げっ……」


そして俺は見つけてしまった。
その囲まれている1人が、どうにも俺の知っている顔だったからだ。
さらに間の悪いことに、俺が見つけたのと同じタイミングで、『奴』は俺に気付いたのだった。


(;´∀`)「あ、ギコさん! おーい、ギコさん!!」


奴はいわゆる祭服に身を包んだ、正真正銘の神父だ。
神父と言えばいつも穏やかな顔をしていそうなイメージがあるが、今の奴は必死な顔で俺に向かって手を振っている。
奴を囲んでいた3人も、当然俺の方を見ていた。


(#゚Д゚)「くそっ、人の名前を大声で呼んでんじゃねーぞ……」


俺は顔を背けてその場を通り過ぎようと思ったが、奴が素早く駆けつけて俺の前に立ち塞がる。


(#゚Д゚)「おい、俺の帰路を邪魔するな。殺すぞ」

(*´∀`)「まあまあまあまあ、私とギコさんの仲じゃないですか。困った友人を助けるモナ。神もそう仰っています」

(#゚Д゚)「いつから俺はお前のダチになったんだよ……!」

14 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:21:00 ID:qvtYUkzY0
ニコニコとうざったい笑顔を振りまいて、奴は俺の手を握ってくる。
その力は強く、俺を断固として逃がさない決意を主張するかのようだ。


「オイ、お前、コイツの連れか?」


そんなやり取りを交わしていると、奴を囲んでいた内の1人が俺に近付いてくる。
そいつら3人の見た目は……、まあ、あからさまにチンピラのそれだった。
きっと奴から金でもたかっていたのだろう。


「お、おい、待て! ちょっと待てって!」


すると、俺に近付いてきた男を残りの2人が止めようと駆け寄った。
その2人は先程から青い顔をして、俺の方をチラチラと伺っている。


「さっき、そこの神父が言っていただろ、『ギコ』って! コイツ……あ、いや、この人、『あの』ギコだよ!」


『あの』ギコってなんだよ。
どうも俺の知らない内に、俺の名前は広まってしまっているらしい。それも良くない広まり方を、だ。

15 名前: ◆IV5ch9004w 投稿日:2016/04/04(月) 00:25:06 ID:qvtYUkzY0
「バーカ、そんなもんこの神父のハッタリに決まってるだろうが。そんな奴がタイミング良く通りすがる訳ねぇだろ」


ただ、最初に俺に突っ掛かってきた1人は俺を『噂のあのギコ』ではないと考えているようだ。
2人の制止も聞かず、薄ら笑いでその男は更に俺に接近する。


「よお、残念だったな。俺はそんな嘘に引っ掛かるほど馬鹿じゃねえんだよ」


そんなことをのたまいつつ、奴の手は俺の襟首を掴もうと手を伸ばしてきた。
「いや、まずはその噂について詳しく教えてくれ」とでも言いたかったが、そろそろ面倒に思えてきた俺は。


(,,゚Д゚)「……」


その伸ばしてきた手を逆に掴みとり、空いた手でナイフを逆手に持って、目の前を横切るように薙ぎ払った。

16 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:27:45 ID:qvtYUkzY0
「あ?」


男の手首は肉と骨が完全に断ち切られ、かろうじて残された皮がブラブラと頼りなく手先と腕を繋いでいた。
男はしばし呆然と、止めどなく溢れている血を見つめていたが、


「あ、ぐ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアァッッッ!!!」


まるで急に痛みを思い出したかのように、大声で叫んだ。

青を通り越して白くなった顔をした他の2人は、


「あ、あ、す、すみまっ、スミマセンでしたぁぁっ!!!」


と、いまだ泣き叫んでいる男を掴んで脇目も振らずに逃亡した。
男の流れ出る血が、逃げた後の道に一本の線を作り上げていった。


( ´∀`)「……ギコさん」


3人が逃げて、一息ついたところで奴は俺の前に立ち、神妙な顔つきで告げた。


( ´∀`)「みだりに人を傷つけてはいけませんモナ」


瞬間的にブチ切れた俺は、奴の頭をグーで殴った。

17 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:31:32 ID:qvtYUkzY0
(;´∀`)「痛い! 言ったそばから何で殴るモナ!?」

(#゚Д゚)「このクソ神父、俺に助けを求めておきながら説教するか普通?」

( ´∀`)「それについては有難うございます」


深々と頭を下げる。
ここまできっちり礼をされると、罵声をかけにくくなってしまう。
コイツはどうにも行動が読みづらいので、いつもペースを乱されがちだ。


( ´∀`)「でも人殺しは駄目モナ。あと私の名前はクソ神父じゃなくて、モナーです」

(,,゚Д゚)「いや、死んでねぇよ。多分」


先程の男はかなり出血していたが、精々貧血で倒れるくらいで済むだろう。大丈夫大丈夫。運が良ければ問題ない。きっと。


( ´∀`)「うーん、でも今のやり取り、私たちが最初に出会った頃を思い出すモナ……」

(,,゚Д゚) (あ、昔話だ。話長くなりそう。帰ろう)


しかしモナーの手は、未だにガッチリと俺の手を掴んでいる。逃げられねぇ。


( ´∀`)「そう、あれは半年前。やっぱり同じように私は危機に瀕していたモナ……」

18 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:33:51 ID:qvtYUkzY0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「オイ止まれ糞野郎がっ! ブッ殺すぞ!!」

(;´∀`) (と、止まったら殺される! 何がなんでも逃げるモナ! 脱兎のごとく!)


私はこの町を初めて訪れ、そして、ものの5分程度で初対面の男に追われることになりました。


(;´∀`) (何故! 一体何が彼を怒らせる要因になったのでしょうか?
      お金を出すように要求してきた彼に対し、ただ私は聖書を差し出し、懐ではなく心を豊かにしましょうと説いただけなのに!)


東へ西へ。
私は慣れぬ町を後のことなど考えず、ただひたすら走り回りました。

19 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:36:45 ID:qvtYUkzY0
(;´∀`) (私は迷える子羊を救うためにこの町に来たモナ。だけども今は! ああ神よ! 先に私をお救いください!!)


私は目を閉じ手を組んで、神に祈りを捧げました。
ただ、どうにも間が悪いことに、その時私は全力疾走していたのです。
すなわちそれは前方不注意ということになり───。


(;>∀<)「モナァッ!?!」

(,,゚Д゚)「!」


───私はギコさんと盛大に衝突したのでした。
もちろんこの時が初対面であり、ギコさんの名前はまだ知りませんでしたが。


(;´∀`)「ああっ! 済みません、私、前を見ていませんでした! お怪我はありま───」

(#゚Д゚)「痛ってーな……何だお前」

(;´∀`) (ヒィぃっ! また怖そうな人と出会ってしまったモナ!)


よく『犬も歩けば棒に当たる』と言いますが、どうやらこの町では『神父が走ればチンピラに当たる』ようです。

20 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:39:06 ID:qvtYUkzY0
とは言え、ぶつかってきたのは私の方なのですから、速やかに謝罪をしなければいけません。
大変失礼をいたしました、と私は切り出そうとしたのですが。


( ´∀`)「モナっ?」


何となく背中に悪寒が走り、私は後ろを振り返りました。
目前に、銀色に光る刃が迫ってきていました。


(;´∀`)「うわわわわ!」


とっさに飛び退くことができたお陰で、幸運にも刃は私の体を傷つけることはありませんでした。
あと1秒でも気付くのが遅れていたら……。想像したくありません。


「チッ」


見ると、私を追いかけてきた男がナイフを握っていました。
私がアクシデントに見舞われている隙に追いつかれていたのです。
男は腰の位置にナイフを構え、私に狙いを定め、再び襲いかかってきました。

21 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:42:01 ID:qvtYUkzY0
(;´∀`) (不味い、避け───)


なければ。
そう思った刹那、私の背後には人がいるということを思い出しました。

私がぶつかった相手は、まだそこにいました。
視線はナイフから外せなかったのですが、見なくても気配でわかります。
これだけ緊迫した状況なのに何で佇んでいるの、とも一瞬思いましたが、とにかくまだいるという事実。



私が身を翻せば、誤って後ろの人が刺されるかもしれない。



私は避けることを諦めました。

22 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:45:41 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「動くな」


私の背後にいる人が、そう言いました。
それと同時に私の背後から何かが飛来し、私の頭のすぐそばを通り抜けていきました。



気付けば、私を襲おうとしていた男の喉に、深く深くナイフが突き刺さっていました。
それは男が持っていた物ではありません。私の背後から飛来してきたのはナイフであり、それが男の喉に命中したのです。

男の顔は苦痛に歪んでいました。
手持ちのナイフを落とし、自らの喉に刺さったナイフを両手で持って一気に引き抜きました。

……一番してはいけない行為です。気が動転していたのでしょう。
ナイフを抜いた瞬間に、その穴から大量の血が花火のように四散し、男は前のめりに倒れました。
倒れた後も、まるでポンプ機のように一定の間隔で男は喉から血を吐き出し続けていました。


(;´∀`)「…………」


目の前の光景に私は言葉を失い、ただ見ていることしかできませんでした。

23 名前: ◆IV5ch9004w 投稿日:2016/04/04(月) 00:48:16 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「おい、お前」


その声にハッとした私は、恐らくナイフを投げたであろう彼へと向き直りました。
私は心のざわつきを静め、先ほど彼に言えなかった言葉と、そして追加すべき言葉を上乗せして、彼に伝えました。


( ´∀`)「私の不注意でぶつかって済みません。それと、救っていただき感謝します」

(,,゚Д゚)「…………」


彼は呆気にとられたような表情を見せました。
私の発言は予想だにしなかったものであったのでしょう。
彼は暫く何も言えず、言葉を探しているように見えました。


(,,゚Д゚)「何で、避けなかった? お前、わざと避けなかっただろ」


ふと、彼は尋ねてきました。
私が襲い来るナイフをわざと避けなかったことを、彼は見抜いていました。

24 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:51:12 ID:qvtYUkzY0
( ´∀`)「私が避けていたら、貴方の身に危険が及んでいたかもしれないモナ」

(,,゚Д゚)「俺の身を守るためにか? あのまま刺されていたら、普通にお前死んでたぜ?」

( ´∀`)「あ、それについてはたぶん大丈夫だったモナ」


私は祭服の内側に手を入れ、そこから一冊の分厚い本を取り出し、彼に見せました。


( ´∀`)「これ、聖書です。私の服の内側にはこの聖書がほぼ隙間なく縫いつけられています。
       だからナイフで刺されても、まあ致命傷は避けられると思うモナ」

(,,゚Д゚)「それ、そんな風に使っていいのか……? なんつーか、罰当たりじゃ?」

( ´∀`)「私が死んでしまったら、神の素晴らしさを広めるという使命を果たせなくなります。
       神は慈愛に満ち溢れておりますから、このくらいは許してくださるモナ」


私の言葉に、彼は納得したようなしてないような、なんとも微妙な表情をしていました。

25 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:53:33 ID:qvtYUkzY0
( ´∀`)「そしたら、私からも宜しいモナ? どうして見ず知らずの私を助けたのでしょうか?」

(,,゚Д゚)「助けた? それこそまさか、だ。俺は巻き込まれる前に先手を打っただけだ」

( ´∀`)「先手ですか……。しかし、あの人は貴方に敵対していたわけではないモナ。なのに、殺してしまうのはやりすぎでは?」

(,,゚Д゚)「……」


私の問いかけにより、再びこの場に息苦しい緊張感が漂い始めました。
うかつな発言をしたことに、私は後悔をしていました。


( ´∀`)「……失礼。助けてもらって言うことではなかったモナ」

(,,゚Д゚)「だから、助けてねえ」


彼は前へ歩き出し、私の横までやってきました。
視線は前へ向けたまま、彼は言葉を続けます。


(,,゚Д゚)「お前、この町に来たばっかだろ? この町に暫くいるつもりなら覚えておけ。
    ここでは、人の命に価値は無い。力がない奴から順に死ぬだけだ」


彼はそれだけ言うと、そのまま歩き出しました。
彼の言葉を使うなら、この町で生きる彼はきっと力を持つ人なのでしょう。
しかし、そのような自信や傲慢さは、彼の背中からは感じられません。むしろ、哀しさを纏っているような気さえします。

26 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:56:25 ID:qvtYUkzY0
だからこそ、私は彼に尋ねました。


( ´∀`)「済みません! この近くに教会、あるいは墓地はありますか!?」

(,,゚Д゚)「……は?」


私の声に振り向いた彼は、いよいよもって理解ができないといった顔をしていました。
私は、私に襲いかかり、そして既に絶命してしまった男を、腕を肩に回して引き起こしているところでした。


( ´∀`)「貴方の言いたいことは判りますし、きっとそれがこの町では賢い考え方なのでしょう。
      でも私は神に仕える身です。神の前では、人はみな平等であるのです。力を持つ人、持たない人。その両方とも、私は救いたいモナ」

(,,゚Д゚)「……」


彼は私の思いに対し、何も答えることはありませんでした。
それでも、何か思うところはあったようです。彼はただじっと、私の顔を見ていました。

27 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 00:58:34 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「教会は、町の外だ。誰も管理してねえから荒れてるし、遠い。墓場なら町の中にいくつかある」


彼は私の疑問に答え、墓場の位置を教えてくれました。
そしてそれを聞いた私は、とても嬉しくなったのです。


(*´∀`)「有難うございます! あ、そういえば、名前を言ってないモナ! 私はモナーといいます。貴方の名前も教えて下さい!」

(,,゚Д゚)「はあ? ……断る。つーかなんで急に馴れ馴れしいんだ。殺すぞ」

(*´∀`)「じゃあ今度会ったときに教えて下さい!」

(,,゚Д゚)「人の話を───。ああ、いいや。もう会わねえし」


今度こそ彼は振り返ることなく、この場を去っていきました。

28 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:00:59 ID:qvtYUkzY0
私はどこかスッキリとした気分になり、遺体の重心のバランスを整えると、力強く歩を進めました。


(*´∀`) (彼は、人の命に価値は無いと言っていたモナ)

(*´∀`) (でも、彼は墓場の場所を淀みなく答えてくれました。本当に価値が無いと考えているのなら、墓場の記憶など曖昧な筈です)


神よ。
私はこの新天地で、貴方の愛を皆に教えていきます。

早速、友人が1人できました。
危険も多そうなこの町ですが、私は頑張っていける気がします。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

29 名前: ◆IV5ch9004w 投稿日:2016/04/04(月) 01:03:00 ID:qvtYUkzY0
( ´∀`)「……それから私たちは会うたびに友情を深め、今となっては唯一無二の親友に───」

(,,゚Д゚)「コイツの腕も切り落とそうかな……。よし、そうしよう」

(;´∀`)「うわっ、なんでナイフ構えてるモナ!? トモダチデスヨ!?」

(,,゚Д゚)「うるせえ。話が長い。ダチでもねえ。殺すぞ」


コイツに捕まるといつも話が長くなってロクなことにならない。
俺はさっさと帰って眠りたいんだ。


( ´∀`)「まあまあ、とにかく助けていただき有難うモナ。流石に3人に囲まれると、自慢の逃げ足も見せ場がなかったモナ」

(,,゚Д゚)「マジでいつか死ぬぞお前」

( ´∀`)「カツアゲはよくされるけど、何だかんだで神の使いを殺そうとする人は少ないモナ。
       意外とこんな世の中でも天罰を恐れている人は多いんですね」

(,,゚Д゚)「こんな世の中、ねぇ……」


この町は危険だ。それは間違いない。
じゃあ他の町や都市が安全かと言われれば、決してそうではない。



今、この国は、荒れに荒れているのだ。

30 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:05:49 ID:qvtYUkzY0
この国は長い間、王による独裁が続いていた。
王は贅沢の限りを尽くしていた。その負担は、当然国民が担っていた。

国民は朝から晩まで働き詰めて、稼いだ金の多くを税金として持っていかれた。
働いても働いても報われることはなく、困窮していく日々。
搾りカスも出なくなった民に対して王が取った行動は、更に税を重くするという悪逆非道の選択であった。



国民の怒りは限界を超えた。
起こるべくして、革命が起きた。



国軍も精鋭の兵士と強力な武器を揃えていたが、革命軍は圧倒的な物量で食らいついた。
一進一退の攻防を続け、双方に甚大な被害を与えた結果、勝利を手にしたのは革命軍であった。
王の一族は女子供も例外なく打ち首にされ、この国は新たな時代を刻むことになった。



しかし、めでたしめでたし、とはいかなかった。
王亡き後、国の政治をどうするのかという問題が残ったのだ。

31 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:08:16 ID:qvtYUkzY0
民主制───すなわち国会による話し合いで政治を進めるべきだという意見が大多数を占めた。
しかし、この国は今まで王政だった。今日から民主制にします、と言われても不可能だ。
基盤となるシステムが一切構築されていないのだ。

そこで革命軍は、仮の王を立てた。
一気に民主制にするのではなく、王政から少しずつ変えていく事にした。



もうひとつ懸念すべきことがあった。
それは、近隣国に対する防衛についてだ。

この国が革命に成功したことは、既に近隣国に伝わっている。
となると国内が混乱している今、近隣国にとっては侵攻のチャンスだ。
ここで攻め落とされてしまえば折角の革命も水の泡となる。国境に軍隊を配備するのは最優先事項であった。



首都近辺と国境付近に人員が集中された。
その結果、それ以外の地方の町や村の統治は、後回しにされることになった。



放置された町や村には、指導者がいない。
中には住民が自発的に動いた町もあったが、ほとんどは無法地帯と化した。

旧王政から続く貧困と、統治者がいない混乱が合わされば、強奪と傷害がはびこる世の中になるのは必然であった。

32 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:11:00 ID:qvtYUkzY0
( ´∀`)「一応、現政府も各地に人材を派遣して、次第に統治されてきているという噂なんですが……。
       この町にも早く来てくださると良いですね」

(,,゚Д゚)「……そうなると、俺らみたいなのは追いやられる訳だがな」


モナーはハッとして、ばつの悪そうな顔でこちらを見ている。
別に自分の悪事について悔い改めることは無いが、居心地の悪さを感じた俺は、その場を離れることにした。

帰り際、モナーが俺に声をかけてくる。


( ´∀`)「ギコさん。強奪行為を止めることはできないのですか?」


もう何度目になるかも判らない質問だ。
いつもはわざわざ答えたりしないが、今日は何故だか勝手に口が動いていた。


(,,゚Д゚)「止めて、どうなる? どう生きていく? いつ来るかも判らねぇ政府の人間に希望を持つのか? 
    そんなもんに俺は期待してない。自分を護れるのは、自分の力だけだ。政府でも神でも無ぇよ」


それ以上はモナーも何も言わなかった。
俺はすっかり眠気が覚めてしまった癖に、今はとにかく眠りたくなって、家路についた。

33 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:14:10 ID:qvtYUkzY0



俺はモララーが率いている強盗集団のアジトへ帰り、自分の部屋で眠っていた。
3、4時間ほど眠ったのだろうか。俺は扉をノックしてくる音で目を覚ます。
ベッドから起き上がり、扉の方を見ると、部屋に入ってきたのはモララーだった。


( ・∀・)「寝ているところ悪いな」

(,,゚Д゚)「いや、大丈夫だ。それよりどうした? 何だか機嫌が良さそうに見えるが」

(*・∀・)「そう! そうなんだよ聞いてくれギコ! 俺たちは当たりを引いたぞ!」

(,,゚Д゚)「当たり?」


珍しくモララーが興奮している。
どうやら何らかの大物が手に入ったようだが、俺には思い当たる節は無かった。

34 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:17:56 ID:qvtYUkzY0
( ・∀・)「ほら、居ただろ。顔に紋様があるガキ」

(,,゚Д゚)「あー……。お前が気にしていた奴か。あれがどうかしたのか?」

( ・∀・)「お前が帰ったあと、侍女を締め上げて吐かせたんだがな。あのガキ、とんでもない価値があったんだよ」

(,,゚Д゚)「はあ?」


あの小娘に、価値?
あんな1人では何も出来なさそうなガキに、一体何の価値があるというのか。


( ・∀・)「ギコ、お前、『ストレイキャット族』って聞いたことあるか?」

(,,゚Д゚)「は? ストレイ……? いや、知らねえ」


それから俺は、モララーから『ストレイキャット族』の説明を受けた。
『ストレイキャット族』とは元々どこぞの山奥に住んでいた部族で、外部への接触をほとんど断絶して細々と暮らしていたらしい。
そしてその『ストレイキャット族』には、摩訶不思議な力が備わっているそうだ。



その力とは、『他人に寿命を分け与える』というものだ。

35 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:21:40 ID:qvtYUkzY0
理屈とかは良く判っていないのだが、その『ストレイキャット族』と共に生活すると、生命力が活性化されることが明らかになっている。
その力は絶大で、瀕死の重病人ですらその恩恵を受けて持ち直すほどだそうだ。

そのような、まさに奇跡の体現者と言ってもよい『ストレイキャット族』が、目をつけられないはずが無かった。
その存在が明らかになると、一族の集落が襲撃され、そのほとんどが捕獲された。

なにせ寿命が延びるというのは、通常どんなに金を積み上げても不可能なことだ。
特に老い先短い富豪の老人どもは、競って『ストレイキャット族』の買収に金を注ぎ込んだ。
それ故にその価値はまさに天井知らず。同じ重さのダイヤモンドよりも高額で取引されるとも噂されているらしい。


(,,゚Д゚)「……なんだ、そのおとぎ話は」

( ・∀・)「ハハッ、まあ言いたいことは判る。俺だって眉唾だと思ってるよ。でも別にその神秘の力が事実かどうかはどうでもいいんだ。

       ただ実際の話として、あのガキは膨大な金に変えることが出来るのさ」

(,,゚Д゚)「あれがそのストレイ何とかだっていう証明は?」

( ・∀・)「あの顔の紋様だ。あれは『ストレイキャット族』には皆ついてるもんらしい」


まさかあの小娘が、それほどデタラメな値打ちがあるとは予想もしなかった。
金持ちの思考は理解できないとも、俺は思った。

36 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:24:15 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「そんな御大層な割には、あの馬車は金かけられてる訳でもなかったな。傭兵も雑魚だったし」

( ・∀・)「あれ買うのにスッカラカンになったんじゃないかな? まあとにかく超ラッキーだ」


モララーは今にもこの場で踊りだしそうなほど上機嫌だった。
ある日いきなり空から札束が山ほど降ってきたようなものだ。誰だってそうなるだろう。


(,,゚Д゚)「それで、これからどうすんだ?」

( ・∀・)「そうだなぁ。あれだけの大物だから、取引にもそれなりに手間をかけないといけない。しばらくはウチで丁重に扱わないとな」

(,,゚Д゚)「今、小娘は何処に?」

( ・∀・)「地下牢。数人に見張らせている」

(,,゚Д゚)「……大丈夫か? 連れて逃げる奴とか絶対出てくるだろ」

( ・∀・)「もちろんあのガキについては一切説明していない。知ってるのは俺と、今話したお前だけだ。
       とりあえず見張っとけとしか言っていないが……。まあ、それでもちょっと不安だな」


モララーは少しの間考える素振りを見せると、俺に頼み事を持ちかけた。

37 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:27:36 ID:qvtYUkzY0
( ・∀・)「ギコ。悪いけど、地下牢に行って様子を見てきてくれないか?」

(,,゚Д゚)「別にいいが……、お前は?」

( ・∀・)「俺はこれから信頼できる情報屋のところに行って、取引の斡旋を頼んでくる」


そう言うと、モララーはノブに手を掛けて扉を開き、部屋を後にする。
扉を閉める直前にモララーは一言。


( ・∀・)「下らない事をしてる奴がいたら殺っていいからな」


そう言い残して、去っていった。


(,,゚Д゚)「さて……」


どうにも面倒だが、他にやることがある訳でも無い。
俺は椅子の上に置いてあった読みかけの本と一本の酒瓶を手にして、地下牢へと足を運んだ。

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