(,,゚Д゚)は(*゚ー゚)のすべてを奪うようです

75 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 19:54:03 ID:OBMaHs2o0



(;*゚ -゚)「……………………」


アジトを出てから小一時間。
俺たちは町の端に辿り着く。
走ったり歩いたりを繰り返しながら、ようやくここまで来れた。

しぃはかなり疲労が溜まっているように見える。


(;*゚ -゚)「……ごめんなさい。私、体力が無くて」

(,,゚Д゚)「問題ない、それくらいは織り込み済みだ。むしろ予想よりも持った方だ」

(;*゚ -゚)「……ありがとう、ギコくん」

(,,゚Д゚)「だからその呼び方は止めろって言ってんだろ。殺すぞ」

(;*゚ -゚)「あう……。ごめんなさい」


俺たちは町を出て、なおも歩き続ける。
町の外に人工的な灯りは無い。だが、昨日の雨から一転、今日は快晴で月が明るく輝いていた。
しぃも歩きにくさを感じることはないだろう。

76 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 19:56:30 ID:OBMaHs2o0
(,,゚Д゚)「!」

(*゚ -゚)「……? どうかしました?」

(,,゚Д゚)「いや、なんでもない。先を行くぞ」


俺たちを見ている奴がいるようだ。
しかし俺は気にせずに足を進める。


(,,゚Д゚) (……まだ、見ているな。発見されたか)


間違いなく、アジトにいた盗賊の内の誰かだ。
俺たちが脱出した後、死体が見つかり、更にしぃと俺がいないことに気づいたのだろう。
モララーは盗賊共を町のいたるところに走らせた筈だ。

そして今、見つけられた。
後は他の盗賊共が集まるまで俺たちを監視している、というところだろう。

だが相変わらず潜み方が下手で、すぐに俺に気付かれる始末だ。成長がない。

77 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 19:58:22 ID:OBMaHs2o0
まあ俺からすると、今回はそのお陰でタイミングが図りやすくなった。


(,,゚Д゚) (もちろん見つからない方が楽だったが……。見つかった時のプランも考えてある)


だからこそ俺は、目の前に広がっている森を逃げ場所として選択した。
俺としぃは森の中に入っていく。



森を歩き出して2分。
後ろの方では監視の目が増えてきている気配がする。
そろそろ集団で襲ってくる頃だろう。


(,,゚Д゚) (仕掛けるか)


俺はしぃに手をかけると、その華奢な体を一気に持ち上げた。

78 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:01:21 ID:OBMaHs2o0
(;*゚ -゚)「え!? あ、きゃっ!」


俺の突然の行動に、しぃは小さな悲鳴をあげた。


(,,゚Д゚)「追手だ。捕まっていろ。走る」


俺はしぃの体を横にして両手で抱えあげ、しぃの返事も聞かないまま森の中を駆け抜けた。
後ろの連中も、俺の急な逃亡に驚いたのだろう。身を潜めることも忘れて、慌てて追いかけてくる。
しかし、森の中は月の光が届かない。辺りは暗闇で、連中はなかなか走るスピードをあげることが出来ないでいた。

だが、俺はこの森を熟知している。
故に、しぃを抱えながらも距離を引き離すことに成功した。
そして一瞬でも連中の眼から俺を失わせれば、それで充分だった。

俺は走りを止めないまま、しぃに話しかける。


(,,゚Д゚)「今からお前を下ろす。そしたらお前は一人で先に進め。300メートルほど歩いたら、近くにある木の陰に隠れて待ってろ」

(*゚ -゚)「え……? でも……」

(,,゚Д゚)「怖くてもやれ。心配するな、お前の元には誰一人行かせない」


しぃは不安そうな顔を俺に見せるが、それでも何とか頷いてみせた。

79 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:03:32 ID:OBMaHs2o0
(,,゚Д゚)「よし、下ろすぞ」


俺はしぃを地面に立たせた。
しぃはもう一度俺の顔を見たが、すぐに早足で先へ行った。
俺も迅速にその場から動き出す。
もちろん向かうのはしぃとは逆の、追手の方だ。
音を立てず、息を殺した上で歩を進めた。



追手の奴等は俺としぃを狩るつもりでいる。
奴等は今まで散々弱者を狩ってきたが故に勘違いをしている。自分たちが強者であると。
だが、今夜の相手は弱者ではなく俺だ。



この世には、狩人対狩人、などというマッチングは存在しない。
必ず狩る側と狩られる側に分かれることになる。
奴等には、狩られる恐怖をその身で体感してもらおう。

80 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:06:15 ID:OBMaHs2o0
コートの内側から一本のナイフを取り出す。
このナイフは小振りだが、刀身もグリップも真っ直ぐなので投擲にもってこいだ。
俺は今回、このタイプのナイフを大量にコート内に仕込んできた。
言うまでもなく多人数との相手を想定したからである。

慎重に辺りを窺う。暗闇で眼はほぼ見えないので、音を拾っていく。


(,,゚Д゚) (……………………いた)


一人見つけた。
こちらに気付いている様子はない。
俺は出来る限り接近を試みてから、投擲用ナイフを持って振りかぶり、投げる。


「っ! あ、ぐあぁっ!!!」


ナイフは『狙い通り』、そいつの太股あたりに突き刺さった。
男は痛みで叫び声をあげる。

その声に寄せられて、辺りの盗賊共が集まってきた。
先ほどの男の足を狙ったのは、『餌』として使うためだ。
こうすることで追手を集め、しぃの元へ行かせないようにする。

81 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:08:19 ID:OBMaHs2o0
集まってきた盗賊共の内の何人かは、暗いからと松明を手に持っている。
もちろん俺には絶好の的なので、ナイフを投げていく。


「ぎゃあ!」
「クソッ、狙われてるぞ!」
「明かりだ! バカ早く消せ!」
「そこだ、そっちから飛んで───ぐぇっ!」


もう容赦をする必要はない。
目や首を狙い、次から次へと投擲する。
何人かは沈黙したが、流石に俺の位置もバレてしまい、こちらに襲いかかってくる。
ひとまず今ここにいるのは残り5人ほど。
この程度なら接近戦で問題ない。


俺は右手に大振りのナイフを、左手に投擲用ナイフを持って迎え撃った。

82 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:11:37 ID:OBMaHs2o0
まずは先頭を走ってきた男の顔にナイフを一投。命中。


続いてやってきた男は手斧を振りかぶっていた。
隙の多い動作なので難なく躱す。
躱しながら男の横に入り、右手のナイフで首を掻っ切った。


折角なのでこいつの手斧を利用させてもらう。
左手で手斧の柄を握りしめると、その場で体を回転、その勢いを乗せて手斧をぶん投げた。
上手い具合に一人の胸に命中。大量の血が噴き出し絶命した。


突然飛んできた手斧に二の足を踏んだ残りの2人へ、俺は猛然と襲いかかる。


まずは手前の男に向かって駆け寄った。
その男は慌てて手に持っていたナイフを突き出してくるが、腰が入っていない。
俺は手首をひねり、ナイフのグリップ部分を上に向ける。その状態で相手のナイフを持つ手を、下からグリップで叩いた。
相手は思わずナイフを手放した。がら空きのその男の左胸にナイフを突き入れる。


あと1人。
最後の男に目を向けると、そいつは後ずさりをしていた。
俺が投擲用ナイフを取り出すと男は振り返って逃げ出したので、その男の首にナイフを投げた。


これでこの場の盗賊は全滅した。
だが、まだまだ追手は残っている。あと30人くらいは相手にしないといけないだろう。
俺はひとまず、しぃが待つ方へ走った。

83 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:13:35 ID:OBMaHs2o0
しぃと合流した俺は、更に森の奥深くへ進んでいく。
追手の気配を感じ始めたら、先程と同様にしぃを先に行かせ、追手と戦い、また先を行く。
その繰り返しで、少しずつ追手の数を減らしていった。





何度目かの追手を全滅させる。


(,,゚Д゚) (……そろそろ、盗賊共も随分減ってきた筈だ)


俺は先へ行かせているしぃの元へと向かった。


(,,゚Д゚) (今のところは上手く事が運んでいる。だが……)


俺は少し嫌な雰囲気を感じ取っていた。
どうにも『上手く行き過ぎている』のだ。
追手は一定のペースで、少しずつ、俺たちに襲いかかってくる。これも妙だ。
俺はもっと多人数との乱戦を予想していた。

84 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:16:10 ID:OBMaHs2o0
(*゚ -゚)「あ……、大丈夫ですか?」


木陰に隠れていたしぃと再び合流する。


(,,゚Д゚)「そろそろ森も終わりだ。追手ももう、いなくなったかもしれない」


この辺りになると木々もまばらになり、月光が差し込んで辺りがぼんやりと見えるようになっている。


(*゚ -゚)「少し、疲れているように見えますけど……」


しぃは心配そうな顔で俺を見ていた。
これまでの戦闘で怪我という怪我はしていないものの、確かに少々疲れていた。
休む暇もなく追手が来ていたので、仕方無かった。


(,,゚Д゚)「!」


そこで初めて俺は気付いた。
そうか、狙いは俺の───。

85 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:16:59 ID:OBMaHs2o0







( ・∀・)「やあ、ギコ。そろそろ逃げるのも止めにしようか」


(,,゚Д゚)「! モララー……!」


振り返るとそこには、お供の盗賊を2人引き連れたモララーが、微笑みを浮かべて立っていた。




.

86 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:19:20 ID:OBMaHs2o0
(;*゚ -゚)「!」


しぃが恐れからか、息をのむ。
俺はいつ戦闘が始まってもいいように数歩前に出て、しぃから距離を取った。


(,,゚Д゚)「流石だな、モララー。その辺の雑魚と違ってお前の気配は読めなかった。
    でも、そうか。お前、ずっと俺を見ていたのか?」

( ・∀・)「ずっとでは無いよ。俺も途中から追い付いたからな。まあそれ以降の襲撃は、もうお前も気付いた通り、俺が指示していた。
       いくらお前でも随分と体力を消耗したんじゃないか?」


そう。モララーは既に俺たちに追い付いていた。
しかし自ら仕掛けることはなく次々に手下共を向かわせて、俺の体力を奪わせた。
俺は見事、モララーの思惑に嵌まってしまったことになる。


(,,゚Д゚)「……自分の仲間を捨て駒にしてまで、俺を消耗させたかったか」

( ・∀・)「ハハハ。おいおいギコ、おかしな事を言うなぁ」


笑いながらモララーはお供の盗賊らに手を振り、そいつらを呼び寄せた。
その2人は指示に従い、モララーを両側から挟み込む形で近くに立った。
するとモララーは一瞬で両手にナイフを持ち、片手ずつそれぞれの盗賊の頸動脈を切り裂いた。

87 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:21:05 ID:OBMaHs2o0
「っ……!!」


しぃがいる方向から、たじろいたような声が聞こえる。
モララーの凶行に畏怖したのだろう。
首を切られた2人は、何も出来ないままその場に同時に倒れ伏せた。


( ・∀・)「これで、俺とお前の2人だけだ。始めから俺には、お前がいればそれで良かったんだよ。
       他の能無し共は、俺たちに取り付いて甘い汁を吸おうとしていただけのゴミ屑でしかない」

(,,゚Д゚)「……」

( ・∀・)「何か言いたそうだな。でも、お前だって同じ考えだろ?
       お前だってこいつらを仲間だなんて思ってないから、殺すことが出来たんだ」


俺は答えない。弁解する必要もない。モララーの言うとおりだったからだ。
利用できるなら利用して、邪魔なら殺す。それだけの存在だった。


( ・∀・)「でもギコ、お前だけは違う。俺はお前に初めて会ったとき、確信したんだ。お前と俺の2人なら、何でも思い通りにいくって」


モララーが俺を特別視していたのは分かっていた。
俺も、モララーにはそれなりの信頼を置いていた。

88 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:24:17 ID:OBMaHs2o0
( ・∀・)「ギコ、俺には夢がある。こんな腐った世の中であっても───いや、こんな世の中だからこその夢だ」


モララーは少年のような、屈託のない笑顔で語り続ける。


( ・∀・)「俺はこんな田舎のお山の大将で終わるつもりはない。俺は、都に行きたいんだよ」

(,,゚Д゚)「……都には、統治者がいる。当然、警備隊だっているはずだ。俺らみたいなゴロツキが生きていけるのか?」

( ・∀・)「生きていけるんだよ。都にだって、俺らみたいな悪党はいる。法の目を掻い潜って、な。
       俺、ずっと金貯めてただろ? ある程度まで貯まったら、都に行って金を上納して悪党たちの下っぱになろうと思ってた。
       勿論そこから成り上がって、ゆくゆくはトップになってやろうってさ」


モララーは視線を動かす。
その先には、しぃ。


( ・∀・)「でもそこのガキを売れば、そんなまだるっこしい事はしなくていい。俺は金にものを言わせて一気にトップに立つ。
       そして俺の横には───ギコ。お前がいるんだ」


モララーは両手に持っていたナイフをしまう。
敵意が無いことを、俺に示している。

89 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:25:43 ID:OBMaHs2o0
( ・∀・)「ギコ。お前は俺を裏切ったのかもしれないけど、俺は許すよ。
       いや、それどころか邪魔な屑共を片付けてくれて感謝すらしている。
       ガキを売って俺と一緒に都に行こう。大丈夫さ、俺たちなら必ず成功できる」


モララーの眼が、それに内包している期待が、俺に注がれてくる。
奴の話には思うところもある。それでも俺の意思は変わることはない。


(,,゚Д゚)「……悪いなモララー。その話には、乗れない」


モララーの顔が、歪んだ。


(,,゚Д゚)「俺はお前のような夢は持ってない。何かやりたいことが有るわけでも無い。それでも、俺は俺の生きたいように生きる」

(;・∀・)「っ、何でだ!? 何で俺を拒絶する!? まさか、そのガキを───」

(,,゚Д゚)「違う。お前を裏切った理由は、俺自身もよく判ってない。でも、そうしようと決めた。俺は、俺の為だけに動く」


俺はナイフを強く握りしめて、もう一歩前に出た。


(,,゚Д゚)「行くぞ、モララー」

90 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:27:15 ID:OBMaHs2o0
(;・∀・)「っ、待て、ギコ!」


モララーは手を前に出して戦いを拒否するが、俺は構わず一直線に駆け抜ける。
左手で投擲用ナイフを懐から取り出し、投げた。


(;・∀・)「クソッ!」


モララーは悪態をつきながら、横っ飛びでナイフを躱す。
俺はモララーが動いた先へ軌道修正し、接近する。
体勢を整えつつもモララーは両手にナイフを持ち出して、迎撃の構えをとった。


俺は走った勢いそのままに、右手のナイフを逆袈裟に切り上げる。
モララーは鋭い踏み込みで俺の右側に入り込んで躱すと、がら空きの脇腹目掛けてナイフを突き出した。
俺は振り上げたナイフを即座に逆手に持ち直し、力任せに振り下ろす。
モララーは攻撃の手を瞬時に止め、俺の二撃目も躱してみせた。


少し間合いが広がった隙に、俺は投擲用ナイフを同時に2本投げる。
高速で飛来するそれを、モララーは両手のナイフで事も無げに叩き落とした。

91 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:28:21 ID:OBMaHs2o0
( ・∀・)「ギコ!」


モララーが前に飛び出し、攻勢に出る。
両手のナイフを巧みに操り、怒濤の連続攻撃を繰り出してくる。
その矢継ぎ早に襲い来る斬撃に、俺は守りに入らざるを得なかった。


(;゚Д゚)「くっ!」


堪らず俺は後ろに飛び退く。
モララーが追い討ちをかけてくるかと思ったが、奴の足はその場で止まっていた。


(;゚Д゚)「ハッ、ハッ、……ッ!」


息が荒い。
明らかに疲労の色が強い。
だからこそ短期決戦で仕留めたかったのだが、容易くいなされてしまった。


(;゚Д゚) (判っていたことだが……強い)


仮に俺の体力が万全であったとしても、モララーに勝つのは難しいだろう。
それでいて、このコンディションの差。状況はかなり厳しくなっていた。

92 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:29:40 ID:OBMaHs2o0
( ・∀・)「───もういいだろ、ギコ。このまま続けても、お前に勝ち目は無いよ」


悲しげな表情でモララーは訴えかける。
追い討ちをしなかったのは、最後の説得に出るためだったか。


(;゚Д゚)「フーッ、フーッ」


それでも俺は、「No」と言えない。
追い込まれたからといって逃げるわけにはいかない。
自分の生き方に自分でケチをつけるわけには、いかない。


(;*゚ -゚)「ギコくん!」

(;゚Д゚)「!」


今まで成り行きを見届けていたしぃが、俺の名を呼んだ。
横目で見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

93 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:31:02 ID:OBMaHs2o0
(;*゚ -゚)「もう……もう、いいから。これ以上は……。ギコくん……」


悲痛な声だ。
その言葉は、沈みかけていた俺の中の熱を再び沸かせるには充分だった。


(#゚Д゚)「うるっせえぞ……。何度も言ってんだろうが、その呼び方は止めろって……。ブッ殺すぞ……っ!」

(;*゚ -゚)「っ!」

(#゚Д゚)「二度と、『もういい』なんて、言うな。お前はそこで、待ってろっ!」


俺は呼吸を抑え、ナイフを握り直す。
これで、ラストだ。ここで、決める。

94 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:32:30 ID:OBMaHs2o0
(;・∀・)「まだやる気かよ!? 冗談だろ!? もう止めてくれ! 俺と一緒に来るんだ、ギコ!!」


その頼みは聞けない。
俺は何も言わず、ただナイフを構え、狙いを定めた。


(;・∀・)「!」


モララーの眼が、信じられないとばかりに見開かれた。


(; ∀ )「ギコ。俺はな……お前のことなら何でも知っているんだよ」


モララーの声が震えている。


(; ∀ )「例えば、お前はよく口癖のように『殺す』だなんて言うが、その台詞を言う時は、そんな気はない。
       お前が、本当に相手を殺そうとする時は───」


俺は足に力を込める。
今の俺の全力を、この一瞬に。


( ;∀;)「何も言わず、ただ狙いをつけるだけだ。今、お前が俺にしているように。
       本気なんだな、ギコ。お前は本気で俺を……!」

95 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:33:30 ID:OBMaHs2o0
(#゚Д゚)「モララー!!」


駆け出す。
渾身の力で、前に。


( ;∀;)「ギコぉ!!」


モララーは涙を流しながらも構える。両手のナイフが、月光に照らされて光った。


(#゚Д゚)「ラスト2本! 貰っとけ!」


俺は駆け抜けながら、最後の投擲用ナイフを2本同時に投げる。
ナイフは風を切って、モララーの元へ走る。


( ;∀;)「今さら、こんなもので!」


モララーは先程と同様に、手持ちのナイフで弾いた。
しかし───。


( ;∀;)「!?」


1本目を弾き、次いで2本目を叩こうとしたモララーは戸惑いを見せる。
2本目のナイフの軌道が、空中で変化したのだ。

96 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:34:34 ID:OBMaHs2o0
投げた2本のナイフは、黒く塗った糸で結び合わせていた。
それ故に、1本目を弾いたことでもう片方も連動したのだ。
いくらモララーでもこの夜に、この黒い糸は見えなかった筈。


(,,゚Д゚) (奥の手と言うにはショボい仕掛けだが……、隙は出来た!)


モララーが不規則に動くナイフに気をとられている間に、俺は更に詰め寄り互いの距離を無くした。


( ;∀;)「!」


モララーの体勢は崩れている。俺の方が有利だ。
俺は持てる全ての力を振り絞って、ナイフを前に突き出した。





.

98 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:35:39 ID:OBMaHs2o0










千載一遇のチャンス。


それでも、俺のナイフはモララーの右腕を掠めただけで終わってしまった。




代わりに、俺の左胸には、モララーのナイフが深々と突き刺さっていた。




.

99 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:36:54 ID:OBMaHs2o0
全身の力が抜け、俺は地面に仰向けに倒れこんだ。
ナイフは俺の心臓に到達していた。すなわち、致命傷だ。


(*; -;)「ああっ!」


しぃの声が、聞こえた。
空を見上げる俺の視界に、しぃの泣き顔が映った。どうやら、俺の元に駆け寄ったようだ。


( ;∀;)「ごめん……ギコ……。俺は、こんなところで死ぬわけには、いかなかった……」


モララーも、泣いている。
俺を殺すことになったのは、奴にとっても不本意極まりないことだったのだろう。



全身の熱が、逃げていく。
不思議と痛みは無い。
ただ、俺の意識もだんだん薄れていくようだった。

100 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:37:59 ID:OBMaHs2o0
(*; -;)「ギコくん、ギコくん……っ!」


しぃが、俺の腹に顔を伏せて泣いている。
何をそこまで悲しむ必要があるのか。
俺はお前を捕らえた盗賊の一員で、たった1月程度の付き合いしかなかったのに。



ああ、でも……。



今になって俺は、なんでこいつを連れ出したのか、判った気がする。

101 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:39:07 ID:OBMaHs2o0





俺はきっと、この世界に希望を残していたんだ。



今はこんな腐った世の中でも、いつかきっと、穏やかな日々を暮らせる時が来ると。
普段は世の中を悲観した振りをしていても。
心の底では、諦めていなかったんだ。



だから俺は、しぃを見て苛ついた。
何もかもが終わったような、世の中のすべてが絶望で埋まってしまったかのような、そんなあいつの顔を見て。



そうじゃないって、俺は、反論したかったんだ。


.

102 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:40:22 ID:OBMaHs2o0





ああ、なんて、青臭い考え方……。
数えきれないほど人を殺してきた俺が、希望を信じているなんて……。
笑い話にも、ならないな……。





……そろそろ、あたまも、回らなくなってきた。
意識が、からだから、ぬけていくような……。





おれは、まだ泣きつづけているしぃを、みて、おもった。





.

103 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:41:08 ID:OBMaHs2o0









おれは、こいつの、すべてを───。









.

104 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:41:51 ID:OBMaHs2o0















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