(,,゚Д゚)は(*゚ー゚)のすべてを奪うようです

38 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:32:20 ID:qvtYUkzY0
階段を降りて地下へと向かう。


(,,゚Д゚) (モララーの話では、数人の見張りがいるってことだが……)


一階から地下へと降りるとき、俺は足音を消してゆっくりと進んだ。
そうすると、地下牢の手前にある控え室、そこにいる複数の男たちの会話が聞き取れた。
俺は一旦その場で止まり、その会話に耳を傾ける。


「それにしても、昨日の女、中々の上玉だったなぁ?」

「おう。二人いたじゃん。どっちが良かった?」

「髪長い方が反応良くて面白かったぜ」

「あー俺もそっちかな。やっぱ夜鷹とはまた違っていいよな。お前はどう?」

「俺か? 俺はな……」



(,,゚Д゚) (───見張りは、3人)

39 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:35:12 ID:qvtYUkzY0
ギコは引き続き、会話を聞く。


「俺は、どっちって感じじゃねぇなぁ。両方ともババアだろ」

「おいおい、ありゃまだ20前半ってトコだろ? お前の基準何処にあんだよ?」

「俺はさぁ、ガキの方が燃えるんだよ」

「うわー……。こいつガチだよ、引くわ」

「今、そこの牢に入ってるのなんて、結構タイプなんだよな……」

「お、おい、ちょっと待て。手出しすんのは不味いって」

「ボス直々の命令だぞ? まあ、何でわざわざ牢に入れてるのか判んねぇけどさ」

「大丈夫だろ、ちょっと遊ぶくらいじゃバレねぇって」



(,,゚Д゚) (……行くか)


ギコは再び歩を進め、部屋にいた男達の前に出た。

40 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:37:38 ID:qvtYUkzY0
「うおっ!! あ、隊長……」


3人は音もなく急に現れた俺に気付き、一様に驚いた顔を見せた。
「隊長」というのは俺のことだ。ここでのトップはモララーだが、俺はモララーの右腕扱いとして他の輩よりも上の立場にいる。


(,,゚Д゚)「おい、お前」


俺は3人の内の1人の顔を見る。
俺に対する恐れからか、そいつは大量の汗をかいていた。


(,,゚Д゚)「お前に聞きたいことがある。2週間前に自殺した掃除係のガキについてだ」


男の肩が、ビクンと震えた。
ビンゴだな、と俺は思った。


(,,゚Д゚)「俺はその死体を観察した。それは首を吊って死んでいた訳だが、体には幾つかの打撲跡が見られた」

「ち、違う。俺はやってない。つーか、掃除係を殴る奴なんていくらでも───」

(,,゚Д゚)「途中だ。黙って聞け。勿論死因は窒息死だ。殴られて死んだ訳じゃない。ただし、」



(,,゚Д゚)「死ぬ前に何者かに犯された形跡があった」

41 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:40:17 ID:qvtYUkzY0
「ち、違う!! 俺じゃな───」


俺は腰のホルダーからナイフを抜き取り、その男の腹に突き入れた。


「うぎっ」


そのまま横に薙ぎつつナイフを抜く。
男の腹からは血と臓物が溢れ、男はその場で膝から崩れ落ちた。。


(,,゚Д゚)「片付けろ」


俺は他の2人に命令する。
2人は一連の出来事を前に固まっていたが、俺が血に濡れたナイフを2人の方に向けると、
まるで電気が流れたように体が跳ね上がり、倒れた男を担ぎ上げてその場を急いで離れた。

片手に持っていた酒と本を一旦テーブルに置き、懐から紙を出して、ナイフの血を拭き取る。
拭き終わったらナイフをホルダーに戻し、再び酒と本を取って牢に続く扉を開けた。

扉の先、牢へと続く廊下はひんやりとしていて、暗い。
備え付けの照明は、電球の寿命が近いのか頻繁に点滅を繰り返す。
俺は更に先に進み、使われていない3つの牢の前を横切り、一番奥の牢の前まで歩を進めた。

42 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:44:42 ID:qvtYUkzY0
(*゚ -゚)「っ……」


そこに、あの小娘がいた。
牢内にある古い木製のベッドに腰かけた状態から、俺を見ている。
その目には昨日と同じく、怯えと不安───そして諦めの色が見て取れた。


(,,゚Д゚)「……」


俺は特に声を掛ける訳でもなく、牢の手前にある一人用の机に酒を置いた。
椅子に座り、本を開く。


(,,゚Д゚)「……暗い」


辺りが暗すぎて、本の文字が読みづらい。
机に付けられた簡易照明を点灯させると、少しはマシになった。
俺は酒を手に取り、少し口に含んで、それから本に目を落とした。


薄暗い空間に、ページをめくる音だけが静かに響き続ける。
俺が本を読み始めて5分ほどが経過しただろうか。


(*゚ -゚)「……………………あ、あの…………」


蚊の鳴くような、とはよく言うが、それよりも更に小さい、もはや本当に声を出したのか疑うほど微かに、小娘が声を出した。

43 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:47:20 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「……」


俺は本から目を離し、小娘を見る。


(*゚ -゚)「……………………ぅぅ…………」


俺がじっと見ていても、小娘は何も言わない。
いや、実際には何かを言おうとしているらしいが、踏ん切りがつかないのか、言い出せずにいる。
それどころか次第に泣きそうな顔に変わっている。

そのまま無言の時が流れ、耐えきれなくなったのか、小娘は顔を伏せた。
俺は再度、本を読み始める。



本を読んでいた俺は、俺の方をじっと見つめている視線を感じていた。
と言っても、この空間には俺以外では小娘しかいない訳だから、その視線が何処から来ているのか確認しなくても明らかではあるのだが。

その状態でしばらく待ってみたが、こちらを見ているだけで一向に声を掛けてこない。
何か聞きたいことがあるのは既に判っている。聞いてくれば、最低限の答えは返す気ではいる。
しかし、どんなに待ってもうんともすんとも言いやしない。

44 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:50:58 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「クソ面倒だ」


俺は舌打ちをし、小さく悪態をついた後、読んでいた本を閉じた。
本を机に置き、椅子から立ち上がって牢の前まで大足で近寄った。
小娘は俺の急な行動に驚き、仰け反っている。もちろん逃げることは出来ないが。


(,,゚Д゚)「おい」

(*゚ -゚)「!」

(,,゚Д゚)「何か聞きたいんだろうが。早く言え。殺すぞ」

(*゚ -゚)「!!!」


俺の言葉に恐怖を抱いたのか、小娘は毛布をすっぽりと頭から被ってしまった。少し体が震えている。
いい加減俺の我慢も限界に差し掛かっていたが、このままでは埒が明かないため俺から切り出すことにした。


(,,゚Д゚)「お前が、えーとストレイ、キャット? だかなんだかってのは聞いている」

(*゚ -゚)「!」


やはり『ストレイキャット』の言葉には敏感なのか、毛布から小娘の顔が出てくる。

45 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:53:40 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「安心しろ。お前がそうだって知ってるのは、俺とここのボスだけだ。
    まあ既に誰かに知られている以上、後は100人に知られようがお前には大差無いのかもしれんが」


小娘はまた、泣き出しそうな顔になっている。
それでもいよいよ心を決めたのか、声を放ち始める。


(*゚ -゚)「…………ぁ、あ、あの……」

(,,゚Д゚)「話すんならもっとはっきりと声出せ」

(*゚ -゚)「う…………、あ、あの! ……その、わ、私は……、私は、これから、どうなるのでしょう?」


今後小娘をどうするのか。
話してもいいのか少し迷ったが、別に知ったところで逃げることもできないので、話すことにした。


(,,゚Д゚)「もちろん売る。俺はよく知らねぇが、かなりの高値で売れるんだろ?」

(*゚ -゚)「……そう、ですか」


小娘は気が抜けたように、また顔を伏せた。
しかし、ある程度予想はついていたらしい。感情の起伏はあまり無さそうに見えた。

46 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:56:10 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「聞きたいことはそれだけか?」

(*゚ -゚)「……はい」


俺は机の方に戻り、椅子に腰かけると、再び読書に勤しむ。
それにしても、この椅子は安物のようで、ずっと座っていると体のあちこちが痛くなってくる。
俺は先程とは体勢を変えてみることにした。


(*゚ -゚)「あ……」


小娘の方から声が上がる。
何かと思い顔をあげると、こちらを見て少し驚いたような表情をしている。
しかし俺が顔を向けると、慌てて視線を外した。


(,,゚Д゚)「今度は何だ?」

(*゚ -゚)「あ、いえ、その……。その本が……」

(,,゚Д゚)「本?」


その本、とは俺が今暇潰しに読んでいる本のことを指しているのだろう。


(*゚ -゚)「それ……、一昨年ベストセラーになった、ミステリー小説ですよね?」

47 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 01:58:48 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「ああ、そうだが。これ、読んだことあるのか?」

(*゚ -゚)「あ、はい……」


何となくだが、少し意外だった。
どうも今までの会話といい、『ストレイキャット族』の話といい、この小娘に人間味というものを俺は感じていなかった。
改まってみると当たり前の話なのだが、ちゃんとこいつも本を読んで面白いだのつまらないだの考えるんだな、と思った。


(,,゚Д゚)「そうか……。だが、結末は言うなよ? 俺はまだ途中なんだ」


ちなみに小説の方は、探偵役がとある殺人事件を解決するために様々な視点から調査を進めているところだ。
要するに、話が盛り上がり始めている良いところなのだ。


(*゚ー゚)「……」

(,,゚Д゚)「?」


小娘は俺に返事をしなかったが、何故だか先程よりも表情が和らいでいるように見えた。



その後は特に小娘と話すこともなく、俺は黙々と小説を読み終えて、そのまま地下牢から離れた。

余談だが、ミステリーの謎解きはいまいち納得できなかった。

48 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:02:07 ID:qvtYUkzY0
地下牢から出ると、西日が建物全体を赤く照らす時間になっていた。
そろそろモララーも帰ってきているだろうかと思い、俺はモララーの部屋に足を運んだ。


( ・∀・)「お、ギコ。ちょうど良かった。今帰ってきたところなんだ」


俺はモララーに取引の首尾を聞く。
やはりでかい話なので、すんなりとはいけそうにないとのことだった。

もうしばらくはウチに置いておかなければならないだろう。


( ・∀・)「そっちはどうだった? 地下牢に行ったんだろう?」

(,,゚Д゚)「ああ、見張りの奴を1人始末することになった。やっぱ適当な奴に任せると危険だぞ」

( ・∀・)「そうか……。じゃあ、あのガキの世話はお前に一任するよ」

(#゚Д゚)「はあ? おい待て。まさか俺がずっと見張っとけって言うのか?」

( ・∀・)「しょうがねぇだろ? その辺の奴に任せられないって言ったのお前じゃん。俺は交渉とかで色々出なきゃいけないし」

(;゚Д゚)「ぐ……」

( ・∀・)「女に興味ねえお前が適任って訳だ。それともガキだったら興味出るのか?」

(#゚Д゚)「お前マジ殺すぞ」

49 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:05:35 ID:qvtYUkzY0
( ・∀・)「冗談だ、怒るなよ。とにかく頼んだぞ」

(,,゚Д゚)「……判った。だが、出来るだけ早く話つけてくれ」

( ・∀・)「善処する。でも一月くらいは覚悟しとけよ」

(,,゚Д゚)「マジか……」


俺はこれから一月もの間、子守りをしないといけないのか。
そう思うと、今晩は深酒になるな、と俺は肩を落とした。


( ・∀・)「いいじゃないか、役得ってやつだよ。なんてったって、あのガキの側にいればいるほど寿命が延びるんだ。
       それこそ金持ちが有り金はたいてもお前と代わってほしいだろうよ」

(,,゚Д゚)「……下らねえな。俺は別に長生きしたいとか思ってないんだ」


そう。ただでさえ息苦しいこの世の中で。
何故我慢して生き長らえなければならないんだ。



俺には到底、理解できない。

50 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:07:49 ID:qvtYUkzY0



次の日から俺は、小娘の世話をすることになった。
まあ世話と言っても、朝昼晩の食事を持ってくることくらいだ。

もちろん食事は俺が作るわけではなく、町で適当に買ってくる。
始めの内は買い物に行き、帰って食べ物を渡して、その後自分の食事のためにまた外に出る、ということをしていた。
しかし流石に面倒になったので、朝昼は2人分買って地下牢で俺も食事を済ませることにした。



食事以外は、ひたすら牢の前で本を読みふけった。
椅子についてはちょっと値が張るものを新しく買ってきた。お陰で長時間座っていてもそんなに痛くなくなった。

読み終わった本は小娘に渡していた。それくらいの親切心は俺にもある。
2人とも退屈な時間を延々と読書に費やした。会話は全く無かった訳でもない。1日に最低でも1回は話していた。

別に読んだ本の感想を語り合うことはしない。そういうことは俺は嫌いだ。
俺は本を読むとその内容について自己完結し、自分なりの答えを出す。
その答えを他人に否定されたくない。答えが正解か不正解かに興味はない。自分が納得していたらそれでいいと考えている。



だから話の主な内容は、小娘の身の内についてだった。

51 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:09:57 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「───で、お前は各地を転々と連れられていった、って訳か。その都度、主人を代えながら」

(*゚ -゚)「はい……、そうですね。同じ場所に半年いることはありませんでした」


世話をするようになって数日も経つと、小娘の方も慣れてきたようだ。普通に会話は交わせるようになった。
無論まだ遠慮しているところはあるが、なつかれても鬱陶しいだけなので、これくらいでちょうど良かった。



それで、小娘と話していて色々と判ったことがある。
まず一番驚いたのは、小娘の年齢だ。
どう見ても11〜12程度だと思っていたが、実年齢は17とのことだ。

聞くところによると『ストレイキャット族』は、寿命を他人に渡さなければかなりの高齢まで生きることができるらしい。
その分、身体の成長が通常より遅い。俺とあまり変わらない年齢であるということが、まるで信じられない。


(,,゚Д゚)「そしたら、寿命を他人に渡し続けるとどうなる?」

(*゚ -゚)「個人差はありますが、20歳を越えることはほとんど無いと聞いています」

(,,゚Д゚)「……」


つまり、こいつの寿命は3年持てば良い方だということか。
小さい頃から身を売られて、様々な人間に監禁されて、20にも届かずに死ぬ。
そんな人生で、こいつは納得しているのだろうか。そんな悲運から逃げ出したくないのだろうか。

52 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:12:12 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「何で逃げようと思わない?」

(*゚ -゚)「逃げられないです、私の弱い力では。それに、万が一うまく逃げたとしても、また捕まりますから」


要するに、諦めている。
人生を。運命を。未来を。希望を。なにもかも。

でもそれは、仕方のないことだ。
自分の力では抜け出せない。
他人が助けてくれるはずもない。
そういう世の中、だから。



俺だってそう思っている。
この小娘の考え方は、今の世の中では、正しい。





それなのに俺は、この小娘を見ていると、言いようの無い怒りが湧いてくるのだった。

53 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:14:54 ID:qvtYUkzY0



小娘の世話を始めて3週間が経つ。
俺は今、アジトから離れ、1人町を歩いていた。
時刻は太陽が西へ向かい出す頃。

普段はこの時間帯だと、牢の前で本を読んでいる。
ただ今日はモララーの提案で牢から離れている。


( ・∀・)「そんなに牢の前にずっといたらストレスたまるだろ? ちょっと散歩にでも出てこいよ」


別に断る理由も無いので町へ繰り出した。
しかし行く宛がない。いつもは酒場で暇を潰したりするが、今は飲む気にならない。
俺はただただ、活気の無い町を歩き続けた。



今朝、モララーは言っていた。
「1週間以内に話がまとまりそうだ」と。
後1週間で小娘は次の主人の元へ行くのだろう。
そしてまた拐われ、連れられて、閉じ込められて、また拐われて。



それだけを繰り返して、そして死ぬ。

54 名前: ◆IV5ch9004w 投稿日:2016/04/04(月) 02:17:19 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「……」


俺が今感じているこの怒りは、何処から来るのだろう?

小娘に情が移ってしまった?
多少はあるかもしれないが、だとしてもここまで憤るのは理由がつかない。



許せない。
そう、許せないのだ。
でも、何が?



自分の感情なのに、判らない。
俺はどうかしてしまったのだろうか?
ただ、目に見えない焦燥感だけが、俺の心に覆い被さっているようだった。

考えれば考えるほど、苛立ちが積み重なる。それは重しとなって、俺の体を底の無い沼に沈めていく。

俺は人に頼らない。
でも自分ではこの苦しみを消すことができない。原因が判らないんだ。



誰でも良いから、俺を掬い上げてくれ───。

55 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:20:17 ID:qvtYUkzY0
( ´∀`)「あ、ギコさん。珍しいモナ、こんなところで会うなんて」

(,,゚Д゚)「……」

(;´∀`)「おや? どうして怖い顔して私に近付いて───痛っ! ちょ! 何で急に殴ってくるモナ!? 今日はまだ何もしてないモナ!」


いつもコイツは最悪のタイミングで現れてくるな。
天地が逆さまになろうとも、俺はコイツに救ってもらおうとは思わない。


(,,゚Д゚)「ふう。でも少しスッキリした」

(;´∀`)「人を殴っといてなにスッキリしてるんですか……?
      というか少し顔色悪い? 風邪モナ?」

(,,゚Д゚)「いや別に。お前こそ此処で何してたんだ」


改めて周りを見回してみると、いつの間にかアジトからだいぶ離れた場所にいた。
この辺りは店もなく、住宅が密集している地域なので、俺はほとんど足を踏み入れたことがない。

56 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:23:08 ID:qvtYUkzY0
( ´∀`)「私はこの辺りに住む子供たちを集めて神の教えを説いていたモナ」

(,,゚Д゚)「洗脳、か」

(;´∀`)「人聞きの悪いこと言わないでください。で、そろそろ帰ろうとしていたモナ」


見ると、何人かの子供がモナーに向かって手を振っていた。
モナーも子供たちに向かって大きく手を振る。


( ´∀`)「また教えに来ますから待ってるモナー」


子供たちは口々に別れの言葉を言うと、それぞれの家へ帰っていった。


( ´∀`)「でも実際のところ、神の言葉はおまけ程度にしか教えてないモナ。この辺りの子たちは学校に通えていないんです。
      せめて文字の読み書きくらいは学んでほしいですから、私は定期的にここに来て教えているんです。子供たちの将来の為に」


将来。
その言葉を聞くと、また俺の心は揺さぶられる。

57 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:25:56 ID:qvtYUkzY0
(*´∀`)「あ、そうそうギコさん。以前ギコさんに教えていただいた町外の無人の教会なんですが、最近片付け始めたモナ。
      そのまま放置するのも忍びないですし。良かったら今度ギコさんも手伝わ───」

(,,゚Д゚)「モナー、聞きたいことがある」

(;´∀`)「───ないですよねぇ……。え、なにモナ?」

(,,゚Д゚)「例えば、病気かなんかで大人になるまで生きられないガキがいたとする。お前はそんな奴にも勉強を教えるのか?」


気がついたら俺はそんなことを口にしていた。
後悔したが、出てしまったものは今さら取り消せない。


(;´∀`)「なんですか唐突に? 病気の子供って何の話モナ?」

(,,゚Д゚)「……いいから答えろ。殺すぞ」

(;´∀`)「いちいち物騒モナ。えーと、そうですね」

58 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:30:08 ID:qvtYUkzY0
俺の質問に不思議そうな表情を浮かべるモナーだが、俺が急かしたのでひとしきり考え、答えた。


(;´∀`)「あまり気にしたことありませんが、他の子と接し方は変わらないんじゃないですかね。私は、私がその時したいことをしますよ」

(,,゚Д゚)「……したいことを」


自分がしたいことをする、か。
そうか、それで良かったのだ。
俺も今までそうやって生きてきた。悩むことなんて無かったのかもしれない。

そう考えると、急速に頭の中の霧が晴れてクリアになった、そんな気分になる。


( ´∀`)「あのー、結局なんだったモナ? 心理テスト?」

(,,゚Д゚)「モナー。悪いが俺は帰る」

(;´∀`)「ちょ! ネタばらしは?」

(,,゚Д゚)「あ、最後に一つ。お前さっき教会の片付けがどうとか言ってたよな。次はいつやる?」

(*´∀`)「え!? 明後日の早朝からモナ。まさか、来てくれるんですか?」



(,,゚Д゚)「気が向いたらな」


そして俺はモナーと別れた。
俺の腹積もりは、決まった。

61 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:34:52 ID:qvtYUkzY0



モナーと話した次の日の深夜。
俺は仕事の時に使う黒いコートに身を包み、アジトの地下へと足を踏み入れた。
一直線に奥の牢まで進む。


(*゚ -゚)「……?」


牢には今まで眠りについていたであろう小娘が、寝ぼけ眼で不思議そうにこちらを見ていた。
普段、俺はこの時間には地下牢に来ない。疑問を感じているのだろう。

俺はポケットから鍵を取り出し、牢を解錠する。


(*゚ -゚)「!」


そして片手に持っていた茶色のコートを小娘の前に放り投げた。


(,,゚Д゚)「それを着て、出ろ」

63 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:40:00 ID:qvtYUkzY0
小娘は目の前のコートをじっと見つめていたが、やがて悲しげな表情をしながら立ち上がった。


(*゚ -゚)「判りました。これから、次のところへ行くのですね」

(,,゚Д゚)「……違う」

(*゚ -゚)「えっ……?」


小娘はこれから取り引きの場に連れていかれると思ったようだ。
しかしそうではない。今夜の俺の行動はモララーにも一切話していない。


(,,゚Д゚)「俺は今からお前を連れて、このアジトから脱走する」


小娘の両眼が大きく見開かれた。
俺の言葉に驚きを隠せていない。


(*゚ -゚)「……それは、つまり、ここの人達を裏切るということですか?」

(,,゚Д゚)「そうなるな」

(*゚ -゚)「私を売って得たお金を独り占めにするためですか?」

(,,゚Д゚)「違う。俺はお前を解放するために来た」

64 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:42:50 ID:qvtYUkzY0
(*゚ -゚)「! …………どうして」


どうして、そんなことを。
そう小娘は聞いてきたが、その答えを俺は持ち合わせていなかった。
なにせ、俺自身なんでこんなことをしているのかが判っていないからだ。

ただ、そうすべきだと思った。
俺はそう思ったのだ。だったら、俺は俺の思うように動くだけだ。


(,,゚Д゚)「お前は逃げたくないのか。こんな生き方から」

(*゚ -゚)「……………………無理です。逃げるなんて。みんな、私を狙って追いかけてくるんですから」

(,,゚Д゚)「違う。無理かどうかを聞いてるんじゃない。お前の意思を聞いているんだ」

(*゚ -゚)「……」

(,,゚Д゚)「答えられないなら別にいい。どのみち俺はお前を連れてここを出る」

(*゚ -゚)「どうして、あなたは……」

(,,゚Д゚)「それが俺の意思だ。俺はそうしたいと思っているんだ。自分が思うように出来ない生き方なんて、俺は許さない」

(*゚ -゚)「……でも、逃げたとしても、私はもう、長く生きられない」

(,,゚Д゚)「だからどうした。あと30年生きることが出来れば幸せな人生が送れるとでも思うのか。勘違いするな。
    人が生きた価値なんてのは死に際で決まる。お前は何も出来ないまま死んでいいと思っているのか?」

65 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:44:57 ID:qvtYUkzY0
この小娘はずっと諦めていた。
幸福な人生は掴めないと思ってきた。
自分では何も出来ない。他人も助けてくれない。
だからいっそ、何も考えず、感じないままで、人生を終えようと。



ふざけるな、と俺は言いたい。


(*゚ -゚)「わた、しは……」

(,,゚Д゚)「お前の意思を見せろ」


小娘はうつ向いて下を見ている。
床には、俺が差し出したコートが落ちている。
小娘はゆっくりとした動作でしゃがみ、コートを掴んで立ち上がった。


(,,゚Д゚)「……着ろ。すぐに出る」


時刻は深夜。
このアジトにいる盗賊どもも、あらかた眠りについただろう。
もちろん数人の見張りがいるが、抜け出すこと自体はそう難しくはない。

66 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:47:32 ID:qvtYUkzY0
(*゚ -゚)「着ました」

(,,゚Д゚)「よし、そしたら出るぞ。……そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな」

(*゚ -゚)「あ……はい。わたし、私の名前は、しぃ、です」

(,,゚Д゚)「そうか。俺はギコだ」

(*゚ -゚)「判りました、ギコさん」

(,,゚Д゚)「……」

(*゚ -゚)「え、あの……、な、何か間違えました?」


俺が難しい顔をしたのを、しぃは見逃さなかったようだ。
モララーは俺を呼び捨てにするし、他の奴等は『隊長』と呼ぶ。
俺のことを『ギコさん』と呼ぶのはあのクソ神父くらいなので、どうにも嫌な気分になってしまう。

67 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:49:36 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「……俺のことをさん付けで呼ぶのは止めろ」

(*゚ -゚)「じゃあ、なんて呼べば」

(,,゚Д゚)「呼び捨てでいい」

(*゚ -゚)「それはどうかと……。えっと、そしたら」


しぃは少しの間考えて、


(*゚ー゚)「ギコくん、でいいですか?」

(,,゚Д゚)「もっと駄目だ」


まあ呼び方なんてどうでもいい。
俺たちはいよいよ地下牢から脱出することにした。

68 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:51:39 ID:qvtYUkzY0
(,,゚Д゚)「フードは被っとけよ。あと、何があっても声を出すな」


俺の忠告にしぃが頷いた。
階段を上り、1階に着く。
脱走などと大袈裟なことは言ったが、何て事はない。歩いて玄関まで行くだけだ。


(*゚ -゚)「……っ!」


ただ、どうしても見張りには見つかる。
廊下を歩いていた見張りの男は、俺としぃに顔を向けている。

しぃはフードを被っているので、すぐにバレることはない。
とは言え中々エキサイトな状況だ。しぃの緊張がこちらにも伝わってくる。


「お疲れ様っす、隊長。後ろのは誰ですか?」


見張りの男は近付いて俺に話しかける。今のところはしぃの存在にあまり疑問は抱いてはいないらしい。
要するに、隙だらけである。



ナイフを一閃。



男の首から鮮血がほとばしる。
男は声をあげることも出来ないまま、その場に倒れた。

69 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:54:18 ID:qvtYUkzY0
(*゚ -゚)「ひっ……!」

(,,゚Д゚)「騒ぐな。静かにしていろ」


俺たちは見張りの死体をそのまま放置し、玄関に向かった。
当然その内、死体は誰かが発見する。だがその頃には俺たちはアジトの外にいるだろう。



俺たちは玄関をくぐり、そこにいた見張り2人をやはり殺す。
俺たちは外に出ることに成功した。


(,,゚Д゚)「ここからは走るぞ。まずは町の外に出る」

(*゚ -゚)「はい……」


しぃの声が沈んでいる。
顔を見ると、青ざめていた。


(,,゚Д゚)「……俺が殺したんだ。お前が何かを思う必要はない」

70 名前: ◆IV5ch9004w[sage] 投稿日:2016/04/04(月) 02:56:34 ID:qvtYUkzY0
(*゚ -゚)「……でも」

(,,゚Д゚)「自分が逃げる決心をしたせいで奴らは死んだ、とでも考えているか? それは思い違いだ。
    ここにいる奴らは全員人殺しだ。以前どこかで誰かを殺して、そして今日は殺された。それだけだ」

(*゚ -゚)「……」

(,,゚Д゚)「気持ちを切り替えろ。他人が死ぬくらいなら自分が、なんていう考えは優しさでもなんでもない。
    ただの怠慢だ。生きることを諦めた、下らない人間の言い訳だ。
    お前は生きることに決めたんだろう? だったら、揺らぐな」

(*゚ -゚)「……はい」


しぃは、俺の言葉に頷いてみせた。
顔はまだ青いが、その眼には意志が宿っている。


(,,゚Д゚)「走れ。俺の後に着いてこい」


走り出す。
これから先の行動がかなり重要だ。
事が上手く運ぶかどうかは……俺次第だろうな。

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