(,,゚Д゚)は(*゚ー゚)のすべてを奪うようです

105 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:43:06 ID:OBMaHs2o0



(*; -;)「うっ、ううっ……!」


しぃは泣き崩れていた。
目の前に横たわっている男───ギコは、もう起き上がってはこない。
呼吸も、心臓の鼓動も、停止している。

しぃは、耐えきれないほどの悲しみを抱いた。
今まで、彼女の前で息絶えた者は何人もいた。
いくら彼女が寿命を延ばす特別な力を持っていたとしても、限界はある。
繰り返し繰り返し、彼女の前で、人は死んでいった。



しかし、その他の誰とも、ギコは違っていた。
初めは恐れていた。少しでも逆らえば殺されると感じていた。



でも、違った。
口は悪いけど、その裏にある暖かみをしぃは感じていた。
この人は私を道具ではなく、人として扱ってくれていると、そう感じていた。

106 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:44:19 ID:OBMaHs2o0
ギコが逃げ出そうと言ってくれた時、しぃは迷った。逃げ切れる自信が、しぃには無かったからだ。
これまで出来なかったことを今出来るとは思えなかった。

それでもしぃはギコを信じてみたくなった。
彼の言葉に、しぃは安心を覚えるようになった。
彼の言うとおりにすれば、自分を変えられる気がしていたのだ。



でも、ギコは死んだ。
しぃは自分のせいだと思った。
ギコは違うと否定していたが、自分がいなければこんなことにならなかったはずだと思った。



悲哀と後悔で、尚もしぃは泣き続ける。
そんな時、「ギリッ」という音が、しぃの耳に届いた。
彼女は顔を上げる。


( ;∀ )


(;*゚ -゚)「───っ!」


ギコと戦い、そしてギコを殺した男、モララー。
彼は涙を流しながらも、憎悪の念で染まった視線をしぃに送っていた。
先程しぃが聞いた音は、モララーが歯噛みしていたものであった。

107 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:45:27 ID:OBMaHs2o0
(;*゚ -゚) (あ、ああ……)


しぃは今までの人生の中で、これほどまでに膨大な殺意を向けられたことは無かった。
ありありと浮かび上がる自らの『死』のイメージ。
ギコ亡き今、最早モララーを止められる者はいない。


(;*゚ -゚) (殺される……。私も、ここで死ぬんだ……!)


『ストレイキャット』の一族の運命として、しぃは長年死に近い暮らしを続けていた。
それでも自分が死ぬかもしれないと思うと、どうしても身体がすくんでしまう。
慣れようもなく、死が怖いのだ。

1秒後には殺されてしまうかもしれない恐怖心から、しぃはその場から逃げようと、座っている状態から右手を後ろに下げた。
するとその右手に何か固いものが触れた。見ると、ギコが右手に持っていたナイフが落ちていた。


(*゚ -゚) (───っ!)


ギコが使っていた、ナイフ。
何人もの盗賊たちを切り伏せたナイフ。


(*゚ -゚) (私を、生かそうとしてくれた、ギコくんのナイフ───!)


しぃは、半ば無意識にそのナイフを掴んだ。
ナイフを両手で握って、座ったままの姿勢で刃先をモララーの方へ向ける。

108 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:46:52 ID:OBMaHs2o0
( ;∀ )「…………何の真似だ、それは」


モララーが鈍く響いてくるような低い声で、しぃに問いかけた。
ギコと話していたときのような明るく親愛に満ちた声とは、似ても似つかない。


(;*゚ -゚)「わ、私は……っ!」


しぃの声が震えている。
いや、声だけではない。その手も、握りしめたナイフの切っ先も。すべて震えていた。

それでもしぃは、逃げずに正面からモララーと対峙している。


(;*゚ -゚)「私は、ここで逃げるわけにはいきません。諦めるわけにはいきません。ここで諦めたら……」


しぃは、ギコの顔を見る。
彼の顔を見るだけで、勇気を振り絞れる気がした。


(;*゚ -゚)「私は、ギコくんに顔向けできません。だから、貴方を、私は───!」


モララーを見上げて、しぃははっきりとした口調て敵対の意を告げた。

109 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:49:15 ID:OBMaHs2o0
( ;∀ )「……」


モララーは無言で立ち尽くしていた。
しぃはモララーを見上げ、モララーはしぃを見下ろして、互いに見合ったまま、しばらく静寂な時間が過ぎた。



その静寂を壊したのは、モララーの口元から吹き出された空気の音だった。
断続的に漏れだしたそれは、じきに連なって笑い声へと変わる。


( ;∀^)「ハーハッハッハッハッハッ!!」


モララーはひとしきり腹の底から笑うと、


(#;∀ )「ふざけるな糞ガキがぁ!!!! 俺をテメーが殺すって言うのか!?
       出来るわけねぇだろうが! ギコですら俺を殺せなかった!!」


それは瞬く間に怒号に変わった。
未だ涙を流し、感情のままに怒鳴り声をあげるその男に、もう理性は残っていない。

110 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:50:20 ID:OBMaHs2o0
(#;∀ )「畜生っ! テメーが、テメーがすべての引き金なんだ!
       テメーさえいなければ、ギコが迷うことはなかった! 俺がギコを殺すこともなかった!」

(;*゚ -゚)「……っ」


言葉がしぃの心に刺さる。
それでも、しぃはナイフを持つ手を下げなかった。


(#;∀ )「金なんているか! テメーは俺がこの手で!
       何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も八つ裂きにしてやる!」


一歩、二歩とモララーがしぃに近付く。
男の眼には高濃度の殺意が詰め込まれている。
しぃの両手の震えが大きくなる。
だがそれでもナイフは落とさない。



モララーはしぃの目前に立つ。
座っているしぃの顔に目掛けて、一切の躊躇なくナイフを突き出した。

111 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:51:22 ID:OBMaHs2o0







モララーのナイフが肉を突き破り、その隙間から赤い血が飛び散った。






.

112 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:52:24 ID:OBMaHs2o0
(;*゚ -゚)「えっ……?」


しぃは、何が起こったのか判らなかった。
彼女の顔には血がついている。しかし彼女に痛みは無い。彼女の肌に傷はまったく無い。


( ;∀ )


モララーも、唖然として固まっている。
手に持つナイフには血が滴っている。



ナイフは、突如下から現れた『手』によって阻まれ、しぃの顔には届かなかった。

113 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:54:32 ID:OBMaHs2o0
(,, Д )「うおおおおおっっ!!!」


『手』の正体は、心臓を刺されて死んだはずのギコだった。
ギコは貫かれた左手を更に自ら押し込み、モララーの右手を掴む。
横になった状態から起き上がり、自身の胸に刺されたままのナイフを右手で抜き取って、
押し当てるようにしてモララーの右腕を切って落とした。


(;・∀・)「ぐあっ!!?」


ギコは更にその場で回転。モララーの腹部に遠心力を乗せた蹴りを入れ、吹き飛ばす。


(,,゚Д゚)「……」


力任せに扱った為、ギコが手にしたナイフは根本から折れていた。
ギコは柄だけ残ったナイフを捨て、しぃの方に顔を向ける。


(;*゚ -゚)「ギコくん……」


しぃは自分の眼が信じられなかった。

確かにギコの心臓は停止していた。
つまり一度死んで、その後息を吹き返したことになる。
いくらしぃが命を延ばす力を持っているとはいえ、死者が蘇るなどということは今まで見たことも聞いたこともなかった。

114 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:55:20 ID:OBMaHs2o0
(,,゚Д゚)「ナイフ、返せ」


ギコはしぃに手を差し出す。


(,,゚Д゚)「お前は、持たなくていい。殺すのは、俺だ」


しぃは、何も言えない。
様々な感情が入り乱れて、言葉で表現できない。


(,,゚Д゚)「それと、何度も言ってるだろうが。俺をそう呼ぶなって。殺すぞ」


しかし、ギコのこの言葉で。
何度も聞いた、その台詞で。


(*; -;) (ああ……)


しぃの中にあった、張りつめていた感情が一気に氷解した。
溢れてくる涙。本来は怖いはずの脅し文句も、何故だかしぃには暖かかった。

しぃは涙を拭い、


(*゚ー゚)「うん……!」


ギコにナイフを渡した。

115 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:56:35 ID:OBMaHs2o0
ナイフを受け取ったギコは、モララーの方へ歩き出す。


( ・∀・)


モララーは右手を切断された痛みなど気にも止めずに、ただギコを見て呆然としていた。

だが、


( ・∀・)「……………………は、」



(*・∀・)「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!!!!」


モララーは、笑った。
ギコはモララーに近付く。


(*;∀;)「死なない! お前は死なないのか、ギコ! やっぱりだ! やっぱりお前は他の人間とは違う! 特別だ!!」


ギコはモララーの目の前に立った。
ナイフを逆手に持つ。


(*;∀;)「最高だ! ギコ、お前は最高だよ! お前の代わりは誰もいない! だからこそ、俺はお前と───!」


ギコは、モララーの右眼にナイフを刺し込んだ。
ナイフの刃先は、モララーの脳まで到達した。

117 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:57:44 ID:OBMaHs2o0
モララーはその場に倒れこんだ。即死だった。


(*;∀ )


その顔は、最後まで笑顔のままであった。





(,,゚Д゚)「……森を抜けるぞ」


決着はついた。
盗賊共はギコを除いて全滅した。もうギコとしぃの進路を阻む者はいない。


(*゚ー゚)「あ……治療を」

(,,゚Д゚)「いい。血は止まっている。それよりも、さっさと行くぞ」


ギコの胸の傷からは、何故か血が出ていなかった。
心臓に直結している傷であるはずなのに、だ。

118 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 20:59:10 ID:OBMaHs2o0
(,,゚Д゚)「……」


この場から去る前に、ギコはモララーの方を見た。
何か声を掛けようと口を開き───何も言わないまま口を閉じた。

代わりに、手に持っていたナイフを投げ、モララーの傍の地面に刺して、そして2人は立ち去った。







地面に刺されたナイフは、まるで十字架のようであった。

119 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:17:09 ID:OBMaHs2o0



2人は森を抜けた。そこには草原が広がっている。
空が少しずつ白々としてきた。夜明けもまもなくだろう。

少し登り坂になっている草原を、2人が並んで歩く。


(,,゚Д゚)「……この丘を登ったところに、教会がある。今は無人の教会だ」

(*゚ー゚)「教会……」

(,,゚Д゚)「ひとまずそこに行く。夜が明けたら、いつも馬鹿みたいにニヤニヤしている神父がやって来るはずだ……」

(*゚ー゚)「お友達ですか?」


しぃが尋ねると、ギコは露骨に嫌そうな顔をした。


(,,゚Д゚)「違う。断じて違う。───だが、まあ、……ウザいくらいに善人で、信頼はできる馬鹿だ」

(*゚ー゚)「そうですか。でも、ギコくんがそう言うなら、信じられます」

(,,゚Д゚)「お前、本当いい加減にしろよ……?」

120 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:18:25 ID:OBMaHs2o0
2人は丘を登りきると、大きな教会がそびえ立っていた。

かなりの年月が感じられる建物だ。
しかし造りはしっかりしているようで朽ち果てた印象は受けず、かえってその古さが荘厳さに拍車をかけていた。


(*゚ー゚)「すごく、立派な教会ですね……」

(,,゚Д゚)「だが、今の世の中、こんな町外れにある教会には危なくて通えない。無用の長物だ……」


2人は教会の裏手に行って、そこで腰を下ろした。
そこから見える景色は、この辺りを一望できる大パノラマであった。

しぃは座ったままで、ギコは草原に横になった。

遠くに見える山際は、オレンジ色に光っている。
もう間もなく朝日が昇るだろう。

121 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:19:23 ID:OBMaHs2o0
(*゚ー゚)「……これから、私はどうしたらいいんでしょう?」

(,,゚Д゚)「もう、お前は自由の身だ……。その顔の紋様を隠しておけば、誰かに捕まることもないだろう……」

(*゚ー゚) (自由、かぁ)


しぃは自由について考える。
今まではずっと、誰かに操られるがままの人生だった。そこには当然、自分の意思は無かった。

そして、与えられた自由。
自分には縁のない言葉だと思っていたモノ。
昨日までは想像もしていなかったそれをいきなり手にしても、彼女にはもて余すばかりだった。
きっと、自分の寿命は残り少ない。だったら、短いながらも悔いを残さない余生を過ごしたかった。


(*゚ー゚) (……でも、たぶん私がしたいことは───)


心残りというか、1つだけ気になることがあった。
ギコはこの後、どうするのだろうか。
彼が身を寄せていた組織は、彼自身の手で壊滅させてしまった。
行くアテが無いのは、おそらくギコも同じなはずだった。


(*゚ー゚) (……………………うぅ)


『ギコくんは、どうするの?』と、しぃは聞きたかった。
しかし、言い出せない。それを言うことで、自分の感情がギコに知られてしまうのが怖かった。
どこまでいってもこの引っ込み思案な性格は変わらないのかも、としぃは心の中でため息をついた。

122 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:20:23 ID:OBMaHs2o0
しぃが言うか言わないかモジモジと悩んでいると、眼に射し込んでくるような強力な光が前方から現れた。


(*゚ー゚)「あ……」


朝日が、世界を白に染め上げていた。
目の前に広がる一面の草原が、命を宿したかのように色を手に入れた。
しぃには、眼前の景色が数倍に広がったように思えた。



夜が、明けた。




(*;ー;)


しぃはその光景に眼を奪われ、静かに涙を落とした。
世界とは、これほどまでに美しかったのだと、彼女は初めて知った。

123 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:21:11 ID:OBMaHs2o0
(*っー゚)「……綺麗、ですね」

(,,゚Д゚)「……………………そう、だな……」


2人は朝日を見ながら、話し続けた。


(*゚ー゚)「私、初めて知りました。こんなにも綺麗なものがあるってことを」

(,,゚Д゚)「……」

(*゚ー゚)「朝日なんて、毎日昇っている筈なのに……。それに気付く心が、今までの私にはなかった」

(*゚ー゚)「気付かせてくれたのは……貴方のお陰です。本当に、ありがとうございます」

(,,゚Д゚)「…………お礼は、いい。俺が……勝手に……やったことだ……」

(*゚ー゚)「それでも、私にとっては。ありがとう、ギコくん」

124 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:21:58 ID:OBMaHs2o0
(,, Д )「……だから、なんども…………。……ああ、もう、いい。訂正するのも、疲れた…………」

(*゚ー゚)「え? じゃあギコくんって呼んで大丈夫なんですか?」

(,, Д )「……………………別にいい」










(,, Д )「お前の、好きなようにすれば、俺はそれでいい」

125 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:22:42 ID:OBMaHs2o0
(*゚ー゚)「えへへ、やったぁ。やっぱり、ギコくんって呼び方が、一番好きです」

(,, Д )

(*゚ー゚)「そ、それと、そのー……」

(,, Д )

(*゚ー゚)「き、聞きたいことが、ありまして、ですね?」

(,, Д )

(*゚ー゚)「そ、その、あのですね。ぎ、ギコくんは、この後、どうするんですか?」

(,, Д )

(*゚ー゚)「そ、その、私も、アテが無いので……。ご、ご迷惑でなければ、で、良いんですけど……」

(,, Д )

(*゚ー゚)「あのー……。えーとギコくん聞いてます?」

(,, Д )

(*゚ー゚)「ギコくん?」





(,, Д )

126 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:23:26 ID:OBMaHs2o0










「ギコくん?」










.

127 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:24:11 ID:OBMaHs2o0





















.

128 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:25:29 ID:OBMaHs2o0








爽やかな春の風が吹き抜ける、晴れた日の昼下がり。
モナーは町の外にある丘の上の教会の、その隣に作られた墓地の一角にいた。


( ´∀`)「……」


モナーはとある墓に花を添えた。
今日は、『彼女』の葬儀が行われた。


( ´∀`)「あれから、5年ですか………。月日が経つのは、早いモナ」


モナーは初めて『彼女』と出会ったときのことを思い出していた。
ある日、モナーがこの教会へ清掃のために来ると、『彼女』が泣き叫んでいたのだ。
その両手に、『彼』の亡骸を抱えて。

129 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:27:51 ID:OBMaHs2o0
「神父様」

( ´∀`)「おや、配達屋さん。お勤めご苦労様です」


1人の男がモナーに話しかけた。
彼は配達を生業としており、生前の『彼女』と関わりがあった数少ない人物であった。


「かわいそうでしたね、彼女。まだ若いのに……」

( ´∀`)「ええ……。でも、彼女の残されていた寿命から考えると、よく頑張った方だと思うモナ。
      本来であれば、20歳を越えることはなかったようですから」

「やっぱり、彼女の一族が住むところへ送っていった方が、もっと長生きできて良かったんじゃないでしょうか?
 5年前ならいざ知らず、今の世でしたら危険もなく行けた筈です」


そう。5年前───つまりはモナーと『彼女』が出会ったすぐ後の話。

この村に、ついに都から派遣された統治者がやって来たのだ。
これにより、村の治安が一気に改善されることとなった。

更に、国内全土にストレイキャット族の保護条例が出された。
ストレイキャット族の取引は、裏口であってもまず不可能な程の規制となったのだ。

解放されたストレイキャット族は一同に集い、また以前のように静かに暮らせるようになったらしい。

130 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:29:08 ID:OBMaHs2o0
( ´∀`)「まあ、彼女がここに残りたいと強く希望してたモナ。私はその意志を尊重したかったんです」


『彼女』は、教会の近くに建てられた小屋に住んでいた。
ストレイキャット族である以上、寿命を少しでも延ばすための配慮であった。


「そうですか……。でも、やはり悲しいですね。彼女、いい子でしたから」

( ´∀`)「……ですね」


配達屋は別れの言葉をモナーに言い、仕事に戻っていった。
モナーは再び『彼女』の墓に向き直る。


( ´∀`) (……条例が出されたとはいえ、未だストレイキャット族を匿っている者がいるという噂があります。
      もし、『彼』が『彼女』を連れ出していなければ、最悪の事態になっていたかもしれないモナ)


モナーは、『彼』に感謝した。
『彼』は確かに、『彼女』を救ったのだ。


( ´∀`)「そうだ、『彼』のお墓も、たまには綺麗にしないと」


モナーは『彼』の墓の前に移動した。
見ると、ところどころ汚れが目立つ。

131 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:30:38 ID:OBMaHs2o0
( ´∀`)「モナ?」


モナーは、『彼』の墓に何やら紙が挟んであるのを発見した。
手に取ってみると、それは手紙であった。


( ´∀`)「この筆跡は、『彼女』の……」


恐らく亡くなる直前に『彼女』が書いて、ここに挟んだのだろう。
モナーは少し迷ったが、中を読んでみることにした。

132 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:33:22 ID:OBMaHs2o0



『私は貴方に会うまで、この世界には嫌なものしかないって、そう思って生きてきました』



『よく覚えていないような小さい頃から、色んな所に、色んな人に連れられて』



『私が認識していた世界は、知らないお屋敷の、たった一部屋という狭いものでしかなかったんです』



『でも、貴方に出会えて、私は知りました。世界はこんなに広かったって。
いいえ、私が知る以上に、もっともっと世界は広がっているんだと』



『そんな、私以外の人にとってはたぶん当たり前のことに、私は気付いたんです』

133 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:35:26 ID:OBMaHs2o0





『ギコくん』





『私を囲んでいた、嫌なもの、怖いもの。そのすべてを奪ってくれて、ありがとう』





『ギコくんがいてくれたから、私は今、とても幸せです』





.

134 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:38:00 ID:OBMaHs2o0
モナーは手紙を読み終えると、丁寧に折り畳み、元の場所に戻した。


そしてモナーは、空を見上げる。


( ´∀`)「ギコさん───」


瞳に溜まった涙が、零れ落ちないように。
空へ昇っていった親友を、見つめるように。


( ´∀`)「貴方はやはり、私の思っていた通りの人でしたよ───」






二羽の鳥が、教会の上を通り過ぎていった。

太陽はこの国を今日も、暖かく照らしている。



.

135 名前: ◆IV5ch9004w[] 投稿日:2016/04/10(日) 23:38:35 ID:OBMaHs2o0









(,,゚Д゚)は(*゚ー゚)のすべてを奪うようです




end



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