本日は晴天なり

21 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 02:26:48 ID:ZyF93Qrk0




         【――――そして霹靂なり。】



 

22 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 02:28:41 ID:ZyF93Qrk0
          《骨》


              バキ…ッ

それはもっとも不思議な物質ではなかろうか。


幾重も承ければ気が済むのか、と思うほど庇護し甘やかされているくせに、
生物としてしぶとく最後に遺るのもやはり骨である。

     ガリッ  
命あるもの、脆い部分を補うために年月をかけて進化し、
わずかでも生き残るべく護る術を獲得する。
            ペキョ  
            ボリ  
毛髪、鱗、肉、殻、
    神経筋、爪、関節、皮、毒、
メ       網膜、粘液、糞、脂肪……。

ャ゛
そうまでして護り、遺される骨は果たして何者になるのだろうか。



       パ キ ッ
(* ω *)

( ∵)


いままさに少女が踏み潰す、
珊瑚の死骸でできた地平を眺めながらぼんやりと考えてしまう。

23 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 02:30:03 ID:ZyF93Qrk0
ざりざりと摩擦し、ばきぼきと圧する音が静寂に唯一轟く。
その都度、私の思考の隙間をすり抜けていくようだ。



(* ω  *)     グリュ  ――パギ  

( ∵) 『…歩き疲れたか?』



"(ω 三  * ω)"



…小さな小さな歩みは止めず、少女はしかし俯き、
出発時に受け取った麦わら帽子をながら弄んでいた。
あの男が子供のころから使っていたらしく、経年劣化と災害痕によって
ところどころ傷みが目についた。


サンダルの踏み抜く衝撃は弱々しく、それでもY字の死骸はびくんと跳ねてしまう。
アーチを描き、あらぬ方に跳んでいくところをみるに
こうして潰されることを是とする存在ではないらしい。

少女はくしゃりと両端に力をこめ、天から顔を隠した。


(* ω *) 『……ここ、こわいっぽ』


見渡す限り敷き詰められた珊瑚たちも、
風化しきれずまさかこのような形で後世に晒されるとは思いもしなかったろう。

24 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 02:31:35 ID:ZyF93Qrk0
( ∵) 『……』


「これはなあに?」と問われた際、ありのまま答えたのは失敗だったのかもしれない。
死を踏みにじる尊厳を、まさかこの年齢で持っているとは私も思わなかった。

元来、人は幼少期にこそ理性の欠落が著しい生き物だ。


( ∵) 『この珊瑚たちはかつて海に生息して、環境管理の力をもっていた。
言い換えれば世界をコントロールするほどの力を持っていたほどに』

(*‘ ω ) 「……すごそうだっぽ」

( ∵) 『そうだな』

(*‘ω ) 「……なのに、死んじゃったっぽ?」

( ∵) 『彼らは長い間、栄養と休息を取り上げられていた』

(*‘ω ) 「…タイダルウェーブのせい?」

( ∵) 『それよりもずっと前。
君のおとさんが生まれるよりも、人間がたくさんいた時代に』


人は成長してやっと理性を得る。
同じ人間同士はもちろん、同種以外に対する排他的活動を抑えるということをデータとして組み込まれている。

――はずなのに、再び理性を欠如する成長期が人間には存在する。
正しくは理性を保ちながら他生物を排他する、高度な残虐性を身に付けてしまうのだといえよう。


( ∵)


そこまで考えて…。
私は少女を急かしてその場をあとにした。

特に否定はされなかった。
彼女もかつての命を踏みにじりたくなかったのだと思った。



 

25 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 02:34:56 ID:ZyF93Qrk0
          《腐》



屍を越えた先は、綺麗な曲線を描く地平線に迎えられる。


わずかに盛り上がる地は二つ。
行く先と並列して、さらに高い隆起を築く人工物の群れが寄り添っている。

それを横目に丘へと足を踏み入れた途端、少女が鼻をつまみ、愛くるしい顔を醜く歪めた。


((*;;゜ω‘゜*)) 「くっっっっっさ!!」

( ∵) 『……いま、すごい顔したな』

(*;;゜ω‘*) 「な、…なんだっぽ、これ〜〜〜???」

26 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 02:39:10 ID:ZyF93Qrk0
散らばり、重なる『ゴミだ』った。 ( ∵)

おうむ返しに問う「ごみ…?」の声と、 (*;;‘ω‘ *)
私のどこかでなにかが軋む音がした。



それは長期間、塩水に浸され腐蝕した鉄や塩素ビニール、廃材…、
更に紛れて打ち上げられている人の骸。


(*;;‘ω‘ *) 「こんなニオイ、はじめてだっぽ〜〜…」

( ∵) 『…上がろう。 頂上まで登れば少しはマシかもしれない』

(*;;‘ω‘ *) 「わかったっぽ〜」


素直な少女がえっほえっほと丘を駆け昇り、腐臭の元から離脱する。
目線の下にゴミを置き去りにしたおかげで、
私ですら周囲を囲み沈んでいた空気が鮮度を取り戻していくのを感じる。


幸い少女は気付いていない。
ゴミが果たしてどんな存在か……教えられなければ、どうやら骸を人とも判別できていないらしい。

――少女とて死ねば同様の、ゴミにまざり奇跡のバランスで掲げられるあの腕の持ち主と同じく
骨と血肉の塊でしかないことを知らないのだ。


(*;‘ω‘ *) 「なにか拾えそうなものを探したかったっぽ」

( ∵) 『やめておきなさい』

27 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 02:40:23 ID:ZyF93Qrk0
珊瑚と違い、これらのゴミには微生物が付着する。

死してなお蹂躙されるのとは違う。
体内ガスや乾燥した骨髄液、
タンパク質や分解寸前のアミノ酸を餌に釣られ、それらは集まってくる。


(*;; >ω< *) 「はぁはぁ…… あ〜、苦しいっぽ〜〜!
疲れたっぽ〜〜!!」

( ∵) 『急に走るのは苦労しそうだな』

(*‘ω‘ ;*)σ 「君はずるいっぽ!」
ハァ…ハァ

( ∵) 『……は?』

     ハァ…
(*‘ω‘ ;*) 「わたしが持ってあげてるからって楽してるっぽよ〜!」
ハァ…

( ∵) 『……』

( ∵) 『ならば棄てていくか?』

(*‘ω‘ ;*) 「……っぽ…?」

28 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 02:44:31 ID:ZyF93Qrk0
( ∵) 『棄てるならば、さっきの場所に私を放り投げれば終わりだ。
私は自分の力で動くことはできないし、生殺与奪は君にある』

(*‘ω‘ ;*) 「……」

( ∵) 『任せるよ』


(*‘ω‘ ;*) 「…」


(*‘ω‘ *) 「どうして急にそんなこと言うんだっぽ」


( ∵)



(*‘ω‘ *)



(*‘ω‘ *) 「……ごめんなさいだっぽ…」


( ∵)


( ∵) 『…………、いや』

29 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 02:48:16 ID:ZyF93Qrk0
この時、そもそも少女が本気で文句を言ったなどとは私も思っていない。
しかしデータとしてではなく…ゴミを間近に見てしまったこの心に射し込んだのは、
黒砂糖の溶液にも似るドロリとした感傷だった。


( ∵) 『…私も冗談のつもりだった、すまない』


(* ω *)


( ∵) 『……』


(* ω *) 「………ふん、だっぽ」


( ∵)


( ∵) 『…泣き止んだら、行こうか』

30 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 02:49:29 ID:ZyF93Qrk0
ごしごしと目蓋をこする少女と共に、私は再び道なき道を往く。


私こそ棄てられたいわけではないのに、どうしてあんなことを言ってしまったのか…。
我ながら理解しがたい言動に出てしまったと思う。


しいて理由を挙げるならば。
ゴミは私たちの遠くない未来でもあり、
あの場所にはひょっとして私の母が含まれていても可笑しくなかった。

私は少女のために降臨したが、少女に否定されてしまえばそこで絶える命でもある。



どうせ死ぬならば、仲間と呼べるものたちの墓標に辿り着きたかったのかもしれない。


どうせなら消える前に、なにかの役に立ちたいのだ。



 

31 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 03:42:25 ID:8B9MCnIc0
          《命》




(*‘ω‘ *) 「ふえぇ〜〜〜、すごいっぽお〜!」

( ∵) 『だいぶ登ってきたな』


一面、陽に焼けた山の上に、いま私たちは立っている。
休憩がてら少女の手を離れて立たされたこの身も、ガラになく高揚しているのが判った。


ヾ(*‘ω‘ *) 「ぽっぽっぽ〜〜〜♪」


              (∵ )


(*‘ω‘ *)ノ" 「ちんぽっぽ〜〜〜〜〜♪」


特に少女の昂りは大きい。
それまで家から歩ける範囲といえばどこまでも平らで、行き止まりは海が作っていた。
どこまでも続くと思わせる山の雄大さに、私から見てもその小さな身体が吸い込まれてしまいそうだ。


( ∵) 『ここは…一度も水が来ていないのか』

(*‘ω‘ *) 「ぽ?」

( ∵) 『みてごらん、この土を』

32 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 03:50:06 ID:Y6mGvU8M0
私は指なき指で地をさし、少女も素直にそれに従ってくれた。

…そこには草が生えている。
緑素は薄く、目を凝らさなければ見逃しそうなほどに小さな草木の芽生えではあるが。


(*‘ω‘ *) 「?? なにこれ??」

( ∵) 『名前はないようだ。 少なくとも、世界が海に埋まる前には……歓迎されにくい存在ではあった』

33 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 03:55:01 ID:Y6mGvU8M0
――――人間には、と付け加えるのは思いとどまった。



草はわずかではあるが酸素を生み、二酸化酸素を吸収する。

枯れてしまえば取り込んだはずの元素を再び放出してしまうような、
満足に用を足せない微弱な存在ではあるが、
生き物のなかにはこれを直接取り込むことで養分にもする、
樹木と並び重要視されるべき隣人だ。

しかし、人間はそれを身勝手な尺度で刈り取っていた。
思惑に外れたそれらに対し、在ってはならぬと弾し、雑草の烙印を押し付けては命を刈り取っていた。


自分たちの役に立たなければ無価値と断ずる横暴がまかり通るそんな世界を、星が赦すはずもない。



(*‘ω‘ *) 「んん〜〜」


(*^ω^*) 「なんだか可愛いっぽね」


( ∵)

34 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 03:58:44 ID:Y6mGvU8M0
人類とて原始に還れば、
少女のようにこうして在るだけで迎え入れてくれる心を失くしはしなかったのかもしれない。

種の成長期……どこかで「隣人を愛せよ」と声高らかに放たれた言葉の、なんと狭量な解釈か。


( ∵) 『…意外な発見だが、これで合点もいく』

(*‘ω‘ *) 「?」

( ∵) 『タイダルウェーブはあまりに強大だった。
だが人類は君のように少なからず生き延びているだろう?』

( ∵) 『すべてが流されているなら、君たちは生き残ったところで間もなく死滅しているはずなんだ。
呼吸さえ赦されることなく』

(*‘ω‘ *) 「…」


……なのにこうして生きている。


( ∵) 『まだ完全に見捨てられていないということだ。 君も、私も』


(*‘ω‘ *)



(*‘ω‘ *)



( ∵) 『……、どうした?』





(*うω *)

35 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 04:16:22 ID:Y6mGvU8M0
"(*うω‘ *) 「…わたしもよくわからないっぽ」


少女は瞳にうっすらと涙を浮かべている。


( ∵) 『私にも分からないな。 なにを急に――』

(*‘ω‘ *) 「………なんだかよく判らないけど、ドキドキするんだっぽ」

( ∵)

(*‘ω‘ *) 「わたしとおとさん以外にも、人がどこかにいるのっぽ?」

( ∵) 『……残念ながら根拠はない。
だが、可能性としては考えられるという意味だ』

(*‘ω‘ *) 「……」

(*‘ω‘ *) 「おとさんと暮らしてるあいだ、ずっと話してたんだっぽ」

(*‘ω‘ *) 「みんな、帰ってきたらいいのにって」


…そういえば、と思い出す。
私と出会ったその日も、少女は男と言葉を交わしていた。
てっきり無知、無垢ゆえの発言だと思っていたのだが……。


(*‘ω‘ *) 「おとさんもね、はじめは違ったんだっぽ。
みんな津波にさらわれた。もうかえってこれないんだよ…って」

( ∵)

(*‘ω‘ *) 「おとさんが子供の頃、タイダルウェーブが起きたって言ってた。
目の前でおとさんの…おじさんとおばさんも消えちゃったって」

 

36 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 04:26:03 ID:Y6mGvU8M0
三日間。


それがタイダルウェーブによる世界変動にかかった時間だといわれている。
自然界が寡黙に、粛々と、結託して人類を洗い流すために与えられた審判の刻。


歴史に関しては、ダウンロードされている私のこの記憶に誤りは恐らくない。
理解すらされずに斬り刻まれ、幾多もの生命が散った現実だ。


それはちょうど私の母――と、形容するのが正しいかはもはや分からないが――が死んでしまった時だった。
人類が生み出し、過不足として間引き殺された日。



(*‘ω‘ *) 「おとさんも、危なかったらしいっぽ。
そのときずっと持ってたのがこの――

(*‘ω‘ *)つ(Ж)  ――麦わら帽子って言ってたぽよ」


( ∵)


(*‘ω‘ *) 「だから、……だからわたし、言ってあげたんだぽ」

37 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 04:31:16 ID:Y6mGvU8M0




       「おとさん、大丈夫!
        おとさんが元気なら、おじさんおばさんも
        どこかにいるはずだっぽ!」



 

38 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 04:34:03 ID:Y6mGvU8M0


(* ω *) 「……わたしね、おとさんの本当の子じゃないんだっぽ。
でも、いつのまにかおとさんと暮らしてたから、おとさんって呼んでるっぽよ」


( ∵) 『…』



(* ω *) 「おとさん、だんだん変わってきたっぽ。
わたしと一緒にあそんだり、わたしのことを好きっていってくれるようになったんだっぽ」





(* ω *) 「だからいつか二人で、おじさんおばさん、おかさんを捜しにいこうって……」





( ∵)

39 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 04:35:13 ID:Y6mGvU8M0











(*;ω; *) 「……二人でいごうっで、約束じでだのにぃ…………」



 

40 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 04:38:26 ID:Y6mGvU8M0





少女たちも、




( ∵)





我々と、同じなのだ。





( ∵)





なぜ、存在はいつのまにか否定しあうのだろう?

 

41 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 04:40:59 ID:Y6mGvU8M0


       ――この世のあらゆる生き物は、
       むざむざと殺し、殺されるために

       この《命》を授けられたとでもいうのか。


 

42 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 04:41:48 ID:Y6mGvU8M0



 

43 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 04:42:38 ID:Y6mGvU8M0




         【しかし所により――――】



 

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