本日は晴天なり

1 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/30(水) 23:40:11 ID:dutJssj60


私たちが、自らの真なる姿を認識することは困難である。


(*‘ω‘ *) 「ぽっぽっぽ〜♪」


それは光の反射を利用したところで、たとえ文明利器を頼ったところで、
映し出されるものが真実とは限らない。

誤って歪んでしまう瞬間が写るのか、それとも歪みそのものからして正しく映るのか……。


(*‘ω‘ *) 「ちんぽっぽ〜♪」


私だってそうだ。

この姿は白く、つるんとした光沢を纏い、淡く色彩を弾くように出来ていると思い込んでいる。
少なくともそう自覚できる程度には遺伝子を操作し、組み換えられ、ここに居るはずだ。


…にも拘らず、そんな私を小さな視界へと収めることに成功したのが嬉しかったのだろうか。
眼下に佇む、ひとりの幼な子はこうして謡っている。


(*‘ω‘ *) 「豆ーが欲しいぽ そらやるぽ〜♪」


…私は知っている、それが童謡の類いであることを。
元気よく腕を振るう少女のリズムに合わせ、言葉を繋げてみた。
『みんなで一緒に――――』。



「みーんなで一緒に……  (*‘ω‘ *)

       ……えっ?」 (‘ω‘ *;) 



『食べに来い』


キョロキョロ
(*;‘ω‘*) 「えっ、……な、なんだっぽ?!?!」

2 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/30(水) 23:43:05 ID:dutJssj60
顔といわず、肩が、腰が、そして足までもドタバタと回りだす少女。
風切りによって私の身体も反射的抵抗を示す。

怯えさせただろうか。
戯れにいれた合いの手も、少女と同世代や同性によるものならば許されたのかもしれない。


(*‘ω‘ *;) 「だ、だれぽよ〜〜?!?」


周辺は空と大地のがらんどうで、少女はひとりきり。
期せずして訪れた、今このとき。

私がこの場に降臨したのはたまたまでしかなかった。
だからというつもりもないが…思春期によくある、
口をついた独り言を他者に聞かれる恥ずかしさはデータ上、理解できる。


『あー、……』


私はそれを謝罪しようと考えてから……
よくよく思い出してみれば私がどうするよりも先に、少女の方こそ「ちんぽ」と発言したことに思い至る。

何故ちんぽなのだ? そんな唄ではなかったはずだ。
それ故の気恥ずかしさならばと考え直し、罪悪感を即、棄てる。


『こっちだ、ここを見るんだ』


(*‘ω‘ *;) 「チョーコワイんですぽよ〜〜?!」
   キョロキョロ    
(;*‘ω‘ *) 「だれっぽよ〜〜〜???」


どうせ紛いものの感情と存在だ。
…なにより、私には時間が限られている。


『私だ』        (∵ )

(*‘ω‘ *)


(;*‘ω‘ *) 「だれっぽよ〜〜〜〜〜」



              (∵ )

3 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/30(水) 23:43:49 ID:dutJssj60





 

4 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/30(水) 23:44:38 ID:dutJssj60



ブン動会(2016紅白)参加作品




       【本日は晴天なり――――】



 

5 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/30(水) 23:45:55 ID:dutJssj60


危機感のないぼんやりとした空には、流されるしか能のない鳥が悠長に漂う。

私は、呼吸を許された日からずっとそれを見てきた。


(*‘ω‘ )ゝ 「ぽっぽぉ〜〜〜い!」


蒼い、蒼い大空だ。
遮るものは何もない。

私はそれを見て、本来何を想うべきなのだろう。


ヾ(*‘ω‘ *) 「〜〜♪」


口を開けて、さっきとは別の唄を奏でる少女の声。
気流もなく密度変化もないこの蒼がもたらす恩恵によって、向こう岸まで届くほどに清んでいる。


一色の背景に元気よく振り回す掌が揺らめく。
…細すぎる腕。
骨と皮しか残っていない、肉なき肉体の一部。

それなのに――――。


( ∵) 『なにをそんなに笑ってるんだ?』


問い掛ける私を見たのはほんの一瞬。
それでも判別できたほど満面の笑顔で、腰の小袋を見せつける仕草で痩せこけた少女は言う。


(*‘ω‘ *) 「ムギの種を拾ったんだっぽ! 今日は水たまりも少ないからあるきやすいんだっぽ!」


私は『なるほど』と適当な相槌をうつに留めた。
少女の日常に射し込む稀なる事象を理解してやることは出来ない。



そもそも私には、地を踏める脚もありはしないのだ。

6 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/30(水) 23:49:55 ID:dutJssj60
少女は笑顔で天を仰ぐ。
誰かに同意を求めているかのようにも見える。


間もなく満足したのか、頷くように降ろした視線の先。
一軒の白い家屋が姿を現し、少女の傍らにある私の視界がいっそう揺れた。


(*‘ω‘ *) 「おとさーん、おかさーん、ただいまっぽ〜!」


駆け足の重力に負け、履いていたビーチサンダルがひっくりかえったことにも気付かぬ少女。
冷えた床に取り残される、ペタペタ鳴らされる柔らかな音。


( ∵)


突如手放された私といえば支えを無くしてゆっくりと倒れ込んでしまう。
…痛みはない。
ただ玄関先から黙って少女を見送る。

そして入れ替わるように、逆さまになったサンダルの『「…やれやれ」』という囁きが、
少女に向けられるべき異なる声と異口同音に重なった。


( ><) 「慌ただしく戻ってきたと思ったら…」


それは若くも老いて感じられる男。

声の主であるその男はわずかに尖らせた唇を自ら諌めるように、温和な表情と笑みを浮かべている。

7 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/30(水) 23:52:41 ID:dutJssj60
彼はゆっくりと腰をおろして少女のサンダルを揃えて床に戻す。

同じ形をしたサンダルは、しかしよく見ると左右で色が微妙に違っていた。
だが男が特にそれを気にした様子はない。


(>< ) 「ぽっぽちゃんー、靴はちゃんと脱ぐんです!」

「いま、お手あらいしてるっぽ〜〜」

(>< ) 「じゃあそのあとでいいから、おかさんの部屋に来るんですよー」

「わかったっぽ〜〜〜」

( ><) 「まったく……   


     ´-  
( ><)         …おや、この子は」


呟くと同時、私の身体を掴まれた。
…抵抗できなかった。
優しく包み込まれる感触に身を委ねる。
彼はちょこんと、風の流れを遮らないよう、私を玄関の隅に座らせてくれた。


( ><) 「まさか、戻ってきたんですか」

( ><) 「……こんな奇跡もあるんですね」


私は『ああ、そうだ』と返事をしてみたものの、彼にそれが聴こえた様子もない。


「おわったっぽ! はやく座るっぽ〜〜」(*‘ω‘ *)

(>< ) 「はいはい、今いきます」

8 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/30(水) 23:54:09 ID:dutJssj60
「今日はどっちに行ってたんです?」

「まっすぐだっぽー」

「おかさんにも、その時の様子を教えてあげてください」



異なる足音を引き連れて廊下を歩く二つの影。
少女はただ笑っていたが男は違った。
奥の部屋へと消える際、こちらを一瞥した。


              (><  )
( ∵)


先程とは全く別の、今にも崩れかねない脆い微笑みに変貌している。

困ったような、苦虫を噛み潰すような、泣き出しそうな……。
笑っているのに、目を見開いている。


…そしてその瞳も、正しくは私だけでなく、
私の頭上に壁掛けられている存在に向けられていることを知ったが、
彼はすぐに少女を追って部屋に入ってしまった。




( ∵)




そんなはずはなかろうが――――。


      「この疫病神め」 ( <●><●>)


私には…そう睨んでいるようにも見えた。

9 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/30(水) 23:55:00 ID:dutJssj60


       「おかさん!
        今日はあまり水がなかったっぽ」

       「地面はつるつるしてて、
        とてもキレイだったっぽよ〜」

       「…あんなにキレイなのに。
        みんな早く戻ってきたらいいのにっぽ」


「……そうですね」

       「だっぽ!」

「ぽっぽちゃんのお友達も、
 早くかえってくるよう祈ってます」

       「だっぽよ〜〜〜」



( ∵) 『…』



       「そういえば雲さんもとうとう消えちゃったっぽ」

       「みんなどこに行ってるんだっぽ?
        おとさんは、知ってるんだよね?」

「       」

       「……えっ?」


 

10 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/30(水) 23:55:54 ID:dutJssj60
私には届かない、男の返答。
小声になったのか……二人の呟きは音の残滓だけを響かせる。


       「      」

「    」

              「   」

「      」


         ( ∵)       「  」


「       」

       「        」

「          」

                     「  」

「    」





         ( ∵) 『…存外、五月蝿い』


 

11 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/30(水) 23:57:31 ID:dutJssj60
本来ならばしかと捉えることでスッキリするはずの、しかし今は不明瞭な言葉が、
クリアで然るべきはずの私の思考に澱みを生成させる。


ストレスに変換される一方的な雑音。
それは私だけの特性なのか、人にも備わる性質なのかは定かでない。

もし、これが人々の生活に溢れたかつての環境のひとつだと仮定するならば、とても残念に想う。


( ∵)


私が退屈というものを知った頃、二人はゆっくりとこちらに戻ってきた。



( ><) 「…ぽっぽちゃん」

(*‘ω‘ *) 「ぽ?」

( ><) 「そろそろね、食べ物が無くなってしまったんです」


(*‘ω‘ *)


(*‘ω‘ *) 「知ってたっぽ」


( ><) 「えっ?」


(*‘ω‘ *) 「さいきん一緒にゴハン食べてくれなかったから…」


( ∵)


( ><) 「……ぽっぽちゃん」

12 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/31(木) 00:00:28 ID:0Ee49h3Y0
(*‘ω‘ *) 「こないだ、米びつの蓋が開いてたから覗いちゃったんだっぽ」

( ><) 「ぁ……」

(*‘ω‘ *) 「つぎの日も、そのつぎの日も、ちょっとずつ減ってたけど…」

(*‘ω‘ *) 「おとさんが食べてないことくらいは分かったっぽ」

( ><)

(*^ω^*) 「だから今日はすごく嬉しかったっぽ。
これならおとさんとゴハンが食べられるって」


少女の腰元からざらりと擦れる音がした。
袋は平たく、決して満足な量とは呼べないが、
それを【希望】と名付けるには充分であろう。


( ><) 「……だから…いつも外で遊んでいたんですね」

( ∵)


【希望】を育てる時間があるならば、だが。


(* ^ω^*) 「だっぽ〜〜〜」


( ><)


( ><)




( ><). 「………寂しい想いをさせていて、ごめんね」

      ,


       ;


       。

13 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/31(木) 00:01:53 ID:0Ee49h3Y0


       。


       
        o'

       



        O





        ○
       





         '
        、 I ´  
      ((  !  ))









 ((  (   (    )    )   ))      
  



 

14 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/31(木) 00:02:46 ID:0Ee49h3Y0



 

15 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/31(木) 00:04:01 ID:0Ee49h3Y0


少女を前に、男が流した涙は唯一ひと雫。  




我慢に我慢を重ねた生活が、人を強くも弱くもしてしまった。



いつまでも子供だと思っていたのだろう。



我が心を見透かされていた男の心疚しさは
きっと筆舌に尽くしがたく、


しかし親として、この上なく喜ばしいのだろう。






            ……彼もまた、その種が実を結ばないと分かっていたとしても。


 

16 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/31(木) 00:07:08 ID:0Ee49h3Y0



この星はある時期を境にガラリと姿を変えた。

――――【タイダルウェーブ】。

潮の満ち引きに導かれし、未曾有の超常現象はどこかでそう名付けられている。




はじまりは小さな小さな雫の波紋からはじまった。


人間とは、霞を食って生きるに非ず。
天空とは、霞を無尽蔵に産むに在らず。
大地とは、ただ霞を眺めるのみの存在に有らず。


タイダルウェーブはその最たる例であり、だがしかし不運唐突な天災などでは決してない。



人間は永い歴史を崇め奉る一方、
自然界から発せられた幾度の警告を生きる上で踏みにじりつづけてきた。

目と耳を塞いできた。



ここは、そんな人間に相応しい末路の世界。


 

17 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/31(木) 00:09:00 ID:0Ee49h3Y0


( ><) 「中に最後の食べ物を入れておきましたから」

(*‘ω‘ *) 「……ぽ」


開放された玄関扉。
いま私の目の前で、男は少女にリュックサックを背負わせる。
空の青に浮かぶ赤のコントラストがよく映えた。


( ><) 「水位が減っている今なら、どこか別の土地を見付けることができるかもしれません」

(*‘ω‘ *) 「おひっこしなら、おとさんも一緒に――」

( ><) 「歳なんですかねえ…。 もう君について行けるほどの体力がないんです」


男は笑った。
碧碧のビーチサンダルをつっかける少女とは対照的な表情だった。


( ><) 「きっと大丈夫、君は散歩が好きでしょう?
今日からは少しだけ…もう少しだけ、長く歩いてみなさい」


(*‘ω‘ *)


( ><)



(*‘ω‘ *)



( ><)




( ><) 「……さあ、気を付けて……いっておいで」




 

18 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/03/31(木) 00:09:47 ID:0Ee49h3Y0


         【本日は晴天なり――――、】


 

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