本日は晴天なり

45 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 15:55:43 ID:lsIyktW60
          《灯》



……間もなく夜が訪れようとしている。
あれ以来、少女は行く先々で見たことのないものを見付けるたび、私に尋ねてくるようになった。


《柱》、《夢》、《器》…いずれも人間が造りだした概念的アートの数々。
その片鱗を覗かせ、しかし今となっては例外なく死と毒を醸した結末を散見させる。



人工物の凡てが悪であったとは言い切れない。

だが人の天寿は100年足らず。
自然界に君臨させるためのサイクルとしてはあまりに短命で、
それゆえ惑星からみた彼らは、余りにも拙い観点でしか物事を視ることの出来ない生物の種だった。



(*‘ω‘ *)σ 「あれはなにぽよ〜?」

( ∵) 『…珍しいな、【灯り】だ』


もう何度目になるかわからない、少女が首をかしげる仕草。


( ∵) 『昔は太陽が隠れる時間があったんだよ』

(*‘ω‘ *) 「?? このお空で、どこに隠れるところがあるんだっぽ」

( ∵) 『星には軸があって、ぐるくると廻るものだ。
その一つの星をいくつもの星が囲み、同じようにまた各々も廻っている』

46 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:00:15 ID:lsIyktW60
灯は、闇に対抗するために人類が造り出した最初の発明と伝えられている。
用途こそ豊富な標があるも、まず必要とされたのは光を生み出す行為だったのだ。


( ∵) 『だからこの星も…――』

(*‘ω‘ *) 「そういえば、こんなに暗くなったのははじめてだっぽ〜」

( ∵)



( ∵) 『――……そういえば、おかしい』


タイダルウェーブは地軸にも影響を与えている。
夜というものがなくなったこの世界では、強弱の差こそあれど常に太陽光が天空を支配していたはずだ。

私は改めて見渡してみる。
辺りは薄暗く、こうしている間にも明度が下がり続けているのがわかった。


(*‘ω‘ *) 「どこだっぽ〜」

( ∵) 『…、ここだ、こっちに来るんだ』


近くにいるはずの少女が私を見失い始める。
みるみるうちに闇が堕ち、代わりに遠くの灯が輝いている気がした。

49 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:05:02 ID:lsIyktW60
(*;‘ω‘ *) 「こわいっぽ〜…」

( ∵) 『私をはなすなよ』


手探りの少女が私を掴んだことに安堵し、同時にその震えも伝わってくる。


私には視力というものが与えられていない。
とはいえ人間とは認識の違いがあるだけで、似たような世界を感じ取っているはずだ。
そのため、色彩や明暗による情報を誤感知することはない。






    ( ∵) 『……』 (*;‘ω‘ *)





その沈黙はしばらく続いた。
少女こそ怖れに身を縛られているのだろうが、物理的に慰められぬ私といえば暇をもて余してしまう。
闇を畏れるのは人間だけだ。


( ∵) 『大丈夫か?』

(*‘ω‘ ;*) 「……灯」

( ∵) 『そうだな、そっちを見ていればいい』


そう伝えて、なんとなく…私は意識を後ろに向ける。

灯が怖いという意味では勿論ない。
ただ本当になんとなく振り向いた。

50 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:08:17 ID:lsIyktW60
大空を舞うように、急速に走る私の意識。
風を浴びながら速度を上げる。

人間には到底備わっていない俯瞰的認識概念が、いま現在の少女の家を捉えた。



                                   (>< )ノシ


そこには豆粒ほどになった男の姿が見える。
海の上に立ち、手を振っていた。


( ∵) 『……!』


いつの間にか風景が変化している。
足元から次第に青く染められ、今まさに彼は少しずつ、人という形を損なっていく。



                                   (>< )ノシ



明らかに…水位が上がっていた。
あの日まで二人が生活していたはずの白い家が、狙い澄ましたように失われていく。

51 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:09:15 ID:lsIyktW60









                                   >< )ノ"











誰もいない場所で独り、白い家の男は最後まで手を振り続けていた。



 

52 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:11:11 ID:lsIyktW60

( ∵)










( ∵) 『…』





そして――――やがて跡形ひとつ遺さず消えていった。


あとはもう、私の意識はただ虚しく海面を映し出すだけだった。


 

53 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:13:00 ID:lsIyktW60


(*‘ω‘ *) 「――――ぽ」

( ∵)"  ハッ



(*‘ω‘ *) 「…聴こえてたっぽ?」

( ∵) 『いいや……すまない』


…結局、私は今しがたみた情景を少女には伝えられなかった。


なんのために家を出たのか…。
これからどうするべきか…。
せっかくならば少女に生きる目的を与えてやりたかった。


(*‘ω‘ *) 「なにか、こっちに来てるんだっぽ」

( ∵) 『ん?』

(*‘ω‘ *) 「山…、だっぽ??」

( ∵) 


私はありもしない目を凝らす。
少女もまた、灯に照らされた影によってその存在をかろうじて認識していたのだろう。


  _,
(  ∵) 『……!!?!』



私の時間は限られている。
すべて承知の上だった。
少女が父と呼ぶあの男も、薄々気付いていたのではなかろうか。




なぜなら次第に肥大する、その正体こそが――――。


 

54 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:14:40 ID:lsIyktW60


 

55 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:16:25 ID:lsIyktW60
          《宙》




かつてタイダルウェーブは意志をもち、
無造作に獲物を食むクリーチャーとしてこの世界を蹂躙した。




大陸を孤島にし、島を噛み砕き、岩々を喰べ残した。




私に刻まれる記憶が呼び覚まされる。


死の淵に引き摺られていった、数えきれぬほどの断末魔が自動的に再生される。

56 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:18:55 ID:lsIyktW60


『「「


         ガ わたしが
       辛いボ
       

何をしたというの
              くるしぃ
ギ
         手を
       グジュ
  酷すぎる
                  あんまりだ


            こんなことに
 もうダメだ
              ガ
       ブグゥ
          あんな計画



ぉかぁ             ゴボッ

   さ

       なんで



       どうして







      ど う か 助 け て




                            」」』

 

57 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:20:20 ID:lsIyktW60


タイダルウェーブ。
人類と、人類に拘わるすべてのものを粛清する大津波。




私は知らず知らずのうち、それを過ぎ去りしかつてのものであると勝手に思っていた。


比べてしまえばあとは残り火のような天災が世界に注がれ、
私という存在はその試練に対し、
立ち向かうためのきっかけを導く使命を与えられたのだと思い込んでいた。


( ∵) 『……こういうことか』


記憶とはずいぶんと都合のよい概念だ。
断片を繋ぎ合わせて、いつの間にかそこにある材料で現実を知った気にさせてくれる。


(*;;゜ω‘゜*) 「……ひえぇ〜〜〜」

( ∵) 『大丈夫だ。 私に掴まっている限り、落ちることはない』


…辺りは先程までと変わらぬ闇に包まれている。
右を向いても、左を向いても、
たとえどこを見渡しても灯が点在し、少女と私を照らしてくれている。

58 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:22:12 ID:lsIyktW60
タイダルウェーブが私たちに辿り着く直前、
少女の手に込められた願いにより、私には解放されし力が具現した。


おかげで少女は海の藻屑を免れることができた。
私も同様に、ゴミと化す未来をひとまず回避できた。



(*゜ω‘゜*) 「ふええええ!!!」

( ∵) 『…………。 顔は、このさい仕方ないか』



眼下にある星を望む。
私たちがいたはずの、蒼い空と、蒼い海の星。


ふわふわするこの感覚はすぐに慣れることはないだろう。

なにせ元は地上で、畏れ多くも天の恵みを遮る役目を果たしていた私の身体だ。
下から煽られたり横殴りにされると簡単に壊れてしまうような、ひどく脆い身体だ。



(*;゜ω‘゜ *)∩ 「……こわいけど、だだだ、だいじょぶたっぽ―〜〜√」

( ∵) 『そ、そうか……』


少女の背中にある赤いリュックサックが、黒一色の背景によく栄える。
細すぎる腕が時々揺れては闇を摘む。

蒼い星から離れるほどに増殖していく煌めく灯。
背を押される少女は踊るようにくるくると廻った。

59 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:24:54 ID:lsIyktW60

(*‘ω‘ *)∩ 「……」

( ∵) 『……』




蒼い星に根付く大地は、以前から変わらずそこにあった。


ひととき人類の生活は栄華を極め、
しかし飽和飽食の豊かさは、人類のみが手にする宝物でしかなかった。

消費されていく自然界にはなんら利益をもたらさず、
そのくせ見向きもしない時代を、人は永く続け過ぎた。
塵にも満たない、なんの役にも立たぬ廃棄物はただ朽ちていくしかない。


ゴシ...
(*うω *)∩ 「…」




(*‘ω‘ *)∩ 「……あれ」

( ∵) 『……ん』

60 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:27:13 ID:lsIyktW60
突然、少女の足からフワリと何がか抜け落ちた。


脱落したそれを咄嗟に拾いあげようとしたものの、
しかし腕を目一杯拡げていた私は、自分の意志で動くことが出来ない。


( ∵) 『あ…』

(*‘ω‘ *) 「あ…」

( ∵) 『……』

(*‘ω‘ *) 「……」


私の意思に反して、少女の身体はどんどんと星から離れていく。
墜ちていくビーチサンダルだけが、
ゆっくり、ゆっくりと…星に還ろうとしていた。


(*‘ω‘ *)∩ 「……お気に入りだったのに…」

( ∵) 『…私のせいなのか?』

(*‘ω‘ *)∩ 「ううん、いいんだっぽ」


(*^ω^*)∩ 「また戻ったときに捜すっぽ!」

( ∵)


 

61 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:28:34 ID:lsIyktW60



       「ところで、君はなんなんだっぽ?」


       『問われてもな……こういうモノだとしか私にも答えられない』


       「ふ〜〜ん、まあいいっぽ」




私という概念が外部に漏れ伝わることはない。
あの男にも、この世界にも、私は認められていない。


少女こそが特例なのだ。
唯一、私を可視できて、かつ対話が可能な存在。



       『ところであのサンダル、どうして左右の色が違ったんだ?』


       「え? おんなじ色だと思ったけど……」


       『む…そうか』


       「だっぽ。 そういうモノだっぽ〜♪」


 

62 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:29:54 ID:lsIyktW60

宙から還る頃までに、私が生きていられるかは分からない。


       「ぽっぽっぽー、ちんぽっぽ〜♪」





少女のほうが先に力尽きる可能性もあるが、
私と共にいるあいだ、少女が不思議と空腹や痛みを訴えたことはない。


       『豆ーはうまいか 食べたなら』





蒼い、蒼い惑星だ。
遮るものは何もない。

私はそれを見て、本来こう想うべきなのだろう。




       「『一度、そろって飛んでいけ〜♪』」






それがたとえ、どこか歪んでいるとしても。



 

63 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:31:10 ID:lsIyktW60





 

64 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:31:56 ID:lsIyktW60




         【――――落下物にご注意を。】




 

65 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:34:14 ID:lsIyktW60


俺たちが、お互いの真なる姿を認識することはとてもとても難しい。


( ^ω^) 「おっおっお〜♪」


光の反射を利用したところで、たとえ文明利器を頼ることが出来たところで、
映し出されるものが真実とは限らないからだ。


ξ゚听)ξ 「つんぽっぽ〜♪」


何を言う、俺だってそうさ。

この姿は碧くて、サラサラとしたコーティングを纏い、砂を弾くように出来ていると思い込んでいる。
少なくともそう自覚できる程度には遺伝子を操作し、組み換えられ、ここに居るはずだ。


…なのに、そんな俺たちを見付けたのがそこまで嬉しかったのか。
頭上に立つ、二人の男女がゴキゲンに謡っていた。


( ^ω^) 「靴が欲しいーお 履いたなら〜♪」


俺は知っているぞ、これは童謡の類いだということを。
……いや、よくよく聞けばどこかオカシイような気もするが。
繋いだ手を振り、二人はリズムに合わせ、言葉を繋げていた。
のけ者は許さないぜ?
『みんなで仲っ良っく――――』。



「みーんなでなっかよっく……  ξ゚听)ξ


  (;^ω^) ……えっ?」 ξ;゚听)ξ

66 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:35:40 ID:lsIyktW60
『『遊っぼうぜえええぇぇーー!!』』


キョロキョロ
(^ω^;) 「えっ、……な、なんだお?!?!」

「だ、誰かいるのっ?!」 ξ;゚听)ξ



顔といわず、肩が、腰が、そして足までドタバタと振り回す二人。
地団駄のたびに俺たちの身体も反射的抵抗を示す。


怯えさせたか?
いいや、雪の降り積もるこの土の上でわざわざ俺たちを履き潰す勢いのこいつらだ。
文句を言う筋合いはあっても、言われる筋合いなどありはしないさ。


(;^ω^)「だ、だれだお?! 居るなら姿を見せてほしいお!」

ξ;゚听)ξ 「誰かいるならお願い! 一緒に力を合わせて生活しない?!」


周辺は空も大地も粉雪で、二人はツギハギの外套を纏って尚、身体を震わせている。
靴だって片方ずつ、それぞれが俺たちを履いてる以外は裸足のままだ。
この格好でまさかずっと雪のなかを生きてきたわけでもないだろう。


俺たちがこの場に降臨したのはたまたまでしかない。
だからというつもりもないが、戯れに少しくらい遊んでやろうかと思うのだがどうか?


『ふむ、さすがだな』


俺はそれを提案しようと考えてから……、
よくよく思い出してみれば俺たちがどうするよりも先に、
二人こそ「やべぇ、超ラッキーじゃね?」と許可なく履きだしたことは忘れていない。

そもそもつんぽっぽってなんだよ。 そんな唄じゃあなかったはずだろ?

67 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:37:02 ID:lsIyktW60
『よし、こっちを見てくれ二人とも』

『アドバイスに耳を傾けようとしないとは相変わらずか、兄者』


ξ;゚听)ξ 「なになになに、チョーコワイんですけど?!」
   キョロキョロ    
(^ω^;) 「うおお、声はすれど姿は見せず。 なんてイケズだお!」


まぁまぁいいじゃないか、どうせ紛いものの感情と存在だ。
…なにより、俺たちには時間が限られている。


( ´_ゝ`)   『まず地団駄をやめてくれないか』    (´<_` )



( ^ω^)      (´<_` )
ξ゚听)ξ        (´ゝ_` )グキッ



『あ、やべ…鼻折れたかも』(;゚_ゝ`)

『関節のない俺たちが無茶したら死ぬぞ』(´<_` )


(;^ω^) 「だれ
ξ;゚听)ξ      だ〜〜〜〜〜?!?!」



             (;うゝ∩)イタタ…
              d(´<_,` )



 

68 名前: ◆Xk9aOrMXsE[] 投稿日:2016/04/03(日) 16:38:33 ID:lsIyktW60




【本日は晴天なり】

         《 了 》

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