( ^ω^)相朔寺永栄絵巻伝来記のようです

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※『秋のブン芸祭〜ラノベ祭り』参加作品です 秋のブン芸祭まとめ

1 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:15:53
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( ^ω^)相朔寺永栄絵巻伝来記のようです

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2 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:20:26


家禄二百石の貧乏旗本、内藤浪馬の三男といえば、とてつもない阿呆として知られていた。


何しろ、とんでもなくおつむが弱い。
勉学もできなければ、武道もからきし。
剣について言えば、そこらの子供のほうがよほど強い。
何をしても人より遅れる。だからと言って、気が利くというわけでもない。
日がな一日、空を見上げては何がおかしいというわけでもないのに、にたにたと笑っている。
頭がどうかしてしまったのではないかと思われることも、数度ではなかった。

こんなことだから当然、養子の先もない。婿入りとなればなおさらだ。
家のものたちは、この阿呆をどうするべきかいつも頭を悩ませていた。


( ^ω^)


内藤家の三男は、名を地平と言った。
近隣の者どころか、市井の者たちにさえも陰で馬鹿だの阿呆だのと言われる始末。
道を歩けばそれだけで、くすくすと笑い声が上るような有様だった。

しかし、地平はといえば、その立場をつらいものだと思っていないようだった。
いつも機嫌良さそうに、にこにこと笑っている。
それには地平を馬鹿にしていた者たちも気が抜けてしまい、「阿呆にはかなわぬ」と笑うのが常であった。

3 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:22:34

そんな地平には、小さな友たちがいた。

友といっても人ではない。獣でもなければ、魚や植物、物でもない。
妖かしというのが、一番近い。
とはいえ、それはどの書物や絵巻にも乗っていないし、同じものを見たという者もいなかった。


('A`)

( ^ω^)「そうかお。そうかお」

(*'A`)


――それはあえて例えるならば、線に近い。
子どもの落書きが歩き回っているような不可思議な生き物。

小さなもの。

そうとしか言いようものない、この不思議なものたちが、幼きときからの地平の友であった。

4 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:24:29


人でもなければ、獣でもない。とはいえ、人の語る妖怪とも違う。
そんな不思議な彼らを、地平は大切にした。


ξ゚听)ξ

( ^ω^)「お? 花?」

ξ゚听)ξ

( ^ω^)「ほんとだ。すごいおー」


彼らはどこからか地平の元に現れる。そんな彼らを、地平はいつも歓迎した。
人とは違う彼らの言葉は、音楽のようで耳障りがいい。
はっきりとした意味まではわからないが、彼らと話すたびに地平は幸せな気持ちになった。

5 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:26:24


( ФωФ)「地平。こんな所でどうした?」

( ^ω^)「どくおと、つんがいるんだお。僕のともだちなんだお」

( ФωФ)「なにもいないじゃないか。
       阿呆なことを言っていないで、もっと勉学に励め」


不思議なことに、小さなものたちは他の人には見えなかった。
それにはじめて気づいたとき、地平はたいそう驚いた。
地平には聞こえる彼らの声も、他の者たちには聞こえない。それは地平にはとても悲しいことに思われた。

6 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:28:15


ξ゚听)ξ('A`)

( ´ω`)「みんないいやつなのに、かなしいお」


いくら指さし話してみても、父も兄も妙な顔をするばかり。母に至っては、怒りと悲しみのあまり泣き出してしまうほどだった。
それでも、地平はこの小さな友たちの存在を、何とかして認めてもらいたかった。
小さな彼らは地平のことを馬鹿だとは言わない。友として、あるいは地平の師として、地平のそばにいてくれる。


( `ω´)「そうだお!」


だから、地平は小さな友たちを紙に描き留めることにした。
人には見えぬ小さなものたちでも、紙に描いてしまえば、他の者にも見ることができる。地平にはそれがうれしかった。
次兄からゆずってもらった紙に、たっぷりと墨をつけて。地平は暇さえあれば、彼らの姿を描き続けた。

7 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:30:11

('A`)

( ^ω^)Ф「これは、どくお。
        これからかく美人はー」

ξ*゚听)ξ

(*^ω^)Ф「その通りだお」

(*'A`)ξ*゚听)ξ

( ^ω^)Ф「そうだ。こっちに兄上もかくおー」


(´・ω・`)

( ;^ω^)Ф「うーん。なんか、どくおたちみたいになっちゃったお……」


暇があれば絵ばかり描いている三男を、家の者たちは「怠けてばかりの愚か者だ」と、笑った。
地平の描いた小さな友たちは、「どうしようもない落書き」だと言われ、まともに取り合ってもらえない。
それでも地平は描き続けた。

小さな友の姿を認めてもらえぬのは、自分の画力が足りないから。もっとうまくなれば、信じてもらえるにちがいない。
それに絵を描くことは、地平にとって楽しいものになっていた。

8 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:32:24


ξ゚听)ξ

( ^ω^)「お?」


ξ゚听)ξつ〆

( ^ω^)「かいてほしいのかお?」

ξ*゚听)ξ

( ^ω^)「じゃあ、ちょっと待っててお」


地平は描き続けた。
地平が筆を動かすと、小さな友たちは喜んだ。
彼にしか聞こえない声をきゃらきゃらと上げ、跳ね回る。
それを見ると、もっと描かねばという気持ちが沸き上がり、地平はさらに絵に打ち込んだ。

9 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:34:21

('A`)ノシ


(,,゚Д゚)

(*゚ー゚)

( ^ω^)「新しいともだちかお?」

('A`) ))

(*^ω^)Ф「じゃあ、色男にかいてやるおー」

(,,*゚Д゚)(*゚ー゚)

(*^ω^)Ф「もうひとりの子は、美人さんにかくおー」

(*^ー^)


人に似たもの、獣に似たもの、あるいは物にしか見えないもの。
彼の周りに、はさまざまなものたちが集まった。
そのたびに彼は笑い、絵筆をとった。

10 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:36:22
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


それから少し年月は、流れた。
地平は変わらず、暇があれば筆をとる暮らしを続けていた。

  _
( ゚∀゚)「なんだ、馬鹿が阿呆面下げて。
     筆なんか持っている暇があるなら、俺とともに剣を振るえ」

(#ФωФ)「まったくお前は。こんな簡単なことも覚えられないのか!」

J(#'ー`)し「いつまで、そんな馬鹿なことをやっているのです。まったく、情けない」


(´・ω・`)「地平、その話はもうするんじゃないよ。父上や兄上たちに叱られるのは嫌だろう?」


彼の友の姿は、地平以外には見えないままだった。
どれだけ訴えても、地平の話を信じるものもいなかった。
それが何度も続けば、両親は地平が「友」という言葉を口にするだけで怒るようになる。

『これ以上ありもしないことを口にするならば、座敷牢に入れてしまうぞ。』
そう、言われてしまえば、地平は黙り込むことしかできなくなってしまった。


('A`)、

( ´ω`)「だいじょうぶだお。僕にはちゃんとわかってるから」

(`A')ノ

( ´ω`)「うん。でも、……ごめんだお」


小さな友たちはたしかにここにいる。すぐそこにいて、こうして慰めてくれる。
どうして他の者には見えぬのだろうかと、地平は一人、涙をこぼした。

11 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:38:32







川 ゚ -゚)

(; ^ω^)Ф「ちがう? ここは、もっと……こう?」

川 ゚ -゚) ))

(*^ω^)Ф「お、よくなったお」


地平は友たちのことを、人に話すのを止めた。
それでも、小さな友たちを描き続けることはやめなかった。
「馬鹿なこと」と言われようと、ため息をつかれようと、苦笑いされようとも、地平は決して折れなかった。
地平はこの小さな友たちを大切に思っていたし、それに応えるように彼らも地平の側にあり続けた。

12 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:40:17


((ノパ听)つ( ^ω^)

( ^ω^)「ん? どうしたお?」

ヾノハ*゚听)ノシ

(*^ω^)「そうかおそうかお」

ξ゚听)ξ

( ;^ω^)「ん? つん?」

ξ#--)ξ

(; ゚ω゚)「え? なんで、怒ってるんだお?」


人から馬鹿にされることもあるが、友たちに囲まれ愛おしまれて。
地平は健やかに、日々を重ねていった。

13 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:42:11
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やがて地平は元服を迎えた。

家の跡目は継げず、養子も婿入りの話もない。
しかし、息子をそのまま放り出すには、内藤家はいささか身分が高すぎる。
地平とその上の兄は、家を出ることもままならないまま、日々を送っていた。


(´・ω・`)「長男でなかった以上、こうなることはわかっていたさ」

( ^ω^)「そうなのかお?」

(´-ω-`)「そういうこと。お前も、父上や兄上たちに何を言われても気にしてはいけないよ」


次兄の言いたいことはよくわらぬが、そういうものなのかと地平は頷いた。






次兄の言葉を証明するように、家の者からは小言や馬鹿にする言葉が増えた。
近隣の者たちが地平を笑う声は、密やかではなく、あからさまに向けられるようになった。

14 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:44:15

J( 'ー`)し「地平、お前また絵なんて書いて」
  _
( ゚∀゚)「お前は気楽な身の上でいいな。少しは俺を見習ってみたらどうだ?」

(#ФωФ)「地平、お前というやつは!」


しかし、そんな日々が続いても、地平はさして変わらなかった。
気にするなという、次兄の言葉もある。
しかし、それ以上に大きかったのは、絵のことである。


( ^ω^)Ф「あの絵の青の色。いつか使ってみたいお……」

川 ゚ -゚) ))


地平の頭は常に絵のことでいっぱいであった。

何をしていても、次は何を書こうか。ここにあの色をつかったらどうかということばかり浮かぶ。
ひとたび絵について考え出してしまえば、もうそれしか考えられない。
聞こえる言葉は全て右から左へと消えていき、何を言われていたかも覚えていない。
毎日がそんな調子だったから、しまいには親たちも小言を言うことを諦めてしまった。

そして、地平は相も変わらず、小さな友と語らい、絵ばかり描いて暮らしていた。

15 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:46:12
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そんな、彼の暮らしに変化が訪れたのは、ある夏のことだった。


その数年前、内藤家の長兄は祝言をあげた。
やがて元気な男児が産まれ、内藤家は喜びにつつまれた。
地平も大いに喜んだ一人である。

その夏は雨が多く、いやにじとじととしていた。
春に産まれた地平の甥は、暑さをひどく嫌がった。


从;'ー'从「はいん! 男の子がそう泣いて」

从 ;∀从

J( 'ー`)し「これ、母を困らせてはなりませんよ」

从;'ー'从「〜〜っ」


子はめでたい。元気であるのは喜ぶこと。しかし、それでも限度というものがある。
昼夜を問わず大泣きし暴れる息子に、子守女どころか兄嫁や地平の母までも困り果てた。
甥は常に癇癪を起こし。夜は、地平の部屋にまで泣き声が響く有様だった。

16 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:48:10


( ^ω^)「あー、はいん。
       おじちゃんがあそんでやろうか」

J( 'ー`)し「地平。お前、またふらふらとして。
      そんな暇があるなら、内職の一つでもしなさい」

( ^ω^)「いいからいいから」


紙と硯をとって、甥の前で筆を動かす。
さらさらと描いたのは、地平の小さな友である。


('A`)

从*゚∀从


紙を差し出してみれば、あれだけ泣いていた顔が笑っている。
紙人形を作って、そこに同じ顔を描いて差し出してやれば、甥は紙が駄目になるまで決して離さぬという気に入りようだった。

17 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:50:38

  _
( ゚∀゚)「ほう。うまいもんだ」


( ^ω^)

从*゚∀从

J( 'ー`)し「地平にも、こんな特技があったとはね」


この甥は、地平の絵をいたく気に入った。
どんなにむずかっていても、地平が何かを描いてみせればぴたりと泣きやむ。
これには家の者たちも喜んだ。
幼い息子が泣けば地平が呼ばれるようになるまでに、さして時間がかからなかった。


――地平が人のために描きたいと思うようになったのは、この時からである。

己のために描いた絵で、甥が喜ぶ。それだけではなく、家の者までもが喜ぶ。それは地平にとって驚きであった。
己の絵は、自分のためだけのものではない。
それで喜ぶ人もいるということに、地平ははじめて気がついたのである。


从 ゚∀从「おじうえ!」

(*^ω^)「どうしたお?」


この甥は、成長したのちも地平のことを慕い。絵をねだったという。
そのたびに、地平はうれしそうに絵を描いたそうだ。

18 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:52:14
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大きな転機が訪れたのは、それからすぐのことだった。
ふらりと地平のもとを訪れた長兄が、だしぬけに言ったのである。


  _
( ゚∀゚)「そうだ。おまえ、猫は描けるか?」


誰よりも地平のことを馬鹿にしていた長兄。
その兄が、地平に頼みごとをした。
それも「しょうもない落書き」と馬鹿にしていた、絵のことである。
地平は兄を恐れながらも、続きを促した。


(;^ω^)「ねこ、かお?」
  _
( ゚∀゚)「そうだ。ここのところ、鼠が多くてな。
     しかし、猫はどこでも入り用みたいで、困ってたんだ」

( ^ω^)「はあ」


猫の絵があれば、鼠がそれを怖がる。
信じられない話ではあるが、兄によるとそういうものらしい。
そして、兄はそのための鼠よけの絵を、地平に描けと言いたいらしい。

19 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:54:16

  _
( ゚∀゚)「明日までに頼む」

(;^ω^)「う、あ……はい」


三男で家も継げず、養子や婿に行く先もない地平は、父と兄に食わせてもらう立場だ。
それに兄は昔から力が強く、剣の稽古と称してさんざん頭を殴ってくるような男だった。
その兄に逆らうことなどできず、地平はうなずくしかなかった。


( ^ω^)「猫。猫かぁ」

ξ゚听)ξ

( ^ω^)「うーん。描けるほど見たことないんだお」


ξ゚听)ξつ(,,゚Д゚)


(;^ω^)「義古、かお?
       うーん。でも・・・・・・いい、のかお」

(,,-Д゚) ))

( ^ω^)「じゃあ、やるお」

20 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:56:15


翌日、地平は描いた絵を兄に渡した。
急いで描きあげた絵に、兄は笑顔を浮かべたが、いざ現物を見ると首をかしげた。


(,,゚Д゚)

  _
( ゚∀゚)「なんだこりゃ。虎か?
     頼んだのは猫だが、まぁ強そうでいいや」

从*゚∀从「父上、おれにもおれにも!」
  _
(*゚∀゚)「これは猫にするから、おまえにはやらん」


(;^ω^)


叱られると地平は恐れたが、兄ははるかに上機嫌だった。
長兄は地平の絵を台所に飾らせると、これで鼠も大丈夫だと笑った。

21 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 21:58:49


(;^ω^)「だいじょうぶ、かお?」

(,,゚Д゚)+

( ^ω^)「それなら、いいんだけど」


あの絵は効くのか。
地平は心配したが、その心配は杞憂に終わった。
地平の絵を飾ったその日から、鼠はぴたりと出なくなった。
偶然なのか、それとも地平の絵がきいたのかそれはわからない。







(*^ω^)「よしっ、できたお」


それからしばらくして、地平は猫を描いた。
各家を回って猫を見せてもらい、苦心しながら描きあげたものだ。
この猫の絵は、地平の友の絵と並んで貼られ、屋敷を長く守ったという。

22 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 22:00:35
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猫の絵を見てから、長兄は地平の見方を変えたようだった。
口の悪さは相変わらずだったが、地平を認める言葉もたまにはつぶやくようになった。
時には、絵をいくつか頼むこともあった。

  _
( ゚∀゚)「なぁ、地平。お前、人に絵を描いてやっちゃあどうだ?
     俺は難しいことはわからんが、人を紹介してやるくらいはできる」


そして、長兄は地平に絵師になるように勧めた。

  _
( ゚∀゚)「じいさまの実家があるだろ。
     そこの猫が年をとってきたようだから、かわりに猫絵を贈りたいんだ」

( ^ω^)「長岡の大伯父上かお」


地平の描いた絵は、それはもう喜ばれた。
すると、その評判を聞いたものから、注文が舞い込むようになった。
地平の絵を掛ければ、ぴたりと鼠がこなくなる。
評判が評判を呼び、地平は忙しさで目も回るほどだった。

23 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 22:02:26

地平への注文は続いた。
猫絵なんて眉唾な話を信じるのも恥ずかしいと思っていた者たちも、次第に地平の元へ押し寄せるようになった。
そんな者の中にはナマズの絵を求めてくる者もいた。なんでも地震よけのお守りにするという。
地平は困ったが、そんなときには次兄と甥が力になった。


(´・ω・`)「ナマズか。そういえば、生きているものとなるとなかなか見ないね」

从 ゚∀从「釣ればいいんじゃない?」

(;´・ω・`)「僕たちで、釣れるかな……。それよりも、人に譲ってもらったほうがいいんじゃないかい?」

从 ゚∀从「ちぇー」


その後、次兄が手に入れてきたナマズで、地平は絵を描いた。
甥とともにナマズを眺め、撫で回しながら描いた鯰絵は、地平が思った以上によい出来だった。

24 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 22:04:25


(*^ω^)「ナマズ……蒲焼きもいいおね」

从 ゚∀从「食べんの? これ食べんの?」

(;´-ω-`)「まったく。お前たちというやつは……」


三人で顔を、見合わせて笑う。
父や長兄に見られたらきっと、大切な跡取りに何をさせていると、大目玉を食らうことになるだろう。
それでも、三人で過ごす時間は楽しかった。

小さな友たちと語らい、遊ぶのはもちろん楽しい。
絵を描くのも、人の役に立つのもうれしい。
しかし、このように家の者とただ親しく語らうのはこんなにも楽しいものなのだ。と、地平ははじめて知った。

25 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 22:06:43

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―



(´・ω・`)「なあ、地平。
      お前に少し相談があるんだけど、よいかい?」


次兄にそう相談されたのは、ある春の日だった。
最近になって、ようやく婿入り先の決まった兄は、ここのところずっと忙しそうにしていた。
これまで部屋に篭って勉学三昧だったのが嘘のように、やれあいさつ回りだ、身支度だと、慌ただしく走り回っていた。


(´・ω・`)「地平。お前、絵を描くのは好きかい?」

(*^ω^)「うん。好きだお!」


地平はこの次兄を慕っていた。
常に学問、学問と机にむかってばかりのこの兄は、地平にそう厳しくない。
「まったくお前は」などと、口にしながらも、たまに顔を合わせると、こっそりと菓子をくれた。
甥と三人でナマズを手に入れて回ったのは、地平の一番の思い出だ。

26 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 22:08:27


(´・ω・`)「くれぐれも、父上と兄上には内密に。ね?」

(*^ω^)「わかったお!」

(;´・ω・`)「大丈夫かな。お前は昔から、心配なところのある子だけれど」


次兄はそこで言葉を切ると、部屋を落ち着き無く見回した。
父や長兄が来ないかと警戒しているのだろう。続く言葉はなかなかない。
ひとしきり気配をうかがって、ようやく安心したのか、次兄は声を上げた。


(*´・ω・`)「地平。お前……は、花は描けないかい?
      に、女人がっ好みそうなものなら、他のものでもよいのだけど」


次兄の声は、小さくひそめられている。
その顔には朱が登り、ところどころ言葉を詰まらせている。
学問以外にはとんと興味の薄い次兄らしくない姿に、地平は驚いた。

27 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 22:10:21


(*´・ω・`)「うちは身分だけはあるが、さほど裕福とは言えないだろ。僕も部屋住みの身の上だ。
       だけど、つ、妻となってくれる人に贈り物のひとつもしてやりたいと思ってね」

(*^ω^)「そうなのかお」

(*´-ω-`)「縁あって一緒になってくれる人なんだ。
       たとえそれがお家のためであっても、……め、夫婦になるのなら何かしてやりたいじゃないか」

(*^ω^)「兄上はすごいお」

(*´・ω・`)「そ、そうかい?」


慕う兄が自分を頼りにしている。
それも自分の好きな絵でのことだ。
自分の絵が、兄の役に立つのなら、こんなにうれしいことはない。
地平はなんとかして、次兄の役に立とうと決めた。

28 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 22:12:19


(*^ω^)「絵のことなら僕に任せてくれお!」

(*´・ω・`)「引き受けてくれるのかい? うれしいなぁ」

(*^ω^)「僕が、兄上のために最高の絵を仕上げるお」

(´・ω・`)「ありがとう、地平。感謝の言葉もないよ。
      ああ、でも……」


(;´-ω-`)「くれぐれも父上や兄上には内密にだよ。
       これ以上、軟弱者だと叱られたくないからね」


その日から、地平はひたすら花を見て回った。
これまで関心がなかった花は、じっくりと観察してみれば思いの外美しいのだということを地平は知った。
庭に咲く鮮やかな花、木に芽吹く花、鉢で端正に育てた花、路地に芽吹くささやかな花。
目にする花はどれも、美しかった。

29 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 22:14:14

( ;-ω-)「うーん。どれもよくて悩むお」


ξ゚听)ξノシ( ^ω^)

( ;^ω^)「つん」

ξ*゚听)ξつ@ ))

(*^ω^)「この花かお? うん、いいおね!」

(( ※ヽ('A`)ノ* ))

(*^ω^)「おお、そっちもいいおね」


悩んだ末に描き上げた絵を、地平は兄に贈った。
次兄はよろこんで地平の絵と花を、婿入り先の家へと贈った。
そのあと、次兄と女の間でどんな言葉がかわされたのか、地平は知らない。

30 名前:以下、名無しにかわりまして( ^ω^)がお送りします[] 投稿日:2016/11/19(土) 22:16:32


地平が、件の女を見たのは祝言の席のこと。


( ‘∀‘)´・ω・`)


兄の妻となった女は、花のように美しかった。
瞳を輝かせ、口元には淡い微笑み。そこには、この婚礼に対する喜びが確かにあった。
その隣に並ぶ次兄は、これまで見たなかで一番、きりりと引き締まった顔をしていた。

  _
(* ゚∀゚)「めでたいことだ」

(*^ω^)「そう、だおね」


祝言の席は華やかだった。
次兄は賢く、優しい。二人は似合いの夫婦になることだろう。


( *‘∀‘)´・ω・`)

( ^ω^)


その姿を描いてみたいと、心の底から思った。
地平はこれまでずっと、小さな友や生き物を描いてきた。
そんな彼がしっかりと人を描こうと思ったのは、これがはじめてである。

後日、地平はこの祝言を描き上げた。
その絵は新婚夫婦へと贈られ、二人をたいそう喜ばせたという。

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