2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
( ^ω^)時計の国とラノベ祭のようです
  その2
    サムネ有り サムネ無し



53 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:12:36 ID:ksyKNxfAO


川 ゚ -゚)「今年もシタラバニアは祭に参加出来ないか」

 夕方。「ツンちゃんのお悩み相談室」のリビング。

 キッチンを向く形で設置されたカウンターテーブルの前で、
 椅子に座っているクールが、新聞を眺めながら呟いた。
 紙面は間近に迫るラノベ祭一色だ。

ζ(゚ー゚*ζ「そりゃ、『魔法の国』はねえ。
      みんな嫌がっちゃうし」

 隣で、デレが答えた。
 彼女の手には例の、がらくたで出来た「歯車王」があった。

54 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:13:47 ID:ksyKNxfAO

ζ(゚ー゚*ζ「あ、ドクオさん、オレンジジュースください」

('A`)「俺は雑用かよ」

川 ゚ -゚)「私も飲みたいな」

(*'∀`)「かしこまりましたー!!」

ζ(゚、゚;ζ「扱いが違う!」

('A`)「お前は敵だ。いつもクー様といちゃいちゃしやがって」

ζ(゚、゚;ζ「いちゃいちゃしてないですよクーちゃんが勝手にくっ付いてくるだけですよ」

 すぐ目の前で夕食を作っていたドクオは火を一旦止めて、
 手早く2人分のオレンジジュースを用意し、カウンターの上に置いた。
 料理を再開させる。

 ツンがニューソクから制服を取り寄せたついでに購入したという、ニューソク鶏のソテー。
 ニューソク産の胡椒が肉の香ばしさを後押しし、焼ける音はじゅわじゅわと心地いい。
 さすが「料理の国」ご自慢の食材。

 こんな風に、キッチンで炊事をする者と対面しながら会話が出来るのは、悪くない。
 参考になるし、漂う香りが食欲を刺激する。

55 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:16:26 ID:ksyKNxfAO

川 ゚ -゚)「手伝おうか」

(*'∀`)「いやっ! どうぞクー様はお座りになって!」

ζ(゚ー゚*ζ「ねえねえドクオさん、この歯車王って、何か出来ないんですか? 勝手に歩いたりとか」

('A`)「あ? まあ、物さえ揃えば何でも出来るようになるな。
    後で適当な部品ぶち込むつもりだが」

川 ゚ -゚)「ほう。ドクオは本当に器用だな。
     さすが、ヴィップのロボット会社に引き抜かれそうになっただけある」

(*'∀`)「クー様! ありがたきお言葉!!」

 元々、ドクオは機械を扱う会社に勤めていたそうだ。
 主にロボット関係の製造に携わっており、その腕は誰からも認められていたらしい。
 やがて機械産業のメッカ、「機械の国」ヴィップの巨大会社から引き抜きの声が掛かった。

 このままエリート街道へ乗るかと思われたが──間の悪いことに、
 彼は反時計症を発症してしまった。

 反時計症の人間は他国の会社になど勤められない。文字通り命取りとなるのだから。
 また、幼くなればなるほど、大きな工具を満足に扱えなくなる。
 打たれ弱いドクオは、転落する一方だった。

56 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:18:14 ID:ksyKNxfAO

 そして自殺しようとしたところを、たまたま居合わせたクールが助けたというわけだ。
 以来、気持ち悪いくらい懐かれている。

 ドクオは下の階に住んでいるのだが、クールのためとさえ言えば
 料理も掃除もしてくれるので、まあ便利と言えなくもない。

川 ゚ -゚)「ツン達はまだ話してるのか」

ζ(゚ー゚*ζ「そうみたいだね」

 クールは応接間のある方向へ視線を投げた。
 ブーンとツンは、祭における警備の配置や持ち回りの話し合いをしている。

 新聞を畳み、クールは腰を上げた。
 ジュースを一気に飲み干して、空いたグラスをドクオに手渡す。

 そのまま、ベランダへ出た。

57 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:20:30 ID:ksyKNxfAO

川 ゚ -゚)「……真っ赤だ」

 夕焼け。
 空が赤い。

 クールは、この時間帯にベランダから街を見下ろすのが好きだ。
 文具店や飲食店の看板、デパートの宣伝バルーン、商店街の入口。
 たくさんの人々が行き来している。

 「呑み所」だの「らぁめん」だのと書かれた看板達は、ニューソクの流れを汲んだ店のもの。
 商店街やデパートといった形態は、ヴィップ独自のもの。
 ソウサクには他国の文化が多く存在している。

 そんな街の中で最も人々の目を引くのは、ソウサクの象徴とも言える時計塔だった。





 科学技術の最先端を行くヴィップでは数字だけが表示される型(デジタルと呼ばれているる)の時計が主流だそうだが、
 ここ、ソウサクが誇る時計の技術は、ヴィップに引けを取らない。

 ニューソクではソウサクが作る時計の方が人気だと聞く。
 ただ数字を見るだけより、一秒一秒、時を刻む針の趣を楽しもうということだろうか。

58 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:23:02 ID:ksyKNxfAO

川 ゚ -゚)(いつ見ても壮観だな)

 時計の下には、大きな扉がある。

 あの中には時計を動かすための仕掛けや、
 国民の暮らしに必要な装置が詰め込まれている。
 一般人が入れることは、滅多にない。

川 ゚ -゚)(……綺麗だ)

 夕日の色に染まる時計。
 秒針の動きにつれて、だんだん暗くなっていくようで。
 クールは、口元を緩めた。



# # #

60 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:25:56 ID:ksyKNxfAO


ξ゚听)ξ「あと、祭の前日に、あの時計塔の飾り付けを手伝わなきゃいけないから」

( ^ω^)「えー。マジかお」

ξ゚听)ξ「マジ」

 応接間。
 警備の話も終わったのでさて帰ろうかというときに、とても嫌なことを聞いてしまった。

( ^ω^)「手作業で? ヴィップのロボットにでもやらせればいいじゃないかお」

ξ゚听)ξ「あんまりヴィップに頼りすぎると、主催国としての面目が立たないでしょ」

( ^ω^)「警備の段階でヴィップやニューソクに頼りまくりのくせに」

ξ;゚听)ξ「私に文句言わないでよ」

 あんな巨大なものを、手作業で飾り付けねばならないとは。

 梯子を登って、重たい布や花を貼りつけることになるだろう。
 面倒臭い。
 考えるだけで、とんでもない労力だ。

61 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:28:06 ID:ksyKNxfAO

( ^ω^)「魔法が使えたらどんなに便利だろうかお……。
       それなら材料費もかからないし……」

 思わず呟いていた。
 ツンが顔を顰める。

ξ゚听)ξ「それ、外に出て大声で言ってごらんなさいよ。
      たちまち石を投げられるわよ」

( ^ω^)「分かってるお、ただ言っただけじゃないかお。ちょっとした思い付き」

ξ゚听)ξ「思い付きでも、滅多なこと言うもんじゃないわ」

62 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:28:52 ID:ksyKNxfAO

( ^ω^)「……でもねツン、僕は、たまにシタラバニアの人が可哀想になるんだお。
       いくら魔法使いが恐ろしいとはいえ、祭にも参加させてもらえないなんて」

 ツンは呆れ顔だ。
 ブーンだって、自分の発言が愚かなことは分かっている。


 シタラバニア。
 魔法の国。
 魔法使いが住む国。

 世界中から嫌われている国。

.

63 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:32:24 ID:ksyKNxfAO

 大昔はどの国も仲が良かったらしい。
 いや、仲がいいというか、互いに認め合っていた。

 しかしヴィップの技術をもってしても、「魔法」というものが解明されることはなく。
 そのせいで、シタラバニア以外の国民は徐々に、シタラバニアを恐れるようになった。

 誰だって、自分の理解が及ばないものへは恐怖と嫌悪を抱く。
 それに、魔法が使えれば、ソウサクの時計もヴィップの機械もニューソクの料理も、
 人間さえも、どうにだって出来るのだ。あまりにも恐ろしい。

 だからソウサクとヴィップ、ニューソクの三国は、シタラバニアとの交流を絶ったのだという。
 現在、シタラバニアの周りには高い壁が置かれている。
 魔法の力を通さない、特殊な鉱物で出来ているそうだ。

 今もなお没交渉は続いている。
 その環境がますます、人々の中のシタラバニアに対する感情を煽っているのだろうとは思う。
 思うが、ブーン1人がどうこう出来る問題でもないし、どうこうするつもりはない。

ξ゚听)ξ「国王様に直訴する?」

( ^ω^)「まさか」

 ブーンは肩を竦めてみせた。
 そんなことを直訴するより、時計塔の飾り付けの辞退を申し出たい。



# # #

65 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:33:34 ID:ksyKNxfAO



 そうして迎えた一週間後。

 正午を知らせる鐘の音と共に、ラノベ祭が開催された。


.

67 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:38:44 ID:ksyKNxfAO


『──これより7日間に渡りますお祭りを、皆々様、どうぞ心ゆくまで──』

 アナウンスが日程を繰り返す。
 1日目は正午から夜9時まで。
 2日目から6日目までは朝10時から夜9時、最終日は朝10時から日付が変わるまで。

 それを聞きながら、ブーンは感嘆の息をついた。

( ^ω^)「すごいお、人ばっかり」

('A`)「そりゃあな」

 ブーンとドクオは時計塔の中にいた。
 四方も頭上も馬鹿みたいに広い。
 祭の期間中、警備本部はここに置かれるらしい。

 中心に並べられた数十台にも及ぶモニターには、祭の会場や路地に至るまで、
 監視カメラの映像が隈無く表示されている。

 会場を映すモニターのどれもが、人の姿でいっぱいだった。
 あらゆるところで出し物が披露され、屋台には列が出来ていて、実に賑々しい。

 「警備」は、何もブーン達のように外を見回ることだけを指すのではない。
 これらの映像を確認する者達だって、立派な警備員の1人だ。

68 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:40:53 ID:ksyKNxfAO

(,,゚Д゚)「カメラは、追跡も可能だ」

 モニターの前で男が口を開いた。
 彼はヴィップの人間で、ギコ、というのだったか。
 このモニターやカメラもヴィップから持ち込まれたものである。

 ギコはとあるモニターを指差すと、そこに映る1人の女性に指先で触れた。
 続けて手元の、よく分からないボタンが大量に付いた装置を操作する。

 途端、映像が揺れた。
 女性が歩いているにも関わらず、モニターは一定の距離を保ったまま彼女を映し続けている。

( ^ω^)「おー」

('A`)「カメラが自動で対象を追ってるわけか。飛行距離は?」

(,,゚Д゚)「この国内であれば、どこまででも。バッテリーは3日程度だがな。
     で、ここにある赤いボタンを押せば、持ち場に戻る」

( ^ω^)「とにかく不審者を見付けたら、追跡させりゃいいんですかお」

(,,゚Д゚)「ああ……とはいえ、あちこちにカメラが設置されてるからな。
     死角に入りそうなときだけ追跡させればいいんだ。
     そうでないときは、対象をモニター越しにタッチするだけで充分。後は各カメラで監視してくれる」

69 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:42:29 ID:ksyKNxfAO

( ^ω^)「ははあ。でも、こんだけのモニターから不審者を見付けるのも大変でしょうお」

(‘_L’)「勿論、全て自分で見付けろというわけじゃない」

 今度は、ギコの隣に座っていた男が答えた。
 フィレンクト。ギコの上司で、彼もまたヴィップ人だ。

(‘_L’)「これらは、映っている人間の表情や口の動き、動作等から状況を選定し、
      揉め事や犯罪行為が起きている可能性があれば、近くにいる警備員と警備ロボットに信号を送ってくれる」

(‘_L’)「私達は、機械には無い、人間の『勘』で仕事をすればいい」

('A`)「勘ねえ」

 食い入るようにモニターを見つめていたせいで、目が痛む。
 親指と人差し指で目頭を押しながら、ブーンは頭上を見た。

 機械やコードで埋め尽くされた壁。
 そこに取り付けられた梯子。一定の高さごとに、壁に添うように設置された、幅の狭い足場。

 途中から梯子は消え、これまた壁に添う形で階段がある。
 きっと一番上の時計にまで通じているのだろうが
 到達点が見えないほど高い。

 その中央にぶら下がる振り子が、左右に揺れている。
 あれが落ちてきたらモニターも自分達も潰されるだろうな、と不穏なことを思う。

70 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:43:31 ID:ksyKNxfAO

('A`)「ブーン、そろそろ行くぞ」

( ^ω^)「んあ、分かったお。それじゃあ皆さん、また後で」

 近くにいたソウサク人とニューソク人にも声をかけてから、
 2人は外の警備のために時計塔を出た。


.

71 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:45:04 ID:ksyKNxfAO


( ^ω^)「モニターで見たのも凄かったけど、現場は更に人の山だおねー」

 喧噪の中を歩き、伸びをしながら言った。
 ふうと息をついて、自身の両手を見る。

 今日は実年齢の25歳──本来の姿だ。誤差があるとしても1歳程度。
 最後にこれくらいの年齢になったのは10日前だから、随分と懐かしい心持ちになる。

('A`)「みんな笑ってやがる。
    こんな中で悪いことする奴もいるのが現実なんだよな……」

 対してドクオの方は、ブーンよりもいくらか若い。
 実年齢で言えばブーンの方が年下なので、何だかあべこべだ。

('A`)「っつうか、みんな祭を楽しんでる中で、俺は警備の仕事……不公平だ……鬱だ……」

( ^ω^)「あー、もしもしー」

 ブーンは襟元に締めたネクタイ(ニューソク発祥だと聞く)に付いたタイピンを口の傍まで持ち上げた。
 ヴィップから支給された、警備用の小型通信機である。
 裏のボタンで番号を指定すれば、対象の通信機に声が届くようになっている。

73 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:46:02 ID:ksyKNxfAO

『何よ、仕事サボってないでしょうね』

 右耳のイヤホンからツンの声がした。
 ノイズも無く、快適。

( ^ω^)「やあツンちゃん。
       ドクオが鬱陶しいから、クーからドクオに無線飛ばすように言ってくれお」

『クーに直接言いなさいよ』

( ^ω^)「ツンの声が聞きたくなったから」

『……どうせ、私の番号とクーの番号打ち間違えたんでしょ』

( ^ω^)「バレた」

『下らないことやってないで、ちゃんと見回りしてよね。
 あんたのせいで私の信用落とすようなことがあったら、報酬は出さないわよ』

 通信が切れる。
 ブーンがタイピンを元の位置に戻すと同時に、ドクオが歓喜の声をあげた。

(*'∀`)「はい! はいクー様! クー様のために頑張ります!!」

( ^ω^)(何て単純な人間なんだろう……)

 恐らくクールから何か通信が入ったのだろう。
 たちまち機嫌を良くしたドクオは、しゃきっと背筋を伸ばし、足取りを軽くさせた。

74 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:48:19 ID:ksyKNxfAO

(*'∀`)「さあ見回り見回りィ! 頑張るぞ! オー!!」

( ^ω^)「おー」

 広場を離れ、南の通りを行く。

 こちらは、出し物の中でも比較的小規模なものが集まっている。
 それでもやはり人は多い。

 人込みに酔いそうになって、ブーンは視線を上へと滑らせた。
 建物の屋上同士で繋いだロープに下げられた、有名画家達の巨大な絵。
 今回の祭のためだけに描かれた絵は、それぞれに違った趣がある。

('A`)「いやはや、時計の国っていうか、芸術の国と言ってもいいかもしれないな、ソウサクは。
    有名な画家はソウサク出身が多いとも聞くし」

( ^ω^)「お」

 ブーンの視線の先に気付いたらしいドクオが、不意にそう言った。
 ブーンは首を傾げる。

75 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:49:15 ID:ksyKNxfAO

( ^ω^)「でもヴィップが作る機械のデザインやフォルムだって芸術的だし、
       ニューソクの料理だって見た目にこだわったものは凄く綺麗だお」

('A`)「……ま、それもそうだが」

( ^ω^)「この間ドクオが作ってた歯車王は芸術性の欠片もなかったけど」

(#'A`)「ああん? 言ったな? あのなあ、歯車王はデザインより機能性を重視して──」

 ドクオの反論は、前方からの歓声に掻き消された。
 そちらを見てみれば、かなりの人集りが出来ている。

( ^ω^)「何だお?」

('A`)「あそこはヴィップの……たしか、ユトリ社のブースだったな」

( ^ω^)「ゲーム会社かお」

 なるほど、大人だけでなく子供の見物人も多い。
 2人は警備の仕事より好奇心を優先させた。
 人込みを掻き分け、ようやく前列へと出る。

76 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:50:47 ID:ksyKNxfAO

 中心には1人の男が立っていた。
 左腕に、妙な装甲をつけている。

(;'A`)「ジョルジュか? 何だよあれ」

 見覚えのある男だった。
 ジョルジュという、ブーン達の知り合いである。

 ただ──彼は、傷だらけでそこに立っていた。


 _
(;゚∀゚)「ぐっ……」

 ジョルジュの前には、プロジェクターで映し出されたゲーム画面のようなものがあった。
 画面の中には廃村らしき映像。
 どうやらプレイヤー視点のようだ。

 突然、廃墟の陰からモンスターが飛び出した。
 ジョルジュの反応が遅れ、モンスターは画面に迫る。
 モンスターが噛みつくような動きを見せた途端、ジョルジュの右腕の皮膚が裂け、血が吹き出した。

77 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:52:52 ID:ksyKNxfAO
 _
(; ∀ )「ぐああっ!!」

( ^ω^)「うわ」

(;'A`)「おいおいおい、ブースの管理者はどこだ!?」

 ドクオが辺りを見回している内に、ジョルジュは体勢を立て直して左手を振りかぶった。
 装甲に付いている目玉が赤く染まり、がちゃりと音を鳴らす。
  _
(#゚∀゚)「うおおおお!! 喰らえぇえええええ!!」

 咆哮。
 ジョルジュの左手が宙を殴り、画面のモンスターが吹っ飛んだ。

 数秒おいて、画面が緑色になる。
 そこに次々とタイムやヒット数などのスコアが表示された。

 「ランクA」。
 最後にその文字が出るや、再び歓声が上がる。

 途端、ジョルジュの体から傷が消え失せた。
 彼のもとへ駆け寄った女性が装甲を外し、
 ジョルジュが両手を上げると、観客は一層沸いた。

78 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:54:03 ID:ksyKNxfAO

 女性が右手に装甲、左手にマイクを持って口を開く。

从 ゚∀从「──と、このように、新作ゲームでは更なる臨場感を楽しんでいただくために
     完全体感システムを搭載しており──」
  _
( ゚∀゚)「あーあ、Sランクは出なかったか。……ん、何だ、ブーンとドクオじゃねえの」

(;'A`)「よ、よう」

 観客の方へと歩いてきたジョルジュは、2人に気付くと、へらへら笑いながら声をかけてきた。
 今のは一体何なのかというブーンの問いに、ジョルジュが楽しげに答える。
  _
(*゚∀゚)「ユトリ社の新作。敵に攻撃されると、実際に血が出るんだ。ホログラムだけどな。
     おまけに負傷した箇所が、ぴりっと痺れる。少しだけだから痛くない。
     面白いぞ。デモプレイさせてもらえるし、お前らもやってみろよ」

('A`)「へえ。そりゃすげえ。でも生憎、仕事中なんだ」
  _
( ゚∀゚)「仕事? ……ああ、そっか、警備手伝わされてんだっけか」

( ^ω^)「だお」

79 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:55:03 ID:ksyKNxfAO
  _
( ゚∀゚)「何か武器とか持たされてねえの? いざってときは射殺OK! みたいな」

(;'A`)「本職の奴らは持ってるだろうが、俺らは無理だ」
  _
( ゚∀゚)「ふうん。銃とかレーザーってゲームでしか持ったことねえから、興味あったんだけどな」

 まあ頑張れよ。
 そう言って、ジョルジュはブースを離れていった。

('A`)「……あいつは本当にゲーム好きだな」

( ^ω^)「ちょっと物騒なゲームばっかだけど」

 向こうでジョルジュがくしゃみをする。
 2人は互いを見交わし、苦笑した。



# # #

80 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:57:24 ID:ksyKNxfAO


『ブーン、時計塔前の広場に移動して。私達が南通りに行くから。
 広場の東通り近く、お願いね』

( ^ω^)「はいはいおー」

 3時間ほど経った頃、ツンの指示が入った。
 本部に連絡してから、通りを抜け、広場へ移動する。

 広場は一層賑やかだ。
 東と北の通りから、料理の香りが漂ってくる。
 今年も屋台の人気投票をやるならば、例年通り、ニューソクが1位を持っていくだろう。

('A`)「最終日はここで流石一座の公演がある。
    多分、来客はその日が一番多いだろうな」

( ^ω^)「流石一座! 去年は凄かったおねえ」

 昨年、ヴィップで行われたラノベ祭の締めを飾った、流石一座の公演を思い出す。
 舞台がヴィップということもあり、からくりをふんだんに利用した豪華な演目だった。

83 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 20:59:06 ID:ksyKNxfAO

( ^ω^)「サーカスに売られた姉妹がスターにのし上がってく、ミュージカル仕立てのドラマで」

(*'A`)「団長役の兄者達の演技が小憎たらしいったらなかったな。
    そんで、また、姉者さんの綺麗なこと綺麗なこと。姉者さんのファンなんだよ俺。
    まあクー様には敵わんが」

(*^ω^)「僕は妹者ちゃん派だお。
       あのときはツンとデレも脇役として出演したけど、反時計症の影響で2人共小さくて可愛くて!!
       ありゃ堪んねえお本当ずっと小さければいいのに」



(*'A`)「流石一座の映像ディスク、去年の公演のが一番売れたそうだ」

(*^ω^)「そりゃ、あんだけ可愛い女の子が出てりゃ──」

(´・ω・`)「あれ、ブーン達じゃないか」

(*^ω^)「──お」

 後ろから掛けられた声に振り向けば、そこには友人が立っていた。
 時計塔の近くにある居酒屋、「呑み所 庶煩」の店主であるショボン。
 ニューソクで修行しただけあって、人気は高い。

 ブーンとドクオは咳払いをし、ショボンへ向き直った。

85 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:00:53 ID:ksyKNxfAO

( ^ω^)「屋台はどうしたんだお」

(´・ω・`)「盛況すぎてね。居酒屋に材料を取りに戻るところさ。
      2人共、今年は警備やらされるんだって? 頑張ってね」

( ^ω^)「頑張るおー」

('A`)「正直、ほぼ機械頼りだけどな」

(´・ω・`)「まあヴィップの技術があればそうなるか。
      そういや時計塔の飾り付けも手伝ったそうだね」

( ^ω^)「おかげで碌に寝てないお」

 3人は同時に時計塔を見上げた。
 花やリボン、針金細工に彩られた時計塔を見る度、
 昨夜から朝方までの苦労が蘇る。

86 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:01:27 ID:ksyKNxfAO

(´・ω・`)「その甲斐あって、時計塔がますます立派になったじゃないか」

('A`)「そう言われりゃ救われるや」

( ^ω^)「ほんとに。
       ……ったく、ショボンと話してると酒が飲みたくなって仕方ないお」

(´・ω・`)「残念、今年は日中に屋台で酒を出すのは禁止されてるんだ。
      ニューソクには20歳未満は飲酒禁止って法律があるからね。
      だから、屋台で酒が出されるのは夜になってから日付が変わるまでだよ」

( ^ω^)「それは残念なことで。
       ああ、早く夜にならないかお……」



 その言葉が落ちた瞬間。

 ぎぎ、と、重く、不快な音が響き渡った。

87 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:02:36 ID:ksyKNxfAO

 音は止むことなく鳴り続け、反対に人々の喧噪は徐々に収まり、
 皆、不安げな表情で互いに顔を見合わせている。

('A`)「──上だ」

 ドクオが言うまでもなく、全ての人の目が上へ向かっていた。

 その先は──時計塔。

( ^ω^)「は」


 時計塔の針が、有り得ない速さで回っている。

 秒針が回り、長針が回り、短針が動く。

 3時を示していた時計は、4時を指し、5時を指し、6時を指し──
 それに合わせて、日が落ちていく。

89 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:05:12 ID:ksyKNxfAO

 やがて時計は、9時を指して止まった。
 秒針も長針も短針も、全てがぴったりと。

 そして辺りは真っ暗になっていた。

 突然のことに、誰も動けない。
 たっぷりと間をあけてから、街灯やステージの電飾に明かりが灯される。

 そこかしこに設置されているスピーカーから、運営のアナウンスが流れた。


『──皆様! 速やかに近くの建物へお入りください!
 決して1人にならず、子供を優先させて──』


 ぶつり、アナウンスが途切れる。
 先程ついたばかりの明かりが次々に消えていき。


 何もかもが完全に沈黙した。


 ブーンが、停止した思考を無理矢理に動かし始める。
 何かのイベントか? 聞いていない。これほどの規模なら、警備員にはあらかじめ通達される筈。
 そもそも。

 こんなこと、どの国の技術でも──無理だ。

91 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:08:13 ID:ksyKNxfAO

 ついに1人の声が上がる。
 それは誰もが到達する答え。

「──魔法だ」

 この場を恐慌状態に叩き落とすには、充分すぎるほどの。


「魔法だ! ──魔法使いが来たんだ!!」


 一斉に人の波が動いた。

 流れに巻き込まれ、ブーンの足が浮かぶ。

 そのまま押し出されるようにして、彼は倒れた。
 幾人もの足に蹴られて、踏まれて。



 意識が、闇に塗り潰された。



# # #

94 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:09:21 ID:ksyKNxfAO


( ‐ω‐)

( ‐ω^)

( ‐ω‐)

( ^ω^)

 ブーンは身を起こした。
 全身が痛み、気を失う寸前に散々蹴られたのを思い出した。

 依然として暗い。広場に人気は無し。
 辺りの建物から、ざわざわと物音や話し声が聞こえる。
 全員、避難は済んだようだ。

(;-A-)「うう……」

( ^ω^)「あらやだ」

 ドクオが横にいた。
 ブーンと同じ目に遭ったらしい。

 とりあえずドクオを叩き起こし、状況を確認した。

95 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:10:26 ID:ksyKNxfAO

(;'A`)「いてて……おい、無線は使えるか?」

( ^ω^)「あー……無理だお」

(;'A`)「マジかよ。クー様が心配だな……」

( ^ω^)「多分、避難した人達と一緒にいると思うけど。
       ……その辺の店に入るかお、僕達も。
       本当に魔法使いが出たなら危険かもしれんお」

('A`)「だな。ったく、魔法って何でもアリだな」

 腰を上げる。
 服を払うドクオに、ふと、ブーンは訊ねた。

( ^ω^)「ドクオ、知ってるかお?
       『シタラバニアの夜』」

('A`)「いいや」

96 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:12:15 ID:ksyKNxfAO

( ^ω^)「ニューソクにある童謡だお。前にショボンから聞いたんだけど。
       『シタラバニアの夜は恐い恐い。もしも人間が出歩けば、
       おばけに見付かり食べられる』」

( ^ω^)「これが一番。二番以降は知らんお」

('A`)「ふうん。……おばけって何だ? 動物?」

( ^ω^)「死んだ人間の魂とか、怪物を総称して『おばけ』と呼ぶらしいお。
       ニューソクではよく聞く話だとか何とか」

('A`)「死んだ人間? 生き物は死んだら魂も無くなって終わりだろ?
    怪物だって想像上のもんだし。それが出てくるって、どういうことだ?」

( ^ω^)「『どういうことか』が分からないのがミソなんだお。
       有り得ないものが実は居るかもしれない、って考えて怖がるのを楽しむんだろうお」

('A`)「なるほどね」

( ^ω^)「魔法のせいでここが夜になったんなら、これもシタラバニアの夜ってことで
       おばけが出るかもしれないおね」

 2人とも、存外余裕があった。
 どうでもいい話をしながら、どの建物に入ろうか見渡して──

97 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:14:11 ID:ksyKNxfAO


川д川


 突如、目の前に髪の長い女が現れる。
 ブーンもドクオも、反応出来ずに固まった。

( ^ω^)('A`)

 本当に突然だった。
 先程まで見落としていたとか、そういうことでなく。
 本当に突然、ぱっと現れた。

 お互い、動かない。
 睨み合い──女の髪が長すぎて、目が見えないのだが──と、
 沈黙に耐え切れなくなったのはブーンだった。

( ^ω^)「……どちら様ですかお」

 返答次第では保護する。
 返答次第では逃げる。

川д川

 女が首を傾げた。
 下方へ髪が下がり、片目が露になる。
 その目は、ブーンとドクオを交互に見て、それからブーンに落ち着いた。

98 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:14:57 ID:ksyKNxfAO



川д゚川「……私のこと、好き……?」



 示し合わせるまでもなく、男2人は駆け出していた。



# # #

99 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:15:41 ID:ksyKNxfAO


(;^ω^) ゼーハーゼーハー

(;'A`) ゼヒューゼヒュー

 約3分後。
 2人は、東通りの端でへたり込んでいた。
 先の女はいない。撒けただろうか。

(;^ω^)「さっきの何」

(;'A`)「俺が、し、知るかよ……っ、げほっ」

 そうは言いつつ、互いに互いの思考は大体読めた。

 魔法使い。
 それしか考えられない。

(;^ω^)「……どうするお」

(;'A`)「さっきのに見付かんねえように、どっかの建物に入る。とか」

 汗を拭う。
 月明かりの中、無人の屋台が連なっている。
 空っぽの容器が風で転がり、からからと音を立てた。

100 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:16:43 ID:ksyKNxfAO

 ──不意に、ブーンは振り返った。

( ^ω^)「声がするお」

(;'A`)「あ?」

( ^ω^)「女の子が泣く声」

 押し殺したような泣き声が聞こえる。
 ブーンはドクオの制止を無視し、そろそろと声の方向へ歩いていった。

 声は、ある屋台の中からしていた。
 ニューソクの名物の、とあるお菓子の屋台だった。
 手で持つと硬いのに、口に入れた途端にとろりと蕩ける、クリーム味の飴。

( ^ω^)「……お嬢さん」

*( ;;)*「……あう」

 大量に散らばった飴の傍に、彼女はいた。

 幼い女の子。
 ブーンを見るや逃げようとしたが、そっと涙を拭ってやると大人しくなった。
 屈み込み、少女の顔を覗き込む。

101 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:17:57 ID:ksyKNxfAO

( ^ω^)「こんなところで、どうしたんだお」

*(。‘‘)*「……お母さんと逸れて、いっぱい人が走って、ヘリカル転んじゃって、それで、怖くて、」

( ^ω^)「ヘリカルちゃんっていうのかお?
       ヘリカルちゃん、どこの国の子だお」

*(。‘‘)*「ニューソク……」

( ^ω^)「何歳だお?」

*(。‘‘)*「8歳」

(*^ω^)「おっふ……それはそれは……」

(;'A`)「お、おい、そいつ、さっきの奴の仲間じゃねえだろうな」

( ^ω^)「ドクオ。何てこと言うんだお。ヘリカルちゃんに失礼だお」

(;'A`)「でもよお」

( ^ω^)「それに、たとえヘリカルちゃんが魔法使いでも、
       こんなに可愛いんだったら僕はもうどうなってもいいお」

(;'A`)「わーい! 1人でくたばれ馬鹿!!」

102 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:19:54 ID:ksyKNxfAO

 さて、さっさと逃げなかったのが悪いのか、ドクオが大きな声を出したのが悪いのか。

川д川「みいつけたあ……」

( ^ω^)('A`)*(‘‘)*


 先程の女が、屋台の上からブーン達を見下ろしてきた。


 2度目の遭遇ともなれば、対処も早い。
 ブーンはヘリカルを小脇に抱え、ドクオはブーンの襟を引っ張って立ち上がらせ。
 そうして、同時に走り出したのであった。



(;^ω^)「あーもう嫌んなっちゃう!!」

(;'A`)「うおっ、追っかけてきてんぞ!!」

*(;‘‘)*「あ、あの、あれ誰ですか」

 「こっちが訊きたい!」。
 ブーンとドクオの声が重なった。



# # #



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