■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└( ^ω^)時計の国とラノベ祭のようです
└その3
└サムネ有り サムネ無し
- 103 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:22:48 ID:ksyKNxfAO
面倒なことになった。
ある店舗の中、ぎゅうぎゅうに詰められた人、人、人。
ニュッは何度目ともつかない溜め息を吐き出した。
(;^ν^)(シナー達はどこ行ったんだよ)
南通りで反時計症の人間がいないか探していた最中に
いきなり暗くなって、アナウンスが流れて、アナウンスが切れて、
魔法使いがどうたらこうたらと騒ぎになって、近くにあった店にみんな逃げ込んで。
今に至る。
見た限り、ニュッに誘拐の話を持ち掛けた「共犯者」達はここにいない。
これからどうしたらいいのか分からなかった。
困っているのはニュッだけではない。
明かりがつかない上に、ありとあらゆる連絡手段が途絶えているため
誰も身動きがとれないでいた。
この状況も長くは持つまい。
何が何だか分からぬまま、みんながみんな、じっとしていられるわけがないのだ。
「──おい! 外はどうなってるんだ!」
そら、来た。
- 104 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:24:22 ID:ksyKNxfAO
「いつまでここに居ればいいんだ?」
「私が分かるわけないじゃない!」
「一旦、外の様子を見に行くしかないんじゃないか」
ζ(゚ー゚;ζ「あの! 落ち着いてください!!」
そこへ、少女の一喝が響いた。
しんと静まり返る。
ζ(゚ー゚;ζ「もう少し時間が経てば、国王直属の警備部隊が動く筈です。
だから、どうか、しばしの辛抱を」
月光の差す窓辺に、少女が2人立っていた。
黒髪の少女と癖毛の少女。
癖毛の方は、セーラー服を身につけていた。ニューソクの人間だろうか。
- 105 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:26:21 ID:ksyKNxfAO
川 ゚ -゚)「それに、いざとなれば私達が外の様子を見てくる。
君達に勝手に動かれる方が危険だし、迷惑だ」
ζ(゚、゚;ζ「あ、その言い方は良くない」
納得した者はいないだろう。
だが、文句を言う者もいなかった。
不安に震える人間よりも、きっぱりと指示を出せる人間の方がよっぽど強い。
ニュッは壁に凭れ掛かり、ぼんやりと彼女達を眺めた。
どちらも15歳くらい。
癖毛の少女が、黒髪の少女に顔を向けた。
ζ(゚、゚*ζ「……ツンちゃん、どこ行ったかな」
川 ゚ -゚)「あいつのことだから、逃げ遅れた人間がいないかどうか確認してるかもな」
ζ(-、-;ζ「うう、姉として誇らしいやら心配やら……」
# # #
- 106 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:30:06 ID:ksyKNxfAO
ξ;゚听)ξ「──要するに、あれが何なのか分かんないわけね。
魔法使い説が一番有力だけど」
(;^ω^)「うん! ツンちゃん助けて!」
(;'A`)「ひいっ、ひいっ、ひいっ」
逃走者が増えた。
というのも先程、角を曲がったところでツンと鉢合わせたのである。
子供を抱えて走るブーン、既に体力の限界を迎えて死にそうなドクオ、追ってくる女──とくれば、
ツンも、どうするべきかは分かる。
そんなわけで、仲良く3人(とヘリカル)で並んで逃げることになったのであった。
時計塔の件から今に至るまで、逃げながら一通り説明はした。
- 107 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:31:32 ID:ksyKNxfAO
川д川「待ってよう、ねえ、ねえ、ねえ……」
*(;‘‘)*「まだ追ってきてます……」
ξ;゚听)ξ「言われなくても分かってるっつうの!」
( ^ω^)+「ツン! せっかくヘリカルちゃんが教えてくれたのに、何て言い草だお」キリッ
ξ;゚听)ξ「黙れ!」
ヘリカルを抱えている分、ブーンは全力で走れない。
ツンは頼りになるので、何か解決策を思いついてくれるかもしれない。
ドクオはもう足が覚束ない。
結論は一つ。
( ^ω^)「ドクオ!」
(;'A`)「ああ!?」
( ^ω^)「短い付き合いだったけど、さようなら!」
(;'A`)「は?」
ブーンは、ドクオの足を蹴飛ばした。
- 108 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:33:54 ID:ksyKNxfAO
(;゚A゚)「はぁあああああああ!!?」
ドクオが転ぶ。
慌てた様子で上半身を起こしたが、あの疲れようでは立ち上がれないだろう。
ξ;゚听)ξ「あんた何してんの!?」
( ^ω^)「いやドクオが『囮になりたい』って言うから。僕は反対したんだけど」
*(;‘‘)*「言ってないですよ!?」
( ^ω^)「ありがとうドクオ! もしも本当に、おばけという存在がいるのなら
是非ともおばけになって僕らに再び顔を見せておくれ!」
(;゚A゚)「ふざけんなぁあああ!!!!!」
- 110 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:35:33 ID:ksyKNxfAO
ドクオが遠くなる。
ブーンは一仕事終えたときの爽やかな笑顔で走りながら、
友人の最期を見届けようとした。
が。
( ^ω^)「お?」
*(;‘‘)*「あ」
(;゚A゚)「うわあああああ来るなぁああああああああああ……ああ……あ?」
ヒュバッ
(;'A`) ≡≡≡川 д川
──女は、ドクオを素通りした。
そのままブーン達を追ってくる。
完全に油断して速度を緩めていたブーンは、舌打ちしてから前へ向き直った。
- 112 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:38:09 ID:ksyKNxfAO
(;^ω^)「ううむ、ドクオの相手はしたくないのかお。それとも僕を御所望か」
ξ゚听)ξ「……『おばけ』……」
(;^ω^)「ツンちゃん、ぼうっとしてたら捕まるお! ほらスピードアップ!」
ξ゚听)ξ「……ねえ」
(;^ω^)「何だお?」
ξ゚听)ξ「あんたじゃなくて。ええと、ヘリカルちゃん。
あなた、ニューソクの子なんですっけ?」
*(;‘‘)*「は、はいっ」
ξ゚听)ξ「じゃあ『シタラバニアの夜』って知ってる? おばけの歌」
*(;‘‘)*「……知ってます」
ξ゚听)ξ「私ね、一番までしか知らないの。ヘリカルちゃん、二番は分かるかしら」
*(;‘‘)*「分かります……お母さんがよく歌ってたから」
ξ゚听)ξ「教えてちょうだい」
こんなときに何を言っているのだ。
ブーンは横目でツンを睨んだが、ツンは至って真剣な顔をしている。
- 113 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:41:14 ID:ksyKNxfAO
*(;‘‘)*「えっと……『シタラバニアの夜は恐い恐い。もしも人間が出歩けば、
おばけに見付かり食べられる』……」
*(;‘‘)*「『シタラバニアの夜は恐い恐い。生き物以外の世界では、
人間なんて食べられる』」
(*^ω^)「いよっ、天使の歌声! アンコール!」
*(;‘‘)*「ええっ」
ブーンを無視し、ツンは眉を顰めて考え込む。
思考すること5秒。
次にツンがブーンを見たときには、彼女の表情は自信に溢れていた。
ξ゚听)ξ「あれは魔法使いじゃないわ。
魔法使いなら、こんな風に追ってこなくたって、私達ごとき簡単に捕まえられると思うし」
(;^ω^)「じゃあ何なんだお?」
ξ゚听)ξ「おばけかしらね」
おばけ、とツンの言葉を繰り返して、ブーンの腕の中でヘリカルが青ざめた。
ニューソクには、子供の躾として「いい子にしないとおばけに食べられる」という決まり文句があるのだと、
いつだったかショボンが話していた。
ソウサクで言うところの「いい子にしないと人攫いが来る」に似たようなものだ。
- 114 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:42:44 ID:ksyKNxfAO
*(;‘‘)*「へ、ヘリカル、食べられちゃうですか……?」
( ^ω^)+「君は僕が守る」
*(。‘‘)*「ヘリカル、お母さんと手、ちゃんと繋いでなかったから……
悪い子だから、食べられちゃうですか……?」
ついにヘリカルにまで無視されてきたが、変態はめげない。気にしない。
ξ゚听)ξ「大丈夫。何とかなるかもしれないわ」
*(。‘‘)*「え……」
ξ゚听)ξ「『生き物以外の世界』。
つまり夜はおばけの世界ってわけだから、
さっさと夜を終わらせちゃいましょう」
(;^ω^)「どうやって」
ξ゚听)ξ「……あんたの話が本当なら、
時計塔の針が進んで夜になって、そのまま9時に固定されたのよね」
ξ゚ー゚)ξ「なら簡単よ」
路地に入る。
ツンはブーンを立ち止まらせると、跳ねるようにブーンの肩に乗り、
そこから左の屋根に飛び移った。
- 116 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:43:55 ID:ksyKNxfAO
ξ゚ー゚)ξ「時計を進めればいいんだわ」
(;^ω^)「ツンさん? どこ行く気だお?」
ξ゚听)ξ「ドクオを時計塔に連れてく。
……理由は分からないけど、おばけの目的はあんたみたいだから、
せいぜい夜明けまで頑張ってね」
軽やかな身のこなしで、ツンがブーンの視界から消える。
ブーンはしばらく呆然としていたが、女の足音が近付いてきたので
泣く泣く足を動かした。
# # #
- 117 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:46:18 ID:ksyKNxfAO
( <●><●>)「駄目です。
時計塔の時計機械室は、ごく一部の者しか入れないことになっています」
時計塔内部。
ドクオとツンは、ソウサクの警備指揮責任者、ワカッテマスと対峙していた。
対峙とは言っても、電気が通っていない今、この暗闇では相手の顔も見えないが。
ξ;゚听)ξ「別に壊すわけじゃないんだし、針を動かすくらい構わないでしょう!?」
( <●><●>)「しかし……決まりは決まりですから。針を動かすなら、専門家を呼ぶ必要があります」
ξ;゚听)ξ「その専門家はどこにいるんですか!」
( <●><●>)「……恐らく、王家の屋敷に。
今は警備部隊が国王様を屋敷にお連れしているところですから、
彼らを追いかけて、話をつければ……」
ξ;゚听)ξ「時間が掛かりすぎるわ! 急がないといけないの!」
(;'A`)(……ああ、面倒くせえ)
ドクオは、げんなりしながら頭を掻いた。
いきなり時計塔に引っ張ってこられて、ツンに「時計を動かせ」と言われたかと思えば
ワカッテマスに「駄目だ」と言われて。
どうすればいいのだ。
- 119 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:48:36 ID:ksyKNxfAO
(,,゚Д゚)「なあ」
('A`)「ん?」
すぐ後ろから、ギコの囁きかける声が聞こえた。
暗くて見えもしないが、そちらを振り向く。
(,,゚Д゚)「正直、外で何が起きてたのか、よく分かんねえんだけどよ。
時計をどうにかすればいいのか?」
('A`)「……俺もよく分かんねえよ。ただ、可能性に賭けたいってだけだろうさ」
(,,゚Д゚)「時計を動かせれば何とかなる『可能性』があるわけだな。
あんた時計職人か?」
('A`)「いや。機械いじるのが少し得意なだけだ」
小声で会話を交わす。
そのとき、ギコとは反対の方向からドクオの腕に何かが当たった。
('A`)「?」
(‘_L’)「携帯用の工具箱だ。腰に付けられる」
フィレンクトの声。
押し付けられるがままに、ドクオは工具箱を受け取った。
- 120 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:49:54 ID:ksyKNxfAO
(;'A`)「工具箱?」
(‘_L’)「大きな声は出さずに。
……なるべく気配を消して、梯子を登るんだ」
(;'A`)「何を……まさか機械室まで行けってか!?」
(‘_L’)「ツンさんは『急いでいる』と言う割に、さっきから進まない話をずっと続けている。
恐らく、彼の意識を自分にだけ向けたいのだろう」
(;'A`)「……俺が機械室に行くのを邪魔されないために?」
(‘_L’)「多分。少なくとも私ならそうする」
(,,゚Д゚)「この暗さなら、音にさえ気を付ければ見付かることはないしな」
(;'A`)「……」
- 122 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:52:05 ID:ksyKNxfAO
(,,゚Д゚)「行ってこい。専門家だの何だの、そんなもん呼ぶのに時間が掛かるぐらいなら
この場にいる『出来そうな奴』に任せた方が、よっぽどいい」
(;'A`)「なかなか思い切りがいいな」
(,,゚Д゚)「ヴィップ人の気質なもんでな」
(;'A`)「ヴィップ人なら俺より機械に詳しいだろ。あんたらが行ったらどうだ」
(‘_L’)「私達はあくまで警備として機械を扱うことが多いだけで、技術屋ではない。
君に頼るしかないんだ」
断れる雰囲気ではない。
ツンとワカッテマスの怒鳴り合いを聞きながら、
大体の位置を把握しているというフィレンクトにより、梯子のもとまで案内された。
(‘_L’)「頑張ってくれ。途中で落ちないように」
(;'A`)「言うなよ」
(‘_L’)「10個目の足場まで来たら、今度は左に階段がある。
そこから階段を上り終えたところの頭上に、時計機械室に通じるハッチがあった筈だ。
時計塔に入る際に説明を受けた」
工具箱を腰に付けて嘆息すると、ドクオは梯子を掴んだ。
.
- 123 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:54:24 ID:ksyKNxfAO
そうして数分。
どれほど登ったか分からない。ツン達の声は、だいぶ遠くなった。
手が痺れる。
恐怖で足が震える。
(;'A`)(あーあ、引き受けなきゃ良かった)
どうして自分が任されねばならないのだろう。
これで上手く行かなかったら、どうなる。
反時計症を患う前の記憶が蘇る。
あのときも、たくさん期待された。
期待されて、反時計症を発症して、終わった。
- 124 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:55:06 ID:ksyKNxfAO
('A`)(くそ……)
いっそ手を離して落ちてしまおうか。
全ての責任を放棄して。
でも。
('A`)(……そしたら、もう、クー様に会えなくなるよなあ)
クールに会えなくなるし。
流石一座の公演を見られなくなるし。
自分を囮にしたブーンをぶん殴れなくなる。
嫌だ。
ドクオの手に力が籠る。
体を持ち上げ、一段、また一段。
梯子が途切れ、足場に着いた。
これで10個目。次は左の階段へ。
.
- 125 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 21:58:59 ID:ksyKNxfAO
それから、さらに数分。
数えるのも億劫になるなるほどの階段を上り終えた。
フィレンクトに言われた通り、頭上に取っ手の感触。
押し上げてみると、すんなり開いた。
('A`)(……鍵は掛けてないのか?)
梯子を登る直前に、フィレンクトからは「鍵があれば壊してしまえ」と言われた。
ドクオもそれを覚悟していたのに。
しかし考えても仕方ない。工具箱を確認し、時計機械室に入る。
上部の小窓から月明かりが入り込んでいるのか、
物の輪郭がうっすらと分かる程度の視覚情報は得られた。
目を凝らしつつ、手探りで部品を確かめる。
扱ったことのない大きな歯車から、小さな歯車まで。
数はそこまで多くない。
- 126 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:01:16 ID:ksyKNxfAO
('A`)(この大きさで……この位置なら)
推測でしかないが、全体図を脳裏に描く。
どの部品がどの働きをするかを脳内の設計図から探っていく。
合間合間があやふやで、大変心許なくはあるが。
('A`)「……お、あった」
部品を辿っていき、針を回すための装置を見付け出す。
この時計塔の時間がずれることはそうそう無いので、滅多に使われないだろう。
このハンドルを回すだけで済めば、簡単な話なのだけれど。
(;'A`)「ふっ……! く……!」
案の定動かない。
ぎちぎちと僅かに揺れる感触はあるのだが、しっかりとした手応えが来ない。
油を差してみようか。しかし油が無いのだ。
どうしたものか──
- 127 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:02:49 ID:ksyKNxfAO
(;'A`)「……ん?」
顔を上げる。
音に気付いた。
もう一度、装置をいじってみる。
ぐしゃり。
何かが擦れるような音。
近い。
音を確かめながら方向を探る。
すると、真ん中の歯車と歯車の間に、機械とは違う感触があった。
(;'A`)(歯車が何か噛んでやがる)
「それ」の端っこを掴むと、ドクオの手の中で、くしゃくしゃと形を変えた。
引っ張る。しっかり巻き込まれているようで、抜き取れない。
さらに力を込めると、びり、と一部が裂けるような音がした。
- 128 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:04:39 ID:ksyKNxfAO
(;'A`)(丸めた紙?)
腰の箱からドライバーを取り出し、隙間に突っ込んで
紙をぐいぐいと押していく。
工具の先端で圧迫すれば、その分、紙はへこむ。
じっくりと、紙の形を変えながら、徐々にずらしていく。
やがて──
(;'A`)「抜けた!!」
紙が、歯車の間から抜け落ちた。
- 129 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:05:23 ID:ksyKNxfAO
ぎりぎり、あちこちの歯車から音が鳴る。
動き出した。
急いで装置のもとに戻った。
ハンドルを捻れば、ぐるりと回る。
針が動かせる。
(;'∀`)「……はは」
何だか、清々しい気分だ。
# # #
- 130 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:07:39 ID:ksyKNxfAO
広場に出たところで躓いた。
ヘリカルを庇うように倒れたおかげで、彼女に怪我を負わせることはなかった。
*(;‘‘)*「だっ、大丈夫ですか!?」
(;^ω^)「だい、じょうぶ、……じゃ、ないおね……」
上半身は起こせたが、立ち上がれない。
隠れたり走ったり、ブーンも、もう限界だった。
ひたひた、近付く足音。
こちらが動けないのを知って、敢えてゆっくり歩いているような嫌らしさ。
川д川
ほんの指一本分の距離をあけて、女が立ち止まる。
ブーンはヘリカルを背に隠し、女を睨みつけた。
ヘリカルに「逃げろ」と囁いたが、残念なことに、腰を抜かしてしまったようだ。
- 131 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:09:10 ID:ksyKNxfAO
(;^ω^)「……あのう、お姉さん。
僕、別に悪いことしてませんお。小さい女の子に手を出したこともないし。
僕ってこれでも、いい子な方だし。だから、あの、……見逃してください!」
*(;‘‘)*「さ、さっき、お友達を蹴って……」
(;^ω^)「ヘリカルちゃん、ちょっと静かにしよう!!」
川д川
川д川「……私のこと、好き?」
(;^ω^)「……は、い?」
女がしゃがみ込む。
気のせいだろうか。青白い肌が、ほんのりと赤く色付いているように感じる。
女の手が、ブーンの頬を優しくなぞった。
- 132 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:10:43 ID:ksyKNxfAO
川*д川「……好き……?」
悪意は感じられなかった。
寧ろ、彼女の指先からは、恋する乙女のような純粋さと恥じらいが伝わってきた。
ブーンには異性からモテた経験など無いが、かといって、その方面に鈍いわけでもない。
そんな仕草で「自分が好きか」と訊ねるのは、もはや告白にも似ていて。
ここで、お前は何を言っているのだと問うほど不粋なこともない。
ひとまずは彼女のために答えるべきだ。
そう考え、ブーンは口を開いた。
( ^ω^)「いや。僕、10歳以下の女の子にしか興味ないんで」
空気が読めないと言うなかれ。
彼はただ、自分自身に正直なだけなのだ。
- 133 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:12:05 ID:ksyKNxfAO
川д川
( ^ω^)
川д川
( ^ω^)「ガチで」
川д川
( ^ω^)
いちおう駄目押しもしておく。
ブーンの顔は誇らしげだった。
- 135 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:14:30 ID:ksyKNxfAO
川д川「ころす」
ぽつりと落ちた呟きは、不穏すぎるくらい不穏な。
ブーンはようやく危機を悟った。
しまった、と思ったときにはもう遅い。
川#゚д川「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すぅうううああああああああああ!!!!!!!!!!」
(;^ω^)「うべっ」
女がブーンに飛び掛かる。
その勢いのままブーンは倒れ、傍らでヘリカルが悲鳴をあげた。
馬乗りになった女に、首を絞められる。
ブーンが本気で抵抗しても彼女の手は一向に外れない。
ヘリカルは、かたかたと震えながら叫ぶばかりだ。
這ってでも逃げようという発想が出てこないほどパニックに陥っているらしい。
- 136 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:15:43 ID:ksyKNxfAO
このままブーンが殺されたら、次はヘリカルが狙われるだろうか。
それは困る。
しかし対策も浮かばない。
目の前がちかちかする。
苦しい。
ξ゚听)ξ『せいぜい夜明けまで頑張ってね』
ツンの顔と言葉が脳裏に浮かんだ。
ずいぶん簡単に言ってくれたものだ。
死んだら、おばけになってツンの前に出て、泣かせてやる。
- 137 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:16:24 ID:ksyKNxfAO
ふっ、と。
呼吸が楽になった。
- 139 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:17:55 ID:ksyKNxfAO
(;^ω^)「おっ……」
川#゚д川「──!?」
跨がる女の重みも消える。
首に伸ばされた腕を払うと、今度は振りほどけた。
そのとき、自分の手が小さくなっているのを見た。
(;^ω^)「あっ」
*(;‘‘)*「え……」
服が一気に大きくなったような感覚。
唖然としている女の下から這い出る。
落ちてしまいそうなシャツを手で押さえつつ、転がるようにヘリカルの隣へ逃げた。
──いつの間にか、子供になっていた。
それも、ヘリカルより幼いくらいの。
- 140 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:19:41 ID:ksyKNxfAO
時計塔へ顔を向ける。
進んだ針は、12時を越えていた。
(;^ω^)「……!!」
体の疲労が消えている。
ブーンはヘリカルの手を引いて立ち上がらせると、
ずるずるとシャツを引きずりながら、女との距離をとった。
我に返ったのか、女がブーン達を睨む。。
彼女が今すぐにでも3歩進んで手を伸ばせば、捕まってしまう。
- 141 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:20:47 ID:ksyKNxfAO
1時。
2時。
3時。時計の針は、どんどん回る。
4時。空が白み始める。
5時。朝日が顔を覗かせた。
川;д川「──ひっ」
女の喉から、引き攣ったような声が漏れる。
ブーンに向けた手を引っ込め、自身の顔を覆って。
川;д川「ああっ、眩しいっ、眩しい……──!!」
──陽光に照らされた瞬間、女は消えた。
.
- 142 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:24:17 ID:ksyKNxfAO
広場が完全に明るくなり、時計の針はいつも通りの速さに戻る。
力が抜けた。その場に座り込む。
広場を囲む建物の窓から、避難していた人々が顔を出す。
その中にいたショボンが、ブーンに手を振っていた。
ぶかぶかの袖で振り返す。
*(;‘‘)*「お兄さん、ちっちゃくなっちゃった……」
(;^ω^)「……日付が変わったからね」
投げやりに答え、ブーンは、肺一杯に吸い込んだ空気を吐き出した。
もう何が何だか。
- 143 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:25:07 ID:ksyKNxfAO
ラノベ祭。残すところ、あと6日。
とてもじゃないが、無事に終わってくれそうにない。
# # #
- 144 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:27:44 ID:ksyKNxfAO
ζ(゚、゚;ζ「夜を越えて、日付が変わった……ってことでいいのかな?」
川 ゚ -゚)「多分な」
──例の少女2人が、お互いの顔を見交わしている。
いや。もう、少女と呼ぶには相応しくない。
周りの人間は外が明るくなったことに気を取られているが、
ニュッだけはあの2人から目を離さずにいた。
今し方。明るくなる直前、彼女達は急に成長した。
黒髪の方が、ニュッの目測、プラス5歳前後。もう片方がプラス10歳ほど。
癖毛の方は、適齢を越えた自身のセーラー服姿に少々の羞恥心を抱いているようだった。
ζ(゚ー゚;ζ「あはは、ちょっとキツい……。
……あっ、髪の紐切れたっ。やっぱ伸びる素材の方が良かったかな……。
もうっ、こんなことなら普通の服にしとくんだったよ」
川 ゚ -゚)「大丈夫だ、20代半ばの制服姿もなかなかそそるものがある」
ζ(゚、゚;ζ「何が大丈夫なの? 何のフォローなの?」
- 145 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:29:35 ID:ksyKNxfAO
( ^ν^)(──……反時計症)
反時計症は、日付の変更と共に年齢が変わる。
あの女2人。反時計症の人間だ。
周囲のざわめきが鬱陶しい。
こっそりと2人に近付き、耳を澄ませる。
ζ(゚、゚;ζ「あっ、皆さん! まだ外に出ないでください!
今、私達が確認します!」
川 ゚ -゚)「どれどれ」
黒髪の女が、ピンのようなものを口元まで持ち上げた。
警備員はあれで連絡を取り合う。祭が始まってすぐの頃に共犯者が仕入れた情報。
川 ゚ -゚)「……お、通じるようになったな。やあツン、私だ。クール。
無事か? そうか」
クール。黒髪の名前。
川 ゚ -゚)「今は南通りの文具店の中だ。デレも一緒にいる。誰も怪我はしてない」
デレ。癖毛の名前。
- 146 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:30:56 ID:ksyKNxfAO
『クー様!!』
川 ゚ -゚)「うお」
黒髪──クールが顔を顰め、右耳からイヤホンらしきものを引っこ抜いた。
そこから、微かに男の声。
『クー様! 俺! 俺が頑張った! 褒めてください!!』
『作戦考えたのは私よ!?』
『実行したのは俺だろうが!!』
『だからってあんた1人の手柄にされたくないわ! そもそも──』
ζ(゚ー゚;ζ「……元気そうで何より」
川 ゚ -゚)「うん、まあ、後で聞くから落ち着け。
とりあえず、私達はどうすればいいだろうか」
# # #
- 147 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/21(水) 22:31:59 ID:ksyKNxfAO
今日も誰も来てくれませんでした。
いくつのお菓子が無駄になったでしょう。
何杯のお茶が無駄になったでしょう。
('、`*川「……みんな、忙しいのかなあ」
近々、お祭りがあると聞きました。
その準備に忙しいのかもしれません。
きっと明日は来てくれる。
きっと誰かが来てくれる。
魔法使いはそう信じて、今夜も眠りました。
# # #
<<<その2 ◆ その4>>>
◆ トップ >
2012秋ラノベ祭り >
投下作品一覧 >
( ^ω^)時計の国とラノベ祭のようです >
その3
◆ 元スレ