■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└( ´_ゝ`)双子は竜騎手のようです(´<_` )
└第四話
- 141 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:46:00 ID:bBMJZxKE0
竜騎武闘組み合わせ表:
┌───────┴───────┐
│ │
│ │
┌───┴───┐ ┌───┴───┐
│ │ │ │
│ │ │ │
┌─┴─┐ ┌─┴─┐ ┌─┴─┐ ┌─┴─┐
│ │ │ │ │ │ │ │
牛 メ リ ド レ ヒ ■ ボ
頭 メ ュ l l ュ ■ ル
荒 メ ウ ペ ヴ ド ■ ト
王 オ ジ ル ァ ラ ■ l
ン ャ ゲ ン ル
l テ
ガ イ
ル
竜騎武闘ルール
・指定された範囲内でのみ戦闘を行う(違反したら反則負け)
・降参、騎竜の戦闘不能、騎手の脱落によって勝敗を決する
・原則として騎手の生死による罪は免除される
- 142 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:46:56 ID:bBMJZxKE0
卑怯?
そんなに褒めるなよ。
照れるじゃねえか。
.
- 143 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:47:45 ID:bBMJZxKE0
取り分け高い志を持って養成所に入ったわけでは無い。
竜に乗って空を飛ぶのがそれほど好きなわけでもなく、超えるべき背中があるわけでもなく。
誰かに強く憧れたわけでも、ましてや周りから神童と呼ばれる才覚に恵まれているわけでもなく。
ただ、偶々キノコを採りに行った山の中で、竜に出会っただけ。
それで妙に懐かれて何となく気に入ってちょっと連れ帰って飼おうと思っただけ。
飼ったり乗ったりするのに資格がいると役人に怒られて、なら取ってやるよと養成所に入っただけ。
そう。
ただ何となく選んだ先に、この腹の立つ化け物が居ただけだ。
( #^Д^) 「こなクソ!」
プギャーは手綱を大きく引いた。
慣性が頭の血を下げ、メメメオンの体が上へと捲れ上がる。
轟音を立てて野太い腕が過ぎ去るのが見えた。
間一髪。反応が遅れていれば防壁など関係なく粉々にされていただろう。
(・∀ ・;) 「プギャー落ち着け、恐いが焦る程力差のある相手じゃねえんだ!」
( #^Д^) 「分ってるよ、クソ!」
メメメオンに擬態を発動させ、距離を取る。
相手はキョロキョロと周囲を見渡していたが、鼻を数度ひくつかせるとすぐさまプギャー達に向き直った。
- 144 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:49:11 ID:bBMJZxKE0
ξ゚听)ξ「規定範囲線に掠ってるわ。これ以上出るとアウト判定食らうわよ」
(・∀ ・;) 「予想以上に厄介だな、この範囲制限は!」
( #^Д^) 「格闘馬鹿に有利すぎるんだよこのルール!」
定められた範囲の外輪をなぞる様に円を描いて高速移動。
単純な速度で大幅に勝っているはずが、この狭い制限のせいですぐに追いつかれてしまう。
内側に陣取ってタイミングを見計らうだけなのだから、追う方が断然有利なのだ。
それにプギャーたちの得意とする擬態によるステルス戦術は、相手と距離が取れなければ効果が薄い。
特に、対戦相手のイトーイの騎竜、牛頭荒王のような鼻の利くタイプは妖精の探知なしにも居場所を特定してくる。
昨日組み合わせが発表されてから対策は考えたが、乱発するわけにも行かず苦戦の一途だ。
川 ゚ -゚) 「観客を守るための防壁のせいで、風が入ってこないのも厄介だな。鼻のいい奴なら端と端にいても気付かれそうだ」
( #^Д^) 「クッソ!思う存分イライラさせるつもりだったのによ!」
(・∀ ・;) 「イライラしてるのは終始こっちだけだもんな……」
ξ゚听)ξ「ほら、隙を見せるとすぐ来るわよ」
- 145 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:49:56 ID:bBMJZxKE0
妖精、ツンの言葉通り、牛頭荒王が太い前足を振り上げ迫る。
頭にくるほど一辺倒な攻撃で避けるのは容易い。
しかし、目で見てはっきりと予測してしまうその威力は、確実に精神を削り取ってゆく。
半ば当てずっぽうのような攻撃を悠々とかわす。
身を捻り脇をすり抜け反対へと移動。
途中で観客から「ちゃんと戦え!つまんねーぞ卑怯者!」と野次が飛ぶ。
( #^Д^) 「おいまたんき、何か聞えたんだけど、声援か?」
(・∀ ・;) 「俺達に卑怯者なんて、声援みたいなもんだろ」
( #^Д^) 「よし、後でお礼にメメメオンの糞をくれてやろう」
(・∀ ・;) 「そりゃあいい。ますますファンになってくれるぜ」
牛頭荒王が迫り、再び攻撃の体勢。
メメメオンの方は既に行き詰まり、何とか横に逃げるほか無い。
(・∀ ・;) 「向こうも、余裕綽々では無いみたいだな」
川 ゚ -゚) 「敵騎竜の情報にハック成功。魔力残量72%」
(・∀ ・;) 「燃費悪いなおい!まだ始まって6分だぞ!」
川 ゚ -゚) 「あの巨体ですばしっこいメメメオンと鬼ごっこしているんだ。魔力も減るだろう」
- 146 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:50:44 ID:bBMJZxKE0
騎手イトーイとその竜、牛頭荒王はその名の通り頭に牛のような大きな二本角を生やしてしている。
身体も大きく。前足はまるで腕のように発達し背中に翼を生やすその姿は神話に出てくる悪魔のようだ。
分類上竜ではあるのだろうが、特化配合を行いすぎて訳がわからない生き物になったいい例である。
鋭い牙をむき出しにして牛頭荒王が吠えた。
興奮し末端の血管が膨張しているのか、普段は隠れている鱗の線がはっきりと浮き出る。
うねりを帯びた長い角が音叉のように震え、戦域を囲む防壁までをも痺れさせた。
襲い来る振動の波によって、メメメオンの擬態が乱れた。
繊細な光彩のコントロールを必須とするステルスは、空気の乱れなど環境の変化に滅法弱い。
川 ゚ -゚)「効果40%以上低下。丸出しではないがハミ出し位はしているぞ」
(・∀ ・;) 「戦域設定なんか無くても、対策は練ってあるってことね……」
( #^Д^) 「ああ!もうめんどくせえ!真正面から行くぞ!」
(・∀ ・;) 「バカか!それで何回負けてると!」
ξ゚听)ξ「喧嘩もいいけど、死ぬわよ」
目の前がにわかに暗くなった。
ちょっと目を放していた隙に、牛頭荒王がその巨体を引っさげて迫っていたのだ。
両前足を組み合わせ、上へ振り上げての叩き付け。
回避するも収縮が間に合わず広げていたままの防壁に蹄が掠った。
直撃かと勘違いするほどの衝撃がプギャーたちを襲う。
- 147 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:51:50 ID:bBMJZxKE0
(・∀ ・;) 「これ以上は不味い!、出し惜しみしないで例の技いくぞ!」
( #^Д^) 「チィ、杉浦をぶちのめすその時まで取っときたかったんだがな」
川 ゚ -゚) 「お前の妙な自信が不思議でならない」
ξ゚听)ξ「呆れを超えて尊敬するわ」
( *^Д^)+ 「妖精が俺に惚れても不幸になるだけだぜ」
(・∀ ・;) 「頼むから余裕ある時にやってくれねえかなそういうの!」
一度使えば警戒されると、出来うる限りやらずにいた上昇飛行を行う。
横には厳しい制限のある範囲設定ではあるが、上へ行く分には何の問題も無い。
牛頭荒王が攻撃後の隙で急転換できないうちに、滑るように螺旋を描いて上昇した。
途中ある程度ステルスが有効になったところで火球を複数無差別にばら撒く。
牛頭荒王は全く意に介さず前足で弾いて防御した。
燃える油のよう動きをする赤い炎は多少なりとも牛頭荒王の身体に張り付くが、ダメージを受けている様子は無い。
外れたほかの火球は観客を守るための防壁にぶつかり、燃え盛る火を撒き散らす。
多少の足止めになったところでメメメオンは更に上昇。
一瞬高速移動で追跡しようとした牛頭荒王だったが、ステルスにより見失い緩やかな上昇に切り替えた。
- 148 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:52:43 ID:bBMJZxKE0
川 ゚ -゚) 「ステルス有効。敵騎妖精の探知に対するジャミングも良好。外気温低下、長期帯空は危険」
(・∀ ・;) 「体温保護完了。しばらくは耐えられる。例の準備もあと数秒だ」
川 ゚ -゚) 「メメメオンの体温維持を確認。問題なし。次期動作に向け空間光彩を解析と同時にメメメオンに送信する」
( ^Д^) 「ふーっ、下地は整ったな。敵が我慢しきれず接近してきたところで仕掛ける。そのまま待機」
設定された範囲のギリギリ、そしてメメメオンに可能な限界高度を保ち帯空する。
一方の牛頭荒王は奇襲を警戒してゆっくりと上昇してきていた。
鼻をひくつかせ、匂いでメメメオンの居場所を探っている。
(・∀ ・) 「……残念、匂いは対策済みだ」
先ほどはなった火球は、焼夷弾の火炎魔法を組み込んだ燃焼効果時間が長いタイプのものだ。
防壁や地面の上で熱を撒き散らすそれは、僅かではあるが上昇気流を作り出す。
少なくとも、上方ににいるメメメオンの位置を臭いだけで特定するのは不可能だろう。
ついでに先ほどの咆哮も、空気の薄い上空ならば畏れるほどの効果は無い。
ξ゚听)ξ「……敵騎、間も無く有効範囲内」
( ^Д^) 「またんき、クール」
(・∀ ・) 「いけるぞ、問題ない」
川 ゚ -゚) 「こちらもだ」
- 149 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:53:57 ID:bBMJZxKE0
( ^Д^) 「……いくぞ!」
メメメオンがその場から僅かに動いた。
同時にステルスが解け、カメレオンのようなその姿が明らかになる。
以`゚益゚以「ミツ……ケタ……」
牛頭荒王は、一直線にメメメオンへと向かう。
再びのステルスを警戒して、嗅覚に意識の数割を割り振らせた。
( ^Д^) 「メメメオン!まずは嗅覚を奪え!」
牛頭荒王が近くに来た瞬間、メメメオンがお尻を向け股間にある分泌孔から特殊な粘液を霧状に噴射した
獲物を追跡するために使う特殊なマーキング液だ。
数キロはなれた場所からでも分るように、とても強力な臭いがする。
手にくっついたら、しばらくはご飯が食べられないほどの。
牛頭荒王はこれを直接鼻に食らい、身体を仰け反らせてもがき苦しんだ。
またとないチャンス。
プギャーは手綱を握り締め、自身に気合を入れる。
( ^Д^) 「またんき魔法発動!クールは敵妖精にデコイのデータを…………あれ?」
- 150 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:54:50 ID:bBMJZxKE0
中々見られないプギャーの決め顔が、一瞬で普段の間抜けなそれに戻った。
指示の途中で開きっぱなしの口から溜め込んだ気合が漏れ出してゆく。
視線の先にはもがき苦しみ暴れる牛頭荒王。
そして、その背中に姿の見えない、イトーイ。
以`゚益゚以「ア」
彼は、暴れる牛頭荒王に振り落とされ、現在落下の真っ最中であった。
あらゆる連携を素早くできる反面、全てを一人でこなさなければならない一人騎手は急転する事態に弱い。
大方、攻撃に向かうため魔法を使おうとしている最中に暴れられ、耐えられなかったのだろう。
( ;^Д^) 「イトーイ?!イトォォォォォォイ!!!!!」
(・∀ ・;) 「あちゃー、鼻に直接入っちゃったか?」
( ;^Д^) 「せめて俺達の新必殺を食らってからにしてくれ!!小便(のようなもの)で勝つとか嫌だあああああ!!!」
取り乱す牛頭荒王がイトーイを追えるわけも無い。
プギャーの叫び虚しく、イトーイは地上で待機していた救護班に優しく受け止められてしまった。
ルール上、これは騎手の脱落として処理される。
地上にいる審判が赤い旗を真っ直ぐに振り上げた。
騎助手の脱落により、勝負アリ。
見事(?)プギャーたちの勝利である。
** ** **
- 151 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:55:31 ID:bBMJZxKE0
(*。´_ゝ`)「ぶひゃひゃひゃ!!さいっこうだぞプギャー!」
(´<_` )「さっき係の人間が話してたが、小便で竜騎武闘に勝ったのはお前らが初めてだそうだ」
(*。´_ゝ`)「訓練の時に言っていた新必殺技ってこれだったのか?確か強力だな。プブフー」
( #^Д^) 「小便じゃねえよ!マーキング用の分泌液だ!」
地上に降りた際、笑っていたのはアニジャたちだけではない。
観戦していた観客達の殆どが口を開き、あるいは押さえながら笑みを浮かべている。
勝敗が決した時に、遠視魔法によって審査を行っていた運営本部が勝因を発表したからだ。
それなりの伝統がある祭りのため、中には眉を顰めるものも居たが、大半は爆笑。
勝利の余韻も糞も無い。
( "ゞ) 「戦域の整備が終わりました。次の候補生は準備をお願いします」
(´<_` )「俺達だな。行くぞアニジャ」
( ´_ゝ`)「おう。おかげさまで緊張が取れたよ。ありがとうな、プギャー、またんき」
( ^Д^)+ 「礼を言われる程でもねえよ」
(・∀ ・) 「全くだ」
- 152 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:57:12 ID:bBMJZxKE0
係りの案内に従い、アニジャとオトジャが準備に向かう。
プギャーは思い出したようにその背を追った。
参加者のためにある程度人払いはされているが、防壁の装置や整備士たちが動き回っているため中々追いつかない。
( ^Д^) 「アニジャ!」
( ´_ゝ`)「ん?」
( ^Д^) 「訓練で想定してたのより、若干狭く感じる!変な会場魔法のせいで太陽が使えない、気温も低い!気をつけろ!」
( ´_ゝ`)「……」
アニジャは黙って右手を上げた。
顔は相変わらずにやついていたが先ほどまでのそれと違い、高い集中力が見て取れる。
(・∀ ・) 「なんも、そこまでアドバイスしなくてよかったんじゃねえか?一応今は敵なんだぜ」
( ^Д^) 「ふん。杉浦を倒すのはもちろんだが、あいつらも俺の踏み台になるべき存在だからな」
(・∀ ・) 「……ニダーたちが勝ち上がると厄介だからだろ?」
( ^Д^)+ 「流石俺の相棒、素晴らしい洞察力だ」
- 153 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:58:16 ID:bBMJZxKE0
次の試合まで時間のあるプギャーたちは参加者の控えスペースを出て、他の観客達に紛れ込む。
間も無くリュウジャが戦域に飛び立った。
観客にどよめきが起きる。
( ^Д^) 「なんだ?俺達の時とは違う反応だな」
(・∀ ・) 「まあ、あいつらは「息子」だからな」
現在の形式の養成所が出来たのが約43年程前。
外交的緊張が高まる最中、高い武力を持った竜騎手を育成しようと言う考えから生み出されたものである。
道徳的見地から竜による人間への攻撃は控えられているとは言え、力の象徴として竜は大変に役に立つからだ。
長いネ竜祭の歴史で竜騎武闘が生まれたのは、養成所の一期生が修了したその年。
それまでにあった竜騎手の演舞を、新生の竜騎手同士を戦わせる武闘会へと改変したのだ。
全て、竜の戦闘力を誇示するための政略的な理由である。
その、全てが未熟で荒々しかった第一回目の竜騎武闘を制したのが流石兄弟の両親。
流石チチジャと、当時まだ旧姓の渋澤を名乗っていたハハジャである。
当時を直接知るわけでは無いが、その力は圧倒的だったそうだ。
来賓として観戦していた諸外国の重鎮方が「竜」ではなく「竜騎手」を恐れる程度には。
具体的に言うと、当時の規格だった全騎同時総当りのサバイバル戦で、
結託したほかの十数騎をたった一騎で全撃墜してしまったのだとか。
それ故に竜騎手自体をよく知らない民間人にも流石夫婦の名前は知れ渡っている。
- 154 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 18:59:56 ID:bBMJZxKE0
( ^Д^) 「ケッ、くだらねえ。親が何だろうとあいつらはあいつらだろうが」
( ^Д^) 「怖気づかずあいつらと付き合う俺を見習えってんだ」
(・∀ ・;) 「お前は田舎から出てきて単に何も知らなかっただけだろ」
( ^Д^)+ 「無知を誇れ。馬鹿にしか打ち崩せない壁もある」
(・∀ ・;) 「基本的には違うし、お前は壊しちゃいけない壁壊しすぎなんだよ」
戦域に、もう一頭の竜が現われた。
アニジャ達の対戦相手、ニダー&シナーの飛竜ドーペルゲーガだ。
鱗のない体表はつるりとした桃色で、全体的に肉肉しい丸みを帯びている。
小太りな一般的な飛竜の鱗を剥がしたような姿、というと想像しやすいだろうか。
瞼のない、眼球がむき出しの目は遠目であればくりくりとして可愛いが、間近で見ると非常にえぐい。
口は歯が無いただの穴のようで、生き物らしさは皆無だ。
「気持悪い……」
観客が、リュウジャの時とは違う意味でざわめいた。
確かに、見慣れない人間からすれば不気味な見てくれだろう。
ただしその嫌悪感は竜に乗るニダーとシナーにとっては褒め言葉でしか無い。
似たタイプのプギャーには分る。
見てくれも含め、戦法を罵られることは実力を認められていることに他ならないのだから。
- 155 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:01:21 ID:bBMJZxKE0
(・∀ ・) 「そろそろ始まるぞ」
二竜が戦域を飛び回る。
距離を取ったり、逆に詰めたりと開始の前から激しい駆け引きが行われていた。
「始め!!」
拡声魔法によって放たれた開始の合図。
リュウジャは初っ端から上空へと昇り、距離を引き離す。
追いすがろうとしたドーペルゲーガは一旦追跡をやめ、旋回しながらじわじわと高度を上げ始めた。
( ^Д^) 「どうなると思う?」
(・∀ ・) 「ニダーは駆け引きの上手い騎手だ。あの範囲内じゃ、逃げ続けるのは無理だろうな」
間も無く、またんきの言葉は真実となる。
リュウジャが牽制で放った火球をわざと直近でかわしたドーペルゲーガは、その軌道をなぞるように突進した。
流石の機動力で横へ逃げるリュウジャだが、すぐに範囲制限に引っかかり速度を落とす。
下方へ軌道を修正しようとしたところへ、ドペルゲーガの火球が襲いかかった。
すぐに意識を切り替え横に逃れてかわすも、それを読んでいたニダーは既に回り込んでいる。
かわしたのではない。誘導されたのだ。
(・∀ ・) 「不味いな、範囲に入った」
またんきの呟きをかき消すようにどよめきが起きる。
遠方観戦用の魔導モニターで観戦を続ける彼ら視線の先にドーペルゲーガの姿は無く、変わりにリュウジャが二頭になっていた。
** ** **
- 156 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:02:58 ID:bBMJZxKE0
<ヽ`∀´>「ホールホルホルホル!コピー完了ニダ!」
(゚A゚* ) 「模造率調整や。70%でええな?」
( `ハ´) 「モウマンタイ。あんなに速くなってもここじゃ戦いにくいだけアル」
リュウジャの鞍の上、騎手のニダーは高笑いを上げた。
彼らの飛竜ドーペルゲーガの最大の特徴はこの模造能力。
平たく言えば相手の能力、姿、使用魔法などをまるっとコピーしてしまうのである。
故に単なる真似でなく相手の飛竜の情報ごと模倣し、相手のことが丸分りになるのだ。
あとは、模造の度合いを上手く調整して、相手の長所だけを拝借すればよい。
(゚A゚* ) 「お〜、この子すごいなあ。半月前の模擬戦の時より使える魔法増えとるで」
<ヽ`∀´>「人目のあるところで使ったことはあるニカ?」
(゚A゚* ) 「多分無いで。最近覚えたばっかりみたいや!」
<ヽ`∀´> 「やったニダ!お披露目頂きニダ!」
地上付近へ逃げ、体勢を取り直そうとしているリュウジャに向かって高速で接近。
同時にゲーガへ魔法使用の指示を出す。
(゚A゚* ) 「有効射程に入ったで!今や!」
リュウジャに化けたその口を開き、夕日の濃縮したような朱い光を蓄える。
- 157 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:04:03 ID:bBMJZxKE0
( ^ω^)「高出力反応!」
(;'A`) 「パターン解析するまでも無い、爆破魔法だ」
( ;´_ゝ`)「あんにゃろおおお!せっかくの隠し玉を!」
音速に近い速度で落ちてくる朱色の雫。
エネルギーをたっぷり溜め込んだそれは、身を捩ったリュウジャの傍を通り過ぎ、地面の防壁に着弾した。
鳴り響く爆音。防壁にって逃げ場を失ったそれが衝撃波となって上方へ突き抜ける。
( ;´_ゝ`)「くおっ!」
乱れる飛行。
軽いリュウジャは衝撃波の影響をモロに受けた。
体勢を立て直し、上手く気流に乗って上昇する。
しかし、安心している余裕は無い。
( ^ω^)「敵騎高速接近」
( ;´_ゝ`)「にゃろう!その技まで!」
偽者のリュウジャが、火炎を纏い滑空して迫る。
牽制で火球を放ち、重力を利用して下方へ退避。
炎の燃え盛る音を残響に、ニダーが頭の上を過ぎ去ってゆく。
- 158 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:05:11 ID:bBMJZxKE0
( `ハ´)「アイヤー、初めての技は中々上手く使えないアルネー」
<ヽ`∀´>「でも使い勝手はばっちり覚えたニダ!次は当てられるニダよ!」
(゚A゚* ) 「待ってーや、ちょっと控えへんと魔力無くなってまうで」
( `ハ´)「そうアル。それに必殺技を連発なんてかっこ悪いアル」
<ヽ`∀´> 「確かにそうニダ。必殺技のごり押しは素人がやることニダ」
(゚A゚* ) 「せやで。玄人はコンボを狙うべきや」
ゲーガは魔法の発動をやめ翼を打って切り返す。
逃げ回るリュウジャを追うため、飛行魔法を全開に上昇した。
速度では劣るものの、狭い空間であれば難なく間合いを詰められる。
(゚A゚* ) 「動作感知や!右下方へ逃げるで」
<ヽ`∀´>「逃がさないニダ!」
妖精ののーちゃんの感知通り、リュウジャは急速な旋回で右下方へ切り返した。
ニダーは一瞬早く手綱を引きその進路を狭めてゆく。
- 159 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:06:16 ID:bBMJZxKE0
( ^ω^)「敵騎接近!」
(´<_` )「……のーちゃんか、厄介だな」
( ;´_ゝ`)「ホント、未来予知かよってんだ!」
アニジャが手綱を切るのと同時にドーペルゲーガも同じ方向へついてくる。
反応が早いというレベルではない。動きを読まれているのだ。
( ;´_ゝ`)「オトジャ、例の頼めるか?」
(´<_` )「任せろ」
祭りの初日、初戦の相手がニダーたちだと知った時点で対策は幾つも考えた。
オトジャが発動するのはその一つ。
敵妖精ののーちゃんは高い感知能力と並異常の演算能力を併せ持つ。
それによって相手の騎手や騎竜のモーションを盗み、未来予知に近い行動予測を行うのだ。
あらゆる情報をすっぱ抜かれるコピー能力と併せて怖ろしい能力である。
(´<_` )「ドクオ、のーちゃんを逆にハック。一瞬でもいい」
('A`) 「おk」
アニジャはリュウジャを向きなおし、思い切って正面に切り込む。
火球を二発放ち、上昇離脱した。
- 160 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:07:39 ID:bBMJZxKE0
<ヽ`∀´>「おっとっと〜」
リュウジャの放った火球を右、左と身体を揺すってかわした。
離脱し頭上を越えて行くリュウジャを、急反転して追いかける。
特別機動力の高い訳では無い素体のドーペルゲーガに比べると格段に扱いやすい。
ちょっと手綱を捻るだけですぐに動く。
パワーの低さは論外だが、なかなかいい飛竜だと口にいやらしい笑みを浮かべた。
(゚A゚*;) 「あや、やばいわ!ドクオのアホにハックされそうや!」
<ヽ`∀´>「これだからチョッパリは。師匠!」
( `ハ´)「アイヤー!秘技、干渉断絶!」
シナーが目の前に手刀を振り下ろす。
その瞬間のーちゃんに対して行われていた干渉が切れ、正常を取り戻した。
( `ハ´)「これでモウマンタイ!のーちゃん早く敵の動きを読むアル!」
(゚A゚* )
<ヽ`∀´>「ん?どうしたニダ?」
( ;`ハ´)「アイヤー!?のーちゃんがフリーズしてるアル!」
- 161 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:08:24 ID:bBMJZxKE0
(´<_` )「上手く行ったか?」
(;'A`) 「恐らく。強制的に回線を切られたから、確信は無いけど」
(´<_` )「シナーの野郎、ふざけた対処しやがって」
オトジャがのーちゃんに対して行ったのは対妖精のプログラムの強制インストールだ。
脳からの信号を送る回線をループさせ身体に行き届かないようにする封印プログラム。
いわば、金縛りである。
(´<_` )「ギリギリ間に合ったか。これで予測はもちろん、あらゆる妖精のサポートを封じた」
( ´_ゝ`)「良し!」
一旦急上昇し、上空で身体を切り返す。
視線の先にはこちらを睨みつける、鏡写しのようなドーペルゲーガ。
更にその周囲にいる、色を幾重にも重ねた油絵のような観衆。
( ´_ゝ`)「この大観衆の中で、ああいう曲者をぶちのめしたら気持がいいだろうな」
(´<_` )「それは、やってみないと分らんぞ」
( ´_ゝ`)「……だな」
- 162 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:09:26 ID:bBMJZxKE0
アニジャは踵でリュウジャの首を挟むようにキック。
リュウジャは水に飛び込むような滑らかな動きで下降を始めた。
身体を一直線に、翼を広げ最大限空気抵抗の少ない姿勢。
背に乗る兄弟も手綱を短く握りなおし同じく鞍に伏せる。
妖精の二人はアニジャのフードの中に潜りこんだ。
( ´_ゝ`)「速度……ッ、最、大!!」
リュウジャは錐揉み回転を二回、飛行魔法を全開に発動した。
重力を活かし、そこに魔法の推進力を得たリュウジャの身体は、音に並ぶ。
<ヽ;`∀´>「あ、アイゴー!」
迎え打つつもりで居たニダーは直感で危険を察知し、手綱を右に引いた。
辛うじて回避するも、リュウジャの巻き起こしたソニックブームに巻き込まれ外へと弾かれる。
( ;´_ゝ`)「ブレエエエエエエエエエエエエエエエキ!!!!!」
ニダーの脇を抜けた瞬間、飛行魔法を逆噴射し一気に減速。
内臓が肉や皮を突き破って抜け落ちそうな程の慣性が兄弟の身体を襲った。
オトジャは歯を噛み砕くほど食いしばり、魔法を維持する。
ここでオトジャが保護魔法を手放せばリュウジャも兄弟も確実に意識を失ってしまう。
止まりきれぬまま迫る硬い地面。
観客から悲鳴のようなざわめきが起きた。
( ;´_ゝ`)「ギッギッギィィィッ!」
石畳に立つ風の波紋。リュウジャは地面から一メートルの位置で帯空停止していた。
- 163 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:10:19 ID:bBMJZxKE0
( ;´_ゝ`)「吐きそう!」
(´<_`; )「後にしろ!」
( ;´_ゝ`)「合点だ!」
休む暇は無い。
アニジャはリュウジャの意識を確認。
問題ないと判断し、手綱を長く持ち直し、急上昇した。
天へ続く豆の気のように、薄い雲が出来ているのが見える。
そこから大きく外で旋回するように帯空しているニダーを発見した。
あわよくば場外に吹き飛ばせないかと考えていたが、どうやらそこまで上手く行かないようだ。
雲を引き裂き、ニダー組へ直進。
のーちゃんが不能かつ動揺している今が反撃のチャンスだ
<ヽ;`∀´>「アイゴー!アニジャの癖に生意気ニダ!」
( `ハ´)「もう少しでのーちゃんを回復できるアル!凌ぐアル!」
ニダーも流石に切り替えの早さを見せ、自らリュウジャへと手綱を捌く。
高速で接近、交差する二頭の竜。
ギリギリのチキンレースは互いの障壁を僅かに削り、再び両者は上下で距離を取った。
- 164 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:12:58 ID:bBMJZxKE0
観客達が大きく湧く。
彼らが求めていたのは特殊能力合戦ではなく、駆け引き一つの肉弾戦だ。
上方のアニジャ。
こちらは騎竜のパワーの低さを、トリッキーかつ大胆な戦法を得意とする。
下方のニダー。
飛竜の模倣に意識を奪われがちだが、逆に言えばあらゆる飛竜の特性を引き出し戦えるということ。
最終的な決着は、常に騎手の腕一つで下してきている。
タイミングを計るように、両者にらみ合い。
地面を低空飛行で旋回するニダーに対し、アニジャは同じ地点に帯空しじっと身構える。
(´<_` )「アニジャ、外気温が低すぎる。これ以上待つとパフォーマンス支障をきたすぞ」
( `ハ´)「ニダー不味いあるよ。これ以上変に長引くと明日に響くアル」
( ´_ゝ`)「……行くぞ!」
<ヽ`∀´>「決めるニダ!」
互いに引き合うように、二竜が接近を始めた。
速いが、機敏な切り返しも可能な、ギリギリの速度。
相手の一足一挙動に、互いの騎手は精神を集中する。
- 165 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:13:42 ID:bBMJZxKE0
間合いに入った瞬間、両竜が同時に顎を開いた。
放たれる火球。
同じ線上を直進し衝突した二つの赤い光は溶け合い胎動するように蠢いて爆発する。
アニジャはニダーの後ろへ回り込もうと手綱を右へ引いた。
爆発の閃光と飛散した火の粉で視界は不十分だが、ブーンから直接脳に届くレーダーで位置は把握している。
魔法の余波を避けることなく突っ切ったニダーの後ろにつく。
しかし、違和感に気付いた。
ドーペルゲーガの速度が、微妙に遅――‐
( ^ω^)「ッ高エネルギー反応!」
反射的に手綱を右へ。
ほぼ同時に、ドーペルゲーガの体が反り返って反転。
その口から、火球の上位互換である爆破魔法の光弾が放たれた。
オトジャが収縮した防壁のスレスレを、魔法弾はよぎってゆく。
例え防壁であっても、掠れば爆発し、完全にやられていた。
敵の必殺攻撃をかわしたものの、後ろに着かれてしまう。
横回転で向き直り火球を放つが、ドーペルゲーガは細やかなロールでそれをかわした。
懐に入り込みズラリと並んだ牙でリュウジャの防壁を食い破る。
- 166 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:14:22 ID:bBMJZxKE0
防壁を破壊した勢いをそのままに、リュウジャの首元に食いかかる。
リュウジャは仰け反って回避。
腰を軸に倒れるように半転し、逆さまのまま飛行し距離を取った。
ドーペルゲーガが追撃の火球を放つ。
リュウジャは上下を正常に戻すためロール、その慣性で僅かに身体を浮かせ、火球を回避した。
回避の上昇から更に羽ばたきを一つ打ち上昇。
仰け反りと同時に身体を捻りリュウジャはドーペルゲーガに向き直った。
ゲーガは突進の体勢。
身体には防壁と灼熱の鎧を纏っている。
( ;´_ゝ`)「オトジャ!」
アニジャの指示よりも早く防壁が強化された。
構わずドーペルゲーガが突っ込む。
リュウジャも強化された防壁を盾に前進、同時に火球を三つ放つ。
火球をその身で打ち砕き、ゲーガはリュウジャの防壁を捉えた。
硬い音を響き渡らせながら、それも破砕する。
- 167 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:15:29 ID:bBMJZxKE0
その向こうにリュウジャはいない。
前転する様に身体を跳ね上げ、ゲーガの上方で身を捻り、リュウジャは丸出しの背中に向かって火球を吐き出す。
<ヽ#`∀´>「その技は、模擬戦で見た!」
ドーペルゲーガの体が上下く入れ替わるようクルリとロールした。
三枚重ねた防壁と、後ろ足で火球の爆発をやり過ごす。
炎も収まらぬ内に飛行魔法によって強引に身体を跳ね上げ、リュウジャの首に向けて顎を開いた。
( ;´_ゝ`)「かわされることは、」
リュウジャはドーペルゲーガの噛み付きに、自身も噛みつきを合わせた。
こすれあう二竜の顔側面。鋭い鰭が鱗を削り肩口へ侵攻する。
パワーで劣るリュウジャはやや首を反らされてしまう。
(´<_` )「わかっていた!」
オトジャの小さく硬く圧縮された防壁がドーベルゲーガの口を塞いだ。
肩口までも伸びたものの、防壁を噛み砕けず、鐙と肩を打つただの追突に終わる。
自らの足を守るためリュウジャの首元、鞍の上に立ったアニジャはそのままリュウジャの首に飛びつく。
その勢いを借りて、リュウジャは首を押し戻し、ドーペルゲーガの翼に食らいついた。
<ヽ`∀´>
( ´_ゝ`)
背中と首、それぞれの騎手の視線が、竜騎戦ではあり得ないほど間近で交差する。
- 168 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:16:20 ID:bBMJZxKE0
筋を立てて翼を噛み砕こうとするリュウジャを、ドーペルゲーガが力で振りほどく。
アニジャの指示に従い、粘らずに口を離したリュウジャは突き飛ばされる形で下へ落ちてゆく。
(´<_` )「防壁を張りなおす」
(;'A`) 「損傷軽微!」
( ^ω^)「敵騎高エネルギー反応!」
体勢を立て直したリュウジャの首からずり落ちるように下がり、アニジャは鐙に足を戻す。
直接見上げたドーペルゲーガの口には、爆破魔法の赤い光。
そして肩口から顔を覗かせる妖精ののーちゃんの姿。
( ´_ゝ`)「もう治ったか」
のーちゃんの目は一瞬でアニジャたちの動作を見抜く。
避けるとすればかなりギリギリの勝負になってしまう。
( ´_ゝ`)「リュウジャ、出来うる限り、俺の動きに集中してくれ」
軽快な嘶き一つ。
早速、リュウジャは旋回するように上方へ向けて逃走。
それを追いながらもニダーは急激な接近はせず、ひたすらに狙いを定めている。
- 169 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:17:19 ID:bBMJZxKE0
(゚A゚* ) 「ゲーガ、ニダー双方に思考をリンク。両者に予測データを送信。ちょっと負担かかるけど我慢してや」
ニダーの目にもドーペルゲーガの目にも、リュウジャにダブるような形で1秒後の姿がぼんやりと映っていた。
読める、これならば速度など関係なく、魔法を当てることが出来る。
覚悟を決め、ニダーはドーペルゲーガの肩をキック。
既に彼らよりも高い高度まで逃げているリュウジャたちに追いすがった。
魔法は万全。狙いを定めればすぐに打てる。
撃ってみて分ったが、この爆破魔法は発動にほんの僅かなラグが生じる。
放つと決めた瞬間から一秒未満の溜めがあるのだ。
だが、それも問題ない。そのための時間さえ上手く使って、狙いを定めればいい。
リュウジャをフィールドの端にじわじわと追い詰め、理想的な射程に捉えた。
<ヽ`∀´>「今ニダ!」
のーちゃんの予測データでは、この数瞬後にリュウジャは突進を仕掛けてくる
ニダーは会心の笑みと共に、爆破魔法の発射を指示を出した。
後は、ラグの一瞬予測に基づいて狙い定めた方向を目指して…………
- 170 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:18:09 ID:bBMJZxKE0
<ヽ`∀´>「アリ?」
予測で見えたリュウジャは、口を開き、本来よりも小さな火球を吐いた。
爆発よりも推進力に重きを置いた、速度の速いタイプ。
<ヽ`∀´>「ア」
ドーペルゲーガから極僅かに遅れて、リュウジャの口から実際に火球が放たれた。
ニダーは慌ててドーペルゲーガに逃げるよう指示を出したが、間に合わない。
ゲーガの放った爆破魔法を、リュウジャの放った火球が打ちぬく。
その衝撃でリングのように広がった朱色の光は瞬き程の間も無く、更なる閃光を放って爆発した。
轟音と、それよりも速い衝撃。
爆炎は空を赤く染め、両者は共に吹き飛ばされる。
<ヽ;`∀´> 「ぐぎいい!」
余波によってダメージを受けたドーペルゲーガは体勢を立て直し場外に出ないように耐えるのが精一杯。
羽が痺れ、内臓も軽くやられている。
後ろではシナーが朝ごはんを観客に向かってリリースしていた。
のーちゃんとの連携も、竜の模倣も解けてしまっている。
敵を探し、上空を見た。
リュウジャの姿は未だ残る爆発の炎で見えない。
否。向かってくる炎の礫が一つ。
あれが。
- 171 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:18:57 ID:bBMJZxKE0
( #´_ゝ`)「うおおおおおおおおお!!」
最初から爆発させることを狙って火球を撃ったリュウジャは、受身を取っていた。
オトジャの防壁で軽減した衝撃破を羽と体で上昇気流として受け止めたことでダメージは最小限。
立て直すだけで時間を食ったニダーに攻撃を仕掛ける余裕は十分にあった。
リュウジャは嘶きと共に炎を纏いドーベルゲーガへ一直線。
気流乱れる爆炎のを切り裂きそのままの勢いで突進した。
炎に紛れたこの攻撃は、ニダーの反応を完全に出遅れさせる。
勢いそのままリュウジャがくるりと一回転。
炎に染まる後ろ足蹴りがドーペルゲーガを打ち捉えた。
<ヽ;`∀´>「?!」
( #´_ゝ`)「!?」
回避不能と判断したドーベルゲーガは自ら身体を盾にし、腹でリュウジャを受け止めていた。
受身も取らない完全な直撃。
ギョロギョロとした目が白に染まり、ドーベルゲーガは落ちてゆく。
- 172 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:19:52 ID:bBMJZxKE0
( ;´_ゝ`)「リュウジャ!」
身体に残る炎を振り払ってリュウジャはドーベルゲーガを追った。
地面に落ちる寸前で何とか捕まえ、一緒に落ちながらも優しく地面に降ろすことができた。
( ;´_ゝ`)「あぶねー、やりすぎるところだった……」
額を拭うアニジャを、大きな歓声が包み込んだ。
ちょっと驚きながら周囲を見渡す。
白い旗を揚げた審判と目が合い、自分が竜騎武闘参加していたことを思い出した。
慣れない感覚に、頭を掻きながら竜を降りる。
喜んでいいのかなんなのか。
(*;´_ゝ`) 「て、手とか振った方がいいのかな」
(´<_` )「いいから、戻るぞ」
オトジャに首根っこを掴まれ、控え所に戻った。
未だ冷め無いざわめきがテント越しでも聞えてくる。
ここに来てやっと、勝ったのだという喜びが湧いてきた。
- 173 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:20:52 ID:bBMJZxKE0
( ^Д^) 「よう、見てたぜ。やったじゃねえか」
( ´_ゝ`)「ニダーたちは大丈夫か?」
(・∀ ・) 「お前が挙動不審でうろうろしている間に運ばれてったぞ。気を失っただけみたいだ」
( ´_ゝ`)「そか、良かった。つい模擬戦の勢いで攻撃しちまった」
テントの中に用意されていた椅子に座る。
手も足も頭もクタクタだった。
ニダーたちとの戦績は、7回戦って一度しか勝っていなかったのだ。
すり減らした精神は並のそれではない。
( ^Д^) 「一戦目からあいつらは辛かったろ。隠し技なんか全部暴かれちまう」
(´<_` )「組み合わせを見た時点で覚悟はしたさ」
( ´_ゝ`)「うん、思いっきり使えてむしろよかったかもな」
( ^Д^)+ 「ま、次は俺らだ。ばっちり対策練らせて貰うぞ」
( ´_ゝ`)「……二戦続けてめんどくさいなあ」
(・∀ ・) 「俺も同情するよ」
( ^Д^) 「お前ら俺をなんだと思ってるんだ」
** ** **
- 174 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:21:44 ID:bBMJZxKE0
その日の夜。
宿舎へと戻った兄弟は自室で身体を休めていた。
明日の二回戦は勝てばもう一度戦わなければならない。
しかも、より強力な相手と。
リュウジャも大きな傷こそ無かったが疲労の回復のため、厩舎でゆっくりと眠っている。
今日のような頑張りを見せることが出来れば、十分に食いつけるはずだ。
そのためにもしっかり休息を取らなければならない。
( ´_ゝ`)(……ニダーたちと戦っている間の、あの感じ)
二段ベッドの冗談で、アニジャは両手を天井に翳した。
カーテンを閉め切った月明かりすらない部屋の中、手綱を握った感覚を思い出す。
( ´_ゝ`)(怖いくらいに、やるべきことが分った。体が勝手に動いて、まるで誰かに操られているみたいな)
集中の限界を超えた先にある、脳を切り離したような不思議な浮遊感。
先日の、違法竜騎手との戦闘で初めて味わったものだ。
あの時も敵の動きや行うべき行動が何となく読めた。
弟にハッタリと答えたがあれは半分本当で半分は嘘だ。
確証は無いが、確信があるという感覚をどう説明していいか分らずにそう答えた。
- 175 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:22:28 ID:bBMJZxKE0
( ´_ゝ`)(リュウジャの動きを、遅いと思ったのは、今日が初めてだ)
いつもはリュウジャの速さをコントロールするのがやっとだったはずなのに。
オトジャも妖精たちも問題なくついて来てくれたため、もしかしたら唯の気のせいなのかもしれないが。
ともかく、今まで積み重ねてきた努力が、実戦をきっかけに芽吹いてくれたことは間違い無さそうだ。
( ´_ゝ`)(今なら、杉浦とも、互角に戦える。そんな気がする)
歓声を思い出し背筋が震えた。
今までに無い興奮、受けたことの無い賛辞。
劣等感に塗れた心が綺麗に拭われていくようだった。
( ´_ゝ`)(……俺は強い!)
拳を硬く握る。
今まで虚ろだった自信が、大舞台で強敵を倒したことにより強固なものなった。
それが嬉しくて興奮して、アニジャは眠れずにいる。
- 176 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:23:08 ID:bBMJZxKE0
(´<_` )「兄者、起きてるか?」
( ´_ゝ`)「ん?ああ、どうした」
(´<_` )「特別何って訳でも無いんだ。眠れなくてな」
( ´_ゝ`)「珍しいな、オトジャが」
(´<_` )「俺だって、緊張することもあれば、興奮することもある」
( ´_ゝ`)「……少し、話すか?」
(´<_` )「ああ」
( ´_ゝ`)「なんか、こんな風に話すのは久しぶりだな」
(´<_` )「互いにもう仲よし兄弟って歳でもないし、こんなもんじゃないか」
( ´_ゝ`)「大体いつも一緒で話すこと無いしな」
(´<_` )「全くだ」
- 177 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:24:05 ID:bBMJZxKE0
( ´_ゝ`)「せっかくだから聞きたいんだけどさ」
(´<_` )「ん?」
( ´_ゝ`)「オトジャ、亜麻井のこと好きなの?」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「なあ、どうなの?」
(´<_` )「中学生か」
( ´_ゝ`)「いや、改めて考えると、オトジャが人を励ますって、珍しいと思ってさ」
(´<_` )「別に、何となくだよ」
( ´_ゝ`)「その何となくが世に言う恋と謂ふものでは」
(´<_` )「天井まで蹴り上げるぞ」
( ´_ゝ`)「ごめんなさい」
- 178 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:24:57 ID:bBMJZxKE0
(´<_` )「……同情したからかもしれん」
( ´_ゝ`)「ん?亜麻井に?」
(´<_` )「そう。目の前に大き過ぎる背中があって、自信を削られていく感覚は、よく分る」
( ´_ゝ`)「……オトジャ、俺のことをそんなに尊敬していたのか」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「ごめんなさい分ってて言いました。本当にごめんなさい」
(´<_` )「まあ、いいけどな」
( ´_ゝ`)「んじゃあ、亜麻井のことは何でもないの?」
(´<_` )「可愛いとは思うが」
( ´_ゝ`)「だよな。じゃなかったら頭に手を置いたりしないもんな」
(´<_` )
( ´_ゝ`)
(´<_` )「兄者、明日のプギャーとの試合、殺す気で行こうな」
( ´_ゝ`)「はい」
- 179 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:25:42 ID:bBMJZxKE0
( ´_ゝ`)「でも、プギャーに詳しい一部始終聞かなかったら、オトジャがそんなんで悩んでるって知らなかった」
(´<_` )「別に誰かに言うことでもないだろ」
( ´_ゝ`)「弟だぞ?悩んでるなら話聞いてやるぐらいしたいだろ」
(´<_` )「安心しろ。もう、自分なりに決着はつけてるつもりだ」
( ´_ゝ`)「なら、いっか」
(´<_` )「ああ」
( ´_ゝ`)「あ、でも一応言っとくけど」
(´<_` )「ん?」
( ´_ゝ`)「俺はハハジャとチチジャくらい、オトジャのことも尊敬してる」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「俺が今までやってこれたのは、騎助手がオトジャだったからだよ」
(´<_` )「言ってて恥ずかしくないか」
( ´_ゝ`)「暗いからな。明るかったら絶対言わない」
- 180 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:26:22 ID:bBMJZxKE0
( ´_ゝ`)「でもまあ、感謝を伝えておくべきタイミングかな、とは思ったんだよ。大事に望む前だからこそ」
(´<_` )「人事を尽くす」
( ´_ゝ`)「そうそれ」
(´<_` )「なら、俺も言っておくかな」
( ´_ゝ`)「え、オトジャが俺に感謝とか明日億万のハハジャが降ってきそう」
(´<_` )「兄者がどうしようも無いアホだったから、俺は何とかやってこれた。ありがとな」
( ´_ゝ`)「お……おう?」
(´<_` )「……寝るか」
( ´_ゝ`)「……そうだな」
(´<_` )「おやすみ」
( ´_ゝ`)「おやすみ」
** ** **
- 181 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 19:27:28 ID:bBMJZxKE0
竜騎武闘組み合わせ表:前半終了時
┌───────┴───────┐
│ │
│ │
┌───┴───┐ ┌───┴───┐
┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃
┌─┗━┓ ┏━┛─┐ ┏━┛─┐ ┌─┗━┓
× ○ ○ × ○ × × ○
牛 メ リ ド レ ヒ ■ ボ
頭 メ ュ l l ュ ■ ル
荒 メ ウ ペ ヴ ド ■ ト
王 オ ジ ル ァ ラ ■ l
ン ャ ゲ ン ル
l テ
ガ イ
ル
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