■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└(・∀ ・)と兄弟のようです
└後編 四
- 307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:29:40.87 ID:O5cxbXo50
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どうにか宋咲の端に着地することができた一行は、ぬかるんでいる道を進む。
誰もが無言だった。
ずっと仲良くしてきていたジョルジュと、あのような決別をしてしまった。
悔しいのか、悲しいのか、それすらもわからない。
様々な感情が混ざり合い、奇妙な形を形成している。
またんきにとっても、外に出て始めて触れあった人だっただけに、ショックは大きかった。
表情はそのままに、ただ歩くばかりだ。
ドラゴンも辛そうな顔をしている。
無言の中、足音だけが聞こえる。
兄者や弟者は極力音を消しているが、またんきやドラゴンにはそれができていない。
それでも、足音の数が合わなければ気づかれないかもしれないと、二人は足音を潜めている。
何もしないよりもマシだという心持だ。
始めて見たときは、楽しかったぬかるみも、今では憂鬱なものにしかならない。
またんきは俯いたまま、泥を目に映す。
木の根は、邪魔なだけだ。
赤い実は目障りだ。
何もかもが鬱陶しい。
心が不安定になる。
- 309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:32:49.56 ID:O5cxbXo50
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ひたすらに歩く。
状態の良い土とは言いにくい地面は、じわじわと歩く者の体力を奪う。
またんきとドクオはドラゴンの背に乗せてもらい、歩いているのは流石兄弟とドラゴンだけだ。
ずっと歩くという状態はそうなかった。
以前、宋咲で歩いたときは楽しみという気力の素もあった。
それさえなくなり、むしろマイナスの要素が胸を重くしている今のまたんきに、一日中歩く力はない。
勿論、ドクオにとってもそうだ。
彼は飛んでいるのだが、元々体力のない精霊だ。
精神的ダメージもあって、底の浅い体力はさらに少なくなっている。
( ´_ゝ`)
(´<_` )
兄者も弟者も休憩を言い出しはしない。
それどころではないからだ。
止まることは死を意味する。
またんきをドラゴンの背に乗せてやることだけが、彼らにできることだ。
ドラゴンにも疲れが見えているが、もう少し頑張ってもらう必要がある。
- 311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:35:56.85 ID:O5cxbXo50
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もう少し。もう少しだけ頑張る。
それを先へ、先へと伸ばす。
重い沈黙は、彼らの足取りまでも重くする。
ぬかるみにはまる厚さが増しているような気さえした。
けれど、確認する時間も惜しい。
歩かなければならない。
何なら、走る必要だってあるかもしれない。
喉が渇くが、近くに川はない。
明日には川を見つけていなければ干からびるかもしれない。
弟者はそんなことを頭で考えては、胸の内で否定する。
ニュー速で生きていたときは、いつでも喉が渇いていた。
それでも今まで生きてきたのだ。
この程度のことで死んではいられない。
歩く。もう一歩だけ歩く。
少しでも遠くへ逃げる。
- 313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:38:30.80 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「ここに来ることは、わかってました」
もう、歩けない。
- 316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:41:57.30 ID:O5cxbXo50
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木の陰から男が現れた。
宋咲で会ったワカッテマスだ。
(´<_` )「あんた……」
弟者は眉をひそめる。
不気味な予言をしてくれた男だ。数日程度では忘れられない。
その上、不審な情報を兄者から得ている。
ドラゴンに乗っていたまたんきは、身を低くして少しでもワカッテマスから隠れようとする。
その意図を理解しているのか、ドラゴンも声を低くして唸っている。
ブーンとドクオもまたんきに近づき、彼を守ろうとした。
この状態で、あのような言葉を残した男が、信用できるはずがない。
高等騎士と何らかの繋がりがあると見ていいだろう。
( <●><●>) 「どうでした?
私の言葉、神の言葉は当たっていでしょう」
楽しげな声だ。
己の素晴らしさに酔っている者の声。
ワカッテマスは、己の力に陶酔している。
- 320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:44:49.24 ID:O5cxbXo50
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( ´_ゝ`)「いーや?
まだ、誰も死んでない。あんたの言葉は嘘っぱちさ」
( <●><●>) 「やれやれ。わかっているのでしょ?
逃げ切ることなどできないのです」
ワカッテマスが一歩近づく。
流石兄弟とドラゴンは一歩退く。
間合いはできる限り開けておきたい。
( <●><●>) 「私には全てわかっているのですよ。
あなた方がここを通ることも、空察が高等騎士を騙そうとすることも」
肩をすくめる。
間合いを詰めることは諦めたようで、その場からは動かない。
空察の名が出たことで、五人には緊張が走る。
先ほど決別したばかりだが、やはり気にはなる。
高等騎士を騙そうとしていることまでバレているのだ。何らかの処罰があってしかるべきだろう。
( <●><●>) 「あぁ、安心してください。
空察の行動も知った上での計画ですから。
あの部隊を処罰はしません。正直、どうでもいいんです」
薄ら笑いを浮かべる。
- 322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:47:53.65 ID:O5cxbXo50
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五人はほっとするが、それでも緊張は緩めない。
緩めれば最後、目の前の男が何かしかけてくることは明白だ。
(´<_` )「あんた、何者だ?」
弟者が言葉を発する。
記録屋なんて胡散臭いものではないことはわかる。
高等騎士との繋がりがあり、どうやら予知能力も本物と見える。
情報は少しでも多い方がいい。
( <●><●>) 「私はワカッテマス。
記録屋であり、時の精霊、神の使い」
楽しげな声だ。
歪んだ声は、楽しげで、いっそ吐き気がする。
( <●><●>) 「今は、VIP国の中枢で働いています。
この国は、神の導きを欲しているのです」
高らかに言い、ワカッテマスは笑い声を上げた。
引きつったような笑い方は、彼の歪んだ心を表しているようにも思える。
- 324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:50:53.57 ID:O5cxbXo50
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またんきは怯え、ブーンとドクオを抱き寄せる。
兄者と弟者は眉間にしわを寄せて、そっくりな顔をしていた。
( ´_ゝ`)「おいおい。こんなマジキチ野郎が国の中心にいたのかよ」
(´<_` )「この国は終わりかもしれんな」
二人は腰を低くする。
どう考えても、目の前にいる男を説得できる気がしない。
こうなれば強行突破しかないだろう。
( <●><●>) 「あなた方が何をしようとしているのか、わかってますよ。
ですが、止めておきなさい。
それを聞かぬ、ということも、わかっていますが」
( ´_ゝ`)「ならば!」
(´<_` )「その口を閉じてもらおう!」
二人が同時に飛びかかる。
兄者はククリを振り上げ、弟者は短剣を上げながら詠唱を始める。
- 327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:53:59.75 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「私に、その攻撃は当たりません」
兄者の攻撃を紙一重で避ける。
何とか避けたと、いうよりは、わかっているからこそ、余裕を持って避けることができた。と、いう風だ。
素早さには自信のある兄者だ。
あっさりと避けられたことに驚きを隠せない。
弟者は、詠唱によって雷をまとった短剣をワカッテマスに向ける。
避ける動作をしたばかりの彼に、こちらを避けることはできないはずだ。
完全なる無防備。
一つがはずれても、もう一つが当たればそれでいい。
弟者は口角を上げた。
「光の精霊、ワカッテマスと契約せし我が命ず。
輝く光よ目の前に姿を現せ。全てを防ぐ力となれ。
一枚の盾となれ」
敵はワカッテマス一人ではなかった。
- 329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 20:56:48.99 ID:O5cxbXo50
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(´<_`;)「ぐっ……!」
振り降ろした短剣は、光る壁によって阻まれた。
全力の攻撃が腕に強い振動を与える。
掴む力が緩まり、短剣がその場に落ちた。
( <●><●>) 「ほら、当たらない」
大きな目が細くなる。
見下すような笑みだ。
( ´_ゝ`)「大丈夫か!」
(´<_`;)「少し痺れただけだ」
腕を抑え、弟者は後ろに下がる。
無防備な状態で敵の近くにいるのは危険だ。
この場に、もう一人敵がいるというのならばなおさらに。
( ´_ゝ`)「出てこい!」
兄者が怒鳴ると、ワカッテマスが出てきた木の陰から、新たに人影が現れる。
- 332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:00:14.14 ID:O5cxbXo50
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(‘_L’)
鼻筋の通った男がそこにいた。
人間であるその男は、何を言うでもなく立っている。
( <●><●>) 「あちらも紹介しましょうか?
彼はフィンレクト。私と契約することを許された、幸運な人間です」
ご丁寧な紹介にも、フィンレクトは答えない。
石像のように立ち尽くしている。
(´<_` )「そういえば、彼は呪文を唱えるとき、光の精霊だと言っていたが、どうなんだい?
時の精霊さんとやらよぉ」
弟者は挑発的に声をかけた。
呪文は精霊の属性を明確にしなければならない。
どれだけワカッテマスが己を時の精霊としたところで、呪文はそれに応えない。
あの男が彼のことを「光の精霊」とするならば、ワカッテマスは光の精霊でしかない。
ワカッテマスが感情を昂らせれば、隙が生まれるかもしれない。
そうなれば逃げることも、あわよくば殺せる可能性だってある。
- 334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:02:56.73 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「そうですよ。私は、光の精霊です」
意外なほどにワカッテマスは冷静だった。
楽しげな声は相変わらずであったが、激昂する様子は見られない。
( <●><●>) 「しかし、精霊を細かく分類してみるとどうでしょうか」
世間話でもしているような様子だ。
常人が考えもしないような発想をしていることは、彼が自身を「光の精霊」としていることからも窺えるが、
ここにきて中々興味深い発言をする。
弟者はこんなときでなければ、詳しく話し合ってみたいとさえ思ってしまった。
( <●><●>) 「火の精霊がいたとしましょう。
私は彼らを三つに分類します」
ワカッテマスは指を一本立てる。
( <●><●>) 「単純に炎を発生させる炎。
衝撃を作り出す爆破。
マグマのごとく灼熱の液体を生み出す溶岩」
一つ新たに足される度に指の本数が増える。
精霊使いでない者にはわからないだろうけれど、弟者には彼の言っていることがわかった。
- 337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:06:01.78 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「そして、この私。光の精霊であるワカッテマスは、何を司っているのか。
もう、おわかりですね?」
笑う。
声が、目が、表情が、笑う。
( <●><●>) 「時間です。
光は過去にも未来にもある。光の早さは時間を超越する。
私は、その能力を有しているのです」
引きつった笑い声に無表情を貫いているのは、彼の後ろにいるフィンレクトだけだ。
五人は各々顔を歪めている。
(´<_` )「だが、あんたは他の力も使った。
さっきは盾を作り出した」
( <●><●>) 「おやおや。本当はわかっているのでしょ?
それほど私の気をそらさせたいのですか」
ワカッテマスが嘆息する。
図星をつかれ、弟者は押し黙る。
精霊一人につき属性は一つだ。
しかし、使う技は努力しだいでどうにでもなる。
単純に、使いやすい技、伸びやすい技が決まっているだけだ。
- 338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:09:49.62 ID:O5cxbXo50
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ブーンは体の小ささから、照らす力しか使えない。
ドクオは闇を操り、それを通した視界を手に入れることしかできない。
ワカッテマスのような大きな精霊であれば、ついでに他の技を使えるようになってもおかしくはない。
そのついでが、小さなブーンよりも強大な力を持っていたとしても、至極当然のことなのだ。
後ろに控えているフィンレクトは精霊使いだ。
体の大きなワカッテマスの力を、精霊使いが増幅させるのならば、どこまでのことができるのか、想像もできない。
( ´_ゝ`)「なるほど。未来を見るってのが本当だとすると、国はその力が欲しいわけか」
どのような異常者であったとしても、国に有用だと判断されたのだろう。
予知能力は、誰もが欲するような能力の一つだ。
特に、国のような、一つの判断で事態が大きく変わるような存在にとっては、喉から手が出るほど欲しいに違いない。
その能力さえあれば、人間性はどうでもいい。
ただ真実を与えてくれさえすれば。
( <●><●>) 「そう。この国は、神のお言葉を求めているのです」
( ´_ゝ`)「あくまでも、あんたの予言は神の言葉、か」
本当に神というものが存在しているのならば、どうしてワカッテマスのような者に力を与えたのか問い詰めたい。
あるいは、力を持ったからこそ歪んだのか。
どちらにせよ、迷惑な神様もいたものだ。
( ´_ゝ`)「それで、その神様はオレ達を殺せって言ってるのか」
( <●><●>) 「あなた方の死は確約された未来なのです」
- 339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:12:56.27 ID:O5cxbXo50
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またんき達は怯え、体を寄せ合いながら震えていた。
捕らえられるのではない。死ぬのだ。
難なく未来を言い当てるワカッテマスが告げる死は重い。
またんきやブーン、ドクオではその重みに耐えられない。
恐怖に押し潰されてしまう。
(´<_` )「そうかい。なら、オレ達はその神様に逆らってでも生きる」
( ´_ゝ`)「まだまだやりたいことが山のようにあるしな」
二人は再び戦闘態勢を取る。
先ほどは精霊使いがいるとは思っていなかったが、今は敵の戦力もわかっている。
戦い方を考えれば、希望が見えるかもしれない。
流石兄弟は目線を交える。
そして静かに頷いた。
( ´_ゝ`)「オレ達の未来のため」
(´<_` )「あんたには死んでもらう」
- 341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:16:16.17 ID:O5cxbXo50
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兄者が地面を蹴る。
同時に懐にあるダーツを投げた。
ワカッテマスはそれを軽く避けると、フィンレクトの支援を受けて光の盾を出す。
ククリでの攻撃をそれで防ぐと、拳を兄者の腹に叩きこもうとする。
しかし、それをさせる弟者ではない。
雷を発生させ、ワカッテマスの体を狙う。
( <●><●>) 「残念」
拳を開き、兄者の服を掴むと、そのまま盾にするべく振りまわす。
(´<_`;)「兄者!」
慌てて弟者は雷の軌道を変える。
寸前のところで空に向かった雷は、木の枝にぶつかって弾けた。
(;´_ゝ`)「なんつー馬鹿力……」
細い体をしているわりに力が強い。
一見すると筋肉などなさそうにみえるのだが、精霊特有の変化しない体の一つなのだろうか。
- 343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:19:54.65 ID:O5cxbXo50
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(;^ω^)「だいじょうぶかお!」
(;'A`)「モウ、ソラニ、ニゲヨウ!」
二人が叫ぶ。
(´<_` )「空に、ねぇ……」
弟者は空を見上げる。
空察の影など見えない。それもいい考えだろう。
けれど、それでは駄目だ。
( ´_ゝ`)「コイツは、ここで仕留めておかないとな」
(´<_` )「あぁ。後々に面倒だ」
まだ大したダメージも受けていない。
諦めるには早すぎる。
尻尾を巻いて退散するのも早すぎる。
- 347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:22:48.88 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「――ああ、わかりました。
あなた方、二人は、わかっているのですね」
ワカッテマスが言った。
流石兄弟は押し黙り、鋭い光を宿した目を彼へ向けている。
それ以上の言葉を咎めるような光だ。
( <●><●>) 「そうでした。そうでした。
私としたことが、うっかりしていましたよ。
あなた方は、わかっているのでしたね」
拍手だ。ワカッテマスは流石兄弟に賞賛の拍手を贈る。
手を叩く音が辺りに響く。
(;^ω^)「お?」
(;'A`)「ナンダヨ」
(;・∀ ・)「何がわかってるんだよー!」
後ろに控えている三人はわけがわからない。
口々に声を上げてみるが、流石兄弟は言葉を返さない。
返している余裕がない。と、言ったほうが正しいのかもしれない。
- 348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:25:48.92 ID:O5cxbXo50
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ワカッテマスは顎に手を当てる。
( <●><●>) 「ふむ……。
どうしましょう」
( ´_ゝ`)「見逃してくれるってなら、大歓迎だぞ」
まさか。と、ワカッテマスは返す、
( <●><●>) 「ただね、私はあなたに感謝もしているのですよ。
ですから、ここは一つ、私の知っている、神から与えられた未来とは少し違った未来を、
存在させてみてもいいかもしれないと思ったのです」
(´<_` )「ちなみに、それは、オレ達にとってのハッピーエンドか?」
( <●><●>) 「結末は変わりませんよ。
あなた方は死ぬ。それだけは、変えません」
( ´_ゝ`)「その未来以外はいらないんだがな」
ククリを構える。
もう一度。いや、一度ではない。
何度でも突っ込む。ワカッテマスが死ぬまで。
- 352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:29:07.50 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「慈悲深い神に感謝してください。
一筋の希望を持ったまま、死ねるのですから」
兄者が駆ける。
今度は真正面からは向かわない。
木に登り、枝から枝へと身を躍らせる。
(´<_` )「雷の精霊、電気王と契約せし我が命ず。
輝く稲妻よ、煌く閃光よ。
走れ。障害なき奴のもとへ!」
雷がワカッテマスに向かう。
それは、そうあることが当たり前のように、光の壁に阻まれた。
しかし、正面に盾を張っている隙をついて、兄者が上から降る。
ワカッテマスの真上に、ククリを携えて。
重力に任せるだけで、彼の頭は綺麗に割れるだろう。
( <●><●>) 「今回の件は、全て私が仕組みました。
ですので、もしも、万が一、私を殺すことができれば、
あなた方はもう追われることなく生きることができるでしょう」
- 354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:32:47.22 ID:O5cxbXo50
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軽い跳躍でワカッテマスは兄者の攻撃を避ける。
だが、兄者にとって、今はそんなことはどうでもよかった。
目を見開き、ワカッテマスを見る。
( <●><●>) 「あなた方の敵は、国ではありません。
私ですよ。この、ワカッテマスです」
(´<_` )「そんなことを教えていいのか?」
( <●><●>) 「問題はありません。あなた方は死ぬのですから」
( ´_ゝ`)「いやいや。俄然、殺る気が出るってなもんさ」
流石兄弟の口元には笑みが浮かんでいる。
目の前の男を殺せば、今まで通りに生きることができる。
それだけで気力がわく。
( ^ω^)「どういうことだお?」
('A`)「ワカンネ」
(・∀ ・)「よくわからんが、あいつをたおせばいいんだろ?」
身を寄せ合い、三人は流石兄弟とワカッテマスの戦いを観戦する。
せめて彼らの邪魔にならないようにしているしかできない。
- 356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:36:00.36 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「何なら、私の計画の全貌もお教えいたしますよ?」
( ´_ゝ`)「それは、いらないな!」
(´<_` )「同意!」
二人が駆ける。
狙いはワカッテマスではない。
(‘_L’)
フィンレクトだ。
腰にナイフを下げてはいるが、使いこなせるとは思えない。
( ´_ゝ`)「一先ずコイツを叩く!」
棒立ちしている人間を殺すなど、簡単すぎる行為だ。
罪悪感の欠片もなく、兄者はククリを振りかざす。
(‘_L’)「光の精霊、ワカッテマスと契約せし我が命ず。
収束する光よ、圧縮する光よ。
強気一閃となれ」
(;´_ゝ`)「――っ!」
危険を感じた兄者は、わずかなところで身を翻す。
兄者の体があった場所に光が一閃し、向こう側にあった木に穴を開けていた。
- 360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:39:49.36 ID:O5cxbXo50
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(´<_` )「何だっけ……。
ジョルジュさんから聞いたことある。こんな兵器」
( <●><●>) 「ビームですよ」
(´<_` )「それだ。
ビームとか卑怯だろ……」
魔法による攻撃をしかけようとしていた弟者の腕が、だらりと垂れる。
ワカッテマスのサポート以上に、己の身は気づかっているらしいフィンレクトに力が抜けた。
それが正しい姿ではあるが、直立不動を貫いている姿からは想像ができない。
むしろ、本当に生きて思考していたのだな。と、いう感想が真っ先に頭の中にわき出た。
( ´_ゝ`)「その男がいないと、あんたも困るもんな」
死なないように全力を尽くせとでも命ぜられているのかもしれない。
どちらが契約者なのか、わかっったものじゃない関係だ。
( <●><●>) 「そうですよ。ですから、無駄なことは止めて、
私の計画でも聞いてくださいよ」
(´<_` )「嫌だね」
( <●><●>) 「そう言わずに。
私が、本物の神になるための計画なのですから」
- 362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:43:09.29 ID:O5cxbXo50
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何故か、ワカッテマスはまたんきを見た。
真っ黒で、底の見えない瞳にまたんきの肌は粟立つ。
('A`)「ダイジョウブカ?」
(;・∀ ・)「う……うん」
( ^ω^)「あいつ、どっちかっていうと、やみっぽいお」
('A`)「オレハ、アンナノト、ドウレベルカ」
( ^ω^)「あ、そういうわけじゃなくて」
精霊二人はまたんきに抱きかかえられたまま言葉を交わす。
何かあった時は、この暖かな腕の中から抜け出て、戦う覚悟もある。
その時がこないのが一番なのだけれど。
( ´_ゝ`)「しつこいと嫌われるぞ」
( <●><●>) 「どうせ一期一会です」
(´<_` )「もう二度も会っただろ」
( <●><●>) 「上げ足を取らないでください」
- 364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:46:49.97 ID:O5cxbXo50
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兄者がククリを振るう。
弟者が雷を呼び出す。
手法を変えてみても、結果は変わらない。
ワカッテマスは魔法だけではなく、体もしっかりと作りこんでいるらしく、全ての攻撃を避けてしまう。
( <●><●>) 「私は完璧ではないのですよ。
光の壁も、精霊使いがいなければ薄くて使い物にならない」
( ´_ゝ`)「精霊の悲しいところだな!」
ククリを降ろすが、やはり避けられる。
( <●><●>) 「えぇ。悲しいところです。
寿命の短い哀れな生物がいなければ、私は一、二分先しか見えません。
国としても、そんな短い未来は必要ないのです」
だから、精霊使いが死ねば、すぐに新しい者が置かれる。
それを何年も繰りかえしてきた。
( <●><●>) 「誰もが私を敬います。
私にひれ伏し、私を崇め、私を愛します。
けれど、たかが私のオマケである精霊使いまでもが、同じ扱いを受けるのです」
- 367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:49:54.87 ID:O5cxbXo50
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ワカッテマスの声に怒気が混じる。
今までは避けるばかりだったのに、反撃の手が混じり始めた。
(;´_ゝ`)「ぐっ……」
(´<_` )「退け! 兄者!」
( <●><●>) 「私は思いましたよ。
完璧な存在であるならば、私が、自身の力を最大限に活用できたのならば!」
ワカッテマスは小さな光の玉を生み出し、弟者にぶつける。
(´<_`;)「お?」
痛みはあるが、子供に殴られたようなものだ。
怪我の一つもできない。
(#<●><●>) 「……私個人が発揮できる力はそんなもの。
悔しい。悔しい。悔しい。悔しい!」
眉間にしわが寄る。
しかたのないことが受け入れられなかった子供だ。
怒りや不満を解消する術を知らないのだろう。
おそらくは、ずっと国の中枢で、ちやほやと生かされてきたから。
- 370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:52:57.59 ID:O5cxbXo50
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( <●><●>) 「考えましたよ。精霊使いの力を借りるのは癪なので、未来は見ませんでしたが、
私は一人で、素晴らしいことを思いついたのです!」
ワカッテマスは笑みを浮かべ、両手を上に掲げる。
神に捧ぐ供物を持ち上げるように。
( ´_ゝ`)「甘くみてるんじゃねーぞ!」
がら空きの懐に入りこむ。
しかし、魔法によって弾き返された。
(´<_` )「誰だって、一人の力は大したことないんだよ!」
雷を叩きこもうとするが、これも弾かれる。
流石兄弟の声はワカッテマスに届いていない。
彼はただ笑い、空を見上げている。
曇った空だ。
あの雲の上に神がいると思っているのかもしれない。
( <●><●>) 「精霊と精霊使いの間で何が起こり、魔法が増幅されているのか!
それさえ解明されれば、私自身が完全な魔法を使うこともできるはず!」
- 371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 21:56:43.95 ID:O5cxbXo50
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実質は四人、見た目は三人の攻防が続く。
( <●><●>) 「私は一人で研究を重ねました。
歴史をあさりました。魔法を学びました。
けれど! 求めた答えはありませんでした!」
( ´_ゝ`)「そらそーだ!」
そんなものがあるのならば、ラウンジ辺りの精霊が喜びそうだ。
また、そんな技術があるのならば、戦争は国家間ではなく、種族間の戦争になっていただろう。
( <●><●>) 「ですから、私は考えたのです」
(´<_` )「よく考えるなぁ。
もっと楽に生きてみたらどうだ?」
( <●><●>) 「過程がわからなくてもいい。
一人で全てをおこなう結果さえ見ることができれば」
兄者のククリを弾き、腹に拳を叩きこむ。
地に伏した彼を放って、弟者の方へ拾ったダーツを投げる。
( <●><●>) 「そのためには、精霊と他種族が混じった生き物がいればいい」
- 372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:00:02.27 ID:O5cxbXo50
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またんきは、体を硬直させた。
精霊と、他種族が混ざった生き物。
精霊使いになることができる生き物。
それは、例えば、精霊と人間でもいい。
(・∀ ・)「お、れ……?」
ブーンとドクオを離し、両腕を垂れさせる。
呆然とした目には光がない。
( <●><●>) 「そうです! あなたです!
私の苦労の結晶!
精霊の母と、人間の男の間に生まれた子供!」
ワカッテマスは嬉しそうに話す。
まるで我が子を見つけたかのような喜びだ。
(*<●><●>) 「苦労しましたよ!
精霊を単体で戦力にするための研究だとか、
私自身の能力をさらに伸ばすためだとか、
国で研究させるために言い訳するのにはね!」
後ろに立っているフィンレクトは無表情でそれを聞いている。
国家の転覆を狙えそうな計画だが、ワカッテマス自身が上に立つことよりも、
己の力を誇示することに意識が向いているため黙っているのか、
それとも、もはやワカッテマスにつき従っているだけなのか。
- 374 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:02:54.33 ID:O5cxbXo50
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(・∀ ・)「じゃあ、こーとーきしがきたのは……」
一応は国の中枢が主導を取って行っていた研究だ。
当然、実験体を取り戻すだろう。
( <●><●>) 「私が宋咲に行っている間に、あのクソ女が逃亡し、子供を売り払ったと聞いたときは、
周囲の奴らを皆殺しにしてやろうかと思いましたがね!
研究所で奴隷としているあなたを見つけたときは嬉しかったですよ!」
しかし、そこには問題があったと言う。
( <●><●>) 「奴隷は私物。いくら国とはいえ、それを易々と没収はできないのですよ。
ですから、私は兄者、流石兄者に情報を流し、あなたを盗ませた。
後は、保護とでも言って回収すれば世間的にもオールオッケー!」
(・∀ ・)「……おれは、むりやり、うまされたのか」
またんきは俯く。
望まれて生まれてきたわけではないと知っていた。
だが、根本から実験体になるために生まれてきたとは思わなかった。
(*<●><●>) 「いえいえ! 望まれていたのですよ。私に!
前々から町に面白い品の情報を流していて良かったですよ。
こうして、役にたったのですから」
- 376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:06:01.60 ID:O5cxbXo50
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( #^ω^)「おい! くそでかめ!」
嬉々としているワカッテマスに、ブーンが怒声を上げる。
気分を害された彼は、黙って己と同じ属性を持つ精霊を見る。
近くで立っている流石兄弟も、ブーンと似たような表情をしていた。
( #^ω^)「またんきはてめぇのじゃねーお!」
(・∀ ・)「ブーン……?」
小さな体を精一杯広げて、またんきをワカッテマスの視線から守ろうとする。
その姿は勇ましく、小さいからといって侮ることができるものではない。
( #^ω^)「またんきは、じゆうにいきるんだお!
あにじゃが、おとじゃが、そうのぞんだように!」
( <●><●>) 「まったく。何を言っているんですか。
その子は、正真正銘、私が作った子供。
精霊でもある己と、人間でもある己が契約し、強い力を得られるのかどうか。
それを知るために、その構造を知るために作られたのです」
( #^ω^)「だまれお!」
('A`)「ブーンノ、イウトオリダ」
- 378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:09:50.84 ID:O5cxbXo50
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ドクオがブーンの隣に並ぶ。
小さな精霊は、またんきを守るために動く。
ドラゴンも唸り声を上げて、ワカッテマスを威嚇した。
('A`)「マタンキハ、オレタチノナカマダ。
オマエニハ、ゼッタイニヤラネ」
その声に呼応し、ドラゴンの尾が地面を叩く。
近づけば彼の牙が食い込むのだろう。
( <●><●>) 「嫌な生き物ですね……。
ビームで殺してしまいましょうか」
( ´_ゝ`)「させねーっつの!」
(´<_` )「闇の精霊、ドクオと契約せし我が命ず。
周囲を埋める木の影よ、そこに潜む闇よ、
今こそ奴の身を封じこめろ!」
二人の声が重なった。
- 385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:16:46.65 ID:O5cxbXo50
-
_
( ゚∀゚)
久々に己の羽根で空を飛んだのはいいが、ジョルジュは気が重かった。
友人を裏切ったのだ。
心が軽やかなはずがない。
胸ポケットから煙草を出し、口にくわえる。
ライターを取り出そうとして、思い出す。
_
( ゚∀゚)「……オレは、忘れない」
今日という日に、友人を裏切ったことを忘れてはならない。
何度も修理しては使ってきた愛用のライターを渡したのは、その戒めだ。
煙草を吸うたび、ライターを探すたび、ジョルジュは彼らの顔を思い出す。
_
( -∀-)「兄者、弟者、ブーン、ドクオ、またんき……。
悪かった。責めるなら、オレを責めてくれ」
己の力で煙草に火をつける。
- 387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:19:49.68 ID:O5cxbXo50
-
笑った顔を忘れない。
怒った顔を忘れない。
困った顔を忘れない。
傷ついた顔を忘れない。
本当は何がなくとも、何があっても、それらを忘れることなどできない。
今まで共に過ごしてきた耳族や人間の奴らのことだって、ジョルジュは忘れていない。
裏切ってしまった奴の顔を忘れることなどできるはずがない。
灰色の煙を空に漂わせる。
心はどん底だ。
ニュー速の空が懐かしくなる。
_
( ゚∀゚)「向こうであいつらと会ったときは、楽しかったな」
誰もが笑っていた。
自分がいて、流石兄弟がいて、ギコやショボン、ブーンやドクオがいた。
そして、またんきもいた。
- 388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:22:55.20 ID:O5cxbXo50
- _
( ゚∀゚)「ん? 飛行船か……。
思ったより早く着いたな」
予定ではもう少しかかる予定だったのだが、考え事をしていたので、時間が早く感じられたのだろう。
短くなってしまった煙草を、携帯灰皿に入れると、ジョルジュは何事もなかったかのように甲板に降りる。
(,,゚Д゚)「ジョルジュさん、どこに行っていたんですか?」
すぐにギコがやってくる。
真面目な男なので、ジョルジュがサボっていることが許せないのだろう。
_
( ゚∀゚)「たまには羽根を伸ばさないと、腐っちまうだろ?
あ、今の「羽根」は比喩じゃねーから」
四枚の羽根を伸ばす。
ピンと伸びた羽根は飛ぶことに不自由しなさそうだ。
_
( ゚∀゚)「ちょっとくらいいいだろー?
新人への訓練メニューはちゃんと言い渡してから行ったし」
ギコはジョルジュを睨んだままだ。
日々を真面目に生きているギコが、この程度の言い訳で怒りを収めるとは思っていない。
- 391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:26:01.13 ID:O5cxbXo50
- _
( ゚∀゚)「悪かったって。
もうしねーよ。何なら、罰だって受けるさ。
何をする? 便所掃除か? 朝飯作りか?
禁煙以外なら何だってしてやるぜ」
笑って言葉を続ける。
どの罰を受けても、立派にやりこなす自信がある。
同時に、ギコのことだから、己に罰など与えないのだろうとも思っている。
今までだって一度も罰を下されたことはない。
初代隊長で創始者で、拾ってくれた恩人でもあるジョルジュに、ギコはどこか甘い。
(,,゚Д゚)「……あるいは、その全部」
_
(;゚∀゚)「え?」
いつものギコとは違う。
ジョルジュはようやく気づいた。
(,,゚Д゚)「ジョルジュさん」
_
(;゚∀゚)「おう」
(,,゚Д゚)「もう一度聞きますよ?
ジョルジュさん、どこに、行って、いたんですか?」
- 392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:29:57.49 ID:O5cxbXo50
- _
(;゚∀゚)「は?」
再びそこを問われる理由がわからない。
先ほど答えたばかりのはずだ。
ちょっと羽根を伸ばしにでは駄目だったのだろうか。
_
(;゚∀゚)「どこって……」
(,,゚Д゚)「言い方を変えましょうか」
その言葉はどこまでも冷たく、絶対零度の怒りが垣間見えた。
灼熱の怒りを燃やすことが常のギコには珍しい。
(,,゚Д゚)「誰と会っていたんですか」
- 393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:33:01.27 ID:O5cxbXo50
-
誰と会っていたか。
そんな質問は、まるで、全てを知っているようで。
_
(;゚∀゚)「ギコ……?」
口が震える。
笑顔が上手く作れない。
(,,゚Д゚)「答えてください。
誰と、会って、いたんですか」
確信を持っている質問の仕方だ。
あくまでも、真実はジョルジュの口から暴くためにギコは問うている。
_
(;゚∀゚)「お前、何を知って……」
(´・ω・`)「ジョルジュさん、無駄な足掻きですよ」
声の方を向けば、ショボンが立っていた。
手には一枚の紙を持ち、風になびかせている。
- 397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:36:55.98 ID:O5cxbXo50
- _
(;゚∀゚)「お前……。
まさか……」
ショボンの手の中にある紙には見覚えがある。
ちらりちらりと見える文字は、以前目を通したものだ。
あれは、すぐに焼き払うように命じたはずだ。
_
(;゚∀゚)「お前! 命令っ……!」
(,,゚Д゚)「ジョルジュさん」
ショボンのもとへ行こうとするジョルジュをギコが止める。
振り返れば、先ほどと同じ顔をしたギコがいる。
(,,゚Д゚)「この船の隊長は誰ですか」
_
(;゚∀゚)
今まで、ギコはそんなことを一度も聞かなかった。
現在の隊長はお前なんだと、何度言っても首を横に振っていた。
それと同じ人物が、船の隊長を尋ねている。
_
( ∀ )「――お前だよ。ギコ」
- 399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:40:04.75 ID:O5cxbXo50
-
初代隊長の命令より、創始者の命令より、
ショボンは現在の隊長の命令を取った。
当然だ。
一々、昔の隊長に従っていては、何のために現在の隊長がいるのかということになる。
(,,゚Д゚)「ならば、現隊長として命じる」
_
( ∀ )ゝ「はい」
ジョルジュは敬礼する。
現隊長への忠誠を敬意を示して。
(,,゚Д゚)「お前は、今まで、どこに行っていた。誰と会っていた」
_
( ∀ )ゝ「私は、シベリアと宋咲の境目にいました。
そこで流石兄弟、およびその一味と対峙していました」
(,,゚Д゚)「何を話した」
_
( ∀ )ゝ「国に狙われていること。
空察は助けになれないこと。
そして、地を行くことを勧めました」
(,,゚Д゚)「そうか……」
- 400 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:42:46.97 ID:O5cxbXo50
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ギコはジョルジュの胸に、軽く拳を当てた。
(,, Д )「……流石兄弟は、おかしな話ですが、友人です」
敬語に戻ったギコが零す。
顔は伏せられ、彼がどのような顔をしているのかジョルジュにはわからない。
(,, Д )「犯罪もたくさん犯しています。
ですが、根はいい奴らです。
まして、またんきという少年は、まだ外の世界を知ったばかりです」
_
( ゚∀゚)「だがな……」
(,,゚Д゚)「国からの命はきました!
確かに、我々は、この船に乗っている全員の一生を抱えています。
迂闊な行動は取れません!」
顔を上げる。
悲しげな瞳をしていたが、それでもギコは強い眼差しを持っている。
(,,゚Д゚)「ですから! ですからこそ!
何故、お一人で解決しようとするのですか!
船員全員で考えてはいけなかったのですか!」
- 401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:46:07.10 ID:O5cxbXo50
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流石兄弟は船員の殆どが知っている。
言葉を交わしたことのある者も多い。
全員がとは言わないが、彼らを好いている者は多い。
孤独な空の船で、時折やってきてくれる客人は、いい刺激と笑いを与えてくれていた。
彼らがいなくなれば、船員も悲しむ。
それも、事故や寿命ではなく、捕まって殺されるのであればなおさらだ。
(,,゚Д゚)「ジョルジュさん。
あなたは、流石兄弟が嫌いでしたか……?」
_
( -∀-)「……そんなわけねーだろ」
好きだ。
あの自由に生きている姿が好ましい。
楽しく生きていて、あれこそ、人生を謳歌しているというに相応しい。
一生の中で、彼らのような友人と出会えたことは、ジョルジュの中に美しい記憶としていつまでも残っているはずだった。
今回のような裏切りがなければ、そうなるはずだった。
また、今日までは美しい記憶になることを信じて疑わなかった。
- 406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:50:16.33 ID:O5cxbXo50
- _
( ゚∀゚)「でも、どうしようもねーだろ?」
バレてしまったものはしかたがない。
しかし、どうすることもできないのも事実だ。
ギコが要らぬ重みを背負ってしまうことは悲しいが、それもしかたのないことなのだ。
(,,゚Д゚)「いえ……。
ジョルジュさん。オレ達は、あなたに拾われました。
あなたと共にいるために、この船にいます」
風の音がうるさい。
それでもギコの声は真っ直ぐに届く。
(,,゚Д゚)「オレ達は、あなたがしたいことを達成するためにいます。
あなたがオレ達といたいと言うから、オレ達はいます。
この国が好きだと言うから、この国にいます」
_
( ゚∀゚)「お前、何を――」
(,,゚Д゚)「ジョルジュさんはどうしたいんですか?
流石兄弟を、ドクオを、ブーンを、またんきを、どうしたいのですか」
どうしたい。
そんなもの、答えは決まっている。
しかし、それを選んでどうする。
部下に甘えて、部下を路頭に迷わせるのか。
そんなことはできない。
- 410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 22:57:10.54 ID:O5cxbXo50
-
(,,゚Д゚)「もしも、オレ達の存在が、あなたの足を引っ張るというなら」
ギコは懐から紙を取り出す。
ショボンが持っている紙とはまったく違う。質の悪い紙だ。
(,,゚Д゚)「空察を辞めてください」
渡されたのは、除隊書だ。
正式に提出されれば、ジョルジュはこの船の船員ではなくなる。
(,,゚Д゚)「ジョルジュさんは、隊長にこの船の譲渡権限も、何もかもを現隊長に譲って、
三日前にこの隊を辞めていることにしています」
(´・ω・`)「最悪の場合、これを提出します。
ですが、例えあなたがこの船の人でなくても、オレ達は待っています」
(,,゚Д゚)「犯罪者になってしまったら、しっかり匿いますから安心してください」
真っ直ぐだ。
どこまでも真っ直ぐに、ジョルジュのことだけを考えている。
ジョルジュは一瞬言葉に詰まった。
_
( ∀ )「はっ……。
馬鹿。匿ったら、意味ねーだろうが」
- 413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/11/24(土) 23:00:54.22 ID:O5cxbXo50
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ジョルジュは羽根を伸ばす。
ここまでしてくれる部下がいるのだ。
思いに答えてこそ、上司というものだろう。
_
( ゚∀゚)「ちょっと行ってくるわ」
(,,゚Д゚)ゝ「ご武運をお祈り申し上げます」
(´・ω・`)ゝ
_
( ゚∀゚)「敬礼すんなよ。
オレは隊長じゃねーぞ」
待ってくれている者がいる。
背中を押してくれる者がいる。
それが、これほどまでに心強いものだとは知らなかった。
耳族が、人間が愛おしい。
ジョルジュは空を飛ぶ。
今さら間に合うかわからないが、どこにいるのかもわからないが、ドラゴンの足跡を探せばどうにかなるだろう。
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