2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
(・∀ ・)と兄弟のようです
  前編 三



282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:04:24.54 ID:EHpwtljV0
   
この国唯一の飛行船。
乗っている者も唯一。
見間違うことなどできるはずがない。

(´<_`;)「オレ達は一応、犯罪者なんだが……」

空察の持つ飛行船。
兄者はそれを今日の寝床に選んだという。

いくら時間の感覚が長い耳族の弟者とはいえ、
夕べ別れを告げたばかりの相手と再会するには早すぎると思える。

( ^ω^)「やくそくって、あにじゃがいっぽうてきにいってただけだお……」

( ´_ゝ`)「細かいことはいいの!」

何一つ細かいことなどあるものか。
弟者はその言葉をぐっと飲み込んだ。
ここまできたら、兄者が引くことはない。
申し訳ないが、ここは空察の皆様を犠牲にして、己の睡眠を確保しよう。

真面目な弟者ではあるが、兄者と血がつながっている。
多少の身勝手さならば持ち合わせているのだ。

284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:06:11.71 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「でかいなー」

またんきは感嘆の声を出す。
今の今まで、彼の見たもののなかで一番大きかったのはドラゴンだ。
しかし、今その順位は変動した。

('A`)「コレハ、ヒコウセンダ」

(・∀ ・)「ひこーせん」

言葉を繰りかえす。
一つでも物事を覚えるように。

(´<_` )「空を飛ぶ機械だ」

(・∀ ・)「きかい、はしってるぞ。
     はかせもいっぱいもってた」

実験に使う機械なのだろう。
またんきは笑みを浮かべたままだったが、瞳が不安定に揺れる。

286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:08:04.08 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「あそこに乗ってる奴らは、オレ達の知りあいだ。
      乱暴な奴もいるが、大概は良い奴らだよ」

(´<_` )「乱暴なのは、兄者が余計なことをしてるからだ。
      悪さをしなけりゃ、皆良い人だよ」

(・∀ ・)「わるいこと、かー」

またんきは顔を俯けて悩む。
彼の中にある「悪いこと」は、口答えをすることと、泣き叫ぶこと、動かないこと、嫌がること。
悪いことをしないためには、じっと体を小さくして、相手の言うことを黙って聞くことだ。

考えていると、またんきの体は小刻みに震える。
それは恐怖という名の感情だ。

( ^ω^)「だいじょうぶだお」

ブーンがまたんきの前へ姿を現す。

('A`)「アバレルトカ、モノヲコワストカ、ソウイウコトダカラ。
   ワルイコト、ッテノハサ」

ドクオはまたんきの肩から声をかける。
精霊二人に言われ、少し気分が安らいだのだろう、またんきは体を震わせることを止めた。

290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:10:11.04 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「精霊同士の友情に水を差すようで申し訳ないが、そろそろ着陸するぞ」

ドラゴンは一度、飛行船を飛び越える。
上空から徐々に甲板へ向けて下降していく。

(´<_` )「あー。場所、空けてくれてるなぁ」

目立つピンク色のドラゴンに気づかないという方が難しい。
甲板に立っていた何人かの船員は掃除を中断して、ドラゴンが着陸する空間を作ってくれている。
流石兄弟が突然やってくることは、今に始まったことではない。
船員達も彼らのことはよく知っているので、この程度の事態では慌てない。

彼らの好意に甘え、空けてくれた空間にドラゴンを着陸させる。
周囲に集まっている人間や耳族にまたんきは戸惑っていた。

( ´_ゝ`)「よー。お久――」

(,#゚Д゚)「昨日! つい数時間前! 会ったところだ!」

昨日は見なかった早朝の面々に挨拶しようとしたところ、
船内に繋がっている扉からギコがやってきた。
大股で近づいてくるその様子は、誰がどう見ても怒り心頭だ。

292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:12:13.00 ID:EHpwtljV0
(´<_`;)「すみません……」

ドラゴンから降りた弟者が真っ先に頭を下げる。
己の睡眠のために、空察の皆々様を売ったことに対する謝罪だ。
しかし、事情を知らぬギコからしてみれば、それはいつも通り兄者の身勝手に対する謝罪にしか聞こえない。

(,,゚Д゚)「いや、お前が謝ることじゃない。
    この馬鹿が悪い」

(;´_ゝ`)「ギャー! 首が! 首がー!」

太い腕に首をきめられ、兄者が叫ぶ。
断末魔の叫びのようにも聞こえるその声に、またんきは弟者の腰にしがみつく。

(;・∀ ・)「いたいのか? いたいのか?!」

(,,゚Д゚)「ん? その子供は何だ?」

またんきの姿を目にとめたギコは、兄者の首を絞める力を少し緩める。
一度見たら忘れられないであろうオッドアイ。
間違いなく、夕べはいなかった存在だ。

297 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:18:19.37 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「朝っぱらから騒がしくしてくれるねぇ」

(´・ω・`)「はいはい。皆、持ち場に戻ってー」

ギコが出てきた扉から、ショボンとジョルジュがやってくる。
煙草をふかしているジョルジュは寝起きのようだ。

(,,゚Д゚)「コイツの始末はオレがしておく。心配するな」

せっかくの騒動も、上司からの命が下れば見ることはできない。
集まっていた船員達は無念を隠そうともせず、渋々持ち場へ戻っていく。
何人かは、兄者に頑張れ。と、声をかけていたが、何をどう頑張ればギコの拘束から逃れられるのかわからない。

(;´_ゝ`)「始末されるー!
      助けてー!」

バタバタと暴れてみるが、ギコの拘束が解けないのは勿論のこと、弟者が救出にくる気配も見えない。
ドクオやブーンも、いつものこととしているので、心配そうな顔をしてくれているのはまたんきだけだ。

300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:20:18.95 ID:EHpwtljV0
   
(´・ω・`)「おや。この子は?」

(,,゚Д゚)「今から問いただそうとしていたところだ」

またんきを発見したショボンは、彼に目線を合わせるべく膝を折る。
幼さの残る姿ではあるが、体に刻まれている傷や烙印を見ればどのような身分なのかは察せられる。
聞きたいのはそういうことではない。

( ´_ゝ`)「盗んだ!」
  _
( ゚∀゚)「あぁ……。
     ご丁寧に、紹介しにきてくれたわけか」

煙草の煙を吐きながら呟く。
まだ頭は覚醒していないようだが、昨日の会話は忘れていないようだ。
ショボンの隣にしゃがみこむ。

(;・∀ ・)

体格も良く、人相が良いとは言いにくいジョルジュに見据えられ、
またんきは体を弟者の後ろに隠してしまう。
目を合わせるなど、とてもではないができそうにもない。

303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:23:15.35 ID:EHpwtljV0
   
( ^ω^)「おびえてるおー」

('A`)「イジメ、ヨクナイ」
 _
(;゚∀゚)「別にいじめてねぇよ」

小さな精霊に言われ、ジョルジュは立ち上がる。
ショボンも倣って立ち上がった。

視線から逃れることができたので、またんきは再び弟者の後ろから顔を出す。
観察するようにジョルジュとショボンを見つめている。

( ´_ゝ`)「この子は、今回の戦利品。またんきだ」

軽く頭を殴られたのか、後頭部をさすりながら兄者が皆のもとへやってくる。

( ´_ゝ`)「またんき、こいつらは見た目は良くないが、中身は良い奴らだから。
      そんなに怯えなくてもいいぞ」

(;・∀ ・)「おびえるってなんだよー」

虚勢を張って声を荒げているが、所詮は子供の声だ。
恐ろしくもなんともない。むしろ、弱々しさを増幅させるばかりだ。

306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:25:27.20 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「人間……じゃねーな」

見た目は人間だ。
しかし、中身は違う。
ジョルジュはその場にいる誰よりも早くそれを見抜いた。

(´<_` )「流石ですね。ジョルジュさん」

肯定を意味する言葉に、ショボンとギコが目を見開く。
言われてみれば、そこにある気配は精霊とも人間とも違う。

( ´_ゝ`)「またんきは、精霊と人間のハーフだ」

(;´・ω・`)「なっ……!」

(,;゚Д゚)「馬鹿なっ!」

二人が驚愕の表情を浮かべる。
対してジョルジュは、いつも通りの余裕ぶった表情で煙草を吸うばかりだ。

309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:27:32.33 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「お前さんらも物好きだねぇ。
    そんなにたくさん抱え込んでどうするんだ?」

視線はまたんきから、ブーン、ドクオ、ドラゴンへと移行していく。
言葉でこそ複数形になっているが、実質的に言えば兄者にのみその言葉は向けられていた。

( ´_ゝ`)「別に?
      オレは興味があったから盗んだだけ。
      どうするつもりもない」

実験に使うことができるほど、兄者は知識や技術があるわけではない。
弟者はそれらを有しているかもしれないが、他者を実験体にするような者ではない。
それ故に、彼らが盗みだしたモノ達は、誰一人欠けることなく、今日までを過ごしている。

(,,゚Д゚)「……なるほど、ハーフ、か」

その珍しさを理解することは容易い。
同時に、有用な実験体になることを想像することも、また容易い。
ギコは己の想像が間違っていないだろうことを悔やむ。
またんきに刻まれている烙印は、彼が奴隷であり、嬲られてもそれほど問題にはならない立場であったことを示している。

(;・∀ ・)「おこってる……ぞ?」

(´<_` )「違うよ。ギコさは元々、あんな顔なんだ」

312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:29:36.56 ID:EHpwtljV0
   
(,#゚Д゚)「おい」

( ´_ゝ`)「自分の人相が良いといつから錯覚していた……?」

(,#゚Д゚)「してねーよチクショウ!」

向けられた拳を避けた兄者は、その動作のまま弟者の隣に立つ。

( ´_ゝ`)「ギコはお前のことが心配なだけだよ」

またんきに優しい眼差しを向けて言う。
その言葉が真実なのかどうか、またんきに確かめる術はない。

(・∀ ・)「いたいことしないのかー?」

(,,゚Д゚)「しねぇよ」

(´・ω・`)「ガラ悪いよ」

ぶっきらぼうな言葉遣いしかできないギコを嗜める。
自覚があるのか、彼自身も唇を噛みしめていた。

315 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:31:33.38 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「ちなみに聞きたいんだけど、精霊って生殖器あるの?」
  _
( ゚∀゚)「ある」


明け透けな問いかけ。
見事なほどの即当。

女性がいないむさ苦しい空間でのこととはいえ、
質問も答えも適切だとは言いがたい状況なのではないだろうかと誰もが思った。

風紀を気にする性質のギコなどは、その場に膝を落とす。
言いたいことはあるのだが、尊敬するジョルジュの言葉でもある。
もうどうすばいいのかわからない。

(;^ω^)「ぎこさん、そんなにおちこむようなことじゃないお!」

(;´・ω・`)「ジョルジュさんが自由なのは今に始まったことじゃないでしょ!」

慌てて二人がギコの肩を叩く。
放っておいたら、いつまで経っても立ち直らない可能性がある。

318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:34:17.02 ID:EHpwtljV0
   
('A`)「アルノカ……」

もう一人、落ち込んでいる者がいたが、こちらは放っておいても大丈夫だろうと判断された。
そこに触れると、ギコがまた落ち込みそうだという理由もある。
  _
( ゚∀゚)「でも、性欲はねーなぁ。
     繁殖行為をしなくても勝手に生まれてくるし」

( ´_ゝ`)「じゃあ、またんきは正真正銘、精霊の種か腹から生まれたんだな」
  _
( ゚∀゚)「だろうな。行為に及ぶ精霊、それも別種族となんて、信じられないが」

(´<_` )「いた場所が場所なんで、正直……」

愛し愛されで生まれたとは思えない。
その言葉を飲み込む。
いくらなんでも、奴隷として売られた子供本人の前で話すようなことではない。

(,,゚Д゚)「……お前ら、子供用の服とか持ってるのか?」

どうにか立ち直ったらしいギコが問う。
視線の先にいるまたんきは、痛々しい半身を晒している。
夜は寒いだろうし、昼間の陽射しには肌を焼かれる。

321 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:36:41.78 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「あー。ない、です」

( ´_ゝ`)「起きたら盗みに行こうかと」

(,,゚Д゚)「どこで寝るか知らんが、この子の体は目立つぞ」

流石兄弟は互いの顔を見る。
再びギコの方を向いたとき、兄者は笑っていた。

( ´_ゝ`)「そうそう。ここに泊めてもらおうと思ってたんだ」

(,,゚Д゚)「は?」

(´<_` )「眠いです」

(´・ω・`)「知らんがな」

( ^ω^)「またんきはだいじょうぶかお?」

(・∀ ・)「ねむたいぞー」

( ´_ゝ`)「子供もこう言っていることですし」

(,,゚Д゚)「いや、お前達が盗んだんだろ。
    お前達が何とかしろ」

323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:39:13.52 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「えー。今から宿屋を探すのは面倒だし、半裸の子供連れで野宿も厳しいでしょー」

(,,゚Д゚)「おい弟者。コイツどうにかしろ」

(´<_` )「無理です。
      というか、オレも眠たいのです」
  _
( ゚∀゚)「一日くらいならいいだろ。
     まだニュー速地方の空を回る予定だし」

短くなった煙草を消して言う。
元より、ジョルジュは彼らが泊まることをそれほど拒絶していない。

(,,゚Д゚)「ジョルジュさん!」

(´・ω・`)「諦めなよ。
      ジョルジュさんは兄者みたいな生きかたしてる奴が好きだし」

ショボンは肩をすくめた。
幼いころ、ジョルジュに拾われたときから、彼がどのような存在を好いているのか知っている。
この飛行船に乗っている者ならば、誰もが理解していることだ。
  _
( ゚∀゚)「ま、オレは一船員だからな。
     隊長に任せるぜ」

(,,゚Д゚)「……ずるいです」

326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:41:18.13 ID:EHpwtljV0
   
現在、ギコが隊長という地位についていたとしても、彼はジョルジュを越えることはない。
精神的にも、周りから見られている評価としても。
そして、ギコ自身が、ジョルジュを越えたいと思っていない。

(,,゚Д゚)「わかった。
    その代わり、空いてる部屋に全員ぶち込むからな」

( ´_ゝ`)「アイアイサー!
      あ、ドラゴンはそこで寝てていいぞー!」

(´・ω・`)「そんな勝手なことを……」

船内へ通じる扉へ向かうギコの後を追う。
またんきはブーン達に服を引かれ、兄者の後に続く。

(´<_` )「すみませんね」
  _
( ゚∀゚)「本当にそう思ってるなら、兄貴を止めろ」

(´<_` )「引き返せないような所で種明かしをするもので」

己の持ち場があるのか、ショボンは別の場所へ移動していく。
甲板には弟者とジョルジュ、そして眠りにつこうとしているドラゴンだけが取り残されていた。

328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:44:21.52 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「ついていかねーと、場所がわからなくなるぞ」

(´<_` )「わかってます。
      ただ、答えなければいけないことを忘れていたので」

上空に舞う風を体に受けながら、弟者は言葉を紡いでいく。
顔は甲板の向こう側に広がる空を見ている。
  _
( ゚∀゚)「何なら、あの子供も保護してもいいぜ?
     兄者だって、手元にずっと置いておきたいってわけでもないんだろ?」

所有欲があるような男ではない。
興味がある程度薄れれば、後は好きにすればいいというスタンスを取っている。

(´<_` )「しばらくは置いておくつもりですよ」
  _
( ゚∀゚)「へー」

(´<_` )「ぐっちゃぐっちゃに泣かせてやりたいんですって」
 _
(;゚∀゚)「おいおい。心配になるようなことを言わないでくれよ」

兄者が虐待めいたことをするとは思っていないが、実の弟から放たれた言葉が不穏すぎる。

331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:46:22.77 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「実際、何をするのかは起きてからのお楽しみだそうで」
  _
( ゚∀゚)「兄者はいつも楽しそうだな」

(´<_` )「ええ。
      自由で、好き勝手で……。
      刹那主義者が多い耳族の中でも、頭一つ抜けてますよ」
  _
( ゚∀゚)「そりゃいい。
     オレも亡命してきたかいがあるってもんだよ」

一瞬、甲板に沈黙が降りる。
ジョルジュが口を滑らせたわけではない。
彼の言ったことは、この飛行船に乗っている者ならば誰もが知っていることの中に含まれている。

(´<_` )「本当に、あなたは変わった精霊ですよ」

空からジョルジュに視線を移す。
  _
( ゚∀゚)「自覚はあるぜ。
     特にラウンジでは珍しいタイプの精霊だよ」

334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:48:11.19 ID:EHpwtljV0
   
一つの大陸からなるラウンジ国は、魔法よりも科学技術が発達している。
そのため、あちらの国では精霊がぞんざいに扱われているのだ。
けっして精霊の力が弱いわけではない。
むしろジョルジュのように強い力を持った精霊の方が多い。
  _
( ゚∀゚)「ラウンジもさ。この国みたいに多くの属性を持てればよかったんだ」

遠い目をして言う。
VIP国の土地には五属性が揃っている。
対して、ラウンジ国には二属性しか備わっていなかった。

両国が同じように五属性を備えていれば、間違いなく魔法戦争となっていただろう。
しかし、現実的には機械と魔法の戦争が過去に行われ、未来にも行われる。

(´<_` )「そうすれば、精霊の地位も安定していたでしょうね」

ぞんざいな扱いを受けていた精霊達は人間や耳族に強い不信感を抱いた。
VIP国の精霊も同種族同士が固まって生活し、進んで他種族を受け入れようとはしない。
しかし、ラウンジ国の精霊は、その傾向がVIP国よりもずっと強い。
他種族と口を聞くことすら禁じ、己達のテリトリーから離れることも許さない。

弟者がこの事実を知ったのは、目の前にいるジョルジュ自身の口から聞かされたときだった。

337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:50:25.15 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「オレはずっと思ってたもんな。
     命の制限が目に見えている種族ってのは、すげーって」

彼の目から見た他種族はいつも輝いていた。
一瞬の命ではあるが、その間に多くを成す。
子供を作ること、名を知らしめること、笑うこと、泣くこと。
  _
( ゚∀゚)「ずっと、ずっと隠れて見てたんだ」

ほぼ無限の命を持つジョルジュには眩しい生き物達だった。
長い時間を持つあまり、精霊には自由が少ないと感じることさえある。
短いからこそ、好きに生きることができる。

誰だって、長く長く続くであろう生活に、暗闇を落としたくないと願う。
願うあまり、無難な選択肢以外を切り捨ててしまう。

(´<_` )「オレは、ジョルジュさんも十分過ぎるくらい自由だと思いますよ」
  _
( ゚∀゚)「今はな。
     ……この状態になるとき、あれは最高に自由だったな」

ケラケラと笑う。
今でも思い出す度に笑いが込み上げてくるらしい。

340 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:52:56.55 ID:EHpwtljV0
   
仲間が引き止めるのも聞かず、精霊の集落を抜けた。
差別的に扱われることに嫌気が差し、適当な飛行船をかっぱらった。
よりにもよって、兵器ともなる飛行船を、敵国であるVIPにまで運んできたのだ。
  _
( ゚∀゚)「こっちに来てよかった。本当にそう思うぜ。
     耳族も人間も、オレのことをぞんざいに扱わない。
     対等に扱うことだって多い。ギコのあれは、オレが精霊だとか関係ないしな」

憧れていた種族達と暮らすことは幸福だ。
国に所属しているとはいえ、それなりの自由はもぎ取っている。
落ちぶれた者を広い、空を旅する至福だ。
  _
( ゚∀゚)「……なあ、お前達の命は短いだろ?」

VIP国へきて、空察を設立させて、ジョルジュは何度も仲間の死を見た。
精霊ならばほとんど訪れることのない、生きる者と死に逝く者の別れ。
輝く命は儚い。彼にとっては儚すぎた。

(´<_` )「あなたに比べればね」
  _
( ゚∀゚)「そうだ。オレに比べればずっと早く死んじまう。
     オレは自由な奴が好きだ。自由が好きだ。
     だから、その手助けができるってんなら、喜んでする」

真っ直ぐな瞳は、彼の意思を示している。
押し付けるわけではない。
選択も、自由だ。

343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:54:39.36 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「お前の答え、聞かせてくれよ」

兄者と離れ、静かに暮らす。
研究でもして、日がな一日、本を読むような生活。
短い命の中で、ゆるやかな時間を緩慢に過ごす。
派手な輝きではないかもしれないが、綺麗な輝きを持った光だ。

(´<_` )「ジョルジュさん」

弟者は困ったように笑う。

静かな風が一陣、二人の間に吹く。






(´<_` )「オレ、このまま兄者と一緒にいますよ」

    

346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:56:29.85 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「……いいのか?」

眉を寄せ、困ったような笑みを浮かべている弟者へ問いかける。
彼の表情からは、兄者といる未来に希望を見ているようには感じられない。

(´<_` )「いいんですよ」

照れくさそうに頬を掻く。

(´<_` )「ちょっと考えました。
      堅実に、静かに、危険なんて感じずに生きることも」
  _
( ゚∀゚)「お前はそれが一番したいって思ってたよ」

兄者といるのは、それを現実にするための手段がないから。
また、後押しがないから。それだけの理由だと勝手ながら思っていた。

(´<_` )「オレも、それが一番かな? って思いました。
      でも、違ったんです」

扉の方へ一歩踏み出す。

(´<_` )「兄者のしたいことをする。
      それが、オレのしたいことでした」

349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:58:45.15 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「そうか。なら、オレの言ったことは、お節介極まりなかったな」

(´<_` )「いえいえ。ご心配をしていただき、ありがとうございます」
  _
( ゚∀゚)「……別の道を勧めたオレの台詞じゃねーかもしれないが、
     よかったよ。お前が兄者といてくれる道を選んでくれて」

弟者の後にジョルジュも続く。
  _
( ゚∀゚)「兄者だけじゃ、心配すぎる」

(´<_` )「一緒にいたい理由の一つですよ……」

猪突猛進ともいえる兄者だ。
どこで罠に引っかかって死ぬとも限らない。

二人は扉を通り、船内へと入っていく。
ギコ達の姿は見えないが、ジョルジュが弟者の前を進み、心当たりへと向かう。
  _
( ゚∀゚)「嫌になったらいつでも言ってこいよ」

(´<_` )「ありがとうございます。
      でも、一生ないと思いますよ」
  _
( ゚∀゚)「何だ、いよいよお節介が過ぎるか?」

350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:01:23.98 ID:EHpwtljV0
   
ジョルジュが二つ目の扉を開け、中に目的の者達がいないことを確かめてまた閉める。
  _
( ゚∀゚)「……ところでよ」

その声はやけに硬い。
真剣、というよりは、緊張を感じさせるものだった。
このようなジョルジュは始めてで、弟者にも緊張が走る。
  _
( ゚∀゚)「あの子供……。またんきっつったか」

(´<_` )「はい。
      dat町にあった研究所から盗んできました」
  _
( ゚∀゚)「精霊と人間のハーフってか」

(´<_` )「見た目と気配から、それが真実だと判断しました。
      あと、属性もしっかり持っているらしいです」
  _
( ゚∀゚)「ほう……?」

(´<_` )「火と水です」
 _
(;゚∀゚)「二つも属性を持ってるのか!」

前例がないことに、ジョルジュも驚愕の声を上げざるを得ない。

353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:03:23.54 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「どういうことなんでしょうかね。
      火の精霊と水の精霊ならともかく」
 _
(;゚∀゚)「いや、ありえない話ではない」

(´<_` )「え?」
  _
( ゚∀゚)「人間や耳族にだって属性はある。
     ただ、それを発生させることができないだけだ」

水属性の地方に生まれた人間は、水属性を持つ。
火属性の地方に生まれた人間もまた、その地方にあった属性を身に宿す。
精霊と違うのは、それを扱い、外へ放出できないという点だけだ。
  _
( ゚∀゚)「だから、属性が違う精霊と人間だったなら、ありえなくはない」

(´<_` )「なるほど」
  _
( ゚∀゚)「しかし、そうなると、何の間違いでも冗談でもなく、本当にハーフだということになるな」

精霊のような羽根は持たず、
人間のような髪を持つ。
精霊のような能力を持ち、
人間のような成長を持つ。

二つの種を掛け合わせたとしか考えられない存在だ。

356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:05:20.05 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「あの子は奴隷だろ?」

(´<_` )「元、奴隷です」
  _
( ゚∀゚)「すまんすまん。他意はない。許せ。
     でだ。元奴隷ってことは、親はどうした」

(´<_` )「兄者の話によると、望まれぬ子だったと」

弟者の言葉に、ジョルジュは渋い顔をする。
顎に手をあて、自分の考えを告げるべく口を開く。
  _
( ゚∀゚)「精霊が他種族と交わることは、まあ控えめに言ってもほとんどありえない事態だ」

(´<_` )「でしょうね。だからこそ珍しい」」
  _
( ゚∀゚)「珍しいのは勿論そうだが……。
     おかしくないか?」

扉を開けては閉め、次の扉に手をかける。
せめてこの話が終わるまでは兄者達を見つけたくないと弟者は思い始めていた。

358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:07:29.94 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「ありえない事態を超えて、子供ができた。
     それが愛ならば何故子供を捨てる。
     それが無理矢理の事態だったならば、堕胎させないのは何故だ。
     第一、精霊と人間の属性が違うなんてできすぎている」

偶然に出会った二人ならば、その属性は両者とも同じであることの方が自然だ。
精霊は普通、自分の属性を持つ土地から離れない。
あちらこちらに移動することのある人間ではあるが、精霊が住まうような場所へ行くのは、
地元の人間くらいのもののはずだ。

(´<_`;)「それは……」

弟者は言葉に詰まる。
偶然でないのならば、何なのだ。
何者かが、ハーフを、違う属性を掛け合わせることを目的としていたとでもいうのか。
静まり返った通路で弟者は唾を飲む。
  _
( ゚∀゚)「……今のは、オレの推測だ。
     だが、気をつけろ。目的も、出所もわからんモノほど恐ろしいモノはない」

(´<_` )「何がくるかもわからない。そういうことですね……」

眉をひそめる。
盗賊として、他の地方では追われた経験もある。
だがその正体はいつでもハッキリしていた。

361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:10:11.61 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「もし、何らかの目的を持って生み出されたのがまたんきだったとしたら、狙われるだろうな。
     ブーン達やドラゴンのような、人工的に生み出された生物とは違う。
     性行為をして、十月十日。生まれるには時間がかかっている。
     量産もできなければ、時間もかかる……」

(´<_` )「……肝に銘じておきます」

新たにハーフを作るかもしれない。
だが、新たに生まれるまでの間、またんきを探さないとも限らない。
流石兄弟は研究の首謀者を殺したわけではない。
危険だと言われれば、それを否定できない。
  _
( ゚∀゚)「助けが必要なら言えよ。
     限りはあるが手を貸す」

(´<_` )「ありがとうございます」

仕事をしているようには見えない空察だが、国の機関の一つだ。
その中心にいると言っても過言ではないジョルジュが手を貸すと言った。
ギコも、ショボンも、手を貸してくれること間違いなしだ。

対立する職ではあるが、今まで上手くやってきている。
互いに気を許しあうことができる間柄だ。
弟者は彼らを信じている。

363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:12:29.44 ID:EHpwtljV0
   
(,,゚Д゚)「あっ。どこ行ってたんだよ弟者!」

(´<_` )「ギコさん」
  _
( ゚∀゚)「おお、お前らを探してたんだ」

キョロキョロとしていたギコが駆け寄ってくる。
どうやら、兄者達の中に弟者がいないことに気づいたらしい。

(,,゚Д゚)「こっちだ」
  _
( ゚∀゚)「オレは一仕事してくるわ。
     見送りくらいはしてやるからなー」

(´<_` )「そんなお構いなく」
  _
( ゚∀゚)「遠慮するな。どうせ暇だ」

(,#゚Д゚)「暇じゃないでしょ!」
  _
( ゚∀゚)「怖い怖い。
     じゃーな!」

手をヒラヒラさせてジョルジュは駆けて行く。
彼が具体的に何をしているのか弟者は知らないが、あれでも初代隊長で、空察の創始者だ。
何かしら重大な仕事があるに違いない。

365 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:14:47.02 ID:EHpwtljV0
   
(,,゚Д゚)「お前がしっかりしてないと困るぞ」

(´<_` )「すみません。睡魔に負けて……」

(,,゚Д゚)「そっちじゃない」

(´<_` )「え?」

てっきり宿屋代わりにしてしまったことを怒られているとばかり思っていた。
目を丸くした弟者に、ギコは言葉を渋る。

(,,゚Д゚)「その、だな……。ほら、そっちじゃなくて」

(´<_` )「はい」

(,,゚Д゚)「……またんきだよ」

(´<_` )「あぁ、なるほど」

ようやく出た単語に、納得する。
外見はともかく、他者に優しい男だ。
それも子供で、元奴隷ともなれば、優しさは倍増するだろう。

367 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:16:56.03 ID:EHpwtljV0
  
(,,゚Д゚)「盗んだのって夜だろ?
    半裸でドラゴンに乗せてここまできたのか」

(´<_` )「いや、半分精霊なんであまり寒さを感じてないらしいです」

(,,゚Д゚)「だとしてもだ!」

近くにジョルジュという精霊がいるギコは、精霊があまり寒さ暑さを感じないことは知っている。
けれど、問題はそこではないのだと力説し始める。

(,,゚Д゚)「今はまだよく物を知らないと見た。
    だからこそ、正しい知識を入れてやらねばならないだろ。
    寒さを感じないとはいえ、凍傷にはなる。暑さを感じずとも日焼けはする」

(´<_`;)「うっ……」

正論だ。
精霊の体は凍傷や日焼けにも強いが、暑さ寒さを感じにくいため、気づけば重傷を負っていることもある。
特にまたんきなどは、己の感情や感じている物事を伝える言葉を持っていない。
周囲が気をつけてやらねばならない。

(,,゚Д゚)「それに……あの体は、あまり晒しておくべきではないだろ」

ギコは渋い面持ちになる。

370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:18:59.81 ID:EHpwtljV0
   
またんきの体には奴隷の証がいくつもついている。
彼自身や、兄者達か気にせずとも、何も知らぬ者達はまたんきを蔑むだろう。
奴隷だと詰られるか、奴隷上がりのゴミだと言われるか。
どちらにしても良いことなど一つもない。

(´<_` )「……そうですね」

己の考えがいかに甘かったのかを思い知らされる。
舌打ちの一つでもしたい気分だった。

(,,゚Д゚)「そんな顔をするな。お前が悪いわけではない」

ギコは自分よりも若い流石兄弟の甘さが嫌いではない。
年数にしてしまえば、本当に短い間しか生きていないだろう二人は、良くも悪くも純粋といえた。

(,,゚Д゚)「お前達自身が、奴隷を見下していない証拠だよ」

寿命が短く、頭脳明晰だとは言い難い耳族は、他の種族から見下されがちだ。
しかし、だからといって全ての耳族が奴隷と己を重ねはしない。
大抵の者は己より下を見つけ、侮蔑の言葉を吐きかける。

(,,゚Д゚)「多くの者はそうではない。
    覚えておけ」

奴隷制度に対して強い反対意思を見せるギコらしい忠告だった。
悲しげに伏せられた目は、自分の力のなさを嘆いているようにも見える。

372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:21:39.80 ID:EHpwtljV0
   
(,,゚Д゚)「おっと。ここだ。
    他の者達はすでにベッドに入っている。お前も好きなのを使え」

(´<_` )「二度も案内させてしまってすみません」

(,,゚Д゚)「そう思うなら、兄者と一緒に行動していてくれ」

(´<_` )「善処します」

今回のように、弟者がそこに留まったために離れた。と、いうようなことは殆どない。
兄者が先に先にと走って行くほうがずっと多いのだ。
それは弟者がどう頑張ったところで、どうにもできない問題だ。

(,,゚Д゚)「起こさんから、勝手に起きろ。
    起きたらその辺りの船員を捕まえて、オレの報告させろ」

<(´<_` )ビシッ 「了解いたしました船長!」

(,,゚Д゚)「……お前ら、兄弟だよなぁ」

ギコは少しばかり表情を柔らかくした。
しかし、そこに含まれているのは怒気。

普段は兄者の奔放さに隠れているが、弟者も十分に人を小馬鹿にした態度を取る。

(´<_` )「おやすみなさい!」

怒られる。瞬時に危険を察知した弟者は、素早く扉の中に身を滑りこませた。

375 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:23:43.36 ID:EHpwtljV0
   
しばらく体で扉を抑えていたが、特に恐ろしい衝撃はなかった。
室内に入ってまで怒るつもりはなかったようだ。

(´<_` )「危ない。危ない」

冷汗を拭い、室内を見渡す。
質素な部屋だ。
ベッドが四つとチェストが一つ。

どのベッドが空いているのだろうかと見て回る。
一番扉に近いベッドには兄者が眠っていた。
その隣のベッドにまたんきがいる。

(´<_` )「細かなところに気配りができる人だ」

小さなブーンとドクオを探した弟者は、チェストの上に籠があることに気づいた。
覗きこんでみれば、中には小さなクッションが敷かれ、柔らかなハンカチが掛け布団として置かれている。
二つに挟まれたブーンとドクオは夢見心地だ。

この部屋にきてから、そう時間は経っていないはずなのだが、全員ぐっすり眠っている。
またんきは知らないが、弟者達は起きてからそろそろ二十四時間が経とうとしていた。
眠たくもなるというものだ。

(´<_` )「オレもさっさと寝るか」

どうせ兄者が起きれば、問答無用で叩き起こされるのは目に見えている。
一時の休息は、長ければ長いほどいい。

377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:26:19.70 ID:EHpwtljV0
   
流石兄弟達が眠っている頃、飛行船では船員達がそれなりに仕事をこなしていた。
仕事とはいっても、多くの者は掃除や見張りをしているくらいで、
操縦や国からの指令を受け取る者の数は限られている。

(´・ω・`)「ギコ、早速あの二人の犯罪歴が追加されたみたいだよ」

(,,゚Д゚)「国もそういう仕事をするのは早いな」

ショボンから差し出された紙を受け取り、文字に目を通す。
それは所謂、指名手配書のようなもので、飛ぶ術を持つ犯罪者に関しては、こうして書面で送られてくるのだ。

(´・ω・`)「仕事する?」

(,,゚Д゚)「……いや、そんな卑怯な真似はしたくない」

真剣に対峙すれば勝算など五分五分だ。
流石兄弟は機動性に優れた兄と、遠距離攻撃や頭脳を使うことに優れた弟がいる。
捕まえるのは簡単なことではない。

(,,゚Д゚)「何より、あの子供が可哀想だ」

ギコは受け取ったばかりの書類を丸め、ゴミ箱に投げ込んだ。

380 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:28:21.33 ID:EHpwtljV0
   
(´・ω・`)「ギコは優しいね」

(,,゚Д゚)「お前だって、捕まえたいとは思っていないだろ」

(´・ω・`)「彼らを見てると、毒気を抜かれちゃうんだよねー」

そう言って苦笑いを浮かべる。
他者を助けているとはいえ、彼らは犯罪者だ。
今回追加された罪名は窃盗だけだったが、過去の犯罪歴として殺人や放火も載せられている。

(´・ω・`)「同じ犯罪者でも、多くの奴らはもっとドロドロしてる。
      恨み言を呟き、目を血走らせて、ニタリと笑うんだ」

(,,゚Д゚)「そうだな」

ショボンもギコも、その場所にいたことがある。
その時は、捕まえる側ではなく、捕まえられる側の存在だった。

(´・ω・`)「あんな風にカラカラ笑ってさ、人生を謳歌してます! ってのは、中々見ないよ」

(,,゚Д゚)「だから、ジョルジュさんもあいつらのことを放っておけないんだろうな」

(´・ω・`)「一度は勧誘したこともあったもんね」

383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:31:41.78 ID:EHpwtljV0
   
思い起こせば懐かしい出来事の一つだ。
空察が始めて流石兄弟と会ったとき、ジョルジュは迷わずに彼らを勧誘した。

(,,゚Д゚)「あいつら、ジョルジュさんの誘いを断りやがって」

(´・ω・`)「いやー。ボクはよかったと思うよ」

(,,゚Д゚)「ん?」

(´・ω・`)「だってさ、兄者が空察の一人だったら、毎日大変そうじゃない?」

(,,゚Д゚)「あー。確かに……」

(´・ω・`)「本当に、弟者はお疲れ様。って、感じ」

二人は廊下を歩きながら雑談を広げていく。
隊長であるギコにはやることが幾つもある。
あまり時間を無駄にはできない。
  _
( ゚∀゚)「ギコ。国から新しい書面が届いたって聞いたんだが」

廊下の向こう側からジョルジュがやって来る。
先ほど別れたばかりなのだが、書面のことを聞いてやって来たらしい。

(,,゚Д゚)「はい。流石兄弟絡みのものでした」

385 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:34:20.81 ID:EHpwtljV0
   
新人の訓練を主に担当しているジョルジュは、彼らを見張らなくていいのならばそれなりに時間がある。
今回も、サボることなどできない用事でも与えて出てきたのだろう。
  _
( ゚∀゚)「何て書いてた?」

(,,゚Д゚)「窃盗が犯罪歴に追加されただけです」
  _
( ゚∀゚)「そうか。ならいい」

(,,゚Д゚)ゝ「はっ!」
  _
( ゚∀゚)「おいおい。今の隊長はお前だぞ?
     オレに敬礼してどうするんだ」

(,;゚Д゚)「癖で……」

ジョルジュに笑われ、ギコは視線をさまよわせながら頭を掻く。
拾われた時からの癖なのだ。
今さら、ジョルジュに命令することもできないし、ましてやタメ口など聞けるはずがない。

388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:36:55.55 ID:EHpwtljV0
   
(´・ω・`)「何か気になることでもあったんですか?」
  _
( ゚∀゚)「いや……。ハーフなんて今まで発表されたことのない存在だろ?
     国としても研究対象として捕まえようと躍起になるんじゃないかと思ってな」

ジョルジュの視線が下がる。

(´・ω・`)「……国が本格的に動くと、ちょっと困りますね」

重い命令が下されるだろう。
それこそ、従わなければ空察の存続が危うくなるような。
  _
( ゚∀゚)「あぁ……」

弟者には手助けしてやると言った。
しかし、相手が国となればそうはいかない。
彼はれっきとした国家の犬なのだ。

(,,゚Д゚)「大丈夫ですよ。
    送られてきた書類には、ハーフのことなど一文字もありませんでしたから」
  _
( ゚∀゚)「なら、オレの思い過ごしだ」

少しだけ不安が解消されたのか、ジョルジュはいつも通りの笑みを浮かべる。

390 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:39:08.79 ID:EHpwtljV0
   
(,,゚Д゚)「それより、新人達はどうしたんですか」
  _
( ゚∀゚)「甲板で筋トレ中」

(´・ω・`)「あそこは誰かしらいますからね」
  _
( ゚∀゚)「そうそう。サボったらすぐにバレる絶好のポイント」

(,#゚Д゚)「他の船員がグルだったらどうするんですか!」

ギコの怒声に、近くを通りがかった船員は肩を揺らす。
その一方で、ジョルジュはどこ吹く風とばかりに笑ったままだ。
  _
( ゚∀゚)「そりゃ、嘘をつくような船員の隊長が悪い」

(,#゚Д゚)「責任の半分は背負いますがね!
     そういった悪い誘惑が発生するようなことを止めていただきたいのです!」

ここで、自分の責任ではないと言いきらないのが、彼の良い所だろう。

(´・ω・`)「まあ落ち着いて」

(,#゚Д゚)「新人の育成は何よりも大切だろうが!
     落ちつけるか!」

392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:41:24.79 ID:EHpwtljV0
  _
( ゚∀゚)「いやいや。国のもとで働いてるオレ達だ。
     上からの命令が一番さ。ってなわけで、流石兄弟を逮捕してきまーす」

(,#゚Д゚)「これっぽっちも真実味のない嘘はつかないでください」

去ろうとしたジョルジュの腕を掴む。
これが他の者だったならば、首根っこを引っ掴んで投げ飛ばされていたはずだ。

(,,゚Д゚)「ショボン。ジョルジュさんを甲板までお運びしろ」

(´・ω・`)「了解」
 _
(;゚∀゚)「うおっ」

ほとんど同じ体格のジョルジュを、ショボンは易々と担ぎ上げる。
ギコと違い、そこに躊躇はない。
  _
( ゚∀゚)「おっとギコ。お前はどこに行くんだ?
     そっちは執務室じゃないだろー?」

ジョルジュ達に背を向けたギコへ言葉を投げる。
彼は体ごとジョルジュの方を向く。

(,,゚Д゚)「少々、野暮用が。
    ご安心ください。すぐに戻ります」

395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:44:42.50 ID:EHpwtljV0
    
それだけ言うとさっさと駆けて行ってしまう。
ジョルジュに何かを言う暇さえ与えない。
  _
( ゚∀゚)「職権乱用って言わね?」

(´・ω・`)「どうでしょうね」

ショボンに担がれたまま、ジョルジュは呟いた。
自分はこれから楽しいお仕事の時間だが、どうやらギコは仕事とは違った用事があるらしい。

(´・ω・`)「堅物隊長ですから。
     本当にすぐ職務に戻りますよ」
  _
( ゚∀゚)「だろーなぁ」

大きな仕事が舞いこんでくることは殆どないし、危険もあまりない仕事場なのだから、
もう少しくらい気を抜いて職務に挑んでもいいとジョルジュは思う。
彼はその思いを体全体で表現し、見本を見せているつもりなのだが、
現隊長のギコにはまったく伝わっていない。
  _
( ゚∀゚)「ショボン」

(´・ω・`)「はい」

397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:46:22.60 ID:EHpwtljV0
   
いつもより低い声で呼ばれ、ショボンも真剣な色を返す。
  _
( ゚∀゚)「今の通信受け取りはお前が頭だったな」

(´・ω・`)「そうです」
  _
( ゚∀゚)「これから、ハーフ……いや、流石兄弟に関して国から書類やら何やらが届いたら、
     ギコより先にオレへ届けろ」

(´・ω・`)「それは命令ですか」
  _
( ゚∀゚)「……あぁ、初代隊長、空域警察創始者として、命ずる」

(´・ω・`)「了解いたしました」
  _
( ゚∀゚)「ちなみに、このことは他言無用だ」

(´・ω・`)「承知しております」

ギコには背負いきれない。
ジョルジュが零した言葉は、聞こえないフリをした。



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