2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
(・∀ ・)と兄弟のようです
  前編 二



144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:07:09.81 ID:EHpwtljV0
    
(;´_ゝ`)「すごい音したぞ! 大丈夫か?!」

一瞬、弟者の手から火花が飛んだようにも見えた。
集中力が途切れてしまったためか、ブーンの力で作り出していた光の球体も消えてしまっている。
何も見えないなか、兄者は勘と記憶を頼りに弟者へ手を伸ばす。

(´<_` )「……大丈夫、だ。
      少し痛かったくらいだ」

弟者に手が触れる。
苦痛を感じたのか、彼の声は低い。

(;´_ゝ`)「大丈夫じゃないだろ。怪我をしたのか?」

感情を隠さぬ兄者の言葉からは焦りが読み取れる。
彼を安心させねばと思ったのか、弟者もすぐに言葉を返す。

(´<_` )「いや、酷い静電気みたいなものだ」

(;´_ゝ`)「ヤダ痛い」

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:10:16.57 ID:EHpwtljV0
    
見えないため、兄者は弟者の手を遠慮なく触る。
血が出ていないのか確かめているのだ。

(´<_`;)「あー。今、明かり出すから。離してくれ」

( ´_ゝ`)「わかった。でも、無理ならいいんだぞ?」

(´<_`;)「平気だっつーの」

弟者は手早く詠唱を始める。
基本的に人の話を聞かない兄者だ。これでもか。と、いう程触れてくるのを止めさせるには、
何一つ異常がないことをしっかりと見せてやるしかない。

(´<_` )「ほら」

光が四人を照らし出す。
広げられた弟者の手には特に傷があるようには見えない。

( ´_ゝ`)「あぁ。ならいいんだ」

( ^ω^)「それにしても、びっくりしたおー」

ブーンが間延びした声を出す。

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:11:44.15 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「どうやら、魔法避けが張ってあるようだ。
      外からの侵入者を弾くため。と、いうよりは、中にいるナニカを閉じ込めるためのようだが……」

('A`)「ヨク、ワカルナ」

扉に触れながらドクオが尋ねる。
冷たい扉は、触れるだけならば反抗の意思を示さない。

( ´_ゝ`)「そりゃ、ますますお宝への期待が高まるな。
      よし。オレが開ける。調べられないなら、しかたがないだろ?」

(´<_` )「……そうだな。
      オレは後ろで何かあったときに備えていよう」

素直に引き下がった弟者を見て兄者は満足そうに笑う。
一度、深呼吸をして、扉のノブを掴む。ひんやりとした感触が手のひらから全身へ伝わる。
何が起こるかわからないスリル。
兄者は思わず口角を上げる。

( ^ω^)「あぶなくないかお?」

( ´_ゝ`)「大丈夫さ。弟者もお前達もいる」

(´<_` )「後始末を任せないでもらいたいものだ」

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:14:56.82 ID:EHpwtljV0
     
言葉を聞き流し、兄者はノブを回す。
鍵がかかっているかもしれないと思っていたのだが、ノブは引っかかることなく、回った。
そのまま扉を引けば、金属と石が傷つけ合う音を立てながら中の様子を四人に見せる。

(´<_` )「罠はなかったようだな」

弟者はいつでも魔法を使えるようにと構えていたのだが、
部屋の内装が見えるとその心配もなかったのだと、構えを解く。

( ^ω^)「おー?」

体の小さいブーンが真っ先に部屋の中へ入る。
それに兄者が続く。

( ´_ゝ`)「子供部屋か」

地下の底、重たい扉の向こう側にあったのは、子供部屋だった。
柔らかい玩具と、暖かい毛布がある。
窓はないが、風景を描いたパズルが壁のそこかしこに飾られ、
色とりどりのカーテンがかけられている。

ただ、そこに不似合いな扉が一枚ある。
この部屋に繋がっていた扉と同じく、重い金属でできた扉だ。

('A`)「アッチ、イヤナカンジ」

(´<_` )「おそらく、研究施設があるんだろうな」

154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:17:10.41 ID:EHpwtljV0
     
どのようなことをしているかなど、知りたくもない。
弟者は周囲を見渡す。
家具はあれども、生き物の姿は見えない。

(´<_` )「兄者、本当にここか?」

( ´_ゝ`)「そのはずだが」

兄者も同じように周囲を見ていた。
けれども、見えるのは玩具やパズルくらいのもの。
ハーフの奴隷など見つからない。

床に敷かれている絨毯に手を触れる。
ふわりとした感触だ。

(´<_` )「いい物使ってるな」

( ´_ゝ`)「奴隷に対する待遇とは思えんな。
      ……それにしても、気配はしないが視線は感じる」

味わったことのない感覚に兄者は鳥肌をたてる。

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:20:25.07 ID:EHpwtljV0
    
( ^ω^)「……へんな、けはいがするお」

部屋の中心部へ飛んだブーンが呟く。
気配に疎い彼は、「変な気配」の出どころがわからないらしく、キョロキョロしている。

(´<_` )「気配。か、なるほど、これは気配なのか」

( ´_ゝ`)「弟者にはわかるのか」

仲間はずれのような状態に、兄者は頬を膨らませる。
いい歳をした男に相応しい仕草とは到底言えない。

(´<_` )「混ざったような、よくわからんモノだがな」

生きている人間や、精霊、耳族。など、単純な生物の気配ならばわかる。
だが、それらのどれとも違う気配はどうにもわかりにくい。
生まれて初めての感覚に戸惑う。と、言ったほうが正しいのかもしれないが。

ドクオも神妙な顔をしているので、弟者やブーンの言っている気配がわかるのだろう。
精霊であったり、精霊使いだからこそ、感じ取れるナニカがあるらしい。

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:23:46.65 ID:EHpwtljV0
   
気配のもとを探すべく、弟者は再び周囲を見渡す。

( ´_ゝ`)「弟者」

壁に隠し扉でもあるのだとうかと、手をつき始めたと同時に兄者が声をかけてきた。
振り返れば、彼はとある方向を指差している。
指先をたどれば、オレンジ色のカーテンが揺らめいていた。

(´<_` )「揺れて……?」

その違和感に弟者は気づく。

('A`)「ココ、チカデ、シツナイダゼ……?」

風など吹いていない。
だというのに、カーテンが揺れている。

カーテンの向こう側にも壁があるのだと思いこんでいた。
けれど、そうである確証はどこにもなかったのだ。

( ´_ゝ`)「ビンゴっぽいな」

(´<_` )「あぁ。流石だな。兄者」

二人は顔を見合わせ、口角を上げる。
その表情はやはりそっくりだ。

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:26:15.40 ID:EHpwtljV0
     
(´<_` )「て、ことだ。
      できるなら、あんたの意思を尊重したいと思ってる」

( ´_ゝ`)「選ぶがいいさ。
      自ら姿を現すか、無理矢理その布を剥ぎ取られるか」

二人は一歩、また一歩をカーテンに近づく。
引くという選択肢を用意するつもりは毛頭ない。

( ^ω^)「だいじょうぶだお。こわくないお」

ブーンもカーテンの向こう側に語りかける。
できることならば、無理矢理ではなく、向こう側にいる誰かの意思で出てきて欲しい。
兄者と弟者が、誰かを悪いようにするはずがないのだから。

二人がカーテンの前に立つ。
ブーンとドクオは少し後ろで羽根を動かしている。

   「あんた達、だれなんだ?」

布越しに声が聞こえた。
声変わりもしていない少年の声だ。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:29:31.46 ID:EHpwtljV0
     
( ´_ゝ`)「盗賊さ」

(´<_` )「今夜はあんたを盗みにきた」

嘘はつかない。その必要がない。
本当のことを言って抵抗されたとしても構わないのだ。
相手がどのような行動に出たところで、彼らの成すべきことは決まっている。
それならば、下手に誤魔化すよりも、真実を教えてやる方がずっと親切だ。

   「ぬすむ? ぬすむって何さ」

奴隷としては破格の待遇。
研究対象としてはそれなりの場を用意してもらっている彼は、どうやら何も知らない子供のようだ。

('A`)「ソコカラ、ダシテヤルッテコト」

(´<_`;)「おいおい。嘘をつくなよ……」

( ´_ゝ`)「結果だけ見ればそうかもしれないけどなー」

盗み出すということは、今ある場所から不当に移動させることでもある。
その観点からいけば、この地下から少年を連れ出すことにもなるだろう。

その過程と行動理由には、天と地ほどの差があろうとも。

167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:32:16.23 ID:EHpwtljV0
    
(・∀ ・)「ふーん。ここから、出してくれんの?」

声と共に、カーテンが開かれた。
オレンジ色のカーテンが揺れる。

( ´_ゝ`)「お前が望もうと、望むまいと。な」

即答する。
同時に、向こう側にいる少年を観察する。

少年の首には首輪がはめられていた。
口元にこびりついている血の跡と、体に刻まれているきり傷が、
部屋から見える待遇とは違い、彼が普段どのような扱いを受けているのかを示している。

さらされている上半身の下部には、切り傷の他に、奴隷の証である烙印が山のように施されていた。
柄こそ、可愛らしいマークだが、知る者が見れば眉をしかめずにはいられないはずだ。

(´<_` )「さあ、こっちへ来い」

弟者の目は奴隷の烙印に交じって、魔力を他人が好き勝手にできるような術式が見えた。
研究の一環なのだろうけれど、最低限に省略化されているあの術式では、
魔力を動かされるたびに苦痛が伴うはずだ。

幸い、術式を発動させるには発動者が近くにいなければならない。
ここから連れ出すことができれば、もう魔力を動かされる苦痛を味わうことはないだろう。

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:35:07.98 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「あんた達は、おれに、いたいことするか?」

向こう側から質問が投げられる。

カーテンの向こう側は、小さな押入れのようになっていた。
彼の寝室のようなものなのだろう。
空間いっぱいに敷かれた布団に、そこらかしこに散らばっているぬいぐるみを見れば、一目瞭然だ。

( ^ω^)「しないお。あにじゃも、おとじゃも、そんなことはぜったいにしないお!」

疑問に答えたのはブーンだった。
兄者や弟者が声を出す前に、少年を安心させる言葉を吐く。

('A`)「チュウシャモ、デンキモ、キュウインモサレナイ」

ドクオがブーンに続く。
彼らは必死だった。こちら側に来て欲しい一心だった。
痛ましい場所から逃がしてやりたいと思っていた。

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:38:14.61 ID:EHpwtljV0
    
少年はじっと精霊の二人を見る。

(・∀ ・)「なら、いいや。
     いたくないなら、どんなヤツだって、かまわない」

その言葉は、この場所の痛みを表している。
ドクオとブーンは胸が痛んだ。

( ^ω^)「もう、いたいおもいなんてしなくていいお!」

('A`)「ツツカレタリハ、スルケドナ」

(´<_`;)「おいおい。彼が決断を変更したらどうしてくれるんだ……」

非道なことはしていないが、からかう程度のことは何度もある。
じゃれあいの範囲ならば、痛い目を見せることもあった。
けれど、それが真実だとしても、今現在において、その言葉が必要だとは思えない。

(・∀ ・)「つつくのかー」

(´<_` )「痛くはない」

(・∀ ・)「ならいいぞー」

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:41:10.31 ID:EHpwtljV0
   
少年は、見た目よりもずっと幼い話しかたをする。
兄者は何故か彼に違和感を感じていた。

奴隷にしてはまだ小奇麗なことは気にならない。
これだけ立派な部屋を与えられているのだ。
珍しさからか、それなりに大事にはされているらしい。

ならば、少年の容姿かと思うが、それも違う。
金糸の髪は地下とはいえ、人工的に作り出されている光を反射して輝いている。
烙印なんぞ、珍しくともなんともないものだ。
唯一、意識を向けずにはいられないのが、左右で色の違う瞳だ。
片方は青で片方は赤。その不思議な色合いは思わず魅入る。

( ´_ゝ`)「……違うな」

それでも、違和感は感じない。
兄者は一人首を傾げる。

(´<_` )「どうしたんだ。いつもなら、大騒ぎしていそうなものを」

( ´_ゝ`)「いや、ちょっとな……」

目的のモノは手に入れたも同然だ。
後は彼の手を引いて階段を登るだけで終わりだ。

いつもの兄者ならば、彼の存在について、歯に絹を着せぬ物言いで何もかも聞きだしていただろう。
それが、今回に限っては質問を投げる気にもならない。

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:44:14.04 ID:EHpwtljV0
   
('A`)「テアシニ、クサリハナイカ?」

(・∀ ・)「ないぞ」

答えるものの、少年はカーテンから離れようとしない。
未だに彼と四人の間には壁があるように感じられる。

(´<_` )「こっちへこい」

弟者が手を差し出す。
日が出るまでには抜け出さなければならない。
いざとなれば、強硬手段にも打って出るつもりだ。

(・∀ ・)「…………」

少年は黙っていた。
手を差し出すこともなく、何か言うでもない。

( ^ω^)「どうしたんだお」

ブーンが尋ねる。
やはり怖いのだろうか。そんな考えが頭を過ぎる。

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:48:52.34 ID:EHpwtljV0
(・∀ ・)「……なあ」

少年はカーテンを握る。
その手は震えていた。

四人はじっと少年の言葉を待つ。
急かしたい気持ちはあったが、そうできないほど、少年は弱々しい。

(。・∀ ・)「ほんとうに、出してくれるのか?
      いたいこと、しないか? びりびりなことも、しないか?」

少年の目から、涙が零れた。
しかし、それでも、彼の口は弧を描いたままだ。





( ´_ゝ`)「――っ!」

兄者は理解した。
己の中に巣食っている違和感の正体を。

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:50:54.08 ID:EHpwtljV0
    
( #´_ゝ`)「何なんだお前は!」

涙を流す少年に、微塵の同情も見せずに怒鳴り声を上げた。
地下深くにある場所だ。今更、声の大きさなど気にしていない。

(;^ω^)「あ、あにじゃ……。
      おちつくお……!」

兄者の腕にしがみつくが、小さなブーンが彼を抑えられるはずもない。
この場において、唯一兄者を止めることができる弟者は、事態を静観している。

驚くような行動に兄者が出るのは、今に始まったことではない。
その行為に巻き込まれ、苦労をすることも少なくはない。

しかし、今の状況において、彼が少年に対して非道なことをするとは思えない。
止める必要があるような行為ではない。と、弟者は判断した。

(;・∀ ・)「何なんだよ!
      なぐるのか? いたいのか?!」

ブーンを振り切った兄者は、少年の腕をつかんだ。
見えぬ壁をぶち壊し、力いっぱいに少年に触れている。
細い少年の腕は、耳族である兄者の力に悲鳴を上げている。

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:56:21.20 ID:EHpwtljV0
   
( #´_ゝ`)「何で笑うんだ!」

(・∀ ・)「……は?」

怒声に部屋が静まり返る。

('A`)「エガオ、ワルクナイ」

( #´_ゝ`)「いーや! 悪いね!」

強引に引き寄せる。
軽い少年は、あっさりと兄者の胸の中に飛び込んだ。

( #´_ゝ`)「悲しいのに笑うな!
      泣きたいのに笑うな!」

責めるように、傷を癒すように、兄者は胸の中にいる少年を強く抱きこんだ。
強い力に少年が呻くが、知ったことではない。

(´<_` )「なるほどな」

慌てているドクオとブーンを横目に、弟者は納得した風だ。

(;^ω^)「お?」

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:58:10.77 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「いや。なに。
      案外、熱血漢な兄者らしいな。と」

( #´_ゝ`)「お前いくつだ!」

(;・∀ ・)「いくつって何だよ!」

少し力を緩められ、少年は息を大きく吸い込む。

( #´_ゝ`)「年齢だ。年齢、わからんか?」

(;・∀ ・)「わからんぞ!」

( #´_ゝ`)「お前は今、どういう気持ちだ!」

(;・∀ ・)「きもちってわからん!」

( #´_ゝ`)「そうか。なら、何で笑ってるんだ」

(;・∀ ・)「本にかいてた。しあわせ、なら、わらうんだって。
      しあわせって、あたたかくて、いたくないんだって。
      わらうと、しあわせになるんだって」

問答の最中、兄者は少年の目を真っ直ぐ見ていた。
少年は他社と目を合わせる。と、いう行為に慣れていないのか、気まずげに目をそらそうと試みている。
今のところ、成功した様子はない。

194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:00:46.83 ID:EHpwtljV0
    
(;・∀ ・)「はかせ、だって、わらってる方がいいって、いった!
     その方が、いい子だっていってくれる。
     いい子は、あまりいたくないんだって……」

主張する彼の瞳には涙が溜まっている。

( #´_ゝ`)「なら、お前はそれで幸せだったか?!」

少年の言葉を真っ向から否定するように兄者は声を荒げる。
一瞬、少年は肩を揺らした。

( ∀  )「……じゃなかった」

(´<_` )「聞こえんなぁ」

兄者を手助けするように弟者が呟く。
悪役顔負けな言い回しだ。
精霊の二人はその様子を見守ることしかできない。

少し間が開いてから、少年の口が開く。

(#・∀ ・)「しあわせ、なんかじゃなかった!」

叫び声だ。
ただの大声にも聞こえたが、それは間違いなく叫びだった。

そして、それは産声だった。
少年が、この世界に誕生した証。

198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:02:46.63 ID:EHpwtljV0
     
(#・∀ ・)「いたいのはきらいだ! ここから出たい!
     そとってとこには、何があるんだ!」

( ´_ゝ`)「辛かったか? 悲しかったか?」

(#・∀ ・)「わかんない! つらいも、かなしいも、しらない!
     何もしらない! いたいしかわからない!」

とうとう少年は涙を流した。
感情の名前を何一つ知らない少年は、兄者の腕の中で大粒の涙を零す。

( ´_ゝ`)「なら決まりだ!」

兄者は少年を抱えなおす。
脇に抱え込む形だ。

(;・∀ ・)「うわっ?!」

視界の変化に戸惑う少年を放って、兄者はさっさと部屋から出る。
弟者は光の玉を作ってからそれに続く。

(´<_` )「まあ、こうなることは決まってたんだ。諦めてくれ」

段差もあって、少年と弟者は視線が丁度合う形になっている。
弟者は小さく笑いながら言った。

(´<_` )「今日からキミはオレ達のモノだ。
      好きにさせてもらう」

201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:04:22.93 ID:EHpwtljV0
   
(;・∀ ・)「けんきゅーってヤツか?」

( ´_ゝ`)「いいや違う!」

兄者が返答する。

( ´_ゝ`)「オレはお前を泣かせることに決めた!」

言葉にすることでテンションが上がったのか、階段を登る速度を早める。
二段飛ばしに駆け上がる兄者に、弟者はため息をつきたい気持ちだ。
そんなことに費やす酸素も二酸化炭素もないので、黙って二段飛ばしに習う。

(;・∀ ・)「なく? なくって、目から水を出すことだろ?
     おれはもうないたぞー?」

( ´_ゝ`)「あんなもの、泣いたうちに入らないぞ!」

カラカラと兄者は笑う。
どこまで続いているのかもわからない階段など、気にもならない。

( ´_ゝ`)「もっと、ぐっちゃぐっちゃの顔にしてやる!」

(;・∀ ・)「ぐ、ぐっちゃぐちゃ?」

恐ろしい擬音に少年は戦慄する。
体は硬直し、額から汗が流れる。

204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:06:03.86 ID:EHpwtljV0
    
(´<_` )「ついでに、本物の笑顔というのも、作らせてやろう」

( ^ω^)「それはいいお! すぐにできるようになるお!」

弟者の少年の間でブーンが一回転する。
体力的に限界が近い弟者としては、鬱陶しいことこの上ないのだが、叩き落す気力もない。

('A`)「スグニハ、ムリダロ……」

( ^ω^)「なにいってるんだお。どくおだって、あそこからでて、すぐにわらってたお」

(*'A`)「ソンナコト、ネーヨ」

弟者の懐でドクオは照れくさそうに笑っている。

( ´_ゝ`)「いいじゃないか! 笑え! 泣け!
      どんな生物も好き勝手に生きるべきだ! 感情を偽るだなんて、つまらないことこの上ないぞ!」

(´<_` )「兄者は勝手すぎると思われ」

( ´_ゝ`)「オレらの生は短いからな!
      しっかり謳歌しようじゃないか!」

兄者の言葉に、弟者はジョルジュの言葉を思い出した。
お前には、お前の生き方がある。
脳内に言葉が反響する。

(´<_` )「……あぁ、そうだな」

208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:08:20.48 ID:EHpwtljV0
    
( ´_ゝ`)「どうだ! これが外だ!」

階段を登り切り、五人は外へ出た。
重苦しい空気はもうない。
乾燥しきった空気がそこいらにある。

(・∀ ・)「なにも見えないぞー」

('A`)「マダ、ヨルダカラナ」

(´<_` )「まだ夜明けには時間があるが、長居は無用」

( ´_ゝ`)「だな」

どのような非道をおこなっていたのかはわからない。
しかし、実験に生きている者を使っているのだから、定期的に世話をする必要がある。
夜のほうがここに住まう者達は活発に動く。
やってくるのならば、日が出た朝になるはずだ。

そうなる前に離れるのがいい。
兄者は少年を降ろす。

( ´_ゝ`)「立て」

(・∀ ・)「お、おう……」

210 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:10:41.78 ID:EHpwtljV0
   
少年は二本の足で地面にしっかりと立つ。
室内で育てられた彼は、当然のことながら靴など持っていない。

(・∀ ・)「この……ちょっといたいの、何だ?
    いたいけど、ちっともいやじゃないぞー」

少年はその場で足踏みをする。
少しの痛みとは、砂に紛れている小石だろう。

( ´_ゝ`)「それは地面だ」

(´<_` )「そして、地面と構成する砂と小石だ」

( ^ω^)「おひさまがでたら、すなもじめんもみえるお」

('A`)「ソレコソ、イヤニナルクライナ」

(・∀ ・)「ふーん。
    すな。すな、かー」

少年は確認するように、もう一度地面を強く踏みしめる。

213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:12:47.24 ID:EHpwtljV0
    
( ^ω^)「さむくないかお?」

少年の姿といえば、かろうじてズボンをはいている程度の服装だ。
夜のニュー速は寒い。
昼間の暑さはどこへ消えてしまっているのか、夜になったとたんに冷え込む。
この地方に住む人間が長袖を愛用しているのは、陽射しの強さばかりが理由ではない。

(・∀ ・)「んー。あんまし、だなー」

少年は首を傾げる。
感情がわからないのと同じように、気温の感覚もわからないだけなのではなさそうだ。
上半身が裸だというのに、鳥肌の一つもたっていない。

(´<_` )「耳族のオレ達でさえ、夜は寒いというのに」

自前の毛皮を持ってしても、肌寒く感じてしまうような寒さだ。
見た目は人間と変わらない少年が、寒さを感じないというのは、なんとも不思議な現象だ。

('A`)「マア、オレモサムサハ、アマリカンジナイナ」

( ^ω^)「ふくがいらないくらいだお」

( ´_ゝ`)「そうか。やはり、精霊と人間のハーフなんだな」

215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:14:09.09 ID:EHpwtljV0
    
信じていなかったわけではない。
兄者自身が情報を掴んできたのだから、それは当然のことだ。

けれども、見た目は普通の人間だ。
いまひとつ実感には欠ける。

(・∀ ・)「ハーフ……」

(´<_` )「わからないか?」

字は読めるようだが、少年は知識が豊富ではない。
単純に教育を受けていないのか、幼さゆえの無知なのかわからない。
背丈を見る限り、十歳程度に見えるが、精霊としての性質を持っているならば、見た目と年齢は一致しない。
まだ生後一年だとしても不思議ではないのだ。

(・∀ ・)「わかるぞー。
     はかせが、いつもいってたからなー」

( ´_ゝ`)「ほう」

兄者の目が光る。
元より、彼を盗み出したあかつきには、根掘り葉掘り聞いてやろうと想っていたのだ。
この話題に興味がわかないはずがない。

218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:16:12.40 ID:EHpwtljV0
    
(´<_` )「と、残念。兄者」

( ´_ゝ`)「む?」

(´<_` )「時間切れだ」

少年への問いかけを用意した兄者に、弟者が水を差す。
不満気な表情をしてみせるが、水を差した張本人はそ知らぬ顔だ。

( ^ω^)「もうすぐ、よがあけるお」

ニュー速は日が出るのが早い。
正確な時間はわからないが、空の様子や風の吹き方から、ブーンや弟者は夜明けを感じ取っていた。
日が昇ってする研究者が来るということはないだろうが、慎重であることにこしたことはない。

( ´_ゝ`)「そうか……。しかたないな」

('A`)「ジカンハイクラデモアル」

( ´_ゝ`)「あぁ、そろそろ行こう」

(´<_` )「一度眠らないと頭も回らないしな」

219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:19:07.60 ID:EHpwtljV0
    
兄弟が少年の左右に立つ。
彼らは朝から起きているので、そろそろ布団に潜りたい心地になっていた。

( ´_ゝ`)「これからについての詳しい話は起きてからするとして」

(´<_` )「まずはちょっとしたアトラクションにご招待」

二人がそれぞれ、少年の腕を片方取る。
ぐっと力を入れられれば、少年は兄弟の間で宙ぶらりんになる。

(;・∀ ・)「何だ?!」

(´<_` )「兄者、あまり突っ走ってくれるなよ」

( ´_ゝ`)「うむ。善処しよう」

( *^ω^)「よういはいいおー」

(;'A`)「オー」

ブーンは体を水平にし、ドクオは弟者をしっかりと掴む。
どうやら、何が起こるのか、わかっていないのは少年だけのようだ。

222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:22:47.72 ID:EHpwtljV0
    
( ´_ゝ`)「スタート!」(´<_` )

左右からほとんど区別のつかない、別の声が少年の耳をつんざく。
耳を抑えようにも、腕は兄弟がしっかりと掴んでいる。

刹那のめまい。
その後に感じたのは疾風。

(・∀ ・)「う、わぁ……!」

思わず声が上がる。

夜は外の風景を見せない。
その代わり、冷たく心地の良い風を少年に与えた。

( *´_ゝ`)「肩車じゃ、この風は感じられないぜー!」

(´<_`i||)

はしゃぐ兄者とは対照的に、弟者の顔は青い。
走る。と、いう単純な動作だけならばともかく、障害物を避ける、兄者と息をあわせる。等、
技術が必要とされているため、圧倒的に身体能力が劣る弟者はどうしても辛い。

(;'A`)「シヌナ、オトジャ……」

その声が届いていたのかどうかもわからない。

224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:25:13.02 ID:EHpwtljV0
    
兄弟は息を合わせて町を駆け抜けた。
障害物があったのならば、少年を放り投げ、また捕まえる。

(;・∀ ・)「お、おわった、のかー?」

( ´_ゝ`)「おうよ。流石ジェットコースターはこれにて終了だ」

( <_ i||) ヒューヒュー

(;^ω^)「おとじゃがしんでるお……」

町を抜け、ドラゴンのもとにたどりついたとき、弟者は虫の息となっていた。
兄者と息を合わせておかなければ、少年は地面に激突するか、
左右からの力に悲鳴を上げることになってしまう。
それゆえに、少々無茶な筋力の使い方をした。

(;´_ゝ`)「弟者……すまんかった」

走っているときは楽しさのあまり、弟者を気にかけていなかった。
何を言っても、自分と合わせてくれるだろうという信頼の証でもあるのだが、
その結果がこれだと思うと罪悪感もわくというものだ。

226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:27:12.99 ID:EHpwtljV0
   
(´<_`i||)「いや、だいじょう、ぶ……だ」

何とか息を整え、弟者は顔を上げる。
本来、耳族が持つ身体能力を持っていれば、ここまでの負荷はかからないはずだ。
弟者は自分の体に文句をつけたくてしかたがない。

('A`)「ムリスンナ」

(´<_` )「大丈夫だって」

( ´_ゝ`)「本当にすまんかった。
      お前相手だとどうも加減がきかなくてな」

(´<_` )「いやいや。オレとしかこんなことしてないだろ」

( ´_ゝ`)「一度快感を知ったらやめられない☆的な」

(´<_`;)「キモイ言い方すんな」

ドン引きしている弟者に、兄者は心外そうな顔を向ける。
しかし、それも一瞬のことで、すぐに笑顔になった。

( ´_ゝ`)「ま、お前と息合わせてるときが楽しいんだよ」

(´<_` )「……そーかい」

( ´_ゝ`)そ「あれっ! 弟者さん、やっぱり怒ってらっしゃいます?!」

227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:30:09.37 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「べっつにー?」

素っ気なく返事をして、ドラゴンの背に乗る。

(´<_` )「ほら、少年、手を出せ」

(・∀ ・)「おう」

小さな手が伸ばされる。
人間と同じ形、同じ暖かさを持った手だった。

( ´_ゝ`)「そんじゃ、出発進行!」

兄者は先頭に、少年は真ん中、弟者は後ろに座る。
ドラゴンが羽根を広げ、力一杯に羽ばたく。

(・∀ ・)「うわっ」

(´<_` )「落ちるなよ」

飛び際の振動に少年が体を揺らす。
弟者は片手を少年の腰に回し、彼が落ちないように固定した。

229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:32:08.25 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「さっさと慣れてくれよ。
      ドラゴンは、オレ達の戦利品であり、仲間なんだから」

(・∀ ・)「なかま?」

(´<_` )「オレらのモノってことだ」

(・∀ ・)「おれは、あんた達のモノで、なかま、なのか?」

(´<_` )「勿論だとも」

( ´_ゝ`)「そうだ。オレは大切なことを忘れていたぞ!」

兄者が両手を離して振り返る。

(;'A`)「オチルゾ」

( ´_ゝ`)「落ちないですー。
      それよりも、だ!」

(´<_` )「兄者、あんたが落ちなくても、少年が真似したら困る。
      前を向いて話してはくれないだろうか」

( ´_ゝ`)「人とお話するときは目をしっかり見る!」

232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:34:06.10 ID:EHpwtljV0
    
(´<_` )「ドラゴン、宙返りでもしてみるかー」

(;´_ゝ`)「うわ! 馬鹿!」

(;^ω^)「どらごん、やめるお!」

弟者の言葉を忠実に守ろうとしたドラゴンに、兄者は慌てる。
脅しだろうとは思うが、弟者という男は時々驚くような行動に出る節がある。

(´<_` )「じゃあ、しっかりと掴む」

(;´_ゝ`)「我が弟ながら恐ろしい……」

(;・∀ ・)「何がおこるところだったんだ?!」

宙返りを理解できなかったらしい少年は、それでも起こりかけた事態の危険性は察していたようだ。
不安気な声にブーンが少年の頭に乗る。

( ^ω^)「だいじょうぶだお。
      おとじゃが、ちゃーんとつかんでいてくれるお」

(・∀ ・)「そうなのか?」

(´<_` )「勿論」

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:36:17.38 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「お二人さんの親睦が深まったところで、オレの話を聞いてもらえるか?」

(´<_` )「勿論だとも兄者」

首だけで後ろを振り返っている兄者に言葉を返す。

( ´_ゝ`)「オレ達は自己紹介を忘れていた」

言葉は夜の風にかき消されることなく弟者達に届く。
少年以外の全員が目を丸くしていた。

(´<_` )「おお、確かにそうだ。すっかり忘れていた」

( ^ω^)「うっかりだお」

('A`)「ソウイエバ、カレノナマエモシラナイナ」

(・∀ ・)「じこしょーかい?」

どうやら、またもや少年には理解できない単語が登場してしまったらしい。
首を傾げる仕草は実に幼い。

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:38:21.66 ID:EHpwtljV0
    
( ´_ゝ`)「自己紹介というのは、自分のことを説明することだ。
      何、難しく考える必要はない。
      他に知りたいことがあればこちらから聞くし、お前もそうしてくれてかまわん

一応の説明をしてみたが、イメージができないのか、少年は首を傾げたままだ。
兄者は片手だけドラゴンから離し、少年の頭を撫でる。
乱暴な動作だったので、少年の髪の毛はくしゃくしゃになってしまう。

(;・∀ ・)「やーめーろー」

拒絶の意思を見せる少年から手を離す。
乱雑になった髪を少年は手ぐしで戻そうと躍起になった。

( ´_ゝ`)「最初はオレ達の方からしてやるよ」

兄者は親指で己を指す。
効果音をつけるならば、ビシッ! と、いうところだろう。

( ^ω^)「どんどん。ぱふぱふーだおー」

('A`)「ナンデ、コウカオン……」

242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:43:03.09 ID:EHpwtljV0
    
( ´_ゝ`)「オレは流石兄者。
      見ての通り、耳族だ。あ、耳族、わかるか?」

(・∀ ・)「本にかいてたぞー。あたまの上に耳がはえてるんだー。
     うごくのがとくいで、あまりながくは生きられないらしいなー」

( ´_ゝ`)「よしよし。えらいぞー。
      概ねその通りだ。オレはその耳族で、盗賊だ。
      得意なことは戦うこと。嫌いなことは罠の解除や暗号の解読だ」

( ^ω^)「てんけいてきな、のうきん。ってやつだお」

(;´_ゝ`)「情報収集もしてるでしょーが!」

(´<_` )「そうち、出所を聞きたいもんだ」

( ´_ゝ`)「別に怪しいところから仕入れてるわけじゃないぞ?」

(´<_` )「だとしても、だ」

245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:45:08.55 ID:EHpwtljV0
    
ないがしろにされている。と、まではいかずとも、どこか信頼されていないのではないかという不安はある。
血の繋がった兄弟だからとは言わないが、仲間なのだから包み隠さずにいて欲しい部分はあったりする。

(・∀ ・)「のうきん?」

無邪気に首を傾げる少年はに、ドクオが言葉を返す。

('A`)「アタマガワルイ、タイリョクバッカリノ、ヤツノコトダゾ」

(・∀ ・)「へー。あにじゃはバカなのかー」

(;´_ゝ`)「違いますー! 兄弟で分担してるんですー!」

少年は「バカ」を知っているらしい。
要らぬ情報が増えた。

(´<_` )「はいはい。
      んじゃ、ついでだ。次はオレの自己紹介といくか」

少年は顔を上げて弟者の顔を見る。
首が痛そうなほど反っているが、彼自身は気にしていない様子だ。

248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:47:39.97 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「オレは流石弟者。
      兄者とは双子の兄弟だ。兄者と一緒に盗賊をしてる。
      動くことは苦手だが、魔法はそれなりにできる」

(・∀ ・)「ふたご?」

やはりというか、少年には「双子」という単語が理解できなかったらしい。
しかしながら、その単語を説明するのは少々面倒だ。

(´<_`;)「うーん……」

弟者が脳内をフル回転させ、彼の知的欲求を満たそうとする。
どの程度のことを教えればいいのか悩んでいる間に、別の声が疑問に答えた。

( ´_ゝ`)「オレと弟者は同じ母親から、一緒に生まれてきたんだよ」

(・∀ ・)「へー。いっしょにうまれたのかー」

「生まれる」という事象はわかっているようで、少年なりに双子という存在も理解したようだ。
兄者は少年に納得してもらえたことが嬉しいのか、楽しげに耳が動いている。

251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:50:13.95 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「魔法は一通り使えるぞ。
      この辺りなら火の魔法が強いな」

補足のように付け足す。
ニュー速地方は火属性の土地だ。それ故、火属性の精霊が多く存在している。
昔、弟者が契約を交わした精霊がどこにいるのかは知らないが、ニュー速地方にいることだけは確かだ。

(・∀ ・)「ふーん。火、かー」

少年が呟く。
風にかき消されてしまった声に、誰も気づくことはない。

( ^ω^)「じゃあ、つぎ、つぎはぼくだお!」

( ´_ゝ`)「おー、いけいけー」

(´<_` )「囃したてるようなことじゃないだろ……」

ブーンはドラゴンと並走できるだけの速さを持っている。
綺麗な羽根を使い、少年の周りをくるくると回る。

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:52:21.16 ID:EHpwtljV0
   
( ^ω^)「ぼくはぶーんだお!
      ひかりのせいれい、なんだお。
      きみとおなじように、あにじゃとおとじゃにぬすまれたんだお」

(・∀ ・)「あんたもぬすまれたのかー」

('A`)「ツイデニ、オレモソウダ」

(・∀ ・)「おれとおなじがいっぱいだ」

('A`)「アト、ナマエハ、ドクオ。
   ヤミノセイレイ……」

(・∀ ・)「よろしくなー」

('A`)「オウ」

( ^ω^)「よろしくだお!」

精霊の血が流れているらしい少年は、何か通じるところがあるのか、
ブーンやドクオには心を開いているようだ。

( ´_ゝ`)「微笑ましいねぇ」

若干の羨ましさを込める。

257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:55:01.98 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「同じ、といえば、ドラゴンも同じだぞ」

(・∀ ・)「そうなのか?」

少年は自分が乗っているドラゴンの背を数度叩く。
呼応するようにドラゴンが喉を鳴らした。

( ´_ゝ`)「そうそう。一番最初に盗んだ生物だ」

('A`)「デアッタコロカラ、イルヨナ」

(´<_` )「宋咲にいたんだよな。懐かしい」

( ´_ゝ`)「オレ達と同じ言葉は使えないが、間違いなく仲間だよ」

自然な動物としてドラゴンは存在していない。
蝙蝠と蜥蜴を合成したキメラなのだ。

( ^ω^)「あにじゃはめずらしいものがすきなんだお」

ドラゴンも、ブーンやドクオも、少年も。
通常では考えられないような生物だ。

だからこそ、興味がわき、手にしたいと願う。

259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:57:36.69 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「さあ少年。オレ達にキミのことを聞かせてはくれないか」

弟者が少年の自己紹介を促す。
いつまでもキミ、とは呼んではいられない。

(・∀ ・)「おれは、またんき、っていうんだぞー」

一つ、確認するように少年、またんきは言った。
呼ばれることが少なかったのかもしれない。
己の名前に自信がないように感じられた。

( ´_ゝ`)「良い名前じゃないか」

(´<_` )「またんき。か、覚えたぞ」

( ^ω^)「これでなまえがよべるお」

('A`)「マタンキ、ヨロシク」

ブーンとドクオはまたんきの頭に乗る。
小さな手を一生懸命動かしているのは、頭を撫でているつもりなのだろう。

261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 05:59:17.17 ID:EHpwtljV0
    
(・∀ ・)「せいれいと、にんげんの、ハーフだって、はかせはいってた」

精霊の二人に髪を乱されながらも、またんきは言葉を続けた。

(・∀ ・)「せいちょうするせいれいだ。って、いってた。と、おもう」

(´<_` )「ほう。またんきは大きくなるのか」

(・∀ ・)「まいにち、たいじゅーと、しんちょーをはかったぞ」

(´<_` )「大きくなってたか?」

(・∀ ・)「うん」

本来、精霊というものは成長しない。
生まれたときの大きさは能力の大きさであり、年齢による成長はありえないのだ。
成長できるのだとしたら、ある程度ならば能力を底上げすることができるはずだ。

( ^ω^)「ちょっぴり、うらやましいお」

('A`)「ハゲドウ」

263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 06:02:22.67 ID:EHpwtljV0
    
二人は成長しない。
小さな体のまま、小さな能力のまま、長い一生を終えることになる。

(・∀ ・)「あと、火と水のちからが使えるって、いってた」

( ´_ゝ`)「二つもか!」

驚愕の声を上げる。
通常、精霊は一つの属性のみを持つ。

(´<_` )「人間とのハーフなのに、不思議なものだな」

これが仮に、火の精霊と水の精霊のハーフだというならば、
またんきが二つの属性を有することも理解できなくはない。
けれど、彼は人間とのハーフだ。
博士と呼ばれている研究者が語ったように、また、彼自身の姿をみればそれは疑いようもない。

(・∀ ・)「ほかは……。うーん」

他に言葉が見つからないらしく、頭を悩ませる。
自己紹介といえば、好きなものや嫌いなものを上げるのが定石なところがある。
しかし、またんきには好きなものがわからない。

275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 06:56:01.33 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「おっ。見ろ」

兄者が声をかけた。
全員が正面を向く。

( ^ω^)「よあけ、だお」

空の端、地面の線から明かりが昇る。
命の塊がそのまま現れたような輝きだ。

(・∀ ・)「すげー。
     なんだ、すげー。何かわからないけど、すごいぞー」

またんきは大きな目を、さらに大きくして光を見ていた。

(・∀ ・)「はじめてだ。こんな、つよい、ひかり」

意識していないのだろう。
口から言葉が勝手に零れていっている。

('A`)「ソトノヒカリハ、ハジメテカ」

思えば、またんきは外の風景というものを思い浮かべることができないようだった。
いつから奴隷としていたのかはわからないが、物心がついたころには地下にいたのだろう。

276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 06:58:13.36 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「あれは太陽だ」

(・∀ ・)「たいよう」

( ´_ゝ`)「綺麗だろ?」

(・∀ ・)「きれい……。
     わからないぞ。でも、うん。きれいだ」

わからない言葉のはずなのに、またんきは頷いた。
あるのかどうかもわからないような心に、朝日はじんわりと染み渡る。
美しさを言葉にすることはできない。
ただ、感じることだけをした。

( ^ω^)「もうすぐ、じめんがみえるお。
      おそらだってみえるお。
      ここにはあまりないけど、くさきだってみえるお」

(・∀ ・)「草木はしってるぞー。本にかいてたんだぞー」

ゆるりと昇る太陽から目を離さずに答える。
網膜に焼き付けるような凝視の仕方だ。

277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:00:37.61 ID:EHpwtljV0
   
('A`)「ソウイエバ、オレタチハドコニムカッテルンダ?」

ドクオの疑問に弟者もそういえば、と同意する。
行き先はいつも兄者が決めているので、あまり気にしていなかった。
まさかとは思うが、適当に飛んでいるだけなのではないだろうか。

( ´_ゝ`)「ちゃんと目的地はあるって」

弟者の不安は視線が物語っていたようだ。
茶化すような口調ではなく、至って真面目に兄者が返す。
彼もそろそろ眠りたいのだろう。馬鹿なことをして睡眠時間を削るつもりはない。

( ^ω^)「まえのまちで、やどでもとってたのかお?」

彼らは一応、盗賊という身分なので、野宿することも少なくない。
何の気兼ねもなしに宿をとれる地方はニュー速くらいのものなので、
前の町であらかじめ宿を取っていたとしても不思議ではない。

(´<_` )「いや、殆ど一緒にいたから、それはないだろ」

弟者が反論を口にする。
空察を見つけて兄者が走りだすまで、四人は固まって行動していた。
あのわずかな時間で宿を取ったとは考えにくい。

('A`)「イイノジュクバショガアルトカ?」

例えば、見張りを置いておかなくても眠れるような。

279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 07:02:45.06 ID:EHpwtljV0
  
( ´_ゝ`)「そんなところだ。
      おっ。見えた」

何が見えたというのか。
その答えは背を伸ばせば見えた。

(´<_`;)「兄者……。まさか、とは思うが」

(;^ω^)「えぇー」

(;'A`)「サスガノオレモ、ヒクワ……」

三人が気まずげに顔を歪める。
目に映るものを理解できていないまたんきだけが、変わらぬ表情でいる。

( ´_ゝ`)「紹介してやるって約束したしな」


ドラゴンの前、兄者の目の先、そこにあったのは飛行船だった。



<<<前編 一前編 三>>>

トップ2012秋ラノベ祭り投下作品一覧(・∀ ・)と兄弟のようです前編 二
元スレ
inserted by FC2 system