2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
(・∀ ・)と兄弟のようです
  前編 四



399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:48:25.82 ID:EHpwtljV0
   
太陽が真上に昇り、徐々に下り始めたとき、兄者は目を覚ました。

( ´_ゝ`)「うーん。よく寝た!」

ベッドの上で体を伸ばす。
周囲を見るが、まだ誰も起きていない。

( ´_ゝ`)「寝ぼ助さん共め!」

兄者は体に反動をつけてベッドから飛び降りる。
着地の際に音がしないのは流石だ。

( ´_ゝ`)「起きろー!」

静かだったのは着地の時だけ。
すぐさま兄者は大声を出した。

(;・∀ ・)「何だ?! 何がおこったんだ!」

('A`)「アー、ヨクネタ」

( ^ω^)「あにじゃやかましいお」

起きだす面々を他所に、弟者は未だに目蓋を閉じたままだ。
生まれてからずっと連れ添ってきているため、兄者の大声に慣れてしまっている。

401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:50:28.06 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「おーとーじゃー」

(´<_` )「んー」

体を揺すられてようやく起きる。
全員が体を起こしたのを確認すると、寝起きとは思えないほど良い笑顔で兄者は言う。

( ´_ゝ`)「おはよう」

もう昼を過ぎているのだが、挨拶は挨拶だ。

( ^ω^)「おはようだお」

('A`)「オハヨウ」

(´<_` )「おはよう」

(・∀ ・)「おは、よう……」

挨拶だということはわかったらしいが、またんきは「おはよう」をわからなかったようだ。
ぎこちない声ではあったが、他の者達を真似て挨拶をする。

402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 08:53:18.70 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「よし。朝の挨拶も済ませたところで、飯でもたかりに行くか」

(´<_`;)「待て兄者。流石にそれは駄目だろ」

( ´_ゝ`)「そうか?」

眠気もとれてすっきりした弟者は、兄者を止めるという役割を取り戻す。
首を傾げる兄者に言葉を重ねていく。

(´<_` )「警察である空察が、こうしてオレ達に寝床を貸してくれた。
      それだけで感謝するべきだ。
      ほとんどを空の上で過ごすこの飛行船には、限られた食料しかないはずだしな。
      余所者、それも犯罪者であるオレ達が食べるのはよくないだろ」

食料など、地上に降りれば山のようにあるのだ。
あるところから盗めるというのに、ないところから盗るのは気が進まない。

( ´_ゝ`)「なるほど。それもそうだな。
      なら、とっととお暇するとしようか」

( ^ω^)「なんというみがって」

(・∀ ・)「おなかへったぞー?」

('A`)「モウチョットマッテナ」

404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:00:24.40 ID:EHpwtljV0
   
兄者を先頭に五人は部屋から出る。
運悪く通りがかってしまった船員に、出て行くことをギコへ伝えるように言付ける。
待つつもりはないが、見送りに来るなら来るで構わない。

( ´_ゝ`)「ドラゴン、いじめられなかったか?」

甲板に出た兄者は真っ先にドラゴンへ駆け寄る。
放置していただけのように思えるが、彼なりにドラゴンを大切にしているのだ。
ドラゴンは兄者の問いかけに答えるように声を上げた。
怒りの色は見えないので、良くしてもらったのだろう。

(・∀ ・)「どらごんすげー。ここが、ぎゅっ! ってなるぞ」

またんきが胸に手を当てる。

( ^ω^)「すごいはくりょく、ってことかお」

(・∀ ・)「はくりょく?
     そうだなー。はくりょくだ!」

新しい言葉を何度も連呼する。
どうやら気に入ったようだ。

407 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:03:21.58 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「下に行ったらどうする」

( ´_ゝ`)「まずは食い物だな。
      食いながらこれからの予定を発表する」

(´<_` )「またんきの服も忘れるなよ」

( ´_ゝ`)「おっと。そうだった」

奴隷の証を気にしない性質だからか、
単純に興味のないことに意識がいかないのか、
兄者はまたんきに服を与えるということをすっかり忘れていた。

ギコから直々に忠告された弟者は肩を落とす。
周囲が烙印をどのように見ているのか意識がいかなかった自分が言えることではないが、
常に肌を露出させて周りをウロウロしているのだから忘れないで欲しい。

( ´_ゝ`)「またんき、行くぞ」

(・∀ ・)「おう」

兄者はドラゴンの首に手を置き、背に乗ろうとした。

410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:05:32.75 ID:EHpwtljV0
   
(,,゚Д゚)「ちょっと待て」

飛び乗るつもりで足に力を入れていた兄者は、突然の声に力を緩めることになる。
振り返れば、お馴染みの三人が顔をそろえていた。

( ´_ゝ`)「何だ。見送りにきてくれたのか?」
  _
( ゚∀゚)「それも兼ねてる」

(´<_` )「と、言いますと」

堂々と居座った上に、礼も述べずに去ろうとしたことへの説教だろうか。
ジョルジュはともかく、ギコならばありえそうな話だ。

(´・ω・`)「はい」

ショボンが何かを投げる。
風が吹いている中とはいえ、彼の投げた物は正確に兄者の手の内へ届いた。

( ´_ゝ`)「これは?」

小さな包みだ。
軽いわけではないが、重いわけでもない。

(´・ω・`)「おにぎり」

(´<_` )「くれるんですか?」

413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:07:20.33 ID:EHpwtljV0
着陸することの少ないすくない飛行船の者達にとって、食料は貴重だ。
わずかな米とはいえ、こうして分け与えてくれるとは思ってなかった。

(,,゚Д゚)「お前達にではない」

(´・ω・`)「育ち盛り……か、わからないけど、お子様に」

二人の視線はまたんきを見ていた。
骨が浮き出るほどではないが、彼の体は細い。
日にも当たらず、地下に閉じ込められていたのだから当然のことだ。

( ´_ゝ`)「そうか」

兄者はまたんきの傍に屈み、受け取った包みを手渡す。

( ´_ゝ`)「お前にだ」

(・∀ ・)「おれに?」

受け取ったまたんきは、兄者の顔を見る。
次いで、ギコとショボンを見る。
何度かそれを繰りかえした。

( ´_ゝ`)「お礼はな、『ありがとう』だ」

416 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:09:27.91 ID:EHpwtljV0
   
またんきは兄者をじっと見つめてから、ギコ達の方を向く。

(・∀ ・)「ありがとう!」

包みを持ち上げて言う。
浮かんでいるのはいつも通りすぎる笑みだ。
ただ、赤と青の瞳がわずかに暖かさを帯びていた。

(,,゚Д゚)「どういたしまして」

出会ったときから作られた笑みを絶やさないまたんきを、ギコは心配していた。
流石兄弟と一緒にいれば、自然と表情は変わるだろうと思っていたが、
冷たく凍ってしまっているような瞳を見て痛まぬ心はない。

その瞳がわずかでも暖かさを帯びたのだ。
嬉しくないはずがない。
  _
( ゚∀゚)「ギコ、まだ渡すもんあるんだろ」

(,,゚Д゚)「あ、はい!」

喜びに浸っていたギコの横っ腹をジョルジュが突く。
我に返ったギコは掴んでいた物を弟者に渡す。

418 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:12:35.87 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「靴と服、ですか?」

渡されたのは、お世辞にも綺麗とはいえない布だった。
広げてみると、それは服の形をしている。
一緒に渡されたのは子供用の靴だ。

(,,゚Д゚)「もう捨てるかどうか迷っていた物だ。
    一先ず、それを着せてやれ」

ずっと着ているには向かないであろうし、兄者や弟者の着ている物と比べても見劣りする代物だ。
上等な服を盗んで着せてやれ。と、までは言えないが、
すぐにでも新しい服を手に入れてやれ。と、暗に伝える。

( ´_ゝ`)「良かったな。これも、お前のだ」

(・∀ ・)「ありがとう!」

服を受け取ったまたんきは、もう一度ギコへお礼を述べる。
そして、さっそく袖を通す。

(・∀ ・)「ぶかぶかだぞー」
  _
( ゚∀゚)「ちとでかかったか」

(´<_` )「ピッタリの物を用意してやるから。
      今はそれを着ておけ」

421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:14:39.35 ID:EHpwtljV0
   
袖の長さに対して、腕の長さが足りていないことが面白いのか、
またんきは何度も余っている袖を揺らす。
靴も少々大きく、歩く度に踵が露出している。

(´<_` )「色々ありがとうございます」

改めて弟者が頭を下げる。
兄者はまたんきと一緒になって遊んでいた。

(´・ω・`)「いいんだよ。ギコが好きでやってるんだし」
  _
( ゚∀゚)「好意はありがたく受け取っとけ。
     ここだけの話、あのおにぎりはギコの分の飯で――」

(,;゚Д゚)「うわー! ここだけの話になってないですよ!
    っていうか、何で知ってるんですか!」

(´<_` )「ギコさん……」

何と良い人なのだろうか。
弟者は改めて思う。
ギコ自身はわかっていないようだが、弟者にはジョルジュが彼を隊長に選んだ理由がよくわかる。

423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:17:16.70 ID:EHpwtljV0
  
( ´_ゝ`)「おーい。そろそろ行くぞー」

(´<_` )「すまん。今行く」

いつの間にか、兄者はまたんきを連れてドラゴンの背に乗っていた。
弟者は慌ててドラゴンに飛び乗る。

(,,゚Д゚)「いいか、その飯はまたんきに食べさせるんだぞ!」

(´・ω・`)「お母さんみたいだ……」
  _
( ゚∀゚)「またなー」

甲板から見送ってくれている三人と、偶然甲板で仕事をしていた船員達に手を振りながら、
五人とドラゴンは地上に降下して行く。

(´<_` )「オレが抑えておいてやるからおにぎり喰っとけ」

(・∀ ・)「わかったぞ」

貰った包みを解き、中にあるおにぎりと対面する。
海苔も何もない質素なおにぎりが二つ。白い米粒が美しく見える。

( ^ω^)「おいしいかお?」

一つ目を口いっぱいにほうばったまたんきは咀嚼をしながら頷く。

425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:20:21.73 ID:EHpwtljV0
   
('A`)「メシガウマイノハ、イイコトダ」

ドクオはまたんきの頭の上で何度も頷く。
彼がそこにいる理由は、またんきの頭の上が最も風に吹かれないからだったりする。

(・∀ ・)「……だれかがいるところで食べるのは、はじめてだぞー」

二口目は小さく口に含む。
口角は上がったままだが、明らかに元気がない。

(´<_` )「今はオレ達がいる」

( ´_ゝ`)「明日もいるぞ」

(・∀ ・)「なかま、だからか?」

(´<_` )「よく覚えてたな」

片手でまたんきを撫でる。
上にいたドクオが慌てて少し飛んだ。

428 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:22:27.04 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「なかまは、ずっといっしょなのか?」

( ^ω^)「ずっといっしょだお」

三口目、四口目を食べながら尋ねると、ブーンが即答してくれた。
他者を疑わぬ瞳はまたんきの心に直接届く。

(・∀ ・)「おれ、ハーフだけど」

( ´_ゝ`)「何を今さら。
      むしろ、ハーフだからいいんじゃないか」

またんきがただの奴隷であったのならば、兄者は盗み出そうとはしなかった。
昨日見た耳族の女と同じ。可哀想な部類にいる者でしかない。

(・∀ ・)「うったりしないか?」

一つ目のおにぎりを食べ終わったまたんきが上を見る。
弟者とバッチリ目があった。

430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:25:29.04 ID:EHpwtljV0
  
親に売られたまたんきだ。
直接、その事実を知らなかったとしても、研究に携わっていた者が言葉にした可能性は高い。
誰でも、いらないと言われることは辛いものだ。

傷つけることしかできない言葉を、幼い子供に何度も言った者がいるのだろう。
だから、またんきの目は薄暗い。

(´<_` )「売らないよ」

金や物ならばそこいらにばら撒いたことが何度もある。
必要のないものはあっさりと捨てられる。
けれど、またんきは物ではない。

( ´_ゝ`)「ずーっと一緒だ。
      それこそ、嫌だつってもな!」

( ^ω^)「あにじゃも、おとじゃも、またんきをうったり、すてたりしないお」

('A`)「ソレハ、オレタチカ、゙イチバンヨクシッテル」

ブーンとドクオは二つ目のおにぎりにまたんきの手を誘導する。
彼らに従い、またんきは二つ目のおにぎりに口をつけた。

432 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:28:24.12 ID:EHpwtljV0
   
( ^ω^)「ぼくとどくおは、ふつうのせいれいじゃないんだお」

(・∀ ・)「ちがうのか?」

体は小さいが、見た目は普通の精霊だ。
羽根もある。魔法も使える。

またんきは不思議そうな顔をしながら二人を観察する。
彼は物事をよく知らないが、ブーンとドクオが特別おかしいとは感じない。

('A`)「オレトブーンハ、ツクラレタンダ」

(・∀ ・)「つくられた」

ドクオの顔は苦しげに歪んでいる。
思い出したくもない記憶なのだ。

('A`)「スコシ、マエノコトダ」

( ^ω^)「ぼくらは、またんきとおなじように、じっけんたいにされてたんだお」

433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:31:38.77 ID:EHpwtljV0
   
以前、奴隷となった多くの精霊を解剖し、分析していた外道がいた。
奴隷をどう扱おうが主人の勝手。
研究者はニュー速の片隅で研究を続けていた。

彼の目的は一つ。
五属性である火、水、風、雷、土。それらとは違う、存在は確認されているものの、
その属性を持つ精霊はほとんど見つかっていないとされていた存在。
光と闇の精霊を創りだすことだった。

多くの精霊の血が流れ、命が消えた。
その絶望しか生まれぬ空間の中に、二つの生命が誕生したのだ。

(;・∀ ・)「もしかして」

('A`)「ソウ。ソレガ、オレタチ」


光の精霊ブーンと、
闇の精霊ドクオ。

436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:33:43.53 ID:EHpwtljV0
   
生み出されたのは小さな精霊だった。
とてもじゃないが、役にたつとは思えないほどの大きさ。

研究者は生み出した存在をさらに解析し、より強い精霊を生み出そうとした。
強く、見知らぬ属性を持つ精霊は兵器になるに違いない。
この成果を持って、国に貢献すれば、誰もが彼を認めざるを得ないはずだ。

研究者は己の妄想に酔い耽っていた。
痛みに呻くブーンやドクオの声など、彼の耳には入らない。

生まれたばかりだったとはいえ、人工的に生み出されたとはいえ、ブーンもドクオも精霊だ。
痛みも苦しみも、理不尽も理解していた。
いっそのこと殺せとさえ思った。

だから、ある日、研究者が笑ったときは、喜びを感じたのだ。

    「データはまとまった。これでいつでも創りだせる。
     さあ、解剖してみようか」

440 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:36:59.06 ID:EHpwtljV0
   
これで楽になれる。そう思っていた。

( ^ω^)「あにじゃと、おとじゃがきてくれるまでは」

突如、乱入してきた兄者と弟者は楽しげに笑っていた。
血生臭い部屋も、おどろおどろしい研究成果が張り出されている周囲も気にしていなかった。
彼らの目的は、もちろん世にも珍しい人工精霊。

創りかたを教えてやると言われてもどうでもいい。
欲しいのは今、目の前にある精霊だったのだから。

('A`)「アニジャハ、アノヒトヲ、コロシタ」

喚き散らす研究者に嫌気が差した兄者は、無感情に殺した。
血の一つも浴びず、綺麗な殺し方だった。

彼は、邪魔者がいなくなった途端、顔を緩めて、
とても殺人を犯した直後とは思えないほど優しい笑みを二人に向けていた。



その日から、ブーンとドクオは流石兄弟のモノになった。

442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:38:29.74 ID:EHpwtljV0
  
(´<_` )「ただ、オレ達は善人じゃない」

二人の会話に付け足しをする。

(´<_` )「本当の善人は、新たな犠牲者が出ないようにするもんだ」

( ´_ゝ`)「あのデータはそのままだからなぁ」

話には聞かないが、どこかで新たな生命が生まれているかもしれない。
その生命が幸せな生活を過ごしているとは、到底思えない。

( ^ω^)「そりゃ、あのでーたも、すべてけしてくれたほうが、よかったお」

('A`)「デモ、ソレトコレトハベツダ」

( ^ω^)「ぼくとどくおはたすかったお。
      それをかんしゃしないことは、いけないことだお。
      だから、そうしてくれたあにじゃとおとじゃは、いいひとなんだお」

('A`)「ソレナリノジカンヲ、イッショニスゴシタ。
   デモ、オレタチハ、マダイッショニイル」

二人の存在こそが、兄者も弟者もまたんきを捨てないことを示している。
研究対象となるような存在でも関係ない。

444 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:40:28.75 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「そうだ。ずっと一緒だ」

(・∀ ・)「ずっとか」

( ´_ゝ`)「オレと弟者が死ぬまで一緒だ」

前を向いたままの兄者の表情はわからなかったが、
冗談を言っているような口調ではなかった。

(・∀ ・)「かたほうだけ死んだら?」

( ´_ゝ`)「それはない」

あんまりといえばあんまりな質問に、兄者はキッパリと答える。
どこからその自信はわいてくるのだろうか。

(´<_`;)「おいおい。ないことはないだろ」

( ´_ゝ`)「馬鹿だな。オレとお前は双子だろ?
      同じ母親の腹で育ち、同じ日に生まれ、同じように生きてきた。
      死ぬときも同じに決まってるだろ」

(・∀ ・)「それまで、ずっといっしょなのか」

( ´_ゝ`)「そうさ。オレは弟者から離れない。
      弟者もそうだろ?」

446 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:42:31.80 ID:EHpwtljV0
   
兄者が振り返る。
ひとかけらも弟者を疑っていない笑みだ。

(´<_` )「――あぁ。ずっと一緒だ」

弟者は嬉しかった。
自分は、兄の思いを裏切ることはなかったのだ。
誇らしくすらあった。

( ´_ゝ`)「な? だから、またんきも一緒だ」

( ^ω^)「ごはんはこれから、みんなでたべるんだお」

('A`)「ヒトリジャナイゾ」

(・∀ ・)「……うん」

二つ目のおにぎりは、とうに食べ終わっていた。
胃袋にはまだ余裕がある。

( ´_ゝ`)「さあ、もうすぐ町だ。
      ドラゴンにも肉を盗ってきてやるからな」

ドラゴンが高く吼えた。

449 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:45:17.83 ID:EHpwtljV0
  
町についた一行はまず食事をすることにした。

( ´_ゝ`)「またんきを迎えた記念も兼ねて、パーッとやるか」

盗んでもよかったのだが、調理済みのものは盗みにくい。
その上、店で食べる。と、いう独特の空気を味わえない。
後で服を盗むことを考えても、まずは普通に対価を支払って食事をするべきだ。

(´<_` )「金はあるのか?」

金を持ち歩かない兄者だ。持っているはずがない。
兄者は笑いながら手を横に振る。
勿論、弟者も金など持っていない。

( ´_ゝ`)「オレ達は何だ?」

(´<_` )「盗賊だ」

( ´_ゝ`)「なら、答えは決まってるだろ?」

(;^ω^)「まあ、そうなるおね」

452 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:47:19.78 ID:EHpwtljV0
   
('A`)「ブーンハ、ヤッパリ、イヤナノカ?」

またんきを盗んだ時と違い、ブーンは浮かない顔をしている。

(;^ω^)「あまり……」

(´<_` )「こればっかりは慣れてもらわんとなぁ」

ブーンはその属性のためか、正義感が強い。
実験体とされているようなモノを盗みだすことには喜んで乗り出すが、
単に金銭や物品を盗むことには乗り気になれない。

それでも彼が流石兄弟と共にいるのは、助け出された恩と、彼らの気の良い性格、
そして、主に悪徳な金持ちから物を盗み、
余った物は乞食や生きることが難しい者に振りまいているからという理由が上げられる。。

( ´_ゝ`)「さーて、獲物はどいつにしようかなー」

盗みの前にブーンが暗い顔をするのはいつものことだ。
兄者は気にも止めずに獲物を探す。

ニュー速の町に、そうそう金持ちは歩いていない。
ならば、それなりに持っていそうな者から盗むしかない。

454 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:49:40.09 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「何するんだ?」

('A`)「シーッ」

ブーンと違い、ドクオは平然としている。
罪悪感はあるのだが、それ以上の悲しみや不安がいつも彼の胸にはあるので、普段とあまり変わらない。

(´<_` )「兄者、今回はどうする」

( ´_ゝ`)「オレ一人でささっと盗ってくるさ」

目ぼしい獲物を見つけたらしい兄者は不敵な笑みを浮かべる。
手の指を数回伸ばし、スリルを楽しむ目に変わった。

(´<_` )「いってら」

またんきやブーン達と弟者は待機する。
兄者は一度軽く手を振ってから、まばらな人の中に紛れ込む。

457 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:51:20.17 ID:EHpwtljV0
  
足取り軽く歩いている兄者は、周囲の人間と溶け込んでいる。
目立つこともなく、そこいらの石のような存在となっていた。

兄者は自然な足取りで獲物に近づく。
獲物は若い男だ。
服装から見て、ニュー速地方民としては金を持っている部類だろうと思われる。

鞄は持っていない。
財布はおそらく、ポケットの中。
気づかれずに抜き取るのは難しい。

( ´_ゝ`)

血が流れる。
胸が鳴る。
何度やっても、このスリルと昂揚感は抜けない。
顔には出さず、胸の内だけで楽しむ。

地面を歩くとき、兄者は足音を立てない。
存在感を消す癖のようなものだ。

静かな兄者と、足音をたてながら歩く獲物がすれ違う。
兄者の胸の内は最高潮に達した。

461 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:53:19.18 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「どうだった?」

戻ってきた兄者に問いかける。
答えはわかりきっていたが、形式美というやつだ。

( ´_ゝ`)「オレに失敗の文字はない」

兄者は口角を上げて、手に持っている財布を見せた。
財布と一緒にネックレスもある。

(´<_` )「ネックレスまでよく盗れたな」

( ´_ゝ`)「軽くて細いやつだったからな」

重みを感じないネックレスは、上手く盗ればしばらくは気づかれない。
得意気な顔をしている兄者は確かに上手い。

( ´ω`)「さいふだけでよかったんじゃないかお……」

('A`)「アキラメロ」

盗れると思ったら盗る。
それがスリルを楽しむ秘訣らしい。

463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:55:28.98 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「それをどうするんだ?」

(´<_` )「この中に入ってる金で飯を喰うんだ」

(・∀ ・)「ごはんか!」

( ^ω^)「ごはんはおいしいお」

('A`)「クイジノハッタヤツ……」

喜ぶまたんきと一緒になってブーンも辺りを飛び回る。
楽しげな様子は胸を暖かくするが、経緯を知ればあまり暖かくはなれないものでもある。

( ´_ゝ`)「じゃあパーッといくか!」

(・∀ ・)「パーッと!」

先陣をきる兄者にまたんきが続く。
この町のことはよく知らないが、美味そうな店というのは前を通るだけでわかるものだ。

465 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:57:37.06 ID:EHpwtljV0
   
( *^ω^)「いいにおいがするお!」

( *´_ゝ`)「おお! ここにしようか!」

美味い飯を出す店を探していると、乾いた風に混じって空腹を増長させるような匂いが漂ってくる。
ブーンと兄者は大げさなほどに喜び、ここで食べようと主張した。

(・∀ ・)「いいにおいだー」

(´<_` )「ならそこにしよう」

見たところそれほど高級な店には見えない。
先ほどの男から盗った金で十分足りるだろう。
最悪、食い逃げをしても問題はない。

('A`)「ナニガアルカナー」

香りに惹かれて扉を開ける。
扉につけられていたらしい鐘が軽やかな音をたてた。

467 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 09:59:24.08 ID:EHpwtljV0
   
店内にはいくつかの丸テーブルとカウンター席が用意されていた。
匂いが示すように美味い料理を出すのか、ほとんどの席が埋まっている。

兄者達は五人いるとはいえ、二人は小さな精霊だ。
三人分の席があればいい。
そのくらいの席はどうにか用意してもらえた。

(´<_` )「何がいい?」

メニューをまたんきに渡す。

(・∀ ・)「読めない字があるぞー」

本を読んでいたといっていたのだが、全ての文字を読めるわけではないらしい。
古びたメニューを指先でなぞっているが、読めている気配はまったくない。
ニュー速にある飲食店のメニューに写真などついているはずもなく、
結果としてまたんきはどの文字がどのような料理なのか見当もつかなかった。

( ´_ゝ`)「じゃあ、これでいいだろ」

(´<_` )「だな。それがいい」

兄者が指差し、弟者が頷く。

469 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:02:21.45 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「んー?」

二人の間だけで何かが決定したらしい。
またんきには決定した事項までわからなかった。
首を傾げて足をぶらつかせる。

( ´_ゝ`)「じゃあオレはチーズハンバーグとサソリフライのセット」

(´<_` )「から揚げセットとタマゴサラダ」

( ^ω^)「ぼくとどくおは「みにぴざはむのせ」がいいお」

体の小さな精霊二人はあまり食べることができない。
店で食事をする際は二人で一つのものを食べている。

決まったところで店員を呼ぶ。
弟者は決まった料理を口にしていく。


(´<_` )「――それと、お子様ランチ」

最後の注文は、またんきのためのものだった。

472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:04:33.62 ID:EHpwtljV0
  
(・∀ ・)「おこさまランチ……」

その料理自体に覚えはない。
しかし、「お子様」という名称は、彼の心を波立たせる。

('A`)「フフクカ」

(・∀ ・)「何だかなー」

笑みを浮かべてはいるが、どこか不服そうなことは雰囲気でわかる。
またんきは、正真正銘の子供ではあるが、自尊心がつき始めている年頃だと思われる。
お子様扱いは気に喰わないようだ。

( ´_ゝ`)「お前はわかってないな」

兄者が人差し指を振る。

(´<_` )「そう言ってやるな。
      またんきはずっと地下にいたんだ。知らなくてもしかたがない」

芝居じみた口調で弟者が返す。
大げさな動作で片手を額につける。

(・∀ ・)「何だよー」

( ´_ゝ`)「きてからのお楽しみだ」

兄者は口角を上げた。

474 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:06:53.64 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「さて、料理が揃うまでの間に聞いておこうか」

( ´_ゝ`)「何をだ」

(´<_` )「兄者が立てている今後の計画をだよ」

二人は丸テーブルで丁度向かいになる位置に座っている。
兄者が真剣な顔をしていると、容姿の差は殆どなくなる。

( ´_ゝ`)「そうだな。時間を有効的に使おうか」

細い目は楽しげにギラついているが、全体としては真剣な面持ちを崩していない。
盗みをするときと同じ表情だ。

('A`)「ナカスッテ、イッテタヨナ」

( ´_ゝ`)「そうだ。そこで考えた」

兄者はまたんきを目に映す。
普通の少年に見える彼を泣かすのには苦労するだろう。
何せ、辛いことも苦しいことも悲しいことも理解できていない。
まずは、生き物として当然持つべきである感情を持たせ、自覚させなければいけない。

475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:09:40.43 ID:EHpwtljV0
( ´_ゝ`)「この国をぐるっと回ろう」

指が宙で円を描く。

( ^ω^)「くにって……びっぷかお?」

( ´_ゝ`)「流石にラウンジへ行こうとは思わないさ」

一度は行ってみたい気もするが、現時点ではVIP国でも十二分に楽しんで生きている。
わざわざ敵国に行く必要性は感じられない。

( ´_ゝ`)「ニュー速からしたらば海を越えて灯南へ行く。
      んで、また海を越えて的芽に行って、宋咲、シベリアに渡る」

VIP国は三つの島からなる国だ。
本島には南からニュー速、的芽、宋咲といった地方が存在する。
奴隷を多く生み出している貧困の島、灯南は本島としたらば海を挟んだ場所に浮かんでいる。
北にあるシベリアは、島の大きさこそ灯南よりも大きいが、
厳しい寒さに年中襲われているため、住み心地はあまり良くない。灯南よりはマシ。と、いう程度だ。

(´<_` )「……まあ、悪くないな」

世界を知らぬまたんきに、この国や情勢、一般的な知識を教えるにはそれが一番だろう。
流石兄弟は盗みついでに国を一周したこともあるので、遠出することに抵抗はない。

477 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:11:45.30 ID:EHpwtljV0
  
(・∀ ・)「この国を、まわるのか?」

('A`)「ソウダ」

( ´_ゝ`)「世界は広いぞ!」

(´<_` )「面白いものもいっぱいだ」

( ^ω^)「おいしいものもだお」

世界を知る四人はまたんきにその素晴らしさを伝える。
その地方独特の行事や、昔訪れたときに起こった出来事。
話は尽きることがない。

(´<_` )「シベリアといったら、あの雪の量だな」

( ^ω^)「あたたかいひとばっかりだったお」

( ´_ゝ`)「あの地方の奴が作る雪像は大したもんだよ」

(・∀ ・)「せつぞー? ゆき?」

('A`)「ユキッテノハ――」

480 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:13:47.60 ID:EHpwtljV0
  
一つ話せば、またんきが質問を投げる。
それに答えれば、また次の話が始まる。
丸テーブルを囲んで、五人はその口を止めることなく話し続けた。

(´<_` )「おっと。お喋りの時間はお終いだ」

弟者がそう言ったのは、店員が料理を運んできたからだ。
食事をしながら話すことは勿論可能だが、やはりメインの時間は食事に切り替わる。

( ´_ゝ`)「うーん。いい香りだ」

ハンバーグとサソリのフライを前に、兄者は唇を舐める。
そうせざるを得ないほど、運ばれてきた食事は芳しい。

(・∀ ・)「これが、おこさまランチか?」

全員の前に料理が並び、またんきはまた一つ疑問を投げかけた。

( ^ω^)「そうだお」

ブーンが頷く。
またんきの前に置かれている料理は、
一つのお皿に旗のついたケチャップライスと小さなサソリフライ、ハンバーグにシュウマイが乗せられ、
端っこにはゼリーが置かれている。

どこからどう見てもお子様ランチだ。

482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:16:25.71 ID:EHpwtljV0
  
(・∀ ・)「……おれのだけ、ぜんぜんちがう」

他の者の皿と、またんきの皿は明らかに違う。
彼らのものがシンプルなものであるのに対し、またんきのものはカラフルに彩られている。
特別といった感じもするが、「お子様」の名称からは、侮辱に近いものを感じた。

( ´_ゝ`)「なーにを言っているんだ!」

兄者はまたんきの肩を抱く。
そしてお子様ランチの旗を指差す。

( ´_ゝ`)「見ろ。この旗を。
      悠然としているこれは、この国の国旗だ」

(´<_` )「味のついた米は白い米とは全く違う美味さを持つ」

( ´_ゝ`)「ハンバーグにサソリフライにシュウマイ!
      誰もが食べたくなるものを、小さいならがも揃えている技量」

(´<_` )「食後のデザートまで完備されている」

( ´_ゝ`)「これは、外で始めて食事をするお前に相応しい料理だ」

(´<_` )「ニュー速において、これほど祝いの席に似合う料理はない」

487 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:23:19.31 ID:EHpwtljV0
   
口先三寸というより、彼らは本気でそう思っているらしい。
自分達の分を頼まなかったのは、すでに成獣であるプライドからだろう。
またんきの皿を見つめる目は熱い。

(;・∀ ・)「そうだったのかー!」

大人の本気に、またんきは素直に驚きを見せた。
言われてみれば、美味しそうなおかずが絶妙なバランスで配置されている。
「お子様」という単語に気を取られなければ、間違いなく美味そうだと感じることができる料理だ。

( ´_ゝ`)「よし。わかったな?」

( ^ω^)「じゃあ、たべるお!」

四人は手を合わせる。
慌ててまたんきも手を合わせた。

 「いただきます」

(・∀ ・)「……ます」

四人の声が揃い、少し遅れてまたんきの声が聞こえた。
食事など一人ですることが当たり前だった彼に、食事前の挨拶は新鮮だ。

489 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:26:10.87 ID:EHpwtljV0
   
予想に違わず、料理はどれも美味しいものばかりだった。
新鮮な素材を使っているとはいいがたいが、それでも十二分の美味さを引き出している。
噛めば肉汁が滴り、衣がサクっと音をたてる。

お子様ランチにつけられていたゼリーも自家製のものらしく、
果物の爽やかな風味がまたんきの口を潤した。
彼は先におにぎりを二つも食べていたのだが、お子様ランチは少しも残らず腹に収まってしまった。

(・∀ ・)「うまかったぞー」

( ´_ゝ`)「あぁ美味かった」

(´<_` )「オレ達としたことが、こんな美味い店を知らなかったとは」

店を出た後も絶賛の言葉が尽きない。
的芽や宋咲とくらべると、どうしても質は落ちるが、ニュー速にある店では間違いなく一番だろう。

( ^ω^)「またくるお!」

( ´_ゝ`)「そうだな。覚えておこう」

('A`)「アニジャハ、ドウセワスレルキガスル……」

(´<_` )「いやいや。美味いものは忘れられんよ」

490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:29:20.82 ID:EHpwtljV0
( ´_ゝ`)「美味い飯は忘れない。
      だが、今は次の仕事に目を向けようじゃないか」

ドラゴンのためにとテイクアウトしたハンバーグが入った袋を弟者へ投げ渡す。
落とせば中身が台無しになってしまうのだが、その心配は必要ない。
しっかりと受け取った弟者は袋を持ち直す。

('A`)「フクカ」

( ´_ゝ`)「その通り!」

(・∀ ・)「おれはべつにこれでもいいけどなー」

始めて他人から貰った物だからか、またんきはギコから貰った服を気に入っているようだった。
ボロの服ではあるが、またんきの肌を外気や目線からしっかりと守ってくれている。

しかし、流石兄弟の着ている物と質が違い過ぎるのは目立つ原因になりかねない。
気温に対することを考えても、新しい服は必要だ。

(´<_` )「どんな服がいいかねぇ」

店を眺めてみるが、そもそも服屋というものが少ない。
この地方では、服を生活の必需品とは認めていないのだ。

( ^ω^)「かっこいいふくがいいお!」

('A`)「ウゴキヤスイフクダロ……」

492 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:32:25.69 ID:EHpwtljV0
    
怪しまれない程度に視線をさまよわせて店を探す。

(´<_` )「おっ。いい感じの服屋があったぞ」

弟者が指差す方には小さいながらも立派な服屋があった。
ガラス越しに見える店内は、お洒落ではなかったが、品数が多い。
これならば四人のお眼鏡に適う服もあるに違いない。

('A`)「ハイルカ」

( ^ω^)「はいるお!」

(・∀ ・)「お、おう!」

精霊達が先陣を切るが、小さな彼らでは扉を開けることができない。
後から続いていたまたんきが代わりに開ける。

ミセ*゚ー゚)リ「いらっしゃいませー」

扉を開けると、店員の女の子が元気に挨拶をしてくれる。

(´<_` )「この子に服を買ってあげたいんだけど、オススメある?」

ミセ*゚ー゚)リ「少々お待ちください!」

494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:35:19.26 ID:EHpwtljV0
   
店員はまたんきの前に屈み、彼と目を合わせる。

ミセ*^ー^)リ「キミはどんな服が好き?」

(・∀ ・)「どんな?」

ミセ*^ー^)リ「動きやすい服、格好良い服、涼しい服、薄い服。
      色々あるよ。あ、好きな色とかあるかな?」

(・∀ ・)「…………」

彼女は純粋な善意とサービス精神で尋ねてくれた。
けれど、またんきはそのどれにも答えることができない。

動きやすい服も、格好良い服も、またんきは知らない。
まして、好きな色など、彼の中には存在していない。

( ´_ゝ`)「お姉さんに見繕って欲しいって」

ミセ*゚ー゚)リ「あら。そう?
      じゃあ、二、三着持ってきますね」

496 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:38:50.35 ID:EHpwtljV0
    
パタパタと駆けて行った店員の後ろ姿を弟者が眺める。

(´<_` )「やるか?」

( ´_ゝ`)「いや、彼女の選んだ服も見てみたい」

( ^ω^)「てんいんさんなら、きっといいふくをみつけてくれるお」

('A`)「カワイイテンインサンダシナ」

(;^ω^)「そこはかんけいないきがするお……」

あの店員がいないうちに盗んでしまおうと弟者は考えていたのだが、兄者は彼女が持ってくる服に興味が出ているらしい。
今仕事をしてしまった方が手っ取り早くはあるが、この店ならば強硬手段を取ったとしても問題ないだろう。
見たところ、店員は彼女と他に男が二人。こちらに気を配ってはいるようだが、大した手練ではない。
こっそり盗もうが、強引に盗もうが結果は変わらない。

兄者に倣って弟者も店員を待つことにした。
彼らの隣でまたんきはあちらこちらに目を向けている。

色とりどり、形様々な服が気になっているようだ。
時折、そっと触れては離し、また触れる。
自由にしていろと助言しようかとも他の四人は思ったが、こういうことは自らの行動と結果で覚えていくべきだろう。

498 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:42:00.98 ID:EHpwtljV0
   
ミセ*゚ー゚)リ「お待たせいたしました!」

戻ってきた彼女の手には二着の服がある。
どちらも上下セットのようだ。

ミセ*゚ー゚)リ「こちらは動きやすさを重視した服になります。
      この年頃の男の子は活発ですので、お選びしました」

一着は体の線にピッタリ合うような服だ。
弟者が生地に触れさせてもらうと、伸縮性と肌触りの良さを感じることができた。
確かに、よく動く年頃としては適当な服だろう。

ミセ*゚ー゚)リ「そして、こちらはお二方の服に合わせたものです」

示された服は、確かに兄者と弟者が着ているものと似ている。
余裕のある採寸で作られており、先ほどの服ほど機動性に富んでいるとはいいがたい。

( ´_ゝ`)「どっちがいい?」

(・∀ ・)「うーん」

またんきは示されている二つの服を見比べる。

500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:45:34.89 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「こっちがいい」

彼が指差したのは、店員が後で出した方の服だ。
つまり、兄者や弟者とよく似た服だ。

ミセ*^ー^)リ「ふふ。了解しました。
      どうです? お兄さん方、彼は決めたみたいですよ」

またんきが店員から受け取った服は、オレンジが基調となっている。
落ち着いた色合いの服を着ている流石兄弟とは対象的だが、またんきの子供らしさが映える色でもある。

(´<_` )「うん。似合うだろうな」

( ^ω^)「さすがぷろはちがうお」

四人はまたんきを囲んでわいわいと騒ぐ。
見ていて微笑ましさを感じるものであるし、客が多いというわけでもないので、店員は彼らの様子を黙って見ていた。
わざわざ、お会計の話をする必要はない。
楽しそうな人を見るのが彼女は好きだった。

( ´_ゝ`)「さて、それじゃあ、お仕事と行きますか」

だから、彼女は何故、兄者がククリを己に向けているのかが理解できなかった。

501 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:48:33.94 ID:EHpwtljV0
   
ミセ;゚ー゚)リ「へ……」

思わず顔が引きつる。
彼女もこの地方の生まれなので、こういった事態に直面したことがなかったわけではない。
しかし、盗みを働いたり、人を傷つけたりするような者というのは、それらしい前兆を持っている。

他の地方の者にはわからないかもしれないが、
いつも危険と隣あわせなニュー速に生まれた者は誰もがその見分け方を知っていた。
だというのに、彼女は驚いた。
驚きのあまり、体が思うように動かない。

(´<_` )「炎の精霊、渋沢と契約せし我が命ず。
      この地に宿る炎よ、息を吐け。
      近づく者を燃やしてしまえ」

弟者が呪文を唱えると、五人の周りを一筋の炎がぐるりと線を描き消えた。
店に現れた賊を捕らえようとした男達を威嚇しての魔法だ。

(;^ω^)「うーん」

('A`)「ソウムズカシイカオスルナヨ」

罪もない店員さんが被害に合うところを見るのは気が重い。
ブーンの眉間にはしわが寄っていた。

504 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:52:15.34 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「お嬢さん。オレ達はこの服が欲しいんだ」

変わらぬ表情で言ってのける兄者が、いっそ不気味だ。
ククリを向けられている店員はゆっくりと頷く。

( ´_ゝ`)「オレは流石兄者。
      盗賊流石兄弟の長男だ。
      欲しい物は何をしてでも手に入れる。
      その意味がわかるな?」

ククリを軽く動かせば、店員は泣きそうな顔をしながらも頷く。
流石兄弟の名は彼女も聞いたことがあった。

盗むことが目的のような存在だと。
だからこそ、無邪気で、犯罪者の匂いを感じさせない。
彼らは人を殺すことだって厭わないというのに。

(´<_` )「走って逃げると、またんきが大変だからな。
      こういった手段に出させてもらった」

( ´_ゝ`)「要求はただ一つ。
      この服一着をくれればいい」

他には何も要求しない。
服さえいただければ、店内にいる三人の命などどうでもいい。

510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 10:58:26.49 ID:EHpwtljV0
    
( ´_ゝ`)「でも、抵抗するなら……」

(´<_` )「皆殺し、全焼。どちらでも好きなのをどうぞ」

結果は何一つ変わらない二択だ。

ここで彼らを逃せば、店員は店長に怒られることになるだろう。
しかし、それが何だというのだ。

ミセ;゚ー゚)リ「はい……。
      通報しません。追いかけません」

怒られたところで、命は取られない。
選ぶべき選択肢はたった一つだけだ。

( ´_ゝ`)「よろしい」

(´<_` )「余計な手間をかけさせられなくてよかったよ」

二人はよくに似た笑みを浮かべた。
未だにククリを向けられている店員としては、笑みなどどうでもよいから、さっさと消えて欲しい気持ちでいっぱいだ。

512 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:01:22.00 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「似合うかー?」

( *´_ゝ`)「似合うぞ!」

(´<_` )「動きにくくないか?」

(・∀ ・)「おう」

盗った服にまたんきは袖を通す。
ひらひらと生地が風に舞う。
ついでにと、盗ってきた靴は彼にピッタリだったようだ。

( ^ω^)「まぁ、またんきがよろこんでるなら……」

(;'A`)「ソレデイイノカ……?」

先ほどまで店員の表情に同情していた精霊の台詞とは到底思えない。
ドクオは肩を落としてブーンを見る。

(´<_` )「じゃあ、ドラゴンのところに戻るか」

( ´_ゝ`)「あいつも腹を空かせてるだろうしな」

( ^ω^)「まずはひなんにいくのかお?」

( ´_ゝ`)「そうだ。海を越えなきゃならんから、今日は港の方に向けて飛んで、途中で休憩だな」

514 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:04:32.60 ID:EHpwtljV0
   
空を移動するとはいえ、移動時間はそれなりにかかる。
現在、兄者達がいる場所から灯南につくまで二日ほどはかかるだろう。

(´<_` )「灯南で過ごすなら用意もいるしな」

( ^ω^)「そうだおね。
      ひなんじゃ、あまりごはんたべられないお……」

(・∀ ・)「そんなばしょなのか」

('A`)「フコウノバショ」

貧困層のみで構成されているような地方だ。
ろくな食べ物はなく、ニュー速のような熱気もない。
誰も彼もが絶望に堕ち、どうすることもできずに日々を暮らしている。
その日を生きることもできないような貧困は、人から攻撃性を失わせる。

( ´_ゝ`)「怯える必要はないぞ。
      オレ達がいるからな」

(・∀ ・)「べつにおびえてはないぞー!」

( ´_ゝ`)「ならばよし」



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