■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└川 ゚ -゚) 忘失都市のようです
└その3
- 143 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:18:16 ID:gsQDLfHo0
- 数分後、それまで絶えず聞こえていた悲鳴がぴたりと鳴り止み、件の毒々しい色をした球は元の白い霧となって消えた
::(( ,,illД )):: あ……ああ……
ζ(゚ー゚;ζ タカラくん!?
先程まで球のあったその場所で、少年は仰向けになって倒れていた
私は急いで少年の元へと駆け寄って声をかける
反応は無し。少年は真っ青な顔をして、ただただ震えているだけだった
ζ(゚ー゚;ζ ひどい……何もここまで……!
('、`;川 ……確かに、これはやりすぎね
爪ill'ー`) シュン
いつの間にか彼女の横に姿を表していたフォックス君が、少年にも負けぬ程に真っ青な顔をして俯いている
子供ながらにも――記憶に年齢があるのかは分からないが――やり過ぎたという自覚はあるのだろう
('、`;川 あのね、この子をあんまり責めないであげてほしいの
('、`;川 私のために……こう、カッとなってやっちゃっただけだと思うから
('、`;川 悪いのは私。こうなったのも、私が追い詰めすぎたせいで……
- 144 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:18:54 ID:gsQDLfHo0
- ζ( ー ζ 許すかどうかは、私が決めることじゃないので
('、`;川 ……そうね
爪ill'ー`)
ζ(゚- ゚*ζ それに、何も出来なかった私も、怒る権利はありませんから
('、`;川 ……ごめんなさい
爪;'ー`)
ζ(゚- ゚ ;ζ 私に謝られても、困ります
三者三様の負い目から身動きが取れず、ただ立ち尽くす
私達はこれから何をするべきなのだろうか。わからない。何もわからない
こんな時に、あの人が居てくれたら……
ζ(゚- ゚ ;ζ モララーさん……
( ・∀・) よんだ?
- 145 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:19:50 ID:gsQDLfHo0
施錠して保管する
子供の手の届かない場所に保管する
――――”Safety phrases(有害物質取扱の安全警句)” 第一項及び第二項
.
- 146 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:20:32 ID:gsQDLfHo0
- 口角から零れ落ちたスポーツ飲料が、お弁当の包みにじわりと染み込んだ
上着の袖で慌てて口を拭い、何気ない素振りで彼へと視線を向ける
幸いにも彼はずっと景色を眺めていたようで、今のみっともない姿を見られてはいなかったらしい
( ・∀・) どうかした?
ζ(゚ー゚;ζ い、いえ! なんでもないです!
( ・∀・) ……そう、ならいいけど
( ・∀・) もう少し歩けば休憩用のスペースがあるから、そこでお昼にしようか
ζ(゚ー゚*ζ そうですね
( ・∀・) 向こうも今頃食事中かな
ζ(゚ー゚;ζ 向こう……タカラくん、大丈夫ですかね?
( ;・∀・) うーん、どうだろうね。僕もあんなことになってるだなんて思わなかったから
- 147 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:21:39 ID:gsQDLfHo0
- 私達は今、件の建物の螺旋階段を二人で昇っている
ペニサスさんとフォックスくんは、あの少年をブーンさんの店へと運んでいった
「ブーンと顔見知りみたいだし、彼とならちゃんと会話ができるんじゃないかな」という、モララーさんからの提案だった
( ・∀・) まあ、最悪の事態は避けられたんだ。後はどうとでもなるさ
ζ(゚ー゚;ζ どうにかなればいいんですけどねー
塗装の剥げた木製のドアの前を通り過ぎる
ドアノブから不自然に吊り下げられた風鈴が、忘失都市の乾いた風に揺られて音を立てた
ζ(゚ー゚*ζ また、扉……
昇り始めてからずっと、5分程度の間隔を空けて建物の内部に通じる扉が現れる
真新しいガラスのスライドドア、薄汚れた木製のドア、華美な装飾を施した中華風の二枚扉……
扉の種類は様々だが、どの扉も一様に大きな南京錠がかけられていた
( ・∀・) この建物はそれぞれのフロアが完全に独立してるからね
( ・∀・) 一つのフロアに一つの出入り口、そういうことになっているんだ
( ・∀・) 勝手に入られると色々と困るから戸締りは厳重にさせてもらってるよ
ζ(゚ー゚*ζ 中には何があるんですか?
( ・∀・) いろいろだよ。大切な物とか、危ない物とか、大切で危ない物なんかがある
ζ(゚ー゚;ζ あの、因みにですけど、私達が向かっている場所には何があるんですか?
( ・∀・) ……大切な物さ。この街にとっては、何よりも大切なね
- 148 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:22:39 ID:gsQDLfHo0
- ( ・∀・) おっと、そんなところでお昼の時間みたいだね
ζ(゚ー゚*ζ え?
( ・∀・) ほら、前見て?
およそ10段ほど昇った先、建物の影から平坦な踊り場が顔を出していた
ここが彼の言っていた休憩用スペースなのだろう
ζ(゚ー゚*ζ それじゃあ、ご飯にしましょうか
( ・∀・) それもいいけど、その前に
ζ(゚、゚*ζ その前に、何ですか?
( ・∀・) この踊り場はだいたい半周、建物を挟んで向こう側くらいまで続いている
( ・∀・) 歩きっぱなしで汗もかいただろうし、先に向こうで着替えて来れば?
Σζ(゚ー゚;ζ 着替っ……! ここでですか!?
( ・∀・) あれ? 持ってきてなかった?
ζ(゚ー゚;ζ 一応持って来ましたけど……ここじゃ丸見えじゃないですか!?
- 149 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:23:22 ID:gsQDLfHo0
- ( ・∀・) 僕からは建物の陰になって隠れるし、外からは……まあ、霧があるから大丈夫なんじゃないかな?
ζ(゚ー゚;ζ そんな適当な……
( ・∀・) ……おや?
ひらりと、空から何かが降って来るのが見えた
白く小さなその物体はゆっくりと私の頬に触れ、冷たい感触を置き土産に消え去った
ζ(゚、゚*ζ これって、もしかして……
( ・∀・) 今日あたり降るかもとは聞いていたけれど、本当に来たね
( ・∀・) これからどんどん寒くなるよ。着替えておいたほうがいいと思うけど
ζ(゚、゚;ζ 確かにそうみたいですね。でも……
( ・∀・) それとも、僕が覗かないか心配?
ζ(゚、゚;ζ うう、分かりました。着替えてきます
- 150 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:24:11 ID:gsQDLfHo0
- リュックサックから着替えを取り出し、ビルの向こう側へと小走りで移動する
ζ(゚ー゚;ζ 誰か見てたり……しないよね?
近接する建物を眺めて確認する。霧に紛れてよく見えないが、人の気配はないようだ
ζ(゚ー゚;ζ よし! 今のうちに着替えちゃおう!
ζ(゚ー゚;ζ あ、モララーさんからは……
彼からしっかり隠れることが出来たかと、螺旋階段の内側に目を向ける
彼のいた場所は調度良く建物の陰に隠れており、お互いに視認することは不可能だった
ζ(゚ー゚;ζ よし! よし! 着替えよう!
ζ(゚ー゚*ζ ……
ζ(゚、゚*ζ あれ?
ζ(゚、゚*ζ ここにも、扉がある
- 151 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:25:23 ID:gsQDLfHo0
- 建物の壁に、長方形。この街の空気のような、濁った白
何の装飾もないのっぺりとしたその扉には、この建物の他の扉には掛けられていた南京錠がどこにも見当たらなかった
「戸締りは厳重にしている」という彼の言葉を思い出し、私は小首を傾げた
「気になるなら、入ってみればいい」
背後から、声が聞こえた
彼とは別の、しかし、聞き覚えのある声
川 ゚ -゚) もっとも、その後のことは保証できないが
ζ(゚、゚;ζ クールさん……どうしてここにいるんですか?
川 ゚ -゚) 君の評判を聞きつけてね、気になって様子を見に来たのさ
ζ(゚、゚*ζ 評判?
川 ゚ -゚) うむ、記憶に絡まれやすい人間だと専らの噂だぞ?
ζ(゚ー゚;ζ だっ、誰がしてるんですか、そんな噂!?
川 ゚ -゚) おや、違うのか?
ζ( ー ;ζ ……さあ、わかりません
たぶん、違わない
- 152 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:26:09 ID:gsQDLfHo0
- 川 ゚ -゚) ふむ、わからないか。それならそれでも構わないさ
川 ゚ -゚) ……それで、どうする?
彼女は私の横を通りぬけ、白い扉に手をかけた
ドアノブを捻り、ゆっくりと引く。僅かに開いた隙間から、蛍光灯の白い光が漏れ出した
川 ゚ -゚) 入ってみるか?
ζ(゚、゚;ζ え?
川 ゚ -゚) この扉が気になるんだろう?
ζ(゚ー゚;ζ でも、勝手に入ったら怒られるんじゃないですか?
川 ゚ -゚) 私が良いと言っているんだ、何を心配する必要がある
川 ゚ -゚) 君にだって、好奇心はあるんだろう?
ζ(゚ー゚;ζ それは、まあ……じゃあ、ちょっとだけ
川 ゚ -゚) よし、それじゃあ行こうか
川 ゚ -゚) ……掴まれ スッ
ζ(゚ー゚*ζ あ、はい
差し出された手に掴まって、彼女と共に扉をくぐる
甘い香りが、ふわりと鼻腔を掠めた
- 153 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:28:06 ID:gsQDLfHo0
- 扉の向こうには、何も無かった。いや、これでは語弊がある
壁も、床も、天井も、コンクリートで塗り固められた、何も無い部屋があった
ζ(゚、゚*ζ 何も無いですね
川 ゚ -゚) そうだな
ζ(゚、゚*ζ モララーさんからは色んな物が入ってると聞いたんですけど
川 ゚ -゚) そうだな
ζ(゚、゚*ζ モララーさんが嘘をつくとも考えにくいですし
川 ゚ -゚) そうだな
ζ(゚ー゚*ζ あ、もしかしてここだけ空き部屋だったりするんですか? だから入れてくれたとか
川 ゚ -゚) ……
川 ゚ -゚) それは違うな
ζ(゚ー゚*ζ えっ?
その瞬間、部屋のいたる所から、真っ白な霧が吹き出した
- 154 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:30:03 ID:gsQDLfHo0
- ばたん。背後の入り口で、扉の閉まる音がする
慌てて振り返ろうとして、違和感。いくら力を入れてみても、私の体は凍りついたように動かない
瞬きをすることも、助けを求めて声を出すことも、何もできなくなっていた
ζ(゚ー゚;ζ (これ……どうして……!?)
川 - ) 君に、いい言葉を教えてやろう。イギリスの諺だ
そう言うと彼女は繋いでいた手を離し、私の背後に回り込んだ
いったい何をしようとしているのか。身動きの取れないこの体では、それを知ることはできそうもない
川 ー ) いいか?
ζ( ー illζ ッ!?
突然背後から組み付かれ、思わず息を呑む
肩口から正面へと回された腕が、痛いほどに、私の体を締め上げる
川 - ) 好奇心は、猫を殺す
耳元で、ひどく冷たい声がした
- 155 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:33:25 ID:gsQDLfHo0
- 川 - ) この部屋には、とある記憶が押し込められている
川 - ) 人の心を抉り、砕き、押し潰す。そんな恐ろしく、悲しい記憶だ
瞬く間に充満した霧は、室内の景色をゆっくりと塗り替える
白い壁、壁中に貼り付けられた何らかの張り紙
ξ゚听)ξ
部屋の中央には、真っ赤な服の少女
小学校の低学年くらいだろうか。可愛らしいキャラクターの印刷された鉛筆を片手に、一心不乱に何かを書き続けている
何故だろう。その少女を見るのが、とても辛い
- 156 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:33:56 ID:gsQDLfHo0
- ξ;--)ξ
ふと、少女はペンを置く
額に浮かんだ汗を拭い、丈の余った衣服の袖を、肘までまくり上げた
顕になった少女の腕は、異常とも言えるほどに痩せ細り、所々に青痣が浮かんでいた
川 - ) ネグレクト……育児放棄というものを知っているか? この少女はその被害者だ
川 - ) 一日中この部屋に閉じ込められ、外出が許されるのは一日三回までと定められた排泄時のみ
川 - ) もしもこれを破った場合、父親からの躾と称した暴力が待っている
川 - ) まあ、言いつけを守ったとしても父親の機嫌が悪ければ暴力を受けることになるのだがな
ξ; )ξ グゥゥゥゥゥゥゥ……
間の抜けた音が室内に響き、少女がはっとしてお腹を圧えた
服の色とは真逆の、青い顔。きっと十分な食事も与えられていないのだろう
川 - ) 食事は一日に一袋、父親がコンビニで買ってくる菓子パンだけ
川 - ) それだって、父親の機嫌が悪ければ諦める他ない
- 157 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:35:27 ID:gsQDLfHo0
- 川 - ) 因みに母親だが……この記憶の中に母親は登場しない
川 - ) 死んだか、逃げたか、それとも何らかの理由で少女の前に姿を現せないのか
川 - ) まあ、いずれにせよ現れないのであれば居ないのと同じだ。そう思うだろう?
ξ;゚ー゚)ξ-3
満足気に大きく息を吐いて、少女はゆっくりと立ち上がる
その手には、拙いながらも丁寧な文字がびっしりと書き込まれた自由帳が握られていた
少女は文字の書かれたページを丁寧に破り取ると、セロテープを使って壁の空いたスペースに貼り付けた
川 - ) シンデレラという童話を知っているか? まあ、知っているだろう
川 - ) この子がもっと小さい頃に、父親から唯一買い与えられた絵本がそれだ
川 - ) 父親がどういう心境の変化でそんなことをしたのかはわからない。大方、パチンコで大勝でもしたんだろうがな
川 - ) まあ、そんなことはこの少女にとっては関係のないことだ。少女の喜びようはきっと大変なものだったのだろう
川 - ) 人生で初めてのプレゼント。時間が経つのも忘れて何度も何度も読み返した
川 - ) そうしていつの間にか、少女は自分の不幸な身の上を童話の主人公に投影するようになっていた
川 - ) いつかきっと王子様が私を助けに来てくれる、とね
- 158 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:37:43 ID:gsQDLfHo0
- 川 ー ) 意地悪な姉も、怖い継母もいない。優しい魔女なんて、どこにもいない
川 ー ) ただ同じような年頃で、同じく虐げられる立場にあるという共通点
川 ー ) それだけが、少女の心の拠り所だったのだろう。子供らしい、短絡的な発想だと思わないか?
少女は部屋の中央へ戻り、再び何かを描き始める
かぼちゃパンツに白タイツ。白馬に乗った、王子さま
川 - ) 壁に貼られているものは、まだ見ぬ王子への恋文だ
川 - ) どれ、少し読んでみよう。なになに、「はやくむかえに来てください」だそうだ
川 - ) ……さて、ここで問題だ。王子さまは、助けに来てくれたのだろうか?
ζ( ー ;ζ
川 - ) おっと、忘れていた。声も出せないんだったな
川 - ) しょうがない、正解を教えてやろう。正解はな、勿論ノーだ
川 - ) そして救いのないこの記憶も、間も無く終りを迎えることになる
- 159 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:40:14 ID:gsQDLfHo0
- 彼女がそう言ったのとほぼ同時に、部屋の扉が蹴破られ、一人の男が現れた
男は酷く酔っているのだろう、真っ赤な顔で何事かを叫んでいる
( # д ) ――――――! ――――!!
川 - ) この男は少女の父親だ。虫の居所が悪かったようで、いつものように暴力を振るいにやってきた
::ξill )ξ:: ―――! ――――――!
( # д ) ――――!!
男は怯える少女を蹴り倒し、そのまま何度も踏みつけた
手も、足も、胸も、腹も、顔も
切れた唇から流れ出た血液が男の足を汚し、それを見た男はさらに怒りを強める
川 - ) 一切の抵抗はゆるされず、少女がどれだけ許しを請おうとも、父親は聞く耳を持たない
川 - ) 少女にできることは父親の機嫌が治るまで、ただ震えて耐え続けることだけだ
川 - ) ……しかしながら今回は、余りにも機嫌が悪すぎたらしい
ζ( ー ;ζ !?
- 160 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:42:02 ID:gsQDLfHo0
- 一段と高く振り上げた足を、少女の鳩尾へ叩きつける
場違いなほどに甲高い、繊維質の植物を折り曲げたような音が響いた
川 - ) 骨の折れる音を聞くのは初めてかな?
ζ( ー ;ζ !!
( # д )、 ――――――!
男はいくらか溜飲を下げたらしく、少女に唾を吐きかけて部屋を後にした
少女はぐったりとしていて、ぴくりとも動かない
川 - ) 助けようとしても無駄だ。君の体は決して動かない
川 - ) そして何より、これらは全て何年も前に終わった出来事だ
ζ( ー ζ
暗く、重い、粘性の液体が胸底を犯す
行き場のない悲しみが、自身を呪う無力感が、止め処なく流れ込む
この感覚に、私は覚えがあった。2年前、母を亡くした時の、あの感覚とよく似た――――
川 - ) 胸が張り裂ける思いだろう?
川 - ) しかしその感覚も、この記憶の宿主が感じた悲しみの、ほんの一部分でしかないんだ
目眩のするような不快感の中で、土気色に染まっていく少女の顔を、私達は為す術もなく眺めていた
- 161 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:42:34 ID:gsQDLfHo0
-
資料として扱って良いものなんだろうかね?
――――とある民俗学者の悩み
.
- 162 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:43:55 ID:gsQDLfHo0
- 霧が、晴れる
少女も、壁の張り紙も、跡形もなく消え去って
胸の異物だけが、どろどろと、どろどろと
川 ゚ -゚) もう体は動くはずだ。楽にするといい
ζ( ー ;ζ あ……
彼女は私の拘束を解き、ゆっくりと私の正面に回り込んだ
全身の緊張が一気に抜けだして、私はそのまま地べたに座り込む
川 ゚ -゚) さて、弱っているところ悪いが二つだけ質問させてもらおう
ζ( ー ;ζ しつ、もん……?
川 ゚ -゚) そうだ。まず第一に、私はどうして君にこれを見せたと思う?
川 ゚ -゚) こんな胸糞悪い、吐き気を催すような出来事をだ
ζ( ー ;ζ それ、は……
ζ( ー ;ζ 私のことが、嫌い、だか、ら?
川 ゚ -゚) ……ふん
- 163 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:45:08 ID:gsQDLfHo0
- 彼女は不快そうに鼻を鳴らし、「勘違いするなよ」と言って私を睨んだ
敵意のない、しかし、冷たく、厳しい視線だった
川 ゚ -゚) 私は君に対して、特別な感情は一切持ち合わせていない
川 ゚ -゚) もし私が君を嫌う事があるとすれば、それはきっと、私の二つ目の問いに不誠実な回答をした場合だけだろう
ζ( ー ;ζ それじゃあ、どうして……?
川 ゚ -゚) 君はあの記憶の宿主の感情を、ほんの僅かながら共有した
川 ゚ -゚) 実際にあの宿主が感じた悲しみは、君が感じたそれの比ではない
川 ゚ -゚) そしてその悲しみは宿主にとって、余りにも大きすぎるものだったのだろう
川 ゚ -゚) ……記憶の忘失を、望む程に
ζ( ー ;ζ ……!?
彼女の言葉は、私の脳を再び掻き乱した
記憶の忘失、それは――――
川 ゚ -゚) 君の父親と同じ症状だ。そうだろう?
- 164 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:47:23 ID:gsQDLfHo0
- 川 ゚ -゚) 君の求める記憶について聞いた時、私はまっさきにこの場所を思い浮かべたよ
川 ゚ -゚) そして機会を覗っていた。君とこの場所で、二人きりになれる機会を
ζ( ー ;ζ 二人きり? モララーさんは……
川 ゚ -゚) モララーはこのことを知らない。知らせるつもりもなかった
ζ( ー ;ζ そんな、どうしてですか?
川 ゚ -゚) 決まっているだろう、もしモララーがこのことを知ったら――――
背後で、扉の開く音が聞こえた
動かぬ足腰。上半身を捻って後ろを向くと、話題の中心となっていた彼の姿があった
( #・∀・)
ζ(゚ー゚;ζ モララーさん!?
川 ゚ -゚) まず間違いなく、反対するだろうと思ってな
- 165 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:48:12 ID:gsQDLfHo0
- ( #・∀・) なんでこんなことしたの?
川 ゚ -゚) こんなこと、とは?
( #・∀・) どうしてデレちゃんを、こんなところに連れてきたんだい?
( #・∀・) あの記憶は、人の心に深い傷を残しかねない危険な存在だ
川 ゚ -゚) 知っている
( #・∀・) 個人が背負うには大きすぎる悲しみが、あの記憶には込められている
川 ゚ -゚) それも、知っている
( #・∀・) それなら、どうして!?
川 ゚ -゚) 考えてもみろ
怒気を孕んだ彼の声に臆すること無く、彼女は言葉を返す
凛として澄み切った、美しい声。だからこそ、彼女の言葉は深々と、私の心に突き刺さる
川 ゚ -゚) この子は自分の父親に、これと同じだけの悲しみを背負わせようとしているんだぞ
( ;・∀・) それはっ……
ζ( - ;ζ あ……
- 166 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:49:57 ID:gsQDLfHo0
- 川 ゚ -゚) 記憶と感情は根源的な部分で密接に関わり合っている
川 ゚ -゚) そうだろう、モララー?
( ;・∀・) それは……
彼女の問いかけに、彼は言葉を詰まらせた
救いの言葉を待つ私の視線に気が付いたのか、苦しげに顔を背け、吐き捨てるように呟いた
( ∀ ) 確かに、そうだね
川 ゚ -゚) 記憶を取り戻すということは、それと同時に当時の感情を取り戻すということだ
川 ゚ -゚) 記憶を失うだけの悲しみを、もう一度味わうということだ
ζ( - ;ζ そんな……
川 ゚ -゚) 一つ目の質問の答え。なぜ君をここに連れてきたのか
川 ゚ -゚) 君のしようとしていることがどのような結果をもたらすのか、それを知ってもらうためだ
ζ( - ;ζ
川 ゚ -゚) さて、苦しんでいるところ悪いが二つ目の質問だ
川 ゚ -゚) 二つ目の質問。君はこの話を聞いて、それでも父親の記憶を取り戻したいと思うか?
- 167 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:50:28 ID:gsQDLfHo0
- ( #・∀・) クー! 君は……!!
川 ゚ -゚) 悪いが少し黙っていてくれ。今は彼女と話をしているんだ
( ;・∀・) ぐっ……
彼の上げた抗議の声は、彼女によって遮られた
彼は不満気に押し黙り、二人分の視線が私に注がれる
肌寒いほどの無音の中で、私は――――
ζ( - ζ
ζ( - ;ζ
ζ(゚ー゚;ζ
川 ゚ -゚) む?
- 168 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:51:44 ID:gsQDLfHo0
- ζ(゚ー゚*ζ クールさんは、優しいんですね
( ・∀・) へ?
川 ゚ -゚) いきなり何を言い出すんだ、君は
ζ(゚ー゚*ζ 私がもし何も知らないで、父を傷つけてしまっていたら……
ζ(゚ー゚*ζ 私はきっと、凄く後悔したと思います
( ・∀・) あ……
ζ(゚ー゚*ζ クールさんが私をここに連れてきたのは、私と、私の父を気遣っての事だったんですよね?
川 ゚ -゚)
( ・∀・) そうなのかい?
川 ゚ -゚)
彼の視線が私から彼女へと移る
彼女は何も答えない。無言はつまり、肯定の――――
ζ(゚ー゚*ζ だから私も、真摯に、誠実に、あなたの質問に答えます
- 169 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:52:45 ID:gsQDLfHo0
- ζ(゚- ゚*ζ 私がさっきあの記憶を体験した時、私の中に、沢山の悲しみが流れ込んでくるのを感じました
ζ(゚- ゚*ζ あの記憶の宿主の感情が……少女を失った喪失感が、何もできなかった無力感が
ζ(゚- ゚*ζ 大きな波となって、私を押し潰そうとしているように感じました
川 ゚ -゚) そうだろうさ。あれは、そういうものだ
ζ(゚ー゚*ζ でも、それだけじゃないんです
川 ゚ -゚) ……む?
ζ(゚- ゚*ζ もう一つ、それらとは全く異質の悲しみを、私は感じたんです
( ・∀・) 異質の、悲しみ?
激しく打ち寄せる感情の波。どろどろとした濃密な悲しみの合間にちらりと覗く、異物
空っぽの箱、無人の椅子、崩れ落ちた砂場のお城。どこまでも空虚なその感情に、名前をつけるとしたら
ζ(゚- ゚*ζ きっとそれは宿主ではなく、記憶自身が感じている悲しみ
ζ(゚- ゚*ζ 「寂しい」という声が、聞こえた気がしました
- 170 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:55:07 ID:gsQDLfHo0
- ζ(゚- ゚*ζ 記憶にだって、心はある
ζ(゚- ゚*ζ 宿主からは捨てられて、ようやく辿り着いたこの街でも、忌み嫌われて、恐れられて
ζ(゚- ゚*ζ こんな高い建物に、一人ぼっちで、まるで囚人のように閉じ込められて
ζ(゚- ゚*ζ 寂しくないはずがないじゃないですか
ζ(゚- ゚*ζ きっと記憶に罪なんてなくて、ただ私達が弱いだけで
ζ(゚- ゚*ζ そんな自分勝手で記憶を悲しませてしまうのは、間違ってると思います
( ・∀・) デレちゃん……
ζ(゚- ゚*ζ 私は父の記憶を取り返します
ζ(゚- ゚*ζ きっと今頃、寂しい思いをしているはずですから
川 ゚ -゚) ……ふん
川 ゚ -゚) 確かに君はそれでいいのかもしれない。しかし、君の父親はどうなる?
川 ゚ -゚) どれだけ理屈を捏ねようが、君の父親が「記憶を失うほどの悲しみ」を再び味わうことになるのに変わりはないんだ
川 ゚ -゚) 君の綺麗事に付き合わされて苦しむのは君ではなく、君の父親だ
- 171 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:56:28 ID:gsQDLfHo0
- 彼女の反論は、至極当然のものだった
しかしそれでも私は決めてしまったのだ。記憶のために、記憶を探し出す
ζ(゚ー゚*ζ 確かに母に関する記憶は、きっと父を苦しめることでしょう
ζ(゚ー゚*ζ それはあまりにも大きな、モララーさんの言葉を借りるならば「個人が背負うには大きすぎる悲しみ」です
ζ(゚ー゚*ζ そうですよね、モララーさん?
( ・∀・) ……そうだね
ζ(゚ー゚*ζ でも私、思うんです。一人で背負えない悲しみなら、二人で背負えばいいんじゃないかって
ζ(゚ー゚*ζ 母の死は、父だけのものじゃありません。父一人に苦しい思いはさせません
ζ(゚ー゚*ζ 父と私、二人でもう一度頑張れば、乗り越えられるんじゃないかって
ζ(゚ー゚*ζ だから……
ζ(゚ー゚*ζ 私の思いに、変わりはありません
川 ゚ -゚) ……
- 172 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:57:50 ID:gsQDLfHo0
- 彼女はしばらく私を見つめてから、無言のままこちらへ向かって歩き出した
反射的にびくりと身構えた私の横を通り過ぎ、私の背後数メートル、扉の手前で立ち止まる
(- ゚ 川 君の言っていることは理想論でしかない。なんとも向こう見ずな考えだ
(- ゚ 川 きっと失敗した時のことなど、考えてもいないのだろうな
ζ(゚、゚;ζ ……
(- ゚ 川 ……まぁ
ζ(゚、゚*ζ ?
(- ゚ 川 せっかくの演説も、私の正体に気付くことが出来なければ全くの無意味だ
(- ゚ 川 あと一時間ほど昇れば頂上に着くだろう。せいぜい頑張ることだな
ζ(゚、゚*ζ ……え?
ふん、と最後にもう一度鼻を鳴らし、彼女は部屋を出て行った
私は未だ地面にへたり込んだまま。閉まった扉をぼうっと眺めていると「頑張ったね」という声が頭上から降ってきた
ζ(゚ー゚;ζ あの、どうなったのか良く分からなかったんですけど、上手くいったんですか?
( ・∀・) クーは君の言葉に満足したらしい。表情には出さなかったけれどね
ζ(゚ー゚;ζ そうですか。はは、よかった……
- 173 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/25(木) 23:59:02 ID:gsQDLfHo0
- ( ・∀・) 一段落したところで、ご飯にしようか
( ・∀・) おっと、着替えもまだみたいだね。僕は一足先に向こうで待ってるとしよう
ζ(゚ー゚*ζ それじゃあ、私もすぐに着替えて向かいますね
( ・∀・) 座りっぱなしで足しびれてない? ほら、掴まって?
ζ(゚ー゚*ζ はい、ありがとうございます
今の一件で随分と汗をかいてしまった。はやく着替えて食事にしよう
私はそう思いながら彼の手に掴まって、ゆっくりと立ち上が――――
ζ(゚ー゚*ζ ……あれ?
彼の手に掴まって、ゆっくりと――――
ζ(゚ー゚;ζ
立ち上が――――
ζ( ー ;ζ
( ・∀・) どうしたの?
ζ(゚ー゚;ζ 腰に……力が……
( ;・∀・) ……あちゃー
- 174 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:00:09 ID:dXgSc5sk0
- 結局、立てるようになるまでこの部屋でしばらく休むということで話がついた
私が着替えている間に彼は二人分の荷物を取りに戻る。私の着替えが終わり次第昼食という運びだ
ζ(-、-;ζ 面倒かけちゃってすいません!
( ;・∀・) そういうのは極度の緊張や興奮によって起こる物だからね、あんなことがあったんじゃあしょうがないよ
( ・∀・) ご飯食べて、少し休んで、そうすればすぐに治るさ
ζ(-、-;ζ うう、はい……
( ・∀・) それじゃあ行ってこようかな
( ・∀・) すぐに戻r……いや、10分くらいで戻るからゆっくり着替えていいよ
部屋を出た彼の足音が遠ざかるのを確認し、私は着替えを始めた
依然として力の入らない下半身や汗で張り付いた衣服
彼が戻って来るまでには充分すぎるほどの余裕があるが、それでもやはり焦りは生まれてしまうものだ
蹲ったり、転がったり、躍起になって衣服と格闘している私。その視界の端で――――
ζ(゚、-*ζ ……?
ひらひらと、真っ赤なワンピースがゆらめいていた
- 175 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:00:55 ID:dXgSc5sk0
- ξ;゚听)ξ
そこに立っていたのは、先程の少女
一瞬心臓がどきりと跳ねて、そうしてすぐに何が起こっているのかを理解した
ζ(゚ー゚*ζ あなた、さっきの記憶?
ξ;゚听)ξそ
私の声に少女はとても驚いた様子で後ずさり、申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた
きっと私の今の状態に対して負い目を感じているのだろう
謝るべきことなど、何も無いというのに
ζ(゚ー゚*ζ ちょっとまっててね
ξ;゚听)ξ ……?
半端になっている着替えを終わらせて、笑顔で少女へ手招きする
少女はしばらく悩んだ様子を見せてから、おずおずとこちらへ近寄ってきた
ζ(゚ー゚*ζ お話、しよっか?
ξ゚听)ξ ……?
ξ゚听)ξ
ξ*゚听)ξ !!!!?
- 176 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:01:38 ID:dXgSc5sk0
-
忘失都市は、恋をした
――――ある女に関する証言
.
- 177 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:05:56 ID:dXgSc5sk0
- 丁度戻ってきた彼も加わって、三人での食事会
件の少女はニコニコと――ニヤニヤと、の方が適切かもしれない――笑顔を浮かべ、私の隣に座っている
( ・∀・) 記憶は食事を摂らないけれど、気持ちくらいなら味わえるだろう
( ・∀・) ……ほら、飲んでみて?
そう言って彼は紙コップにお茶を注ぎ、少女へ差し出した
ほんのりと立ち昇るレモンと蜂蜜の香り。少しづつ寒さを増すこの部屋では、それだけでもご馳走だ
ξ*゚听)ξ ……
少女は二、三度コップを揺らしてから、期待の籠った瞳でお茶をあおった
びちゃびちゃという音と共に少女の足元に水溜りが広がって、飛沫が私のズボンを濡らす
慌てて水滴を手で払い、再び少女へ視線を戻すと、少女は何やらうっとりした表情で虚空を見つめていた
ξ*゛∀゛)ξ
( ・∀・) 気に入ってもらえたようだね。デレちゃん、タオル貸そうか?
ζ(゚ー゚;ζ ありがとうございます
彼から借りたタオルでズボンを拭きながら、私は子供の頃に見た、とある映画のことを思い出していた
古びた屋敷に住むゴースト達と、人間の父娘の物語
ゴースト達が食べた食料は、そのまま彼らの体をすり抜けて地面に落ちる
その背後ではいじめられっこのゴーストが一人、箒と塵取りで床の食料を回収している
彼の名前は確か……そう、キャスp( ・∀・) ありがとうね、デレちゃん しい少年の幽霊
私はその映画が大好きで、VHSに録画したロードショーの映像を両親と一緒に何度も何度も――――
ζ(゚、゚;ζ ……えっ、今何か言いました?
- 178 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:07:43 ID:dXgSc5sk0
- ( ・∀・) ありがとうって言ったんだよ。ツンを受け入れてくれて、ありがとう
ζ(゚、゚*ζ ツン?
( ・∀・) この子の名前だよ
ξ*゚听)ξノシ
( ・∀・) あんな物を見せられて、それでも君はツンを受け入れてくれたんだ
( ・∀・) そんな事ができる人間なんて、滅多にいるもんじゃないよ
ζ(゚- ゚*ζ それは……確かにあれを見るのは辛かったですけれど、だって……
だって、気付いてしまったのだから、そうするしかないではないか
彼女の悲しみを、知ってしまったのだから
( ・∀・) そもそも記憶が人間に干渉するのは、彼らの根源的な欲求によるものだ
ζ(゚、゚*ζ 欲求って……食欲とか、そういうのですか?
( ・∀・) そうだね。睡眠欲と性欲を加えて人間の三大欲求なんて呼ばれることもある
- 179 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:09:06 ID:dXgSc5sk0
- ( ・∀・) 記憶は人間と違って食事も睡眠も性行為も必要としないから、それらの欲求は人間ほど強くない
( ・∀・)σ まあ、全くのゼロってわけじゃないけどね
そう言って彼は少女を指差した
少女は丁度二杯目のレモンティーを飲み干したところ
彼は少しだけ口角を上げ、私と少女の間の床にタオルを敷きながら話を続ける
( ・∀・) その代わりに表現欲求とでも言うのかな、自身について他者に知られたいという欲求が大きいんだ
ζ(゚ー゚*ζ 表現欲求……じゃあ、私がいろんな記憶を体験したのは、その欲求が原因なんですか?
( ・∀・) そういうこと。そしてその欲求は人間の三大欲求に負けぬほど強力なものだ
( ・∀・) 人間を見つけたら干渉したくなる。自身の記憶を体験させたくなる
( ・∀・) たとえその行為が人間を傷つけるものだとわかっていても、欲求には逆らえない
( ・∀・) 結果としてツンのように……そう、刺激の強い記憶は多くの人間の心を傷つけることになる
ξ;--)ξ
( ・∀・) 誰もこの子を咎めることは出来ない
( ・∀・) 僕達だって食欲を満たすために、より良き睡眠を得るために、他の命を犠牲にしているだろう?
( ・∀・) この子が人を傷つけてしまうのは、仕方のない事なんだ
ζ(゚- ゚*ζ ……そう、ですね
- 180 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:12:32 ID:dXgSc5sk0
- ( ・∀・) この子がこの部屋に幽閉されているのは、本人の希望でもある
( ・∀・) 誰も傷つけずに済むように、誰にも嫌われずに済むように、自分という存在に鍵をかけたんだ
( ・∀・) それはきっとツンにとっても、苦渋の決断だっただろう
ζ(゚- ゚*ζ それじゃあ、私がこの部屋に入ってきたのは……
( ・∀・) 飢え苦しむイスラム教徒に、美味しそうな子豚を差し出したって感じかな?
ζ(゚、゚;ζ こぶっ……まあ、そうですかね
例えが少々引っかかるけれど、言いたいことは伝わった
自分の欲求を必死で抑えている少女。その努力を踏みにじるような行為を私はしてしまったのだ
( ・∀・) 君は何も知らなかったんだ。悪いのはクーさ
( ・∀・) クーの行為は君とツン、両方の心に傷をつける可能性があった
( ・∀・) どんな理由があったとしても、褒められた行為じゃないんだ
- 181 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:13:26 ID:dXgSc5sk0
- ( ・∀・) しかしまあ、僕の心配は杞憂に終わったようだ
( ・∀・) ツンは自身の欲求を満たし、君は記憶に対する理解を深めた
( ・∀・) もしかしたらクーは、こうなることを期待していたのかもしれないね、なんて
( ・∀・) ……おっと、君の分のお茶を忘れていたね。ほら、どうぞ
ζ(゚、゚*ζ あ、ありがとうございます
真っ白な湯気を上げる紙コップが、冷えきった指先を温める
琥珀色の香気を胸いっぱいに吸い込んで、一口。じんわりとした甘味と微かな酸味が口内に広がる
人心地がついたとは、こういう感覚のことを言うのかもしれない
( ・∀・) もう一度言うよ、ありがとう
( ・∀・) ツンの気持ちに気付いて、そして受け入れてくれた。自分があんな目にあったというのにね
ζ(゚、゚;ζ いえ……そんな改まって……
( ・∀・) 僕だけじゃない。ツンも、多分クールも君には感謝しているだろうさ
( ・∀・) ……だよね?
ヾξ*゚听)ξノシ
ζ(゚、゚;ζ そんなに言われちゃうと……なんというかこう、恥ずかしいです
( ・∀・) そうかい、これは失礼
( ・∀・) それじゃあお礼を言うのはこれでお終い。食事を楽しもうか
- 182 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:14:41 ID:dXgSc5sk0
- 彼に促され弁当箱の蓋を開ける。おにぎり、出汁巻き、タコさんソーセージ、その他お弁当の定番メニュー
ペニサスさんの手作りと思われるそれら以上に目を引いたのは、それらの入っている容器
華やかな蒔絵で装飾された立派な重箱に、私は息を飲んだ
ζ(゚、゚;ζ あの……これって、凄く高いやつですよね? ペニサスさんの私物なんですか?
( ・∀・) まあ、彼女お金持ちだし持ってても不思議じゃないよね
ζ(゚ー゚;ζ ああ、そういえばそうでしたね
( ・∀・) 僕としてはそれよりも、彼女が料理をしたってことのほうが驚きだけどね
( ・∀・) ほら、なんとなくだけど料理とかしなさそうじゃない?
ζ(゚ー゚;ζ ……ノーコメントで
( ・∀・) 否定はしないんだね
ζ(゚ー゚;ζ ……
ξ゚听)ξ ?
- 183 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:15:47 ID:dXgSc5sk0
- ( ・∀・) そういえば、君達と合流する前にブーンのお店で良い物をもらってきたんだ
ζ(゚ー゚*ζ 良い物?
彼はお茶の入っている水筒を脇において、鞄からもう一つ、ステンレス製の水筒を取り出した
新しい紙コップに中身を注ぐ。先程まで漂っていた甘酸っぱい香りを、胡麻油の香ばしい匂いが打ち消した
( ・∀・) ラーメンのスープ。こっちの方が食事には合うだろう
ζ(゚o ゚*ζ おー……
ξ*゚听)ξノシ
( ・∀・) 慌てなくてもちゃんとあげるから、大丈夫だよ
( ・∀・) ほら、ツンの分
ヾξ*゚∀゚)ξシ
( ・∀・) それでこっちが、デレちゃんの分
ζ(゚ー゚*ζ ありがとうございます
- 184 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:18:27 ID:dXgSc5sk0
- 彼が自分の分を注ぎ終わるのを待っていると、「先に食べてていいよ」との声
遠慮するのも難なので、お言葉に甘えることにした
ζ(゚ー゚*ζ それじゃあお先に、いただきます
ぬるくなったおにぎりを頬張って、熱々のスープで流し込む
行儀が悪いのはわかっているけれど、おいしいのだからしょうがない
ζ(゚ー゚*ζ 私、ブーンさんのラーメン好きです。なんだか懐かしくて、ほっとします
( ・∀・) そうだね、僕も大好きだよ
ξ*´凵M)ξ-3
( ・∀・) ツンも気に入ってくれたみたいだね
ζ(゚ー゚;ζ まあ、食べ続けると死んじゃうってのは、少し怖いですけれど
( ;・∀・) ああ……詳しい説明はアレだけど、こうして食べる分には全くの無害だから安心していいよ
ζ(゚ー゚;ζ ほんとにどういうシステムなんですか、それ
( ・∀・) はは、企業秘密ってやつさ
( ・∀・) ……うん? pipipipi........
ζ(゚ー゚*ζ 電話ですか?
( ・∀・) そうだね、ペニサスからだ
- 185 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:19:01 ID:dXgSc5sk0
- ( ・∀・) 『もしもし、どうしたの?』
( ・∀・) 『……うん、うん』
( ・∀・) 『へえ、それはよかった』
ζ(゚ー゚*ζ どうしたんですか?
( ・∀・) タカラくんが目を覚ましたらしい
( ・∀・) ブーンの説得に応じて弁当も食べたらしいから、ひとまず安心ってところかな
ζ(゚ー゚;ζ そうですか、よかった……
彼の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす
あの少年のことはずっと気掛かりだったので、心配事がひとつ減って胸の閊えがとれた気分だ
( ・∀・) 『今? 食事中。うん、例の踊り場の辺りにいるよ』
( ・∀・) 『地上に戻るまでは……まあ、四時間半くらいじゃないかな』
( ・∀・) 『うん、オーケーわかった。それじゃあ後でね』
( ・∀・) 『……』 pi
( ・∀・) 地上に戻ったら昨日クーが居た教会で待ち合わせ、だとさ
( ・∀・) いい知らせを持って帰りたいところだね
ζ(゚ー゚;ζ そうですね
- 186 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/26(金) 00:19:55 ID:dXgSc5sk0
- ( ・∀・) よーし、そうと決まればしっかり食べて、エネルギー補給しないとね
ζ(゚ー゚*ζ ええ、そうしましょう
そう言って私達は電話によって中断されていた食事を再開した
弁当の中身はまだまだいっぱい入っていて、とても二人で食べきれる量ではない
もしかしたら、あの少年の件がなければ彼女も一緒に付いて来てくれるつもりだったのでは、と、私は思った
( ;・∀・) いや、それは無いだろうね。普段料理しないもんだから適量が分からなかったんじゃないかな
ζ(゚ー゚;ζ ……ですよね
少しだけ思って、すぐに取り消した
ζ(゚ー゚;ζ どうしましょう、残すのも悪いですし
( ;・∀・) 頑張ろうか、デレちゃん
ζ(゚ー゚;ζ ひえー……
ξ゚听)ξノシ
( ;・∀・) ん? ああ、はいはい、おかわりね
ξ*´凵M)ξ
( ;・∀・) まったく、気楽なもんだよ。喜んでくれてるならいいんだけどね
それからしばらく、少女はスープを飲み続け、私と彼は多すぎる昼食と格闘した
私と彼の話し声、スープのおかわりを注ぐ音、風が扉を叩く音
弁当箱が空っぽになるまで、それらの音は、何度も何度も繰り返された
<<<その2 ◆ その4>>>
◆ トップ >
2012秋ラノベ祭り >
投下作品一覧 >
川 ゚ -゚) 忘失都市のようです >
その3
◆ 元スレ