■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└川 ゚ -゚) 忘失都市のようです
└その4
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191 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:25:33 ID:rs9SOIZg0
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ぽっこりと膨らんだお腹をさすりながら、また一段
砂埃で汚れた靴底が踏み板を叩き、乾いた音が周囲に響く
雪はなお止む気配を見せず、小さな雪片がひらひらと、風に揺られて降りてくる
( ・∀・) 灰雪というらしいね
隣を歩く彼がぽつりと呟いた
ζ(゚、゚*ζ はいゆき?
( ・∀・) 雪の名称だよ。ほら、ちょうど舞い上がった灰の欠片のような動きをしているだろう?
( ・∀・) だから、灰雪
ζ(゚ー゚*ζ へぇ……
( ・∀・) 僕のリュックに合羽が入ってるから出してくれないかな
( ・∀・) 積もるようなことはないと思うけど、服が濡れるのは嫌だからね
ζ(゚、゚*ζ は、はい。ええと……あ、これですね
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192 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:28:15 ID:rs9SOIZg0
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雪の予報を聞いて急いで調達したのだろう、ビニル製の透明な合羽がふたつ
ひとつを彼に手渡して、もう一つを私が羽織る
( ・∀・) ところで、腰の調子はどう? 違和感とか無い?
ζ(゚、゚*ζ あ、はい。今のところは大丈夫です
( ・∀・) そう、ならいいけど。何かあったら無理せず言ってね?
( ・∀・) 時間は充分にあるから、休憩しながらゆっくり行こう
ζ(゚ー゚*ζ はい、ありがとうございます
こつり、また一段
クールさんの話によれば、あと一時間ほどで頂上に着くらしい
最早何枚目かわからない扉の前を通り過ぎ、階段の先に目を向ける
建物の陰、雪に紛れて、真っ赤なワンピースが揺れていた
ξ*゚ー゚)ξ
( ・∀・) ……おや? 戻ってきたみたいだね
ζ(゚ー゚*ζ ですね
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193 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:31:07 ID:rs9SOIZg0
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少女を部屋から出そうと提案したのは彼の方
溜め込まれた表現欲求を満たした今、あの部屋に閉じ込めておく必要はないだろう、ということだ
( ・∀・) 君がこの街にいる間は、他者に危害を加える心配は無いだろう
( ・∀・) 自身の理解者がいるというのは記憶にとってこれ以上無い幸福だからね
( ・∀・) 随分と君に懐いているようだし、君さえ良ければ……どうかな?
私としても断る理由など無く、かくして少女は私達の探索に同行することとなった
外に出られると知った時の少女の喜びようは今更言うまでもないだろう
飛んだり、跳ねたり、回ったり、ひとしきり感情を表現した少女は、そのまま私達を置いてどこかへ飛んでいってしまった
――――そう、文字通り「飛んでいってしまった」のだ
自身の体を霧に変え、街の大気に溶け込んで、私たちの前から姿を消した
驚く私の肩をたたいて彼が言うことには
( ・∀・) 久々の外の世界なんだ、好きにさせてあげよう
( ・∀・) 大丈夫、適当に街の中を飛び回って、気が済んだら戻ってくるさ
そうして彼の言葉通り、少女は今再び私達の前に姿を現した
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194 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:34:14 ID:rs9SOIZg0
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階段を跳ねるように駆け下りて、少女は私の腕に飛び付いた
もしも少女が人間であったならば、私と少女は二人仲良く階段を転げ落ちる事になっていただろう
ζ(゚、゚;ζ びっくりした……
ξ*゚ー゚)ξ
( ・∀・) どうだい、外の世界は?
ξ*゚听)ξシ
( ・∀・) うん、楽しそうで何よりだね
( ・∀・) 僕らはこれからこの建物の頂上まで行くんだけど、付いてくる?
少女は少し考えて、それから大きく頷いた
私の腕に絡めていた手をほどいて、私達を先導するように歩き出す
何段か昇ったところで振り返って、両腕で手招き。はやく行こう、という事なのだろう
ζ(゚ー゚;ζ ……行きましょうか
( ;-∀・) そうだね
少女に手を引かれ、およそ一時間
そうして私達はとうとう目的地、忘失都市で最も高い建物の屋上に辿り着いた
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195 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:36:05 ID:rs9SOIZg0
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きっと彼女はどこにでもいる
――――ある女に関する証言
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196 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:37:48 ID:rs9SOIZg0
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ζ(゚、゚*ζ ……
錆付いた手摺から身を乗り出して、霧に埋もれた街を見下ろす
白く濁った淀みの中で、近隣の建物の屋上だけが辛うじて確認できる
随分と遠いところまで昇って来たものだ。わかっていた事ではあるけれど、改めて思う
忘失都市の上空は、虚ろな風が吹いていた
ζ(゚- ゚*ζ 寂しい場所ですね
まるで何十年も人の出入りがなかったかのような荒れ果てた屋上
空の植木鉢、折れた物干し竿、何かの機器……様々な器具がそこかしこに散らばって、どれも一様に埃を被っている
無造作に増設された配管は風雨に晒され朽ち果てて、漏れ出した水は腐水を湛えた排水溝へと流れ込む
「寂しい場所」
それは私の、この空間に対する率直な感想だった
彼は苦笑して言葉を返す
( ・∀・) この街自体が寂しい街なのさ
( ・∀・) この街が生まれたその瞬間から、気の遠くなるような大昔から、この街はずっと、寂しい街だった
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197 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:40:28 ID:rs9SOIZg0
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( ・∀・) さあ、そろそろ本題に入ろうか。下でみんなが待っている
( ・∀・) ペニサスも、フォックスも、ブーンも、それにきっと、クーもね
ζ(゚ー゚;ζ ……はい
( ・∀・) こっちだよ。おいで
ξ*゚听)ξノシ
彼に言われてついて行くと、貯水タンクや空調の室外機
それらの陰に隠れて、物置きのような小さな小屋が置かれていた
簡素なアルミの扉にはやはり、大きな南京錠がかかっている
( ・∀・) 今開けるよ
彼はポケットから鍵を取り出して、錠前に差し込む
その瞬間、鍵と錠は音も無く崩れ落ち、霧となって小屋の壁に溶け込んだ
ζ(゚、゚*ζ これって……
( ・∀・) 記憶を縛ることができるのは記憶だけ。そういうことさ
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198 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:42:45 ID:rs9SOIZg0
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( ・∀・) 僕が手助けできるのはここまでだ。後は君の努力次第だね
( ・∀・) ツンと一緒にここで待ってるから、出たくなったら呼ぶといい
( ・∀・) ……さあ、行っておいで
ζ(゚- ゚;ζ はい
震える指で扉に触れる。刺すような冷たさに少し怯んで、それから一気に押し開く
小屋の中はとても静かで、そしてやはり、真っ白な霧で満たされていた
この霧の先にはクールさんの問題を解く手掛かりがある
ζ(゚- ゚;ζ 行ってきます
( ・∀・) うん、がんばってね
ξ#><)ξノシ
「大切な物さ。この街にとっては、何よりも大切なね」
私は彼の言葉を頭の中で反芻し、意を決して霧の中へと飛び込んだ
――――視界が、白に侵される
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199 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:44:07 ID:rs9SOIZg0
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200 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:46:48 ID:rs9SOIZg0
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ひとり、街を歩く
霧に包まれた、寂しい街を
静かで虚ろな、悲しい街を
建物の隙間を擦り抜け、無人駅の改札をくぐり、ガラクタの山を乗り越えて
何かを探しているように忙しなく首を振りながら、ひたすらに街を歩く
そんなに目玉をきょろきょろさせて、一体何を探しているのだろうか
そんな私の疑問は、間もなくして解消されることとなった
ごうん、ごうん
突然鳴り響いた鐘の音に、弾かれたように走り出す
無人の公園、明滅する自販機、打ち棄てられた路面電車
視界の端に現れては消えてゆくその他様々な物事に目もくれず
なお鳴り続ける鐘の音は、少しづつ、少しづつその大きさを増し……
(*∴)(*><)(*∵) (;;;;;;;;;;;;;;) (*‘ω‘ *)(<●><●>*)
そうしてとうとう辿り着いた柱時計の広場では、沢山の子供達に囲まれて、真っ黒な影が佇んでいた
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201 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:48:24 ID:rs9SOIZg0
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影――――いや、穴と呼ぶべきなのかもしれない
まるで空間が丁寧に切り抜かれたかのような、混じりっ気のない黒
人の形をしたそれは、この世界にぽっかりと空いた大きな穴のようにも思えた
(;;;;;;;;;;;;;;)
「さあ、今日も教えてくれないか」
影が発したその声は、音も、余韻も、言葉の意味すらもひどく希薄で
言葉が途切れた次の瞬間には何もかも忘れてしまいそうな程に空っぽで
しかしそれがどういうわけか、どうしようもなく愛おしかった
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202 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:50:32 ID:rs9SOIZg0
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乾いた風が、ベンチに積もった砂埃を巻き上げる
一瞬世界が歪んだような気がして、それから全ての風景が霧に変わった
インクが水に滲むように、街も、地面も、空気も、そして私も
(;;;;;;;;;;;;;;)
しかし影は影のままで、穴は依然、穴のままで
やはりその真っ黒な空間には、ただ純然とした無があるだけなのだ
かつて切り抜かれてしまった「何か」を埋めることができる物は、少なくともこの世界には存在しないのだろう
そうして霧は再び形を取り戻し、新たな景色を作り出す
蛍光灯の灯り、立ち昇る湯気
日に焼けたカウンターの向こう側で、影は頬杖をついてこちらを見ていた
(;;;;;;;;;;;;;;)
「この街は、きっと全てを受け入れてきたのだろう」
影が、笑ったような気がした
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203 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:52:04 ID:rs9SOIZg0
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「噂には聞いていたけれど、まさか実在したとはね」
「こんなことなら、もっと早く来ていればよかったよ」
影の言葉に、なんだか誇らしい気持ちになって頷く
この記憶の宿主にとって、影はいったい、どのような存在だったのだろうか
「私のことは知っているね?」
――――頷く
「私の目的だけでなく、私がどのような人間なのかも知っているね?」
――――頷く
「それじゃあ君はこの私に、どんなものを出してくれるんだ?」
視線を真下に移すと、手元には空っぽの器
全身が熱くなり、額から汗が吹き出した
「……すまない、少しだけ意地悪がしたくなったんだ」
流れる汗が目に染みる
しかしその痛みも、次の瞬間には霧に消えた
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204 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:54:23 ID:rs9SOIZg0
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( ФωФ) 継ぎ接ぎだらけの街である
猫目の青年が呟いた
レンガ造りのベランダからは、街の全てが見渡せた
「ここは失われた記憶が集まる街。追憶都市……と、私は呼んでいる」
「この風景のどこかにきっと、君の望む物もあるだろう」
影の言葉に、青年は身を震わせる
「どうした、怖気づいたか?」
( ФωФ) なんの、武者震いである
( ФωФ) ……ところで、お主の隣にいる大男は、何者であるか?
青年はこちらを見上げてそう言った
影はくすりと笑ってから、一呼吸置いてそれに応える
「協力者さ。どうやら君のことが気に入ったみたいでね」
「見ず知らずの土地を一人で歩き回るより、いくらかは安全だろう」
( ФωФ) ふむ……それでは、お言葉に甘えようか……
握手を求めて差し出された青年の手は、瞬き一つで真っ赤なクレヨンへと姿を変えた
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205 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:56:08 ID:rs9SOIZg0
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画用紙の絨毯
蹲る影
胸を裂く自己嫌悪に耐え切れず、螺旋階段を駆け上った
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206 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 22:58:39 ID:rs9SOIZg0
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世界は何度も姿を変える
春へ、秋へ
昼に、夜に
給水塔の根本、アパートの一室
崩れたトンネル、朽ちたブランコ
それらの景色は間違いなく、かつてこの世界で起こったはずの出来事で
そしてその全ての景色の中に、あの黒い影は佇んでいて――――
(;;;;;;;;;;;;;;)
「さようなら」
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207 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:00:33 ID:rs9SOIZg0
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ζ( ー *ζ
ああ、そうか
ここにあるのは――――
ζ(;ー;*ζ
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208 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:03:15 ID:rs9SOIZg0
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きっとどこか、似ていたんだと思う
――――ある少女に関する証言
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209 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:07:09 ID:rs9SOIZg0
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窓の外、絶えず降り注ぐ光の粒は、鳴り止まぬ雨を連想させた
ζ(゚- ゚*ζ ……
素直クール。忘失都市の経営者
教会の片隅に腰を下ろし、祭壇に立つ彼女を見る
川 - )
全ての光球は着地の寸前で軌道を変えて、彼女のもとへと結集する
教会の壁も、私の体も、遮る物など無いかのように、すり抜けて
青白い光に包まれた彼女を、私は美しいと思った
('ー`*川 頑張ったわね
私の頭に手を置いて、ペニサスさんは微笑んだ
その手がとても暖かくて、私は横に立つ彼女の足に体を預けた
何も言わずに受け入れてくれたことが、とても嬉しかった
( ・∀・) ペニサス、他の皆は?
('、`*川 タカラは内藤のところでラーメン食べてるわ
('、`*川 フォックスとツンちゃんは……まあ、あの中にでも居るんじゃない?
祭壇に群がる無数の光球を指差して、ペニサスさんはそう言った
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210 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:09:27 ID:rs9SOIZg0
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ζ(゚- ゚*ζ あの光の一つ一つが、この街に住む記憶なんですね
( ・∀・) そう。そしてクーはこの街のすべての記憶に号令を掛けることができる、唯一の存在だ
( ・∀・) 忘失都市のすべての記憶から君のお母さんに関する記憶を探し出す
( ・∀・) そんな芸当ができるのも、彼女をおいて他には居ないだろうね
ちらり、ステンドグラスから外を覗くと、そこには色とりどりに着色された闇が広がっていた
降り注ぐ光球の淡い光では周囲の建物の様子すら知ることは出来ない
ζ(゚- ゚*ζ なんにも見えませんね
( ・∀・) ……こんな時間だからね
深夜と言っても差し支えない時刻
私達がこの教会に戻ってから、既に6時間近くが経過していた
('、`*川 私の時もこれくらいかかったわね
('、`*川 最終バスなんてとっくに出ちゃってて、泣きながら歩いて帰ったのよ
( ・∀・) 次の日すごい剣幕で怒鳴られてね、それから車を用意することになったんだ
ζ(゚- ゚;ζ な、なるほど……
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211 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:12:57 ID:rs9SOIZg0
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('、`*川 ま、もう少しかかるみたいだし、適当にお話でもして時間つぶしましょ?
('、`*川 話題は……そうね、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?
ζ(゚ー゚*ζ え?
('、`*川 ねえ、あんたはどうやって王女さまの正体に辿り着いたの?
祭壇の上の彼女がぴくりと反応して、こちらを見る
6つの瞳に見つめられて私は多少の気後れを感じた
川 ゚ -゚) 私も、聞かせてほしい
ζ(゚、゚;ζ え……と……
ζ(-、-;ζ わかりました、それじゃあ一から話します
ζ(゚- ゚*ζ きっかけは、ペニサスさんの言葉です
('、`*川 私の?
ζ(゚- ゚*ζ はい。大切なヒントを「当たり前」で片付けていないか、先入観を捨ててもう一度考えてみる
ζ(゚- ゚*ζ 確かにそう言いましたよね?
('、`*川 ええ、言ったわね
ζ(゚- ゚*ζ ……そうすると一つ、とてもおかしな事が起こっているのに気が付いたんです
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212 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:14:16 ID:rs9SOIZg0
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( ・∀・) おかしな事?
ζ(゚- ゚*ζ フォックス君やツンちゃんに関する事です
ζ(゚- ゚*ζ そしてそれは、あの子達が人間の姿をしていたがために、今まで気にも留めていなかった出来事でもあります
昨日出会ったばかりの私を助けてくれたフォックス君
傷つけることを恐れ、自身という存在に鍵を掛けたツンちゃん
無垢で、純粋で、何より優しい、そんな彼ら
そして彼らの行為は彼らの優しさの証明であると同時に――――
ζ(゚- ゚*ζ 「記憶」にも「記憶」がある、ということの証明でもあったんです
ζ(゚- ゚*ζ 私との出会いや過去の悲しい経験
ζ(゚- ゚*ζ 彼らの行為はそれらについての「記憶」がなければ説明がつかないものだからです
( ・∀・) ふむ、なるほどね。……それで?
ζ(゚- ゚*ζ ……ここでひとつ、疑問が生まれます
ζ(゚- ゚*ζ 「記憶」に「記憶」があるのなら、彼らが忘れてしまったものは、一体どこに行ってしまうのでしょうか?
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213 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:15:21 ID:rs9SOIZg0
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川 ゚ -゚) ……
淡い光に包まれながら、真っ直ぐに私を見つめる彼女
その無表情の裏に隠された思いを、今の私に知る術はない
ζ(゚- ゚*ζ さて、ここで一旦、話題を変えましょう
ζ(゚- ゚*ζ 次に注目するものは、この街で最も高い建物の屋上にあった、小屋の中身についてです
ζ(゚- ゚*ζ もちろん皆さん、あの小屋の中がどうなっているのかは知っていますね?
首肯、首肯、無言
三人分の同意を得られたところで、話を続ける
ζ(゚- ゚*ζ 私はあの小屋の中で、沢山の記憶の世界を体験しました
ζ(゚- ゚*ζ 時間も、視点も、ひとつとして同じものはない。個性的な、記憶達です
ζ(゚- ゚*ζ ですがそれらの記憶には、いくつかの共通点がありました
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214 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:16:03 ID:rs9SOIZg0
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ζ(゚- ゚*ζ まず一つ。最初の共通点は、記憶の世界の舞台となった土地です
川 ゚ -゚) ……
私が体験した記憶の世界の風景は、どれも静かで、退廃的で
足元を流れる寂寥の水が、静かに、冷たく、靴を濡らす
そんな空虚な空間を、私はよく知っていた
ζ(゚- ゚*ζ あそこにあるのは全て、この街で起こった出来事に関する記憶なんです
川 ゚ -゚) ……ふむ
彼女は小さく頷いて、「なるほどな」と呟いた
川 ゚ -゚) 確かに君の言う通り、彼らは皆この街で生まれた記憶達だ
川 ゚ -゚) 忘れられた者が集うこの街で生まれ、そして忘れられてしまった存在だ
川 ゚ -゚) 悲しみに溢れたこの街で最も悲しい存在。そう言っても過言ではないだろう
ζ(゚- ゚*ζ ええ、私もそう思います
ζ(゚- ゚*ζ ……そしてここで新たに一つ、疑問が生まれます
('、`*川 疑問?
ζ(゚- ゚*ζ どうしてそんな悲しい存在が、この街で生まれなければならなかったのか
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215 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:16:56 ID:rs9SOIZg0
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ζ(゚- ゚*ζ ……この疑問の解決も、一旦置いておきましょう
ζ(゚- ゚*ζ 二つ目の共通点は、黒い人間の存在です
('、`*川 黒い人間、ね。確かにあいつ、どの記憶の中にも登場していたわね
ζ(゚- ゚*ζ 黒い人間、正確に言うならば人型の黒い何か
ζ(゚- ゚*ζ ちなみに私には、あれは人影のようにも、真っ暗な穴のようにも見えました
川 ゚ -゚) ……ほう
ζ(゚- ゚*ζ すべての記憶に現れる黒い影、これが二つ目の共通点
ζ(゚- ゚*ζ そして最後の共通点も、その影に関することでした
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216 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:17:50 ID:rs9SOIZg0
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ζ(゚- ゚*ζ 記憶の世界を体験するということは、記憶の宿主の感情を体験することでもあります
ζ(゚- ゚*ζ 楽しい記憶には喜びの感情、別れの記憶には悲しみの感情
ζ(゚- ゚*ζ その思いが強ければ強いほど、感情は大きな波となって私の心へ流れ込みます
ζ(゚- ゚*ζ 三つ目の共通点。それは、記憶の宿主から影へと向けられた特別な感情
ζ(゚- ゚*ζ つまり――――
ζ(゚- ゚*ζ ――――深い、愛情です
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217 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:18:41 ID:rs9SOIZg0
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私が体験した記憶の世界で、全ての宿主は黒い影を深く愛していた
或いは友のように、或いは恋人のように、家族のように、恩人のように、そして、神のように
形こそ違えど一様に向けられたその愛情は、影が彼らにとって掛け替えの無い存在であったことの証なのだろう
ζ(゚- ゚*ζ そしてここで、最後の疑問です
ζ(゚- ゚*ζ どうして彼らは……記憶の宿主達は、そんな大切な存在を忘れてしまったのでしょうか?
ζ(゚- ゚*ζ いいえ、「忘れなければならなかった」のでしょうか?
川 ゚ -゚) ……
彼女は何も答えない
もはや回答が不要であることを、理解しているのだろう
ζ(゚- ゚*ζ 全ての疑問が出揃いました
ζ(゚- ゚*ζ 一つ、「記憶」に忘れ去られた「記憶」はどうなってしまうのか
ζ(゚- ゚*ζ 二つ、屋上の小屋の記憶達は何故生まれてしまったのか
ζ(゚- ゚*ζ 三つ、小屋の記憶の宿主達は、どうして大切な存在である影のことを忘れてしまったのか
ζ(゚- ゚*ζ ……これらの疑問を解く鍵は、モララーさんが教えてくれました
( ・∀・) ……
ζ(゚- ゚*ζ 「この街では、誰かに忘れられてしまった記憶が形を持って存在できる」
ζ(゚- ゚*ζ つまり、そういうことだったんですね
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218 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:19:38 ID:rs9SOIZg0
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川 - -) ……
長い静寂が教会を包む
彼女は静かに頷いて、短く、小さな溜息をついた
川 ゚ -゚) 一つ、昔話をしよう。ある女に関する話だ
川 ゚ -゚) その女はある日突然この街にやってきて、そうしてすぐに消えてしまった
ぽつり、ぽつり、彼女が呟く
過ぎ去った日を懐かしむように、今は亡き者を悼むように
彼女を取り囲む淡い光は静かに明滅し、その危なげな様子は地下道の蛍光灯を想起させた
川 ゚ -゚) 女は「忘れない」人間だった。それはこの街の記憶にとって、何よりも衝撃的な出来事だった
川 ゚ -゚) 女の名前は素直クール。学者を自称するその女に……
川 ゚ -゚) 忘失都市は、恋をした
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219 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:20:31 ID:rs9SOIZg0
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彼女の口から語られるのは、素直クールという女性に関する出来事
しかしその名が指しているのは、私の目の前にいる彼女ではなく――――
川 ゚ -゚) その昔……と言っても、今からほんの数十年前
川 ゚ -゚) この街の歴史からすれば、つい昨日の出来事だ
川 ゚ -゚) 素直クールと名乗る女がこの街にやってきた
川 ゚ -゚) ……当時この街には、名前が無かった
ζ(゚- ゚*ζ 名前の無い街……ですか?
川 ゚ -゚) いいや、街と呼ぶのもおこがましいかもしれないな
ζ(゚- ゚*ζ え?
川 ゚ -゚) 当時のこの街の様子は、現在のそれとは比べ物にならないような酷い有様だった
川 ゚ -゚) それは言うなれば「記憶の流刑地」
川 ゚ -゚) 子供の玩具箱を引っ繰り返したような街並みは、人々の心をこの街から遠ざけた
川 ゚ -゚) 宿主に捨てられた記憶達はやさぐれ、腐り、僅かな来訪者を己の表現欲求のままに弄ぶ
川 ゚ -゚) おおよそ都市としての形を成していない、そんな状態だった
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220 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:22:05 ID:rs9SOIZg0
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川 ゚ -゚) 素直クールは名前の無いこの街を、「追憶都市」と呼んだ
川 ゚ -゚) 記憶達が宿主のところへ戻れるようにという願いの込められた呼び名だった
川 ゚ -゚) 「命名」は存在を肯定する行為だ。たったそれだけの行動で、素直クールはこの街の記憶を虜にした
ζ(゚- ゚*ζ ……表現欲求を解消した、ということですか?
川 ゚ -゚) 少なくとも、それに近いことをしたのは確かだ
川 ゚ -゚) さて、この街に名前を付けたその日から、素直クールは毎日のようにこの街にやってきた
川 ゚ -゚) 朝一番のバスでやってきて、無目的に街を歩き回り、その先々で出会った記憶と交流する
川 ゚ -゚) 無目的……いや、記憶との交流こそが目的だったのかもしれないな
記憶との交流とは、記憶の世界を体験するということなのだろう
それはつまり、記憶達の表現欲求を満たす行為でもある
川 ゚ -゚) ある日、素直クールは自分のことを、「忘れない」人間だと語った
川 ゚ -゚) そしてその証拠として、この街にやってきてからの全ての出来事を、一つとして違えること無く言ってみせた
ζ(゚- ゚*ζ 忘れられた記憶と、忘れない人間……
川 ゚ -゚) それがこの街の記憶達にとってどれほどの衝撃であったかは、言うまでもないだろう
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221 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:24:16 ID:rs9SOIZg0
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川 ゚ -゚) その日以来、この街の記憶達は狂ったように素直クールを求め、そして素直クールもそれに応じた
川 ゚ -゚) 時が経つにつれて、交流の仕方も徐々に形を変えていった
川 ゚ -゚) 自身の世界を体験させるだけではなく、会話による交流も行われるようになった
川 ゚ -゚) 会話による交流は、相手を人格のある存在であると認める行為だ
川 ゚ -゚) これもまた、記憶達にとって何よりの喜びであるといえるだろう
川 ゚ -゚) ……素直クールがこの街で行ったことはそれだけではない
川 ゚ -゚) 街中を整備し、人間の訪れやすい街を作った
川 ゚ -゚) 記憶を探している人間を連れて来て、記憶と宿主を再会させる手助けをした
川 ゚ -゚) 有害な記憶を彼らの同意のもとに隔離し、記憶と人間、両方を守った
川 ゚ -゚) そして……
彼女の口から語られる、素直クールという女性の数々の功績
それらは「素直クール」がこの街にとってどれほど大切な存在であったかを、何よりも明確に表していた
しかし、私の考えが正しいのならば、この街に愛されたその存在は――――
川 ゚ -゚) そして、素直クールはある日突然、この街を去った
ζ(゚- ゚ ζ ……
-
223 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:26:30 ID:rs9SOIZg0
-
ζ(゚- ゚*ζ どうして彼女は、いなくなってしまったんですか?
川 ゚ -゚) ……さあ、なぜだろうな?
ζ(゚- ゚*ζ ……え?
川 ゚ -゚) 素直クールは何も語らずに消えてしまった
川 ゚ -゚) この街を出られない記憶達には、もはやどうすることも出来なかった
川 ゚ -゚) 素直クールを引き止めることも、その真意を知ることも、な
大切な人が突然消える悲しみは、私もよく知っている
この街の記憶達が感じたそれもきっと、耐え難い苦痛だったことだろう
川 ゚ -゚) その苦しみの中でこの街はなお、素直クールを求め続けた
川 ゚ -゚) 再び素直クールと出会いたい。再び素直クールと語り合いたい
川 ゚ -゚) 一年経っても、二年経っても、五年、十年、どれだけの時が経っても、その思いは消えなかった
川 ゚ -゚) いいや、それどころか、時が経つほどに、一層、素直クールを求める気持ちは強まる一方だった
川 ゚ -゚) 別れを嘆き、再会を求め、そうして遂にこの街は……
ζ(゚- ゚ ζ 素直クールを「作り出した」
川 ゚ -゚) ……ああ、その通りだ
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225 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:30:06 ID:rs9SOIZg0
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川 ゚ -゚) はじめ記憶達は、この街に流れ込んできた素直クール本人の記憶から、素直クールを作ろうと考えた
川 ゚ -゚) しかしそれはあっけなく失敗に終わった
ζ(゚- ゚*ζ ……素直クールは、忘れない人間だから
川 ゚ -゚) そうだ。この街は忘れられた記憶が集まる場所
川 ゚ -゚) 忘れない人間の記憶が、どうして見つかるというのだ
川 ゚ -゚) 諦めきれなかった記憶達は、とうとう最後の手段に出た
この街は、記憶の窪地。記憶が形を持って存在できる場所
消えた人間を呼び戻すことが不可能ならば、その人間に関する記憶を寄せ集め、切り抜いて、貼り合わせて
そうして記憶の中だけに存在する彼女を、現実の世界へと呼び戻す。彼女との思い出と引き換えに
きっとこの街の記憶達は、それを望んでしまったのだろう
川 ゚ -゚) 素直クールを求め、素直クールを忘れた街
川 ゚ -゚) その日この街は、忘失都市になったんだ
広い教会、片隅の私
風が窓を揺らし、光が揺らめく
街の悲しみが聞こえた気がした
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226 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:31:31 ID:rs9SOIZg0
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明らかになる、彼女の正体
忘失都市の記憶達から生まれた、もう一人の素直クール
川 ゚ -゚) 人間と記憶達では、「何かを記憶する」という行為は全く違った意味合いを持つ
川 ゚ -゚) 人間は新たな記憶をゼロから生み出すことができるが、この街の記憶達にはそれが出来ない
川 ゚ -゚) 彼らにとって新たな記憶とは、自身の存在を切り崩して得るものだ
川 ゚ -゚) そうして生まれたそれは、言うなれば自身そのものであり、もう一つの自己
川 ゚ -゚) この街の全ての記憶から生まれた私は、私であると同時に全ての記憶の分身でもある
ζ(゚- ゚*ζ ……そう。だから……
ζ(゚- ゚*ζ だからあなたは、忘失都市
ζ(゚- ゚*ζ 素直クールは、忘失都市
瞬間、彼女の周囲の光球が弾け、教会は光の粒子で満たされた
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227 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:32:02 ID:rs9SOIZg0
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川 ゚ー゚)
目の眩むような光の中で、彼女は優しく微笑んでいた
川 ゚ー゚) おめでとう、君は成し遂げた
川 ゚ー゚) 約束の品だ。受け取るといい
これまでにない、楽しげで、弾むような声色
彼女の手のひらにはいつの間にか、青白い光球が乗っていた
ビー玉ほどの小さな粒は、しかし、光に満ちた教会の中で何よりも力強く輝いている
ζ(゚、゚*ζ これが……
川 ゚ー゚) そう、君の母に関する記憶だ。宿主も君の父で間違いないだろう
川 ゚ー゚) 君の父が君の母と出会い、死別するまでの全ての記憶がこの中に詰まっている
川 ゚ー゚) 全ての感情、全ての時間……こいつを体に取り込めば、全てを取り戻すことができる
ζ(゚、゚*ζ 体に取り込む? ……どうやってですか?
川 ゚ー゚) 好きなようにすればいい。食事に混ぜ込むなり、飲み物に溶かすなりな
ζ(゚- ゚;ζ えっ……?
彼女の返答に、私は少し意表を突かれた
それではまるで、毒でも盛っているようではないか
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228 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:33:03 ID:rs9SOIZg0
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川 ゚ -゚) 毒、か……別に、間違っていないだろう?
川 ゚ -゚) 前にも言った通りこいつの中にある悲しみの記憶は、きっと君の父を苦しめる
ζ(゚- ゚*ζ あ……
川 ゚ -゚) 使うのならば、相応の覚悟をして使え
川 ゚ -゚) 君と父、母を失った悲しみを、二人の力で乗り越える
川 ゚ -゚) その言葉、嘘にしてくれるなよ?
彼女は私をまっすぐに見つめて、そう言った
初めて会った時のような凛とした無表情ではなく、力の込められた視線
私は初めて彼女の心に触れることが出来たような気がした
ζ(゚ー゚*ζ ……はい!
川 ゚ー゚) ふん、それでいい
彼女から手渡された光球は、私の手に触れた途端に輝きを失って、ただの透明な硝子玉へと変化した
「この状態ならばきっと、この街の外でも形を保っていることができるだろう」
そんな言葉を聞きながら、私は手のひらに乗せた硝子玉を眺め続けた
球面が反射する光の中に、母の姿が見えるような気がした
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229 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:33:44 ID:rs9SOIZg0
-
川 ゚ー゚) さて……と……
川 ゚ー゚) モララー、後はよろしく頼むぞ
川 ゚ー゚) 内藤のところにいるタカラという子も、忘れずにな
( ・∀・) うん、任せて
川 ゚ー゚) それにペニサスも、世話になったな
('、`*川 ん、いいわよ気にしなくて。またね
川 ゚ー゚) ああ、また明日
私が硝子玉を眺めている間に、彼女は他の二人との別れの挨拶を済ませていた
三人の会話を聞いているうちに、とうとう全てが終わったのだという実感が、ゆっくりと湧いてきた
川 ゚ー゚) 最後にデレ、君にお願いがある
ζ(゚、゚*ζ はい?
川 ゚ー゚) ここの記憶達は君のことを随分と気に入っているらしい
川 ゚ー゚) ……私も、その一人だ
川 ゚ー゚) よければまたいつか、この街に遊びに来てくれないか
川 ゚ー゚) その時はこの街をあげて、君を歓迎させてもらおう
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230 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:34:17 ID:rs9SOIZg0
-
( ・∀・) 僕からもお願いしようかな
( ・∀・) ツンやフォックスもそれを望んでいることだろう
ζ(゚、゚*ζ モララーさん……
('、`*川 来る時は私に言いなさいな、部屋とご飯くらいなら用意してあげるから
('、`*川 私は年中暇だから、こっちの都合なんて考えなくていいわよ?
ζ(゚、゚*ζ ペニサスさんまで……
川 ゚ー゚) ……どうかな?
ζ(゚、゚*ζ ……
ζ(゚ー゚*ζ 是非!
川 ゚ー゚) そうか、それはよかった
-
231 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:36:01 ID:rs9SOIZg0
-
川 ゚ー゚) それじゃあ、ひとまずお別れだな
川 ゚ー゚) 私は少し疲れた。ここらで休ませてもらうとしよう
,;,;,;,;ー゚) さようなら、デレ
. , ; ,;,;゚) また会える日を、楽しみにしているよ……
, ; ; ,; ; ,;
そう言って彼女は光の粒に姿を変えて、姿を消してしまった
消え行く粒子を眺めていると、どこからともなく、彼女の声が聞こえた
「そうそう、言い忘れていたが忘失都市にはもう一つだけ秘密がある」
ζ(゚、゚*ζ もう一つの、秘密?
「全ての記憶が眠りにつく深夜、この土地は真の姿を顕にする」
「本物の素直クールですら知らなかった秘密だが、君には特別に見せてあげよう」
「今度こそ本当にさよならだ、また会おう、デレ」
その言葉を合図に、眩い光が私の視界を埋め尽くした
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232 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:37:45 ID:rs9SOIZg0
-
【同時刻 らぁめん内藤】
( ^ω^) へいお待ち! ブーン特性のアルティメット中華そばだお!
(*,,^Д^) おうおうこれこれ、これが食べたかったんだよ!
( ^ω^) ちゃんとペニサスのお弁当も食べたし、これなら安心して食べさせてあげられるお
(*,,^Д^) おう、あのおばさん、意外と料理上手いんだな!
( ^ω^) これに懲りたらこれからはしっかりと、ラーメン以外の物も食べないといけないお?
( ,,^Д^) ……あのさ、ずっと疑問だったんだけど、ここのラーメンって何がヤバイの?
( ,,^Д^) 食べ続けたら死ぬとか、正直信じられないんだよね
( ^ω^) ……うーん、食べ続けたらというよりも、他のものも食べないとって言った方が近いおね
( ^ω^) まあ、もうすぐ閉店時間だし、そうなったら嫌でもわかるお
(;,,^Д^) 何言ってるか全然わかんないんだけど
( ^ω^) まあ、いいじゃないかお。それよりほら、替え玉サービスしてあげるお!
(*,,^Д^) え? マジで!? さすがおっちゃん!
( ^ω^) おっおっ、たんと食べるお!
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233 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:38:41 ID:rs9SOIZg0
-
( ,,^Д^) こんなこと言うと失礼かもしれないけどさ
( ^ω^) お?
( ,,^Д^) この店のラーメンって、古臭くて、安っぽい味してて、好きなんだよね
( ^ω^) ……おー?
( ,,^Д^) 昔住んでたところに大きなデパートがあってさ、その地下に小さいフードコートがあったわけ
( ,,^Д^) うちの親、共働きだからさ、一緒に暮らしてたばーちゃんが買い物に行くのにオレも付いて行ってさ
( ,,^Д^) 「お一人様一点限り」みたいな商品も、俺がいるから二つ買えてさ
( ,,^Д^) そうするとばーちゃん、浮いた金でフードコートのラーメン食べさせてくれんの
( ^ω^) おっおっ、いいおばあちゃんだおね
( ,,^Д^) 普段は結構厳しいんだけどね
( ,,^Д^) 一回オレが野良猫虐めようとして、返り討ちにあって、でっかい引っかき傷作って帰ったことがあるんだ
( ,,^Д^) ほら、右のほっぺた、まだ痕が残ってるだろ? 二針くらい縫ったかな?
( ,,^Д^) 心配するばーちゃんに何があったか泣きながら話したら、そのまま反対のほっぺたにビンタ飛んできた
( ,,^Д^) 「そんな酷いことする馬鹿は怪我して当たり前だ」だってさ
( ;^ω^) おー……
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234 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:39:55 ID:rs9SOIZg0
-
( ,,^Д^) まあそんな厳しいばーちゃんだけど、オレがラーメン食ってる時だけは、すっげー笑顔でさ
( ,,^Д^) ニコニコしてるのが嬉しくてさ、オレも大袈裟に喜んでみたりして、そしたら行儀が悪いって怒られるの
( ,,^Д^) その時に食べたラーメンの味に、ここのラーメン、似てるんだよね
( ,,^Д^) 最初はなんでこんなのが美味く感じるんだって不思議だったんだけど、なんかまた食べたくなってさ
( ,,^Д^) 何回も食べてるうちに、思い出したんだよね
( ,,^Д^) 「あ、あのラーメンの味だ!」って。なんで忘れてたんだろ……
( ^ω^) ……
( ,,^Д^) まあ、そういうわけで、安っぽいとか言ったけど、オレは好きだって話ね
( ^ω^) ……ありがとうだお。その記憶に代わって、お礼を言わせてもらうお
( ,,^Д^) ……へ?
-
236 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:41:00 ID:rs9SOIZg0
-
( ^ω^) 言ってもわからないと思ったから黙ってたけど、わかってくれなくてもいいから、言わせてもらうお
( ,,^Д^) いきなり改まっちゃって、どうしたんだよおっちゃん?
( ^ω^) ブーンの仕事は、お客さんが忘れてしまった「食事の記憶」を、本人のもとへ返してあげることだお
( ^ω^) 楽しい食事の思い出を忘れてしまうのは悲しいことだお
( ^ω^) だから、記憶で作ったラーメンで、その悲しみを癒やすんだお
(;,,^Д^) おっちゃん? 記憶がどうとか、全然わからねーんだけど……
( ^ω^) でも残念なことに食事の記憶は心を満たしても、体の栄養にはならないんだお
( ^ω^) 体を満たすことができるのは、記憶ではなく、実体のある現実の食事
( ^ω^) だからタカラくん、記憶だけを求めて飢え死になんて、悲しいことはしちゃいけないお?
( ^ω^) ちゃんと栄養あるもの食べて、体を満たして、そしてこの店で心を満たしてくれると嬉しいお
(;,,^Д^) ……うん? うーん……
-
237 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:41:59 ID:rs9SOIZg0
-
( ^ω^) やっぱりわからないかお?
(;,,^Д^) ……うん
,; ^ω^) まあいいお、ちょうど閉店時間だお
,;,;,;^ω^) それじゃあタカラくん、また明日会おうお!
(;,,^Д^) へ? おっちゃん? なんで光ってんの? 崩れてんの?
, ; ; ,;,;,;^) おっおっ、帰りはモララーの車に乗せてもらうといいお
(;,,^Д^) あれ? なんか店の中全部……光って……
, ; ,; , ,;; ,; おっおっ……おっ……おやすみ、だお……
(;,,^Д^) えっ……!? あれっ……!?
(;,,^Д^) え……
-
238 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:42:35 ID:rs9SOIZg0
-
.
-
239 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:43:24 ID:rs9SOIZg0
-
視界を埋め尽くす光量に、私は反射的に目を閉じた
瞼を通してもまだ眩しい、そんな光もいつの間にか消え去って
恐る恐る目を開けた先にあった物は――――
ζ(>、<*ζ ……
ζ(゚、<*ζ ……
ζ(゚、゚;ζ ……!?
剥き出しの地面、霧一つ無い澄んだ空気
どこまでも続く真っ更な荒れ地
教会も、柱時計も、沢山の摩天楼も、消えて無くなってしまっていた
( ,,^Д^) ……
ふと遠くに目をやると、呆然と立ち尽くす少年の影
そんな私達を楽しそうに見ながら、モララーさんとペニサスさんは、帰り支度を始めていた
-
240 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:44:09 ID:rs9SOIZg0
-
ζ(゚ー゚;ζ 全部、記憶だったんですね
('、`*川 そゆこと。とりあえず、私は向こうにいるアイツ連れてくるわ
( ・∀・) 車は向こうだね。ここまで迎えに来るから、それまでに準備しておいてね
('、`*川 いろいろ言いたいこともあるだろうけど、残りは全部車の中で、ね?
二人はそう言うと、状況を受け止めきれていない私を置いて、それぞれの用を果しに行ってしまった
取り残された私は仕方なく、地面に置いていた荷物を整理して、着崩れた衣服を整えて
それからやっぱり、何がなんだか分からずに、ぼうっとその場に立っていた
ζ(゚- ゚*ζ ……
離れたところから、車のエンジン音が聞こえてくる
その反対の方向から、ペニサスさんの苦戦する声が聞こえてくる
二つの音に挟まれて、私は何やらふわふわとした、現実味のない感覚に襲われた
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241 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:44:58 ID:rs9SOIZg0
-
ζ(゚- ゚*ζ もしかしたら全部、夢だった、なんて……
そんな疑いを掻き消す感触が、私の手の中に残っている
父の記憶が詰まった硝子玉。私が体験したすべての出来事が現実だった、何よりの証
( ・∀・) 本当さ。全部、現実なんだ
ζ(゚- ゚*ζ モララーさん……
( ・∀・) 君が父の記憶を取り戻したことも、君がこの街で出会った記憶達も
( ・∀・) どうか忘れないであげてほしい。記憶はそれを、何よりも悲しむから
ζ(゚- ゚*ζ ……
ζ(゚- ゚*ζ ……ゃないですか
( ・∀・) ?
ζ(゚ー゚*ζ こんなとんでもない出来事、忘れられるわけがないじゃないですか
( ・∀・) ……っ、ははっ、そうかい! それは嬉しいよ!
-
242 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:45:58 ID:rs9SOIZg0
-
('、`#川 二人とも、喋ってる暇があったらコイツを運ぶの手伝いなさいよ!
( ,,^Д^) ……
('、`#川 あーもう! 固まっちゃって動きやしない!
遠くから、ペニサスさんの怒鳴り声
あんなに離れていても声がよく聞こえるのは、気温の低さゆえか、単純な声量か
そんな彼女の様子を見て、モララーさんと顔を合わせて苦笑する
('、`#川 笑ってんじゃないわよ! ほら、デレ、来なさい!
ζ(゚、゚;ζ はっ、はい! ごめんなさい!
( ・∀・) はいはい、僕も手伝うよ
雲は晴れ、満天の星空
静かで、悲しい、そんな街の中心で
私の旅は、賑やかに幕を下ろした
-
243 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/10/13(日) 23:47:54 ID:rs9SOIZg0
-
川 ゚ -゚)は忘失都市のようです
終
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<<<その3 ◆ あとがき>>>
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