2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
川 ゚ -゚)  忘失都市のようです
  その2



90 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:10:55 ID:nUEqljLU0
                    .








永遠を生きる旅人は、その街を終の棲家とした

                          ――――とある国に伝わる民話の一節







                                    .

91 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:11:40 ID:nUEqljLU0
滞在二日目、今日は朝から忘失都市に来ている
リュックサックには最低限の荷物。着替えと、ジュースと、カロリーメイト

( ・∀・) やあ、早かったね

ζ(゚ー゚;ζ モララーさんこそ……私始発で来たのに、どうして先にいるんですか?

( ・∀・) 今日はマイカーでの出勤さ

( ・∀・) もし君が答えを見つけ出すことができたら、必要になるからね

ζ(゚、゚*ζ ……どういうことですか?

( ・∀・) それは秘密。ところで……

ζ(゚ー゚*ζ どうしました?

( ・∀・) ペニサスは一緒じゃないんだね

ζ(゚ー゚*ζ あ、はい。実は……

92 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:12:49 ID:nUEqljLU0
………
……


('、`*川 私も一緒に行きたいのは山々なんだけど、ちょっと用事があってね

ζ(゚ー゚*ζ 用事ですか?

('、`*川 色々と切らしちゃってるから、買い出しに行かないといけないのよ

('、`*川 色々と……例えば、牛乳とか

ζ(゚ー゚;ζ そ、そうなんですかー

('ー`*川 ほんと不思議よね、昨日まではいっぱいあったんだけど

ζ(゚ー゚;ζ へぇー! へぇー!!

('、`*川 あ、そうだ。これ持ってきなさい

ζ(゚、゚*ζ ……コート?

('、`*川 今日は寒くなるらしいわよ?雪が降るかもって

ζ(゚ー゚;ζ ひえー

('、`*川 私も後で合流するけど、気をつけていきなさい

('、`*川 お腹やわくなってるでしょうから、冷やしちゃダメよ?

ζ( ー ;ζ ……


……
………

93 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:13:41 ID:nUEqljLU0
ζ(゚ー゚*ζ ということでして

( ・∀・) あ、そう

それならそれで構わない、と言った様子で彼は応えた
他にも昨日は良く眠れたかだとか、今朝は何を食べたかだとか、世間話を少し挟んで、彼は本題に移った
「牛乳って何のこと?」という質問は適当にはぐらかした

( ・∀・) まあいい。今日はとりあえず、この街で一番高い建物に登ってみよう

( ・∀・) その後は……まあ、その時の気分で

ζ(゚ー゚;ζ 気分って……

(;-∀-) 手を抜いてるわけじゃないんだけどね、こっちとしても難しいところなんだ

苦笑混じりに彼は言った。随分と歯切れの悪い、彼らしくない返事だった

( ・∀・) クーの問題に答えるためには、あることに気付く必要がある

ζ(゚、゚*ζ あること?

( ・∀・) それが何かは言えないけれどね

( ・∀・) その「あること」に気付いてもらうには、今日向かう建物に登るのが一番の有効手段なんだ

ζ(゚ー゚*ζ えっと、もしもそこで気づけなかったらこれ以上のチャンスはやって来ない

ζ(゚ー゚*ζ そういうことですか?

( ・∀・) そうとってくれて構わない

94 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:14:37 ID:nUEqljLU0
ζ(゚ー゚;ζ

( ;・∀・) 緊張してきた?

ζ(゚ー゚;ζ はい

( ;・∀・) うん、そうなるだろうから言いたくなかったんだよね

( ・∀・) 怖がらせておいて言うのも難だけれど安心して。クーの問題に時間制限は無い

( ・∀・) クーは君を嫌っているわけじゃないんだ。答えがわかるまで何度でもここに来ればいい

( ・∀・) もし今日が駄目だったとしても、諦めなければいつかは気付くことが出来るだろうさ

( ・∀・) もっとも、早いに越したことはないだろうけどね

ζ(゚ー゚;ζ そう、ですね

( ・∀・) さて、覚悟はいいかな?

ζ(゚ー゚*ζ ……はい!

( ・∀・) それじゃあ、目的地まで全速前進!




( ・∀・) ……と、思ったんだけど

ζ(゚ー゚*ζ へ?

( ・∀・) ちょっとだけ、寄り道してもいいかな?

95 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:15:22 ID:nUEqljLU0
そう言って彼が向かった先は、あの、大きな大きな柱時計
根本の広場に辿り着くと時刻は丁度午前8時。これまた大きな鐘の音が、周囲の空気を震わせる

(;・∀・) うーん、タイミングが悪い

ζ(x 、x;ζ 頭がクラクラします

ζ(-、-;ζ それでモララーさん、ここになんの用があるんですか?

(;・∀・) えっと、昨日のブーンとの会話覚えてる?

ζ(゚、゚*ζ ブーンさんとの、ですか?

( ・∀・) うん、タカラっていう人のこと

ζ(゚ー゚*ζ ……確か、何日もブーンさんのところで食べ続けてるお客さんですよね?

( ・∀・) そうそう、その人だよ

( ・∀・) クーに聞いてみたところ、この辺りで目撃証言があるらしい

( ・∀・) それほど弱ってる様子はなかったみたいだけど、念のため保護しておこうと思ってね

ζ(゚ー゚*ζ そういう事なら、手伝います

96 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:15:56 ID:nUEqljLU0
彼と協力して周囲を探索する
ベンチの陰、廃屋の寝室、果ては柱時計の内部に至るまで、隅々まで探したが人どころか虫の一匹も見つからない

( ・∀・) これは……移動してると考えるのが妥当だろうね

( ・∀・) 追いかけようにも……

柱時計の広場は街の中心部に位置し、そこから放射状に何本もの道が伸びている
この中から手がかりもなしに正解の一つを引き当てることなど、とてもではないが……

(;-∀・) ちょっと、諦めるしかないね

ζ(゚ー゚;ζ そうですね

( ・∀・) まあいい。クーの話だとまだ余裕はあるみたいだし、今は君の用事を優先しようか

( ・∀・) こっちだよ、ついてきて

97 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:17:22 ID:nUEqljLU0
最も高い建物は、街の北部にあるという
彼の指す方を見てみると、霧に隠れてうっすらと、細長い影が見て取れた
それはまるで風に揺られる煙のようで、助けを求める狼煙のようで
曲がりながら、うねりながら、異様な存在感を放って、確かにそこに立っていた

( ・∀・) 僕らが向かうのはあの頂上だよ

ζ(゚、゚;ζ よく見えないんですけど何階建てですか、あの建物?

( ・∀・) 大丈夫、3時間もあれば登れると思うから

ζ(゚、゚;ζ さんじっ……本気ですか!?

( ・∀・) ペニサスはその倍かかったけどね

( ・∀・) だって彼女、10分ごとに煙草休憩とるんだもの

ζ(゚ー゚;ζ ……ははっ、ペニサスさんらしいです

( ・∀・) 「今の私はニコチンと乳酸のカクテル」なんて、そんなこと言ってたかな

98 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:18:11 ID:nUEqljLU0
歩き始めて15分ほどすると、この街にきて何度目かの真っ白な壁が現れた
迂回することも考えたが、他の道を通った場合到着まで数十分もの差ができてしまうらしい
話し合いの結果、時間が惜しいのでこのまま突っ切ろうということになった

( ・∀・) うーん、相変わらずデレちゃん、記憶に好かれるね

ζ(゚ー゚;ζ すいません

( ・∀・) 謝ることじゃあない。もしかしたらこれだって、問題を解く鍵になるかもしれないからね

( ・∀・) さ、行こうか

ζ(゚ー゚;ζ はい

息を止めて、霧の壁に突入する
その向こうにはいったい、どんな世界が広がっているのだろうか
自分の体さえ見えない閉ざされた視界の中、頼りになるのは彼と繋がれた右手だけ

99 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:19:02 ID:nUEqljLU0
霧を抜けるとそこにあったのは、住み慣れた都会の街並み
……ただちょっと、ほんの少しだけ、ほんの何倍か、何十倍か、全てのものが、異常なほどに、大きかった

ζ(゚、゚;ζ ……

(;・∀・) これは……ちょっと不味いかもね

不安気な彼の声が、私の恐怖感を増大させる
どんな記憶の中でも余裕の表情を崩さなかった彼が、焦っている
それ程に、今私がいるこの「記憶」は危険なものなのだろうか

(;・∀・) デレちゃん、自分の頭を触ってみて

ζ(゚、゚*ζ はい?

彼に言われるまま頭に手をやると、何やらいつもとは違った感触があった
モフモフしていて、コリコリしていて、先が少しとんがっている
これは、まさか……




  ∧∧
ζ(゚◇゚;ζ 耳!?

100 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:19:42 ID:nUEqljLU0
(;・∀・) これは多分、この辺りに住む野良猫の記憶だね

  ∧∧
ζ(゚ー゚;ζ 野良猫の、記憶……?

(;・∀・) 記憶を持つのは人間だけの特権じゃない

(;・∀・) 犬や、猫や、虫や魚だって記憶を持つ

(;・∀・) ……ここで出会うのは、滅多にあることじゃないけどね

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ ……でも、猫になるって、ちょっと楽しい気もします

(;・∀・) いや、そんな甘い話じゃないんだよね

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ ?

人間以外の生き物の気持ちを少しだけ味わえる
それは私にとっては中々魅力的で、どうして彼がここまで焦っているのかがいまいち理解できない

101 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:20:15 ID:nUEqljLU0
( ;・∀・) この街で、人間以外の動物の記憶と出会うことは滅多に無い

( ;・∀・) それはなぜかというと、保持する記憶の量の差によるものだ

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ 記憶の量?

( ;・∀・) 人間以外の動物は、保持する記憶の量が人間と比べて圧倒的に少ない

( ;・∀・) どうでもいいことは、そもそも記憶に残さない……いや、脳の容量的に残すことができないんだ

( ;・∀・) それだけに、わざわざ記憶に残した出来事というのは、彼等にとって重要な出来事

( ;・∀・) 例えば……

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ 例えば?

( ;・∀・) 命の危機、とか

――――不意に、影
頭上から降り注ぐ、甲高い声

102 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:20:58 ID:nUEqljLU0
( ;・∀・) 避けて!

  ∧∧
ζ(゚ー゚;ζ っ!?

彼の声に慌てて飛び退くと、たった今私が居た場所を大きな足が通過した
驚いて見上げると、その足の持ち主は黄色い帽子をかぶった男の子
その子の細い両目からは――その年頃の子供特有の――嗜虐的な好奇心が見て取れる

(  Д ) 何だコイツ、避けてんじゃねーよ!

少年は足を振り上げて、私を踏み潰そうとしている
まさに「降って湧いたような」危機に、私の体は竦み上がり動くことができなかった

  ∧∧
ζ(゚ー゚illζ ひっ……

( #・∀・) うおおおおおおおおおおおお!

すかさず行動を起こしたのは、彼
長く伸びた爪で少年の足に飛びつくと、そのまま少年の体を駆け登る

103 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:21:34 ID:nUEqljLU0
(  Д ) うわっ!? やめろ! おい!?

( #・∀・) デレちゃん、今のうちに逃げて!

  ∧∧
ζ(゚ー゚;ζ で……でも、それじゃあモララーさんが!

( #・∀・) 僕は平気だから!あの建物の下で落ち合おう!

( #・∀・)  さあ、速く!

  ∧∧
ζ(゚ー゚;ζ ……は、はい!

  ∧∧
ζ(゚ー゚;ζ 絶対に、無事でいてくださいね!

( #・∀・) ……ああ、任せて!

揉み合う彼等の脇を抜けて、路地裏へと逃げこむ
背後では、どしんという音。その直後に、私とは逆方向へ向かう2つの足音

  ∧∧
ζ(゚- ゚;ζ ……怪我なんてしたら、許しませんから

104 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:22:46 ID:nUEqljLU0
                      .








記憶とは、海馬や大脳皮質に蓄えられた情報のことである

                                 ――――とある医師の妄言





                   .

105 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:23:54 ID:nUEqljLU0
路地裏から覗く、建物の間の狭い隙間
壁に体を擦りながらようやく進めるその隙間の奥に、「出口」は存在した
霧で出来た、白い壁。荒れた地面に足を取られながらも壁を抜けると、忘失都市の見慣れた街並みがあった
彼の姿は、どこにもなかった

ζ(゚ー゚*ζ 一番高い建物に……

そこに行けば、きっと彼が待っているはずだ
街の北部、一番高い建物を目指して、ひたすらに歩き続ける
先程までうっすらと見えるだけだった建物も、少しづつ、その姿を現してきた

ζ(゚ー゚*ζ そういえば、一人で歩くのって初めて

思い返せばこの街に来てからというもの、常に彼と行動を共にしていた
初めてこの街を見た驚きも、VIP商店街の喧騒も、ブーンさんのラーメンの味も、全てが彼とともにあった
一人、独り、ひとり

不安に押しつぶされそうになる私の袖を小さな手が引いていた

106 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:25:11 ID:nUEqljLU0
ζ(゚ー゚*ζ え?

まっすぐ下ろした右手に目を向けると、袖を掴んでいるのは見覚えのある小さな手
振り向いた先にあったのは地下階段の入り口で、明滅する蛍光灯が、ジリジリという音を立てている
そしてその手前に立っているのは

爪'ー`)y━・~

煙草を吸っている、小さな男の子
もう一方の手は、私の袖をしっかりと掴んでいる

ζ(゚ー゚*ζ ……ペニサスさん?

爪'ー`)y━・~

私の問いかけに返事はなく、少年は黙って私の袖を引き続ける

ζ(゚ー゚*ζ ついて来いって言ってるの?

爪'ー`)b

少年は煙草を放り投げ、満足気に親指を立てた

107 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:26:03 ID:nUEqljLU0
階段を降りると、薄暗い地下通路
周囲には蛍光灯の破片が散乱し、割れたコンクリートの隙間からは名前も知らない植物が顔を出している
一歩踏みしめる度にぱきりという音が通路内に響き渡り、その後に残るのは全くの無音

ζ(゚ー゚*ζ 私に何か用?

爪'ー`)

少年は応えない。いや、応えることができないのかもしれない
恐らくこの少年はペニサスさんではなく、昨日の帰り際に手を振ってくれた記憶そのもの
こうして手を繋いで歩いていても、足音も、体温も、何一つ感じることができないのだから

ζ(゚ー゚;ζ 私、急いでるんだけど……

爪'ー`)b

少年は再び指を立てる
安心しろ、という意思表示のなだろうか

108 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:26:41 ID:nUEqljLU0
少年に引かれてしばらく歩くと、地下通路の終わり、上り階段が見えてきた
周囲には赤や黄色のテープの残骸が散乱していて、よく見ると「KEEP OUT」だとか「DANGER」だとか、物騒な文字が書いてあった

ζ(゚ー゚;ζ ……大丈夫、なんだよね?

爪;'ー`)bそ

必死で説得――なのかどうかは良く分からないが、きっとそうなのだろう――してくる少年の熱意に負けて、階段を登る
階段を抜けて真っ先に目に入ったものは、積み木を無作為に積み上げて作ったような、ひどく歪んだ建物
まるで大樹へ取り付いた蔦のように巻きつけられた螺旋階段が、今にも崩れ落ちそうなこの建物をすんでの所で支えている
私はこのシルエットに見覚えがあった

ζ(゚、゚*ζ これって、もしかして

爪'ー`)

ζ(゚ー゚*ζ この街で一番高い建物?

爪'ー`)b

ζ(^ー^*ζ 連れてきてくれたんだ、ありがと!

爪*'ー`)b

109 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:28:56 ID:nUEqljLU0
周囲を見渡す。当然ながら彼の姿は無い
私が通った地下通路はまっすぐに伸びた一本道で、つまり私は彼と離れて以降、恐らく最短のルートを通ってここに辿り着いたのだ
囮となってあの少年を引きつけていた彼が私よりも先にここに来ることなどできるはずがない

ζ(゚ー゚*ζ それじゃあ、私がすることはひとつだよね

ζ(゚ー゚*ζ モララーさんなら、きっと大丈夫

爪'ー`)b

ζ(゚ー゚*ζ ……少し、疲れちゃった

爪'ー`)

ζ(゚ー゚*ζ おいで、一緒に休も?

ヾ爪*'ー`)ノシ

彼を信じて、ここで待つ
建物の壁に背をもたれ、彼が来るまで何時間でも、何日でも待ち続けよう

110 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:29:57 ID:nUEqljLU0
  。 。
ζ( ^ *ζ それにしても……

少し仰け反って建物を見上げる。頭が建物の壁に当たり、ごりごりとして、少し痛い
  。 。
ζ( ^ *ζ どこまであるんだろ、これ

窓の枚数から階数を予測しようとしたが、100を超えた辺りで数えるのをやめた
霧で見えにくいというのもあったが、何より終わりの見えない作業に嫌気が差したのだ

ζ(-、-;ζ まだまだ、半分も数えてない

ヾ 爪'ー`) ゞ

ζ(゚ー゚*ζ ……でも、この上にあるものって、何なんだろ?

ヾ爪'ー`)シ

ζ(-、-*ζ クールさんについて知ることができるヒント……うーん……

゚+。<爪'ー`)/.+゚

ζ(゚ー゚*ζ ねえ、君は知ってるの?

<爪;'ー`)/そ ビクッ!

ζ(゚ー゚;ζ ……何してたの?

111 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:32:15 ID:nUEqljLU0
ζ(゚、゚*ζ もしかして、退屈してた?

爪;'ー`)

私の問いかけに、少年は申し訳なさそうに頷いた
……しまった

ζ(゚ー゚;ζ ごめんなさい、ちょっと考え事してて

ヾ爪;'ー`)ノシ

私が頭を下げると、少年は必死で両手を動かして何かを伝えようとしている
顔の前で手を左右に降る動作。これが表すのは、否定の意思

ζ(゚ー゚*ζ 気にするなって言ってるの?

爪;'ー`)bそ

ζ(゚ー゚*ζ ふふ、ありがと

爪*'ー`)b

112 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:33:03 ID:nUEqljLU0
ζ(゚、゚*ζ そうだ!

爪'ー`) ?

この子と出会ってから、ずっと気になっていたこと
この機会に、聞いてみよう

ζ(゚ー゚*ζ あなたって、何の記憶?

爪' ,`)a ?

ζ(゚ー゚*ζ そう、あなた

ζ(^ー^*ζ よかったら、教えてほしいな!

爪'ー`)

爪*'ー`)bそ

,;,;,;,;-`)b

力強く指を立てると、少年の体は少しづつ霧に変わっていった
霧はゆっくりとこちらへ向かって流動し、私の体を包み込む

113 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:33:51 ID:nUEqljLU0
唐突に、視界が切り替わる
霧は消失し、目の前には大きなスクリーン
背後からカシャリと音がして、スクリーン上に映像が映し出される




114 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:35:09 ID:nUEqljLU0


115 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:36:30 ID:nUEqljLU0
カタカタという音とともに、映像が切り替わる
次々と映し出されるそれは、大きな剣を携えた少年が世界中を旅する物語


時に家ほどもある人食い熊を一刀両断し




116 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:37:24 ID:nUEqljLU0
時に川ほどもある大蛇を蝶々結びにして懲らしめる




コミカルでラジカルな少年の、初めてなのにどこか懐かしい、そんな物語
世界を旅した少年は、旅の終わりに美しい少女と出会い、生涯幸せに暮らすのだ
旅の途中で出会った様々な人々の祝福の中、少年の笑顔と共に、物語の幕は降ろされた

117 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:38:47 ID:nUEqljLU0
物語が終わると、視界は再び霧に包まれた
私を包んでいた霧は少しづつ晴れてゆき、それが完全に無くなった時、私の横には笑顔の少年が座っていた

ζ(゚ー゚*ζ 今のは……君がやったの?

爪'ー`)b

「楽しかった?」

ζ(゚ー゚;ζ えっ?

どこからか、聞き覚えのある声が聞こえてきた

「『リトル・フォックス』。邦題『小さな勇者フォックスの冒険』は、1940年に公開されたアニメ映画」

ヾ爪*'ー`)ゝ

「少年フォックスが世界を旅し、成長する過程を描いた巨匠W・B・シラヒーゲの出世作」

「当時としては斬新なその表現技法は後世の映画作品にも様々な影響を与えている」

ζ(゚ー゚;ζ この声、どこから……?

爪'ー`)σ

ζ(゚ー゚*ζ っ、そこは……

118 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:39:32 ID:nUEqljLU0
少年――いや、フォックス君と呼ぼう――が指差す先には、つい先程私達が通ってきた地下通路があった
ぽっかりと開いたその入口から、見知った顔が覗いている





('、`*川 以上、wikipediaより抜粋

ζ(゚ー゚*ζ ペニサスさん!

爪*'ー`)ノシ

('、`*川 ……ん、モララーどこいった?

119 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:40:52 ID:nUEqljLU0
                       .







奴等の機嫌を損ねるな!

             ――――ひどく怯えた浮浪者






                            .

120 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:41:24 ID:nUEqljLU0
ζ(゚ー゚*ζ ――そういうわけで、はぐれちゃったんです

('、`;川  あちゃー……大丈夫だった?

ζ(゚ー゚*ζ はい、モララーさんが助けてくれたので

('、`*川 そ。ならまあ一安心ね。モララーのことは心配しなくていいわよ

('、`*川 あいつは仮にもここの管理人。その程度の事で怪我をするような奴じゃないから 

ζ(゚ー゚*ζ そう、ですか……

('、`*川 そうそう、安心しなさい

ζ(゚ー゚*ζ ペニサスさんがそう言うなら、そうします

ヾ爪'ー`)a

ζ(゚ー゚*ζ あ、そうだ!はぐれたあとは、フォックス君がここまで連れてきてくれたんですよ

('、`*川 あらそう、偉いじゃないフォックス

ヾ爪*'ー`)シ

ζ(゚、゚*ζ ……あれ?

('、`*川 ん、なに?

ζ(゚、゚*ζ その荷物、どうしたんですか?

121 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:42:40 ID:nUEqljLU0
再会の喜びで気づかなかったけれど、彼女の両手には四角い包みが握られていた
淡いピンクの風呂敷で覆われたそれは、この街のくすんだ風景の中で、弱く、儚く、それでいてはっきりと自己の存在を主張していた

('、`*川 ああ、これ?

('、`*川 おべんと持ってきたのよ。てっぺんまで歩くとなると何時間もかかっちゃうから。それと……

ζ(゚、゚*ζ それと?

('、`*川 タカラって言ったっけ、そいつに食べさせる分もあるわね

('、`*川 聞いた話だと今朝も内藤のところのラーメンだったみたいだし、そろそろちゃんとした物を食べさせないとヤバイから

再び聞いた、タカラという名前
正直なところ三食ラーメンの何がそんなに危険視されているのか、私にはよくわからない
しかし私よりこの街に詳しい人達が口を揃えてそう言っているのであれば、やはりそれは危険なことなのだろう

('、`*川 王女さまにも頼まれてねぇ、あんたらが登ってる間に私はタカラ探しってわけよ

ζ(゚、゚*ζ え、一緒に来てくれないんですか?

('、`;川 やーよ、私を殺す気?

ζ(゚ー゚;ζ えー

122 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:43:43 ID:nUEqljLU0
('、`*川 まあ、モララーが来るまでは一緒にいてあげるわ

('、`*川 何か聞きたいことがあったら今のうちよ?

「私に答えられることなら答えてあげる」
そう言って彼女は私の隣に腰を下ろした
長い髪がふわりと揺れて、微かに香る煙草の匂いが何故か心地良かった

ζ(゚ー゚*ζ それじゃあ、クールさんの問題の答えを……

('、`;川 言うわけないでしょ。そんなことしたら私が怒られるわ

ζ(゚ー゚;ζ ですよねー

('、`*川 だけどまあ、考え方くらいなら教えてあげてもいいかもね

ζ(゚ー゚*ζ 考え方、ですか?

('、`*川 な―に? 不満なの?

ζ(゚ー゚;ζ い、いえ! ぜんぜん!

('、`*川 そうそう、それでいいのよ

123 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:45:18 ID:nUEqljLU0
('、`*川 そうね、この街に来てからいろんなことが起こったと思うけど、その中でおかしなことはなかった?

ζ(゚ー゚*ζ ……おかしなこと?

おかしなことは、それはもう沢山あった
突然商店街が現れたり、ペニサスさんがフォックスくんだったり、私が猫になったり……
それこそ挙げればきりがない

('、`;川 そういうあからさまな異常じゃなくて、もっと細かいことよ

('、`*川 ヒントはそこら中に転がっているのよ。あんたが気付いてないだけでね

('、`*川 大事なヒントを「当たり前」で片付けたりしてない?

('、`*川 先入観を捨てて、今までの出来事をもう一度振り返ってみなさい

('、`*川 当然だと思っていた出来事にもう一度焦点を当てて、疑問を持つ

('、`*川 原因の原因、理由の理由まで、しっかりとね

('、`*川 そうすればきっと、何かが見えてくるはずよ?

ζ(-、-;ζ うーん、難しいですね

('ー`*川 ま、じっくり考えなさい。なんたってこれから何時間も歩くことになるんだから

ζ(゚ー゚;ζ ……やっぱりペニサスさんも一緒に行きませんか?

('、`*川 やーよ

124 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:46:08 ID:nUEqljLU0
('、`*川 あら? ピロリロリン♪

彼女のポケットから、軽快な電子音が聞こえてきた
どうやら携帯電話に着信があったらしい。着信画面をこちらに向けて、彼女は微笑んだ

('ー`*川 あら? モララーからね

ζ(゚ー゚;ζ えっ!?

('、`*川 出るわよ?

ζ(゚ー゚;ζ は、はい!

('、`*川 『もしもし、元気? 今デレちゃんと一緒にいるわ』

('、`*川 『……』

ζ(゚、゚;ζ ……

('ー`*川 『あらそう、無事ね。よかった』

ζ(゚ー゚;ζ ホッ

二人の通話に耳をそばだてる。彼の言葉はほとんど聞き取れなかったけれど、元気そうな声が伝わってきて安心する
どうやら彼は無事に逃げ切ることができて、現在こちらに向かっているらしい

125 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:47:09 ID:nUEqljLU0
('、`*川 『……今? 今は件の建物であんた待ちよ』

('、`*川 『うん? あー、それはいいけど、どこ?』

('、`*川 『うん、うん、それで? ……うん』

('、`;川 『……はぁ!?』

Σζ(゚、゚;ζ ビクッ

('、`;川 『あー、まあいいわよ。任せて、うん』

('、`;川 『それじゃ、急いできなさいよ? うん、じゃあね』 ピッ

('、`;川

('、`;川 はあー……

ζ(゚ー゚;ζ どうしたんですか?

('、`*川 タカラの居場所がわかったのよ。この近くにいるから保護しろって

ζ(゚ー゚*ζ この近く……どこでしょうね

('、`*川 この建物の裏側だってさ

ζ(゚、゚;ζ 近っ!?

126 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:48:13 ID:nUEqljLU0
('、`*川 荷物はここに置いといて大丈夫ね。おべんとだけ持ってきましょ

ζ(゚ー゚*ζ そうですね。フォックスくんも一緒に行こ?

ヽ爪*'ー`)ノ

('、`*川 しっかし、随分近いところにいたもんだわ

ζ(゚ー゚;ζ すごい偶然ですねー

ヽ爪'ー`)ゝ

薄汚れたコンクリートの壁に沿って半周、少しづつ深まる霧の向こうで、小さな影がひらひらと揺らめいていた
その正体が身の丈に合わぬ大きなパーカーを羽織った人間であると気付いたのは、そこからさらに10メートルほど歩いた後のことだ

('、`*川 おーっす、あんたがタカラ?

彼女がそう呼びかけると、私達に背を向けていた人影がくるりと振り返った
高校1年生くらいだろうか? まだ幼さの残るその顔立ちに、私は何か薄ら寒いものを感じた



127 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:48:58 ID:nUEqljLU0
( ,,^Д^) そうだけど……あんたら誰?

少年は訝しげに私達を眺めた後、そのように訊ねてきた。なるほど当然の疑問だ
その質問を聞いて彼女はふふんと鼻を鳴らし、自慢げに胸を突き出した

('ー`*川 私はペニサス。この街の管理人からの依頼により、これからあんたを保護するわ

( ,,^Д^) 保護? なんで?

('、`*川 今のあんたの体はね、あんたが思ってる以上に衰弱してるのよ

('、`*川 聞いた話じゃここ何日か、食事は全部内藤の所で済ませてるそうじゃない

( ,,^Д^) 内藤? ああ、ブーンのおっちゃんのところか

( ,,^Д^) 確かにそうだけど、それがどうかした?

('、`*川 このままそれ続けたら、あんたもうすぐ死んじゃうよ?

( ,,;^Д^) ハァ!?

ζ(゚ー゚;ζ ちょっとペニサスさん、ストレートすぎません!?

('、`*川 あらそう? わかりやすくていいと思ったんだけど

128 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:50:11 ID:nUEqljLU0
( ,,;^Д^) 死ぬって……そんなこと、あるわけね―じゃん!?

「あなたはラーメンを食べ続けました。だからもうすぐ死にます」
あまりにも唐突で荒唐無稽な余命宣告に、目の前の少年は随分と狼狽しているようだった
彼女は「ちょっと持っててくれる?」と私に弁当を預け、数歩だけ少年に歩み寄る

('、`*川 色々と納得出来ないこともあるだろうけど、今はとりあえず私の言うことを聞きなさいな

('、`*川 また今度、この街がどういう場所なのか詳しく教えてあげるから。ね?

( ,,;^Д^) ば、馬鹿にすんなよな! この街が変なトコだってのは知ってるぞ!

( ,,;^Д^) えーっと……アレだろ、記憶が見えるんだろ!?

('、`*川 知ってる奴は三食内藤で済ますなんて狂ったことはしないのよ。死にたくないからね

( ,,;^Д^) だからどーゆーことだよそれ!? 意味わかんねーよ!

「やっぱり分かってなかったんじゃない」と深い溜め息をついて、彼女はさらに歩みを進める
彼女が少年の真横に辿り着き、勢いそのままにがしりと肩を組むと少年は小さく悲鳴を漏らした
……ペニサスさん、その説得の方法は、カタギの人間がしていいものではありません

('、`*川 よーく思い出してみなさい? 内藤もあんたに何か言ってたでしょ?

('、`*川 例えばそうね、あいつのことだから……「ちゃんとした栄養ある物も食べないと死んじゃうお?」とか、言ってなかった?

( ,,;^Д^) あ……

129 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:50:54 ID:nUEqljLU0
深い霧の中でもはっきりと、少年の顔から血の気が引いてゆくのが見て取れた
どうやら彼女の言葉に心当たりがあったらしい

('、`*川 その反応、図星ね。どうせ内藤があんたの健康を気遣って大袈裟なことを言ってるとでも思ってたんでしょうね

('、`*川 内藤は本気で止めようとしてたのに……駄目よ? 大人の言うことはちゃんと聞かなくちゃ

( ,,ill^Д^) う……ああ……

('、`*川 図星ついでにもう一つ当ててあげる。あんたこの辺りの人間じゃないでしょ?

('、`*川 大方この街の噂を聞いて、興味本位で遊びに来たってところね。当たってる?

彼女の問いに、少年からの返事は無い
もしかすると、もはや答えることすらも出来ないほどに、少年の心は追い詰められているのかもしれない

('、`*川 この街はね、何も知らない人間が遊びで居ていい場所じゃないのよ

('、`*川 もう一度言うわよ? 黙って私達に保護されてなさい

('、`*川 じゃないとあんた本当に――――

( 、 *川 ――――死ぬよ?

( ,,; Д ) う、ああああああああああああああああああ!! ガバッ!

('、`;川 あっ!?

130 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:52:17 ID:nUEqljLU0
緊張が限界を越えたのか、少年は肩に回された腕を強引に振り解き、そのまま逃げるように数歩後退した
怯えた表情でこちらを睨みつける少年の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた

( ,,;^Д^) お、俺は信じねーぞそんなこと! お前、俺を騙そうとしてるな!?

( ,,;^Д^) 俺の体はどこも悪くない! 保護なんていらない! 近寄るな!

ζ(゚ー゚;ζ ちょっとペニサスさん、どうするつもりですか?

('、`;川 ……ごめん、怖がらせ過ぎたかも

ζ(゚ー゚;ζ ごめんじゃないですよ、もう!

ζ(゚ー゚;ζ ええっと、タカラくんだっけ? 私もよく分からないんだけど、言うこと聞いたほうがいいと思うよ?

( ,,;^Д^) アーアーキコエナーイ

ζ(゚ー゚;ζ うぅ……

少年はとうとう半狂乱に陥り、両手で耳を塞ぎながらブツブツと何事かを呟いている
まだまだ子供といっても差し支えのない年頃であろう少年に、彼女の説得は刺激が強すぎたらしい

131 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 09:58:48 ID:nUEqljLU0
('、`;川 ああもう、わかった! 保護するとか言わないから! ね?

('、`;川 とりあえず落ち着いて! お弁当持ってきたから一緒に食べましょ!?

と('、`;川 そしたらお家に帰っていいから、ね? スッ

( ,,ill^Д^) ビクッ

どうにかして落ち着かせようと、彼女は少年へ手を伸ばす。それがいけなかったのだろう
少年にとって彼女は既に恐怖の対象でしかなく――――

( ,,ill^Д^) 近寄るなって言ってるだろ!? ドンッ!

( 、 ;川 キャッ!? ドサッ

少年に思い切り突き飛ばされ、彼女は盛大に尻餅をついた
心配して駆け寄る私とフォックス君を、彼女は「大丈夫だから」手で制す
転んだ拍子に小石か何かで傷付けたのだろう。掌にぽっかりと空いた傷穴から血液が流れ出し、衣服の袖を汚していた

ζ(゚ー゚;ζ 血……

('、`;川 あ、やば……



::爪# ー )::

132 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 10:01:24 ID:nUEqljLU0
爪#'ー.:. ::,:  ;: ; , ;,;

フォックス君の体が霧に変わり、忘失都市の空気と混じり合う
うっすらと赤みを帯びたその霧は、周囲の霧を巻き込んで、ぐるぐると、ぐるぐると、大きな渦を生み出した
渦の中心にいるのは、あの少年

( ,,;^Д^) え……

渦巻く霧は渦の中心で少年の体に張り付いて、彼の姿を徐々に覆い隠す
少年は振り払おうと必死で手足を振り回すが、抵抗虚しく、霧が少年から離れることはない
私は本能的に、それが何か恐ろしいものであることが理解できた

ζ(゚ー゚;ζ タカラくんを助けなきゃ……

私がそう呟くと渦はぴたりと動きを止め……次の瞬間、何条もの帯が視界に飛び込んできた
目に痛いほどにくっきりとした赤と黄色。黒字で書かれた「KEEP OUT」「DANGER」という単語
どこからともなく現れた沢山のポリステープが私と少年を隔てる壁となった

ζ(゚ー゚;ζ あっ!?

('、`;川 ……無駄よ。ああなったらもう誰にも止められない

('、`;川 私が怪我したこと、随分怒ってるみたいね

133 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 10:06:21 ID:nUEqljLU0
ζ(゚ー゚;ζ これ、フォックス君がやってるんですか?

('、`;川 あの子ひとりの仕業ってわけじゃないけどね

('、`;川 周囲の記憶に働きかけて協力してもらってるのよ

ζ(゚ー゚;ζ 周囲の記憶……それでこんな大きな渦ができてるんですね

('、`;川 何十か、何百か、具体的な数はわからないけど、とにかくそういうことよ

私達がそんなことを悠長に話している間にも、回転を再開した霧が少年を徐々に包み込む
渦の大きさも、初めと比べると随分と小さくなっているようだ

.::,,;;^Д,;,;) おい! なんだよこれ!?

.:.::,;,;;Д;.::,l:,: な、なあ! 逆らって悪かった! 言うこと聞くよ! 謝るから! だから……

;,:;.:,;.;:.,;:.;:.;,,:,;.:, ……ね……いだ! た……け…………!

134 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 10:08:31 ID:nUEqljLU0
渦は完全に消失し、その代わりに仄かに赤みを帯びた霧の球が出来上がった
その様子を呆然と眺めていると、今度は先程まで複雑に絡み合って壁を形成していたポリステープが瞬く間に解れ、移動を始める
何条ものポリステープが霧の球に取り付いて、巻き付き、張り付き、絡み付き、一回り大きな球となる
赤、黄、黒の斑模様。見る者の恐怖を喚起する、暴力的な警戒色

ζ(゚ー゚;ζ あ……

('、`;川 あー……

('、`*川 あの球の内部はね、今あんたも見た通り、非常に高い濃度の霧の塊

('、`*川 霧……まあわかってると思うけど、記憶のことよ

('、`*川 あのタカラって子は、記憶で満たされた空間に閉じ込められた。もうすぐ記憶達による「制裁」が始まるでしょうね

ζ(゚ー゚;ζ 制裁? 何をされるんですか?

('、`*川 安心して、死にはしないわ。内緒にしてたけど、記憶は私達を肉体的に傷つけることなんて出来ないから

('、`*川 記憶によって痛みを感じたとしてもそれは幻、実際の体にはかすり傷一つついていない

('、`;川 まあもっとも、死なない代わりに……

ζ(゚ー゚;ζ その代わりに?

('、`;川 ちょっと、ほんのちょっと……すごーく嫌な思いをすることになるでしょうけど

ζ(゚ー゚;ζ え?

135 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 10:10:41 ID:nUEqljLU0
「う、うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!!?」

ζ(゚ー゚;ζ この声……いったいどうなってるんですか?

耳を裂くような、という表現が似つかわしい少年の叫び声が、球の内部から聞こえてきた
その様子を申し訳なさそうに眺めながら、彼女は語り出した

('、`;川 私も実際に体験したわけじゃないから詳しくはわからないけどね?

('、`;川 あの球を形成している記憶の殆どは、ネガティブというか、ショッキングというか……

('、`;川 とにかく、あまり楽しくない記憶が詰まってるって話よ

ζ(゚ー゚;ζ ……それで、どうなるんですか?

('、`;川 モララーは「ありったけの恐ろしい記憶をいっぺんに体験することになる」って言ってたわ

('、`;川 「トラウマになってもおかしくない。決して忘れられない思い出になるだろうね」だってさ

ζ( ー ;ζ うわぁ……

忘れることが出来ないほどに強烈な恐怖体験
果たしてあの球の内部では何が起こっているというのだろうか

136 名前:同志名無しさん[sage] 投稿日:2013/04/14(日) 10:12:12 ID:nUEqljLU0
ζ;゚ー゚)ζ          ウワアアアアアアアア! タスケテクレ! ダレカ! ダレカ!>



ζ; ー )ζ             クマ! クマァ!? クワレル! クワレル! シヌゥゥゥゥゥゥゥ!>



ζ*////)ζそ        ソンナトコロイジッチャラメェ! ラメナノォ! …アッ……>



::ζill )ζ::         アア! マドニ! マドニ!>







……本当に、何が起こっているというのだろうか



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