ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

Last case:憑依罪/中編

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285 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 21:49:40 ID:W0iIunUcO


(*゚ー゚)「──被告人が三森ミセリ憑依事件を起こしたのは8年前」

 休憩が終わって。

 既に何度目かの説明を前置きとし、しぃは書類を左手で叩いた。
 今度は、つきまとい罪の話だ。

(*゚ー゚)「それまで7年間は何もありませんでしたが
     昨年の夏から、被告人は被害者の周りに出没するようになりました」

(*゚ー゚)「少なくとも、二度目撃されています。
     いずれも発見者のおかげで退散していますが」

【+  】ゞ゚)「何か被害があったわけじゃないんだろう? 被害者の病室に二回現れただけで。
        つきまとい──と言えるのだろうか」

 被害がなかったのは、発見者たちのおかげだ。
 そう言って、しぃが続けた。

286 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 21:51:09 ID:W0iIunUcO

(*゚ー゚)「昨年の7月、最初の目撃者から通報があった際に、
     警察は三森ミセリの病室から猫の毛を発見しています」

(*゚ー゚)「それから、実家や、彼女が昔住んでいたアパートを調べました。
     もしも病室の闖入者が『真犯人』だったのなら、そしてそいつが身軽な猫ならば、
     三森ミセリの身辺を嗅ぎ回っていたかもしれない、ということで」


 結果、ミセリの実家やアパートの周辺にて、これまた猫の体毛を発見。
 読みは当たっていたわけだ。


【+  】ゞ゚)「被告人、毛が抜けすぎじゃないか。大丈夫か」

川 ゚ 々゚)「大豆とか牡蠣がいいらしいよー」

(;,゚Д゚)「いや、今は人間の姿だからちょっとアレに感じるかもしれないけど、本来の姿は猫だから。
     犬猫に擦り寄られると服に毛がいっぱい付いたりするし、そんなもんなんだと思うわよ。
     ……あとは猫又だし、年齢とかも、ほら……」

 ツンはロマネスクの頭に視線をやりかけ、物凄く睨まれたので目を逸らした。

287 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 21:52:38 ID:W0iIunUcO

(*゚ー゚)「ともかく、被告人は執拗に三森ミセリの周りをうろついていたんです。
     目的は彼女の息の根を止めるため」

ξ゚ -゚)ξ「……」

 思うところがあり、片手を挙げた。
 別に挙手制ではないが、何となく。
 どうした、とオサムが問うたのを発言権の取得と見なし、ツンは単刀直入に疑問をぶつけた。

ξ゚听)ξ「これまでの憑依事件だとみんな亡くなってるのに
      どうしてミセリさんだけ生きているのかしら?」

 しぃが答えようとしたが、僅かに詰まった。
 代わってギコが応じる。

(,,゚Д゚)「毎回上手くいくもんでもないでしょ。
     上手くいかなかったからこそ、今度こそトドメを刺そうと付きまとってたんじゃないの?」

ξ゚听)ξ「7年間放置してたのに?
      どうして去年になって再び現れたのか……」

 それには、今度こそしぃが。

288 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 21:53:27 ID:W0iIunUcO

(*゚ー゚)「裁判が行われたからでしょう」

川 ゚ 々゚)「裁判……トソンの?」

(*゚ー゚)「そうです。去年、最初に病室で被告人が発見されたのは7月13日でした。
     その6日前、7月7日に我々は三森ミセリ憑依事件の裁判を行っています」

ξ゚听)ξ「誤認逮捕だったわけだけどね」

 しぃが睨んでくる。が、事実は事実なので強くも出られないらしい。何も言ってこない。

 被告人はトソンだった。
 ありがとう、と泣いて礼を言っていた彼女の顔を簡単に思い出せる。

 彼女は今──

ξ--)ξ

 額を押さえる。
 集中。今は審理に集中しないと。

289 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 21:54:50 ID:W0iIunUcO

(*゚ー゚)「過去の事件が今になって取り上げられたのを知り、焦ったんです。
     司法は『真犯人』が別にいるという結論に至った、これでは新たに捜査をされてしまう──と」

(*゚ー゚)「被害者は同時に目撃者でもある。決定的な証言をされてしまう前に始末しなければならない……
     そう考えたのでしょう」

ξ゚听)ξ「それで、ミセリさんを殺すために彼女を探していたってこと?
      だから──彼女の実家や、昔住んでたアパートに痕跡があったって?」

(*゚ー゚)「何か問題が?」

ξ゚听)ξ「実家はともかくとして、昔のアパートなんて、どうやって辿り着いたのかしら。
      彼女がそこに住んでたのは7年も前だし、事件直後に家族の手によって解約させられてるわ」

(*゚ー゚)「おばけならいくらでも探せますから」

ξ゚听)ξ「そうだけど。でも検事の主張だと──
      実家やアパートを探した後、ようやくミセリさんが入院してるのを突き止めたってことになるわよね」

(*゚ー゚)「別におかしくはないと思いますが」

ξ゚听)ξ「7年も入院している病院より、7年前に住んでたアパートの方を先に知るって、
      何だか変な気がするの」

 しぃが、瞳を斜め上に向けた。
 かと思えば机を見下ろし腕を組む。

290 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 21:56:22 ID:W0iIunUcO

ξ゚听)ξ「それに、真犯人なら、ミセリさんが入院した時点でその情報を得ると思うのよね。
      殺しきれなかった相手がどこにいるかってのは気になる筈だし」

(*゚ー゚)「当時は気付かなかったんじゃありませんか。
     以降も他県で同様の事件を起こしていたのを考えると──
     三森ミセリを殺したと思い込み憑依を解いた後、すぐにこの地を離れたのでは?」

ξ゚听)ξ「昨年再びこの町に来て、たまたま裁判のことやミセリさんが生きていることを知り、
      自分に嫌疑が掛かるのを恐れて、ミセリさんを今度こそ殺そうと決めた?」

(*゚ー゚)「って流れでしょうね」

ξ゚听)ξ「でもさ。それなら、この町をうろついてミセリさんを狙い続けるより
      さっさと別の土地に逃げた方が安全じゃない。
      猫の姿にも人の姿にもなれるんだから、ミセリさんに見られてない方の姿をとればもう絶対大丈夫だわ」

ξ゚听)ξ「なのにさあ……。去年の夏に二度も目撃されたってのに、
      この町に残り続けたっておかしいと思わない?」

(;*゚ー゚)「う」

(,,゚Д゚)「そう言われるとそうよねえ」

 腕を解き、しぃが視線を彷徨わせた。
 隣のギコは口元に手を当てて、浅く頷いている。

291 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 21:58:46 ID:W0iIunUcO

ξ゚听)ξ「しかも11月には、私やあなたにまで遭遇してるのよ。
      それでもここに居続けた」

【+  】ゞ゚)「ああ、そういえば検事から聞いたな、昨年」

 傍聴席がどよめく。
 しかし、しぃが顔を上げると同時に収まった。
 彼らも議論の流転に追いつこうと、こちらの挙動に注意を向けているのだ。

(*゚ー゚)「──何が何でも、三森ミセリを殺そうと思っていた、と仮定すればいかがでしょう」

ξ゚ -゚)ξ「……ん」


 ミセリを執拗に狙ったのは、彼女の口を塞ぐため、ではなく──

 ひたすらにミセリを殺したい一心で、ということ。

.

292 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:01:34 ID:W0iIunUcO

ξ゚听)ξ「……そこまでミセリさんに固執する理由は?」

(*゚ー゚)「過去に怨恨があった」

 それはまた。思い切った方向転換だ。
 だが、突拍子がないとも言えない。


   『元より、ミセリを殺せなければ己を殺すと覚悟していた身』──


 彼とミセリには、「何か」がある。

(*゚ー゚)「三森ミセリの母親の実家がG県のサロン市にあります。
     ラウン寺があるのと同じ土地だ。実家と寺は、近いとは言えないが遠くもない位置関係にある」

ξ゚听)ξ(あら、そう来るの)

 検察側からその情報を出してくるか。
 そろそろこちらから言おうと思っていたのだが。

293 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:02:41 ID:W0iIunUcO

(*゚ー゚)「で、あるなら──彼女と被告人が顔見知りだった可能性はゼロではない。
     何か尋常ではない関わりを持っていた可能性だってある」

(,,゚Д゚)「だからミセリさんが昔住んでたアパートも知ってた、ってこともあるかしら?」

(*゚ー゚)「ああ。……そうだな、そう考える方が自然かもしれん。
     まあ本人に確認をとらなければ、どうにも。
     ──いかがです、被告人。三森ミセリと過去に確執がありましたか?」

 ツン、しぃ、ギコ、オサムとくるう──全員がロマネスクを注視する。
 ロマネスクの表情は、つい先程から強張ったままだ。


( ФωФ)


 相変わらず睨むような目付きだが、反発は寧ろ薄い。
 何かしらの意思が瞳に込められている。

 それは決して──しぃの言葉を否定するものではない。

294 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:04:13 ID:W0iIunUcO

(*゚ー゚)「……どうやら当たりのようだ」

 満足げに頷くしぃ。
 ロマネスクは猫目を右方に寄せた。気まずそうな仕草に見えて、意外だった。

【+  】ゞ゚)「被告人と三森ミセリが知り合いだった、か」

(*゚ー゚)「個人的な恨みを持っており、8年前の事件を起こした。
     しかし昨年になってそれが失敗していたことに気付き、次こそはと
     しつこく付きまとうようになった──」

川 ゚ 々゚)「それなら、他の被害者ともそういうのがあったんじゃないの?」

(*゚ー゚)「そちらは前々から調べてあります。
     しかし、三森ミセリ以外の被害者との間には接点らしきものは何も……」

(;,゚Д゚)「何十人もの相手に怨恨を、ってなったら、それはそれで問題だしね」

(*゚ー゚)「なので、三森ミセリが特別だったと見てよろしいかと」

 「ミセリが特別だった」。
 その結論は、ツンの胸にすとんと落ちた。

 しかし、そうなり得る事情とは何だろうか。
 ミセリがロマネスクの恨みを買う理由とは。

295 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:05:27 ID:W0iIunUcO

 ──では最後に殺霊罪。
 言って、しぃが書類をめくる。

(*゚ー゚)「被害者は3体。
     内2体は、その日三森ミセリの病室の警護に当たっていたおばけです」

(,,゚Д゚)「うちの──猫田家の当主のね、でぃ様が持ってる使役霊だったわ」

 それなりに強く、コントロールも利くおばけとなると限られてくる。
 猫田家で所有している霊が駆り出されることが多かったらしい。

 ──事件は同日に二度起きている。
 一度目の被害者が、その使役霊たち。

296 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:07:33 ID:W0iIunUcO

(*゚ー゚)「2月1日、午後11時頃。
     我が家の、……猫田でぃの部屋にて、使役霊2体の『依り代』が突然壊れました」

 猫田家では、使役の契約を交わした霊の多くは人形なり何なり、「物」に憑かせて保管するという。
 必要なときに霊を取り出し、用が済めば戻す。
 そのための「物」を、便宜上、依り代と呼んでいる。

 依り代に縛りつけられた時間が長ければ長いほど、その依り代と霊の繋がりは強固となり
 いわば半身のようなものになる。

 その依り代が、触れてもいないのに壊れたとなれば。
 霊の身に何か良からぬ──「何か」と暈かす意味もないが──事態が起きたと見ていい。

(;,゚Д゚)「……実はそのとき、叔母様──えっと、でぃ様が
     そのことをあたしに話しに来てたらしいんだけど……
     丁度あたし、シャワー浴びててね、会えなくて。翌日になってから聞いたの」

(#゚ー゚)「明らかに異常事態なのに『いないなら後でいいわ』と引き下がったあの人がおかしいんだ!」

(;,-Д-)「しぃ」

 ありゃあ、たしかに変わった人だから。そう呟く声が傍聴席から聞こえた。
 しぃの母親は些か浮き世離れしたところがある。

 ギコに宥められたしぃが、咳払いを一つ。

297 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:08:30 ID:W0iIunUcO

(*゚ー゚)「……翌日になって探しましたが、2体とも見付かりませんでした。
     喰われるか何かして消えてしまったのでしょう」

 また、ここでもやはりロマネスクの体毛が病室で見付かっている。
 人が死んだ場所、霊が消えた場所。そういった現場にばかり痕跡を残しているのだから
 彼を犯人とするのは当然の流れだ。

 続いて、二度目の事件へ話は移る。


(*゚ー゚)「もう1人の被害者は、都村トソン。浮遊霊で、三森ミセリの旧友でした」


 既に──慣れてしまったのだろうか。
 今度は、深い感慨も湧かなかった。

298 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:14:24 ID:W0iIunUcO

(*゚ー゚)「正確な時間は分かりませんが、11時から12時までの間に一度、
     病室のナースコールが鳴ったため看護師が病室に行ったそうです。
     が、三森ミセリに異変はなく、他に誰もいなかったため、機械の誤作動という結論になった」

(*゚ー゚)「しかし朝になり別の看護師が病室を訪れたところ──
     都村トソンの私物が落ちていたのを発見しました。
     ベッドの下に潜り込んでいたというので、夜には気付けなかったのでしょう」

 これです、と憑依許可書をオサムへ見せる。
 過去の裁判でも扱った証拠であるため、オサム達にも馴染みはあろう。

(*゚ー゚)「消灯前の清掃時には、こんなものはなかった」

(,,゚Д゚)「トソンさんは一般霊だから、警備がいたならば病室には入れてもらえない。
     にも関わらずトソンさんが部屋に入った痕跡があったってことは──」

【+  】ゞ゚)「警備の霊が殺された後に病室を訪れた」

(,,゚Д゚)「そういうこと。──そこで被告人と鉢合わせたんじゃないかしら」


 そして。
 殺された。


( +ω+)

 ロマネスクの顔はもう、先程のような揺らぎを消していた。
 この話は──彼の心に触れるほどのものではないのか。

299 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:16:14 ID:W0iIunUcO

(*゚ー゚)「ナースコールは、間際に彼女が鳴らしたものでしょう。
     そのため被告人は逃げざるを得なくなり、またも三森ミセリの殺害に失敗した」

 失敗。また失敗。
 それだけ聞けば、ひどく間抜けな犯人だ。

 しかし他の点を踏まえると、途端に齟齬が生じる。


ξ゚听)ξ「……何故、最初は殺さなかったの」

(*゚ー゚)「……」


 極めて短い問い掛けだったが、しぃは理解したようだ。
 というより、気付いていながら敢えて口にしていなかっただけだろう。

300 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:17:44 ID:W0iIunUcO

ξ゚听)ξ「昨年の夏、最初にトソンさんと遭遇したときは何故逃げたの?
      ドクオさんのときも……。
      ──警護についてた強力なおばけを簡単に殺せる力を持っていながら、
      どうして昨年はただの一般霊を見逃していたの?」

(*゚ー゚)「それは」

 恐らく反射的に口を開いたのだろう、続きの言葉は出なかった。
 たしかに、とオサムがくるうと顔を見合わせている。


 これは──検察の論旨は、不完全だ。

 重要な情報が欠けている。
 というか。ツンが、故意ではなかったにしろ、隠してしまっていた。


ξ゚听)ξ「……アサピー!」

 しぃを見つめたまま、叫ぶ。
 何の脈絡もなく呼ばれた名前に、ほとんどの者が呆気にとられた。

301 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:18:59 ID:W0iIunUcO

ξ゚听)ξ「どうせ居るんでしょ。ちょっと来て」

(-@∀@)「……ハイハイ、何ですかセンセイ、僕が恋しくなりました?」

 癇に障る声を吐き出しながら、白衣の呪術師が傍聴席から現れた。
 仕切りのロープを越えて、弁護人席へ近付いてくる。

 絶対に来ているだろうと思った。
 本当は来ていなかったらどうしようかと少し不安だった。

 隣に立つアサピーを見上げる。

 この男は。思考が全く読めない。
 今、何を考えている。
 ここでツンに呼ばれたことをどう思っている。

川 ゚ 々゚)「アサピーだー」

(;*゚ー゚)「何です、何でここで彼が……」

 ツンは、鞄から紙を取り出した。
 小振りの白い紙──休憩室で、ロマネスクが反応を示した紙。
 カウから預かった紙。

302 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:20:05 ID:W0iIunUcO

ξ゚听)ξ「……これは、その殺霊事件の日──ナースコールを聞いて病室を訪れた看護師が
      ミセリさんの手元から発見したものです」

(;*゚ー゚)「は!?」

(;,゚Д゚)「何で隠してんのよお! あんたしぃのこと言えないわよ!」

ξ゚听)ξ「ごめんなさい、ちょっと色々あってね」

303 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:21:22 ID:W0iIunUcO


   ( ФωФ)『なぜ貴様が──』


 あのとき覚えた違和感。
 ロマネスクは、紙そのものではなく、ツンがそれを「持っていること」に疑問を向けた。

 あのとき覚えた既視感。
 この紙の大きさ、感触。すぐには気付けなかったが、今なら分かる。
 これは──


ξ゚听)ξ「アサピー。……あんたが使ってたメモ紙と同じだわ、これ」


 アサピーがワカッテマスの住所を記し、ツンに寄越したメモ用紙と、同種のものだ。

305 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:22:45 ID:W0iIunUcO

(-@∀@)「……ハァ」

 しん、と法廷に静寂が満ちる。

 理解したギコが息を吸い込む音が、ツンの耳に届くほど。

(;,゚Д゚)「──それじゃあ……」

(;*゚ー゚)「彼が病室にいたということか!?」

 しぃが机を叩き、身を乗り出した。

 傍聴席のあちこちで声があがり、混ざり合って、ざわざわという雑音になる。
 オサムは木槌で制すのも忘れ、アサピーを凝視していた。

ξ゚听)ξ「待って、それはまだ分からないわ。
      アサピー、あんたが使ってるメモ帳を見せてちょうだい。
      まずは、それがよく出回ってるものなのかどうか確認する」

 手帳に挟んでいた、ワカッテマスの住所が書かれた方の紙も持ち上げる。
 並べてみれば、やはり同じサイズ、同じ紙質。

306 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:23:47 ID:W0iIunUcO

 結果によっては──この男から、アサピーから、話を聞かねばならない。

 睨み上げると、アサピーはしばらくツンの顔を見下ろして
 かくんと首を傾げた。

(-@∀@)「ないデス」

ξ#゚听)ξ「……アサピー」

(-@∀@)「イヤ。メモ帳の紙じゃないんデス、それ」

 僕が普段使うのはこっち──
 白衣のポケットから、二回りか三回りも大きなメモ帳を取り出してみせた。

 白紙とメモ帳を見比べる。2回。3回。4回。
 めくってみる。やや黄色がかったクリーム色。薄めの罫線。
 少しざらざらしている白紙と違って、メモ帳の方はつるつるしている。


 別物だ。
 ツンの勢いが削がれるのに合わせて、傍聴席の声が収まった。

309 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:26:19 ID:W0iIunUcO

ξ;゚听)ξ「……じゃあこれは?」

(-@∀@)「外れくじですよう。オサム様の裁判で引かされた、傍聴席のくじ。
      メモに使おうと思って持ち帰ってたんです」

(,,゚Д゚)「あらほんと。あれくらいの大きさだったわ」

(-@∀@)「ホラよく見てください、正方形っぽいデスが、微妙に曲がってたりするデショウ。
      大きい紙を裁断して使った証ですな。
      病室で見付かったっていう方も外れくじじゃないですかネ」

 ──くじ。
 傍聴席の。
 くじ?

 一転して白けた様子で、しぃが呟く。

(*゚ー゚)「……都村トソンもくじを引いていたのでは?」

【+  】ゞ゚)「ショボンに確認してみるといい。
        都村トソンは裁判に関わったことがあるからショボンとも顔見知りだし、
        くじ引きの際に会ったのならショボンが覚えているだろう」

 たしかにトソンがオサムの裁判に来ていたとしてもおかしくはない。
 彼女も、オサムがどうなるのかは気になっただろうし。

310 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:27:10 ID:W0iIunUcO

ξ;゚З゚)ξ「……、……」

川 ´々`)=3 ハァ

 くるうにまで溜め息をつかれた。

 何だよそりゃ──興醒めした声が傍聴席から飛ぶ。
 縮こまるツンを、アサピーが頭を撫でて慰める。速攻で叩き落とした。

(,,゚Д゚)「とりあえず電話してみるわね」

ξ゚听)ξ オネガイシマス

 少し離れた場所へ移動して電話をかけるギコの後ろ姿を、ツンはじっと見つめた。
 しぃやオサムやロマネスクを見るのが、というか彼らからどんな目で見られているのか確認するのが恐かったので。


 通話はすぐに終わる。
 結果は大体予想がつく。恥ずかしい。

 だが。

 検察席に戻った彼は、戸惑いを覗かせていて──
 ツンとしぃは、眉根を寄せた。

311 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:27:47 ID:W0iIunUcO

川 ゚ 々゚)「どうだったの?」

(;,゚Д゚)「えっと……まず、トソンさんは来てなかったそうよ。
     それと──」

 いわく。
 ゴミ箱を用意していなかったせいで、紙をその辺に捨てていく者がいたため
 その対処として、外れくじは職員がその場で回収するようにしたのだという。

(;,゚Д゚)「だから──くじを外に持ち出した人がいるなら、
     早い段階で旧校舎を出た人だろうって……」

 羞恥と決まり悪さでふわふわ浮いていた気持ちが、すぐに、体に戻ってきた。
 手に力が篭る。足元に熱が回る。

ξ゚听)ξ(……トソンさんが来てなかった?)

 それなら──じゃあ、この外れくじは。
 一体誰の。

312 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:29:05 ID:W0iIunUcO

(;*゚ー゚)「……誰がくじ引きに来てたのかは分からないのか?」

(;,゚Д゚)「んな無茶な」

(;*゚ー゚)「逃げ回っていたロマネスクが法廷になんか来る筈がない! 別の者が引いたくじだ!
     それは、それじゃあ、そうなったら、つまり、
     ──我々の把握していない『誰か』が現場にいたということだぞ!!」

 何てものを隠してくれたんだとしぃがツンへ怒鳴る。

 ツンは謝罪も出来ずにいた。
 思考を回す。浮かぶ事柄はたくさんあれど、全てが壁にぶつかる。進まない。

(;*゚ー゚)「裁判長、今日のところは閉廷を!」

 そうするべきだ。
 今は、このくじについて調べるのが何より優先事項。

 だが。

ξ;゚听)ξ「……ロマネスクさん!」

 裁判長へ向けて叫んだしぃとは逆に、ツンは、被告人へ呼び掛けた。

313 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:30:32 ID:W0iIunUcO

ξ;゚听)ξ「ロマネスクさん、お願い! 何か──何か知ってることがあるのなら、
      私達が何か間違ってるなら教えて!」


 このまま閉廷したとして、すぐに捜査に乗り出してもタイムラグがある。

 もしもくじの持ち主がそれを察知してしまったら──その者が事件にどう関わっているか分からないが──
 こちらが出遅れている間に、望まぬ展開へ持ち込まれてしまうかもしれない。

 今この場で、少しでも手掛かりを得なければならない。

 彼は、この持ち主不明のくじについて何かを知っている。

314 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:31:12 ID:W0iIunUcO

( ФωФ)

ξ;゚听)ξ「一つだけ! ……一つだけでいいから……あなたの言いたくないことは言わなくていいから、
      ……お願い……」

( +ω+)

 しかし、ツンの必死の願いも、ロマネスクには響かない。
 被告人、としぃが怒鳴る。
 オサムが木槌で宙を打つ。
 誰の声も音も、彼の考えを揺らさない。

(-@∀@)「話せば彼が不利になるようなコトなのデハ?」

 違う。
 彼は、有利なことも不利なことも、何も言わない。

 何が彼をそこまで黙らせる。
 どうしたら彼の口をこじ開けられる。

 ツンは机に手をつき、その手を固く握り締め──


( <●><●>)「ロマネスク!」


 ──響いた声に、力を弱めた。

315 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:33:08 ID:W0iIunUcO

 傍聴席の3列目。
 ワカッテマスが、立ち上がっている。

【+  】ゞ゚)「あれは?」

(;,゚Д゚)「ワカッテマスさん……被告人を逮捕する切っ掛けになった人だわ」

 ロマネスクは傍聴席に顔を向け、彼を視界に収めると、目を見開いた。
 今までその存在に気付いていなかったようだ。

(;ФωФ)「何故ここに──」

( <●><●>)「僕に借りがあるでしょう。いずれ返すと言ったでしょう。
       ……出連先生の頼みを聞いてやってください」

(;ФωФ)「……」

 初めてロマネスクが怒りや不快感以外の表情を見せた。
 驚き。戸惑い。

 丸い瞳でワカッテマスを見つめ、徐々に、その感情も失せていく。
 代わりに表れたのは──諦め。

317 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:35:11 ID:W0iIunUcO

( ФωФ)「……そうか……それならば──それならば、いいのである。お前がそう望むなら」

 呟き、のそのそと前へ向き直った。
 彼がワカッテマスへそこまで感情を向けたのが、予想外だった。
 彼にとってワカッテマスはどんな位置付けをなされているのだろう。

 これまでと瞳の色合いが変わった気がする。
 ロマネスクがツンを一瞥した。

( ФωФ)「我輩の話したいことを一つだけ──でいいのであるな」

ξ゚听)ξ「……全部話してくれるのが一番いいんだけれど」

( ФωФ)「ならば我輩は口を閉じる」

ξ゚听)ξ「そうよね。──ひとつでいい。……お願い」

( ФωФ)「……貴様らが思い違いをしている点を、一つだけ、指摘する」

 声に先程までの敵意はない。
 しかし、迎合もそこにはない。


( ФωФ)「……逆なのである」


 そうして彼が語った最初の一言は、それだけでは意味が分からなかった。

319 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:35:53 ID:W0iIunUcO

【+  】ゞ゚)「逆?」

( ФωФ)「8月。病室で我輩が見付かり、警備の霊に追われたという話。
       あれは逆である」

(;*゚−゚)「我々が欲しい情報は2月1日の──」

( ФωФ)「そのことと無関係でもない。どう関係あるのかは貴様らが調べればいい」

(;*゚−゚)「……」

(;,゚Д゚)「逆ってどういうこと?」


( ФωФ)「8月のあの日、病院に行ってみると
       警備の者が誰もいなかったため、我輩は病室に入った。
       すると見知らぬ男がミセリの傍らに立っていたのである。
       ……我輩が様子を窺っていると、男は突然振り返り『そこで何をしている』と訊いてきて──」

320 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:37:12 ID:W0iIunUcO


( ФωФ)「こちらが近付こうとしたら逃げ出したので、我輩はその男を追ったのである。
       地の利があったようで最後までは追いきれなかったが」


 以上だ、と締めくくり。
 ロマネスクが口と目を閉じる。

ξ;゚听)ξ

(;*゚ー゚)

(;,゚Д゚)

【+  】ゞ゚)

川 ゚ 々゚)

 一秒の沈黙の間に、様々なものがぐるりと脳裏を巡る。

321 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:37:50 ID:W0iIunUcO


 傍聴席の外れくじ。
 ロマネスクを追ったという嘘。
 ロマネスクに追われたという真実。


 示すのは、1人の男。


ξ;゚听)ξ「──裁判長!」

 どうして自分はこんなところに立っているのだろう。
 そんな逃避的な思考が浮かんで、次に唇を動かすのに間があいた。

322 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:38:10 ID:W0iIunUcO





ξ;゚听)ξ「ドクオさんを──鬱田ドクオさんを、証人として呼ばせてください!」





*****

327 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:40:47 ID:W0iIunUcO





 もう嫌だ。嫌だ。

 泣きたくない。
 もう。


( ;ω;)「ど、どく、お、さっ、」

 ブランコにしがみついたまま、後ろにいるであろう男を呼ぶ。
 どうした、と優しげな声が返ってきた。

331 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:42:42 ID:W0iIunUcO

( ;ω;)「僕に、と、取り憑いてください、憑依して、ください」

('A`)「……何で」

( ;ω;)「泣くの、止めて、くださ……っ」

 自分では涙を止められない。
 「内藤ホライゾン」は泣き止めない。

 別の誰かに体を制御してほしい。


 幽霊のせいでこんな目に遭った、と言っておきながら
 今度は幽霊に頼るなんて。
 本当に、どっち付かずだ。

( ;ω;)「おねがいします、ドクオさん、おねがいします……」

334 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:43:51 ID:W0iIunUcO


('A`)



( A )





( ∀ )

.

335 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:44:24 ID:W0iIunUcO










   「ああ。いいよ」

.

336 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 22:44:40 ID:W0iIunUcO



Last case:続く

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