ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

Last case:憑依罪/後編

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442 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:17:24 ID:bwAoZRz2O

ミセ*゚ー゚)リ『ロマのお腹やわらかい』

 触るな。

ミセ*´ー`)リ『もっふもふだあ』

 触るな!

ミセ;゚ー゚)リ『ぎゃっ! 噛んだな!』

 自業自得だ馬鹿め。

ミセ*゚ー゚)リ『でも甘噛みだね』

 お前らはこっちが牙を立てれば大騒ぎするではないか。

ミセ*゚ー゚)リ『ロマは優しいねー。ほーら、もふもふもふもふ』

 ……。

443 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:18:17 ID:bwAoZRz2O

 ∧ ∧
(#ФωФ)『……だから! 気安く触るな!!』

ミセ;゚ー゚)リ『ぎゃああっ!? え!? しゃべっ、え!!?』

 ∧ ∧
(#ФωФ)『嫌がってるのが分からんか! 馬鹿女!!』

ミセ;゚ー゚)リ

 ∧ ∧
(#ФωФ) フーッ、フーッ

ミセ;゚ー゚)リ

ミセ*´ー`)リ『……すげー、ロマ喋れるんだあ。賢い賢い』ナデナデ

 ∧ ∧
(#ФωФ)『触るなと言っとろうに!!』ガブッ

ミセ;゚ー゚)リ『うわあああ今ちょっと本気で噛んだだろ!』

 この女、本当に嫌いだ。殺してやりたい。

444 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:18:40 ID:bwAoZRz2O



 Last case:憑依罪/後編


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445 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:19:51 ID:bwAoZRz2O

   ξ;゚听)ξ『ドクオさんを──鬱田ドクオさんを、証人として呼ばせてください!』


 あの発言から、20分ほど経過した頃。

 耳に当てた携帯電話が呼び出し音を鳴らす。
 二度目のコールで相手が出た。

『ようクソ弁護士。今夜が裁判じゃなかったのか。てめえの無様に負ける姿を見られなくて残念だ』

ξ゚听)ξ「こんばんは根暗検事。裁判は一時閉廷。ちょっと問題があってね」

『てめえの出る裁判で問題起きなかったことってあんのか?』

ξ゚听)ξ「……あなたと楽しくお話しする気分じゃないの。本題に入るわよ、お時間よろしい?」

 こつ。こつ。
 ツンの足音が、すっかり人気の失せた工場内に反響する。

 とうに閉廷を告げられ、傍聴人は外に出されて
 カンオケ神社の職員が椅子や机を片している。
 ストーブは沈黙し、夜気が温度を下げていった。

 電話越しに聞くニュッの声は、相変わらず人の神経を逆撫でするのが生き甲斐と言わんばかりだ。

446 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:21:26 ID:bwAoZRz2O

ξ゚听)ξ「あなたが寄越した日記と手帳のコピーは、ドクオさんに関わるものなの?」

『……その口ぶりだとまだ理解しきれてねえのか。
 お前そんな馬鹿だっけかなあ……がっかりしたわ』

『ニュッさんどの立場から言ってるんですか出連先生に2敗してる分際で。
 出連先生限定で勝率0パーセントですよ、0。ぜーろ』

『うるせえなわざわざ電話口に近付いて言うな! 顔ちけえよ!!』

『いやあああ! そんなとこ触らないでニュッさん! 出連先生助けてニュッさんが私に乱暴を!』

『てめえが近付くから胸に手が当たったんだろうが!』

ξ゚听)ξ「おいこら私まじめな話をしてるんですよ。じゃれてんじゃねえよテメェら」

 脱力して、ツンは弁護人席のパイプ椅子に腰を落とした。
 そうしてようやく、自分がひどく緊張していたのに気付く。
 一気に視界が広がったような心持ちに、自嘲めいた笑みが浮かんで、すぐに消えた。

447 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:22:52 ID:bwAoZRz2O

『そもそも2敗じゃねえし。8月の裁判は結果的に引き分けみてえなもんだし』

ξ゚听)ξ「はい?」

『負け惜しみ半端ねえっスよニュッさん』

ξ゚听)ξ「半端ねえっスよ」

『こっちの起訴内容はたしかに間違ってたが、てめえの弁護だって正しくはなかったろう』

ξ゚听)ξ「……どの点が?」

『鬱田ドクオが真っ白、ってとこだ。
 あれは──決して潔白な輩じゃねえ』

 結局、それが目的だったのだろう。

 「景品」として資料のコピーを送ったと言うけれど。その資料を読んだツンが
 ドクオの隠している「何か」を悟ることで、8月の裁判は
 決して真実──ドクオに関して──に辿り着けていなかったのだと知らしめるための。

 驚くべき負けず嫌い。
 それで引き分けとなる思考もよく分からないが。

449 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:23:39 ID:bwAoZRz2O

ξ゚听)ξ「それは、あなたが送ってきた資料で分かるのかしら」

『てめえで考えろ。そっちで何があったか知らねえが、お前の手助けになるようなことはしたかねえんだ』

ξ゚听)ξ「わざわざアンダーライン引いたりしてくれたくせに、それ以上は駄目なの?
      あなたの線引きがよく分からないわ。あ、洒落じゃなくってよ」

『……アンダーラインってなァ何の話だ』

ξ゚听)ξ「……書類に線引いたり矢印書いたり」

『知らねえぞ』

ξ゚听)ξ「あー……そう。分かった。
      ねえ、ドクオさんのお母さんの日記って、あれ特定の月だけ抜いたりした?」

『してねえよ』

ξ゚听)ξ「あとで指定した分をもう一回送ってちょうだい。着払いでも許すわ」

 通話を終了させ、携帯電話を見つめた。
 やがて画面が暗くなり、自身の顔を反射する。


 ──やられた。

450 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:25:03 ID:bwAoZRz2O

 コピーが届いた日。
 内藤を送るからと、小一時間ほどドクオに留守を任せてしまった。

 あのときに──手を加えられたのだ。

 考えてみれば、高崎美和の手帳のコピーは、抜けもなければ書き込みもなかった。
 そういったものが見られたのはドクオの母の日記だけ。


   ('A`)『……その女の物とカーチャンの日記、一緒にしないでくれ。たとえコピーでも』


ξ )ξ(ちっくしょー……)

 事務所として使っている部屋は特殊な結界が張ってある。
 霊が入るのにはツンの許可──ノックなどに対する「どうぞ」といった応答──が要るが、出るのは自由。

 ドクオが日記のコピーを移動させたことで、日記は部屋に残したままだったが、
 その他は段ボール箱に入ったまま廊下に出していた。

 故に彼は日記にのみ細工が出来た。
 他の資料には手を出せなかったのだ。そうするためには廊下に出る必要があって、
 そうしてしまえば、彼はツンが帰るまでは事務所内に戻れないからだ。

 箱も日記も、一緒に廊下へ移すべきだった。

452 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:27:47 ID:bwAoZRz2O

ξ゚ -゚)ξ「……」

 携帯電話をしまい、ツンはコートを羽織ると鞄を持ち上げた。
 職員へ会釈して工場を出る。

( <●><●>)「出連先生」

ξ;゚听)ξ「ぎょわんっ!!」

 いきなり真横から声をかけられ、飛び上がった。
 闇に佇むギョロ目、もといワカッテマスの姿は恐い。美形など関係ない。

ξ;゚听)ξ「な、何……びっくりした……待ってたの?」

( <●><●>)「はい。お疲れ様でした」

ξ;゚听)ξ「何かご用事?」

( <●><●>)「いえ。ただ、挨拶せずに帰るのもどうかと思いまして」

453 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:28:55 ID:bwAoZRz2O

ξ;゚听)ξ「そう。……さっきはありがとう。あなたのおかげでロマネスクさんが口を開いたわ」

( <●><●>)「お礼だったら、今度うちの店で僕を指名して高い酒飲んでいってくだされば結構ですが……
       ──ロマネスクはどうなりますかね」

ξ゚听)ξ「分からない。ドクオさん──証人の方がどうなるかによる」

 ワカッテマスが考え込む。
 「真面目に仕事してるんですね」という呟きは聞かなかったことにした。

 ふとツンは視線を下にやった。
 少女が、ワカッテマスに寄り添うようにしてツンを見上げていた。
 どことなく色が薄い気がした。色白ということではなく、全体的にぼんやりしているような。

ξ゚听)ξ「この子は?」

( <●><●>)「え?」

 ツンの視線を追ってワカッテマスが足元を見下ろしたが、
 いまいち焦点が少女に合っていない。

 そうだった、彼は霊感があるわけではないのだ。
 自室でのみ──それも夜限定──見えるだけ、と言っていたか。

454 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:30:31 ID:bwAoZRz2O

o川*゚ー゚)o「はじめまして……私、ビロちゃんの友達です」

 少女は、ぺこりと頭を下げた。

ξ゚听)ξ「ビロちゃんの友達って言ってるけど」

( <●><●>)「ああ、その子、最近うちに来るビロードとぽぽちゃんの友達です。
       幽霊裁判を見てみたいと言うので、僕と一緒にここへ」

ξ゚听)ξ「なるほどね。どうだった?」

o川;´ー`)o「難しくって、頭が痛くなっちゃった。ほとんど頭に入らなかったな」

 子供らしい返事に、ツンが微笑する。
 先の電話といい、心身をほぐしてくれるのがありがたい。
 同時に、穏やかでいる場合ではないだろうという焦りも湧く。

455 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:32:52 ID:bwAoZRz2O

( <●><●>)「挨拶もしたし、僕たち帰りますね。
       ──審理の内容って、ビロード達に話してもいいんでしょうか」

ξ゚听)ξ「まあ家族に話すくらいなら……大まかな内容であれば。
      ただし幽霊裁判知らない人に言い触らすのは困るかな。
      クラブでお客さんに話したりしたら、あなたは今後不思議ちゃんキャラとして扱われる恐れがあるわよ」

( <●><●>)「そうですね……正直、現実的なことではありませんからね。
       非常識なのは美しさだけにしておけと怒られかねません」

ξ゚听)ξ「分かるわー、現実離れした美貌を持ってると、それだけで敬遠されたりするものね」

o川;゚ー゚)o

 少女が何か言いたげな目でツンとワカッテマスを交互に見比べている。
 内藤がたまに見せる目付きに似ていた。ような気がする。

( <●><●>)「では今度こそ」

ξ゚听)ξ「さよなら。──近いうちにまたお邪魔すると思う」

 一礼して、ワカッテマスが踵を返す。
 立ち尽くしたまま青年と少女の背を見送っていたツンは、不意に目を見開くと、
 2人に向かって駆け出した。

 一瞬悩んでから、ワカッテマスの肩を引っ掴む。

456 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:33:58 ID:bwAoZRz2O

ξ;゚听)ξ「ちょっと!」

(;<●><●>)「な、何ですか!? やはり僕の体が目当てだったんですか!?」

ξ;゚听)ξ「何の話だ! 待って、女の子、その子の顔見せて!」

o川;゚ー゚)o「へ?」

 立ち止まった少女の前にしゃがみ込む。
 下から彼女の顔を覗き込んで、ツンは訊ねた。

ξ;゚听)ξ「……あなた、名前は?」

o川;゚ー゚)o「名前?」

458 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:34:54 ID:bwAoZRz2O

 ──くりくりした瞳。小さな口。真っ直ぐ肩まで伸びた髪。
 可愛らしい顔立ち。歳は、小学校高学年くらい。小柄。
 赤、というか濃いピンクのセーター。

 聞き覚えのある特徴。
 ロマネスクの方に掛かりきりで、人探しの件を進められていなかった。

o川*゚ー゚)o「名前……」

 少女は困ったような顔をした。
 恐々、答える。

o川*゚−゚)o「……覚えてないの……」



.

459 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:36:15 ID:bwAoZRz2O


o川*゚ー゚)o「──生きてる人間として暮らしてたような気は、うっすらあるんだけど。
      気付いたら道端に立ってて……」

 アパート、ワカッテマスの部屋。
 少女は、思い出し思い出し、訥々と話した。

o川*゚ー゚)o「あれから一ヵ月くらい、何か思い出せないかって
      ずっと歩き回ってるけど。まだ、何も」

ξ゚听)ξ「一ヶ月」

 「彼女」が事故で死んだのもだいたい一ヶ月前。
 時期も一致する。

 ツンはワカッテマスの弟、ビロードが淹れた紅茶に角砂糖を落とした。

( ><)「何か食べますか?」

ξ゚听)ξ「軽い洋食があれば」

(*><)「わかったんです!」

(*‘ω‘ *) ポッ

 ビロードが手早くホットサンドをこしらえてくれた。ツンの分と、それから少女にも。
 ワカッテマスが留守がちなので、家事はほとんどビロードがこなしているらしい。

460 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:37:25 ID:bwAoZRz2O

 ハムとチーズが挟まれたホットサンドに齧りつく。
 とろり、とろけたチーズが伸びる。ざくざくとしたトーストの食感にチーズのもちもちが絡んだ。
 塩気が程よい。

ξ*゚〜゚)ξ「うっめえ」

o川*゚ー゚)o「ほんとだ、おいしい」

 ツンの質問に些か身を固くさせていた少女が、表情と姿勢を緩める。
 続けて二口三口と頬張る彼女へ、ツンは隙を突くように問いかけた。

ξ゚〜゚)ξ「素直シュールって子、知ってる?」

o川*゚ー゚)o「素直?」

 少女の手と口が止まる。首を斜めに傾けて、宙を見上げた。
 なかなか思わしげな反応が返ってこない。
 休みなくホットサンドを貪りながら返答を待つツンを、ワカッテマスが生温い目で見ている。

 最後の一口となり、ツンが諦めかけた──ところで。

o川*゚−゚)o「……あ、何か……素直……聞き覚え……うう……?」

 少女は頭を押さえ、呻いた。
 片手に持ったホットサンドを皿に戻している。

462 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:38:27 ID:bwAoZRz2O

ξ゚听)ξ「出てきそう?」

o川*゚−゚)o「はっきり思い出せないけど、知ってる気はする……」

( ><)「先生はこの子と知り合いなんですか?」

 ビロードが耳打ちしてきた。
 知り合いではないけれで、と返し、彼女へ追加の質問をする。

ξ゚听)ξ「じゃあ、車について何か思い出せることないかしら」

o川*゚−゚)o「車……」

 また唸り出した。
 先程より激しい。
 大丈夫なんですか、と今度はワカッテマスが小声で問う。訊かれても、どうにも。

 少女は頭を掻きむしると、上半身を前に倒した。

o川;> -<)o「……事故……交通事故が……」

463 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:39:05 ID:bwAoZRz2O

ξ;゚听)ξ「──あなた、やっぱり」

(;<●><●>)「何なんですかこれは」

(;><)「あ、あの、苦しそうだし、その辺で……」

(;‘ω‘ *)"

 「ぽぽちゃん」が少女──素直キュートの背中を摩る。
 我に返ったツンは、苦しいなら無理に思い出さないで、と声をかけた。

 死の瞬間を再認識させるというのは、精神的に大きな負担となろう。
 特にキュートは、姉のことすら明確に思い出せぬほど記憶がごっそり抜け落ちている。
 それをいきなり埋める作業はショックが大きそうだ。

464 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:40:32 ID:bwAoZRz2O

 そこで、ふと気付く。
 まだ彼女自身のことを知らせていなかった。

 本人の情報を抜きにして、それ以外のことから思い出させようとしても、そりゃあ上手くいかない。

ξ゚听)ξ「……あの……あなた、多分、素直キュートって子なんだと思うの」

o川;゚−゚)o「……素直キュート……」

 キュートはしばらく考え込んでから、シュールって人は家族なんですね、と納得したように言った。
 まだしっかりとは思い出せないようだが、腑には落ちたようだ。

(*‘ω‘ *) ポッ

 ぽぽちゃんがキュートとツンを交互に見遣り、口元で空気を鳴らした。
 キュートの背を再び撫でる。

 一応、姉のシュールがキュートを探しているのだということも伝えておく。
 キュートがまた考え込み始めたので、それ以上は言わなかった。

 断片的に、ツンの発言が自分と関わりあるものだとは理解できるのだが、
 そこから発展した形では出てきてくれないという。

465 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:42:02 ID:bwAoZRz2O

ξ゚听)ξ「ひとまずお姉さんから依頼を受けている以上、あなたを見付けたことは話しておくわ。
      会ってみたら思い出せるかもしれないし、それまでここでゆっくりしてて」

o川*゚ー゚)o「うん……」

( <●><●>)「ここで面倒見るのは確定なんですか」

ξ゚ -゚)ξ「私のところに連れてくより、ビロード君たちと一緒の方が彼女も落ち着くでしょう。
      ただ、また行方不明になられちゃ困るから、無断で遠くに行かないでね」

o川*゚ー゚)o「はあい」

 短時間でツンから様々な情報を押しつけられ、彼女も疲れただろう。
 シュールにはキュートを見付けたと伝えておいて、いくらか日を置いてから対面させよう。
 それまでの間にキュートが記憶を取り戻してくれれば上々。

466 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:43:30 ID:bwAoZRz2O

(*><)「まあ──ともかく、家族に会えるんなら良かったんです!
      あ、これどうぞ、余っちゃって。紅茶とは合わないかもしれないけど」

ξ゚听)ξ「ありがと」

 明るく言って、ビロードが箱に入った饅頭を差し出した。
 薄皮にあんこがぎっしり詰まっていて美味い。
 キュートはあまり好みでないのか──というか心労のためか──、一口だけ齧って残りはぽぽちゃんにあげていた。

 嬉しそうに饅頭を頬張るぽぽちゃん、にこにこと彼女を見つめるビロード。
 2人を眺めていると、ツンの心が少し揺らいだ。
 今日はもう、このまま帰ってしまおうかと。

 しかし、この部屋には、もう一つ果たさねばならない用がある。
 そちらの用件を済ませるべく、ツンは顔の向きを変えた。

ξ゚听)ξ「ぽぽちゃん──さん」

(*‘ω‘ *)"

 饅頭を食い終えたぽぽちゃんが、顔を上げる。
 着物の袖口が揺れた。

 ツンは悩みながらも、問いを発する。

 どうか出番が来てくれるなよと、緊急時のための拘束札に手を伸ばしながら。



*****

467 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:44:36 ID:bwAoZRz2O



 ──結果から言うと、拘束札の出番はなかった。

(;‘ω‘ *)

 力なく項垂れるぽぽちゃんからは、怒ったり暴れたりする予感がしなかったからだ。

(;><)「……う──嘘なんです、ぽぽちゃんは……ぽぽちゃんは僕と……僕を……」

 彼女を見つめ、ビロードが呆然としていた。
 彼の目に涙が滲み始め、ツンは視線を逸らした。
 慣れない。人の絶望や悲しむ様を見るのに慣れる者などいるのだろうか。

(;><)「ぽ、ぽぽちゃんは僕に優しくしてくれたんです、……僕を一人にしないでくれたんです」

(;<●><●>)「ビロード」

 ぽぽちゃんに近付こうとしたビロードを、ワカッテマスが留めた。
 それは咄嗟の反応だったのだろうが、己の行動に、ワカッテマスは罪悪感めいた表情を浮かべる。

468 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:46:10 ID:bwAoZRz2O

ξ゚听)ξ「一緒に警察に行ってもらえるかしら」

(;‘ω‘ *)"

 警察という言葉と、それへ頷くぽぽちゃんに、ビロードの目尻からついに涙が落ちた。

 ──どうしたものか。
 警察への説明は、ツンの方からしなければならない。
 ぽぽちゃんに口を開かせれば──少々、厄介なことになる。

(。><)「……」

(;‘ω‘ *)、

(*<●><●>)「……やだなーもー! なんか暗ーいぞ! ちょっと笑おっか! ほらワカさんのスマイル真似て! にこっ☆」

ξ゚听)ξ

(*<●><●>)

ξ゚听)ξ「ちぎり取るぞ」

( <●><●>)「すみません空気に耐えきれず……」

471 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:47:56 ID:bwAoZRz2O

 いまいち話を飲み込めていないキュートを一度見遣ってから、ツンは携帯電話を取った。
 と同時に、携帯電話が鳴る。

ξ゚ -゚)ξ「む」

 しぃからの着信だった。丁度いいといえば丁度いいが、
 このタイミングでの彼女からの連絡は、ある種、不穏でもある。

 ワカッテマスに「失礼」と断って、ぽぽちゃんから目を離さずに電話に出た。

ξ゚听)ξ「検事? どうしたの?」

『鬱田ドクオが見付かりました』

ξ゚听)ξ「……そう」

 安堵と緊張が同時に訪れ、奇妙な心持ちだ。

 どこにいたの、と問おうとした。
 しかし、続けて発せられたしぃの言葉に、声を失う。


『内藤君に憑依していました。
 憑依を解いても内藤君が目を覚まさないので、病院に運びましたよ。
 鬱田さんに会いたいのならカンオケ神社へ、内藤君に会いたければヴィップ総合病院へどうぞ』



*****

476 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:49:42 ID:bwAoZRz2O

#####


ミセ*゚ー゚)リ『おーっすロマ。夏だね暑いねー』

 ああ、今年も鬱陶しいのが来た。

ミセ*´ー`)リ『お腹さわらせてー』

 暑いと言ったくせに、何故そうなるのだ。

 ∧ ∧
(#ФωФ) カーッ!

ミセ*゚ー゚)リ『おっ、今日も威勢いいね!』

 ∧ ∧
(#ФωФ)『寄るな!』

478 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:50:50 ID:bwAoZRz2O

ミセ*゚ー゚)リ『鳴き声は可愛いのに喋ると声がオッサンになるのは何なの……。
      ロマお腹すいてない? 煮干し食べる?』

 ∧ ∧
(#ФωФ)『いらん。貴様は毎回毎回そればかりだ。どうせ食わせるならもっといいもの持ってこい』

ミセ*゚З゚)リ『だって私が煮干し好きだしー。嫌なら食べなくていいよ』ポリポリ

 ∧ ∧
(#ФωФ)

ミセ*゚ー゚)リ『うま』ポリポリ

 ∧ ∧
(#ФωФ) カーッ

ミセ;゚ー゚)リ『欲しいなら欲しいって言えよ面倒くせえー!!』


#####

480 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:52:17 ID:bwAoZRz2O


(;'A`)「──だから! 俺は何もしてねえって!」

 何度も何度も繰り返している主張を吐き、ドクオは文机を叩いた。

 書類に書き付けながら、しぃは「落ち着いてください」と宥める。

(;,゚Д゚)「別に強制憑依でしょっぴいてるわけじゃないってばあ」

(*゚ー゚)「先程の裁判で被告人が──」

(;'A`)「俺が真犯人だっつったって話だろ? さっきから聞いてるよ!
    んな事実ねえし、内藤少年に憑依したのも悪意があったわけじゃねえ!!」

(*゚ー゚)「真犯人だとは言っていません。
     あなたの話と被告人の記憶が食い違っていると言っただけです。
     もちろん被告人が嘘をついている可能性もありますので断定はしていません」

(;,゚Д゚)「あと、外れくじの件もあるし……とにかく冷静に話しましょ。ね」

 ドクオは忌々しげにしぃ達を睨んで、乗り出していた半身を引っ込めた。
 去年つきまとい罪で逮捕されたときも、彼はこのような態度を見せていた。結果は主張通りに無罪で。

481 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:54:39 ID:bwAoZRz2O

 しぃはペンの上端でこめかみを掻き、書類を見下ろしてから、神社の拝殿内を一瞥した。

(*゚ー゚)「改めて訊きますが、内藤君に憑依していたのは何故……」

(;'A`)「内藤少年が取り憑けっつうから言われた通りにしただけだ。
    許可書の準備するような状況じゃなかったし、とりあえずの応急処置としてだなあ」

(*゚ー゚)「応急処置とは」

(;'A`)「学校で何かあったらしくて、家出して泣いてたんだよ!
    泣き止みてえが泣き止めねえから取り憑けって少年が──」

 家出して泣いた。あの内藤が。

 一時間半ほど前に道端で見付けた少年の顔を思い出す。
 言われてみれば目元が赤かった、かもしれない。


   (;,゚Д゚)『ブーンちゃん、こんな時間に何してんのよ……あ、ねえドクオさん見なかった?』

   ( ^ω^)『……俺に何の用だよ』


 ドクオに何か疚しいことがあるのなら、あのとき内藤らしい振る舞いをして、
 見ていない知らないと適当に答えて立ち去れば、それで良かった筈だ。

 正直に憑依していることを話し、こうして神社に付いてきたという事実はどう捉えればいい。

482 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:56:07 ID:bwAoZRz2O

(*゚ー゚)「内藤君が目を覚まさないほど消耗していたのはどう説明します?」

(;'A`)「少年が元から疲弊しきってたからじゃねえか、心身ともに……。
    正直、俺もよく分かんねえけどよ」

(,,゚Д゚)「病室にあったっていう外れくじは?」

(;'A`)「知らねえよ! 今の今まですっかり忘れてたし、もう見当たんねえし、どっかで落としたんだろうが……。
    病室にゃ行ってねえ。そもそも俺以外にも外れくじ引いて外に持ち出した奴はいるだろ」

 幾度か問答を続けているが、ドクオが嘘をついているようには見えない。
 しぃは文机に肘をつくと、手に頬を預け、長く息をついた。

(*゚ー゚)「これまで訊いた諸々を、裁判でも証言していただく。
     出廷していただけますね」

(;'A`)「……出ねえといけねえんだろ。
    くそっ、また人を犯人みてえに……!」

483 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:57:27 ID:bwAoZRz2O

(*゚ー゚)「僕が犯人だと思っているのはロマネスクだ。
     ただ、あなたが事件に無関係とは思えないので出廷を要請しているだけです」

(;'A`)「俺は検察側の証人なのか?」

 しぃは顔を軽く上向け、考え込んでから振り返った。

(*゚ー゚)「そういえばどっちだ、ギコ」

(;,゚Д゚)「知らないわよ。
     とりあえず、ツンがドクオさんをどう扱うか……」

(;'A`)「……弁護士の奴、俺を真犯人だって告発してやる腹じゃねえだろうな」

(*゚ー゚)「そうですね。あの人は何をするか分からないから」

(;'A`)「冗談じゃねえよ!!」

 たしかに冗談ではない。
 が、ツンならやりかねない。
 無罪判決のために、そういう展開に持っていくかもしれない。

484 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 19:58:23 ID:bwAoZRz2O

(*゚ー゚)(……新たな事実について捜査すべきだが、あまり猶予がないな)

 調べるべきは外れくじや、内藤とドクオのこと。
 本当に事件に関わっているのかはっきりしないドクオに対して、それほど強い拘束力は持てない。
 くじは、ドクオではない誰かの持ち物であった場合を考えると、すぐに対処しなければならない。

 爪を噛む。
 人手が必要だ。



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