ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

Last case:憑依罪/前編

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988 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:45:53 ID:1ORWN4EIO


 日付は変わり、午前0時半。
 猫田家の離れ。

 椅子に腰掛け、事務机に乗せた携帯電話を睨み続ける少女。

(*゚−゚)「遅い」

 学ラン姿の猫田しぃ。

 いつまで経っても鳴らない携帯電話に焦れ、じっとしていられず、椅子を回して振り返った。
 ファイルの並んだ棚の前に立つ。

(*゚−゚)「既に2時間近く経ってるぞ。一切連絡なしか。
     今どうなってるんだ。何で僕を連れていってくれないんだ。ギコの奴。
     僕だって少しは役に立──」

(;*゚−゚)「──ぉあだッ!!」

 棚の前を行ったり来たりしていたら、段ボール箱に足をぶつけた。
 過去の資料が詰まっているので重たい。
 足の小指を思い切り強打したしぃは、ぐおお、と色気のない唸り声をあげながらしゃがみ込んだ。

989 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:47:35 ID:1ORWN4EIO

(;*゚ー゚)「いっっったいな! もう! 誰だこんなとこに置いたの! 僕だ!」

 一人きりの室内で物に怒鳴る己を客観視し、途端に恥ずかしくなった。
 顔を赤らめつつ、箱を隅へ寄せる。

 ふと、箱の中、色褪せたファイルが目に入った。

 頬の赤みが失せ、口元が歪む。
 彼女は少し躊躇ってからファイルを拾い上げ、適当なページを開いた。

 中に挟まっている書類はほとんどが皺くちゃで、酷いものは破れてしまっている。
 さらに酷いものは──黒っぽい染みが広がっていた。

 ある書類の一番上に、「担当検事」の枠がある。
 そこに書かれた名前を一文字一文字、ゆっくりと目で追った。

990 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:48:38 ID:1ORWN4EIO

(*゚−゚)「……」

 ──猫田つー。
 しぃの父親が最後に担当した事件の資料。

 この事件の裁判に向かう途中で、父は居眠り運転による事故で死んだ。
 その車中から見付かったファイルだ。
 事故の衝撃と父の血でめちゃくちゃになってしまっている。

(*゚−゚)(……あの日、家を出る直前の父さんは、眠たそうには見えなかったが)

 とはいえ10年以上も前のことなので記憶もおぼろ気。
 断定は出来ない。

 もう何十回と眺めてきたファイルを箱にしまい、しぃは机に戻った。
 小腹が減り、机の横に置かれた紙袋から菓子をいくつか失敬する。

 ──神隠し罪の裁判で証人となってくれた少年、ブームのために買ったものだった。
 彼は先日、例の「こわいやつ」達の審理でも証言をし、その役目も終えて
 オサムの手によって「上」へ送られた。おかげで菓子がずいぶん余ってしまった。

 麩菓子を食べようとしたところで、携帯電話が鳴った。
 すぐに電話を取る。

991 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:49:27 ID:1ORWN4EIO

(*゚ー゚)「もいもい!」

『あんた何かくわえてない?』

(*゚ー゚)「もしもし! ギコか、どうなった!?」

 急いで噛み砕いた麩菓子を飲み込み、問いを投げつける。
 電話の向こうのギコは、やや息が上がっているようだ。
 「何か」は確実に起きている。結果はどうなった。

 逸るしぃに、ギコは勿体ぶらずに答えた。

『──逮捕したわ。……ロマネスク』

(*゚ー゚)「……そうか」

 知らず知らず、前のめりになっていた。
 座り直し、背もたれに寄り掛かる。

『どうする? 今すぐ聴取とるの?』

(*゚ー゚)「ああ」

『じゃあ迎えに行くから準備しといて』

 通話終了。
 しぃは残りの菓子を腹に収めると、鞄を手に立ち上がった。

992 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:50:41 ID:1ORWN4EIO


(#゚;;-゚)「──しぃさん」

(*゚−゚)

 部屋を出るなり、声がかかる。
 母、猫田でぃの姿を視界に収めたしぃは、
 一瞬詰まってから「こんばんは」と笑みを浮かべた。

(*゚ー゚)「こんな時間にどうしました」

(#゚;;-゚)「ギコさんのお手伝いに行っていたフサさんがね、今帰ってきて、
     例の化け猫を捕まえたと言うから。
     あ、フサさん、しぃさんに姿を見せてさしあげて」

ミ,,-Д-彡

 でぃが隣の空間に言った瞬間、そこに大きな獣が現れた。
 狼を何倍にもしたような、とてもとても大きな獣。
 大口開いて、これまた大きな牙や舌を覗かせながら欠伸をしている。

993 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:51:45 ID:1ORWN4EIO

(*゚ー゚)「……ギコの手伝い?」

(#゚;;-゚)「ええ。すばしっこい相手だというし、人間だけじゃ捕まえるの大変だろうからって」

 フサ──巨躯の狼の鼻面を撫で、でぃは答えた。
 彼女が従えている妖怪達の中では一番の古株で、また、彼女の一番のお気に入りでもある。

 仕事をする上で、この女の手だけは借りたくないのに──
 舌打ちしかけて、何とか堪える。

(#゚;;-゚)「何かあったら言ってね。協力するから」

(*゚ー゚)「ええ」

 誰が言うか。
 自分はこんな女に頼らない。

 父のように、自分と警察の力のみで調べてやる。

 車の近付く音に気付き、しぃは敷地を出た。



*****

4 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:06:07 ID:1ORWN4EIO

 2月15日。
 ヴィップ中学校、2年1組の教室は朝から騒がしかった。

「はい静かにー」

 担任教師がやって来て、教壇の前に立つ。
 生徒達の目は輝いていた。何かを心待ちにする瞳。
 担任は苦笑し頷いた。

「話はもう伝わってるな。──えー、転校生が来ている。
 なにぶん急なことで、こんな半端な時期のため、このクラスでは一ヶ月程度の付き合いになるが──」

( ・∀・)「せんせー、話長いと転校生のプレッシャー半端ないぜ!」

「モララーうるさい」

 どっとクラスメート達の笑い声があがった。
 教室内の緊張感が解け、一気に和む。
 それを良きタイミングと見たようで、担任は前置きもそこそこに、
 教室の入口を見遣ると「おいで」と声をかけた。

5 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:07:16 ID:1ORWN4EIO

( ^ω^)(さて、どんなタイプの子か……)

 戸が引かれ、転校生が入ってくる。
 転校生の性格、振る舞いを見てから自分の出方を決めようと注目していた内藤は──

 担任の隣で立ち止まった彼の顔を認識した瞬間、胸の奥が凍りつくような感覚に襲われた。


( ^Д^)


 そこらにいるような、至って普通の少年。
 担任から渡されたチョークを持ち、転校生は黒板に自身の名を記した。

 「指差プギャー」。

 その名前に、内藤の心臓が跳ねる。
 嘘だ。嘘だ。何で。何で。どうして。

6 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:08:26 ID:1ORWN4EIO

( ^Д^)「K県のウンエイ中学から来ました、指差プギャーです! よろしくお願いします」

 当たり障りのない自己紹介。
 声や表情は明るく、皆も受け入れるのに何の抵抗もなかったようで、
 口々に「よろしく」「ようこそ」なんて歓迎の言葉を送った。

 内藤の目の前で、モララーの背中が揺れた。
 ああ、気付いた。
 頼む。何も言うな。何も──

( ・∀・)「K県っていやあさ、」

 モララーの声はよく通る。クラスメートが口を閉じ、こちらを見た。
 椅子の背凭れに腕を乗せ、モララーが内藤へ振り返る。

( ・∀・)「ブーンが前に住んでたとこだよな!」

 そう言う彼の顔は、ちょっとした発見をしたときのような、無邪気なもので。
 当然、悪意など無い。──あろう筈もない。
 この教室にいる誰1人、「それ」を知らないのだから。

7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:09:06 ID:1ORWN4EIO

 プギャーが内藤に気付く。
 目を見開いた彼は、まじまじと内藤を眺め回し、
 ──いかにも楽しそうに笑った。


( ^Д^)「よおブーン! マジかよ、すげえ奇遇!
      覚えてるか? 小学校でクラス一緒だったよな!」


 忘れるわけがないではないか。


 手を振るプギャーの笑顔は、かつて、内藤を苛めていたときのものと何ら変わりがなかった。



*****

8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:11:42 ID:1ORWN4EIO


 放課後。

 早速ツンと共に「素直キュート」の捜索に乗り出した内藤は、
 素直家──シュールではなく、ヒールとクールの方──へ赴いた。

 応対に出たヒールにリビングへ案内され、
 テーブルについたツンが早速キュートの件を切り出した。

川*` ゥ´)「──キューちゃんの行きそうなとこ?」

 約3ヶ月ぶりの対面である。
 ヒールは自身が作ったというカップケーキを手に取り、首を傾げた。
 内藤も一つ頂く。相変わらず料理が上手い。

川*` ゥ´)「何で私に訊くのさ。シューちゃんに訊いた方が確実だろ?」

ξ゚听)ξ「シュールさんに思いつける場所は、とっくに彼女が探してるでしょう。
      だから彼女が思いつかないような場所はないかしらということで」

9 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:14:06 ID:1ORWN4EIO

川*` ゥ´)「んー……なるほどね。でも、ごめん。分かんない。
       遊ぶときは大体家の中だったから」

( ^ω^)「全く思い浮かびませんかお?」

川*` ゥ´)「うん。ごめん……」

 ヒールが申し訳なさそうに視線を下げる。
 以前ほど、きつい印象は強くない。

 このタイミングで「カップケーキ超うめえ」と頓狂な感想を放ったツンは果たして、
 落ち込むヒールを気遣ったのか、単に脈絡を無視してまで現在の心境をアホ面で発表したかっただけなのか。

川*` ゥ´)「……役に立たない私が言うのも何だけどさ、キューちゃんのこと、早く見付けてあげて。
       シューちゃんがすごく心配しててさ。気の毒なんだ」

ξ゚听)ξ「ええ。任せて」

10 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:15:55 ID:1ORWN4EIO

川*` ゥ´)「キューちゃん、本当にいい子ですごく可愛いんだよ。
       だからシューちゃんもかなり可愛がってて……その分ショックもデカいんだろうね」

£°ゞ°)「私とどちらが可愛いんです」

川*` ゥ´)「お前のどこに可愛さがあるんだよ……」

 少し離れたソファに座ってテレビを見ていたロミスが、
 相変わらずおっとりとした笑みを浮かべてヒールへ声をかけた。

 先程、顔を合わせるなりツンの手を取って馴れ馴れしい挨拶をかましたので、ヒールにソファへ追いやられたのだ。

ξ゚听)ξ「ロミスさん、洋服似合ってるわよ」

 出し抜けに、カップケーキを貪りながらツンが言った。

 セーターにチノパン姿というロミスは、「ありがとうございます」とはにかむ。
 11月の時点では和服しか着ていなかった彼だが、たしかに洋装が似合う。

11 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:16:51 ID:1ORWN4EIO

£°ゞ°)「お義父様が、ピャー子さんと夫婦で居続けるのなら、現代人らしい暮らしも学んでほしいと……」

川*` ゥ´)「父さんの建設会社で事務やってんだ今。人間として。
       妖怪が事務仕事って、変な話だろ」

ξ゚ー゚)ξ「妖怪が人間社会に混ざるのはよくあることだわ。
      異類婚姻のパターンは色々あるけど、ロミスさんとピャー子さんの場合なら
      そうやってロミスさんが人間側に適応する方が向いてるでしょうね」

£°ゞ°)「私も楽しいです」

ξ゚听)ξ「ご夫婦仲良く幸せそうで何より」

 ココアを飲んでいたヒールが噎せる。
 その様子に、ロミスはますます笑みを深くした。にやけた、とも言う。

£°ゞ°)「ええ、昨日ピャー子さんがチョコレートを……」

川;*` ゥ´)「おいコラ! 言わんでいい!!」

12 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:18:14 ID:1ORWN4EIO

ξ゚听)ξ「ピャー子さんは相変わらず照れ屋ねえ」

£°ゞ°)「そこが可愛いでしょう。
      このあいだ一緒にお出掛けしたときにですね、手を繋ごうとしたら断られたんですが、
      私の服の袖をつまんでですね……」

 そこが限界だった。
 悲鳴とも唸りともつかぬ声をあげ、ヒールがテーブルの下に隠れる。

::川;*//ゥ//)::「もう二度とお前と出掛けない」

£°ゞ°)「それは困る」

ξ゚听)ξ「私そういう惚気話まで聞きたかったわけじゃないんだけど」

川;*` ゥ´)「じゃあロミスに話振らないでくれ!
       ……。……な、内藤、なんか今日おとなしいな」

ξ゚听)ξ「あらピャー子さんもそう思う?」

 ツンの足元で真っ赤な耳を弄ばれながら、ヒールが涙目で内藤を見上げた。
 返答に悩んだので、ケーキを飲み込んでから
 わざとらしく首を傾げてみせた。

13 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:19:29 ID:1ORWN4EIO

( ^ω^)「僕はいつも大人しいですが」

ξ゚听)ξ「何の嫌味もからかいも無いなんて珍しいわ」

( ^ω^)「僕を何だと思ってんですかお。──少し怠いだけですお」

 テーブルの下から這い出たヒールが、内藤の額に左手を当てる。
 薬指に巻きついている薄紫のヘアゴムが、額を擽った。

川*` ゥ´)「風邪とか? 大丈夫か? ちょっと熱っぽいかもな」

£°ゞ°)「ああ、それは良くない。お話も終わったようだし、今日はお帰りになった方がいい」

 心持ち声を張って、ロミスが微笑んだ。
 ツンやヒールに向けるそれとは別種に感じられる笑みだった。
 はっきり言ってしまうと、ちょっと恐い。その意図が分からぬほど鈍くはない。

( ^ω^)「恨みとか買いたくないんで、そうしますかお」

ξ゚听)ξ「……古今東西、蛇は嫉妬のモチーフにもなるからねえ……。
      自分のものと定めたからには嫉妬深いわよー、ピャー子さん頑張ってね。
      そのぶん大事にしてくれるけどさ」

川;*//ゥ//) ワカッタカラカエッテクダサイ



*****

14 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:20:38 ID:1ORWN4EIO


ξ゚ -゚)ξ「──内藤君、本当に今日何かあった?」

 事務所、もといツンの家の前。

 カップケーキの入った紙袋を片手に提げたツンが、内藤の顔を覗き込んだ。
 先のヒールのように、手のひらを額に当ててくる。

ξ゚听)ξ「うーん、熱があるような、ないような」

( ^ω^)「ツンさんの手が冷たいんですお。
       ……今日、……。転校生が来ましたお」

ξ゚听)ξ「転校生? 内藤君のクラスに?」

( ^ω^)「はい」

ξ゚听)ξ「もしかして喧嘩とかした?」

( ^ω^)「いえ。──やっぱり何でもないですお。何でも……」

16 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:22:14 ID:1ORWN4EIO



   『──明日暇な奴らでプギャーに町の案内してやろうぜ』

 昼休みに、男子生徒の1人が提案した。

 プギャーは明るく元気で、冗談もよく言う少年だったのですぐにクラスに馴染んだ。
 どことなく垢抜けた雰囲気が人を引き付けたのもあったかもしれない。

   ( ・∀・)『おー、行く行く!』

   (-_-)『僕は家族と出掛けるから……ブーンはどうするの? プギャー君と友達なんでしょ?』

   ( ^ω^)『友達っていうか……遠慮しとくお、僕も用事あって』

 内藤が断ると、何人かから残念そうな声があがった。
 様子を窺うようなプギャーの目や仕草が、逐一内藤を刺激する。

17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:22:56 ID:1ORWN4EIO

   『最近ブーンと遊んでないから連れていきたかったのになあ』

   (;^ω^)『ごめんおー。今度ゲームでもしようお、モララーの家で』

   ( ・∀・)『勝手に俺んちに予定入れんなよ。弟者は?』

   (´<_` )『俺もやめとく』

 クラスメートと笑い合い、明るく会話を交わす。
 そんな内藤をプギャーはどんな目で見ているのか。
 あまり視線を飛ばしては不審がられる。プギャーの表情を頻繁に確認できない。

   ( ^Д^)『ブーン、人気者なんだ?』

   ( ^ω^)『、』

 咄嗟に返事が出来なかった。
 どういう意図での質問なのか分からない。

18 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:24:22 ID:1ORWN4EIO

   『ムードメーカーっつうか、マスコット?』

   『マスコットって』

   ( ^Д^)『ふうん……』

 プギャーが腰を屈め、内藤の顔を覗き込む。
 笑顔を返す。いつも通り。皆に好かれる表情。いつも通り。いつも通り。

 彼は何を言うでもなく、「よろしくな」と内藤の肩を叩いて、明日の打ち合わせに戻った。
 結局、8人ほどの男女で町案内をすることになったようだ。

 ──どう関わればいい。
 過去のことをどう扱えばいい。

 下手に触れれば逆効果か。
 向こうの出方を待つべきか。

 彼は転校してきたばかり。
 対して内藤は上手く味方を作り今の立ち位置を手に入れている。

 いっそ──いっそ先手を打ちプギャーを排除するように働きかければ──不可能ではない、その気になれば容易に──しかし──
 そんなもの。愚策だ。
 罪悪感云々の問題ではなく、相手を下手に刺激したくない。

 互いに何もしないで済むのならそれが一番いい。

 反省も謝罪もいらない。
 この日常を奪わないでくれるならそれでいい。

19 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:25:21 ID:1ORWN4EIO



ξ゚听)ξ「──なーいとーうくーん」

( ^ω^)「……あ、はい」

ξ゚听)ξ「ずっと同じ場所に掃除機かけても意味ないわよ」

 どうにも意識がふわふわしていけない。
 昼からずっと同じ思考が回っている。
 明日、内藤のいないところでプギャーが余計なことを言うのではないか、という不安。

 内藤は頭を振り、掃除機のスイッチを切った。
 茶を淹れてくれと言われたのでポットの前へ移動する。
 電源が切れていたため、コードを差し直して沸騰のボタンを押した。

 事務所に戻ってきてから、かれこれ30分。
 何をしても集中できない。茶を淹れ終えたら帰ろうか。

20 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:26:01 ID:1ORWN4EIO

('A`)「悩みでもあんのか? 若いな少年」

 ドクオ(ついさっき来た)の揶揄を無視して、湯が沸くのを待つ。
 その発言に、「あらあら恋の悩み?」と馬鹿が食い付いた。

ξ*゚听)ξ「駄目よ内藤君、私がいくら美しくて優しくてセクシーだからって!」

('A`)「俺と弁護士で『セクシー』の定義が違うらしいな……」

ξ゚听)ξ「そうね、『色っぽい』という言い方のほうが情緒的で私にぴったりかしら」

('A`)「あのな、貧相な体つきなのはもう諦めるとして、せめて仕草とか振る舞いに色気を出す努力をしろ。
    ──何か分かったことあるか?」

 最後の問いは、これまでの話題とは別のこと。
 ニュッから送られてきた日記と手帳のコピーを見ているツンに対してだ。

 ドクオがいる場では見ない方がいいのでは、と内藤は思うのだけれど、
 当のドクオが「自分も気になるから」という理由で、この作業を勧めていた。

21 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:27:11 ID:1ORWN4EIO

ξ゚听)ξ「んーとね……赤ペンとかで、文に線が引いてあったり矢印が書いてあったりするんだけど……
      それが、どう関係してるのかは書いてないのよね」

('A`)「親切なんだか不親切なんだか分かんねえなあ、あの検事」

( ^ω^)「鵜束検事に電話で訊いてみたらどうですかお」

ξ゚听)ξ「訊いて素直に教えてくれると思う?」

('A`)「訊いてきた時点で、あんたの負けだと見なすだろうな……。
    そしたら教えてくれんじゃねえの、すっげえ上から目線で」

ξ#゚听)ξ「くっそ想像つく! 誰が訊くか畜生!」

 想像の中のニュッに腹を立てながら、ツンは次のコピーの束へ手を伸ばした。
 気になることがもう一つある、と言って。

ξ゚听)ξ「……日記の方、所々が抜けてるのよね。
      たとえばこれ、平成5年の8月分はごっそり無いし」

( ^ω^)「手帳の方はあるんですかお?」

ξ゚听)ξ「ええ」

 同時期の手帳の方を見ると、鬱田家に関わりある記述は
 「8/12 鬱田さん食事」「8/29 鬱田さん訪問」の2件のみだという。

22 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:28:51 ID:1ORWN4EIO

('A`)「その時期は、高崎があんまりうちに来なくて平和だった覚えがあるな。
    恐らく日記も大したこと書いてねえだろうし、
    特に触れなくていい部分は省いてくれたんじゃねえか?」

ξ゚听)ξ「ま、たしかに不要な部分までいちいちコピー取ってらんないものね、何ページも……」

 と、いうことは。
 少々面倒な事実に直面してしまうのではないか。

 内藤が指摘するより早く、ツンも思い至ったらしい。頭を抱えて叫ぶ。

ξ;゚听)ξ「……じゃあ、ここにあるやつは全部触れるべき点があるってこと!?
      何それ無理!!」

(;'A`)「うわー、何百枚あるんだ」

 端から見ているだけの内藤まで気が遠くなる。
 一つの束を取り、斜め読みをしてみた。

 ニュッは、これらの文字の山から、何を見付けたのだろう。

 高崎美和は善人らしい振る舞いをしながら、しっかりと金を巻き上げている。
 ドクオの母は高崎美和を信じ崇拝し、
 ドクオは反発を露にして母親と対立してしまい、家庭内の空気がどんどん悪くなっていく。

 内藤に読み取れるのは、そういったものばかりで。
 気が滅入る。

 ポットが甲高いメロディを奏で、沸騰を知らせる。
 内藤は束を戻し、茶の準備をした。

23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:29:34 ID:1ORWN4EIO

 ──突然。

 こつこつ、窓を叩く音。
 室内の3人が一斉に窓を見る。

(*'A`)「ふおっ」

 まずはドクオが感嘆の声をあげる。
 暗くなってきた窓の外、そこに女性が立っていた。


ハハ ロ -ロ)ハ


 ツンが、顔を引き攣らせた。



*****

24 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:31:04 ID:1ORWN4EIO

( <●><●>)「──あれっ」

 大学から帰るなり、ワカッテマスは目を丸くした。

 彼の部屋の同居人は2人。──その内1人は先住民、と言った方が適切か。
 弟ビロードと、先住民の「ぽぽちゃん」。

 なのだが、1人増えていた。

(;><)「あっ」

 ビロードが慌てたように、その「新顔」の前に立つ。
 隠したところで、既にばっちり目撃してしまったので意味など無いのに。

( <●><●>)「誰です、その子」

(;><)「あうあう、一ヶ月くらい前から、たまにここに来て遊んでたんです……。
      ごめんなさいなんです」

(*‘ω‘ *)"

 日が落ち始めているので、ワカッテマスにもぽぽちゃんは半透明ながら視認できる。
 新顔もそんな感じなので、ぽぽちゃん同様、幽霊の類なのであろう。

25 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:32:55 ID:1ORWN4EIO

( <●><●>)「別に友達と遊ぶくらいで怒りはしませんよ、幽霊なら大して邪魔にもならないし。
       ──バイトの時間まで少し眠るので、うるさくしない程度に遊んでくださいね」

( ><)「はーい」

(*‘ω‘ *) ポポッ

 コートを壁に掛ける。
 携帯電話でアラームの設定をしていると、その「新顔」が近寄ってきた。


o川*゚ー゚)o「あの……お邪魔してます! 少し遊んだら外に行くから──」

( <●><●>)「どうぞお好きに。落ち着きのない男子高校生と無口な和服女性で遊び相手になるのなら」


 小学生か、あるいは中学生か。
 可愛らしい少女だった。



*****

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